博 士 ( 薬 学 ) 里 崎 陽 平
学 位 論 文 題 名
病原微生物の迅速検知
―フイロウイルス及び炭疽菌に関する検討一
学位論文内容の要旨
【 序 論】 感染 症の 発生 が 疑わ れる 場合 、病 原 微生 物の 検出 お よび 同定 は感 染症 対策上第一に 求 め られ る。 特に 病原 性 、感 染性の高い細菌や ウイルスを原因とする感染 症は、対策の遅れが 感 染 拡大 に繋 がる ため 、 早期 での病原微生物の 検知が必要であり、臨床現 場でも使用可能な迅 速 か つ簡 便な 検出 法を 開 発す ることが必要とさ れている。本研究では、新 興感染症の中でも特 に 病 原 性 、 感 染 性 が 高 く ア フ リ カ 地 域 にお いて 集団 感 染が 増加 傾向 にあ る エボ ラウ イル ス (EBOV)と マー ルブ ルグ ウ イル ス(MARV)(と も にフ イロ ウイ ル ス科 )、 およ び病 原性が高く、
生 物 テロ ヘの 使用 も危 惧 され ている炭痘菌の迅 速検知法の開発を行った。 検知技術として、等 温 遺 伝子増幅法であ るLAMP (loop‑mediated isothermal amplification)法 に着目した。LAMP法 は 、 @ 増 幅 効率 が非 常に 高 く、 ◎RNAを 鋳型 に用 いた 場 合で も、 逆転 写反 応 からcDNA増幅 ま で ワ ンス テッ プか つ一 定 温度 で反応を進行させ ることができ、◎反応副産 物(ピロリン酸マグ ネ シ ウム )に よる 反応 液 の濁 度を指標としたり アルタイム検出及び螢光剤 添加による目視検出 が 可 能で ある 。し たが っ て、LAMP法は 迅速 性 、簡 易性 に優 れ た遺 伝子 増幅 法で あり、臨床現 場 で の迅 速な 微生 物検 査 法と して の応 用が 期 待で きる 。そ こ で、LAMP法を 応用 したフイロウ イル ス及び炭疽菌の迅速遺伝子 検知法の開発を行った。
【結 果及び考察】
1)エ ボラ ウイ ル スEBOVに はヒ ト に対 して 病原 性を 示 すZaire、Sudan、Ivo・ツCo甜f及びヒト 非 病 原性の尺esfD門 の計4種が分類されている。 今回、発生件数が最も多く 、ヒトに対する病原 性が 最も高しヽZafM86DんwケMs(ZEBOV)にっいてRT(reverSetranscription)‐LAMP法によるウイ ル ス 遺伝 子検 出法 の開 発 を試 みた。EBOVの配列 比較から5 端非転写領域で あるtrailer配列を 増 幅 標的 とし 、プ ライ マ ーを 設計 した 。プ ラ イマ ーの 性能評価は、mvf加 転写にて調製したウ イ ノ レスタンパク質 のコード領域を持たない人 工RNA(minigenome)を鋳型 に用いて行った。そ の 結 果、 検出 感度 は1反応 あた り20コ ピー であ り、 反 応液の濁度を指標と したりアルタイム検 出 で は 、2x101―106コ ピ ー の 鋳 型 を 用 いた 場合 、15―25分 程度 でLAMP陽 性 が確 認さ れた 。 ま た 、 感 染 性ウ イル ス粒 子 を用 いた 検討 から 、ZEBOV株 特異 的で ある こと 、 感染 価10.3FFU に 相 当 す る ウイ ルスRNA抽出 液か ら検 知 可能 であ るこ と を確 認し た。 以上 の 結果 から 、RT‐ LAMP法 に よ るZEBOV検 出 法 は 特 異 性 、 検 出 感 度 に 優 れ た ウ イ ル ス検 出法 で ある こと が示 さ れ た 。EBOV感染 者は 数日 で 高度 のウ イル ス血 症 を起 こす 。既 存のRT‐PCR法 と同 等の 感度 が −41―
得ら れた こと か ら、RT‑LAMPによ るZEBOV検出 法は 臨 床検 査法 とし ても 有 用だ と考 えられた。
2)マ ー ルブ ルグ ウイ ル スMARVは ム廰 ピVictoria marburgvirusの1種のみ分 類されている。過 去 の 分 離 株 の ゲ ノ ム 配 列 に 基 づ く 系 統 解 析 から 、大 きく2つ の系 統(Musoke、Ravn系 統) に 分岐 して おり 、 系統 間の 配列 は互 いに20%程度 の相違があることが明らかに されている。その ため 既存 のRT‑PCR法 にお いて も全 て の分 離株 を検 知 でき ない 場合 が多 い 。そ こで 、ウイルス 株 間 の 配 列 保 存 性 か らNP遺 伝 子 を 増 幅 標 的 とし 、Musoke及 びRavn系 統そ れ ぞれ に対 し系 統 特 異 的 な プ ラ イ マー の設 計を 行 った 。各 プラ イ うー を用 いたRT‑LAMP法に よ り、 系統 特異 的 にウ イル ス株 が 検出 され るこ とを 確認し、さら にマルチプレックス化により 両系統に属するウ イ ル ス 株 を 検 知 で き る こ と を 確 認 し た 。 ウ イル スRNAを 用い 、TaqMan RT‑PCRに よる 検出 法 と の 感 度 比 較 を 行 っ た と こ ろ 、RT‑LAMP法はTaqMan RT‑PCR法と 同等 もし く はそ れ以 上の 検 出 感 度 を 得 る こ とが 示さ れた 。 また 、RT‑LAMPに よるMARV検 出法 の有 用性 を 評価 する ため 、 2004‑05年 ア ン ゴ ラ での 発生 例で 得ら れ た臨 床検 体か らのMARV遺 伝子 の検 出 を試 みた 。そ の 結 果 、 電 気 泳 動 検 出 及 び 螢 光 日 視 検 出 に お い て も 、RT‑PCR陽 性18検体 中14検体 がRT‑LAMP 陽性であり、ウイルス感 染価l04 TCIDso /rril以上の検体からの検出が可能であった。以上の結果 か ら 、 今 回 開 発 し たRT‑LAMPに よ るMARV遺 伝 子 の 検 出 法 は 、 検 出 特 異性 、 感度 に優 れ、 臨 床検体からのウイルス検 査法としても有用であると考 えられた。
3) 炭 疽 菌 炭 疽 菌 に つ い て は 、 染 色 体 上 のS‑Iayer構 成タ ン パク 質遺 伝子sap、及 び2っの 病 原 性 プ ラ ス ミ ドpXOlとpX02上 の 遺 伝 子pag( 防 御抗 原遺 伝子 )、cap(莢 膜 関連 遺伝 子) の 計3つ の 炭 疽 菌 特 異 的遺 伝子 を標 的と し 、LAMPプ ライ マー を 設計 した 。各 プ ライ マー を用 い たLAMP法qこ よ り 、 炭 疽 菌 株 を 特 異 的 に 検 出 で き る こ と 、 炭 疽 菌 と 近縁 のB.cereus、B. thuringiensis及びその他 バチルス属菌種と交差反応 しないことを確認した。また2つの病原性プ ラス ミド の有 無 の結 果か ら、 検出 された炭疽菌 株の病原性の推定が可能と考 えられた。検出感 度 はDNA量 に し て10 fg (3.7細 胞 相 当 ) であ り 、既 存のPCRと比 較し10‑100倍以 上の 感度 を 得た 。以 上の 結 果か ら、 今回 開発 し たLAMP法 によ る 炭疽 菌検 知は 、特 異 的か つ高 感度な方法 であ るこ とが 示 され た。 また 、BALB/cマ ウス を用 い た吸 入炭 疽モ デル を 作出 し、 血中炭疽菌 の簡 易検 出法 と してLAMP法の 有用 性 を検 討し た。 炭 疽菌 芽胞 を経 鼻接 種 した マウ スから血液 を採 取し 、こ れ をサ ンプ ルと して 検討を行った 。血液からの抽出法は操作が 簡易なボイル法を 採 用 し 、 抽 出 サ ン プ ル か らLAMP法 及 びPCR法 に て 炭 疽 菌 遺 伝 子 の 検 出 を 試 み た 。LAMP法 によ る検 出で は 、ポ イル 法に て抽 出したサンプ ルを用いた場合でもカラム精 製法と同等の検出 感度を得ることができ、7.2X l03 CFU/rrilの血液か らの検出が可能であった。ま たLAMP法はPCR 法と 比較 し、 血 中炭 疽菌 をよ り高 感度に検出す ることができた。このことか ら、操作が容易な ボイ ル法 とLAMP検出 の組 み合 わせ に より 、血 液試 料 から 迅速 かつ 簡便 に 炭疽 菌検 出を行うこ とが でき ると 考 えら れた 。炭 疽菌 感染による病 態のうち最も重篤化するのは 吸入炭疽であり、
症状 が急 速に 進 行す るた め、 迅速 な 炭疽 菌感 染の 同 定を 必要 とす る。 今 回ボ イル 抽出とLAMP 法の 組み 合わ せ によ り、 血中 炭疽 菌の迅速かつ 簡易な検出として有用である ことが示されたこ とから、臨床現場での炭 疽菌検出としての有用である と考えられた。
【 総 括 】LAMP法 は 増 幅 判 定 の 簡 便 性 、 迅 速 性と ぃう 特徴 を 有す 。今 回の 検 討か ら、 フイ ロ ウイ ルス 及び 炭 疽菌 の検 出法 とし て特異性が高 く検出感度に優れた方法であ ること、また臨床
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検体または動物感染モデルから標的遺伝子を検出することが可能であることが示された。した がって、LAMP法による検出法は、臨床現場での迅速かつ高精度なスクリーニング法として有 用であると考えられた。
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