≪ミカンの黄色≫
なぜミカンは黄色いのでしょうか?
それには、植物の色を作っている色素を調べる必要があります。花や葉、茎では、緑色がクロロフィル、赤 や青・紫はアントシアニン、黄や橙色はカロテノイドやフラボノイドという物質で色が作られています。 このうち、カロテノイドは、いつも葉の葉緑素であるクロロフィルと一緒にあって、秋に緑色のクロロフィ ルが分解されると、隠れていたカロテノイドが表に出るため、葉が黄色く色づいて見えます。 ミカンの果実にも、このカロテノイドや白っぽいフラボノイドが含まれています。ミカンを多く食べると手 のひらや足の裏が黄色くなるのは、カロテノイドの一種であるβ-クリプトキサンチンが、血液中の脂肪組織 に蓄えられるためです。 ミカンでは、主にβ-クリプトキサンチンというカロテノイドによって黄色く見えているのです。≪黄色いβ-クリプトキサンチンとビタミンA≫
では、この黄色いカロテノイドは、ヒトにとって何か影響があるのでしょうか。ミカンといえばビタミンC が浮かびますが、カロテノイドはビタミンではありません。しかし、カロテノイドの仲間でも、β-クリプト キサンチンと野菜に多いβ-カロテンは、ともにビタミンAに極めて近い存在とされています。 β-クリプトキサンチンやβ-カロテンは、通常、脂肪の 組織に蓄えられていますが、肝臓や小腸の粘膜中で酵素によ って分解されて、ビタミンAに変わります。このため、プロ ビタミンA、つまりビタミンAの前駆物質とも呼ばれヒトに 有用な成分でもあるのです。 ちなみに、ビタミンは物質の名前ではなく、機能で分類さ れた呼び名です。水に溶けやすいビタミンBやC、油に溶け やすいビタミンAやEなど 13 の種類がありますが、体内で 作れないため、もっぱら食べ物から取り入れています。≪ビタミンAの機能≫
ビタミンが物質名でなければ、ビタミンAの正体は何でしょう。それはレチノールという物質です。ビタミ ンAはレチノールとして、一日あたりの平均必要量や摂取推奨量が設定されていて、それにはプロビタミン・ カロテノイドも含まれています。 一般に、ビタミンAが不足すると、目の網膜上で視神経に伝 達する物質が不足し、暗がりでの視力低下が知られています。 ビタミンAが豊富な食べ物には、レバーやウナギ蒲焼などが ありますが、毎日食べるには、ビタミンAに変わるβ-カロテ ンやβ-クリプトキサンチンの多い野菜やミカンが向いてい るのではないでしょうか。 これらは、体内のビタミンAの過不足に合せてビタミンAに 変わるため、ビタミンAの過剰摂取のリスクが低く、摂取量の 上限値も設定されておりません。≪血液中のβ-クリプトキサンチン≫
β-クリプトキサンチンは、プロビタミンAの役割だけでなく、抗酸化能などヒトの健康に極めて重要な働 きをすることが明らかになってきました。中でも興味深いのは、日本人が欧米諸国にくらべ、血液中のβ-ク リプトキサンチン量が多く、それがミカンを食べることに起因しているという点です。 (独)果樹研究所の杉浦 実 氏によれば、血液中のβ-クリプトキサンチンは、ミカンを多く食べる人ほ ど高く、ミカンの無い夏場でも、冬場にしっかり食べた人ほど 体内に多く残るとしています。 さらに、カロテンやリコピンと比較して、体内に取り込む量 が少ない割に、血中濃度には大差ないことから、体に吸収され やすく、蓄積されやすいのではないかと推論しています。 この血液中のβ-クリプトキサンチンは、飲酒と喫煙が重な ると大きく低下するため、この 2 つの組合わせは、ヒトの酸化 ストレスを増大させ、β-クリプトキサンチンを消耗させると も指摘しています。≪β-クリプトキサンチンの有用性≫
β-クリプトキサンチンの有用性については、皮膚や大腸、肺がんの発症リスクを低減させる効果や、ヒト の骨形成促進効果など、その効用を示唆する報告が多く出されています。 とりわけ、ミカン産地の三ケ日町における疫学調査では、ミカンを食べる量に応じて血液中のβ-クリプト キサンチン濃度は高くなり、肝機能障害や動脈硬化、骨密度低下のリスクが軽減されていることを明らかにさ れています。さらに、動物実験では、血糖値の上昇を抑え、血管内皮障害が改善されるなどの効果も認められ ています。また、β-クリプトキサンチンによって免疫グロブリンの産生が促進された研究結果もあります。 また興味深いのは、鶏の飼料にみかん搾汁粕を添加すると、卵黄にβ-クリプトキサンが移行することや、 乳牛に摂取させると乳牛の血液中に移行が認められた報告など、家禽類でも研究が進んでいます。 現在、(独)果樹研究所では、金沢大学や愛媛大学、(株)えひめ飲料とともに、β-クリプトキサンチンの 有用性と作用メカニズムの解析、ヒト臨床試験や量産化の技術開発に取り組まれており、その成果が期待され ます。12~1 月
≪柑橘や野菜に多いカロテノイドの種類≫
カロテノイドは、β-カロテンやβ-クリプトキサンチンのほかに、果実や野菜の種類によって含まれる成 分が違います。矢野昌充氏は、β-クリプトキサンチンが多い果実に、ミカンやパパイヤ、ビワ、グァバ、ポ ンカンを挙げています。β-カロテン パパイヤ、ビワ、スモモ、グァバ、アセロラ、プル-ン、マンゴー β-クリプトキサンチン ミカン、パパイヤ、ビワ、グァバ、ポンカン カ リコペン パパイヤ、グレープフルーツ、グァバ、[トマト、ニンジン] ロ ゼアキサンチン パパイヤ、モモ(黄)、[ホウレンソウ、トウモロコシ] テ ルテイン アンズ、アボガド、ブドウ、オリーブ、クランベリー、スモモ、サクランボ、キウイ、 ノ [カボチャ、カリフラワー] イ α-カロテン [ニンジン、ピーマン]プロビタミンA活性はβ-カロテンの1/2 ド ビオラキサンチン [ブロッコリー、ホウレンソウ] カプサイシン [トウガラシ、パプリカ] 少し専門的になりますが、カロテノイドの合成ではフィトエンという物質から、リコペンが作られます。さ らにリコペンからは、二つの回路があって、α-カロテン、ルテインと進む道と、β-カロテン、β-クリプト キサチンやゼアキサンチン、ビオラキサンチンへと進む道があります。果実や野菜では、種類によって合成に 関わる酵素遺伝子の発現に差があり、生成されるカロテノイドに違いができると考えられています。
≪柑橘の種類≫
β-クリプトキサンチンは、ミカン以外の柑橘にも含まれるのでしょうか。実は、β-クリプトキサンチン を持った柑橘は、意外に多くあるのです。そこで、現在、栽培されている主な柑橘品種をご紹介します。ミカ ン、つまり温州みかんは、収穫される時期によって、極早生、早生、中生、普通に区分されます。10 月は日南 1号(極早生)、11 月は宮川早生(早生)、12 月は南柑 20 号(中生)、1 月は青島(普通)が中心になります。ミ カン以外の中晩柑では、下記の品種のほか、ポンカン、はるみなど多くの柑橘があり、愛媛県 HP の「愛媛か んきつ情報缶」でもご紹介しています。 (1)紅まどんな 年末年始の高級柑橘として登場しました。 ゼリー状の食感と、オレンジの風味と甘みが強く、 フルーツコンポに最適です。 愛媛だけで生産されています。 (2)はれひめ 年末年始に登場するオレンジの香りの強いミカン。 内皮も薄くて食べやすいうえ、ビタミンCも豊富。清 見とオセオラに交配したものに宮川早生を掛け合せた 品種です。愛媛が生産量 1 位です。 12~1月(3)甘 平 皮がむき易く、甘みの強い大きなミカンのようです。 扁平な外観と強い甘さから甘平と名づけました。栽培 が始まったばかりですが、味に高い評価を頂いていま す。西之香と不知火との交配。愛媛のみの生産です。 (4)せとか 果汁が豊富で、オレンジを更に甘くした果実です。 キレのよい甘さと柑橘の風味が強く、春の高級柑橘 として登場しています。清見とアンコールの交配にマ ーコットを掛けています。愛媛が生産量 1 位です。 (5)デコポン 品種名は不知火。 デコポンは熊本果実連の商標登録名です。清見とポ ンカンを掛け合せた品種。凸がポンと飛び出した外観 が特徴。愛媛の生産量は 2 位です。 (6)伊予柑 3 月まで貯蔵した弥生紅(やよいべに)は味が濃厚で す。皮は砂糖煮して伊予柑ピールになります。強い柑 橘の香りと、豊富な果汁、酸と甘味のバランスの良い 品種。愛媛が生産量 1 位です。 (7)清見 宮川早生とトロビタオレンジの交配で生まれた品種。 かんきつ類が少なくなる春に、みかんの甘さとオレン ジの香りを届けます。 愛媛が生産量 1 位です。 (8)カラ 初夏に登場するミカン。ほかにカラから生まれた南 津海という品種もあります。 カリフォルニア生まれ。コクのある甘酸っぱさが初 夏に最適です。愛媛が生産量 1 位です。 2~4月 2~3月 5~6月 3~5月
2月
3月
≪柑橘の種類とβ-クリプトキサンチン≫
ミカンには、およそ 1~1.5mg/100g のβ-クリプトキサンチンが含まれますが、最近、育成された「せとか」 や「甘平」、「はれひめ」などの中晩柑も、多くのβ-クリプトキサンチンを含んでいます。さらに 4 月以降の 「カラ」や「清見」も、量的に遜色のない品種です。これは、最近の品種育成に、「清見」を使うケースが多 く、「清見」の持つβ―クリプトキサンチン合成遺伝子が子孫に伝えられたおかげかもしれません。 海外のグレープフルーツやバレンシアオレンジには、ほとんど無いか、有ってもごく微量なだけに、柑橘の 端境期といわれる初夏にも有望品種が揃い、β-クリプトキサンチンを含んだ柑橘を、年間を通して提供でき るのです。 愛媛県農林水産研究所では、こうした品種の違いや栽培の仕方で、果肉の色に差があり、β-クリプトキサ ンチンの量にも差があることから、果実の外から光をあてて含有量を調べる技術を検討しています。 また、ミカンのβ-クリプトキサンチンは、10 月頃から増え始め、長く樹上にならせておくほど増加します。 ただ、その伸びは次第に鈍るため、果実の成熟とβ-クリプトキサンチンの合成に関わる酵素に関係があるの かもしれません。β-クリプトキサンチンの合成には 4 つの酵素が関係し、分解には 2 つの酵素が関係すると 言われます。一般に、ミカンの系統では合成酵素の働きが強く、分解酵素は弱いのに対し、オレンジの系統で は、その逆のようです。 今後は、こうしたカロテノイド合成に関する酵素遺伝子に注目した育種や栽培技術の開発により、高い機能 性を持った果実を作り出すことが期待されます。実際、2.5mg/100g のβ-クリプトキサンチンを持つ品種も生 まれており、マルチ栽培で含量が高まることも分かってきました。≪果皮のβ-クリプトキサンチンと食品加工≫
伊予柑では、果皮のβ-クリプトキサンチンが果肉の約 5 倍含まれています。この果皮と果肉の含有量の違 いは、品種によっても違うようです。果皮には、ポリフェノ-ルや香り成分であるリモネンなども多く、病気 や虫などから種子を守るうえで、別の機能があるようです。 愛媛県農林水産研究所では、伊予柑などの果皮に多いβ-クリプトキサンチンやビタミンCを活かすため、 現在、伊予柑の粉末化に取り組んでいます。 伊予柑果皮のチップ 伊予柑果皮のチップ(細) 伊予柑果皮の粉末 果実の成分変化を出来るだけ抑えた粉末化には、凍結乾燥が望ましいのですが、コストを考えると、低温通 風乾燥で支障はないと考えています。伊予柑の果皮粉末は、果肉にあるβ-クリプトキサンチンの実に 23 倍 と多く、柑橘特有の香りや黄色い色素も保持されます。またビタミンCは、同じ粉末でも果皮が果肉の約 2 倍 と多く、ビタミンCの活性は-20℃の冷凍保存により、8 か月は低下しません。現在、食品企業の方々の協力 のもとに、ケーキやパン、麵類、和菓子などへの利用を検討しています。参考資料
矢野昌充・生駒吉識・杉浦 実(2005):Bull. Natl. Inst. Fruit Tree Sci.4:13-28
矢野昌充・杉浦 実(2001):ウンシュウミカンの摂取量と生活習慣病,園学雑誌,70(別 1),173 杉浦 実 ほか(2008):果実の生体調節機能と他の食素材との組み合わせ効果の解明,農林水産省農林水産技術会議事務局, 研究成果 446 食品の安全性及び機能性に関する総合研究,312-318 生駒吉織・松本 充ほか:カンキツ果実に含有されるβ-クリプトキサンチンの貯蔵・流通中の挙動解明と高含有化のための 貯蔵技術の開発,農林水産省農林水産技術会議事務局,研究成果 446(2008・1)食品の安全性及び機能性に関する総 合研究,431-434 佐々木健二ほか(2007):大粒温州ミカンジュ-ス粕給与によるβ-クリプトキサンチンを多く含む鶏卵の生産,関東・東海・ 北陸農業・畜産・草地研究センタ-研究成果情報 石々川英樹・清水 篤・芝 章二(2011):フィトケミカルのデータベースの構築,愛媛県試験成績概要書,22 年度,325-326 杉浦 実・松本光・矢野昌光(2002):果樹研究成果情報,13 年度,43-48,(独)農業・食品産業技術総合研究機構・果樹研 究所 加藤雅也・生駒吉識ら(2005):果樹研究成果情報,15 年度,37-38,(独)農業・食品産業技術総合研究機構・果樹研究所 杉浦 実・小川一紀 (2005):果樹研究成果情報,16 年度,53-54,(2006):果樹研究成果情報,17 年度,33-34,(独)農 業・食品産業技術総合研究機構・果樹研究所 杉浦 実・中村美詠子ら(2007):果樹研究成果情報,18 年度,9-10,57-58,(2008):果樹研究成果情報,19 年度,37-38,(2009): 果樹研究成果情報,20 年度,19-20,(独)農業・食品産業技術総合研究機構・果樹研究所 松本 光・生駒吉識ら (2010):果樹研究成果情報,21 年度,23-24,37-38(2010):果樹研究成果情報,21 年度,27-28,(独) 農業・食品産業技術総合研究機構・果樹研究所