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要点は, アンサンブル予報が提供する予報のばらつき ( 標本 ) から予報誤差共分散 ( 母集団 ) を求めて, 近似的にカルマンフィルタを適用することであり, 誤差の空間相関を陽に扱うことが可能である. そこで本研究では, 最新のデータ同化手法であるアンサンブルカルマンフィルタを用いたドップラーレ

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水工学論文集,第52巻,2008年2月

アンサンブルカルマンフィルタを用いた

ドップラーレーダー情報の4次元同化設計

A DESIGN OF FOUR DIMENSIONAL DATA ASSIMILATION

OF DOPPLER RADAR DATA USING AN ENSEMBLE KALMAN FILTER

山口弘誠

1

・中北英一

2

Kosei YAMAGUCHI and Eiichi NAKAKITA

1学生会員 工修 京都大学大学院 工学研究科(〒615-8530 京都府京都市西京区京都大学桂) 2正会員 工博 京都大学教授 防災研究所(〒611-0011 京都府宇治市五ヶ庄)

A Doppler radar data assimilation system based on an ensemble Kalman filter (EnKF) method is developed. The system employs a meso-scale hydrostatic model, which includes the conceptual model of the efficiency of the water vapor conversion. A case of the rainfall occurred in Kinki region in 2003 is chosen as an application. Radial velocity and reflectivity observed by Miyama Doppler radar and Jogamori conventional radar are assimilated. The rainfall predicted by our developed system is compared with the prediction results of the four dimensional variational method (4D-VAR) and those of the conditional Kalman filter method. It is demonstrated that our system has equal accuracy to the 4D-VAR method. Also by the comparison of the EnKF method and the conditional Kalman filter method, it is made clear that the spatial correlation in error cannot be ignored.

Key Words : rainfall prediction, Doppler radar, data assimilation, ensemble Kalman filter

1. 緒言 豪雨や台風等のメソスケールの異常気象は,地球上で の気流や流水による災害(流体災害)を引き起こす自然 外力であり,流域・海域の環境に大きなインパクトを与 える.生活圏に災害をもたらす気象現象の大半は,水平 スケールで 2 kmから 2000 km,時間スケールで数十分 から数時間ないし数日程度のメソスケールの現象である. わずか1時間先程度の予測であれば,気象レーダーによ る雨域の連続観測から推定した移動速度を時間的に外挿 する運動学的手法によって比較的高い精度の予測が可能 である.しかしながら,水工学の分野においては,防災 の観点からダム操作や河川・下水道の排水処理などの実 務に求められるリードタイムは数時間先から半日先であ り,力学,物理学に基づく数値気象モデルによる予測が 必要不可欠である.近年,モデルの開発に関する研究の 主流は,計算機資源の向上によって非静力学モデルへの 移行や高分解能化となっている一方で,気象学の分野に おいては,気象レーダーや衛星などの観測情報のデータ 同化に関心がおかれている. データ同化とは,時間的・空間的に限られたデータ (観測情報)から,モデル(理論)を満足する初期条件, 境界条件,あるいはモデルに含まれる係数,を求めるこ とである.その目的の一つは,データ同化によって推定 された真の状態と考えられる値(解析値)をモデルの初 期値として将来予測をすることであり,予測精度を上げ るためにも効果的なデータ同化が期待されている. さて,データ同化の設計においては,(ⅰ)同化手法, (ⅱ)同化する観測情報,(ⅲ)同化されるモデル変数,の 選択が重要となる.降雨予測に関連する同化研究として, Nakakita et al.1)は,(ⅰ)4次元変分法を用いて(ⅱ)ドップ ラー風速を(ⅲ)風速場・気圧場・温位場へ同化し,さら に(ⅰ)カルマンフィルタを用いて(ⅱ)レーダー反射因子 を(ⅲ)雨水混合比・大気の不安定場パラメータへ同化し, 3時間先の降雨予測精度を向上させた.ただし,カルマ ンフィルタを用いた際に,「降雨場の誤差の空間相関を 無視する」という非現実的な条件を仮定していた.さら に,4次元変分法を構成するアジョイントモデルの構築 には多大な労力を必要とするために,実用化の面で困難 であった.一方で海外へ視点を向けると,カルマンフィ ルタを大気力学系のような多次元系へ適用するといった 目的から,Evensen2)によってアンサンブルカルマンフィ

ルタ手法が提唱され,さらにWhitaker and Hamill3)によっ

て,解析誤差共分散を求める手法を改良した逐次アンサ ンブル平方根フィルタ(Serial Ensebmle Square Root Filter)が開発された.アンサンブルカルマンフィルタの

(2)

サンブルカルマンフィルタを用いたドップラーレーダー 情報の同化手法の開発を第一の目的とする.さらに, Nakakita et al.1)の条件付きのカルマンフィルタと比較し, 降雨場の誤差の空間相関の影響を調べる.また,実用的 に広く利用されている4次元変分法と比較し,アンサン ブルカルマンフィルタの課題と将来性について検討する. 2.様々な同化手法 (1) アンサンブルカルマンフィルタ(EnKF) アンサンブル予報とカルマンフィルタを融合させた同 化手法である.カルマンフィルタは誤差の時間発展を予 報するデータ同化手法であり,そこにアンサンブル予報 が提供する予報のばらつきの情報を利用することが最大 の特徴である.最適解(解析値) a x は,アンサンブル 予報の平均値 f x と観測値 o y の重みつき平均(重み K)で与えられる.

(

)

a f o f i = i + i ii x x K y Hx (1) ここで,添字iは時間のタイムステップ,添字 a ,fo はそれぞれ,解析,予報,観測を表す.また,Hは モデル予報変数から観測値に相当する量に変換する観測 演算子である.予報値と観測値の最適な重みKを求め ることがアンサンブルカルマンフィルタの解析プロセス であり,次式によって求まる.

(

)

(

(

)

)

1 f f f f i i i i i − = T T+ K E HE HE HE R (2) ここで, f E は予報誤差共分散の平方根,Rは観測誤差 共分散であり,添字Tは転置を表す. また,予報誤差共分散 f P の予報式は次式で表される.

( ) ( )

1

(

1

)

f a a i = ii− + i T P M E M E Q (3) ここで, a E は解析誤差共分散, Q はモデルと真の時間 発展の誤差であるランダム誤差(ガウス分布を仮定)の 共分散,M

( )

は予報モデルである.つまり,

( )

a M E はアンサンブル予報を意味している. 次に,解析誤差共分散を作り出すプロセスであるアン サンブルアップデートについて述べる.その手法は,摂 動観測法(例えば,Evensen2)やHoutekamer and Mitchell4)

など)と平方根フィルタ法(例えば,Tippett5)など)の

2 種に分類され,本研究ではWhitaker and Hamill3)が開発 した逐次アンサンブル平方根フィルタを用いた.平方根 フィルタ法を用いた場合,厳密にはアンサンブルカルマ ンフィルタとは呼ばないが,ここでは広義の意味でアン 1 1 i f i i − ⎛ ⎞ ′ = +⎜ + ⎝ TR K K HP H R (5) (1)-(5)式で表されるプロセスにより解析値のアンサン ブルが推定され,次の同化時刻までのアンサンブル予報 がなされ,再び解析値のアンサンブルが推定され…,を 繰り返していくことで,最適な予報値と観測値の重み K を探索していく.詳細については,三好6),Tippett5)な どを参照していただきたい. (2) 誤差の空間相関を無視したカルマンフィルタ(KF) カルマンフィルタを直接,多次元の大気力学系に適用 することはできない.それは予報誤差共分散の次元が大 きくなり,少なく見積もっても 100 GB程度のメモリが 必要となり,計算機資源の観点から不可能であるからで ある.そこで,Nakakita et al.1)は誤差の空間相関を無視 すると仮定し,誤差共分散行列の対角成分のみを取り扱 うことでメモリの問題を回避した.ただし,現実的には 相関関係は存在するため,本研究ではアンサンブルカル マンフィルタを導入する.誤差の空間相関が予測にどの 程度影響するのかについては 5 章で検討する. (3) 4次元変分法(4D-VAR) 4次元変分法は,第一推定値の確率密度関数と,任意 の観測値を数値モデルによって時間発展させた確率密度 関数の両方から導かれる推定値の確率密度関数を最大に する最尤推定値から解析値を得る手法である.気象学の 分野では, 1980 年代から適用され始め(例えば, Leweis and Derber7)など),現在では実用的に最も利用さ れている手法の一つである. Nakakita et al. 1)を例にとると,(6)式で表される評価関 数Jを(7)式の制約条件のもとで最小化することで最適 解が求まる.

( )

(

)

(

)

( )

(

)

(

( )

)

1 0 0 0 0 1 0 2 1 2 b b w N o o J B H τ τ R H τ τ τ α − = = − − +

− − T T x x x x x x y x y (6)

( )

1 M t τ+ = τ + τ ∆ x x x (7) ここで, x はモデルの予報変数,y は観測値,Bは背景 誤差共分散,Rは観測誤差共分散,M は予報モデル, H は観測演算子,添字 b , o はそれぞれ第一推定値, 観測を,添字τ = ⋅⋅⋅0, , N は同化期間内のタイムステッ プを表す.また,α は観測情報に対する事前情報の重w みであり,赤池ベイジアン情報量基準で求める.

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01:30 02:30 03:30 04:30 図-1 計算領域とレーダー探知範囲. 図-2 高度3.5kmにおける観測降雨強度. (4)アンサンブルカルマンフィルタと4次元変分法の関係 両手法とも解を得る方法こそ異なるが,同化のタイム ウィンドウを長くとると,求まる解は同等である.ただ し,4次元変分法は統計的に求めた背景誤差共分散を用 いるのに対し,アンサンブルカルマンフィルタはモデル の時間発展式を通し,流れに依存した予報誤差共分散を 用いる点が異なる.この意味するところは,もしもモデ ルが不完全である場合,不完全な予報誤差の情報ではな く統計的な誤差の情報を用いる4次元変分法が有利であ るが,逆にモデルが完全もしくは完全に近い場合,アン サンブルカルマンフィルタが有利であると言われている (例えば,Yang et al.8)なCaya et al.9)など).

計算機資源の観点から見ると,4次元変分法は同化期 間内の繰り返し収束計算が必要であり,一方,アンサン ブルカルマンフィルタはアンサンブルメンバーの数だけ の複数ランが必要であり,計算機コストは共に大きい. ただし,仮に予報モデルを変更したときに,アジョイン トモデルの再構築を必要とする4次元変分法に対して, アンサンブルカルマンフィルタはフォワードモデルのみ を用いるので,扱いやすさの点で大きく優れている. 3.予測モデルと解析事例 (1) 降雨の概念モデルと用いた降雨予測手法 予報モデルとして,Nakakita et al.10)の開発した降雨の 概念モデルを用いた降雨予測手法を採用した.運動量保 存式,連続式,熱エネルギー保存式,水蒸気質量保存式, 雨水質量保存式,および水蒸気から雨水への相変化量を 予測する「降雨の概念モデル」から構成される.このモ デルの特色である降雨の概念モデルでは,雨域は降雨の 生成しやすい状態にあると考え,そこには「不安定場」 という一種の気象擾乱の場が存在し,この擾乱は雨域の 移動に合わせて伝播(移流)すると考える.不安定場は レーダー情報と総観場のスケール間のギャップとして, 次式で定義される.

(

)

(

)

0 1 s , if 0 d Q m Q dt −α = −ρ ≥ (8) ここで,α は不安定場パラメータ( , , ,x y z t の関数), Qは水蒸気相変化量,ρ は大気の密度,0 msは飽和混合 比をそれぞれ表す.Q<0の場合は,水蒸気から雨水へ の変換は起こらないものとする. 予報モデルで考慮する力学は鉛直方向に静水圧平衡を 仮定した静力学モデルであり,鉛直方向風速の加速度を 考慮しないため上昇速度の表現には限界がある.ただし, 上述した降雨の概念モデルと併用する手法は,実用面で の有利性が示されており(例えば,sugimoto et al.11) ど),同化の効果を検証するための基礎としてこの予測 手法を用いた. (2) 解析事例 近畿地方で前線に伴う降雨のあった 2003 年 8 月 14 日 01:00(世界標準時(UTC))から 01:30 の 30 分間 を同化期間,そして同化終了時刻である 01:30 を予測 初期時刻として 04:30 までの 3 時間先予測を実施した. 図-1に計算領域,および同化する観測情報として用いた 深山レーダーと城ヶ森レーダーの最大探知範囲(半径 192 kmの円)を示す.計算領域は,東西に 234 km,南 北に 351 km,水平格子間隔は 9 km,鉛直方向には大気 下層を比較的密に設定し,計 20 層とした.観測情報と して,深山レーダーで観測されたレーダー反射因子 (Z)とドップラー風速(dpv),城ヶ森レーダーで観測 されたレーダー反射因子(Z)のそれぞれ3次元観測情報 を用いた.Zに関して,両レーダーとも観測値が得られ る領域では算術平均した値を用いた.また,実際には仰 角ごとに観測時間が若干異なるが,同化の際には7.5分 ごとに一度に観測したものとして使用した. 図-2にレーダーで観測された高度 3.5 kmにおける降 雨分布を示す.01:30 に兵庫県南部で強い降水域が存在 し,その降水システムは徐々に弱まりながら 03:30 に かけて京都府北部へ北東進し,04:30 にはほぼ消滅して いる.また,03:30 頃に兵庫県南部で別の降水システム が発生し,04:30 には強い降水システムに発達している. 4.同化の設計 50 30 20 15 10 5 2 1 [mm/h]

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ンサンブルメンバーを作成した.同化開始時刻である 01:00 の 12 時間前から 1 時間ごとに予測開始時刻を ずらして 01:00 まで予測した 12 個の結果を集めてア ンサンブル予報の初期摂動とした.アンサンブルメン バーのサンプル数がいくつ必要なのかについて理論的な 解は存在しないが,caya et al.9)によると,本研究よりも モデル格子数が約 10 倍多い事例についてのサンプル数 について検討しており,25 個では分散の大きいサンプ ルに影響されるが,100 個にするとサンプリングエラー の影響は少ないとしている.本研究では,格子数が少な いことを考慮し 12 個と 24 個の 2 種類で同化したが, ほぼ同様の結果が得られたため,5 章で述べる全ての ケースにおいてサンプル数を 12 個とした.ただし,時 間ずらし法で作成したアンサンブルメンバーはサンプル 同士の相関が高くなる場合があり今後検討が必要である. (2) 局所化 数時間の気象シミュレーションが対象のとき,遠く離 れた地点には誤差の空間相関がないと考えて良く,離れ た点でのサンプリングエラーを小さくするために局所化 を行う.ここでは,ガウス関数を5次で近似した関数を サンプル値に掛けることで,離れた点の相関を小さくし た.相関長さに関して,水平方向には 50 km離れた点で 誤差相関がもとの 50 %となるように,鉛直方向にはσ 座標で 3 格子離れた点で誤差相関がもとの 50 %となる ようにそれぞれ設定した. (3) 共分散膨張 大気力学のような非線形系にカルマンフィルタを適用 すると,誤差共分散が小さくなりすぎて観測情報の重み を過小評価してしまう.原因は,線形理論を非線形系に 適用したことやサンプリングエラーによる予報誤差共分 散の見積り誤差などであり,それらを(3)式におけるモデ ルのランダム誤差共分散Q として扱い,ここではQ の 各共分散値を(3)式右辺第 1 項の 7 %と設定した. (4) 同化の設計 どの観測値からどの予報変数を修正すべきか,といっ た同化の設計も一つの研究対象であり,本研究では,そ の第一歩として,ドップラー風速を同化する場合,風速 場はその支配方程式である運動量保存式から温位および 気圧の関数であるため,同化される予報変数を風速,温 位,気圧とした.これの意味するところは,温位や気圧 の拘束条件のもと風速を修正するということである.同 様に,レーダー反射因子を同化する場合も,雨水の質量 (1) アンサンブルカルマンフィルタを用いた予測 アンサンブルカルマンフィルタによる同化の効果を検 証するため,同化しない場合と比較する.図-3にアンサ ンブルカルマンフィルタ(以降,EnKF)によって同化 した場合,図-4に同化しない場合のそれぞれの予測降雨 強度と風速を示す.同化の効果があることを確認できる が,必要以上に観測値により近く修正されている可能性 がある.その原因の一つとして,レーダー反射因子を同 化する際に,本研究では線形の観測演算子を用いたこと によると考えた.つまり,本来は雨水混合比とレーダー 反射因子は非線形の関係にあり,そこに観測の不確実性 が含まれるからである.ただし,この事例ではモデルの 予報誤差が観測誤差よりかなり大きく,もともと観測値 に重みがおかれる事例であることも確かである. さて,1,2 時間先予測を見ると,観測では京都府北 部まで北東進していた降水システムに対して,同化なし の場合は日本海まで移動しているのに対し,EnKFは観 測に近い移動である.同化終了時刻の風速を見てもその 差異は明確に現れており,EnKFでは南西風が抑制され ている.同様に強度に関して,同化なしの場合は過大に 予測されていたのに比べて,EnKFでは比較的降雨の発 達が抑制された.ただし,それでも観測値と比較すると 過大であり,これは用いたモデルの予測限界であると考 えられる.用いた降雨の概念モデルでは降水過程だけで なく変動する風速場の効果も表現するため,モデルの風 速場と二重の効果となってしまったためである.加えて, ドップラー速度とレーダー反射因子を別々に同化したこ とによる二重の効果も考えられ,検討が必要である. (2)アンサンブルカルマンフィルタと4次元変分法の比較 2章3節で述べた4次元変分法を基本としたNakakita et al.1)によって開発された同化手法と比較する.ただし, Nakakita et al.1)は同化の効果を簡単に検証するため,雨 水混合比は観測値から既知であるとし,ドップラー風速 のみを同化しており,ここではEnKFも同様の条件とし た.EnKFと4次元変分法の同化終了時刻および 2 時間 先予測の結果をそれぞれ図-5,図-6に示す. 同化終了時刻においての風速を比較すると,計算領域 南西部の風速に差があるものの,図-4の同化なしの場合 と比較すると大きな差にあらず,同様の同化効果が得ら れている.ドップラー風速のみを同化したにもかかわら ず,同化終了時刻の降雨強度に相違が見られる.これは, 4次元変分法の逆解析モデルに降雨の概念モデルを加え なかったためであり,風の収束場が変化し降雨強度に変

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50 30 20 15 10 5 2 1 [mm/h] 同化終了時刻 1時間先 2時間先 3時間先 同化終了時刻 図-3 アンサンブルカルマンフィルタによって同化した場合の予測降雨強度(左図)および同化終了時刻の風速(右図). 50 30 20 15 10 5 2 1 [mm/h] 同化終了時刻 1時間先 2時間先 3時間先 同化終了時刻 図-4 同化しない場合の予測降雨強度(左図)および同化終了時刻の風速(右図). 同化終了時刻 2時間先 同化終了時刻 [mm/hr] 図-5 EnKFでドップラー風速のみを同化した場合の予測降雨 強度(左図)および風速(右図). 同化終了時刻 2時間先 同化終了時刻 [mm/hr] 図-6 4次元変分法でドップラー風速のみを同化した場合の 予測降雨強度(左図)および風速(右図). 化が起こったと考えられる. 2 時間先の降雨強度予測において,強度に若干の差は あるものの降雨域はほぼ同じであり,本事例において, 50 30 20 15 10 5 2 1 [mm/h] 同化終了時刻 2時間先 図-7 同化期間を1時間とした場合の予測降雨強度 EnKFは4次元変分法とほぼ等しい効果が得られた.ただ し,EnKFでは初期アンサンブル摂動の作成法,4次元変 分法では背景誤差共分散の作成法によって結果が大きく 変わるため,優劣をつけるわけではない. (3) 同化期間の影響 本研究では,ここまで同化期間を 30 分間とし,レー ダー観測値が得られる 7.5 分間ごとに計 4 回の同化サ イクルを実施した.ここに図示しないが,7.5 分ごとに その結果を見ると,時間を追うごとに第一予報値から 徐々に観測値に近づいていることがわかった.そこで, 同化開始時刻を 30 分間早めて同化期間を 1 時間に設 定し,比較した.同化期間を 1 時間とした予測結果を 図-7に示す.30 分間の同化期間であった図-3と比較し ながら同化終了時刻の降雨強度を見ると,1 時間同化し た方がわずかではあるがさらに観測値に近づいているこ とがわかる.観測降雨が無かった兵庫県北部においてよ

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図-8 同化終了時刻におけるEnKFとKFの降雨強度の差.EnKF-KF. く修正されていることがわかるが,それでも最も強い降 雨域である兵庫県南部域では差は見られない.2 時間先 の予測結果を見ると,日本海域で予測されていた降雨が 無くなっているものの,最も強い降雨域である兵庫県中 央部においては,1 時間同化した場合の方がやや強く予 測されている.これらを総合的にみて,1時間の同化し た方がパフォーマンスが良いものの,30 分という同化 期間でフィルタリングに必要な予報誤差共分散をある程 度求めることができた事例であったと考える. (4) 誤差の空間相関の影響 4 章 2 節で述べた,誤差の空間相関の影響がどの程 度であるかを検討する.誤差の空間相関を無視した 4 章 2 節のKFと無視しない 4 章 1 節のEnKFを比較す る.また,簡単のためここではレーダー反射因子のみを 同化した.同化終了時刻における降雨強度を図-8に示す と,ほとんど違いが無いように見えるが,最大で 3.5mm/hの差があり,ドップラー風速のみを同化せずに この相違が得られたことは大きいと考える.誤差の空間 相関を無視する手法が現象を大きくはずしているわけで はないが,予測リードタイムが長くなると誤差の空間相 関を適切に評価した予測,すなわちEnKFが必要である. 6.まとめ 短時間降雨予測において,従来の同化手法であった4 次元変分法との比較,および誤差の空間相関を無視した 問題を解決するといった観点から,最新のデータ同化手 法であるアンサンブルカルマンフィルタを適用し,将来 性を検討した.主な成果は以下の通りである. (ⅰ)同化手法にかかわらず,ドップラー風速を同化す ることで風速場が変化し,風の収束域や降雨域に影響を 与えた.同様に,レーダー反射因子を同化することで雨 水量が変化し,降雨強度に影響を与えた.その結果,同 化しない場合と比べて,予測精度が向上した. (ⅱ)降雨の概念モデルを用いた降雨予測手法において, アンサンブルカルマンフィルタを適用し,初期誤差摂動 の作成,局所化,共分散膨張に関する効果的なパラメー (ⅳ)誤差の空間相関の影響は無視できない. 謝辞:本研究で使用した深山,城ヶ森レーダー情報は, 国土交通省近畿地方整備局淀川ダム統合管理事務所より 研究用としてご提供頂きました.感謝申し上げます. 参考文献

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