博 士 ( 農 学 )Peter Kurdi
学位論文題名
Cholic Acid Transport Properties of Lactobacilli and Bifidobacteria
匸
( ラク ト バ チル ス 属菌 性 とビフィ ドバクテ リウム属菌 性におけ る コ ール 酸 輸送 に 関 する 研 究 )
学 位 論 文 内容 の 要 旨
胆汁酸 塩は胆汁 酸にグリ シンある いはタウ リンが抱合した化合物であり,脊椎動物にお いて脂 質の乳化 と消化に 重要な役 割を演じ ている.これらは肝臓でコレステロールから合 成 され , 十 二指 腸ヘ分 泌され, 腸管循環 を受ける .6 mmolの胆汁 酸塩プー ルの内,お よ そ1 mmolが 毎 日糞 便 中に 排 泄 され , コレ ス テ ロー ル か らの 合 成に よ っ て置 き換えら れ る.腸 管循環に おいて, 胆汁酸塩 は腸内フ ローラによ って2つの 主な修飾 反応を受ける,
一っはbile salt hydrolaseによる脱抱合反応で,これにより胆汁酸が生成する.ついでこれ らは(a‑脱 水酸化反 応により 二次胆汁 酸に変換 される.こ れらの微 生物変換 反応によって 生成さ れた胆汁 酸は,一 般的に腸 内細菌に 対して毒性を示し,その生育を阻害することが 知られ ている. 本研究の 目的は, ヒトの胆 汁酸として最も一般的なコール酸を取り上げ,
腸 内細 菌 と コー ル酸の 関わりを その生育 阻害作用 と輸送に 注目して 明らかにし ,これに よって 腸内細菌 の役割を 考察する と共に, プロビオテイック作用メカニズムの一端を解明 することである・
1.工actobacillus属,Bifidobacterium属菌株のコー少酸感受性
コール酸がLactobacillus属,Bifidobacterium属菌株に対してどの程度の生育阻害を示す の か.またLactobacillus属乳酸菌のコール酸感受性が分離起源によってどの様に異なるの か を調べた .約20株のLactobacillus属乳酸菌に ついてMRS培 地(1/2濃度で調製)を用い た 生 育試験 により,生 育量を1/2に阻害す るコール 酸濃度(IC00)を 求めたと ころ,乳製 品 由来のLactobacillus属 乳酸菌は0.5〜l.OmM,腸管由 来の菌株 は1.0〜2.OmM,またそれ 以 外 の分離 起源の菌株 は0.5〜2.5mMと広 い分布を 示した. この結果 は,少な くとも腸管 由 来の菌株 は乳製品 由来の菌株 よりもコール酸耐性が強い傾向があることを示している.
ま た,腸管 由来のBifidobacterium,属10菌株では,1.0〜2.OmMのIC00であった.腸管内に は 高濃度の 胆汁酸が 存在してお り,腸管由来の菌株は胆汁酸耐性を有する必要があること を考えると,これらの結果は合理的である.
2. 工 actobacillus属 , Bifidobacteriu工 n属 菌 株 に よ る コ ー ル 酸 の 蓄 積 放射性同位元素でラベルしたコール酸を用いた輸送実験の結果,Lactobacillus属菌株と Bifidobacterium属菌株では,細胞がグルコースによってエネルギー化されると,コール酸
は細 胞内に蓄積されることが見出された.この結果は,毒性の強いコール酸を排出せず逆 に取 り込む 点で 予想 に反 する もの であ り, むし ろこ れら の菌 株の特性であると考えられ た. このコ ール 酸取 込み の駆 動カ は, 次の よう な実 験結 果に 基づぃてプロトン駆動カの ApH成 分であることが明らかにされた:(l)ApH成分を選択的に消去するナイジェリシンを 添加 すると ,細 胞内 に蓄 積さ れた コール酸が一気に放出される,(2)細胞外pHを低下させ てApH成 分 を 増 大 さ せ る と コ ー 彫 酸 の 蓄 積 が 促 進 さ れ る, な ど で あ る . 特 に 種 々 の Lactobacillus属菌株におけるコール酸蓄積量の比較から,蓄積量は細胞内pHに依存し,細 胞内pHとの 間に 明瞭 な相 関が ある こと が示 され た. この こと から,コール酸の蓄積は蛋 白質 のトランスポーターによって媒介される現象ではなく,疎水性弱酸と細菌細胞膜(リ ン脂 質二重 層) を隔 てて のApHと の相互作用に基づくものであることが示唆された.すな わち ,コール酸はpKa値6.4の弱酸であり,生理的条件下では非解離状態のコール酸分子が 多数 存在し,これらは細胞内に入ることができる.工ネルギー化された細胞内はアルカリ 環境 にあるため,コール酸分子は解離し,生じたコール酸アニオンは極性が高いため細胞 膜を 通過で きな くな り, その 結果 細胞 内に 蓄積 され るも のと 考えられる|これらのこと は, 細胞内 への コー ル酸 の蓄 積は ,そ の細 胞が コー ル酸 排出 活性を持たず,細胞内pHが 細胞外pHより高い場合に成立することを示している,
輸送実験の結果,Lactobacillus属菌株とBifidobacterium属菌株は外部コール酸濃度が1〜 2mMの場 合に もコ ール 酸を 取り 込む こと が示 され た. この 結果は ,腸 管内 にお ける 胆汁 酸 (塩 )濃 度がO.lmM‑‑lOmMで ある こと を考 慮す ると ,コ ール酸 の取 込み が実 際に 腸管 内で起こっている可能性を示している.
3‑コール酸取込みとプロピオテイック機能の関連性について
胆 汁 酸 蓄 積 に 関 す る こ の よ う な 新 し い 現 象 の 発 見 は ,Lactobacillus属 菌 株 や Bifidobacterium属菌株のプロビオテイック機能を解明する上で重要な示唆を与える.すな わち,これらの細菌をヨーグルトや発酵乳などを通じて大量に供給することによって,ヒ トの胆汁酸代謝に影響を与える可能性が考えられる.生菌数を増大させるには,難消化性 オリゴ糖や食物繊維によって腸内のLactobacillus属菌株やBifidobacterium罵菌株を活性化 する方法もあり,これによって胆汁酸蓄積を持続的に行わせることが期待できる.胆汁酸 はヒト腸管細胞に毒性を示し,発癌プロモーターであることが知られている.従って,腸 管内 かb胆汁 酸を 除去 する ことは,大腸内容物の毒性を低下させ,それ故,大腸癌発症1J スクの低減にも有効である可能性が考えられる.さらに,胆汁酸排出が促進されるとコレ ステロールからの胆汁酸塩の合成が引き起こされるであろう.もしこのコレステロールが 血清LDL.コ レス テロ ール から供給されるならば,血清コレステロールレベルが腸管内で の胆汁酸代謝によって低下する可能性がもたらされる.これらのプロビオテイック機構は 今後の検討課題である.
学 位 論 文 審 査 の 要 旨 主 査 教 授 冨 田 房 男 副 査 教 授 横 田 篤 副 査 助 教 授 浅 野 行 蔵
学 位 論文 題名
Cholic Acid Transport Properties of Lactobacilli and Bifidobacteria
匸
(ラクトバチルス属菌性とビフィドノヾクテリウム属菌性における コール酸輸送に関する研究)
胆汁酸塩は胆汁酸にグリシンあるいはタウリンが抱合した化合物であり,脊椎動物にお いて脂質の乳化と消化に重要な役割を演じている.これらは肝臓でコレステロールから合 成され,十二指腸へ分泌され,腸管循環を受ける.腸管循環において,胆汁酸塩は腸内フ ローラによってニつの主な修飾反応を受ける.一っは脱抱合反応で,これにより胆汁酸が 生 成す る. つい でこ れら は7a‑脱水酸化反応により二次胆汁酸に変換される.これらの微 生物変換反応によって生成された胆汁酸は,腸内細菌に対して毒性を示し,その生育を阻 害することが知られている.
本研 究の 目的 は, ヒト の胆 汁酸 とし て最も 一般 的な コール酸を取り上げ,腸内細菌と コール酸の関わりをその生育阻害作用と輸送に注目して明らかにし,これによって腸内細 菌 の 役 割 と プ ロ ピ オ テ イ ッ ク 作 用 メ カ ニ ズ ム の 一 端 を 解 明 す る こ と で あ る .
1. Lactobacillus属,Bifidobacterium属菌株のコール酸感受性
コール酸がLactobacillus属,Bifidobacterium属菌株に対してどの程度の生育阻害を示す のかを調べた.約20株のLactobacillus属乳酸菌について生育量を1/2に阻害するコール酸 濃 度(IC00)を 求め たと ころ ,乳製品由来のLactobacillus属乳酸菌は0.5〜l.OmM,腸管由 来 の菌株 は1.0〜2.OmM,ま たそ れ以 外の 分離 起源 の菌 株は0.5〜2.5mMと広い分布を示し た.従って,腸管由来の菌株は乳製品由来の菌株よりもコール酸耐性が強いことがわかっ た .また .腸 管由 来のBifidobacterium属10菌株は,1.0〜2.OmMのIC50を示した.腸管内 には高濃度の胆汁酸が存在しており,腸管由来の菌株は胆汁酸耐性を有する必要があるこ とを考えると,これらの結果は合理的である.
2. Lactobacillus属 ,Bifidobacterium属 菌 株 に よ る コ ー 少 酸 の 蓄 積 放射性同位元素でラベルしたコール酸を用いた輸送実験の結果,Lactobacillus属菌株と Bifidobacterium属菌株では,細胞がグルコースによってエネルギー化されると,コール酸 は細胞内に蓄積されることが見出された.この結果は,毒性の強いコール酸を排出せず逆
に取 り込 む点 で予 想に 反す るも ので ある が, これ らの 菌株の特性であると考えられた.
コー ル酸 取込 みの 駆動 カは ,次 の2つ の実 験結 果に 基づ ぃて,プ口トン駆動カのApH成分 であることが明らかにされた:(l)ApH成分を選択的に消去するナイジェリシンを添加する と蓄積されたコール酸が速やかに放出される;(2)細胞外pHを低下させてApH成分を増大さ せるとコール酸の蓄積が促進される.
さらに,種々のLactobacillus属菌株における細胞内pHとコール酸蓄積量の間に明瞭な相 関が見出された.このことは,コール酸の蓄積は蛋白質のトランスポーターを介するもの では なく ,疎 水性 弱酸 が細 菌細胞膜(リン脂質二重層)を隔ててApHに応じて分配される 現象であることを示している.コール酸はpKa値6.4の弱酸であり,生理的条件下では非解 離状態のコール酸分子が多数存在し,これらは細胞内に入ることができる.エネルギー化 された細胞内はアルカリ環境にあるため,コール酸分子は解離し,生じたコール酸アニオ ンは極性が高いため細胞膜を通過できなくなり,その結果細胞内に蓄積されるものと考え られる.
3.コール酸取込みとプロピオテイック機能の関連性について
今回明らかにされた腸内細菌による胆汁酸蓄積は,胆汁酸の糞便を通じての体外排出を 促 進 す る こ と に っ な が る と 考 え ら れ る . こ の こ と は ,Lactobacillus属 菌 株 や Bifidobacterium属 菌株 のプロビオテイック機能を解明する上で重要な示唆を与える.ま ず,胆汁酸はヒト腸管細胞に毒性を示し,発癌プ口モーターであることが知られている.
従って,腸管内から胆汁酸を除去することは,大腸内容物の毒性を低下させ,それ故,大 腸癌発症リスクの低減に有効であろう.さらに,胆汁酸排出が促進されるとコレステロー ルか らの 胆汁 酸塩 の合 成量 が増大 する であ ろう .も しこのコレステ口ールが血清LDL‑コ レス テロ ール から 供給 され るなら ば, 血清 コレ ステ ロールレベルが低下する可能性があ る . 今 後 は 動 物 実 験 な ど で こ れ ら の 可 能 性 を 検 証 す る 必 要 が あ る . 今回の申請者の研究による,Lactobacillus属菌株とBifidobacterium属菌株によるコール 酸の取込みは新発見であり,これらの細菌のプ口ビオテイックメカニズムの解明およびプ ロピオテイック製品の開発に大きく貢献するものと考えられる.
よって審査員一同は,Peter Kurdiが博士(農学)の学位を受けるのに十分な資格を有す るものと認めた.