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就職活動における 多段階意志決定モデル

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(1)

卒業研究論文

就職活動における 多段階意志決定モデル

10D8101027C 岩佐 知樹

中央大学理工学部情報工学科 田口研究室

20143

(2)

i

概要

本研究では,就職活動における受験者の期待効用値を見出して,受験社数に対応した期 待効用値の変化を確認することを目的とする.就職活動に関する受験者と企業を定義した 上で,就職活動モデルを確率的多段決定過程として表現する.そのモデルに対して受験社 数や学生の能力値を変えてシミュレーションを行うことによって,期待効用を算出するこ とで目的を達成する.

キーワード:就職活動シミュレーション,確率的多段決定過程,期待効用.

(3)

ii

目次

1章 序論 ... 1

1.1 研究背景と目的 ... 1

1.2 本論文の構成... 2

2章 就職活動モデル ... 3

2.1 受験者の設定... 3

2.1.1 受験者の能力値設定 ... 3

2.1.2 正規分布... 3

2.1.3 Box-Muller法(極座標法) ... 5

2.2 企業の設定 ... 7

2.2.1 企業の評価値 ... 7

2.2.2 受験者が企業に合格した時に得る利得 ... 7

2.2.3 受験者の能力値別の企業の合格率 ... 7

3章 多段決定過程 ... 8

3.1 多段決定過程の概要 ... 8

3.1.1 基本構造... 8

3.1.2 要素間の関係 ... 9

3.1.3 𝑛段決定過程 ... 10

3.1.4 多段決定問題 ... 11

3.2 最適性の原理... 12

3.2.1 最適性の原理の概要 ... 12

3.2.2 最適性の原理の数学的表現 ... 12

3.3 確率的多段決定過程 ... 13

4章 就職活動モデルにおける多段決定過程 ... 14

4.1 多段決定過程の適用 ... 14

4.1.1 基本構造... 14

4.1.2 第𝑛段で得られる効用の設定 ... 18

4.1.3 多段決定過程への変換と解法 ... 19

4.2 受験社数別期待効用の算出 ... 20

5章 結論 ... 25

5.1 まとめ ... 25

5.2 今後の課題 ... 25

謝辞 ... 26

参考文献 ... 27

(4)

1

1

章 序論

1.1

研究背景と目的

1990 年代後半から普及し始めたインターネット上のサイトを利用したオープンエントリ ー方式がここ数年で定着した.このような就職活動の方式の変化につれて,学生の得るこ とができる社会や企業の情報は増加した.2011 年から 2013 年の就職活動における,大学生 が 7 月までに受ける選考試験受験の平均のべ社数(WEB・筆記試験,面接試験,グループデ ィスカッションを足し合わせた社数)は文献[1]より 33.4 社となっており,就職活動が原因 で学校の授業を欠席した日数は平均 6.5 日となっている.このように,現在の就職活動が 学生に与えている影響は,少なからず学業の分野にも及んでいる.

現在の就職活動の特徴として,以下のメリット・デメリットが考えられる.

メリット

1. 学生はより多くの企業を知ることができ,選択の幅が広がる.

2. 企業は就職情報サイトに自社の情報を載せてもらうことによって,幅広い層か らの受験が期待できる.

デメリット

1. 文献[2]より 2013 年就職予定の学生の平均就職活動期間が 8,9 カ月にも及ぶ,

さらにそれに伴う交通費や宿泊費等の金銭的な負担もかかる.

2. 企業は大量の応募人数に対して選考を行う必要があるため,それ相応の時間と 労力が必要になる.

3. 文献[3]より,新卒者を何人採用するかの予定数を「100」とした時に,内定を どのくらい出したかを示す内定総数は平均 104.8 と予定よりも多くの内定を出 しているのがわかる.だが,どれだけ採用したかを示す採用数は平均 82.6 と 100 を下回っており,内定を出した学生が別の企業への入社を選択する傾向が出て いる.

4. 内定を出した学生数から入社人数を予測するのが困難となり,実際の入社人数 と定員との過不足が大きくなる.

本研究の目的は,メリットの 1 とデメリットの 1 に注目し,学生の期待効用が受験社数 によってどう変化するのかをシミュレーションにより算出することである.

(5)

2

1.2

本論文の構成

本論文では,第2章で就職活動モデルを定義し,第 3章で多段決定過程の説明を行う.

4 章では就職活動モデルを多段決定過程に適用し,学生の期待効用が受験社数によって どう変化するのかをシミュレーションにより算出する.

(6)

3

2

章 就職活動モデル

2.1

受験者の設定

2.1.1 受験者の能力値設定

シミュレーションにおける受験者の能力値を正規分布であるとし,平均と標準偏差を表 2.1のように仮定する.計算に現れる受験者の能力値の範囲は0以上4以下に限られるとす る,平均値と標準偏差は以下の表 2.1の通りである.正規分布に関する説明は2.1.3節に述 べる.

表 2.1 受験者の能力値の平均と標準偏差

平均値 標準偏差

2.0 1.0

2.1.2 正規分布

正規分布は様々な統計的処理をする上で中心的な役割を果たす分布で,ランダムな要素 が数多く合成される場合は,この分布で近似されることが多い.

正規分布の定義

連続型の確率変数𝑋のとる値は実数全体であるとして,その確率密度関数が,

𝑓(𝑥) = 1

2π𝜎𝑒

(𝑥−𝜇)2

2𝜎2 (−∞ < 𝑥 < ∞) (2.1)

である時,𝑋は正規分布(normal distribution)に従うという.ここで,μとσは定数でありσ > 0 とする.すなわち,正規分布は 2 つの母数μとσ2により決定されるので𝑁(μ, σ2)と表される.

特に,正規分布𝑁(0,1)を標準正規分布という.なお,μとσ2はそれぞれ𝑋の平均と分散であ る.

正規分布が統計的処理をする上で重要であるのは,確率分布に関して次の中心極限定理 が成り立つからである.

(7)

4 中心極限定理

𝑋1, 𝑋2, ⋯ , 𝑋𝑛は互いに独立で,いずれも平均μ,分散σ2をもつ同じ分布に従っているとする.

この時,母集団の分布がどんな分布であっても,サンプルのサイズnが十分大きければ,和 𝑋1+ 𝑋2+ ⋯ + 𝑋𝑛の分布は正規分布𝑁(nμ, nσ2)に従い,平均𝑋̅ =1

𝑛∑ 𝑋𝑖 𝑖の分布は正規分布 𝑁 (𝜇,𝜎𝑛2)に従う.すなわち,

Z = 1

𝑛∑ 𝑋𝑖 𝑖− 𝜇 𝜎

√𝑛

= 𝑋̅ − 𝜇 𝜎

√𝑛

(2.2)

は,n → ∞の時,極限分布として標準正規分布𝑁(0,1)に従う.

受験者の能力値は正規分布に従うものと仮定する.平均値が 2.0,標準偏差が 1.0 となる正 規分布曲線は図 2.1のようになる.

図 2.1 正規分布曲線

正規乱数の発生方法として,2.1.3 節のBox-Muller法を用いる.

(8)

5 2.1.3 Box-Muller(極座標法)

2 次元の標準正規分布を考える.

𝑃{(𝑋, 𝑌 ∈ 𝐴)} = ∫ 1

√2𝜋𝑒−𝑥

2 2 × 1

√2𝜋𝑒−𝑦

2 2 𝑑𝑥𝑑𝑦

𝐴

= 1

√2𝜋∫ 𝑒𝑥

2+𝑦2 2 𝐴

𝑑𝑥𝑑𝑦

(2.3)

このとき同時密度関数が二つの密度関数の積となっているので,𝑋, 𝑌は独立である.

𝑋, 𝑌を極座標𝑅,(0 ≤ 𝑅 < ∞, 0 ≤ < 2𝜋)に変換すると 𝑃{(𝑅,) ∈ 𝐴} = 1

√2𝜋∫ 𝑒𝑟

2 2 𝐴

𝑟𝑑𝑟𝑑𝜃 (2.4)

となる.このことから,確率変数𝑅,は独立で,𝑅は[0, ∞)上で確率密度が 𝑟𝑒𝑟

2

2 (2.5)

となる分布に伴い,は[0,2𝜋]上で確率密度 1

2𝜋 (2.6)

に従う一様分布になることがわかる.𝑅の分布関数は 𝐹(𝑟) = ∫ 𝑠𝑒𝑠

2 2𝑑𝑠

𝑟 0

= 1 − 𝑒𝑟

2 2

(2.7)

であり,その逆関数は

𝐹−1(𝑢) = √−2log (1 − 𝑢) (2.8)

と計算できる.

したがって,正規分布に従う乱数は,次のような手続きで生成できることがわかる.

Step1:

区間[0,1]上の独立な一様乱数𝑈, 𝑉を生成する.

Step2:

𝑈, 𝑉を式(2.6),(2.8)を用いて変換し,

𝑅 = √−2 log 𝑈 = 2𝜋𝑉

より𝑅,を得る.

(𝑈が[0,1]上の一様乱数なら 1- 𝑈も[0,1]上の一様乱数となる.) Step3:

さらに𝑅,を変換し,

(9)

6 𝑋 = 𝑅 cos

𝑌 = 𝑅 sin

より二つの正規乱数𝑋, 𝑌を得る.

(10)

7

2.2

企業の設定

2.2.1 企業の評価値

企業の評価値は,受験者の能力値分布と11の関係で与えられているものとする.各 企業の評価値は受験者の能力値の領域である0 以上4 以下の範囲で等間隔に設定する.仮 に𝑚個 の 企 業 が 存 在 す る と し た 場 合 , 企 業 の 評 価 値 は 番 号 の 若 い 方 か ら 順 に {4

𝑚, 24

𝑚, ⋯ , (𝑚 − 1)4

𝑚,4}の評価値が与えられることになる.

評価値を設定することによって,各企業の利得と受験者の能力値別の合格率を表現する.

2.2.2 受験者が企業に合格した時に得る利得

企業𝑖に合格した時に得る利得𝑅𝑖は,企業の評価値𝑐𝑖と全ての企業に対する評価値の平均 値𝑐̅と日本人の給与所得者の年間平均給与𝑅̅を用いて,

𝑅𝑖 =𝑐𝑖

𝑐̅× 𝑅̅ (2.9)

と設定する.ここで,𝑅̅は文献[4]より 408 万円とする.

2.2.3 受験者の能力値別の企業の合格率

受験者の能力値𝑠に対して企業𝑖の評価値𝑐𝑖に応じた,合格率𝑝𝑖を以下のように定める.ま ず,受験結果は受験者が選考試験で発揮した得点𝑥が企業の評価値以上の場合に合格とし,

未満の場合は不合格とする.企業の評価値が2.2.1節で述べた,受験者の能力値分布と11の関係で与えられているという条件の下,能力値𝑠の受験者が試験本番で取りうる得点𝑥の 範囲を能力値𝑠と標準偏差𝜎を用いて,

𝑠 − 𝜎 ≤ 𝑥 ≤ 𝑠 + 𝜎 の範囲の一様分布であると仮定する.

今回の受験結果の方式では,得点𝑥が企業の評価値以上の場合に合格とし,未満の場合は 不合格としたため,ある企業𝑖に対して合格率𝑝𝑖

𝑝𝑖= ∫ 1 2𝜎𝑑𝑥

𝑠+𝜎 𝑐𝑖

=(𝑠 + 𝜎) − 𝑐𝑖 2𝜎

(2.10)

となり,標準偏差𝜎は定数であるため,合格率𝑝𝑖は𝑠と𝑐𝑖の関数となる.

(11)

8

3

章 多段決定過程

3.1

多段決定過程の概要

多段決定過程(multi-stage decision process)とは,その過程(process)がいくつかの段階 (stage)により成り立ち,各段階において,その過程の状態を決める決定変数があり,その 決定変数の値を決めると次の段階に移るような過程のことである.

3.1.1 基本構造

多段決定過程の基本構造は以下の5つの要素から成る.

1. 状態集合S :各段階において観測されるシステムの状態を𝑠,観測されうる全ての状

態の集合をSで表す.

2. 決定集合D :各段階において,システムの状態s∈Sが観測され,その後にある決定

が下される.この決定を𝑑で表す.全ての決定の集合をDと表す.

3. 状態推移規則T :各段階での決定の結果として,状態の推移法則を与えるもの.

4. 直接利得R :各段階での状態及び決定により得られる利得.

5. マルコフ性 :各段階でのシステムの状態と決定だけが次の段階での状態に影響を与 え,過程の履歴には無関係であるという性質.

(12)

9 3.1.2 要素間の関係

3.2.1節で述べた要素1,2,4について,簡単に説明すると次のようになる.

状態 = 「現在どこにいるのか」

決定 = 「現在何をすべきか」

利得 = 「どの程度うまく仕事をしているか」

多段決定過程では,1 つの段のアウトプット(状態)が次の段のインプット(状態)になり,

3.1のように表すことができる.

𝑑𝑛 𝑑𝑛−1

𝒙𝒏

第𝑛段

𝒙𝒏−𝟏

第(𝑛 − 1)段

𝒙𝒏−𝟐

𝑅𝑛 𝑅𝑛−1

図 3.1 段での要素間の関係

段の番号は通常降順,𝑛段決定過程の場合𝑛,𝑛 − 1,⋯,1とつける.

𝑛段 に お け る 決 定𝑑𝑛に よ り 状 態𝑠𝑛が 状 態𝑠𝑛−1= 𝑇𝑛(𝑠𝑛, 𝑑𝑛)に 変 換 さ れ , 利 得𝑅𝑛 = 𝑅𝑛(𝑠𝑛, 𝑑𝑛)が得られる.

(13)

10 3.1.3 𝑛段決定過程

𝑛段決定過程を考える.すなわち,システムが段階𝑛において,集合𝑆𝑛に属する状態𝑠𝑛

初期状態として始めたとする.

第𝑛段階における状態𝑠𝑛と決定𝑑𝑛によって利得𝑅𝑛(𝑠𝑛, 𝑑𝑛)を生み,状態𝑠𝑛は状態

𝑠𝑛−1 = 𝑇𝑛(𝑠𝑛, 𝑑𝑛) (3.1)

に変換される.次にシステムは第𝑛 − 1段階に移り,状態𝑠𝑛−1と決定𝑑𝑛−1によって利得 𝑅𝑛−1(𝑠𝑛−1, 𝑑𝑛−1)を生み,状態𝑠𝑛−1は状態推移規則𝑇𝑛−1により,段階𝑛 − 2での状態𝑠𝑛−2に推 移する.以降同様のプロセスを繰り返し,最後に段階1において状態𝑠1と決定𝑑1によって利 得𝑅1(𝑠1, 𝑑1)を生み,状態𝑠1は状態推移規則𝑇1により最終状態𝑠0に入り,利得𝑅0(𝑠0)が定まっ てこの多段決定過程は終了する.この時,各段階で選択する決定𝑑𝑖(𝑖 = 𝑛, 𝑛 − 1, ⋯ ,1)は,目 的関数として受け取る利得の実数値関数(𝑅𝑛, 𝑅𝑛−1, ⋯ , 𝑅1, 𝑅0)を最大(または最小)にするよ うに選ばれる.各段階で選択される決定の系列{𝑑𝑛, 𝑑𝑛−1, ⋯ , 𝑑1}を政策と呼び目的関数

を最大(または最小)にする政策を最適政策といい,𝑑𝑛, 𝑑𝑛−1 , ⋯ , 𝑑1で表す.

システムの状態推移法則𝑇を用いると,目的関数は次のように変形できる.

(𝑅𝑛(𝑠𝑛, 𝑑𝑛), 𝑅𝑛−1(𝑠𝑛−1, 𝑑𝑛−1), ⋯ , 𝑅1(𝑠1, 𝑑1), 𝑅0(𝑠0))

=(𝑅𝑛(𝑠𝑛, 𝑑𝑛), 𝑅𝑛−1(𝑇𝑛(𝑠𝑛, 𝑑𝑛), 𝑑𝑛−1), 𝑅𝑛−2(𝑇𝑛−1(𝑇𝑛(𝑠𝑛, 𝑑𝑛), 𝑑𝑛−1), 𝑑𝑛−2), ⋯ , 𝑅0(⋯ ))

= ℎ(𝑠𝑛, 𝑑𝑛, 𝑑𝑛−1, ⋯ , 𝑑1) (3.2) したがって,全ての𝑠𝑛−1, ⋯ , 𝑠1, 𝑠0 が消去され,目的関数値はシステムの初期状態𝑠𝑛と,各 段階で取る決定𝑑𝑛, 𝑑𝑛−1, ⋯ , 𝑑1によって定められる.

𝑑𝑛 𝑑𝑛−1 𝑑1

𝑠𝑛 第𝑛段

𝑠𝑛−1

第(𝑛 − 1)段

𝑠1

第1段 𝑠0

𝑅𝑛(𝑠𝑛, 𝑑𝑛) 𝑅𝑛−1(𝑠𝑛−1, 𝑑𝑛−1) 𝑅1(𝑠1, 𝑑1) 𝑅0(𝑠0) 𝑠𝑛−1= 𝑇(𝑠𝑛, 𝑑𝑛) 𝑠1= 𝑇(𝑠2, 𝑑2) 𝑠0= 𝑇(𝑠1, 𝑑1)

図 3.2 n段決定過程

(14)

11 3.1.4 多段決定問題

多段決定問題とは,与えられた多段決定過程の目的関数の値を最適にするような決定 (decision)の列を求める問題である.与えられた多段決定過程に対し,可能な決定の列を政 策(policy)と言い,目的関数を最適にする政策を最適政策(optimal policy)という.

多段決定問題の特色は,決定が列となるので,初期の決定があとの決定に影響すること である.したがって,目的関数の値を最適にするには,はじめの決定を行う時点で残りの 段階を全て考慮に入れる必要がある.

𝑁次元の多段決定問題を解く一般的な方法では,𝑁個の最適決定を同時に決めることにな る.本研究では,この多段決定問題に就職活動モデルを当てはめて,受験者は期待効用を 最大にするような最適決定を行うものとし,学生の期待効用が受験社数によってどう変化 するのかをシミュレーションにより算出する.

(15)

12

3.2

最適性の原理

3.2.1 最適性の原理の概要

最適性の原理(Principle of optimality)とは,「最適政策は,最初の状態と最初の決定が何 であっても,残りの決定は最初の決定から生じた状態に関して最適政策を構成しなければ ならない」というものである.すなわち,𝑛段階の多段決定問題を考えた時,第一段階にお ける決定をどのように選択しても,最適解を求めるためには,残りの(𝑛 − 1)段階において 最適政策を用いなければならない.この原理のもとで,第一段階での決定を変化させるこ とによって,𝑛段階に対する最適政策を求めることができる.

3.2.2 最適性の原理の数学的表現

𝑓𝑛(𝑠)を「状態が𝑠であるとき,最適政策を用いて得られる𝑛段階での最大利得」と定義す

る.𝑛は決定過程で残っている段階の数を示す.初期段階𝑛 = 𝑁において決定𝑑𝑁を選択した とすれば,システムの状態は𝑇𝑁(𝑠, 𝑑𝑁)に変化する.以後は𝑇𝑁(𝑠, 𝑑𝑁)を新しい初期状態と見做 し,最適政策を残りの𝑛 − 1段階用いたとすれば,受け取る利得は𝑓𝑛−1(𝑇𝑁(𝑠, 𝑑𝑁))となる.最 適性の原理によれば,最初の決定が何であっても,この問題の最適解を求めるには残りの 段階に対して最適決定を用いなければならない,したがって,

𝑓𝑛(𝑠) = max

𝑑𝑁 𝑓𝑛−1(𝑇𝑁(𝑠, 𝑑𝑁)) (3.3) が成立する.式 (3.3)は再帰関係式であり,𝑁 ≥ 𝑛 ≥ 2を満足する𝑛に対して成立し,特に 𝑛 = 1に対しては

𝑓1(𝑠) = max

𝑑𝑁 𝑅(𝑇𝑁(𝑠, 𝑑𝑁)) (3.4) が成立している.

(16)

13

3.3

確率的多段決定過程

不確実性を含む逐次決定過程で,確率変数に対する分布関数が既知の場合を確率的決定 過程という.確率的決定過程では,ランダム変数による不確定要素のために最適決定の列 を前もって指定することはできない.すなわち,𝑖番目の段階の最適決定𝑑𝑖は,状態𝑠𝑖を観 測し,その段階における不確定要素がなくなったときに初めて決めることができる.一般 的に確率的決定過程に対する最適政策は,過程の現在の状態に依存する.

確率的多段決定過程では,状態変換𝑇𝑛は,過程の現在の状態𝑠𝑛,決定𝑑𝑛及び不確定要を 表す確率変数𝑝𝑛で定められ,

𝑠𝑛+1= 𝑇𝑛(𝑠𝑛, 𝑑𝑛, 𝑝𝑛)

のように表される.ただし,𝑝𝑖は状態𝑠𝑖に依存しないと仮定し,また𝑝𝑖は既知の確率分布を 持つと仮定する.目的は各段階での利得の和

∑ 𝐽𝑛(𝑠𝑛, 𝑑𝑛)

𝑛

𝑖=1

の期待値を最大にするような決定系列𝑑1, 𝑑2, ⋯ , 𝑑𝑛を求めることである.

𝑑𝑛 𝑑𝑛−1 𝑑1

𝑠𝑛 第𝑛段

𝑠𝑛−1

第(𝑛 − 1)段

𝑠1

第1段 𝑠0

𝐽𝑛(𝑠𝑛, 𝑑𝑛) 𝐽𝑛−1(𝑠𝑛−1, 𝑑𝑛−1) 𝐽1(𝑠1, 𝑑1) 𝐽0(𝑠0) 𝑠𝑛−1= 𝑇(𝑠𝑛, 𝑑𝑛, 𝑝𝑛) 𝑠1= 𝑇(𝑠2, 𝑑2, 𝑝2) 𝑠0= 𝑇(𝑠1, 𝑑1, 𝑝1)

図 3.3 確率的多段決定過程

(17)

14

4

章 就職活動モデルにおける多段決定過程

受験者は就職活動浪人というデメリットを回避する確率を上げるため,ある程度の数の 企業の選考を受けることは合理的であると考えられる.しかし,合格した企業が複数社で も,受験者が入社できる企業は 1 つしかないため,入社する企業以外からの利得を得るこ とはできない.その上,企業の選考には交通費や宿泊代等の費用がかかるため,受験者の 受験社数はこれらの影響を受けて制限されると考えられる.

本章では,受験者の期待効用が最大になる受験社数を推定する.本研究における期待効 用とは,受験者が𝑛社の選考を受ける場合に得られる満足度を数値化したものと定義する.

4.1節では,第3章にて述べた確率的多段決定過程を用いて受験者が企業を選考するモデル を構築する.4.2 節では,そのモデルを用いてシミュレーションにより期待効用を算出し,

結果を考察する.

4.1

多段決定過程の適用

4.1.1 基本構造

受験者はある企業の選考の結果によって,次にどの企業の選考を受けるかを決定する.

この時,既に合格した企業に対する効用値と,現在合格している企業よりも評価値の高い 企業に将来合格する期待から生じる効用を指標に,受験者はどの企業を受験すべきかを判 断する.つまり,受験者は選考の合否を確認する(段階)ごとに,期待効用を最大にするよう な企業の選択(決定)をすると仮定し,第3章の確率的多段決定過程を用いて受験者の意思決 定を考える.本章では受験者が最適決定を行ったときに得られる期待効用を求める.ただ し,受験者が最終的に得られる効用値は,最終段階までに合格した企業の内最も高い効用 値を持つ企業の一つだけであるとする.また,受験者は各段階にて企業の選考結果が発表 された後に次の企業の受験を決定し,任意の順序で選考を受けることが可能であると仮定 する.

図 4.1の決定過程における要素を以下に示す.

𝑛 : 受験回数 (本研究では,𝑛 = 0,1,2,3,4,5のいずれかの値を持つとする.)

𝑚 : 企業数 (本研究では,𝑚 = 15とする.)

𝑖 : 𝑖回目に選考を受けた企業の合否が発表された段階 (𝑖 = 0,1, ⋯ , 𝑛)

𝑑𝑖 : 𝑖 + 1回目に決定した選考を受ける企業の企業番号 (di∈ 1,2, ⋯ , 𝑚)

𝑠𝑖 : 𝑖回目に選考を受けた企業において,合否の発表がされた状態

(状態𝑠𝑖は段階𝑖までの決定𝑑0, 𝑑1, ⋯ , 𝑑𝑖−1で得られる合否の結果を保持している.)

(18)

15 𝑝𝑑𝑖 : 𝑖 + 1回目に受験した企業の合格率

𝑇𝑖 : 各段階での決定の結果として状態の推移法則を与えるもの

𝐽𝑖 :段階𝑖で得られる受験者の効用値

図 4.1 就職活動モデルにおける確率的多段決定過程

図 4.1 は本研究における就職活動モデルを表したものである.段階0 から始まり,まだ 選考を受けていない企業の中から 1 社の企業を選択し,確率によって合否が決まり,それ によって状態𝑠𝑖が定まる.しかし,段階𝑖における状態𝑠𝑖は状態𝑠𝑖−1から決定𝑑𝑖−1行った後に 確率𝑝𝑑𝑖−1によって推移するため,状態𝑠𝑖は状態𝑠𝑖−1から決定𝑑𝑖−1を行った時点では一意的に 定まらない.3.3 節で述べているように,最適決定𝑑𝑖は,状態𝑠𝑖を観測し,その段階におけ る不確定要素がなくなったときに初めて決めることができるため,この木に対して,効用 値𝐽𝑖を期待効用𝐽𝑖(𝑠0)とし,「状態𝑠0から始めて𝑖段階までの決定𝑑0, 𝑑1, ⋯ , 𝑑𝑖−2, 𝑑𝑖−1で得られる 期待効用」と定義し直すことで,状態𝑠𝑖が状態𝑠𝑖−1から決定𝑑𝑖−1を行った時点で定まるモデ ルに変換する必要がある.図 4.1の第一段階で𝑑0= 1の時を例として説明すると,決定𝑑0

(19)

16

行った後に,合格・不合格によって 2 つの状態が生ずる.それぞれに対して二段階目以降 全く同じ選択を進めていく 1 組のパスを考える.これらに対して,第一段階の合格・不合 格の確率事象のところだけを期待値をとって,合格の時の状態と不合格の時の状態を一つ にまとめた状態と考える.その結果,不確定要素が無くなり,最適決定𝑑𝑖を求めることが できる.つまり,得られた効用値の期待値を状態𝑠0からの全ての決定𝑑0, 𝑑1, ⋯ , 𝑑𝑖−2, 𝑑𝑖−1に 対して算出することで,状態と決定と確率で得られる効用値を状態と決定に対する期待値 で表し,図 4.1 のモデルの状態𝑠𝑖を状態𝑠0と決定𝑑0, 𝑑1, ⋯ , 𝑑𝑖−2, 𝑑𝑖−1で表せるモデルに変換 するということである.変換後のモデルは4.1.3節で述べる.0段階から 𝑛段階までの全て の決定に対する𝐽𝑖(𝑠0)はシミュレーションによって計算する.つまり,図 4.1のモデルに対 して実際に全てのパスに対して何度も受験を繰り返すシミュレーションを行い,得られた 効用値の期待値を変換後の全ての状態𝑠𝑖に対して算出することになる.ただし,𝑝𝑑𝑖は状態𝑠𝑖 に依存しないと仮定し,また𝑝𝑑𝑖は既知の確率分布を持つと仮定する.本研究では,式(2.9) により各企業に合格した場合の利得を設定し,式(2.10)にて合格率𝑝𝑖を設定する.各企業に 合格した場合の利得を表 4.1に,受験者の能力値別の合格率を表 4.2に示す.表 4.2での 受験者の能力値は平均値𝜇と標準偏差𝜎を用いて,𝜇 − 2 × 𝜎,𝜇 − 𝜎,𝜇,𝜇 + 𝜎,𝜇 + 2 × 𝜎,

の場合について考えることにする.

表 4.1 各企業の評価値と合格した場合の利得 企業番号 企業の評価値 利得(万円)

1 0.26 51

2 0.53 102

3 0.8 153

4 1.06 204

5 1.33 255

6 1.6 306

7 1.86 357

8 2.13 408

9 2.4 459

10 2.66 510

11 2.93 561

12 3.2 612

13 3.46 663

14 3.73 714

15 4 765

(20)

17

表 4.2 受験者の能力値別の合格率(%) 受験者の能力値

0.0 1.0 2.0 3.0 4.0

企業番号

1 60 100 100 100 100

2 45 95 100 100 100

3 30 80 100 100 100

4 15 65 100 100 100

5 1 51 100 100 100

6 0 36 86 100 100

7 0 21 71 100 100

8 0 7 57 100 100

9 0 0 42 92 100

10 0 0 27 77 100

11 0 0 13 63 100

12 0 0 0 48 98

13 0 0 0 33 83

14 0 0 0 18 68

15 0 0 0 4 54

(21)

18

4.1.2 𝑛段で得られる効用の設定

本研究では効用を,受験者が𝑛社を受験する場合に得られる満足度を数値化したものと定 義している.満足度の指標として,利得や費用等の金額を用いる.

就職活動では,受験者が最終的に得られる効用値は最終段階までに合格した企業の内最 も高い効用値を持つ企業の一つだけであるため,𝑛社の選考を受けた場合に得られる利得は,

合格している企業の集合を𝑊,合格した企業から得られる利得を𝑅(𝑤) (𝑤 ∈ 𝑊)とおくと,

maxw∈W𝑅(𝑤) − 𝑛 × 𝑡 (4.1)

と表すことができる.ただし,一回の選考に対する選考費用𝑡を,文献[5]から引用する就職 活動全体でかかる平均の費用の内,交通費73649円,宿泊費11615円,資料費9694円と 最大受験社数𝑁を扱うによって,

𝑡 =(交通費) + (宿泊費) + (資料費) 𝑁

(4.2)

で求めることとする.本研究における最大受験社数は5回であるため,選考費用𝑡は18991 円とする.

例外として,その年の選考結果が全て不合格だった受験者の効用値を設定する.モデル を簡単にするため,その年の選考結果が全て不合格だった受験者は 1 年間就活浪人すると 考える.2年目以降の多段決定過程は考えないものとする.全ての選考に不合格だった場合,

受験者は1年間仕事をする機会を損失し,社会人の平均給与408万円分の効用を失うため,

-408万円とする.

(22)

19

4.1.3 多段決定過程への変換と解法

4.1.1節と4.1.2節に基づき,シミュレーションによって,全ての段階での期待効用値𝐽𝑖(𝑠0)

を求める.状態𝑠0から始め,状態𝑠𝑖で終わるような過程の効用を,各決定𝑑0, 𝑑1, ⋯ , 𝑑𝑖−2, 𝑑𝑖−1 に対する一意的な期待効用𝐽𝑖(𝑠0)とすることで,図 4.1のモデルを図 4.2のような多段決定 過程に変換できる.

図 4.2の決定過程における要素を以下に示す.

𝑛 : 受験回数(本研究では,𝑛 = 0,1,2,3,4,5のいずれかの値を持つとする.)

𝑚 : 企業数(本研究では,𝑚 = 15とする.)

𝑖 : 𝑖回目に選考を受けた企業の合否が発表された段階(𝑖 = 0,1, ⋯ , 𝑛)

𝑑𝑖 : 𝑖 + 1回目に決定した選考を受ける企業の企業番号(di∈ 1,2, ⋯ , 𝑚)

𝑠𝑖 : 𝑖回目に選考を受けた企業において,合否の発表がされた状態

(状態𝑠𝑖は段階𝑖までの決定𝑑0, 𝑑1, ⋯ , 𝑑𝑖−1を保持している.) 𝑇𝑖 : 各段階での決定の結果として状態の推移法則を与えるもの

𝐽𝑖(𝑠0) : 状態𝑠0から始めて𝑖段階までの決定𝑑0, 𝑑1, ⋯ , 𝑑𝑖−2, 𝑑𝑖−1で得られる期待効用

図 4.2 就職活動モデルの多段決定過程

(23)

20

図 4.1 に比べて,図 4.2 の多段決定過程は,確率𝑝𝑖により推移する結果である合否が状 態から抜けているため,確率𝑝𝑖により推移する状態は全て一つの状態に集約される.したが って,状態𝑠𝑖は状態𝑠0と各決定𝑑0, 𝑑1, ⋯ , 𝑑𝑖−2, 𝑑𝑖−1で表すことができる.

目的は初期状態𝑠0と各段階での決定𝑑0, 𝑑1, ⋯ , 𝑑𝑛−2, 𝑑𝑛−1により定まる効用値 𝐽(𝑠0, 𝑑0, 𝑑1, ⋯ , 𝑑𝑛−2, 𝑑𝑛−1)

の期待値と,期待値を最大にするような最適政策𝑑0, 𝑑1, ⋯ , 𝑑𝑛−1 を求めることである.

今,全ての状態𝑠𝑖に対する期待効用値がシミュレーションにより求まっているため,最も 大 き い 値 を 持 つ𝐽𝑛(𝑠0)に 対 応 す る 決 定𝑑0, 𝑑1, ⋯ , 𝑑𝑛−2, 𝑑𝑛−1𝑛段 階 に お け る 最 適 政 策 𝑑0, 𝑑1, ⋯ , 𝑑𝑛−1 となる.この𝐽𝑛(𝑠0) の最大値を本研究では全探索によって求めることとする.

4.2

受験社数別期待効用の算出

4.1.3 節にて設定された多段決定過程を用いて,受験者の各能力値に対する受験社数が 1

社から 5社の時の最大期待効用値と最大期待効用値を出力する最適政策𝑑0, 𝑑1, ⋯ , 𝑑𝑛−1 を求 める.結果を表 4.3と図 4.3から図 4.7に示す.表 4.3は受験者の能力値毎の受験社数別 の最適政策を示しており要素の数字は企業番号を表している,図 4.3から図 4.7 は受験者 が各受験社数に対して最適決定を行えることを仮定した時の効用値を表している.図 4.3 から図 4.7を作成する際に扱った各要素を表 4.4に示す.

表 4.3 各受験者の受験社数別の最適政策 受験者の能力値

0.0 1.0 2.0 3.0 4.0

受験社数 1 {1} {2} {5} {8} {12}

2 {1,2} {2,5} {5,9} {8,12} {12,15}

3 {1,2,3} {2,5,6} {5,8,9} {8,12,13} {12,14,15}

4 {1,2,3,4} {2,5,6,7} {5,8,9,10} {8,11,12,13} {12,13,14,15}

5 {1,2,3,4,12} {2,4,5,6,7} {5,8,9,10,11} {8,11,12,13,14} {7,12,13,14,15}

(24)

21

図 4.3 能力値が𝜇−2×𝜎=0.0の場合の期待効用

図 4.4 能力値が𝜇−𝜎=1.0の場合の期待効用 -126

-36

-16 -18 -20

-140 -120 -100 -80 -60 -40 -20 0

1 2 3 4 5

期 待 効用 値

受験社数

86

175

221

249 265

0 50 100 150 200 250 300

1 2 3 4 5

期 待効 用 値

受験社数

(25)

22

図 4.5 能力値が𝜇=2.0の場合の期待効用

図 4.6 能力値が𝜇+𝜎=3.0の場合の期待効用 253

349

393

424 439

0 50 100 150 200 250 300 350 400 450 500

1 2 3 4 5

期 待 効 用値

受験社数

412

515

563 594 613

0 100 200 300 400 500 600 700

1 2 3 4 5

期 待 効 用 値

受験社数

(26)

23

図 4.7 能力値が𝜇+2×𝜎=4.0の場合の期待効用

表 4.4 各受験者の受験社数別の期待効用 受験者の能力値

0.0 1.0 2.0 3.0 4.0

受験社数 1 -126 86 253 412 603

2 -36 175 349 515 694

3 -16 221 393 563 725

4 -18 249 424 594 728

5 -20 265 439 613 727

表 4.4より,受験者の能力値によって得られる期待効用の値に差があることが分かる.

これは受験者の能力値によって各企業に対する合格率が異なるからである.能力値の高い 受験者であるほど,より高い利得を持つ企業に合格する確率が上がるため,同じ受験社数 でも得ている期待効用の値には大きな差がある.

受験社数が最大 5 社と少ないため,最適な受験社数を各段階の期待効用値の比較により 導き出すのは難しいが,図 4.3から図 4.7より,各能力値に対する期待効用値の傾向の違 いは見られた.その傾向をよりわかりやすくするため,各受験社数における効用値の差を 表 4.5に表すことにする.

603

694 725 728 727

0 100 200 300 400 500 600 700 800

1 2 3 4 5

期 待効 用 値

受験社数

(27)

24

表 4.5 各受験者の受験社数別の期待効用の増分 受験者の能力値

0.0 1.0 2.0 3.0 4.0

受験社数 2 90 89 96 103 91

3 20 46 44 49 30

4 -2 27 30 31 4

5 -2 17 15 19 -1

表 4.5の各要素は,表 4.4の受験社数毎に得られる期待効用の増分を示したものである.

つまり,受験者の能力値が1.0であり受験社数が2の要素は,能力値が1.0の受験者の受験 社数が1で就職活動を終えた時の効用値と,受験社数が2で終えた時の効用値との増分を 示している.この場合,受験社数2で終えた時に受験社数1で終えた時よりも89の効用が 増加していることになる.このように効用値の差(増分)を単に表 4.4の各要素と次の要素と の差で表現するためには,シミュレーションにより求めた最適決定𝑑0, 𝑑1, ⋯ , 𝑑𝑛−13.2 節 にて述べられている最適性の原理に従っていることが必要になっている.表 4.3 により,

シミュレーションの結果は最適性の原理に従っていることがわかるので,表 4.5 の効用値 の増分の表現は十分成り立っていると言える.

表 4.5より,受験者の能力値が𝜇−2×𝜎と𝜇+2×𝜎の場合の受験社数毎の効用値の増分が,他 の能力値の場合に比べて値が小さい傾向にあることが見てとれる.能力値が𝜇−2×𝜎の受験者 は各企業に対する合格率が低いので,受験社数を増やしても現在合格している企業よりも 評価値の高い企業に合格することが困難であるため,受験社数を増やすことによる効用値 の増分は小さい.能力値が𝜇+2×𝜎の受験者は各企業に対する合格率が高いため,受験社数を 増やさなくとも評価値の高い企業に合格することが比較的容易であるため,受験社数を増 やすことによる効用は小さい.つまり,能力値の低い受験者と高い受験者は受験社数を増 やしても選考費に見合った期待効用が得られないため,別の能力値の受験者と比べた時に,

受験社数を増やすことによる期待効用値の増分は小さいと推測できる.能力値が𝜇−𝜎,𝜇,

𝜇+𝜎の受験者の受験社数による増分は表 4.5 より非常によく似ていることがわかる.これ

は与えられた企業の選択肢が同じであるならば,その能力値に対する最適決定を行った場 合の次の選考に対する効用値の増分はこの 3 つの能力値によって差があまりないことを示 している.

表 4.5 で全ての能力値に対して明確に結果として表れているのは,受験社数を重ねると 得られる期待効用の増分は単調減少しているということである.これは受験社数を増加さ せればさせるほど受験者にとって選考費用に見合う期待効用値を得られるわけではないこ とを意味する.

(28)

25

5

章 結論

5.1

まとめ

本研究では,就職活動における受験者の最適な選考パターンにおける期待効用値を算出 し,受験社数毎に比較した.就職活動モデルには確率的多段決定過程を適用し,多段決定 問題として最適な期待効用値を推定した.しかし,ある企業に対して選考の決定を終えて から企業の合格発表があると仮定しているため,現在の状態がそれまでの決定のみで表現 できていなかった.したがって,実際にシミュレーションにより各決定のパターンを全て 実行することによって,それぞれの状態に対する効用値の期待値を算出した.これを新た に多段決定過程に適用し,現在の状態がそれまでの決定のみで一意的に定まる過程に組み 替えてから,多段決定問題として目的である最適決定とその時の最大期待効用を算出した.

就職活動において受験社数を増加させることによって,受験者の期待効用値が単調に増 加し続けるわけでは無いことが分かった.さらに,各能力値の受験者によって,最適とな る受験社数には違いがあるため,推奨すべき受験社数は受験者毎に変わることが分かった.

5.2

今後の課題

今後の課題として,受験者の受験社数の増減によって変動する企業の応募数に対応する 合格率の変化の考慮や,シミュレーション可能な受験社数と企業数の増加,さらに受験者 の期待効用だけでなく企業側の『人材を採用予定人数分確保する』という指標の期待効用 も考慮した場合の総期待効用が最大になる受験社数の算出が挙げられる.これらは正確な サンプルデータを用いて企業の合格者数の水増し率を算出することや,多段決定問題に動 的計画法を適用することによってある程度改善されると考えられる.

(29)

26

謝辞

本研究を進めるにあたり,多くのご指導とご助言を頂きました田口東教授,南さつき助教 に心から感謝いたします.また多くのご助言,ご協力頂きました田口研究室の皆様には大 変お世話になりました.心から感謝いたします.

(30)

27

参考文献

[1]ディスコ,“2013 年度 日経就職ナビ 就職活動モニター調査結果”,(オンライン),入

手先<http://www.disc.co.jp/uploads/2012/07/13monitor_2012july1.pdf>,(参照日 201 4124日).

[2]ライフネット生命保険株式会社,“2013年就職予定者に聞く,「就職活動」に関する調査”,

(オンライン),入手先<http://www.lifenet-seimei.co.jp/newsrelease/2013/4683.html#an

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[3]リクルート ワークス研究所,“大卒採用構造に関する調査レポート”,(オンライン),入

手先<http://www.google.co.jp/url?sa=t&rct=j&q=&esrc=s&source=web&cd=1&ved=0 CCcQFjAA&url=http%3A%2F%2Fwww.works-i.com%2Findex.php%3Faction%3Dpag es_view_main%26active_action%3Drepository_action_common_download%26item_i d%3D958%26item_no%3D1%26attribute_id%3D13%26file_no%3D1%26page_id%3D 17%26block_id%3D302&ei=30LjUvrkNsnBkwWpiIDoBA&usg=AFQjCNFbOfZ-DSX B8qpQF5sfeQiUtNe7VQ&sig2=zjq2INsDhXjottzGknOM8Q&bvm=bv.59930103,d.dGI

&cad=rja>,(参照日 2014125日).

[4]国税庁,“平成24年分 民間給与実態統計調査”,(オンライン),入手先<http://www.n

ta.go.jp/kohyo/tokei/kokuzeicho/minkan2012/minkan.htm>,(参照日 2014 118 日).

[5]マイナビ,“2014 年卒の就職活動平均は約 16万円-就活浪人も増え,親の負担増加?”,

(オンライン),入手先<http://news.mynavi.jp/news/2013/10/23/160/index.htm>,(参照

日 2014 年118日).

[6]文部科学省,“学校基本調査”,(オンライン),入手先<http://www.e-stat.go.jp/SG1/est at/List.do?bid=000001051733&cycode=0>

[7]リクルートワークス研究所,“大学採用構造に関する調査レポート”,(オンライン),入手

先<http://www.works-i.com/?active_action=repository_view_main_item_detail&page _id=17&block_id=302&item_id=958&item_no=1>,(参照日2014121日).

[8]金谷健一,これならわかる最適化数学 基礎原理から計算手法まで,井立出版,2005.

参照

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