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1 ─はじめに
う蝕などにより喪失した歯質や歯は,各種の材料を用いて修復され,機能や審美 性が回復される.口腔内は常に湿潤状態であり,咀嚼により繰り返し負荷がかかる ため,口腔内で長期間安全に修復物を機能させるためにはさまざまな性質が求めら れる.使用目的に応じた修復物があり,用いる素材も多岐にわたっている.
これらの素材として金属材料,無機材料,有機材料がある.これらの材料の違い を理解するためには物質の構造を知ることが必要である.
1.物質の構造
あらゆる物質は原子からできている.この原子は陽子と中性子からなる原子核と その周りにある電子から成り立っている(図Ⅰ-2-1).原子の種類は陽子の数で決 められているため,同じ原子でも中性子の数が異なるものが存在する.また,原子 の性質は電子の数で異なっており,電子の数で元素を分類したものが周期表であ る.原子同士が集まったものが分子であり,分子の集まり方によりさまざまな物質 ができる.原子同士の集まり方には,電気的な引き合いによるイオン結合,電子を
到 達 目 標
2 章 歯科材料の基礎知識
❶歯科材料の素材を説明できる.
❷金属材料の一般的特徴を説明できる.
❸無機材料の一般的特徴を説明できる.
❹有機材料の一般的特徴を説明できる.
❺口腔内と口腔外で使用する歯科材料の性質を説明できる.
❻歯科材料の所要性質を説明できる.
❼歯科材料の評価について説明できる.
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111歯歯歯歯歯歯歯歯歯歯歯
1.用 途
スケーリング,ルートプレーニング終了後の口腔内に残ったバイオフィルムなど 微細な残留物やステインの除去,スケーラーの使用で粗糙になった歯の表面を滑沢 にして,プラークやステインの再沈着を予防する目的で使用する.また,歯面研磨 材に含有されるフッ化物などの薬用効果も期待する.
2.種 類
形状は,ペーストとジェルがあり,使用時に口腔内で飛散するのを防ぐ.
研磨粒子は細かいものから粗いものまで,さまざまな大きさがある.粗さ指標で あるRDAで区分し,応用されるもの(図Ⅱ-1-2)や粗研磨用と仕上げ研磨用として 使い分けて使用するものがある(図Ⅱ-1-3).バイオフィルム状のプラーク除去に おいては,研磨材の粒子が中程度(RDA120程度)のものを使用した場合,細粒の 研磨材(RDA40程度)で仕上げを行う.プラークの厚みや付着物の性状によって各 種ペーストを使い分ける(表Ⅱ-1-1).
RDA
Relative Dentin Abrasivity の 略 で 象 牙質摩耗比を示しま す.
図Ⅱ-1-1 歯面研磨の様子 図Ⅱ-1-2 RDAを表示した歯面研磨材 の数値が粒子の粗さを示している.
① ② ③ ④ ⑤ ⑥
図Ⅱ-1-3 各種歯面研磨材
①細粒,②粗粒,③微細粒,④粗研磨用,⑤仕上げ用,⑥ステイ ン除去から仕上げまで
Ⅱ編 歯科材料の種類と特性
2 ─印象材の種類と用途
印象材の名称はその主成分に基づいている.これら印象材は硬化後の弾性変形の 大きさ,硬化反応,硬化前の流動性などによって分類されている.
1.硬化した印象材の弾性変形量による分類
(表Ⅱ-2-1)弾性変化の大きな印象材は,弾性印象材とよばれ,アンダーカットのある有歯顎 の印象に用いられる(p.57参照).一方,弾性変化の小さな印象材は,非弾性印象材 とよばれ,アンダーカットの少ない無歯顎の印象や咬合採得に用いられる.
弾性印象材はさらに,ハイドロコロイド印象材とゴム質印象材に分類される.成 分が水の中にコロイドの状態(水の中に分散している状態)で含まれているものを ハイドロコロイド印象材,水分を含まずゴムのような性質を示すものをゴム質印象 材という.
アンダーカット
「くぼみ」や「くびれ」,
「引 張 り の 下」の 部 分を指します.歯や 顎堤の場合は最大豊 隆部よりも下方の陥 凹した部分です.
図Ⅱ-2-1 上顎の印象採得をしているところ 印象材
トレー
図Ⅱ-2-2 アルジネート印象材を外したところ 印象(陰型)
図Ⅱ-2-3 石膏を注入しているところ 石膏
スパチュラ
バイブレーター 模型材
図Ⅱ-2-4 石膏模型
模型(陽型)
印象(陰型)
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Ⅱ編 歯科材料の種類と特性
液がないか注意しながら,練和時間内(約30〜60秒)で均一なセメント泥でいを練り上 げ,稠ちょう度どを確認する(図Ⅱ-4-3).
(3)装着・使用後
操作時間内(約2〜3分)で装着を完了するように材料の受け渡しを行い,硬化時 間(約3〜4分)をタイマーなどで確認する.余剰セメントの除去は軟らかいうちに すみやかに行う.使用した器材(セメント容器,計量スプーン,スパチュラなど)
はアルコール綿花などで清拭後,保管場所に戻す.
セメントの保管・管理は直射日光,高温多湿を避けて室温(1〜30℃)で保管し,
定期的に使用期限の確認を行う.
2.従来型グラスアイオノマーセメント
(図Ⅱ-4-4)ポリカルボキシレートセメントと同様に練和直後のpH(酸性度)が中性に近いた め,装着時に歯髄刺激が少ない.機械的性質も優れているため,合着材としては最 図Ⅱ-4-3 ポリカルボキシレートセメントの練和
図Ⅱ-4-2 ポリカルボキシレートセメントの粉末と液の計量
図Ⅱ-4-4 従来型グラスアイオノマーセメント
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Ⅱ編 歯科材料の種類と特性
3 ─成形修復材の組成と特徴
1.コンポジットレジン
1)組 成
(1)モノマー
コンポジットレジンではフィラーをモノマーが硬化したポリマーであるレジンで 固めるため,このモノマーのことをマトリックスレジン(基質レジン)もしくはべー スレジン(レジン基材)という.マトリックスレジンには多官能性モノマーのジメ タクリレート〔メタクリロイルオキシ基(CH2=C(CH3)-CO-O-基)を1つの分子 内に2つもつモノマー〕であるBis-GMA,UDMAが主に用いられている.このモ ノマーだけでは粘性が高く水飴のように,使用しにくい.そこで粘性を下げるため に低分子で流動性のよい多官能性モノマーであるTEGDMAを加えたものが多い
(図Ⅱ-5-12).これらのモノマーは義歯床などに使用するMMAと比較すると,硬 化時の重合収縮が小さく,室温では揮発しない.多官能性モノマーであるため硬化 体は熱硬化性樹脂であり,溶媒などに溶けない.多官能性モノマーの重合は酸素が あると十分に重合しないことがあるため,表面をマトリックスストリップスで覆っ て酸素を遮断したり,硬化後の表面を研磨して未硬化層を除去する必要がある.
(2)フィラー
フィラーとは「詰めるもの」を意味し,コンポジットレジンではシリカ(酸化ケイ 素,SiO2)を主成分とするガラス粉末が物性を改善するために用いられる.フィ ラーの含有量を多くすることで,機械的性質が向上し,熱膨張係数を小さくし,重 合収縮を減少させることができる.フィラー含有量は60〜90重量%と製品により 異なっている.含まれるフィラーの大きさによりコンポジットレジンを分類するこ とがある.レジンとガラス粉末の物性は大きく異なっているのでガラス粉末が大き いと研磨しても表面があれてしまうため,超微粒子シリカであるコロイダルシリカ を含む製品が多い.また,バリウム,ジルコニウム,ストロンチウムなどをガラス 粉末に含有させることでエックス線造影性が付与されている.
(3)フィラーの表面処理
モノマーが重合したマトリックスレジンとフィラーはそのままでは結合しない.
そのため,口腔内で長期間使用するとマトリックスレジンからフィラーが脱落して コンポジットレジンの物性が低下し,表面が粗糙になる.そこで,フィラーとマト リックスレジンを化学的に結合できるようにフィラーを表面処理(シラン処理,シ ランカップリング)している.シラン処理にはシランカップリング剤(シラン処理 剤)が用いられる.代表的なシランカップリング剤のジメチルトリメトキシシラン
(γ-MPTS)を図Ⅱ-5-13に示す.γ-MPTSの分子鎖の一端のメトキシ基(CH3O-)
が加水分解されシラノール基(-SiOH)になり,フィラー表面のシラノール基とシ ロキサン結合(Si-O-Si)する.また,反対側のメタクリロイルオキシ基が重合時に
メタクリロイルオキ シ基
メタクリロイルオキ シ基とは,一般式で は CH2= C(CH3) -CO-O- で, 二 重 結合であるビニル基 を 1 つ 有 し て い ま す.重合性を有して いる官能基です.末 端 に CH3が つ い た ものがメチルメタク リレートです.
フィラーの含有量 フィラー含有量は重 量で表すことが多い です.原子量が大き いZr,Sr,Baなどの 原子を含むフィラー では密度が大きくな り,実際に含まれる フィラーの量は少な くなります.そのた め,コンポジットレ ジンの物性を考える にはフィラーの体積 含有量で比較するこ とが必要です.
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Ⅱ編 歯科材料の種類と特性
5 ─仮着用セメントの種類と性質
1.ユージノール系
酸化亜鉛ユージノールセメントとよばれ,酸化亜鉛とユージノールを練和して使 用される.粉末・液での構成が基本であるが,操作性の向上の点から,2ペースト で供給される仮着用セメントが多い.
ユージノールは歯髄鎮静作用があることから生活歯に使用されることが多い.一 方でユージノールがレジンの重合阻害作用があることから常温重合レジンを使用し た暫間修復物には使用しない.また,歯肉に対する刺激作用があるので,暫間修復 物が歯肉縁下に及ぶ場合には確実な除去が求められる.
2.非ユージノール系
(図Ⅱ-7-12)ユージノールセメントの性質を残して,ユージノールをほかの油性成分に変えた セメントである.ユージノールを含まないので,レジンの重合阻害はなく,歯肉へ の刺激性も低い.2ペーストで採取・練和は容易である.
3.カルボキシレート系
(図Ⅱ-7-13)ポリカルボキシレートセメントとよばれ,粉末の酸化亜鉛とポリカルボン酸水溶 液を練和して使用する.歯髄刺激が少ないが,歯質に接着傾向があるので確実な除 去には注意を要する.歯質強化作用や抗菌作用が期待されるHY剤(タンニン・
フッ化物合剤)を粉末に含むものもある.
図Ⅱ-7-12 非ユージノール系の仮着用 セメント