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論文審査結果の要旨

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Academic year: 2021

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氏 名 授 与 し た 学 位 専攻分野の名称 学 位 授 与 番 号 学位授与の日付 学位授与の要件

学位論文の題目

論 文 審 査 委 員

長谷川 利聡 博 士 歯 学

博甲第6155号 令和2年3月25日

医歯薬学総合研究科病態制御科学専攻

(学位規則第4条第1項該当)

Lactate Transporter Monocarboxylate Transporter 4 Induces Bone Pain in Head and Neck Squamous Cell Carcinoma

(乳酸輸送体モノカルボン酸トランスポーター4は頭頸部扁平上皮癌における骨痛を誘発する)

沢 禎彦 教授 岡元 邦彰 教授 松村 達志 准教授

学位論文内容の要旨

【 緒 言 】

頭 頸 部 扁 平 上 皮 癌 は , 乳 癌 , 前 立 腺 癌 , 多 発 性 骨 髄 腫 な ど と 同 様 に , 腫 瘍 が 骨 に 浸 潤 し 癌 性 骨 痛 を 誘 発 す る こ と が 知 ら れ て い る 。 が ん 臨 床 に お い て 癌 性 骨 痛 は 難 治 性 で あ り , そ の 制 御 は 患 者 のQOL向 上 を 考 え る 上 で , 極 め て 重 要 な 課 題 で あ る 。

悪 性 新 生 物 は エ ネ ル ギ ー 産 生 を 好 気 的 な 条 件 下 に お い て も 嫌 気 性 解 糖 系 に 依 存 し て お り , こ れ はWarburg効 果 と し て 知 ら れ て い る 。 嫌 気 性 解 糖 系 の 最 終 代 謝 産 物 で あ る 乳 酸 は ,m onocarboxylate transporter 4 (以 下:MCT4) を 介 し て 細 胞 外 に 放 出 さ れ ,腫 瘍 周 囲 の 微 小 環 境 を 酸 性 に し , 組 織 の 酸 性 化 は 癌 性 疼 痛 の 原 因 の 一 つ で あ る こ と が 知 ら れ て い る 。

一 方 で , 近 年 , 中 枢 神 経 系 に お い て 乳 酸 が 重 要 な エ ネ ル ギ ー 源 で あ る こ と が 明 ら か と な っ た 。

本 研 究 で は , 乳 酸 の 細 胞 外 輸 送 体 で あ るMCT4の 発 現 低 下 と 頭 頸 部 扁 平 上 皮 癌 の 癌 性 骨 痛 と の 関 係 性 を 検 討 し た 。

【 方 法 と 結 果 】

1) 頭 頸 部 扁 平 上 皮 癌 と 頭 頸 部 正 常 組 織 で のMCT4発 現 の 検 討 。

頭 頸 部 扁 平 上 皮 癌 と 頭 頸 部 正 常 組 織 で のMCT4発 現 を 比 較 す る た め , 頭 頸 部 扁 平 上 皮 癌 の 組 織 ア レ イ を 用 い て 免 疫 学 的 染 色 を 行 っ た 。 頭 頸 部 正 常 組 織 に 比 較 し て 頭 頸 部 扁 平 上 皮 癌 で はMCT4が 高 発 現 し て い た 。

2) 実 験 系 に 用 い る 口 腔 扁 平 上 皮 癌 細 胞 株 の 決 定 。

口 腔 扁 平 上 皮 癌 細 胞 株 で あ るHSC-2,HSC-3,HSC-4,SAS,OSC-19に お け るMCT4発 現 を ウ エ ス タ ン ブ ロ ッ ト 法 に よ り 検 討 し た 。SASに お い てMCT4が 最 も 高 発 現 し て い る こ と を 確 認 し , 以 下 の 実 験 はSASを 用 い て 行 う こ と と し た 。

3) MCT4発 現 抑 制 細 胞 株 の 作 製 。

エ レ ク ト ロ ポ レ ー シ ョ ン 法 を 用 い てSASに 対 い てshRNAを 導 入 しMCT4発 現 抑 制 細 胞 株 を 作 製 し た 。 コ ン ト ロ ー ル と し て 同 様 にcontrol shRNAを 導 入 し た 細 胞 株 を 作 製 し た 。M CT4の 発 現 低 下 は 蛍 光 免 疫 学 的 染 色 な ら び に ウ エ ス タ ン ブ ロ ッ ト 法 に よ り 確 認 し た 。

4) in vitro に お け る 検 討 。

i) 増 殖 能 , コ ン デ ィ シ ョ ン メ デ ィ ウ ム 中 の 乳 酸 濃 度 な ら び にpHの 測 定 。

親 株 ,control shRNA導 入 株 ,MCT4の 発 現 抑 制 株 を そ れ ぞ れ 培 養 し ,増 殖 能 に 対 す る 検 討 を 行 っ た 。ま た ,コ ン デ ィ シ ョ ン メ デ ィ ウ ム 中 の 乳 酸 濃 度 な ら び にpHを 測 定 し た 。増 殖

(2)

能 に 有 意 な 差 は 認 め な か っ た が ,MCT4発 現 抑 制 株 で 有 意 な 乳 酸 濃 度 の 低 下 とpHの 低 下 抑 制 を 認 め た 。

ii) 知 覚 神 経 へ の 影 響 の 検 討 。

MCT4発 現 抑 制 が 知 覚 神 経 に 与 え る 影 響 を 検 討 す る た め に , ラ ッ ト 脊 髄 後 根 神 経 節 の 初 代 培 養 株 と 作 製 し た そ れ ぞ れ のSASを 共 培 養 し た 。 コ ン ト ロ ー ル と し て 共 培 養 せ ず 脊 髄 後 根 神 経 節 の み を 培 養 し た 群 を 作 製 し た 。5日 間 培 養 後 ,カ ル セ イ ン を 用 い て 染 色 し 蛍 光 に よ り 知 覚 神 経 軸 索 伸 長 を 測 定 し た 。 親 株 ,control shRNA導 入 株 と 比 較 し て ,MCT4発 現 抑 制 株 と 共 培 養 し た 神 経 細 胞 の 軸 索 伸 長 は 有 意 に 抑 制 さ れ て い た 。

5) in vivo に お け る 検 討

こ れ ま で の 結 果 を 踏 ま え ,BALB/c-nu/nu右 脛 骨 骨 髄 腔 に そ れ ぞ れ のSASを 移 植 し 癌 骨 浸 潤 モ デ ル を 作 製 し ,MCT4発 現 抑 制 が 癌 性 骨 痛 に 与 え る 影 響 な ら び に 知 覚 神 経 に 与 え る 影 響 に 関 し て 検 討 を 行 っ た 。 コ ン ト ロ ー ル と し て 同 様 の 手 術 を 行 っ た 偽 術 群 を 作 製 し た 。 移 植 後1日 ,3日 ,5日 ,7日 に 熱 感 受 性 試 験 を 行 っ た 。術 後7日 目 で ,MCT4発 現 抑 制 株 を 移 植 し た 群 に お い て , 癌 性 骨 痛 が 有 意 に 抑 制 さ れ て い る こ と が 確 認 さ れ た 。 術 後8日 の 時 点 で , 右 脛 骨 骨 髄 の 腫 瘍 増 大 を 確 認 す る た め に 軟X線 写 真 を 撮 影 し ,ImageJに よ り 骨 破 壊 病 変 の 範 囲 を 測 定 し た 。 有 意 差 は 認 め な か っ た も の の ,MCT4発 現 抑 制 株 を 移 植 し た 群 に お い て 腫 瘍 増 殖 が 抑 制 さ れ る 傾 向 に あ っ た 。

同 日 , マ ウ ス を 屠 殺 し 心 臓 採 血 に よ り 全 身 の 乳 酸 濃 度 の 測 定 を 行 い , 骨 髄 液 採 取 に よ り 腫 瘍 局 所 の 乳 酸 濃 度 の 測 定 を 行 っ た 。 全 身 の 乳 酸 濃 度 に 有 意 な 差 は 認 め な か っ た が , 腫 瘍 局 所 の 乳 酸 濃 度 は ,MCT4発 現 抑 制 株 移 植 群 で 有 意 に 低 下 し て い た 。

ま た , 脊 髄 後 根 神 経 節 を 採 取 し , ウ エ ス タ ン ブ ロ ッ ト 法 な ら び に 蛍 光 免 疫 学 的 染 色 に て pERK1/2の 発 現 な ら び に , 酸 感 受 性 受 容 体 transient receptor potential cation chan nel subfamily V member 1 (以 下:TRPV1)の 発 現 を 測 定 し た 。MCT4発 現 抑 制 株 移 植 群 で はpERK1/2な ら び にTRPV1の 発 現 が 有 意 に 抑 制 さ れ て お り ,知 覚 神 経 の 興 奮 を 抑 制 し て い る こ と が 明 ら か と な っ た 。

【 結 論 と 考 察 】

口 腔 扁 平 上 皮 癌 細 胞 株 で あ るSASはMCT4を 介 し て 乳 酸 を 細 胞 外 に 放 出 す る こ と で , 腫 瘍 周 囲 の 微 小 環 境 を 酸 性 化 し て い た 。 周 囲 微 小 環 境 の 酸 性 化 あ る い は 乳 酸 そ の も の が , 知 覚 神 経 に 存 在 す る 酸 感 受 性 受 容 体 で あ るTRPV1発 現 の 亢 進 を 促 し ,癌 性 骨 痛 の 原 因 の 一 つ と な っ て い る 可 能 性 が 示 唆 さ れ た 。

頭 頸 部 扁 平 上 皮 癌 の 癌 性 骨 痛 制 御 の 一 つ と し て ,MCT4が 治 療 の タ ー ゲ ッ ト と な り う る 可 能 性 が 示 唆 さ れ た 。

今 後 の 研 究 課 題 と し て ,MCT4が 腫 瘍 周 囲 の 微 小 環 境 酸 性 化 に ど の 程 度 寄 与 し て い る か , 放 出 さ れ た 乳 酸 が 知 覚 神 経 や 周 囲 微 小 環 境 に お い て ど の よ う に ふ る ま う の か を 検 討 す る 必 要 が あ る と 考 え ら れ た 。

(3)

論文審査結果の要旨

悪性新生物はエネルギー産生を好気的な条件下においても, Warburg 効果として知られている嫌気 性解糖系に依存している.嫌気性解糖系の最終代謝産物である乳酸は,monocarboxylate transporter

4 (MCT4) を介して細胞外に放出され,腫瘍周囲の微小環境を酸性化する.組織の酸性化は癌性疼痛

の原因の一つとされ,頭頚部扁平上皮癌の治療において,腫瘍顎骨浸潤による癌性骨痛は患者の QOL を損なう大きな課題となっている.そこで本研究では,乳酸の細胞外輸送体である MCT4 の発現低下 と頭頚部扁平上皮癌の癌性骨痛との関係性を検討した.

組織アレイを用いた免疫染色の結果,頭頚部扁平上皮癌は頭頚部正常組織に比較して MCT4 を高 発現していた.また,口腔扁平上皮癌細胞株 HSC-2,HSC-3,HSC-4,SAS,OSC-19 における MCT4 発現をウエスタンブロット法により解析したところ,SAS において MCT4 の発現が高いこと が確認された.そこで,エレクトロポレーション法を用いて SAS に対して shRNA を導入し MCT4 の発現を抑制した細胞株を作製した.MCT4 の発現低下は蛍光免疫染色により確認した.親株,sh control RNA 導入株,MCT4 の発現低下株それぞれを培養し,増殖能に対する検討を行い,培養上清 中の乳酸濃度ならびに pH を測定した.増殖能に有意な差は認められなかったが,MCT4 発現抑制 株で乳酸濃度の有意な低下と pH の上昇を認めた.

次に, MCT4 発現抑制が知覚神経に与える影響を検討するために,ラット脊髄後根神経節の初代培 養株と作製したそれぞれの SAS を共培養した.5 日間培養した後に,カルセインを用いて染色し知 覚神経軸索伸長を測定した.親株,sh control RNA 導入株と比較して,MCT4 抑制株と共培養した神 経細胞の軸索伸長は有意に抑制されていた. In vivo での解析として, BALB/c-nu/nu 右脛骨に SAS を 移植し癌骨破壊モデルを作製し, MCT4 抑制が癌性骨痛に与える影響ならびに知覚神経に与える影響 に関して検討した.コントロールとして同様の手術を行った sham 群を作製した.移植後 1 日, 3 日,

5 日,7 日に熱感受性試験を行ったところ,術後 7 日で MCT4 発現抑制株を移植した群において,癌 性骨痛が抑制されていることが確認された.術後 8 日の時点でマウスを屠殺し,心臓採血により全身 の乳酸濃度の測定を行い,骨髄液採取により腫瘍局所の乳酸濃度の測定を行ったところ,全身の乳酸 濃度に有意な差は認めなかったが,腫瘍局所の乳酸濃度は, MCT4 発現抑制株で有意に低下していた.

また,脊髄後根神経節を採取し,ウエスタンブロット法ならびに免疫蛍光染色にて pERK1/2 の発現 ならびに TRPV1 の発現を測定した. MCT4 発現抑制株では pERK1/2 ならびに TRPV1 の発現が有意 に抑制されており,知覚神経の興奮を抑制していることが明らかとなった.

頭頚部扁平上皮癌は MCT4 を介して乳酸を放出することで周囲微小環境を酸性化させていた.こ れにより,知覚神経に存在する酸感受性受容体である TRPV1 の発現が亢進し,癌性骨痛の原因の一 つとなっている可能性が示唆された.本論文は,頭頚部扁平上皮癌の癌性骨痛制御の一つとして,

MCT4 が治療のターゲットとなりうる可能性を示した最初の論文である.よって,審査委員会は本

論文に博士(歯学)の学位論文としての価値を認める.

参照

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