1 テ ー マ 名 :豊かな風土と地域の活性化に向けて 個 別 事 業 名 :県特産物「砂丘ナガイモ」品質維持にとって適正な土壌水分・施肥管理法の確立 鳥取大学農学部生物資源環境学科 教授 猪迫耕二 1.はじめに 北条砂丘は鳥取県の中央部に位置する東西 10 km,南北 1.5 km にわたる海岸砂丘である.昭和 27 年から実施されてきた農業開発によって全国有数の優良砂丘農業地帯へと発展し,本地区で栽 培される砂丘ナガイモは鳥取県の重要な特産物の 1 つとなっている. しかし,近年,砂丘ナガイモに黒陥没障害が多発するようになり,品質低下が問題視されるよ うになってきた.これを受けて,鳥取県園芸試験場砂丘地農業研究センター(砂丘農研センター) を中心にその発生要因が精力的に調査され,土壌の過湿が疑われるようになった.しかし,同セ ンターには砂丘地土壌の水分状態を測定する技術が不足しており,定量的な調査を行うには至ら なかった. そこで,同センターと鳥取大学農学部(水土環境保全学分野)で共同研究を遂行することとな った.平成23年度からは,鳥取大学地域貢献事業の1テーマとして,黒陥没障害の発生要因の特定 とそれに基づく適正な農地管理法の提案に取り組むこととなり,今日に至っている. 本年度は,これまでの調査に引き続き,黒陥没障害が多発している北条砂丘のナガイモ畑にお いて窒素施用量を変化させた栽培区を設定し,各区の土壌水分量,土壌の電気伝導度,灌漑水量, 降水量等の測定を実施し,発生要因の絞り込みを行った.また,土壌水と肥料成分の動態を詳細 に調べ,処理区毎でどのような違いが生じているかを検討した.さらに,砂丘農研センター内の 試験圃場において,灌水処理と施肥処理を施した試験区を設定し,水管理・窒素施肥量と黒陥没 障害発生との関係を調査した. なお,砂丘農研センターは肥培管理,灌水管理,ナガイモの生育調査,黒陥没障害の判別等の ナガイモの栽培に関する事項を担当し,土壌水分環境,微気象環境,散水分布調査等の物理環境 の計測を大学側が担当した.また,実験圃場の処理,ナガイモの植え付け,全量掘り取り等の作 業は,両者が協力して実施した. 2.黒陥没障害について 黒陥没障害とは,前述のとおりナガイモの毛穴部分が黒く変色する障害である.障害が重度の ものは変色部が大きく陥没する.障害発生の程度は Fig.1 に示すように黒陥没障害発生指数として 3 段階に分類される.障害の発生したナガイモは摂食しても無害であるが,外観を著しく損ねる ため出荷が制限され,ナガイモ農家の収益に悪影響を及ぼしている. この障害の発生要因については,これまでも砂丘農研センターを中心として,その原因究明が 計られているが,明確な結論は得られておらず,以下の見解が示されているだけである(猪迫ら, 2011); ①黒陥没障害の発生は以前から認められていたものの,問題にならない程度であった, ②2004 年度産の芋から多く発生がみられるようになった,
2 ③Rhizoctonia 属による根腐病が疑われたが,種芋消毒・土壌消毒による軽減効果がみられない ため,病害ではなく生理障害ではないかと思われる, ④発生時期は8~9 月頃(2007,2008 年度調査)で,黒陥没が発症した芋は地上部の枯れ上が りが通常(10 月中旬~下旬)に比べ早い, ⑤北条砂丘畑では2日に1 度,1時間の灌水があるため,土壌水分過多による呼吸障害,高温 時の灌水による高温障害が疑われる, ⑥2002 年から灌水パイプの更新が行われており,それに伴うスプリンクラーの散水圧力の上昇 から灌水量が多くなる傾向がある(ブドウでもその影響による障害がでている). 指数 1 指数 2 指数 3 Fig.1 黒陥没障害発生指数 以上のように,黒陥没障害は生理障害と考えられており,その要因として土壌水分の過湿が疑 われている. この状況に鑑み,本事業で共同研究を実施した結果,黒陥没障害が発生している圃場は根群域 での呼吸障害が生じるほどの過湿状態になることはなく,土壌水過多のみが原因とは考えにくい ことが明らかとなった.また,窒素施肥が本障害の発生に影響を及ぼしている可能性が示唆され た(猪迫ら,2014). 3.実験方法 本年度の実験は,Fig.2 に示した農家が管理している北条砂丘のナガイモ栽培圃場(北条砂丘圃 場)と砂丘農研センター内の実験圃場で実施した. Fig.2 実験圃場の様子 北条砂丘圃場 砂丘農研センター
3 3.1 北条砂丘圃場 Fig.3 に北条砂丘圃場の処理設計と測定概要を示した.本圃場では,15×14.4 m の区画を 2.4×5 m の 18 処理区に分割し 3 種類の窒素施用処理区を設定した.すなわち,慣行区,4・6 月 3 倍区,4・ 6・7 月 3 倍区である.4・6 月 3 倍区では 4 月と 6 月に慣行の 3 倍の追肥を実施し,4・6・7 月 3 倍区では,さらに 7 月にも慣行の 3 倍の追肥を実施した.各処理は 6 反復とした.なお,本圃場 では元肥と飛砂防止のために稲藁を施用している.各処理区には畝間 0.8m で 3 列の畝を立て,ナ ガイモの種イモを株間 0.27m で 1 列につき 56 株定植した.ナガイモの植付は 4 月 24 日,掘り取 りは 11 月 7 日に行った. 灌水は,スプリンクラーにより 4 月から 10 月 3 日までは間断日数 2 日で灌水時間は 1 時間,10 月 4 日以降は週に 2 回(月・木)45 分間行われた.計画灌水強度は 10 mm h-1である. 畝番号 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 14.4m
道路
:スプリンクラー :体積含水率鉛直分布測定地点 :体積含水率自動測定点 :電気伝導度自動計測地点 :雨量計 :気象観測装置 :慣行区 :4・6 月 3 倍区 :4・6・7 月 3 倍区 Fig.3 北条砂丘圃場の処理設計と測定概要 測定項目は体積含水率(θ),土壌の電気伝導度(ECb),降水量,日射量,純放射量,地中熱伝 達量,気温,相対湿度,風向風速,地温である.圃場内における土壌水分のばらつきを調べるた めに体積含水率の鉛直分布(深さ 10,20,30,40,60,100 cm)をマニュアル測定した.測定に はプロファイルプローブ(PR2/6,Delta-T 社)を使用した.測定期間は 2014 年 5 月 22 日から 10 ① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦ ⑧ ⑨ ⑩ ⑪ ⑫ ⑬ ⑭ ⑮ ⑯ ⑰ ⑱ 15m 北4 月 16 日で,測定頻度は原則として 1 週間に 1 度とした.全期間を通しての土壌水分の変化を捉え るために,時間領域反射法に基づく TDR センサー(CS615,Campbell 社)を用いて Fig.3 中の体 積含水率自動測定点で自記測定を行った.測定期間は 5 月 15 日から 10 月 22 日である.微気象観 測として全天日射量,純放射量,地中熱伝達量,気温,相対湿度,地温,風向風速を 5 月 15 日か ら 10 月 23 日に亘って計測した.ただし,地温の測定期間は 5 月 21 日から 10 月 23 日である.降 水量と灌水量の分離計測は不可能なため,両者を合わせて降水量として測定した.測定には雨量 計(Hobo rain, Onset 社)を用い, 小型データロガー(HOBO Pendant,Onset 社)に記録した.降 水量の測定期間は 5 月 19 日から 10 月 23 日である.
作物と肥料成分との関係を知るには土壌溶液の濃度情報が必要であり,そのためには土壌水の 電気伝導度(ECW)を把握すればよい.そこで,各処理区における肥料溶脱状況を把握するため
に ECWの計測を試みた.TDR センサー(CS630・CS635,Campbell 社)を圃場中央部の 3 処理 2
反復の計 6 区画の深さ 20,40 cm に設置した.TDR センサーが実測するのは土壌全体の電気伝導 度(バルク EC,ECb)と比誘電率である.ECb は ECw とθの影響を受けるため,ECb の測定の 際にθの情報を同時に得ることで ECb から ECWを定量できる.TDR センサーで測定できる比誘 電率とθとは関数関係にあるので,TDR センサーでθを実測できる.したがって,別途,TDR セ ンサーの校正曲線を決定することで,圃場の ECWを定量できる.計測期間は 5 月 21 日から 10 月 23 日である.TDR センサー(CS615,CS630,CS635)と微気象観測センサーの出力値はデータロ ガー(CR10X,Campbell 社)に自記した.なお,CS630,CS635 を用いた TDR 計測では,TDR100 (Campbell 社)を使用した. 3.2 砂丘地農業研究センター内実験圃場 砂丘農研センター内の実験圃場に 2.4×4 m の処理区を 12 区設置した(Fig.4).実験は 6 処理 2 反復で実施した.処理の内訳は,窒素施肥量で慣行施肥区と多肥区(4・6・7 月 3 倍区)の 2 処 理,水管理で無灌水区,慣行灌水区,多灌水区の 3 処理である. 1 回の灌水強度と灌水時間は, 慣行灌水区では 10 mm/h で 40 分,3 倍灌水区で 30 mm/h,120 分とした.なお,9 月 1 日以降は 3 倍灌水区も慣行灌水区と同量の灌水量とした.各区とも畝間 0.8 m で 3 本の畝を立て,株間 0.27 m で種イモを定植した.なお,本圃場では稲藁は使用していない.栽培期間は 4 月 28 日~11 月 21 日であり,点滴チューブを用いて 6 月 1 日から 10 月 20 日まで,週 3 回灌水した. センター内圃場の処理区間における土壌水分量と電気伝導度の変動特性を把握するために,比 誘電率,ECb および地温を同時に計測できる ECH2O プローブ(5TE,5TM,Decagon 社)を使用
した.Fig.4 に示した体積含水率・地温・電気伝導度測定地点(図中の◎)の深さ 10 cm に 5TE を, 深さ 30 cm に 5TM を地表面に水平となるよう挿入した.5TE は前述の 3 要素をすべて計測できる が,5TM は比誘電率と地温のみ計測する.したがって,本圃場の ECb は 10cm の深さの値となる. ECH2O プローブは静電容量法に基づいており,TDR センサーとは測定原理が異なる.しかし,土 壌の比誘電率を実測していることから同じ地点のθの情報が得られる.したがって,TDR センサ ーと同様の方法で ECw を決定できる.なお,測定の制御とデータの記録は専用データロガー(Em50, Decagon 社)で行った.ECH2O プローブによる計測期間は 5 月 21 日から 11 月 7 日である.
5 ◎:体積含水率,地温,電気伝導度測定地点 Fig.4 センター内圃場の処理 3.3 土壌特性 北条砂丘圃場と砂丘農研センター実験圃場の土性は いずれも砂土(北条砂丘砂)である.北条砂丘砂は鳥 取砂丘砂に比べやや粒径が粗いように思われるが,両 者に粒径組成的な相違は認められない.また,砂鉄の 含有量が多いため,鳥取砂丘砂と比較してやや暗色を 示す. 土粒子密度は 2.771 g/cm3,飽和透水係数は 2.08×10-2 cm/s であった.土壌の保水性を表す土壌水分特性曲線 を Fig.5 に示す.図より,圃場容水量は pF1.5 で 0.190, pF1.8 で 0.057 であり,わずかな吸引力の差で体積含水 率が大きく変化する.有効水分量は圃場容水量を pF1.8 とすればわずかに 0.031,pF1.5 とすれば 0.164 となる. 1 2 3 畝の列数 4 5 6 ①慣行灌水・慣行施肥 通 ②多灌水・多肥 ③慣行灌水・多肥 ④多灌水・慣行施肥 ⑤無灌水・慣行施肥 ⑥慣行灌水・多肥 ◎ ⑦無灌水・多肥 路 ⑧慣行灌水・慣行施肥 ◎ ⑨多灌水・慣行施肥 ◎ ⑩無灌水・多肥 ◎ ⑪多灌水・多肥 ◎ ⑫無灌水・慣行施肥 ◎ Fig.5 土壌水分特性曲線 0 0.2 0.4 100 101 102 103 104 吸 引圧 (cm ) 体積含水率
6 いずれにせよ農地としては極めて小さく,無灌漑での作物の正常生育は難しい土壌であると言え る. 4.結果と考察 4.1 北条砂丘地試験圃場 (1)圃場の各深さの水分分布 Fig.6 は,各深さの体積含水率の全期間平均値を用いて,圃場全体の深さ毎の体積含水率の分布 状況を表したものである.18 点のマニュアル測定結果からクリッキング法で水分分布を推定した. (a) 深さ 10 ㎝ (b)深さ 20 ㎝ (c) 深さ 30 ㎝ (d)深さ 40 ㎝ (e) 深さ 60 ㎝ (f)深さ 100 ㎝ Fig.6 北条砂丘圃場の各深さにおける体積含水率の分布
北
体積含水率7 図より深くなるほど体積含水率は大きくなり,圃場の北西部~中央部~南東部で体積含水率が 小さくなっている.このような水分分布を示す主要な理由は,スプリンクラーによる散水ムラに ある.しかし,Fig.5 の土壌水分特性曲線から判断して,最も湿潤な 100cm 深さにおいても圃場容 水量以下であり,本圃場のナガイモ根群域内が恒常的に過湿であったとは言えない.なお,深さ 100 cm の北東部分が特異的に小さな体積含水率をしてしているが,これはアクセスチューブの周 辺にギャップが形成されたためと思われる. (2)体積含水率の経時変化 処理区⑦~⑫における表層 30 cm の平均体積含水率を Fig.7 に示す.慣行区と 4・6・7 月 3 倍区 は 7 月半ばまではほぼ同じ値であるが,8 月からは 4・6・7 月 3 倍区の体積含水率が他の処理区 よりもやや大きくなっている.とりわけ,慣行区では 8 月以降,他区に比べて低い値で推移した. Fig.7 各処理区の表層 30 ㎝の平均体積含水率の経日変化 (3)地温の挙動 北条砂丘畑では飛砂防止も兼ねて2日間断で灌水が行われている.ローテーション灌漑が行わ れているため,日中の灌漑も行われる.地表面温度が高くなった状態で灌漑が行われると地表面 の熱によって土壌水が温められ,場合によっては高温の土壌水が根群域を浸透して高温障害をも たらすことがある.前述のように,高温障害も黒陥没障害の発生要因の1つとして疑われている. そこで,晴天日に実施された灌水時の地温を連続的に測定した. Fig.8 は 2014 年 7 月 29 日~8 月 1 日の全天日射強度,降雨強度(灌水強度を含む),深さ 20 cm と 40 cm 地点の体積含水率,深さ 2,5,10,20,30cm 地点の地温の経時変化を表している.灌水 は 7 月 30 日 12:00~13:00,8 月 1 日 13:00~14:00 に実施されている.図に示したように,7 月 29 日~8 月 1 日の日射強度は最大で 800W/m2に達しており,日射強度のグラフ形状からもほぼ 晴天日であったと判断できる. 7 月 29 日の雨量計は 9.8 mm,8 月 1 日は 6.3 mm を記録した.1回の計画灌水量は 10 mm であ るが,風向きの関係等で実際に地表面に到達している量には変動が生じていたと思われる.なお, Fig.8(b)では 2 時間にわたって灌水量がカウントされているが,これは雨量計の特性によるものと 推察される.本研究で使用した雨量計は転倒マス式雨量計であるが,1 回の転倒で 0.2 mm の雨量 を記録する.データによると 2~4 分間隔で転倒していることから,1 時間で 3~6 mm 程度の記録 150 200 250 300 0.00 0.05 0.10 0.15 W a te r co n te n t 5月15日 10月22日 Days 慣行区 4,6月3倍区 4,6,7月3倍区
8 となる.すなわち,スプリンクラーが停止した後も集水皿に貯留された水が 1 時間程度かけて転 倒マスに落水したことで 2 時間にわたっての記録になったものと思われる. 7 月 30 日の灌水開始後,深さ 20 ㎝の体積含水率が 0.1 から 0.13 に増加している.その後,時間 差があって,深さ 40 cm の体積含水率が 0.13 から 0.16 程度まで増加している.このことから,灌 漑水が土壌中を浸透していることが確認できる.この時の深さ 5 cm 以深の地温変動をみると,灌 水が行われなかった 7 月 29 日と比較して顕著な相違は認められない.すなわち,日中の灌水によ って熱せられた地表面を通過することで高温となった土壌水が下層に浸透して,ナガイモの生育 に影響を与えたとは言い難く,高温障害による黒陥没障害発生はないものと思われる. (4) 土壌中の肥料成分の動態 これまでの研究成果から,黒陥没障害の発生は窒素施用量と密接な関係があると推察されてい る.そこで,各処理区における窒素成分の動態について検討した.砂丘砂の保肥力は極めて小さ いことから,施肥成分以外は土壌中のイオン濃度に影響を及ぼさないと思われる.そこで,ここ Fig.8 7 月 29 日~8 月 1 日の日射,灌水,体積含水率と地温の変動
9 では土壌水の電気伝導度(ECW)を土壌水中の窒素濃度を表す指標として用いることとした. Fig.9~11 に 6 月 11~14 日,7 月 6~10 日,8 月 6~10 日の降水量と各処理区の深さ 20,40 cm における体積含水率と ECwの変化をそれぞれ示した.Fig.9 では 34mm の降雨が集中的に発生して いる場合であり,Fig.10 は水分供給がほとんど記録されておらず,連続干天状態にあるといえる. Fig.11 は降雨が断続的に発生する場合である. 各図とも降水量は 4 地点の平均値を示している.体積含水率の挙動からも明らかなように,降 水に応答する体積含水率の上昇幅は各処理区で異なっており,実際に土壌に侵入する水分量に相 違があったと判断できる.Fig.9 より,3 倍区の土壌水の ECWはほぼ 4 dS/m に達しており,急激 な体積含水率の増加によって ECWが急減する場合が多い.これは,地表面からの水分供給によっ て土壌水が希釈されたためと思われる.一方,慣行区では深さ 20 cm と 40 cm で ECWに深さによ る差はなく,ほぼ 1 dS/m で安定している.降雨の発生時において体積含水率が増加しても ECW は変化していない.体積含水率の変動傾向から土壌水は明らかに降下浸透していることから,表 層からの浸透水の ECW も 1dS/m 程度であったと考えられる.すなわち,慣行区には 1 dS/m 程度 の土壌水が恒常的に存在していたと言える. Fig.10 の体積含水率と ECWの変動傾向から,体積含水率の低下と共に ECWが上昇する傾向にあ ることがわかる.4・6 月 3 倍区では体積含水率が 0.1 を下回る 7 月 10 日には ECWは 6 dS/m にも 達している.深さ 20 cm と 40 cm における現象であるため,蒸発による濃縮とは考えにくい.散 布肥料は粒状の固形肥料であるが,肥料から窒素成分が溶解する速度に比し,ナガイモによる吸 水速度が大きいためと考えられるが,現段階では,体積含水率と ECWの変動のメカニズムは明ら かではない. Fig.11 は 8 月 6~10 日の測定結果である.4・6 月 3 倍区では断続的な降雨の発生によって土壌 水の濃度が希釈されて ECWは 2 dS/m 程度まで低下している.この区では 7 月以降は慣行区と同じ 施肥設計となっているためと思われる.一方,7 月にも 3 倍量の施肥を行った 4・6・7 月 3 倍区 では,断続的な降雨の発生に応じて体積含水率が高く維持されているにも関わらず,3~4 dS/m の ECWを維持していた.両区の差から,本圃場では多肥による土壌水中の窒素濃度の増加は 1 カ月 程度継続すると思われる. 以上のことから,①多肥区では慣行区に比べて常時高濃度の土壌水が存在し,慣行の 3 倍量の 供給で 4dS/m まで土壌水濃度が高くなる,②3 倍施用による土壌水濃度の増加は 1 カ月程度で低 下する,③土壌水の減少に応答して土壌水の濃度は上昇していくが,降雨による水分供給によっ て速やかに低下する,④土壌への水分供給量は処理区毎に異なる,ことが明らかとなった.
10 Fig.9 6 月 11~14 日の降水量,体積含水率,土壌水の電気伝導度の変化 ―:深さ 20 cm 地点,―:深さ 40 cm 地点 0 10 20 0 4 8 0 0.1 0.2 0.3 1620 163 164 165 166 4 8 0 0.1 0.2 0.30 4 8 0 0.1 0.2 0.3 Pre c (mm /h ) EC w (d S/ m) ⑦4,6,7月3倍区 W a te r co n te n t ⑦4,6,7月3倍区 EC w (d S/ m) ⑨4,6月3倍区 W a te r co n te n t ⑨4,6月3倍区 6月11日 6月15日 Calender days EC w (d S/ m) ⑧慣行区 W a te r co n te n t ⑧慣行区
11 Fig.10 7 月 6~10 日の降水量,体積含水率,土壌水の電気伝導度の変化 ―:深さ 20 cm 地点,―:深さ 40 cm 地点 0 10 20 0 4 8 0 0.1 0.2 0.3 1870 188 189 190 191 4 8 0 0.1 0.2 0.30 4 8 0 0.1 0.2 0.3 Pre c (mm/ h ) EC w (d S/ m) ⑦4,6,7月3倍区 W a te r co n te n t ⑦4,6,7月3倍区 EC w (d S/ m) ⑨4,6月3倍区 W a te r co n te n t ⑨4,6月3倍区 7月6日 7月10日 Calender days EC w (d S/ m) ⑧慣行区 W a te r co n te n t ⑧慣行区
12 Fig.11 8 月 6~10 日の降水量,体積含水率,土壌水の電気伝導度の変化 ―:深さ 20 cm 地点,―:深さ 40 cm 地点 0 10 20 0 4 8 0 0.1 0.2 0.3 2180 219 220 221 222 4 8 0 0.1 0.2 0.30 4 8 0 0.1 0.2 0.3 Pre c (mm/ h ) EC w (d S/ m) ⑦4,6,7月3倍区 W a te r co n te n t ⑦4,6,7月3倍区 EC w (d S/ m) ⑨4,6月3倍区 W a te r co n te n t ⑨4,6月3倍区 8月6日 8月10日 Calender days EC w (d S/ m) ⑧慣行区 W a te r co n te n t ⑧慣行区
13 (5)黒陥没障害の発生状況 北条砂丘圃場における黒陥没障害の発生状況を Fig.12 に示した.なお,黒陥没障害発生指数の 判定は掘り取り後に砂丘農研センターによって実施された.また,各処理区で発生した障害発生 指数の内訳を Table 1 に示す. 図より 3 倍施肥区が慣行区に比べて明らかに多くの黒陥没障害が発生している.各処理区の障 害発生の株数は,4・6 月 3 倍区が 22 株,4・6・7 月 3 倍区が 20 株,慣行区が 4 株と,3 倍量の 施肥処理を行った区と慣行区の差が明確に現れている.一方,3 倍施肥処理区は 4・6・7 月 3 倍 区の方が,施肥量が多いにもかかわらず発生株数はほとんど差がない.このことから施肥が黒陥 没障害の発生に影響を与えるのは,4~6 月の間の施肥ではないかと推察される. 3 倍施肥処理区同士を比較すると,4・6 月 3 倍区よりも 4・6・7 月 3 倍区はわずかだが指数 3 の割合が多い.3 倍施肥処理区間の施肥量の差は,障害の重篤さという形で表れていると考えら れる. 一方で,Fig.12 の中の処理区⑭と⑰はいずれも 4・6・7 月 3 倍区である.同じ窒素施用処理で あるにも関わらず黒陥没障害の発生量に明確な差が認められる.そこで,両区の深さ 30 cm まで の平均体積含水率を Fig.13 に示した.図より,黒陥没障害の発生量が多い⑭の土壌水分が湿潤状 態で推移していたことがわかる.このことより,黒陥没障害の発生は,湿潤状態と多肥状態が同 時に生じた場合に多くなると推察された. また,処理区⑦~⑫では施肥処理による差は明確ではなく,黒陥没障害はほとんど発生してい ないといえる.Fig.7 の測定結果と Fig.13 の結果を比較すると,7 月下旬までの処理区⑦~⑫の体 積含水率は処理区⑭と比較して小さく,それ以後はほぼ同程度の湿潤度といえる.このことから, 黒陥没障害の発生は 7 月までの土壌の湿潤度の影響が大きいと思われる.
14 Fig.12 北条砂丘圃場の黒陥没障害発生現況図 Table1 各黒陥没障害発生指数に該当する株数 処理区 指数1 指数2 指数3 合計株数 慣行区 2 0 2 4 4・6 月 3 倍区 3 6 13 22 4・6・7 月 3 倍区 4 0 16 20
↑ 北
3
2
1
0
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 慣行Ⅰ 4・6月3倍Ⅱ 3 4・6・7月3倍Ⅲ 慣行Ⅳ 3 4・6月3倍Ⅴ 4・6・7月3倍Ⅵ 1 3 2 2 1 1 3 3 3 3 3 3 3 4・6・7月3倍Ⅰ3 慣行Ⅱ 4・6月3倍Ⅲ 4・6・7月3倍Ⅳ 慣行Ⅴ 4・6月3倍Ⅵ 3 2 3 3 3 1 3 3 4・6月3倍Ⅰ 3 4・6・7月3倍Ⅱ 慣行Ⅲ 4・6月3倍Ⅳ 4・6・7月3倍Ⅴ 慣行Ⅵ 1 3 3 3 3 3 3 3 2 3 1 3 3 3 3 3 1 1 2 1 2 ① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦ ⑧ ⑨ ⑩ ⑪ ⑫ ⑬ ⑭ ⑮ ⑯ ⑰ ⑱ 障害発生指数15 Fig13 4・6・7 月 3 倍区の表層 30 ㎝における平均体積含水率の変化 4.2 鳥取県砂丘地農業研究センター内圃場 (1)体積含水率 前述した通り,砂丘農研センター内の圃場においても体積含水率と ECbの計測を実施したが, ECbについては検出限界に近いためか出力値が不安定であり,現段階では ECWへの変換は精度的 に難しい.そこで,ここでは体積含水率の挙動についてのみ言及する. Fig.17 に各処理区の深さ 10 cm と 30 cm の体積含水率の変化を示した.多肥・多灌水区の深さ 10cm の体積含水率は 0.05 から 0.15 の範囲で変動しているが,平均 0.1 を維持していた.深さ 30 cm では 0.15~0.2 の範囲で変動していた.Fig.5 の土壌水分特性曲線から多灌水処理では表層から深 さ 30 cm までの土層で圃場容水量を越える水分状態となっており,土壌は過湿状態で維持された ことがわかる.慣行灌水区の深さ 10 cm の体積含水率は 0.1~0.2 の範囲で変動していた.深さ 30 cm の体積含水率の変動幅は深さ 10 cm の変動の範囲に収まっており,深さ 30 cm の平均値は深さ 10 cm のそれにほぼ等しい.すなわち,慣行の灌水量では多灌水処理区に比べて深さ 30 cm の体積 含水率を高く維持するには至っていない.スプリンクラー灌水を行った北条砂丘圃場では各処理 区の水分状態にバラツキが発生していたが,点滴灌漑では設定通りの水分状態を保持できていた. 一方,無灌水条件下では 7 月の連続干天状態で深さ 10 cm において 0.05 まで低下しているが全体 的に適正な水分状態で保持されていたと言える. 135 150 165 180 195 210 225 240 255 270 285 0.00 0.05 0.10 0.15 ⑭4・6・7月3倍区 ⑰4・6・7月3倍区 体積 含 水率 5月15日 10月22日 Calender days
16 Fig.17 各処理区の体積含水率の変化 ―:深さ 20 cm 地点,―:深さ 40 cm 地点 (2)黒陥没の発生状況 2014 年度のセンター内圃場における黒陥没障害の発生状況を Fig.18 に示す.黒陥没障害発生指 数の判定は,砂丘農研センターが担当した.Table 2 に各処理区ごとの指数別障害発生株数をまと めた. センター内圃場においては,多肥料・多灌水区で最も多くの黒陥没障害の発生が認めら,その 発生株数 32 株は,全発生株数の 39.5%に相当する.多肥・慣行灌水区での発生率は 32.1%に達し ており,黒陥没障害の約 7 割が多肥・灌水区で発生した.一方,多肥区でも無灌水の場合は,僅 かに 1 株しか発生していない. 次に慣行施肥区に注目すると,多肥・慣行灌水区に次いで慣行施 肥・慣行灌水区での黒陥没障障害の発生株数が多かった.発生株数順では多灌水・慣行施肥区, 無灌水・慣行施肥区と続いていた. 以上の結果から,黒陥没障害は①主に灌水のある区で発生し,施肥量が多くても天水のみでは ほぼ発生しない,②灌水量と施肥量が多いと頻発するという 2 つに集約される. 0 0.1 0.2 0.3 0 0.1 0.2 0.3 0 0.1 0.2 0.3 0 0.1 0.2 0.3 0 0.1 0.2 0.3 150 200 250 300 0 0.1 0.2 0.3 多肥・多灌水区 慣行肥料・多灌水区 慣行施肥・無灌水区 W a te r co n te n t 多施・無灌水区 慣行施肥・慣行灌水区 多肥・慣行灌水区 Calender days 5月22日 11月7日
17 Fig.18 各処理区で発生した黒陥没障害
↑
東 3 2 1 0 1 2 3 4 5 6 1 2 3 4 5 6 1 2 2 2 2 2 2 2 1 3 1 2 4 1 1 5 2 2 6 1 1 7 2 8 1 1 1 9 10 1 11 12 1 13 14 1 15 1 16 1 17 1 18 1 19 20 21 2 22 23 1 1 24 2 25 1 26 1 2 1 27 2 28 2 29 30 1 31 1 32 33 1 34 1 35 2 1 36 2 37 2 38 39 1 40 1 41 2 42 1 1 43 1 1 44 1 45 2 46 47 1 48 49 50 1 51 52 53 54 1 55 56 1 57 1 58 59 2 60 1 1 61 2 62 63 64 65 66 1 67 68 69 70 71 1 72 73 74 75 76 1 1 77 78 1 2 79 1 80 1 81 2 82 1 83 2 84 2 1 85 2 1 86 1 87 1 88 1 1 1 無かん水 3倍施肥 多かん水 慣行施肥 多かん水 3倍施肥 慣行かん水 3倍施肥 慣行かん水 慣行施肥 無かん水 3倍施肥 無かん水 慣行施肥 慣行かん水 慣行施肥 多かん水 3倍施肥 慣行かん水 3倍施肥 多かん水 慣行施肥 無かん水 慣行施肥18 Table2 黒陥没障害発生指数と処理区の関係 処理区 指数1 指数2 指数3 合計株数 多肥・多灌水区 22 10 0 32 慣行施肥・多灌水区 6 2 0 8 多肥無灌水区 1 0 0 1 慣行施肥・無灌水区 0 0 0 0 多肥・慣行灌水 17 9 0 26 慣行施肥・慣行灌水 8 6 0 14 5.結論 本研究ではナガイモ黒陥没障害と施肥及び水管理との関係性を明らかにするために,黒陥没障 害が多発する北条砂丘地試験圃場と鳥取県砂丘地農業研究センター内の圃場に異なる施肥処理, 灌水処理を行う処理区を設け,土壌水分と土壌の電気伝導度を計測した. 北条砂丘地試験圃場では,土壌水分分布にムラが生じていることを確認した.また,深さ 20cm と 40cm の位置で土壌の電気伝導度を計測した結果,3 倍施肥区で土壌水の電気伝導度は 4 dS/m となっており,地表面からの水分供給によって希釈されることが分かった.また,多肥による影 響の継続時間は 1 カ月程度と思われた.慣行施肥区の ECWは 1 dS/m で安定しており,降雨の発生 による低減は認められなかった.3 倍施肥区の黒陥没障害の発生頻度は慣行区よりも明らかに大 きく,また,4・6 月 3 倍施肥区と 4・6・7 月 3 倍施肥区との間でほとんど差がなかったことから, 黒陥没障害の発生に影響を及ぼすのは 6 月までの窒素施肥にあると思われた.また,4・6・7 月 3 倍施肥区で黒陥没障害発生頻度が明らかに異なる 2 区画の表層 30 cm 体積含水率を比較したとこ ろ,黒陥没障害が多発している区で体積含水率が大きくなっていることが明らかとなった.これ らの処理区とほとんど黒陥没障害が発生しなかった 3 倍施肥区の体積含水率の経日変化を比較し たところ,7 月までの体積含水率が低い区では黒陥没障害がほとんど発生しなかった.これらの ことから,4~6 月までの多肥と土壌の湿潤が黒陥没障害の発生に極めて重要な意味を持つと思わ れる. 鳥取県砂丘地農業研究センター内圃場の実験結果から,黒陥没障害は灌水のある区で発生し, 施肥量が多くても天水のみではほぼ発生しないこと,必ずしも灌水量の多い区で多発するわけで はないことが明らかとなった. 以上の結果より,施肥量と水管理はともにナガイモ黒陥没障害の発生に深く関係しており,特 に,生育前半(4~7 月)が極めて重要であることが明らかとなった.今後はより具体的な発生条 件の特定と,現地圃場での黒陥没障害発生防止の方策を具体化していく必要がある. 引用文献 1)猪迫耕二,西﨑光,松田亮二,新田佳菜子,桑名久美子,齊藤忠臣,北条砂丘のナガイモ畑 における水管理と窒素溶脱,畑地農業,637,3-6(2011) 2)猪迫耕二・北山淑一・桑名久美子・齊藤忠臣,ナガイモ砂丘圃場の土壌水分・肥培管理と黒 陥没障害との関係性,平成 26 年度農業農村工学会大会講演会要旨集,440-441(2014)