中学生男子の最大酸素摂取量について II
著者 山本 章
雑誌名 静岡大学教育学部研究報告. 自然科学篇
巻 29
ページ 41‑48
発行年 1979‑03‑22
出版者 静岡大学教育学部
URL http://doi.org/10.14945/00008364
中学生男子の最大酸素摂取量についてII
Maximal Oxygen Intake of Junior High School Boys II
山 本 章
Akira YAMAMOTO
(昭和53年10月3日受理)
1.はじめに
著者は前報(1977)17)で,形態的にも機能的にも著しい変化を示す中学生男子(12〜15才)を 対象に各年令における最大酸素摂取量(VO2 max)を測定して,年令によるVO2 maxの変 化,VO, maxと形態値並びに機能値との関係を調べた。その結果,年令が進むに従って,身 体資源(Physical resouces)としてのVO, maxは増加し, VO2 maxと形態値並びに機能値 との相関は次第に低くなる傾向にあった。しかし,形態値について全国平均値と比較したとこ ろ,12〜13才と14〜15才では有意差は認められなかったが,13〜14才では有意に上まわってお り,各年令層を代表する対象として,必ずしも十分ではなかった。そこで今回は対象をしぼり,
横断的にではなく縦断的に研究を進めてみた。即ち,12〜13才の男子について1年後に前回と 同じ測定を再度行い,VO、 maxの変化, VO2 maxと形態値並びに機能値との関係を調べるこ
とにより,この年令期における形態的並びに機能的特性を明らかにしようとした。その結果若 干の知見が得られたので報告する。
2.対象及び方法
被検者は12〜13才と13〜14才の中学生男子,それぞれ18名で,両グループは縦断的に同じグルー プであった。また,いずれも循環器系の機能障害やその他の身体的障害,欠陥,疾病等がなく,
健康な者であった。
測定期間は1976年と1977年の4〜5月にかけてであった。
測定手順は前報(1977)17)と同じく,まず,尿pH,尿蛋白,血圧,腋窩温を検査測定し,正
常値から著しく外れていないことを確かめ,次に形態値として身長,胸囲,大腿囲,下腿最大
囲及び最小囲をマルチンの計測器,体重をNSスプリング式体重計,皮脂厚(上腕背部,肩甲
骨下角部,腸骨稜部,膀部)を栄研式皮脂厚計を用いて計測した。そして最後にモナーク社製
自転車エルゴメーターを用いて最大作業テストを行い,VO2maxを測定した。負荷は毎分50回
転でペダリングさせ,2分毎に150kpm/min加える漸増負荷とし,自転車エルゴメーター上
で5分間以上安静状態を保たせた後,450kpm/minで2分間warming−upを行い,2分間休
息し,450あるいは600kpm/minからExhaustionに至るまでメトロノームにあわせてペダリ
ングさせた。この間連続的に胸部誘導法により心電図を記録し,・R−R間隔から心拍数を管理
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した。2年時(1977年)にはサーミスター法により呼吸相を記録し,呼吸数も管理した。呼気 ガスの採集はダグラスバッグ法によって1分間毎に行い,換気量をT−5型乾式テストメーターを 用いて測定し,最終の2つあるいは3つのサンプルを労研式大型呼気ガス分析装置並びにフク ダ医理化研究所製レスピライザーBM−10を用いて02とCO2に分析し,酸素摂取量を求め,そ の中の最大値をVO2 maxとした。但し,採集時間が30秒未満のものは分析の対象から除外し た。機能値としては体力診断テストと運動能力テストを取り上げ,文部省のスポーツテストの 方法で測定した。
3.結 果
1.最大酸素摂取量
表1はVO2 max 1/min STPD, VO、 max ml/kg/min STPD,安静時心拍数,最高心拍 数,安静時最高・最低血圧,安静時呼吸数,最高呼吸数の成績を示したものである。12〜13才
表1被鯖の轍素的作業能 の値と13〜14才?値を対のt検定
Table l. Aerobic work capacities of subjectS(N=18) で比較すると・VO2 max l/min Age(years) 12 − 13 13 14 t
(£/min,STPD)1.932(0.397)2219(0.402)5.871叢東東 V°・m H蓋尼/k、/㎡,,STPD)45.29(、.83)、,.46(,.99)1.922
Heart rate rest 84.8(1L18) 76.6(10.33) 3.033※巌
(beats/min)
exercise 1952(7.86) 19L6(24,63) 0.679 Blood pressure max.111.2(8.64)100、7(11.18)3.454 mx
(mmHg)
min 54.2(6.52)47.1(9.73)2.807峯
ぽ蹴意㌻ 1:ll[1:;
Means(s)xP〈0.05 xxP〈0.01※xxP〈0.001
はそれぞれ,1.932±0.3971,
2.219±O.4021でP〈0.001で明 らかに増加したが,VO2 max ml
/kg/minはそれぞれ,45.29±4.
83m 1,47.46±5.9gmlで増加の傾 向がみられたものの有意差は認め られなかった。また,安静時心拍 数は,それぞれ84.8±11.18beats
/min,76.6±10.33 beats/min でP〈0.01で明らかに減少したが
,最高心拍数は,それぞれ195.2±
7.86beats/min,191.6±24.63 beats/minで有意差は認められなかった。
2.形態値
表2は形態値を一括して示したものである。12〜13才と13〜14才の値を対のt検定で比較す ると,身長で約8cm,体重では約5kgの増加を示し,皮脂厚以外のすべての項目でP<O.OOI で有意差が認められ,著しい増加がみられた。皮脂厚ではすべての項目で増加の傾向がみられ たが,対のt検定の結果,有意差が認められた項目は肩甲骨下角部P<0.05,腸骨稜部P〈0.01,
膀部P<0.001であり,上腕背部と上腕背部+肩甲骨下角部では有意差が認められなかった。
3.機能値(スポーツテスト)
表3はスポーツテストの成績を一括して示したものである。12〜13才と13〜14才の値を比較
すると,体力診断テストでは反復横とび以外の項目でいずれも向上する傾向がみられたが,対
のt検定の結果,有意差が認められた項目は垂直とび,背筋力,握力P〈0.001,伏臥上体そら
しP〈0.01,踏み台昇降運動P<0.05であった。運動能力テストではいずれの項目とも向上す
る傾向がみられ,対のt検定の結果,有意差が認められた項目は50m走,走り幅とび,ハンド
ボール投げP〈0.001,懸垂腕屈伸P〈0.01であり,1500m走では有意差が認められなかった。
表2 被検者の形態値
Table 2. Physique of subjects (N=18) 表3 被検者のスポーツテストの値
Table 3. Sports Testdata of subjects
Age(years) 12−13 13−14 t Age (years) 12−13 13 一 ユ4 t Body height(㎝)
Body Weight(kg)
Body surface area (㎡)
Chest girth(㎝)
Thigh girth (cm)
150.0 (7.89) 157.7 (7.47) 15.370驚叢東
42.9 (9.03) 47.9 (9.48) 7.646東崇※
1.309(0.1578)1.418(0.1515)10.991叢東※
73.1
44.3
Lower leg girth max.(㎝)32.O Lower leg girth min,(㎝)20.7 盲
百 皇 萎 芸 盲 語
Upper arm Scapula
Waist Umbilicus
9.0
8.5
(7.06) 75.4 (7.77) 4.155東驚※
(5.20) 46.3 (4.10) 4.272崇※※
(3.08) 33.0 (3.14) 4.578峯※東
(1,70) 21.3 (1.72) 4.041東東峯
(4.78) 9.2 (5.46) 0.233
(6.15) 9.4 (6.46) 2.222東
10.0 ( 11.96) 13.9 (9.82) 3ユ64遣※
8.6 (9.98) 11.4 (10.57) 4.149叢驚東 Upper arm十Scapula 17.3(10.78) 18.6(11.54) LO53
茎
§
§ 昌
§
ξ 亘 呈 Pt
亘
言
1る
§
Side step (points)
Vertical jump (㎝)
Back strength (kg)
Grip strength (kg)
Trunk extension(㎝)
Standing trunk flexion(㎝)
Modified H. S.T(points)
50mdash (sec.)
Running broad jump(㎝)
Hand ball throw(㎝)
Chinnimg(modified)(times)
Endurance running (sec.)
38.5( 5.17) 30.8( 3、16)−0.601
40.0( 7.08) 52、3(11.89) 6,626康東東
67.8(16.99) 96.2(25.46) 8,318峯峯峯
26.2( 5.95) 32.2(7.49) 4.868東叢真
49.6( 6.42) 52.7( 5.58) 2.997東頁
8、6( 3.35) 10.2( 5.42) 1.509
60.7( 7.80) 69.1(15.48) 2.347嵐
8.6( 0.76) 7.9( 0.69) _13.624※※M
343.3(47.78) 377.9( 58,11) 5.530㎜瀕
19.8( 3.37) 22,7( 5.36) 3.987嵐※箪
4. 1( 3.80) 7.4(5.89) 3.364叢肇
384.4(48.30) 375.9(87.96) _U.565
Means (s)*P〈O.05*xP〈0.01 x x x P〈0.001 Means(s)楽P〈0.05 xxp〈0.01 xxxp〈0.001
4.最大酸素摂取量と形態値
表4はVO, maxと形態値との関係を 括して示したものである。12〜13才についてみると,
VO, max l/minは皮脂厚以外のすべての項目との間にP<0.01で有意な相関がみとめられた が,VO2 max ml/kg/minは逆に皮脂厚との間にしか,上腕背部,腸骨稜部,1濟部,上腕背 部+肩甲骨下角部P<0.01,肩甲骨下角部P〈0.05で,有意な相関は認められなかった。 方,
13〜14才についてみると,VO、 max 1/minは12〜13才と同様,皮脂厚以外のすべての項目と の間にP〈0.01で有意な相関が認められたが,VO、 max ml/kg/minはいずれの項目とも有
表4 ▽02 maxと形態との相関 Table 4. Correlation coefficients between VO2max and Physique
表5 VO2maxとスポーツテストとの相関 Table 5. Correlation coefficients between VO2maxand Sports Test
Age(years) 12−13 13−14 Age (years) 12−13 13−14
VO2max £/㎜ md/kg/min 尼/血n m£/kg/面n VO2max 2/㎜ ㎡/kg/㎡n f/min 皿£/kg/㎜
Body heigkt Bodyweight Body surface area Chest girth Thigh girth Lower leg girth max.
Lower leg girth min.
Z Upper arm ri… Scapula
毛 Waist 呈 U。bili・u、
ヌ UpPer arm十Scapula
0.847東叢 0.059 0.843東嶽 一〇.289 0.889※東 一〇.191 0.682驚東 一〇.370 0.708叢東 一〇.234 0.772峯※ −0.252 0,738叢※ −0.236
−0,072 0.086 −0.588※
0,030 −0.637※叢 0.019 −0.684※東 0.017 −0.604東※
一〇.606東1 −O.221 0.742※叢 一〇.220 0.751巌業 一〇.405 0.799峯峯 一〇,366 0.676東東 一〇.414 0.683叢東 一〇.381 0.749東峯 一〇.275 0.743※東 一〇.253
−0.175
0.097 −0.332 0.008 −0.313 0.033 −0.407 0.050 −0.269
匡
量
.雪
㌃
』
ξ ξ
豆
ξ 三 遥
Side step O.515東 0.322 Vertical jump O.676xs O.123 Back strength O.813※峯 0,200 Grip strength O.800崇驚 0.071 Trunk extension O.345 0.479 Standing trunk flexion O.402 −0.130 Modified H. S.T. −0.211 0.391 50m dash −0.630東東 0.533東 Running broad jurnp O.461 0.453 Hand ball throw O.745※驚 0.568東 Chinning(modified) 0.525叢 0.256 Endurance running −0.172 −0.758東叢 一〇.046
0.336 0.567驚 0.695東東 0.167 0.774叢M −0.164 0.871x東 0.024 0.452 0.133 0.431 0.142
−0.017 0.218
−0.644東東 一〇.174 0.622崇貰 0.165 0.786叢東 0,120 0.679東東 0.328
−0.581東
xP〈0.05 xxP〈0.01 xP〈0.05 xxP〈0.01
44 山 本 章
意な相関は認められなかった。次に,VO2 max 1/minと体重との関係をより詳細にするため,
VO、 max 1/minをY,体重をXとして回帰直線を求めてみると,12〜13才ではY=0.037X+
0.341±0.200,13〜14才ではY=0.032X+0.693±0.265となり,体重当たりのVO、max l/
minの増加量は12〜13才の方が13〜14才よりも大きく,推定値の標準誤差は逆に小さかった。
また,解はX=66.3kgであり, Y=2.8021/minであった。
5.最大酸素摂取量と機能値(スポーツテスト)
表5はVO2 maxとスポーツテストの値との関係を示したものである。12〜13才についてみ
ると,VO、 max 1/minとの間に有意な相関が認められた項目は,体力診断テストの垂直とび,
背筋力,握力P<0.01,反復横とびP<O.05と運動能力テストの50m走,ハンドボール投げP<
0.01,懸垂腕屈伸P〈0.05であった。VO, max ml/kg/minとの間に有意な相関が認められ た項目は,体力診断テストにはなく,運動能力テストの50m走,ハンドボール投げP〈0.05,
1500m走P<0.01であった。一方,13〜14才についてみると, VO、 max l/minとの間に有 意な相関が認められた項目は,体力診断テストの垂直とび,背筋力,握力P〈0.01と運動能力 テストの50m走,走り幅とび,ハンドボール投げ,懸垂腕屈伸P〈0.01であった。VO, max ml/
kg/minとの間に有意な相関が認められた項目は,体力診断テストの反復横とびP〈0.05と運 動能力テストの1500m走P〈0.05であった。
4.考 察
スポーツ選手を対象としてVO2 maxを調べた報告は,黒田ら(1969)8),加賀谷ら(1970)3),
三浦ら(1972)1°),宮下ら(1972) 1),村瀬ら(1973)12)を初めとして数多くあり,その身体的特性
についてもかなり明らかにされ,持久的スポーツ種目の選手ではVO2 max ml/kg/minが 高値を示すことが知られている。しかし,形態的にも機能的にも著しい発育発達を示す青少年 について縦断的にVO2 maxを調べた研究は小川ら(1969) 4),長沢ら(1969)13}, K. Kobayashi ら(1978)7)により報告されているものの比較的少なく,その身体的特性についても不明な点が 少なくない。そこで,本研究は発育期の男子の身体的特性を知る上で,基礎的資料のひとっに なろう。
.
まず,VO2 maxについてみると, VO、 max l/minは12〜13才より13〜14才の方が有意に 高値を示したが,VO, max ml/kg/minでは有意差が認められなかった。吉沢(1971) 9)は