博 士 ( 農 学 ) 菊 地 裕 人
学 位 論 文 題 名
ダイフラクトースアンノヽイドライド類の製造と 性質に関する研究
学位論文内容の要旨
本 論 文は 、和 文
67頁、 図11 、表
13、
5章か らな り、 参考 論文
10編が付されて いる。
ダイフラクトースアンハイドライドは、2 個のフルクトースの還元末端が互いに他のフル クトースの還元末端以外の水酸 基に結合した環状二糖(オリゴ糖)であり、一般にDFA と 略称 さ れて いる 。数 種類 存在 する
DFAの 中で 、DFA 川 およ びDFAlV はカルシウム やその 他のミネラルの吸収を促進する ことが知られている。D FA 川およびDFAIV を大量に製造す る方法は報告されていないため、酵素を用いた大量生産方法の開発を目指して、原料であ る多 糖 類の 調製 から 最終 産物 であ るDFA 川およびDFAIV を分離・精製するまでの 一連の 工程の効率化・最適化を検討した。また、DFA lIl およぴDFAIV の物理化学的性質等につい ても調査した。
1
)酵素による粗イヌリンからのDFA 川の工業的生産
Arthrobacter sp. H65‑7
株由来のフルクトシルトランスフェラーゼの一種であるinulin
fructotransferase (depolymerizing)(以後「IFTase 」と略す)を用いて、チコリー根部から 抽出 した粗イヌリン(3‑2 ,1 結合型のフルクタン)からDFA lIl を工業的に生産する方法を 検討 した。イヌリンを貯蔵多糖としてその根部に含むチコリーを北海道十勝地方にある試 験農 場で栽培して、定期的にチコリー根部の重量、イヌリン含量およびイヌリン平均分子 量等 を調査した。その結果、イヌリンの収量および平均分子量が最大になる9 月下旬から
10月 上旬が、最適なチコリー収穫時期であると判断した。チコリー根部
1.8トンを収穫・
裁断 して温水抽出し、その抽出液をビート糖工場で用いられるライミング・カーボネーシ ヨン 法により処理して粗イヌリン153 kg を含む精製液(carbonation juice 、CJ) を得るこ とに 成功した。Arthrobacter sp. H65‑7 株由来DFA lIl 合成酵素であるIFTase は、イヌリン によ って誘導されるが、本酵素はCJ によっても問題なく誘導されることを確認した。この 結果 から、CJ は酵素生産培地のイヌリン源として適していると判断した。イヌリン15 kg を 含む
CJに
IFTaseを添加し反応させると、
DFA川
9.8 kgが生成した。反応終了後、酵母 発酵およぴイオン交換樹脂により反応液中のD FA lIl 以外の糖およぴ塩類を除去した。その 後結 晶化を行って、純度99.7 %の高純度DFA lIl 結晶3.1 kg を製造することに成功した。
イヌ リンの重合度とDFA lIl 反応収率の相関についても調査した結果、イヌリンの重合度と 反応 収率の間には明確な正の相関を認めた。重合度が高くなるほど反応収率は高くなり、
DFA lIl
収 率 決 定 に お け る 重 合 度 の 重 要 性 が 高 い こ と を 明 ら か に し た 。
―1203―
2)DFA lIlの 物 理 化 学 的 性 質 お よ び 生 理 作 用
チ コ リー 由来 の イヌ リン より 製造 し た高 純度DFA lIlの加 工食 品 にお ける 有用 性 を評 価す る た め 、そ の物 理 化学 的性 質お よび 生 理作 用を 調査 し た。DFA lIlの水 への 溶解 度 は、 スク ロ ー ス の90〜95% で あ り 、 高 い 溶 解 性 を 示 し た 。 ま た 、DFA川 の 吸湿 性は スク ロ ース より も 低 く 、 低pHに お け るDFA川 の 分 解 性 お よ び メ イ ラ ー ド 反 応 性 は 、 ス ク ロ ー ス お よ び ラ フ イ ノ ー ス よ り も か な り 低 い こ と が 明 ら か と な っ た 。DFA川 は 加vitr〇 に お い て Sねpf〇c〇ccusmufa冖s6715株 お よ びMT8148株 に 資 化 さ れ ず、 低 う蝕 性で ある こ とが 示唆 さ れ た 。 ま たDFA川 はmvffr0に お い て ラ ッ ト 消 化 酵 素 に よ って 分 解さ れず 、ラ ッ ト小 腸を 用 い た 反 転 腸 管 サ ッ ク 法 に お い て も 吸 収 は 認 め ら れ な か っ た 。こ れら の 結果 から 、DFA川 は 他 の 多 く の オ リ ゴ 糖 と 同 様 に 非 消化 性・ 非 吸収 性の オリ ゴ糖 で ある こと が明 ら かと なっ た 。 一 方 、DFA川 を 摂 取 し た ラ ッ ト の 盲 腸 で は 、 短 鎖 脂 肪 酸の 増 大と 菌叢 の変 化 が認 めら れ た が 、 ビ フ ィ ズ ス 菌 の 増 加 は 認 め ら れ な か っ た 。1日 にDFA川5gを2週 間 摂 取 し た ヒ ト で は 、 糞 便 菌 叢 の 変 化 は 認 め ら れ な か っ た 。
3) 微 生 物 培 養 に よ り 調 製 さ れ た レ バ ン か ら 酵 素 に よ るDFA IVへ の ワ ン ポ ッ ト 変 換 Serraぬ ′evanセumNN株 を用 いて スク ロー ス から レバ ン(B‐2,6結合 型 のフ ルク タン ) を 調製し、そのレバンから´4冖カr06aCfeH)ぬ〇伽0ゾ〇ra門SGS_9株由来|eVanfruCtotranSferaSe(以 後 「LFITase」 と 略 す ) を 用 い てDFAIVに 変 換 す る ま で を 、効 率的 に、 か つワ ンポ ット で 行 う 方 法 を 検 討 し た 。S. 伯vanfcumNN株 を ス ク ロ ー ス30kgを含 むレ バン 生 産培 地で 培養 し 、 培 養 開 始10時 間 後 の 培 養 液 ( レ バ ン 濃 度 、39g′L) を 、pH5.5に 調整 し 、4℃ に 冷却 して7 日 問 撹 拌 す る と 、 レ バ ン 濃 度 を50g/Lま で 上 昇 さ せ ら れ る こ と を 明 ら か に し た 。A 門 忙 〇 鰤ovora門sGS−9株 由 来 のLFITase生 産 量 を 向 上 さ せ る た め 、 新 た な 形 質 転 換 体 E・Scカe庇 ん艪c〇 彫pLF・rISA7を 作製 した 。本 形質転換 体のLFTase活性は105.1U′mL(培養 液 当 た り ) で あ り 、 元 株 お よ び 従 来 型 形 質 転 換 体EcoMpLFTlBB1の 酵 素 活 性 の そ れ ぞ れ 32倍 、6倍 で あ っ た 。 レ バ ン7.5kgを 含 む 培 養 液 にLF;Taseを 添 加 し 、 反 応 さ せ る とDFA IV6.8kgが 生 成 し た 。 反 応 終 了 後 、 酵 母 発 酵 お よ び イ オ ン交 換樹 脂に よ り反 応液 を精 製 し た 。 酵 母 発 酵 は 、DFAIV以 外 の 糖 を 除 去 す る だ け で な く 、S. ′e旧n肥umNN株 の 細 胞 を 除 去 す る こ と に も 効 果 が あ る こ と を 確 認 し た 。 ま た 、 イ オ ン交 換樹 脂処 理 によ って 、塩 類 が 除 去 さ れ る だ け で な く 、 ク ロ マ ト 効 果 に よ るDFAlV純 度 の 大 き な 向 上 が 認 め ら れ た。 結 晶 化 に よ っ て 、 純 度99.9% の 高 純 度DFAIV結 晶3.5kgを 調 製 す る こ と に 成 功 し た 。DFAlV の 物 理 化 学 的 性 質 お よ び 生 理 作 用 を 調 査 し た 結 果 、DFAIVが2水 和 物 の 結 晶 構 造 を 有 す る こ と が 示 唆 さ れ る こ と 、 酸 性 条 件 下 で の 安 定 性 が ス ク ロ ース やラ フィ ノ ース と同 等で あ る こと、ビフィズス菌に資化されないことを明らかにした。
以 上 、 原 料 で あ る 多 糖 類 の 調 製 も 含 め 、 酵 素 を 用 い て 高 純 度 のDFA川 お よ びDFA IVを 効 率 的 に 大 量 調 製 す る こ と に 成 功 し た 。 ま た 、 高 純 度DFA川 お よ びDFA IVを 大 量 に 調 製 で き た こ と に よ っ て 、 こ れ ま で ほ と ん ど 報 告 の な か っ たDFA川 お よ びDFA IVの 物 理 化 学 的 性 質 、 生 理 作 用 に つ い て も 明 ら か に し た 。 な お 、DFA川 は 市 販 の精 製イ ヌリ ンを 原 料と し て2004年 か ら 工 業 生 産 す る こ と に 成 功し てお り 、カ ルシ ウム や その 他ミ ネラ ルの 吸 収を 促 進 す る 健 康 食 品 素 材 と し て 利 用 さ れ て い る 。
―1204―
学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
ダイフラクトースアンノヽイドライド類の製造と 性質に関する研究
本論 文 は 、和 文
67頁 、図11 、 表
13、
5章から なり、 参考論文
10編が付 されてい る。
ダイフラクトースアンハイドライドは、2 個のフルクトースの還元末端が互いに他のフル クトースの還元末端以外の水酸基に結合した環状二糖(オリゴ糖)であり、一般にDFA と 略称 されてい る。数 種類存在 する
DFAの中で 、
DFA川 およぴ
DFA IVはカル シウムやその 他のミネラルの吸収を促進することが知られている。
D FA lIlおよびDFAIV を大量に製造す る方法は報告されていないため、酵素を用いた大量生産方法の開発を目指して、原料であ る多 糖類の調 製から 最終産物 であるDFA 川お よびDFA IV を分離・精製するまでの一連の 工程の効率化・最適化を検討した。また、
DFA lIlおよび
DFAIVの物理化学的性質等につい ても調査した。
1)酵素による粗イヌリンからのDFA川の工業的生産
Ar仂r06acfersp.H65‐7株由来のinulinfructotranSferase(depoIymeriZing)(以後「|F;Tase」 と 略 す ) を 用 い て 、 チ コ リ ー 根 部 か ら 抽 出 し た 粗 イ ヌ リン か らDFA川 を工 業的 に生 産す る 方 法 を 検 討 し た 。 チ コ リ ー 収穫 期 間に おけ るチ コ リー 根部 の重 量、 イ ヌリ ン含 量、 イヌ リ ン 平 均 分 子 量 等 の 変 化 を 調 査 し た 結 果 、 イ ヌ リ ン 収 量 と平 均 分子 量が 最大 に なる9月下 旬 か ら10月 上 旬 が 、 最 適 な チ コリ ー 収穫 時期 であ る こと を示 した 。チ コ リー 根部 を収 穫・ 裁 断 し て 温 水 抽 出 し 、 そ の 抽 出液 を ライ ミン グ・ カ ーボ ネー ショ ン法 に より 処理 して 粗イ ヌ リ ン を 含 む 精 製 液 を 得 た 。 本精 製 液にlFTaseを 添 加し 反応 させ た後 、 酵母 発酵 とイ オン 交 換 樹 脂 に よ り 反 応 液 中 のDFA川 以 外 の 糖 お よ ぴ 塩 類 を 除去 し、 その 後 結晶 化を 行っ て、 高 純 度DFA川 結 晶3.1kgを 製 造 す る こ と に 成 功 し た 。 イ ヌ リ ン 重 合 度 とDFA川 変 換 収 率 の 問 に 明 確 な 正 の 相 関 を 認 め 、DFA川 収 率 決 定 に お い て 重合 度の 重要 性 が高 いこ とも 明ら か にした。
2
)DFA lIl の物理化学的性質および生理作用
低pH における
DFA lIlの分解性およびメイラード反応性は、スクロースよりも低く、DFA
IIが安定なオリゴ糖であることを示した。DFA lIl は加
vitroにおいてStreptococcus mutans
一 1205−
篤
和 夫
博
淳
田 井
村
横 松
木
授 授
授
教 教
教
査 査
査
主 副
副
に資化されず、低う蝕性であることが示唆された。またDFAIIl は加vitro においてラット消 化酵素に よって分解されず、ラット小腸を用いた反転腸管サック法においても吸収が認め られなかったことによって、D FA lIl は非消化性・非吸収性のオリゴ糖であることを示した。
一方、DFA 川を摂取したラットの盲腸 では、短鎖脂肪酸の増大と菌叢の変化が認められた が、ビフ ィズス菌の増加は認められなかった。DFA 川を摂取したヒトでは、糞便菌叢の変 化は認められなかった。
3
) 微 生 物 培 養 に よ り 調 製 さ れ た レ バ ン か ら 酵 素 に よ る
DFAIVへ の ワ ン ポ ッ ト 変換
Serra舶旭 ゾanfcumNN 株 を用 いて スク ロー ス から レバ ンを 調製 し、 その レバ ンから
Amr06aC冶
rr7ぬ〇加ovora 門SGS ‐9 株由来IeVanfruCtotranSferaSe (以後「
LFTaSe」と略す)
を 用い てDFAIV に 変換 する までを、ワンポットで行う方法を検討した。S .艪旧
nめumNN 株をスクロースを含むレバン生産培地で培養し、培養開始10 時間後の培養液(レバン濃度、
39g
儿)を、pH5 .5 に調整し、4 ℃に冷却して7 日間撹拌すると、レバン濃度を50g 儿まで 上昇させられることを明らかにした。A .門肥〇舶〇voransGS ―9 株由来のLFTase 生産量を向 上 させ るた めに 作 製し た形質転換体ElSc カe 虎
n艪
c〇MpLFT ―
SA7のLFTase 活性 は105 .1
U′mL (培養液当たり)であり、元株および従来型形質転換体の酵素活性より高かった。レ バンを含 む培養液にLFTase を添加し反応させた後、酵母発酵およびイオン交換樹脂により 反応液を 精製した。イオン交換樹脂処理によって塩類が除去され、さらにクロマト効果に よるDFAlV 純度の大きな向上が認めら れた。結晶化によって、高純度DFAIV 結晶3 .5  ̄
kgを調製す ることに成功した。DFAIV の 酸性条件下での安定性がスクロースと同等であるこ と、ビフィズス菌に資化されないことを明らかにした。
以上 、原 料で ある 多糖 類の調製も含め、酵素を用いて高純度の
DFA川およびDFA IV を 効率的に大量調製するこ とに成功した。また、高純度
DFAIlIおよび
DFA IVを大量 に調製 で きた こと によ って 、こ れまでほとんど報告のなかった
DFA川およぴDFA IV の物理化学 的性質、生理作用につい ても明らかにした。なお、DFA 川は市販の精製イヌリンを原料と して2004 年から工業生産 することに成功しており、カルシウムやその他ミネラルの吸収を 促進する健康食品素材と して利用されている。以上の成果は、オリゴ糖の生産方法の理解 に役立っだけでなく、研究成果が実用化に結ぴっいた事例として価値を有するものである。