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第35回有機金属若手の会 夏の学校を終えて

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トピックス①

ヒドロスタニル化の選択性制御

大阪大学 環境安全研究管理センター

芝田 育也

はじめに スズヒドリドの化学といえばそのほとんど がトリブチルスズヒドリド(Bu3SnH)を用い た反応である。Bu3SnH はそれ自身安定な液 体化合物で、取り扱いやすく市販もされてい る 。 有 害 性 も 取 り ざ た さ れ て は い る が 、 Bu3SnH の特徴あるラジカル反応試薬として の有効な性質は、他の試薬では代替不可能な 場合が多い1)。一方、近年、トリアルキル部分 の官能基化もなされている2)。たとえばキラル 補助基の導入による不斉還元 3)やフルオラス 置換基の導入による単離操作の改良などの発 展がある4)。スズ上がハロゲン置換されたハロ ゲン化ジブチルスズヒドリド(Bu2SnXH)はそ の存在は古くから知られていたが5)、合成試薬 としての利用度はトリアルキルスズヒドリド に比べると極めて低い。しかしながら、発生 方法はきわめて容易で Bu2SnH2と Bu2SnX2 を攪拌するだけで殆ど純粋な Bu2SnXH が発 生できる。ジブチルスズ化合物であるため、 トリアルキルスズに比べて毒性は低減され、 またトリアルキルスズにはない新たな反応性 をもつことが我々の研究で明らかになった。 Scheme 1 ハロゲン化スズヒドリドの大きな特徴はスズ 原子に直接置換したハロゲンの役割であり、 以下のような作用が考えられる(スキーム1)。 第一に電子求引基として働きスズ上のルイス 酸性が向上する。その結果、基質の活性化が 効率よく起こる。第二に求核性置換基として 働く。すなわちスズ上には基質に反応する部 分が2つ存在することになる。水素化の前に ハロゲンがプレ攻撃する場合、ヒドリドが直 接攻撃する場合にない反応の選択性が得られ る。第三に立体障害の大きな置換基として働 き、立体選択的反応に大きく寄与する。一方、 有機スズ化合物の特徴は、通常は四価である が、配位を受け容易に五配位となる点が挙げ られる1,2)。ハロゲン置換基の存在はスズ上の 配位を受けやすくして五配位錯体の形成を容 易にする。スズヒドリドの置換基、配位子の 組み合わせを変化させると、官能基、位置選 択性の制御が可能になる。例えばエポキシケ トンの還元で、フッ素を置換基として持つフ ッ化ジブチルスズヒドリド A とトリアルキル スズヒドリドを五配位とした B とはスズ上の ルイス酸性が全く異なるため、エリスロおよ びスレオエポキシアルコールを作り分けるこ とができた。これに対して、五配位のヨウ化 スズヒドリド C ではヨウ素の求核攻撃により エポキシド部分の還元が起こった(スキーム 2)6)。このように我々はスズ種を使い分け、 各種の選択性が制御できることを明らかにし てきた。カルボニル基以外への基質へと展開 した最近の研究成果を以下に紹介する。 Bu2SnX2 + Bu2SnH2 Bu2Sn

X

H

Nucleophilic group Electronwithdrawing group Stereodemanding group Hydrogen source

(0.5 eq) (0.5 eq) Scheme 2

O O R2 R1 C A B Sn H Bu Bu F Sn Bu Bu Bu H CN -A B HMPA Sn H Bu Bu I R2 OH O R1 OH R1 R2 O O OH R2 R1 C Carbonyl Reduction Epoxide Reduction erythro threo

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以上のような還元的アミノ化の研究の流れの 中で近年、Bu2SnClH が系中で触媒的に作用 する事を示唆する例が他の研究グループから 報告された 10)。そこで我々はハロゲン化スズ ヒドリド錯体を直接、触媒的に作用させる還 元的アミノ化反応系を開発した 11)。ハロゲン 化スズヒドリドを触媒的に作用させる系にす るためには別途、水素源が必要となるが、ヒ ドロシランを用いることで高効率反応が達成 された。触媒配位子には有害性の高い HMPA のかわりにピリジン N-オキシドの使用が可 能になった。反応の結果をスキーム6に示す が、通常単離の困難なイミンが生成する脂肪 族カルボニル化合物と芳香族アミンの組み合 わせた系でも高収率で反応が進行した。スキ ーム 4 の等量用いた反応では適用できなかっ た脂肪族ケトンと脂肪族アミンの組み合わせ においても、Bu2SnClH 錯体を触媒反応とす ることで良好な結果を得た。本触媒系は様々 な基質の組み合わせに適用でき、きわめて基 質適用範囲の広い還元的アミノ化剤となった。 1. イミンのヒドロスタニル化 塩化ジブチルスズヒドリドを五配位化した 錯体 Bu2SnClH-HMPA はイミンに高い選択 性を示すことが、カルボニル化合物存在下で の反応で明らかとなった。すなわちカルボニ ル基に全く影響を与えることなくよりイミン のみを活性化する(スキーム3)7) Scheme 3 Bu H Sn Cl Bu Sn Bu Bu H Cl L L Ph N Ph O Ph Bu 2SnClH-HMPA THF, rt, 21 h Ph N Ph O Ph H 73 % イミンへの高い官能基選択性を利用すると、 還元的アミノ化の試薬となり得ることがわか った(スキーム4)。一般に還元的アミノ化に 用いることが困難な求核性の低い芳香族アミ ンにおいて収率よく反応が進行する点が本還 元系の特徴である8) Scheme 6 Scheme 4 エノン部位を持つアルデヒド基質を用いるこ とにより、分子内共役付加を経る複素環合成 も可能となった(スキーム5)。基質とアニリ ンを共存させ、等モル量のBu2SnClH-HMPA を反応させた。まず選択的にホルミル基の還 元的アミノ化が進行し、続いて生成したスズ アミドが残存するエノン部位への共役付加し、 イソインドリン誘導体を与えた9) Scheme 5 PhSiH3 CHO Ph O CHO PhNH2 PrNH2 PhCH2NH2 20 h 25 h 25 h 25 h PhNH2 p-FC6H4NH2 PhNH2 p-FC6H4NH2 99 94 93 98 15 h 4 ha) 10 h 89 89 81 R1 R2 O R3NH2 Bu2SnClH (2 mol%) O PhNH2 NHR3 R1 R2 + THF, rt

Amine Time Yield/ %

Carbonyl compound

pyridine N-oxide (2 mol%)

20 h 94

a) The reaction was performed at 60oC.

Ph Me NHPh イミンを出発とした還元で、水の存在が必要 であることがわかったので、本還元的アミノ 化では系中でイミン形成の際に発生する水の 役割を考慮する必要がある。考えられる触媒 サイクルをスキーム7に示す。まず塩化スズ ヒドリドとピリジン N-オキシドが系中で五 配位錯体を形成し、還元的アミノ化を起こし、 PhNH2 Bu2SnClH-HMPA THF, 0 °C + 91% Me Ph O 0 °C, 2 h CHO Ph O Ph O N Ar SnBu2Cl HMPA p-ClC6H4NH2 Bu2SnClH-HMPA N Ph O 58 % + Cl

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以上の我々の研究の中でハロゲン化スズヒド リド機能を損なうことなく、触媒として作用 させる効率的な還元的アルドール反応も近年 可能になってきている。ヒドロシランを水素 源に用いることでハロゲン化スズヒドリドが リサイクルされる系を現在構築中である13) スズアミドが生成する。イミン還元における 水の加速効果は、スズ-窒素結合がイミン生 成段階で副生する水によってクエンチされ、 水酸化スズが発生する機構で説明できる。最 後に、このスズ-酸素結合がヒドロシランと 反応してスズ錯体が再生する。 Scheme 7 R1 R2 R3 N Cl + -N Bu2ClSn R2 R1 R3 H R3NH2 H2O R1 O R2 R1 NR3 R2 Bu Sn Bu H Cl Bu2SnClH Si-OH H2O Bu2ClSn-OH Si-H NHR3 R1 HR2 + +-O+N N O -+ N O -+ N O -+ N O -+ Bu Sn Bu H 3. エナールのヒドロスタニル化 2-ヘキセナールの還元を行ったところ Bu2SnIH を単独で用いた場合、共役還元体が 得られるものの相当量の 1,2-還元体との混 合物となった。一方、Bu2SnIH に等モルの LiI を添加したところ、選択的に共役還元体が得 られた14)2,3-二置換不飽和アルデヒドにつ いても良好な収率および選択性で共役還元が 進行した(スキーム9)。 Scheme 9 2. エノンのヒドロスタニル化 我々はハロゲン化スズヒドリド(Bu2SnIH) がエノンに対して高い共役還元性を示すこと をすでに明らかにしてきた12)Bu 2SnIH を用 いた反応では芳香族、脂肪族いずれのエノン も収率よく、位置選択的に共役還元され、1,2 - 還 元 な ど の 副 反 応 は 全 く な い 。 一 方 、 Bu2SnIH はアルデヒドに対して還元力は殆ど ない。これは一般的な金属ヒドリドとしては 珍しい特徴であるといえる。したがってこれ らの性質を組み合わせると、還元的アルドー ル反応が可能になった(スキーム8)。すなわ ちエノン、アルデヒドが共存すると、エノン が先に共役還元され、エノラートが生成し、 未反応のアルデヒドへ付加しアルドールが生 成する12)。この際高いシン選択性を示した。 Prn CHO Bu2SnIH-LiI Prn CHO THF, rt, 15 min CHO Ph CHO Ph THF, rt, 15 min 80 trace 12% 15% Prn OH Bu2SnIH Bu2SnIH-LiI 98% "Sn-H" "Sn-H" 等モルのBu2SnIH と LiI の THF 溶液の NMR 測定では、LiI を加えると化学シフト値(119Sn) がBu2SnIH 単独に比べて 100ppm 以上高磁場 へ移動することより、スズが四配位から五配 位錯体 Li+[Bu2SnI2H]-が生成していることが 示唆された(スキーム10)。 Scheme 10 Bu H Sn I Bu Sn H Bu Bu I I Li LiI Scheme 8 O Ph PhCHO Bu2SnIH Me Ph O SnIBu2 Bu2SnIH PhCHO O Sn O Me Ph H H R Me O Ph Ph OSnIBu2 Ph Ph O Me OH MeOH THF, -30 °C→rt, 3 h + 74%, 89%ds 4. 不飽和エステルのヒドロスタニル化 α,β-不飽和エステルは不飽和ケトンに比 べ反応性が低く、Bu3SnH を使った還元では 非常に厳しい条件を必要とする。不飽和ケト ンに有効であったBu2SnIH を作用させても反 応は殆ど進行しなかった。不飽和アルデヒド

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に 対 し 高 い 反 応 性 を 示 し た ア ー ト 錯 体 Li+[Bu2SnI2H]-でさえ目的生成物は得られな かった。しかしBu2SnIH に MgBr2·OEt2を添 加すると特異的に反応が進行し飽和エステル が得られた(スキーム11)15) Scheme 11 Scheme 11 Bu2SnIH に MgBr2·OEt2 を加えた系について NMR スペクトル測定を行ったところ、酢酸エ チル中では 119Sn の高磁場シフト、および 1J(119Sn-1H)、1J(119Sn-13C)の増加が確認され た。したがってこの場合にもスズヒドリドア ート錯体、[MgBr]+[Bu2SnBrIH]-の生成が推 定される(スキーム12)。Li+よりも[MgBr]+ 対カチオンが不飽和エステルをより強く活性 化したものと考えている。 Bu2SnIH に MgBr2·OEt2 を加えた系について NMR スペクトル測定を行ったところ、酢酸エ チル中では 119Sn の高磁場シフト、および 1J(119Sn-1H)、1J(119Sn-13C)の増加が確認され た。したがってこの場合にもスズヒドリドア ート錯体、[MgBr]+[Bu2SnBrIH]-の生成が推 定される(スキーム12)。Li+よりも[MgBr]+ 対カチオンが不飽和エステルをより強く活性 化したものと考えている。 Scheme 12 Scheme 12 5. アルキンのヒドロスタニル化 5. アルキンのヒドロスタニル化 アルキンのヒドロスタニル化は、カップリ ング反応の基質として有機合成上有用なビニ ルスズを与えるため、多くの研究が行われて おり、その中で位置および立体選択性のコン トロールが重要な課題である。一般的なヒド ロスタニル化の方法としては (1) AIBN、 Et3B などにより開始されるラジカル反応16a)、 (2) Lewis 酸によるアルキンの活性化16b) (3) 遷移金属触媒による反応 16c)が知られている。 脂肪族アルキンに対する反応では、スキーム 13に示す選択性が報告されているが、β-ス タニル化体の生成が一般的であり、その立体 の制御も達成されている。しかしながら選択 的なα-スタニル化体の生成は適当な位置に ヘテロ元素を導入したアルキンについての例 があるのみであり 17)、単純な脂肪族アルキン での報告はない。 アルキンのヒドロスタニル化は、カップリ ング反応の基質として有機合成上有用なビニ ルスズを与えるため、多くの研究が行われて おり、その中で位置および立体選択性のコン トロールが重要な課題である。一般的なヒド ロスタニル化の方法としては (1) AIBN、 Et3B などにより開始されるラジカル反応16a)、 (2) Lewis 酸によるアルキンの活性化16b) (3) 遷移金属触媒による反応 16c)が知られている。 脂肪族アルキンに対する反応では、スキーム 13に示す選択性が報告されているが、β-ス タニル化体の生成が一般的であり、その立体 の制御も達成されている。しかしながら選択 的なα-スタニル化体の生成は適当な位置に ヘテロ元素を導入したアルキンについての例 があるのみであり 17)、単純な脂肪族アルキン での報告はない。 Scheme 13 Scheme 13 1-ドデシンのヒドロスタニル化の検討結果 をスキーム14に示す。Bu2SnIH 単独で付加 は進行するもののβ-スタニル化体のみが得 られた。一方、Li+[Bu2SnI2H]-ではヒドロスタ ニル化反応は全く進行しなかった。これに対 し、[MgBr]+[Bu2SnBrIH]-を用いた場合には、 反応が進行し、さらに高い選択性でα-スタニ ル化生成物が得られた 18)。α-スタニル化の 選択性向上には溶媒に酢酸エチルを用いる必 要があるがこれは、同じ溶媒中でアート型錯 体[MgBr]+[Bu2SnBrIH]-が安定に生成する事 実と矛盾しない。 1-ドデシンのヒドロスタニル化の検討結果 をスキーム14に示す。Bu2SnIH 単独で付加 は進行するもののβ-スタニル化体のみが得 られた。一方、Li+[Bu2SnI2H]-ではヒドロスタ ニル化反応は全く進行しなかった。これに対 し、[MgBr]+[Bu2SnBrIH]-を用いた場合には、 反応が進行し、さらに高い選択性でα-スタニ ル化生成物が得られた 18)。α-スタニル化の 選択性向上には溶媒に酢酸エチルを用いる必 要があるがこれは、同じ溶媒中でアート型錯 体[MgBr]+[Bu2SnBrIH]-が安定に生成する事 実と矛盾しない。 Scheme 14 Scheme 14 6. アレンのヒドロスタニル化 6. アレンのヒドロスタニル化 アレンのヒドロスタニル化は一般的にトリ アルキルスズヒドリドを用いた例が報告され てきた。活性方法の違いにより選択性の変化 が見られ、ルイス酸触媒、パラジウム触媒、 ラジカル反応で付加位置が異なる 19)。そこで ラジカル反応としてBu2SnIH を本反応に適応 した。オクチルアレンを反応させると、スズ アレンのヒドロスタニル化は一般的にトリ アルキルスズヒドリドを用いた例が報告され てきた。活性方法の違いにより選択性の変化 が見られ、ルイス酸触媒、パラジウム触媒、 ラジカル反応で付加位置が異なる 19)。そこで ラジカル反応としてBu2SnIH を本反応に適応 した。オクチルアレンを反応させると、スズ ZrCl4 Et3B R H Bu3SnH Bu3SnH H n C10H21 H SnBu3 H nC 6H13 SnBu3 H H nC 10H21 SnBu3 H R = alkyl + 40% (E/Z=80/20) 86% (>95% selectivity) β-(E) β-(Z) β-(Z) Pd(PPh3)4 Bu3SnH H nC 4H9 H SnBu3 Bu3Sn nC 4H9 H H 98% (α/β=35/65) + α β-(E) Me OEt O Bu2SnIH Li+[Bu2SnI2H] -Bu2SnIH-MgBr2·OEt2 Me OEt O trace 80% Tin Hydride THF, rt trace Bu H Sn I Bu MgBr2(1 equiv) MgBr Sn H Bu Bu I Br EtOAc Bu2SnIH MgBr2 SnIBu2 n C10H21 SnIBu2 nC 10H21 nC 10H21 53% (E/Z = 50/50) THF rt, 1 h AcOEt rt, 1 h 86%

(5)

次に、ワンポットでのカップリング反応を検 討した 20)。立体選択性の違いが顕著なアレン の例を示す(スキーム18)。いずれのカップ リング生成物もヒドロスタニル化の立体化学 を反映した。二置換アレン基質ではメトキシ 基によるキレート形成で立体制御され、すべ ての置換基が異なる四置換アルケンを立体選 択的に合成することができた。 がアレンの中心炭素に、水素が末端炭素に付 加したビニルスズが主生成物として得られた (スキーム15)20) Scheme 15 nC 8H17 Sn アレンの置換基により位置・立体選択性に大 きな変化が見られた。特に選択性の違いが顕 著な例をスキーム16に示す。すなわち嵩高 い置換基をもつアレンでは末端に水素が付加 したビニルスズのE 体がほぼ選択的に得られ るのに対し、酸素官能基をもつメトキシアレ ンでは同じ位置選択性のビニルスズが Z 体選 択的に得られた。 Scheme 16 これらの高い生成物の選択性はアレン置換基 それぞれの立体効果もしくは、酸素からスズ への配位によるものである。Bu2SnIH による ヒドロスタニル化の考えられる機構をスキー ム17に示す。まず、スズラジカルがアレン の中心炭素に付加しアリルラジカルを発生す る。続いて込み合いの少ない末端炭素が水素 化されるために内部ビニルスズが得られる。 嵩高い置換基をもつ基質の場合は安定なE 体 が、酸素置換基を含んだ基質では分子内配位 により、Z体が選択的に生成する。 Scheme 17 Scheme 18 7. メチレンシクロプロパンのヒドロスタニル化 最後にアレン類縁体基質としてメチレンシ クロプロパンを用いてヒドロスタニル化の反 応を検討した(スキーム19)21)。アレンの場 合と同様、Bu2SnIH を用いると中心炭素がス タニル化され、シクロプロパン環が開環した 生成物が得られた。スズラジカルが内部炭素 に付加するとシクロプロピルラジカルが生成 する。これは容易に開環をともなう異性化を おこしアルケン生成物へ至る。すなわち内部 炭素がスタニル化されシクロプロパン環の置 換基側で開裂した新形式となる本反応は、 Bu2SnIH 特有の反応性となる。一方、既存の 試薬であるトリブチルスズヒドリドではスズ が末端に付加した生成物が得られた。 Scheme 19 nC 8H17 Sn rt 14% C8H17 Bu2SnIH + 65 % (58:42) n Bu2SnIH SnIBu2 C8H17 OMe HO OMe OMe SnIBu2 HO C8H17 OMe SnIBu2 OMe Ph HO C8H17 OMe Ph Ph THF rt, 11 h PhI

cat. Pd2(dba)3 ECHCl3

cat. Ph3P TBAF 80 oC, 12 h 55% (E/Z = 91/9) 62% (E/Z = 1/>99) 71% (E/Z = >99/1) MeO SnIBu2 + + MeO SnIBu2 H THF, rt, 48 h THF, rt, 27 h Bu2SnIH Bu2SnIH MeO Ph Ph SnIBu2 H Ph SnIBu 2 2% 2% 85% (E:Z = 91: 9 ) 64% (E:Z = 6 :94) Ph Sn Bu 2SnIH (1 eq) Et3B (0.1 eq) Ph Bu3SnH (1 eq) Et3B (0.1 eq) Sn Ph SnIBu2 Ph SnBu3 SnIBu2 Ph Ph SnBu3 H Ph SnIBu H THF, rt, 14 h hexane, rt, 65 h 33% 81% R SnIBu2 HSnIBu2 SnIBu2 Bu2SnIH SnIBu2 RO SnIBu2 Alkyl SnIBu2 RO Sn H Alkyl Sn H E Z -2

(6)

3) (a) M. Blumenstein, M. Lemmler,; A. Hayen, J. O. Metzger, Tetrahedron Asymm., 14, 3069 (2003). (b) D. Dakternieks, V. T. Perchyonok, C. H. Schiesserb, Tetrahedron Asymm., 14, 3057 (2003).

メチレンシクロプロパンのヒドロスタニル化 は連続したワンポットでの環化-カップリン

グ反応を可能とした(スキーム20)21)

Scheme 20

4) (a) I. Ryu, T. Niguma, S. Minakata, M. Komatsu, S. Hadida, D. P. Curran, Tetrahedron

Lett., 38, 7883 (1997). (b) S. Hadida, M. S.

Super, E. J. Beckman, D. P. Curran, J. Am.

Chem. Soc., 119, 7406 (1997). Ph O Bu2SnIH (1.2 eq) Ph O SnIBu2 Ph O SnIBu2 SnIBu2 O Ph SnIBu2 Bu2SnIH SnIBu2 Ph O Ph SnIBu2 O Ph THF (0.1 M), rt, 24 h PhI Pd cat. Ph3P TBAF 80 oC, 12 h 56% (dr = 68 : 32) PhI Pd cat.

5) A. K. Sawyer, S. M. George, R. E. Scofield J.

Organomet. Chem., 14, 213 (1968).

6) I. Shibata, A. Baba, Curr. Org. Chem., 6, 665 (2002).

7) I. Shibata, T. Moriuchi-Kawakami, D. Tanizawa, T. Suwa, E. Sugiyama, H. Matsuda, A. Baba, J.

Org. Chem., 63, 383 (1998).

8) T. Suwa, E. Sugiyama, I. Shibata, A. Baba,

Synthesis, 2000, 789.

9) T. Suwa, I. Shibata, K. Nishino, A. Baba, Org.

Lett., 1, 1579 (1999). 以上、ヒドロスタニル化反応において既存 法とされてきたトリブチルスズヒドリドに代 え、ハロゲン化ジブチルスズヒドリドを基軸 としたスズヒドリド群を開発してきた。生成 物自身が、次の段階への基質にもなるので、 ワンポットでの複素環合成やカップリングに よるアルケン合成も可能になった。近年トリ アルキルスズの有害性から、有機スズ化合物 の使用そのものが敬遠されがちではあるが、 アルキル基の減少や長鎖化により有害性を低 減させることができる。スズの長所を生かし た新たな反応剤、触媒の設計が今後の課題で ある。

10) (a) R. Apodaca, W. Xiao, Org. Lett. 3, 1745 (2001). (b) J. J. Kangasmetsa, T. Johnson, Org.

Lett., 7, 5653 (2005).

11) H. Kato, I. Shibata, Y. Yasaka, S. Tsunoi, M. Yasuda, A. Baba, Chem. Commun., 2006, 4189. 12) T. Kawakami, M. Miyatake, I. Shibata, A. Baba,

J. Org. Chem., 61, 376 (1996).

13) 阪部久美子、芝田育也、角井伸次 日本化 学会第88回春季年会予稿集 4H1-04. 14) T. Suwa, I. Shibata, A. Baba, Organometallics,

18, 3965 (1999).

15) I. Shibata, T. Suwa, K. Ryu, A. Baba, J. Org.

Chem. , 66, 8690 (2001).

16) (a) K. Nozaki, K. Oshima, K. Utimoto, K. J. Am.

Chem. Soc., 109, 2547 (1987). (b) N. Asao, J-X,

Liu, T. Sudoh, Y. Yamamoto, J. Org. Chem., 61, 4568 (1996). (c) H. X. Zhang, F. Guibe, G. Balavoine, J. Org. Chem., 55, 1857 (1990). 謝辞

17) U. Kazmaier, M. Pohlman, D. Schauss, Eur. J.

Org. Chem., 1999, 1017. 本稿で取り上げたヒドロスタニル化の研究 成果は、馬場章夫 教授(現 大阪大学大学院 工学研究科長、近畿化学協会副会長、有機合 成化学協会関西支部長)のご指導のもとに得 られたものであり、文献記載の共同研究者と ともにここに深謝申し上げます。

18) I. Shibata, T. Suwa, K. Ryu, A.Baba, J. Am.

Chem. Soc., 123, 4101 (2001).

19) (a) V. Gevorgyan, J. –X. Liu, Y. Yamamoto, J.

Org. Chem., 62, 2963 (1997) (b) M. Lautens, D.

Ostrovsky, B. Tao, Tetrahedron Lett., 38, 6343 (1997). (c) Y. Ichinose, K. Oshima and K. Utimoto, Bull. Chem. Soc. Jpn., 61, 2693 (1998).

参考文献

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1) (a) W. P. Neuman, Synthesis, 1987, 665. (b) H. G. Kuivila, Synthesis, 1970, 499.

2) A. Baba, I. Shibata, M. Yasuda, In

Comprehensive Organometallic Chemistry III, Vol. 9, Chapter 8, eds. R. H. Crabtree, D.

Michael and P. Mingos, Elsevier, Oxford, 2006, pp. 341-380.

21) N. Hayashi, Y. Hirokawa, I. Shibata, M. Yasuda, A. Baba, J. Am. Chem. Soc., 130, 2912 (2008).

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