九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
Micromechanisms of Failure in Thermoplastic- Based Composites
高橋, 清
九州大学応用力学研究所 : 教授
崔, 洛三
九州大学応用力学研究所 : 助手
http://hdl.handle.net/2324/4744008
出版情報:應用力學研究所所報. 78, pp.233-244, 1995-10. Research Institute for Applied Mechanics, Kyushu University
バージョン:
権利関係:
熱可塑性高分子基複合材料の微視的損傷機構
高 橋 清 * 崖 洛 =
t概 要
本論文は,これまでに筆者らの研究室でなされた熱可塑性高分子材料の微視的な損傷の発生 過程に関する研究を概観したものである.これらの研究で最も重要と考えられる点は,研究さ れたほとんどすべてのポリマーについて,表面で観察される損傷機構と表面から10ないし数 lOμm内部に入ったところでみられるそれとは著しい違いが見られることである.供試材はガ ラス短繊維強化(SGFR)のもので,そのマトリックスポリマーは次の通りである:ポリエチレ ンテレフタレート (PET),ハイインパクトポリスチレン (HIPS),ポリアミド 6 (PA 6), ポリカーボネート (PC),ポリシアノアリルエーテル (PCAE),ポリプロピレン (PP),ポリ エーテルエーテルケトン (PEEK)
1.
序
言短繊維強化熱可塑性高分子基複合材料(SFRTP)は生産性やコストパフォマンスが良く,現在最も広 く用いられている複合材料の一つである.従ってこの材料の破壊挙動についてはこれまでに数多くの研 究が内外でなされている1)‑3).破壊に先立って,樹脂や,繊維と樹脂との間の界面でクレイジングおよび マイクロクラッキングあるいはシアーバンドの形成ならびに繊維の破断と引抜きなどが起こると報告さ れている.しかしながらこれらの研究では試験片の表面や破断面の観察が主になっている.
本研究では試験片の薄片化の技術を用いて,典型的なSFRTPの一つであるポリエチレンテレフタレ ート (PET)基複合材をはじめ種々のSFRTPの表面部と内部においての微視的な損傷過程を調べた.
その結果,試験片の内部で発生する損傷は表面での損傷と異なる場合があり,この場合には表面で観察 される見かけ上の損傷ではなく内部での損傷の進展が最終破壊に重要な役割を演じていることが分かっ た.ここでは筆者らがこれまで行ってきた研究の結果をまとめた.
*九州大学教授,応用力学研究所 t九州大学助手,応用力学研究所
(現在漢陽大学校助教授)
234 高橋・崖
2.
実 験
2.1
SFRTP試験片と試験法
実験材料にはガラス短繊維強化ポリエチレンテレフタレート (SGF‑PET)複合材を主に用いた.充填 用に用いられた直径lOμmのガラス短繊維はエポキシ系集束剤およびシラン系カップリング剤で表面 処理されている.単軸引張り試験のためにゲージ部の長さ70mm,幅12.5mm,厚さ3mmのダンベル 形試験片を射出成形により作製した.成形後の試験片中の繊維は試験片の長さ方向(射出成形方向)に かなり良く配向していた.繊維の長さは20‑730μmに分布した.また比較材としてSGF‑HIPS(耐衝撃 性ポリスチレン), SGF‑PA6(ポリアミド6), SGF‑PC(ポリカーボネート), SGF‑PCAE(ポリシ アノアリルエーテル), SGF‑PP(ポリプロピレン), SGF‑PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)など の試験片も同様の成形法で作製した.
引張り試験は主に温度23℃,相対湿度55%,歪速度0.5mm/minの条件下で行った.
ただし,SGF‑PET試験片の場合は一60℃から70℃までの試験温度および50mm/minの歪速度の条 件も加えて行った.
2.2
試験片の薄片化と観察法
試験片に荷重をかけた後に除荷して試験片の表面と内部で起こった損傷を透過式偏光顕微鏡により調 べた.透過観察のためには,研磨およびポリシングにより試験片のゲージ部を厚さ約80‑250μmの薄片 にした
4 ) ‑ 9 ) , 1 1 ) , 1 2
しまた試験片の表面で起こった損傷をより詳しく調べるために走査形電子顕微鏡による その場観察を試みた.3.
結果および考察
3. 1S G F ‑ P E T 5 > ‑ 9 > , 1 2 >
図1はSGF1 wt %, SGF 30 wt%およびSGF60wt %‑PET試験片の応カー歪曲線を示す叫繊維 の重量含有率 (Wf)の増加に伴い試験片の破壊強度やヤング率は増加したが破断時の歪は減少してお
り,この点においてはごく一般的な性質を示している.
まず,SGF‑PET試験片の表面における損傷機構の観察結果を述べる.SGF1 wt %‑PET試験片にお いて,歪約1%までの負荷により引張りマイクロクラックが繊維端で形成されると共に,マイクロクラ ックの先端部および繊維端の周辺部においてシアーバンドが発生する.このマイクロクラックの発生の 原因は繊維端での引張り応力の集中と界面での高いシアー強度にあると考えられる.図2に示すように,
負荷を最大荷重つまり歪約3%までかけるとマイクロクラックの成長とそれに伴う引張りクラックの進 展(A)が続いたこのょうな損傷挙動は試験片の表面直下数" μmまで観察されfこ・なお Bは表面下印 μm以上のところで発生しているシアーバンド, Cは局所剥離の生じた繊維端部の界面である.
また試験片の表面を0.5mm, 1mm程削ってポリシングを施した後同様の実験を行っても表面にお いての破壊の様相は上記の結果に類似した.図3はSGF30 wt %‑PET試験片の表層部を約1mm削っ て走査形電子顕微鏡によりその場観察した結果である.繊維端で引張りマイクロクラック(心の成長が見
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図1 SGF‑PET試験片の応カーひずみ曲線
られた.また界面でのシアー降伏やシアークラッキング(B)も観察された.
結び付いているものと思われる.
これはシアーバンドの成長と
SGF 60 wt %‑PET試験片の表面部においては繊維端や繊維の破断部からの引張りクラックの成長は その周辺部のほかの繊維によって押さえられている.また繊維間でのシアー損傷や界面でのシアークラ ックは層間破壊のように進んだ.これは繊維が引張り方向に配向していることまた繊維間の距離が小さ いことに原因があると考えられる.
一方, SGF‑PET試験片の内部での損傷の形態はその表面での結果とは異なっている. SGF1 wt%
‑PETの内部においては,負荷をかけるにつれて繊維端の周辺部でシアーバンドが形成された.シアーバ ンドの成長に伴いシアークラックが繊維端で発生し,繊維の長さ方向に進んだ.また繊維の破断も起こ った.負荷を歪約160%までかけると,図4に示すように,シアーバンドの 後遺層 ともいうべき層 状部(F)が繊維端部の界面で生じた.また界面でのシアークラックの進展(D)に伴い,繊維の引抜きおよび 樹脂の空洞化(E)が進んでいる.つまり,シアークラックの進展による繊維端での空洞の成長および合体 が巨視的な破壊の始まりになった.
SGF 30 wt%, SGF 60 wt %‑PET試験片の内部においてもシアークラックの成長と合体が巨視的な 破壊の始まりに大きな役割を果たした.
236 高橋・崖
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20μm
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固2 E =c:c 3%における SGFlwt%の表面部の損傷の偏光顕微鏡透過観察写真
表層部を削った試験片に負荷をかけてもその表面では引張り損傷が,内部ではシアー形の損傷が発生 した.このことは注目に値する.なぜならば,成形加工中の熱的な条件によってこのような表面と内部 の損傷の違いが生じているのではないことを強く示唆するものだからである.表面での破壊機構が表面 直下数lOμmだけに生じることに注目し,試験片の表面は平面応力場に内部は軸対称応力に対応させ,
有限要素法による繊維端部の周辺における応力分布解析を行った結果を図5に示す8).内部における繊 維端でのシアー応力の集中度は表面の場合に比べておよそ1.42倍高いことが示されている.これは降伏 強度が同じであればシアー損傷が内部でより起こり易いことを示唆し,上記の観察結果と対応する.し
かし,この結果は表面における引張り損傷の発生に対する十分条件にはならないものと解釈されている. 図6は, SGF30 wt %‑PETの応カー歪曲線の温度依存性を示す9).温度の低下に伴いヤング率と引張 り強度は増加したが破壊ひずみは低下した.PET樹脂のガラス転移温度Tgは69℃であり10),この温度 を境にして試験片の破壊ひずみが大きく変わっている.表1は各試験温度における SGF‑PETの主たる 破壊機構をまとめて示す.低温領域と Tg以上の高温領域では試験片の表面と内部での損傷の違いが見 られなかったが,23℃と 50℃の常温ないしそれに近い温度領域では上記のような違いが観察された.ま た高ひずみ速度域では低温時のような破壊挙動を示した.
E
図3 研磨されたSGF30wt % PET試験片表面における損傷のinsitu SEM観察写真 (E=c:c2.6%)
3. 2 SGF‑P A 6, ‑PEEK, PC13i
これらの材料についての応カー歪曲線は,刷 が3%以下の低い場合においては250%以上の破断ひ ずみを示し,かなり延性的な変形挙動を見せた.しかし,Wr=30%の場合には破断ひずみが約1.5%‑ 2.6%であり脆性的な破壊挙動を示した.刷の増加による変形挙動のこのような変化はSGF‑PETの 結果と類似している.一方,破壊機構に関しては,低い Wrの場合試験片の表面と内部共に樹脂中のシア ー変形に伴う繊維端部での界面剥離,空桐の発生と成長,合体が起こり最終破壊に至った.図7と8は それぞれ破壊直前(歪約2.0%)のSGF30 wt %‑PA 6においての表面と内部の観察写真である.表面 では繊維端部での界面剥離が多少見られた.しかし,内部では繊維端部で生じた界面剥離が繊維の長さ 方向にシアークラックとして進み,また,隣の繊維端での剥離と引張り形の損傷として合体する場合も あり,これらからなる損傷領域が巨視的な脆性破断の始まりになった.ここでシアー形損傷が主に内部 で発生したことは注目に値し,図5の応力解析結果によく対応している. SGF‑PEEK,SGF‑PCの場合
も上記の結果と類似した.
3. 3 SGF‑HIPS11l, ‑PCAE, ‑PP13l
これらの材料は内部では引張り形の損傷を,表面ではシアー形の損傷を示した.HIPSは典型的なクレ
238 高橋・雀
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30μm
図4 c:::;:160%におけるSGFlwt% PETの内部における損傷の偏光顕微鏡透過観察写真
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(mm) END (LI)図5 有限要素法により計算された繊維端部周辺における八面体せん断応力r。m分 布
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SGF30wt % ‑PET
‑ 6 0 ° C
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図6
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SG F30wt %‑PET試験片の応カーひ ず み 関 係 の 温 度 依 存性
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図7
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_ゞ 50µm·~ s=c2.0%におけるSGF30wt%‑PA6試験片の表面部の損傷の偏光顕微鏡透過観察写真240 高橋・皆
表1 SGFR‑PETの微視破壊機構の温度依存性 T Surface Interior
‑60℃ Debonding Debonding
‑15℃ at fiber ends at fiber ends 23℃ Tensile cracks Shear‑band・ induced 50℃ growing voids growing
at fiber ends at fiber ends 70° Voids growing Voids growing
at fiber ends at fiber ends
~
E
.
1 │
50μm
図8 図7の試験片の内部の損傷の偏光顕微鏡透過観察写真
イズ主導形の破壊を示す高分子材料であり,SGF‑HIPSの場合でも同様のことが試装片の内部において
観察された(図9).しかし表面部では破断に至るまでのシアー形の損傷が見られた(図10).SGF‑PP の表面(図11)ではシアー形の損傷が生じたが,内部(図 12)では引張り形の損傷が発生し表面部に進 展した.最終破断は内部での引張り形損傷の成長によって起こった.SGF‑PCAEの場合も内部で生じた 引張り形の損傷(図13)が表面部に成長することによって破壊が起こった.
図9 c :':::;: 1.1%におけるSGFlwt %‑HIPS試験片の内部の損傷の偏光顕微鏡透過観察写真
s ‑ Surface f a i l u r e
1
1 │
l O μm
図10 強化HIPS試験片の表面近傍の破面のSEM写真
242 高橋・程
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50μm
図11 E :::;:4.0%におけるSGF30wt‑PP試験片の表面部の損傷の偏光顕微鏡透過観察写真
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1 │
50μm
図12 図11の試験片の内部の損傷の偏光顕微鏡透過観察写真
I I
50μm
図13 s==:c4.0%における SGF30wt%‑PCAE試験片の内部の損傷の偏光顕微鏡透過観察写真
4.結 論
表2に種々のSFRTPの表面部と内部においての微視的な破壊機 構をまとめた. SGF‑PET複合材の 場合は,表面部においては引張りクラックが繊維端で発生し進展した.
表2 短繊維強化熱可塑性プラスチックスの典型的な微視破 壊 機構 Composites Surface Interior SGF‑PET Tensile cracking Shear‑band‑induced voiding
at the fiber ends at the fiber ends
SGF‑PA6 De bonding Shear deformation‑induced
‑PEEK at the fiber ends voiding at the fiber ends
‑PC
SGF‑HIPS De bonding Craze‑induced cracking
‑PS at the fiber ends or tensile fracture
‑PCAE at the fiber ends
‑PP
(T
=
23C, z;=
lmm/min)* The failure in the interior almost dominates the fracture processes throughout the compos‑ ites.
244 高橋・雀
しかし内部では,樹脂中のシアーバンドの成長に伴い繊維端での空洞化およびその合体が生じた.
SGF‑PA 6, ‑PEEK, ‑PCにおいては先に内部で界面剥離が生じて,主にシアー形の損傷として成長し た.繊維端の周りでのシアー形損傷が内部でより多く起こったことは有限要素法による応力分布解析結 果と一致した.一方, SGF‑HIPS,‑PCAE, ‑PPの複合材においての表面部ではシアー形の変形と界面 剥離が見られたが,内部ではクレイズ主導形の破壊を示し引張り形の損傷が成長した.いずれのSFRTP についても内部での損傷が最終破壊に主要な役割を演じた.
SGF‑PETに典型的に見られた表面層脆化傾向の分子的なメカニズムは今のところ不明である.前述 のようにこれは加工による熱劣化とは区別して考えるべきものと筆者らはみている.
これらの研究の結果は,高分子材料の損傷の研究のためには表面部のみの観察によっては誤った結論 が得られることのあることを具体的に示すものである.
参 考 文 献
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