ドイ ツ 連邦 共和 国司 法に おけ るラ ー トブ ルフ 定式 の 受容 と定 式の 現 代的 意義
︵下
︶
酒 匂 一 郎
一 は じ めに 二 戦 後 連邦 共 和 国司 法 にお け るラ ー トブ ル フ 定式 の 受容
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⁝ 以上 第 八四 巻 第一 号 三 再 統 一後 の 連 邦共 和 国司 法 にお け るラ ー ト ブル フ 定式 の 適用
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⁝ 以下 本 号 四 終 わ りに
(85‑1‑ ) 105 105
三 再 統 一 後 の 連 邦 共 和 国 司 法 に お け る ラ ー ト ブ ル フ 定 式 の 適 用
ラー トブ ルフ 定 式は 戦後 のナ チ ス裁 判に おい て 連邦 裁判 所に お いて 用い られ た が︑ そ の後 はそ の援 用 を必 要と する よ う な例 外的 状況 も なく
︑そ の意 味 は失 われ てい た
︒し かし
︑一 九 八九 年︑ ベル リ ンの 壁 が崩 壊し
︑一 九 九〇 年に 旧東 西 ド イツ が再 統合 さ れた 後に
︑再 び 脚光 を浴 びる こ とに なっ た︒ ド イツ 民主 共和 国
︵以 下 では
︑旧 東独 と 記載 する
︶に お い て国 家機 関の 構 成員 によ って な され た行 為が
︑ 再統 一後 に刑 事 裁判 の対 象と な った こ とに よる
︒と く に︑ ベル リン の 壁 にお いて 東ベ ル リン から 西ベ ル リン へド イツ 内 部国 境を 許可 な く超 えよ うと し た若 い 市民 が︑ 同じ く 若い 旧東 独国 境 警 備兵 によ って 射 撃さ れて 死亡 し たと いう 事件
︑い わゆ る﹁ 壁 の射 手﹂
M a u er sc h u tz en
︶事 件が 刑事 裁判 の 対象 とな り
︑大 きな 議論 を 呼ん だ︒ この 裁 判の 中で
︑ベ ル リン 地方 裁判 所
︑連 邦通 常裁 判 所︑ そ して 連邦 憲法 裁 判所 がラ ート ブ ル フ定 式を 適用 し たの であ る︒ こ れら の裁 判に お ける ラー トブ ル フ定 式の 適用 は ドイ ツ 法学 界に おい て 賛否 両論 の議 論 を 呼び 起こ した
︒ ここ では これ ら の裁 判と それ を めぐ る議 論に つ いて 検討 を加 え る︒ 再統 一後 に刑 事 裁判 の対 象と な った もの には
︑ 壁 の射 手﹂ 事件 だけ では なく
︑旧 東独 の裁 判官 や検 察官 の 枉法 事件 や スパ イ行 為事 件 など もあ るが
︑ ここ では 射撃 事 件に 焦点 を絞 る34
︒︶
ドイ ツ 内部 国 境に お ける 致死 的射 撃 事件 にも
︑ベ ル リ ンの 壁に おい て 起こ った もの だ けで なく
︑東 西 ベル リン を部 分 的に 隔て てい た シュ プ レー 川を 東ベ ル リン から 西ベ ル リ ンへ 泳い で渡 ろ うと した 旧東 独 市民 に対 する 射 撃事 件も あっ た
︒ま た︑ ベル リ ンだ け でな く︑ ノイ ル ッピ ン︑ ポツ ダ ム
︑シ ュバ イン フ ルト
︑シ ュヴ ェ ーリ ンな どで も 発生 して いた
︒ 二〇
〇四 年十 一 月の 報 道に よれ ば︑ 百 件を 超え る裁 判 で 二四
〇名 を超 え る被 告人 が裁 か れ︑ その うち の 約半 数が 無罪 と され
︑有 罪と さ れた 被 告人 は自 由刑 や 少年 刑の 実刑
︑ 執 行猶 予︵ 保護 観 察付
︶な どを 言 い渡 され てい る35
︒︶
さら に
︑こ の 一連 の裁 判で は 社会 主 義統 一党
︵S E D︶ の政 治局 員 や 国防 評議 会構 成 員な ども 裁か れ てい る︒ SE D 書記 長で 旧東 独 議長 であ った エ ーリ ッ ヒ・ ホー ネッ カ ーは 起訴 され た
(法政研究 85‑1‑106 106)
が
︑病 気を 理由 と して 裁判 は一 九 九三 年四 月に 停 止さ れた
︒実 際 に連 邦裁 判所 に おい て 判決 が下 され た のは
︑ホ ーネ ッ カ ーが 失脚 した 後 に書 記長 とな っ たエ ゴン
・ク レ ンツ や国 防評 議 会構 成員 らで あ った
︒ 以下 では
︑ま ず
︑こ れら のう ち 連邦 通常 裁判 所 の主 な判 決と 連 邦憲 法裁 判所 の 決定 を
︑と くに ラー ト ブル フ定 式の 適 用 に関 する 論証 を 中心 に概 観す る
︒な お︑ 連邦 憲 法裁 判所 決定 に つい ては 異議 申 立人 ら
︵一 名の 国境 警 備兵 と三 名の 国 防 評議 会構 成員 な ど︶ は欧 州人 権 裁判 所に さら に 救済 申立 を行 っ てい る︒ 次に
︑ これ ら の判 決等 に関 す る文 献の 議論
︑ と くに ラー トブ ル フ定 式の 適用 を めぐ る議 論を 検 討す る︒ そう し た議 論は 多数 に 上る が
︑こ こで は︑ ラ ート ブル フ定 式 の 適用 を支 持す る ロバ ート
・ア レ クシ ーの 議論 と
︑そ の適 用を 批 判す るホ ルス ト
・ド ラ イア ーお よび ギ ュン ター
・ヤ コ ブ スの 議論 に焦 点 を絞 る36
︒︶
刑事 司 法に よる
﹁過 去 の克 服﹂ に対 す るド ライ アー や ヤコ ブ スの 批判 は司 法 と政 治の 関係 に つ いて 重要 な問 題 を提 起し てい る が︑ 統一 条約 の もと でな され た 刑事 訴追 につ い て裁 判 所が 判断 を下 さ なけ れば なら な か った こと
︑そ し て裁 判所 はそ の 判断 にラ ート ブ ルフ 定式 を適 用 せざ るを えな か った こ とも 否定 でき な い︒ なお
︑若 い 国 境警 備兵 につ い ては 責任 が阻 却 され るべ きだ と いう 点で
︑ア レ クシ ーと ドラ イ アー の 見解 は一 致し て いる
︒最 後に
︑ こ れら の判 決及 び 議論 にお ける ラ ート ブル フ定 式 に関 する いく つ かの 論点
︑と く にラ ー トブ ルフ 定式 と 自然 法論 およ び 法 実証 主義 との 関 係に 関す る論 点 につ いて
︑よ り 一般 的に 検討 す る︒ そし て︑ そ の定 式 に現 れた ラー ト ブル フの 法哲 学 が 理想 主義 また は 理念 主義 とも 呼 びう るも のと し て位 置づ けら れ うる こと を示 し たい
︒ 34
︶ 枉 法 に つき 有 罪と し た判 決 とし て は
︑た と えば ベ ルリ ン
⎜マ ル ツ ァー ン 地区 の 検察 官 であ っ た 被告 人 を三 件 の枉 法 お よ び 自 由 剥 奪の 罪 に より 有 罪と し た一 九 九五 年 九 月十 五 日の も の︵
BGHSt 41,247
︶︑ 旧 東 独最 高 裁 判 所 陪 席 裁 判 官 で あ った 被 告 人 が
﹁ 政 治 的司 法
﹂ 旧 東 独一 九 四 九年 憲 法六 条 二項 違 反︶ に よ り三 件 の死 刑 判 決 に 同 意 した こ と を 枉 法 殺 人 と 認 定 し た 一 九 九 五 年 一 一 月 一 六日 の も の︵BGHSt 41,317
︶ など が ある
︒ 35
︶Vgl.Frankfurter Allgemeine Zeitung 09.11.2004.
こ の 記 事に よ れば
︑ ベル リ ン検 察 庁 は確 認 され て いる 死 亡事 例 を 二七
〇 件
(85‑1‑ ) 107 107
と して い る
︵た だ し︑ 旧 東独 は 国境 で の 事件 を 秘密 に して い たた め
︑ 地雷 に よっ て 死亡 し たケ ー ス を含 め
︑精 確 な数 字 は 分 か っ て い ない
︶︒ そし て
︑同 検 察 庁に よ れば
︑ 一一 一 件に つ き 二四 五 名 が 訴 追さ れ
︑ さ ら に 一 五 八 件 につ き 二 五 二 名 が 告 訴 さ れ て い る
︒ こ の記 事 の 時点 で
︑ベ ル リン 地 検で 起 訴 され た 一二 五 名の 被 告人 に 確 定判 決 が下 さ れて お り︑ そ の うち の 一〇
〇 名に 二 年 以 下 の 自 由 刑︵ 執 行 猶予 付
︶が 言 い渡 さ れ︑ 六 十 名以 上 が無 罪 とさ れ てい る
︒ 36
︶ こ う し た議 論 につ い ての 日 本の 研 究 者の 検 討と し て︑ 川 口浩 一
﹁ 遡及 効 禁止 原 則の 現 代的 意 義
⎜⎜ ド イツ に おけ る 二 つ の 過 去 の 克服 問 題 を主 な 題材 と して
⎜
⎜﹂
﹃ 刑 法雑 誌
﹄ 第 三 五巻 第 二 号
︑ 一 九 九 五 年︶
︑ 同﹁ 国 家 権 力 を 背 景 と し た 犯 罪⎜
⎜ 序 論 的 考 察
⎜
⎜﹂
﹃ 奈 良法 学 会雑 誌
﹄第 八 巻三
・四 号︑ 一 九 九六 年
︶︑ 上 田 健二
﹁ ラー ト ブル フ 公式 と 法 治国 家 性原 理
⎜⎜ い わゆ る D DR 政 府 犯 罪に つ い て の ド イ ツ 連 邦 憲 法 裁 判 所 第 二小 法 廷 一 九 九 六 年 一
〇 月 二 四 日 決 定 を 契 機 に し て⎜
⎜
﹂﹃ 西 原 春 夫 先 生 古 希 祝 賀 論 文 集
﹄第 四 巻
︑一 九 九八 年
︶な ど があ る
︒ 定式 の 適用 に つい て
︑川 口 は 後で 触 れる ギ ュン タ ー・ ヤ コ ブス の 見解 を 採用 し て 否 定 的 で あ り︑ 上 田 はア ル トゥ ー ル・ カ ウフ マ ン に依 拠 して 肯 定的 で ある
︒
︵ 一
︶ 壁 の 射 手
﹂ 裁 判ま た は ド イ ツ 内 部 国境 射 撃 事 件 裁 判 国境
警備 兵の 事 件に 関す る連 邦 通常 裁判 所の 判 決に は︑ 同裁 判 所の 最初 の﹁ 壁 の射 手
﹂事 件判 決で あ る一 九九 二年 一 一 月三 日の もの
︵
B G H S t 39 , 1
︶ の他
︑ 一九 九三 年三 月 二五 日︵
B G H S t 3 9, 16 8
︶︑ 一 九九 四 年七 月二 六日
24 1
︵B G H S t 4 0,
︶︑ 一九 九五 年 三月 二〇 日︵
B G H S t 41 , 10 1
︶︑ 一九 九六 年三 月四 日
︵
B G H S t 42 , 65
︶︑ 一 九九 六 年一 二 月一 七日
︵
B G H S t 42 , 35 6
︶の もの な どが ある37
︒︶
この うち
︑一 九九 四 年七 月二 六日 の 判決 を 受 けた 国境 警備 兵一 名は 連 邦憲 法裁 判 所に 憲 法異 議を 申し 立て た︒ また
︑ 国家 機関
︵旧 東 独 議長
︑ 国防 大臣
︑国 家 防 衛 評 議 会な ど︶ お よび 党 機 関︵ 政 治 局
︶の 構成 員︵ 以 下︑ 指導 部 構成 員
﹂と 略す る︶ に 関す る 連 邦通 常裁 判所 の主 要な 判 決に は︑ 一 九九 四年 七 月二 六日 の もの
︵
B G H S t 40 , 21 8
︶ と一 九 九九 年一 一月 八 日の もの
︵
B G H S t 45 , 27 0
︶が ある
︒ これ らの 判決 で 有罪 とさ れた 指
(法政研究 85‑1‑108 108)
導 部構 成員 三名 は 連邦 憲法 裁判 所 に憲 法異 議を 申 し立 てて いる
︒ これ らの 憲法 異 議申 立 人ら に対 する 連 邦憲 法裁 判所 の 決 定は 一 九九 六年 一〇 月二 四日 に 下さ れた
︵
B V er fG E 95 , 96
︶︒ 連邦 憲法 裁 判所 は通 常裁 判所 の判 決 をい ず れ も支 持 し て︑ 異議 を棄 却 して いる
︒さ ら に︑ 憲法 異議 を 申し 立て た四 名 は欧 州人 権裁 判 所に 救 済を 申し 立て
︑ 同裁 判所 は二
〇
〇 一年 三月 二二 日 にこ れを 棄却 す る判 決を 下し て いる
︒以 下で は
︑連 邦通 常裁 判 所判 決 につ いて は最 初 の﹁ 壁の 射手
﹂ 判 決を 中心 に概 観 し︑ 他の 判決 は 関連 する 限り で 取り 上げ る︒ 37
︶ こ れ ら の判 決 は︑ 指 導部 構 成員 に 関 する 判 決も 含 めて
︑ すべ て 連 邦通 常 裁判 所 刑事 第 五部 の 判 決で あ る︒ 連 邦通 常 裁 判 所 の 判 決 およ び 連 邦憲 法 裁判 所 の決 定 の引 用 の 際は
︑ 裁判 所 の略 号
︑巻 数
︑ 頁と い う形 式 で本 文 中に 表 記 する
︒
︵1
︶ 連邦 通常 裁判 所 判決
⒜ 壁の 射手
﹂事 件
︑そ れを めぐ る 法状 況︑ そし て ベル リン 地方 裁 判所 判決 連邦 通常 裁判 所 が扱 った 最初 の
﹁壁 の射 手﹂ 事 件は 一九 八四 年 一二 月一 日の 午 前三 時 一五 分頃 に発 生 した もの であ る
︒ 被 害者 であ る当 時 二〇 歳の 東独 市 民は
︑東 西ベ ル リン を隔 てる 国 境地 帯の 立入 禁 止区 域 と鉄 条網 を通 り 抜け
︑ベ ルリ ン の 壁に 梯子 をか け て西 ベル リン 側 に越 えよ うと し てい た︒ 被告 人 であ る二 人の 当 時二
〇 歳前 後の 国境 警 備兵 は越 境を 阻 止 しよ うと して
︑ 被害 者に 向け て 自動 小銃 射撃 を 行っ た︒ 背中 と 膝に 被弾 して 捕 捉さ れ た被 害者 はよ う やく 約二 時間 後 に 人民 警察 病院 に 搬送 され たが
︑ 午前 六時 過ぎ に そこ で死 亡し た
︒医 師の 迅速 な 手当 が あれ ば助 かっ て いた と考 えら れ る が︑ 被告 人ら は 犠牲 者の 救助 と 搬送 につ いて は 指図 を受 けて い なか った
︒ベ ル リン 地 方裁 判所 は︑ 一 九九 二年 二月 五 日 の判 決で
︑被 告 人ら を故 殺の 罪 につ き有 罪と し
︑一 人に 一年 六 月の 少年 刑︑ も う一 人 に一 年九 月の 自 由刑 を言 い渡 す
(85‑1‑ ) 109 109
と とも に︑ いず れ にも 執行 猶予 を 付し てい る38
︒︶
再統 一以 前に 旧 東独 で実 行さ れ た犯 罪に 適用 す べき 法に つい て は︑ 一九 九〇 年 八月 三 一日 の統 一条 約 およ びそ れに 基 づ いて 改正 され た 刑法 施行 法が 規 定し てい る︒ 刑 法施 行法 三一 五 条一 項は
﹁統 合 の発 効 以前 に民 主共 和 国に おい てな さ れ た犯 行に つい て は︑
﹇連 邦共 和国
﹈ 刑法 二条 が適 用さ れる
﹂と し︑ 同 刑法 二条 一項 は﹁ 刑罰 およ びそ の付 随 措置 は行 為 時に 妥当 して い た法 律に より 規 定さ れる
﹂と す るか ら︑ 本件 の 行為 につ いて は 旧東 独 法が 適用 され る39
︒︶
そし て
︑本 件 の 行為 は殺 人の 構 成要 件に 該当 し うる から
︑旧 東 独刑 法一 一二 条
︵謀 殺︶ また は 一一 三 条︵ 故殺
︶が 適 用さ れる こと に な る︒ ただ し︑ 刑 法二 条三 項は
﹁ 犯行 の終 了の 際 に妥 当し てい た 法律 が判 決の 前 に変 更 され たと きは
︑ 最も 軽い 法律 を 適 用す るこ とが で きる
﹂と して お り︑ 連邦 通常 裁 判所 は︑ 殺人 の 規定 につ いて も
︑刑 の 長期 が旧 東独 刑 法よ りも 短い 連 邦 共和 国 刑法 を 適 用 し︑ 本 件 の 行為 の 違 法 性 およ び 責 任 の判 断 に 関 し ても
︑こ の 二条 三 項 を 考 慮し て い
39 , 6, 8f ., 32
る︵B G H S t
︶︒ 違法 性 の判 断 に関 して は︑ 被 告人 側の 主張 も あり
︑ 一九 八二 年五 月 二五 日の 旧東 独国 境法 が 考慮 され る こと にな る︒ 同 法二 七条 は国 境 警備 に際 して の 銃器 使用 につ い て規 定し てい た から で ある
︒ 旧東 独国 境法 二 七条 二項 は﹁ 銃 器の 使用 は︑ 状 況か らし て犯 罪 とみ なさ れる 行 為の 現 行ま たは 継続 を 阻止 する ため に す ると きは
︑正 当 化さ れる
﹂と 規 定し てい た︒ こ こで いう 犯罪 に は違 法︵ 無許 可
︶越 境 も含 まれ てい た
︒旧 東独 刑法 二 一 三条 一項 は違 法 な出 入国 を二 年 以下 の自 由 刑︵ 執 行猶 予あ り︶
︑罰 金等 に処 する と し︑ 同 二項 は違 法な 出 入国 が﹁ 重 大 な場 合﹂ は一 年 以上 五年 以下 の 自由 刑に 処す る︵ 一 九七 九年 改正 に より 八年 以下 に重 罰 化さ れて いる
︶と し
︑ 重大 な 場合
﹂と して 同 二項 一号 は国 境 警備 施設 の損 壊
︑そ のた めの 道 具の 使用
︑武 器 の携 行
︑ま たは 危険 な 手段 方法 の使 用 を もっ てな す場 合 等を 列挙 して い た︒ さら に︑ 旧 東独 最高 裁判 所 及び 検察 庁は
﹁ 危険 な 方法
﹂に は国 境 警備 施設 を越 え る ため の﹁ 昇降 用具
﹂ の使 用も 含 まれ ると いう 見解 を 一九 八〇 年に 述べ てい た︵
B G H S t 39 , 9f .
︶︒ 他方
︑国 境法 二七 条 には
﹁比 例性 原 則﹂
P ri n zi p d er V er h a lt n is m a ß ig k ei t
︶に 該 当す ると 解さ れ うる よ うな 規定 も含 ま れて いた
︒同 一
(法政研究 85‑1‑110 110)
項 は銃 器の 使用 を
﹁き わめ て例 外 的な 措置
﹂
a u ß er st e M a ß n a h m e
︶と 規 定し て いる ほ か︑ 同三 項は 原 則と して 警告 射 撃 をな すこ とと し
︑同 四項 は銃 器 使用 を禁 じる 場 合と して
︑第 三 者の 生命 また は 健康 に 危険 が及 ぶ場 合
︑外 見か らし て 未 成年 者で ある こ とが 明ら かで あ る場 合な どを 挙 げて いる
︒さ ら に︑ 同五 項は
﹁ 当該 者 の生 命が 可能 な かぎ り保 護さ れ な け れ ば な ら な い﹂ と す る と と も に
︑負 傷 し た 者 に は 応 急 手 当 が な さ れ る も の と す る と 規 定 し て い た の で あ る
︵
B G H S t 39 , 10
︶︒ ベル リン 地方 裁 判所 は︑ 旧東 独 のこ れら の法 律 の規 定と その 解 釈を いく つか の 観点 か ら検 討し て︑ そ れら には 問題 が あ るも のの
︑そ れ らの 法的 効力 を 否定 する こと は でき ない とす る
︒こ れら の規 定 はラ ー トブ ルフ 定式 に いう よう に耐 え が たい 程度 に正 義 と衝 突し てい る とは いえ ない
︒ また
︑旧 東独 も 国際 人権 規約 を 批准 し てい たが
︑国 内 法へ の転 化は な さ れて いな かっ た し︑ 世界 人権 宣 言は 国内 の法 律 の効 力を 否定 す るよ うな 法的 効 力を も つわ けで はな い
︒さ らに
︑こ れ ら の規 定や その 解 釈は 連邦 共和 国 の﹁ 公序
﹂に 反 する とい える が
︑こ の観 点か ら それ ら の規 定や 解釈 を 無効 とす るこ と は 基本 法一
〇三 条 二項 の遡 及禁 止 に反 する こと に なる40
︒︶
こ のよ う にこ れら の規 定 と解 釈 の法 的効 力を 認 めた 上で
︑ベ ル リ ン地 方裁 判所 は
︑そ れで も被 告 人ら の行 為は 正 当化 され ない と いう
︒な ぜな ら
︑国 境 法二 七条 は﹁ 比 例性 原則
﹂を 含 ん でお り︑ とく に 可能 なか ぎり 逃 亡者 の生 命を 保 護し なけ れば な らな いと して い るが
︑ 被告 人ら は警 告 射撃 の後 に直 ち に 未必 の殺 害故 意 によ り連 続射 撃 を行 って おり
︑ その 行為 は比 例 性原 則に 反し て いた の だか らで ある41
︒︶
また
︑責 任に 関 し て︑ 被告 人ら は その 行為 を命 令 に従 った もの だ と主 張す るが
︑ 殺人 を禁 じる
﹁ 刑法 と の衝 突が 平均 的 兵士 にと って 明 ら かで ある とき は つね に︑ その 命 令は
﹃明 らか に
﹄違 法 であ る42
﹂︶
︒被 告人 らは 社会 主 義の 精神 によ り連 邦共 和 国や 連邦 共 和国 への 逃亡 者 を敵 視す る教 育 を受 けて おり
︑ 便宜 性や 自律 的 判断 の欠 如に 基 づく
﹁ 法盲 目性
﹂に 陥 って いた と考 え ら れる けれ ども
︑ 逃 亡の 具体 的状 況 を顧 慮す るこ と なく
︑逃 亡を 最終 的に は逃 亡者 の 殺害 によ って も 阻止 せ よと いう 命 令が 違法 であ る こと
﹂の 認識 に は︑ 法学 的知 識も
︑特 殊 な 知的 能力 も︑ 政 治的 な 知見 も必 要で はな
﹂く
︑ その よう
(85‑1‑ ) 111 111
な 違法 性の 認識 は
﹁誰 にと って も 人間 性の 命令 か ら生 じる
﹂も の であ り︑ 被告 人 らに と って も明 白で あ った はず であ る と
︑ベ ルリ ン地 方 裁判 所は 結論 し てい43
る︶44
︒︶
⒝ 正当 化 事由 と ラー トブ ルフ 定 式 以上 のよ うに
︑ ベル リン 地方 裁 判所 の判 断は 被 告人 らの 行為 は 旧東 独国 境法 に 反し て いた とす るも の であ り︑ 被告 人 ら の可 罰性 の認 定 のた めに とく に ラー トブ ルフ 定 式を 適用 する 必 要は なか った
︒ しか し
︑ベ ルリ ン地 方 裁判 所の 判断 は 国 境警 備兵 がお か れて いた 命令 状 況を 含む 国境 警 備体 制の 状況 を 十分 に考 慮し た とは い えな い憾 みが あ った
︵ベ ルリ ン 地 裁は
︑被 告人 ら に与 えら れた 命 令が 比例 性原 則を 踏ま えた もの で あっ た 可能 性に すら 触 れて いる
︶︒ こ れ に対 し︑ 連 邦 通常 裁判 所は 命 令状 況を 含む 国 境警 備体 制の 状 況が 国境 警備 兵 にと って この 法 律に 関 する 解釈 実務 ま たは 国家 実務 と し て正 当化 事由 を なし てい た可 能 性を 検討 して い る︒ その 上で
︑ この 正当 化事 由 を排 除 する ため に︑ ラ ート ブル フ定 式 を 適用 して いる の であ る︒ 連邦 通常 裁判 所 は︑ 旧東 独国 境 法二 七条 二項 が 逃亡 者の 殺害 を 許容 する もの と して 解 釈さ れえ たこ と を指 摘す る︒ た し かに
︑銃 器の 使 用は
﹁き わめ て 例外 的な 措置
﹂ とさ れ︑ 銃器 の 使用 に当 たっ て は﹁ 可 能な かぎ り当 該 者の 生命 が保 護 さ れな けれ ばな ら ない
﹂と され て いた が︑ 生命 の 保護 は﹁ 可能 な かぎ り﹂ であ っ て︑ い かな る場 合に も 保護 され なけ れ ば なら ない わけ で はな かっ た︒ こ れに よれ ば︑ 他 の方 法に よっ て は 越境 阻止 の目 的が 達成 さ れえ ない 場合 には
︑ 殺害 の
︵少 なく とも 未 必の
︶故 意を も って 射撃 する こ とが でき ると いう 解 釈を 許容 する
﹂
B G H S t 39 , 10
︶︒ し かも
︑ 逃亡 者 の生 命と
﹁国 境 の不 可侵 性﹂ の 比較 考量 がど の よう にな され る べき かは
︑こ の 法律 か ら読 み取 るこ と はで きな いし
︑ 旧 東独 の裁 判所 も この 問題 につ い て説 明を 与え て いな い︒ むし ろ
︑当 時の 命令 状 況お よ び国 家実 務の 状 況は
︑こ のよ う な 解釈 に基 づい て いた
︒そ うす る と︑ 国境 警備 兵 の未 必の 故意 に よる 致死 的射 撃 には こ うし た実 務に 基 づく 正当 化事 由
(法政研究 85‑1‑112 112)
が あっ たと 解さ れ うる こと にな る
︒ した がっ て︑ 連 邦通 常裁 判所 が 想定 する 正当 化 事由 はベ ルリ ン 地方 裁判 所が 想 定し た 国境 法の 規定 に よる もの では な く
︑国 境法 の解 釈 に基 づく 事実 的 な国 家実 務に よ るも ので ある
︒ この よう な国 家 実務 に よる 正当 化事 由 もさ しあ たり 考 慮 され うる こと は
︑一 九八 二年 の 国境 法制 定以 前 の事 件に つい て の連 邦通 常裁 判 所の 判 決か らも 窺え る
︒た とえ ば︑ 一 九 九四 年 七月 二六 日判 決︵
B G H S t 40 , 24 1
︶の 事 案は 一 九七 二年 のも ので あ る︒ もっ とも この 時点 で は一 九 六 八年 の 人 民警 察法 があ っ た︒ この 判決 で は︑ 同法 が国 境 法と 同様 に銃 器 の使 用を 認め て いた か どう かに つい て は立 ち入 って い な いが
︑国 防大 臣 の命 令に よっ て 創出 され た国 境 警備 の事 実的 状 況︑ 国境 警備 兵 の配 置 状況
︑そ して 越 境者 に対 する 故 意 の連 続射 撃が 射 撃者 に対 する 表 彰及 び報 償の 対 象と なっ てい た 事実 など から す ると
︑ 人民 警察 法に よ って 銃器 の使 用 は 許 容 さ れ て い た と
︑連 邦 通 常 裁 判 所 は 判 断 し て い る︵
E b en d a , 24 2f .
︶︒ さ ら に 一 九 九 五 年 三 月 二
〇 日 の 判 決
︵
B G H S t 41 , 10 1
︶の 事案 は 一九 六二 年の も ので あり
︑こ の 時点 で は関 連す るよ う な法 律は なか った
︒そ れ でも
︑ 連邦 通 常裁 判所 は︑ 内 務大 臣の 命令 や 国境 保安 業務 に 当た る機 関に 対 する 服務 規定 な どに よ り︑ 銃器 使用 は 許容 され てい た も のと みな して い る︒ こう した 法 律そ のも のに よ らな い国 家実 務 も正 当化 事由 と みな さ れえ たと いう わ けで ある
︒ 連邦 通常 裁判 所 は本 件に おい て 結論 とし ては こ のよ うな 正当 化 事由 の考 慮を 排 除す る ので ある が︑ そ の排 除は きわ め て 例外 的な 場合 に 限定 され なけ れ ばな らな いと し て︑ ラー トブ ル フ定 式に 言及 し て次 の よう に述 べて い る︒ 行 為時 に認 めら れ てい た正 当化 事 由は
︑正 義と 人 間性 の根 本 思想 に対 する 明白 か つ重 大な 衝突 がそ こに 現 われ てい る 場合 にの み︑ 高 次の 法︵
h o h er ra n g ig es R ec h t
︶ に対 す る衝 突の ゆえ に
︑考 慮の 外 にお かれ うる
︒し か も︑ この 衝突 は きわ めて 重大 で あっ て︑ あら ゆ る国 民に 共通 の
︑人 間の 価値 と 尊厳 に関 する 法 確信 を 侵害 する とい う ほど のも ので な け れば なら ない
︵
B G H S t 2, 23 4,2 39
︶︒ 実 定法 の 正義 に対 する 衝 突は
︑き わめ て 耐え がた いも の とな って
︑そ の法 律が 不 正な 法 とし て正 義に 譲ら なけ れ ばな らな いと いっ た も ので なけ れ ばな ら な い︵
R a d b ru ch S JZ 19 46 , 10 5, 10 7
︶︒ こ
(85‑1‑ ) 113 113
の 定式 によ って
︵
B V er fG E 3, 22 5, 23 2; 6, 13 2, 19 8f
も参 照 せよ
︶︑ ナチ スの 権力 支 配が 終わ った 後 に︑ き わ めて 重大 な 法侵 害を 特徴 づ ける 試み がな さ れた
︒こ の観 点 を目 下の 事例 に 適用 でき るか ど うか は 容易 な問 題で は ない
︒と いう の は
︑ド イツ 内部 国 境︵
d ie i n n er d eu ts ch e G re n z
︶ にお ける 人間 の殺 害は ナチ スの 大 量殺 戮と 同視 され えな い から であ る
︒そ れに もか か わら ず︑ 当時 獲 得さ れた 洞察
︑ すな わち 国家 の 命令 によ って な され た 行為 を判 定す る 際に は︑ その 国 家 が一 般的 な確 信 に従 って あら ゆ る国 にお いて 国 家に 対し て設 定 され てい る最 低 限の 限 界を 越え てい る かい なか を吟 味 し なけ れば なら な いと いう 洞察 は
︑今 日で も妥 当 する
︒﹂
B G H S t 39 , 15 f.
︶ ここ で連 邦通 常 裁判 所が 言及 し てい るラ ート ブ ルフ 定式 が﹁ 受 忍不 能定 式﹂ で ある こ とは いう まで も ない
︒ま た︑ 連 邦 通常 裁判 所は
︑ ドイ ツ内 部国 境 にお ける 致死 的 射撃 をナ チス の 大量 殺戮 と同 視 する こ とは でき ない と しつ つも
︑ラ ー ト ブル フ定 式に 含 まれ る洞 察は ナ チス のケ ース に かぎ らず
︑今 日 でも 妥当 する と 述べ て
︑そ の一 般的 な 適用 可能 性を 認 め てい るこ とが 注 目さ れる
︒し か し︑ 次に みる よ うに
︑連 邦通 常 裁判 所は ラー ト ブル フ 定式 をそ のま ま 本件 に適 用す る わ けで はな い︒
⒞ 国際 人 権法 と
﹁人 権親 和的 解 釈﹂ ラー ト ブル フ定 式に 言 及し た後
︑連 邦 通常 裁 判所 は︑ こ の定 式に 含 まれ る基 準に 加え て︑ 今日 で は国 際 人 権 規約 が
﹁国 家 はど うい う場 合 に世 界的 な法 共 同体 の確 信に 照 らし て み たと きに 人権 を侵 害す る こと にな るか
﹂に つ い ての より 具 体的 な基 準を 提 供し て いる とす る︵
B G H S t, 39 , 16
︶︒ こ こ で問 題と なる のは 一九 六 六年 一二 月九 日の
﹁市 民的 政治 的 権利 に関 する 国 際人 権規 約﹂ B規 約︶
︑ とく に 移動 や出 国の 自 由に 関す る一 二 条と 生 命へ の権 利に 関 する 六条 であ る
︒ し かし
︑旧 東独 は 一九 七四 年一 一 月八 日に この 規 約を 批准 して い たも のの
︑旧 東 独憲 法 五一 条に よっ て 条約 の国 内法 化 に 要求 され る人 民 会議 の承 認は な され てい なか っ た︒ した がっ て
︑B 規約 の批 准 によ っ てそ の国 の市 民 に﹁ その 国家 に
(法政研究 85‑1‑114 114)
対 抗す る法 的地 位 が付 与さ れて い た﹂ とは いえ ず
︑国 家実 務に よ る正 当化 事由 を 排除 す る実 定法 的根 拠 であ った とも い え ない こと にな る
︒そ れで も︑ 連 邦通 常裁 判所 は
︑B 規約 を批 准 する こと によ っ て旧 東 独は その 原理 を 承認 して いた の で あり
︑し たが っ て︑ この 原理 に 基づ いて
﹁正 当化 事由 を限 定的 に 解釈 しな けれ ばな ら なか っ た﹂ の であ るか ら︑ 人 の 生命 に 対す る権 利を それ らの 人々 の国 外退 去を 阻止 す ると いう 利益 より も 低く 評価 する とい う 態度
﹂ を示 す もの で あ った 国家 実務 に よる 正当 化事 由 は﹁ はじ めか ら 無効 であ った
﹂ とす るの であ る
︵
B G H S t 39 , 22 f.
︶︒ ベル リン 地方 裁 判所 は︑ 先に 触 れた よう に︑ 国 際人 権B 規約 に よっ て国 境法 の 正当 化 事由 が排 除さ れ る可 能性 を示 唆 し つつ も︑ 同規 約 が旧 東独 にお い て国 内法 化さ れ てい なか った こ とか ら︑ この 可 能性 を 排除 して いる の に対 し︑ 連邦 通 常 裁判 所は 国家 実 務に 基づ く正 当 化事 由の 国際 人 権法 によ る排 除 のた めに 同規 約 が旧 東 独に おい て国 内 法化 され てい た こ とを 必要 とは み なし てい ない
︒ 実際
︑旧 東独 が 同規 約を 批准 す る前 の一 九七 二 年の 事 例に 関す る一 九 九四 年七 月二 六 日 判決
︵
B G H S t 40 , 24 1
︶に おい て︑ 連 邦通 常裁 判所 は
︑B 規約 が一 九 四八 年 の世 界人 権 宣言 を基 礎と して いる こ と︑ 世 界人 権宣 言は 一 九四 五年 の国 連 憲章 の人 権関 連 規定 を具 体化 す るも ので あり
︑ 加盟 国 は人 権の 実現 に 関す る同 憲章 五 五 条の 目的 を国 連 と共 同し て推 進 する 義務 を負 っ てい たこ と︑ 世 界人 権宣 言は 条 約で は ない し︑ また そ れを 国際 慣習 法 と みな す見 解に 従 うこ とは でき な いと して も︑ 世界 人権 宣言 が 人権 を実 現す ると い う国 際法 共同 体の 意思 と これ らの 人 権の おお よそ の 内容 とを 表現 し てい るか ぎり で
︑同 宣 言に は高 度 の法 的な 意義 が存 する
﹂こ と︵
B G H S t 40 , 24 5f f.
︶︑ そ して
︑旧 東独 が 国連 に旧 西独 と とも に加 盟し た のは 一九 七三 年 であ るが
︑そ れ 以前 か ら国 連の 設定 す る目 標を 尊重 す る と宣 言し てき て おり
︑加 盟後 は 同国 の人 権実 務 は国 連の 人権 実 務と 一致 する と 主張 し てき てい たこ と
︑こ れら の点 を 指 摘し た 上で
︑ 人権 につ いて の 解釈 は東 側と 西側 では 異 なっ て いた とし ても
︑人 権問 題に 関す る旧 東 独の 諸 表 明に は
﹁人 は 生命 およ び自 由 の権 利を 有し
︑ これ を国 家は 尊 重し なけ れば なら ず︑ 無制 限に 制約 して は なら ない とい う見 解﹂ が 含 ま れ てい た と 解 しう る と 述 べ てい る
︵
B G H S t 40 , 24 8f .
︶︒ い ず れ に せよ
︑国 際 人権 法 が 旧 東 独 の 国 内 実 定 法 と
(85‑1‑ ) 115 115
な って いな かっ た こと は否 定で き ない が︑ 連邦 通 常裁 判所 は一 貫 して 旧東 独が そ の声 明 等に よっ て国 際 法上 の人 権の 保 護 につ いて 義務 を 負っ てい たと 判 断し てい るの で ある
︒ この よ う に 人 権保 護 に 関 する 国 際 的 な 法確 信 を 援 用し た 上 で︑ 連 邦 通 常 裁 判所 は さ ら に
︑ 人 権 親 和 的 な﹂
m en - sc h en re ch ts fr eu n d lic h
︶ 解釈 が旧 東独 法の も とで も可 能で あっ た と する
︵
B G H S t 39 , 24
︶︒ そ の 手 がか り は 一 九六 八 年 の旧 東独 憲法 に 求め られ る︒ 同 憲法 八九 条二 項 は︑ 法律 は憲 法 に反 して はな ら ない と し︑ また 同三
〇 条一 項は
﹁ド イ ツ 民主 共和 国の す べて の市 民の 人 身と 自由 は不 可 侵で ある
﹂と し
︑さ らに 同二 項 は︑ そ の制 限は 法律 の 根拠 に基 づく 可 罰 的な 行為 また は 治療 行為 の場 合 で︑ 法律 によ り 許容 され かつ 不 可避 であ る場 合 にの み 許さ れる とし て いた
︒こ の﹁ 人 身 の不 可侵
﹂が 生 命へ の権 利の 不 可侵 を含 むか ど うか は明 確で は なか った が︑ 連 邦通 常 裁判 所は
︑B 規 約が 生命 への 権 利 を規 定し てい る こと
︑ま た一 九 八七 年一 二月 一 八日 の 旧東 独刑 法 改正 が死 刑を 廃止 した こ とな どを 挙げ て︑ 人 身の 不 可侵
﹂に は生 命へ の権 利の 不 可侵 を含 むも のと 解釈 し えた と推 定し てい る︵
B G H S t 39 , 23 ff .
︶︒ さら に
︑連 邦通 常 裁 判所 は︑ 旧東 独 は︑ 権力 保有 者 の恣 意が 法律 を 作り うる とし て いた ナチ ス不 法 体制 と は異 なり
︑そ の 憲法 によ れば
︑ 法 律は 拘束 的で あ った こと
︑法 律 は人 民会 議に お いて の み制 定さ れえ たこ と︑ 社 会主 義的 合 法性 の貫 徹﹂ の ため に︑ 自 由︑ 平和 な生 活
︑権 利及 び人 間 の尊 厳を 保護 す る司 法が 設け ら れて いた こと
︑ 裁判 官 はそ の司 法に お いて 独立 であ る こ とな ど が規 定さ れて いた こと な どを 挙げ て︵
B G H S t 39 , 24
︶︑ 上記 のよ う な﹁ 人 権親 和的 な﹂ 解 釈 が旧 東 独 法に お い ても 可能 であ っ たも のと 認定 し てい る︒ こう して
︑連 邦 通常 裁判 所に よ れば
︑国 境法 二 七条 の人 権親 和 的な 解釈 は旧 東 独憲 法 三〇 条二 項に 含 まれ る比 例性 原 則 によ って 根拠 づ けら れる
︒こ の 原則 によ れば
︑ 本件 被害 者の 梯 子を 用い る越 境 の企 図 は刑 法二 一三 条 三項 二号 にい う 犯 罪に 該当 する と はい えず
︑し た がっ て本 件に お ける よう な銃 器 の使 用は 国境 法 二七 条 二項 によ って も 許さ れな い︒ 国 境 法二 七条 二項 は この よう に人 権 親和 的に
︑し た がっ て 比例 性原 則 に照 らし て解 釈す ると
︑ 国境 警備 兵は た しか に同
(法政研究 85‑1‑116 116)
条 項に 掲げ られ て いる 場合 には 逃 亡の 阻止 のた め に銃 器を 使用 す るこ とが でき る が︑ 状 況か らし て武 器 を持 たず
︑ま た 他 人の 身体 生命 に 危害 を加 える 惧 れも ない 逃亡 者 を︑ 殺害 の⎜
⎜ 未必 のま たは 無 条件 の
⎜⎜ 故意 をも っ て射 撃す ると き は
︑正 当 化 事由 の限 界に 突き 当 たる
﹂ とい うこ とを 意 味す るこ と とな る︵
B G H S t 39 , 24
︶︒ し た がっ て
︑本 件 の状 況 の もと での 連続 射 撃が 示す よう な 未必 の故 意に よ る殺 害は
︑人 権 親和 的に 解釈 さ れた 国 境法 二七 条二 項 によ って は正 当 化 され ない
︒本 件 にお ける 正当 化 事由 の排 除の 問 題に つい て︑ 連 邦通 常裁 判所 は この よ うに 結論 して い る45
︒︶
⒟ 遡及 禁 止の 問 題 次に 問題 とな る のは
︑以 上の よ うに 国家 実務 に 基づ く正 当化 事 由を 法律 の人 権 親和 的 解釈 によ って 事 後的 に排 除す る こ とは
︑基 本法 一
〇三 条二 項の 遡 及禁 止に 反し な いか どう かで あ る︒ 連邦 通常 裁 判所 は この 問題 がこ れ まで のと ころ 明 確 に解 決さ れて は いな いこ とを 次 のよ うに 指摘 す る︒ 戦後 のナ チ ス裁 判に おい て 英米 の 法確 信の もと で 展開 され た肯 定 的 な見 解は その 後 のド イツ では 受 け継 がれ てい な い︒ また
︑国 際 人権 B規 約一 五 条二 項 や欧 州人 権条 約 七条 二項 は︑ 遡 及 禁止 規定 に﹁ 行 為時 に国 際社 会 によ って 承認 さ れた 法の 一般 的 原則 によ り犯 罪 であ っ た行 為﹂ を訴 追 し処 罰す るこ と を 排除 しな いと す る例 外規 定を お いて いる が︑ 連 邦共 和国 は欧 州 人権 条約 の同 項 には 留 保を 付し てお り
︑国 際人 権B 規 約 の同 項も 基本 法 一〇 三条 二項 の 適用 に際 して は 考慮 され ない
︒ さら に︑ 遡及 禁 止は 構 成要 件に のみ 関 わり 正当 化事 由 に は関 わら ない と する 見解 があ る が︑ 正当 化事 由 によ る信 頼の 保護 を 直ち に排 除す る理 由 はな い︵
B G H S t 39 , 26 ff .
︶︒ この よう に指 摘 した 上で
︑連 邦 通常 裁判 所は そ れで も本 件の よ うな 正当 化事 由 を事 後 的に 排除 する こ とは 基本 法一
〇 三 条二 項の 遡及 禁 止に 反し ない と する
︒な ぜな ら
︑人 権親 和的 に 解釈 され た旧 東 独法 に は︑ 被告 人ら の 行為 の時 点に お い てそ の行 為を 可 罰的 とす る法 律 の規 定︑ すな わ ち旧 東独 刑法 一 一二 条及 び一 一 三条 が あっ たか らで あ る︒ 基本 法一
〇 三 条二 項は 行為 時 の正 当化 事由 に 対す る信 頼も 保 護す る が︑ 行 為時 の国 家実 務に お ける よう な法 が将 来に お いて も人
(85‑1‑ ) 117 117
権 に反 す る正 当化 事由 が承 認さ れ るよ う な態 様 で 適 用さ れ る で あ ろう と い う 期待 は
︑保 護に 値 し な い﹂
B G H S t 39 , 29 f.
︶︒ 要す るに
︑国 家実 務に よる 正当 化 事由 は人 権に 反す る がゆ えに 排除 され
︑行 為時 に存 した 旧東 独刑 法 の規 定が 適 用さ れる こと に なる とい うわ け であ る︒ ただ
︑ 旧東 独刑 法一 一 二条 及び 一一 三 条と こ れに 対応 する 連 邦共 和国 刑法 二 一 二条 及び 二一 三 条で は︑ 後者 の ほう が刑 の規 定 にお いて より 緩 和的 であ るか ら
︑刑 法 二条 三項 によ り 連邦 共和 国刑 法 が 適用 され るこ と にな る︒
⒠ 責任 の 問題 最後 に︑ 被告 人 らの 責任 が問 題 とな る︒ 連邦 通 常裁 判所 は︑ 命 令に よる 行為 の 免責 に 関す る旧 東独 刑 法二 五八 条一 項 と これ に対 応す る 連邦 共和 国国 防 刑法 五条 一項 を 対比 して
︑刑 の 軽い 後者 を適 用 すべ き だと する
︒そ れ によ れば
︑兵 士 が 上官 の違 法な 命 令に 従っ た行 為 につ いて 責任 を 負う のは
︑そ の 命令 が違 法で あ るこ と を認 識し てい た とき
︑ま たは 兵 士 の知 って いた 状 況か らし てそ の 命令 の違 法性 が 明白 であ った と きだ けで ある
︒ 本件 の 場合 に問 題と な るの は後 者で あ る が︑ 連邦 通常 裁 判所 はベ ルリ ン 地方 裁判 所の 違 法性 の﹁ 明白 性
﹂に つい ての 判 断基 準 と事 実認 定を ほ ぼ追 認し てい る
︒ 違 法性 が明 白で あ るの は違 法性 が
﹁い かな る疑 い も超 えて いる
﹂ とき であ るが
︑ 地裁 は
﹁本 件射 撃が 刑 法に 違反 する こ と は状 況か らし て 明白 であ った
﹂ と認 定し てお り
︑こ の認 定に 対 して 法的 根拠 に よっ て 異議 を唱 える こ とは でき ない と い うわ けで ある
︵
B G H S t 39 , 33 f.
︶︒ もっ とも
︑連 邦 通常 裁判 所は 本 件被 告人 らに
﹁ 明白 性﹂ のメ ル クマ ール を直 ち に適 用 する こと は困 難 であ り︑ また 被 告 人ら に﹁ 便宜 性
﹂や
﹁自 ら思 考 する 態度 の欠 如
﹂や
﹁法 盲目 性
﹂と いう 非難 を 向け る こと も適 切と は 思わ れな いと し て いる
︵
B G H S t 39 , 33 f.
︶︒ 国 境警 備 兵た ちが
﹁社 会 主義 の精 神に お いて
︑連 邦共 和 国に 対 する
︑ま た 国境 警 備施 設を 乗 り越 えて 民主 共 和国 から 逃亡 し よう とす る者 に 対す る︑ 敵視 教 育を 受け てい た
﹂こ と は︑ ベル リン 地 方裁 判所 も触 れ
(法政研究 85‑1‑118 118)
て いる とお りで あ る︒ それ でも
︑ 本 件の よう な状 況 にお い て 武器 を携 行し ない 逃亡 者 を連 続射 撃に よっ て 殺 害す るこ と は︑ きわ めて 恐 るべ き︑ かつ い かな る道 理に 適 った 正当 化も 不 可能 な行 為で あ った の であ り︑ それ ゆ え基 本的 な殺 害 禁 止に 対す るそ の 衝突 は︑ 教化 さ れた 人間 にも 直 ちに 洞察 でき る もの であ り︑ し たが っ て明 白で あっ た
﹂と いう 地裁 の 判 断を 連 邦通 常裁 判所 は支 持し て いる
︵
B G H S t 39 , 34
︶︒ そ の際
︑連 邦 通常 裁 判所 は︑ 旧 東独 の国 民 の多 く が 国境 に お ける 銃器 使用 に 反対 して いた こ と︑ それ ゆえ に こそ 国境 での 銃 器使 用は 守秘 事 項と さ れて いた こと
︑ 国境 警備 隊へ の 入 隊が 志願 によ る もの であ った こ とな どを
︑違 法 性の
﹁明 白性
﹂ の論 拠と して 挙 げて い る︒ そし て︑ 被 告人 らは
﹁禁 止 の 錯誤
﹂に 陥っ て いた とし ても
︑ それ は回 避可 能 であ った とい う 地裁 の判 断を 支 持し て いる ので ある
︒ 量刑 の点 でも 連 邦 通常 裁判 所は ベ ルリ ン地 方裁 判 所判 決を 支持 し てい る︒
⒡ 指導 部 構成 員 裁判 と間 接正 犯 先 に 触 れ た よ う に︑ 連 邦 通 常 裁 判 所 が 扱 った 主 な 指 導 部 構 成 員 裁 判 は 二 件 あ る
︒一 九 九 四 年 七 月 二 六 日 の も の
︵
B G H S t 40 , 21 8
︶と 一九 九 九年 一一 月八 日 のも の︵
B G H S t 45 , 27 0
︶で あ る︒ 前 者は 国防 評議 会構 成員 で あっ た 三名 の 被告 人に 関す る もの であ り︑ 地 方裁 判所 は︑ 一 九七 一年 から 一 九八 九年 にか け て旧 東 独か らド イツ 内 部国 境を 越え よ う とし た七 名の 殺 害に つき
︑二 名 を殺 人教 唆︑ 一 名を 殺人 幇助 に つき 有罪 と判 決 して い る︒ 後者 は旧 東 独最 後の SE D 書 記長 であ った エ ゴン
・ク レン ツ を含 む政 治指 導 者三 名に 関す る もの で︑ 地方 裁 判所 は
︑三 件の 殺人
︑ クレ ンツ につ い て はも う一 件の 殺 人に つき 有罪 と し︑ クレ ンツ に 六年 六月
︑他 の 二名 に三 年の 自 由刑 を 言い 渡し てい る
︒こ の後 者の 裁 判 は連 邦憲 法裁 判 所判 決が 出た 後 のも ので あり
︑ とく に注 目す べ き点 はな い︒ た だし
︑ 前者 のう ちの 二 名︵ ケス ラー
︑ シ ュト レレ ツ︶ と 後者 のク レン ツ は連 邦憲 法裁 判 所に 憲法 異議 を
︑さ らに 欧州 人 権裁 判 所に 救済 申立 を 行っ てい る︒ こ こ では
︑前 者の 判 決の 主要 な論 点 を簡 単に 概観 す る︒
(85‑1‑ ) 119 119
問題 とな った の は︑ 三名 の被 告 人を
﹁間 接正 犯
﹂と みな すか ど うか であ った
︒ 地方 裁 判所 は連 邦共 和 国刑 法に より 二 名 を殺 人教 唆︑ 一 名を 殺人 幇助 と した ので ある が
︑連 邦通 常裁 判 所は 検察 官の 上 訴を 認 めて 三名 とも 殺 人︵ 故殺
︶の 間 接 正犯 につ き有 罪 とし た︵ 連邦 共 和国 刑法 二 一二 条︑ 二 五条
︶︒ 連邦 通常 裁判 所に よ れば
︑ この 場合
︑被 告 人 らの 指令 に よっ て国 境警 備 兵ら が地 雷を 埋 設し
︑自 動射 撃 装置 を設 置し
︑ 致死 的射 撃を 行 った こ とに つい て有 責 に行 為し たか ど う かは
︑被 告人 ら の間 接正 犯の 認 定に は関 わら ない
︒ 間 接正 犯 は︑ 限 定な く有 責に か つ犯 罪行 為者 性を もっ て行 為し た 関与 者が ある 場 合で も︑ 考慮 さ れる から であ る
﹂
B G H S t 40 , 23 2
︶︒ しか し︑ こ のよ うに 限 定な く有 責に 行為 し た正 犯の 背後 にい る 者が 間接 正犯 であ り うる かど うか につ い ては 争い が あ った
︒立 法 者は この 問題 を未 決 にし てお り︑ 学 説も 一 致し てい る わ けで は な い︒ 普及 し て い る見 解
︵H
・H
・イ ェ シ ェッ クや G・ ヤ コブ スな どが 挙 げら れて いる
︶ は﹁ 責任 原理
﹂ に基 づい てこ れ を否 定 して
︑限 定な く 有責 に行 為し た 正 犯を 同 時に 他者 の道 具と み る こ とは で き な い とい う
︒し かし
︑連 邦 通常 裁 判 所 は この 見 解 を 採用 せ ず︑ 背 後 者﹂
H in te rm a n n
︶に 関 する C
・ロ クシ ンの 見 解を 採用 して い る︒ それ によ れば
︑ 直 接 行為 者が 限定 なく 構成 要 件該 当行 為 をな した 場合 で も︑ 背後 者又 は 位階 秩序 の枠 内 で自 立的 な命 令 権限 によ り犯 罪 の指 示 を繰 り返 して い る者 は︑ 直接 行 為 者の 代替 可能 性 によ って 背後 者 が行 為支 配力 を有 して いる 場合
﹂︑ たと えば マフ ィア 組織 の首 領な どの 場 合に は︑ 間 接 正犯 とみ なさ れ る︒ 無制 限の 責 任原 理を とる 見 解に よれ ば︑ こ のよ うな 場合 は 共同 正 犯だ とさ れる が
︑連 邦通 常裁 判 所 は︑ 中心 にい る 者が 道具 とし て 代替 可能 な直 接 行為 者に 犯罪 の 実行 を委 ねて い る場 合 には
︑共 同正 犯 にお ける よう な 行 為の 分業 や共 同 の行 為決 定が あ ると はい えな い とい う 反 論の ある こと を指 摘 して いる
︵
B G H S t 40 , 23 4
︶︒ つま り︑ 被 告人 らを 共同 正 犯と して 構成 す るこ とに は無 理 があ ると いう わ けで ある
︒ 連邦 通常 裁判 所 は︑ 過去 の判 決 を参 照し つつ 背 後者 の間 接正 犯 の限 界確 定基 準 を提 示 した 上で
︑本 件 被告 人ら が軍 の 位 階秩 序に おい て 支配 力を 有し て いた 事実 を認 定 して
︑被 告人 ら の間 接正 犯を 結 論し て いる
︒こ の問 題 はラ ート ブル フ
(法政研究 85‑1‑120 120)