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光学顕微鏡法によるアスベスト分析の現状と課題

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(1)

光学顕微鏡法によるアスベスト分析の 現状と課題

元 兵庫県健康環境科学研究センター

小坂 浩

(2)

(大気環境中アスベスト濃度測定における)

PCM 法の精度向上のために検討すべき事項

・除去工事現場測定の場合は、処理される「素 材」を事前に把握する

・電子顕微鏡の活用( PCM 法とのデータの比較)

・偏光顕微鏡の活用

・定期的なクロスチェックによる機関内・機関間 の精度管理

・新しい分析者のトレーニングプログラムの確立

(3)

電子顕微鏡による計数ルール

TEM

ISO 13794

(間接法)、

ISO 10312

(直接法)

「すべてのアスベスト繊維」、「長さ:>

5

μ

m

」、「

PCM

等価アス ベスト繊維(径は

0.2

μ

m

<d<

3

μ

m)

NIOSH 7402

NIOSH7400(PCM)

と同じルール(長さ:>

5

μ

m

AR

:>

3

1

で径は>

0.25

μ

m(NIOSH7400

では径の上限はない)

SEM

ISO 14966

PCM

等価アスベスト繊維(長さ:>

5

μ

m

AR

:>

3

1

、径:

0.2

μ

m

<d<

3

μ

m

(4)

クロスチェックについて

目的或いは効果

・①分析機関内(分析者複数の場合)、②分析機関間、

③国際的、の

3

つの精度管理。

これまでのクロスチェックの問題点

・繊維濃度の真値がわからない。→全体の平均値或 いは中央値を基準に評価していた。

・同じスライドを使っても視野を再現出来なかった。→

視野の違いによるデータのばらつき

・アスベスト標準試料によるスライドの作製(実大気の サンプルではなく、妨害繊維がない。)

(5)

繊維密度が PCM 計数値に及ぼす影響

フィルター上の繊維密度が計数値に及ぼす影響を検証。熟練 分析者に様々な密度のサンプルを計数させたところ

1)

高密度サンプル(>

2000

本/

mm 2

)では過小評価(多数 の繊維の妨害による)

2)

低密度サンプル(<

100

本/

mm 2

)では過大評価(背景の 模様を繊維と誤判定して)

作業環境サンプリングでは繊維密度が

100

1000

本/

mm 2

なるように採気量を調節することを提案。

100

本/

mm 2

とは;グレイティクルの

300

μ

m

の円内に 繊維が

7

本存在する状態。

Cherrie, et al; Am.Ind.Hyg.Assoc.J., 47, pp465-474, 1986

(6)

透明化処理による繊維の移動の検証( 1 )

粉じん面を下向きにして透明化した場合(アモサイト)

SEM

×

1500

(透明化前) 位相差像 ×

400

(透明化後)

透明化前後で繊維の位置に変化がないことがわかる

(7)

透明化処理による繊維の移動の検証( 2 )

粉じん面を下向きにして透明化した場合(アモサイト)

SEM

×

500

(透明化前) 位相差像 ×

400

(透明化後)

粉じん面を下向きにした透明化では繊維は移動しなかったが、粉じん面を上向 きにして透明化した場合繊維が元の位置から移動することが確認された。

(8)

SEMPCM との計数値比較の一例

(

単位:本/

L)

SEM

>0.5 μ m >0.1 μ m PCM

解体現場クリソタイル

79.2 175.7 9.4

解体現場アモサイト

169.9 284.6 254.3

解体現場クロシドライト

48.4 126.1 151.0

標準クリソタイル

141.1 2170.1 486.6

標準アモサイト

218.1 677.9 457.8

標準クロシドライト

5.4 60.8 118.0

上記の

6

種類のサンプルのフィルターをそれぞれ

SEM

用・

PCM

用に分け て計数した。

SEM

PCM

で同一の場所を計数したデータではない。

(9)

分散染色法の原理

白 色 光

入射光と物質の面が直角にな る場所では光は直進し分散は 生じない。

波長 屈折率

屈折率の波長依存性

浸液の屈折率(n2

屈折率のマッチングポイント 粒子の屈折率(n1

545nm

(緑)

・粒子は浸液に浸されていて、粒子と浸液の屈折率が右図の 関係にある場合を例にとって説明する。

・マッチングポイント(n

1

=n

2

)より短波長側ではn

2

>n

1

、長波長 側ではn

1

>n

2

だから波長に応じて下図のような屈折が起こる。

・この例では緑の光は対物レンズのマスクで遮られ観察者には赤 と青の光が届くが加法混色により粒子の色はマゼンダを呈する。

・粒子の色合いはマッチングポイントの波長に依存する(光の3原 色について例を示した加法混色の図を参照)。

n

1 ・n2 の差が大きいことと、可視光線の波長 域内にマッチングポイントがあることがきれ いな発色を得るための必要条件。

粒子(n1 浸液(

n

2

(10)

加法混色

(光の

3

原色での例。分散染色法ではカットされる波長が連 続スペクトルの一部なので混色はもっと複雑になる。)

分散染色法では、マッチングポイントの波長の光は直進する。位相差顕微鏡の場合 対物レンズの前焦点面にセットされたリング状のコンデンサ絞りを通った入射光(直 進光)は絞りの像(リング状)を後ろ焦点面に結像する。その結像位置にマスクを重 ね合わせると直進光は遮られる(この方式をセントラル・ストップと呼ぶ)。遮られる光 の波長(=マッチングポイントの波長)によって粒子の色は上図のように変化する。

(11)

分散染色法は大気サンプルに応用出来るか?

サンプル作製法

(1)

吸引ビン中でクリソタイルを発じんさせフィルターに捕集

フィルターをスライド上で透明化後低温灰化

(2)

アスベストを水分散させフィルターにろ過

フィルターをスライド上で透明化後低温灰化

(3)

アスベストを水分散させ懸濁液を一滴スライド上に滴下して 乾燥させる

(12)

空気分散クリソタイル

位相差像 ×

400

低温灰化後浸液なしで観察。

左の視野の分散染色像

位相差像中央のクリソタイルが発色しな い。(矢印の粒子はそれぞれ位相差像 の矢印の粒子に対応)

(13)

水分散クリソタイル(ろ過後低温灰化)

位相差像 ×

100

低温灰化後浸液なしで観察。高密度の クリソタイル。左右の繊維が黒く見える のは光が透過していないため。

左の視野の分散染色像

x100

位相差像で黒く見える左右の太い繊維が 発色。高密度の細い繊維は発色しない。

(14)

水分散アモサイト(スライド上で乾燥)

位相差像 ×

100

左の視野の分散染色像

x100

位相差像中の繊維のうちの数本だけ が発色。

(15)

クリソタイル

SEM

像(試料を

80

°傾斜)

クリソタイルを分散させた懸濁液をカバーグラス上で乾燥

細い繊維は下地に密着しているが、太い繊維は、例えば矢印の部分のように、下地から浮き 上がっていることがわかる。

(16)

SEM 像と位相差像との対比

100

μ

m

SEM 像 位相差像 X100

SEM

像を撮影後、フィルターを透明化し

PCM

SEM

像の繊維を探す。

分散染色用浸液を滴下する前の観察

(17)

分散染色像 全体(細い繊維は発色しない)

(18)

分散染色像 前図の 内の拡大

位相差像 X400 分散染色像

位相差像中の細い繊維は発色しない。

(19)

SEM 像と位相差像との対比

(アモサイト その 1

50

μ

m

SEM

位相差像

X400

分散染色用浸液を滴下前の観察

(20)

分散染色像(アモサイト その 1 )

分散染色用浸液の屈折率:

1.69

位相差像 ×

400

分散染色像、アナライザ抜き

位相差像の一部の繊維しか発色しない。色合い は繊維中の光の振動方向(2方向)別の分散色 が「加法混色」によって混合した色になっている。

(21)

分散染色像(アモサイト その 1 )

(アナライザ使用。色合いの変化は繊維が複屈折性を持つことを示す)

アナライザを矢印の方向に合わせた。ア モサイトの屈折率は

n

n

で、黄色の発 色はマッチングポイントが青の波長域で あることを示す。

アナライザを矢印の方向に合わせた。繊 維と浸液との屈折率のマッチングポイント が長波長側になり、赤や緑の光がカットさ れるので青が勝る色合いになる。

n

n

(22)

SEM 像と位相差像との対比

(アモサイト その 2

50

μ

m

SEM

位相差像

X400

分散染色用浸液滴下前の観察

(23)

分散染色像(アモサイト その 2 )

位相差像 ×

400

分散染色像 アナライザ使用

位相差像で確認出来る繊維の一部し か発色しない。

(24)

アスベスト繊維が発色しない理由

スライドガラスと繊維の密着状態が影響すると考 えられる。

観察結果との整合性:

バルクサンプルは発色する←繊維は浸液に浸され た状態

密着したクリソタイルは発色しない。非常に太い繊維 は一部または全部がガラス面から浮いており、発色 する。

針状のアモサイトは密着しない繊維があり、一部の 繊維は発色する。

(25)

PCM :その限界と適用範囲

限界:「分解能」、「形態観察のみ」

利点:「簡便・迅速」(

on-site

分析も可)、「低価格」、「リ スク評価の基礎データ」

PCM

の適用範囲:

繊維径の分布が極端に 細いものに偏っていなけ れば飛散監視等に使え るのではないか?

(26)

漏えいクロシドライトの繊維サイズ

計測した繊維数:

281

本、径が>

1

μ

m

の繊維数:

20

本(

7

%)

0 20 40 60 80 100 120

≦5 5< 

≦10 10< ≦1

5 15< ≦2

0 20< ≦2

5 25< ≦30

30<

 ≦35 35<

 ≦40 40< 

≦45 45< 

≦50 50< ≦55

55< ≦6 0

60< 繊維長:μm

本数

0 10 20 30 40 50 60

≦3 3<  ≦5

5< 

 ≦ 6 6<  ≦

7 7<

  ≦8 8< 

 ≦ 9 9<

  ≦ 10 10< ≦

20 20< アスペクト比

本数

L≦5μm 5<L≦10μm 10<L≦20μm L>20μm

0 1 2 3 4 5 6

5< ≦ 10

10<

≦20

20<

≦30

30<

≦40

40<

≦50

50<繊維長:μm

本数

径が

1

μ

m

超の繊維の長さ別分布

(≦5μm:12%) (≦5μm:12%)

(27)

観察対象物質によって使い分けが必要な対物レンズ

対象物質と媒質との位相差の程度に応じて位相差顕微鏡のレンズは使い分けられる。位 相板で直接光の吸収率を上げるとコントラストは強くなるが背景は暗くなり物体の縁の光 のにじみ(ハロー)も強くなる。コントラストの強さは

DM(medium)

DL(low)

DLL(low

low)

の順。我が国ではアスベスト分析には

DLL

または

DL

レンズが使われている。

(28)

PCM 対物レンズの違いによるコントラストの差

クリソタイル

DLL レンズ DM レンズ

(29)

アスベスト繊維の計数ルール

「繊維」の定義の由来

英国のアスベスト企業が設立した

Asbestosis Research

Council

が作業環境測定データの統一のために幾何学

的定義を定める

(1958)

。アスペクト比「>

3

1

」に科学的 根拠はない。

幾何学的定義の適用範囲

作業環境測定に適用する合理的根拠はある。

アスベストの存在が不明な条件下での適用はどうか?

一般環境、解体工事現場、室内環境、産廃処理施設周辺、溶 融処理後の無害化確認

etc

(30)

アスベストと非アスベストの分別計数

WHO の気中濃度測定法 (1997)

PLM

・電顕を使った分別計数を認める。(計数は熟練 分析者が行なうことという但し書き付き)

英国の MDHS 87

PCM

による繊維数計数」と「

PLM

・蛍光顕微鏡・電顕 を使ったアスベスト繊維の分別」の組み合わせ

米国 ASTMDiscriminatory Counting

PCM

TEM

による段階的分析法

(31)

アスベストとへき開粒子

柱状

(prismatic)

針状

(acicular)

アスベスト

(asbestiform)

トレモライトの

3

種の形態

(32)

アモサイトの断面( SEM 像)

単繊維(

fibril

)が

at random

な向きで束(

bundle

)になっている。この構造が「へき 開粒子」との光学的特性の違いを生じさせる。

(33)

アスベストとへき開粒子の 分別に有効な偏光顕微鏡

アスベストは直消光

アスベスト

-

トレモライトの消光角

(34)

へき開トレモライト

(単結晶)

偏光顕微鏡像

X400

(35)

偏光顕微鏡による多色性( Pleocroism )の観察

クロシドライトとアモサイトの判別が可能

クロシドライト

対角位を右上がりから左上がりに変 えると繊維の色合いが黄→ dark blue になる

アモサイト

どちらの対角位(矢印)になっても繊

維の色合いは黄色で変わらない

(36)

海外での光学顕微鏡法の精度管理

英国: PCM 法・アスベスト分別計数法・含有率 分析について認証機関が実施

米国: PCM 法・含有率分析について AIHA 及び NIST が実施。ニューヨーク州は含有率 分析について独自に実施。

フランス・ベルギー・スペインでも精度管理を実

施。

(37)

Relocatable Slide と「合意基準」

Pang

が視野を正確に再現出来るスライドを開発。

Am.Ind.Hyg.Assoc.J., 61, pp529-538(2000)

・ Harper 等は、多くの分析機関の合意によって各視野の繊維数を決定し

その値を「合意基準」とすることを提案。

Am.Ind.Hyg.Assoc.J., 64, pp283-287(2003)

アモサイトのRelocatable

Slide

。円の直径は

100

μ

m

顕微鏡下でWalton-Beckett グレイティクルと一致する。

(38)

グレイティクルの比較

改良の余地がある我が国のグレイティクル。目盛りが計数の邪魔にならないか?

欧米で使われている

Walton-Beckett

グレイティクル(

100

μ

m

φ)

我が国で普及しているグレイティクル

100

μ

m

φと

300

μ

m

φを有する)

(39)

クロスチェック成績評価シートの一例

Relocatable Slide

を使った

NIOSH-AIHA

のクロスチェック試 験プロジェクトで使われている)

SCORE = 100 ー[ 100 ( # total discrepancies / # verified fibers )]。

正解値( )と報告値( )の差はわずか

7

でこの分析者の精度はよさそうだが、数え過ぎ

D+

)と見落とし(|

D-

|)の総和でスコアを出すと

50

点以下で計数精度は悪い。総繊維数だ けの比較では個人の精度を正しく評価出来ない。

PROFICIENCY EVALUATION OF PCM FIBRE COUNTING Round 1

SLIDE NUMBER ANALYST NAME

# OF "VERIFIED" FIBRES = 112 NORMALISED D+ 0.219

# OF FIBRES REPORTED (RF) = 105 NORMALISED D- -0.290

# OF DISCREPANCIES = 60 SUM OF NORMALISED D+ + | D-| 0.509

NORMALISED RF 0.929

SCORE = 46.43 ****

D I S C R E P A N C I E S

************************************************

VERIFIED REPORTED POSITIVE NEGATIVE TOTAL

FIELD GRID # FIELD ID FIBRES FIBRES DISCREPANCIES DISCREPANCIES DISCREPANCIES

VF RF RF -VF D+ D- D+ + | D-|

NUMBER

#1 1 F-1 1.5 3 1.5 1.5 - 1.5

#2 1 F-2 0.5 5 4.5 4.5 - 4.5

#3 1 F-3 1 1 0 - - 0

#4 1 F-4 1 1 0 - - 0

#5 1 F-5 3.5 4 0.5 0.5 - 0.5

#6 1 F-6 2.5 0.5 -2 - -2 2

#7 1 F-7 2.5 2.5 0 - - 0

#8 1 F-8 1 2 1 1 - 1

#9 1 F-9 4 1 -3 - -3 3

#10 1 F-10 2.5 2.5 0 - - 0

(40)

クロスチェック結果の国際比較( 2006 年)

(仮に

Score60

点以上を

proficient

(熟練者)とする)

・カナダ

アモサイト・スライド:

46

名中

6

名が

60

点以下

13

%)

クリソタイル・スライド:

50

名中

12

名が

60

点以下

24

%)

日本(約 30 の公的研究機関、約 60 名参加)

アモサイト・スライド:

58

名中

5

名が

60

点以下

8.6

%)

クリソタイル・スライド:

56

名中

38

名が

60

点以下

67.9

%)

アモサイトに比べるとクリソタイルは日・加どちらの国の分析者も成 績が悪く計数が難しいことがわかる。

(41)

まとめ

1. 光学顕微鏡法の簡便性・迅速性はアスベスト 分析に有効である。

2.PCM の限界を補う他の手法を組み合わせた 重層的分析手法が開発され発展しつつある。

3.PLM は「へき開粒子」や「角閃石粒子(ホルン ブレンド等)」とアスベストを分別出来る。

4. 電顕の活用法(光顕との使い分け・光顕の補 完等)の検討が必要である。

5. 光顕法には精度管理システムの確立が必須

である。(系統誤差の最小化)

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