確率論 I
2006/12/11,
西岡 國雄
1http://c-faculty.chuo-u.ac.jp/∼nishioka/
0
集合論の基礎
0.1用語と記号
0.2集合の演算
1確率空間
1.1
確率空間の定義
1.2確率空間の例
1.3条件付き確率
2確率変数
3
確率変数の平均
4
確率変数の分散と相関係数
3.1平均と分散
3.2共分散と相関係数
5大数の法則
0 集合論の基礎
確率論では, 集合とその演算を利用すると理解が容易になる. そこで, 集合論の基 礎を論じ, 次に確率論へと進む.
0.1
用語と記号
I.
範囲を確定した物の集まり を集合
setと呼ぶ. じつはこの説明は明確ではなく, 集合 ははっきり定義できない.
集合
Aを構成する物を 元
elementaと呼び,
(0.1) a∈A (x
が
Aに属する)
という. (0.1) の否定を
(0.2) a6∈A (x
が
Aに属さない)
と書く.
いかなるものも元として含まない集合
(これも集合と考える)を, 空集合
empty setといい,
∅ (空集合)
とあらわす.
1 2号館11階38号室,オフィスアワー=水曜4限, [email protected]
II.
集合
A, Bにたいし,
A=B
とは,
Aに属する元と
Bに属する元とがまったく一致することをいう.
集合
Aが, 元
a, b,· · · , cから構成されているとき,
A={a, b,· · ·, c}と書く. なお
{a}は唯一つの元
aからなる集合である.
集合
Aの元がすべて 集合
Bに属するとき
(論理式で a∈A⇒b∈Bと表す),
Aは
Bの部分集合
A⊂Bという.
0.2
集合の演算
集合
A.Bの 和集合
unionA∪Bとは,
Aまたは
Bに属する元から構成された集合のこ とである. つまり
x∈A∪B ⇔ x∈A
もしくは
x∈B.集合
A.Bの 共通部分
intersectionA∩Bとは,
Aおよび
Bに属する元から構成された 集合のことである. つまり
x∈A∪B ⇔ x∈A
かつ
x∈B.集合
A.Bの 差集合
differenceA−Bとは,
Aには属するが
Bに属さない元から構成さ れた集合のことである. つまり
x∈A−B ⇔ x∈A
かつ
x6∈B.とくに 集合
Bが 集合
Aの部分集合であるとき, 差集合
A−Bを
Bの
Aに関する補集 合
complementとよぶ. もし. 考えている集合が, すべてある決まった 集合
Xの部分集合 となっているとき.
Xを 全空間 とよび,
X−Bを単に
Bの補集合 といい.
Bc
とかく.
例題
0.1. A={1,2,3,4}, B={2,4,6}のとき,
A∪B={1,2,3,4,6}, A∩B={2,4}, A−B={1,3}(= B
の
Aに関する補集合),
B−A={6} (= Aの
Bに関する補集合).
定理
0.2.任意の集合
A, B, Cにたいし, つぎの等式が成立する:
(i) A∪A=A, A∩A=A,
(ii) A∪B=B∪A, A∩B=B∩A, (iii) (
A∪B)
∪C=A∪( B∪C)
, ( A∩B)
∩C=A∩( B∩C)
, (iv) (
A∪B)
∩C=( A∩C)
∪( B∩C)
, ( A∩B)
∪C=( A∪C)
∩( B∪C)
, (v) A∪ ∅=A, A∩ ∅=A, A− ∅=A, A−A=∅.
問題
0.3.定理の
(iii)をつかうと, 次の等式を証明せよ.
((A∪B)
∪C
)∪D=( A∪B)
∪( C∪D)
=A∪( B∪(
C∪D)) (( .
A∩B)
∩C
)∩D=( A∩B)
∩( C∩D)
=A∩( B∩(
C∩D)) .
1 確率空間
現代の確率論では,
まず適当な確率空間
(Ω,F)を定義する という方法をとる.
1.1
確率空間の定義
ここで
Ωは
n個の元からなる集合
Ω ={w1, w2,· · · , wn}
であり, 事象空間
2 sample spaceと呼ばれ, その元
wk ∈Ωは 事象
sampleと呼ばれる.
P
は 確率測度
probability measureであり, ある集合族
3F上の集合関数で
0≤P[A]≤1, P[Ω] = 1, P[∅] = 0,i6=k
なら
Aj∩Ak=∅⇒ P[A1∪A2∪ · · · ∪An] =P[A1] +P[A2] +· · ·+P[An] (1.1)
をみたすものである
(つまり確率
Pは予め与えられており, 観測などから自動的に導かれる ものではない
).問題
1.1.確率空間
(Ω,P)において, 次のことを確かめよ.
(i) P[Ac] = 1−P[A], (ii) A⊂B ⇒ P[A]≤P[B]
(iii) A∩B=∅ ⇒ P[A∪B] =P[A] +P[B]. ]
1.2
確率空間の例
例題
1.2.サイコロを
1回投げる. 起こり得る事象は
w1≡ {1
の目がでる
}, w2≡ {2の目がでる
},· · ·, w6≡ {6の目がでる
}の
6通りであり, 事象空間は
Ω ={w1,· · · , w6}4.また, このサイコロが公正なものとすると, 確率測度
Pは
P[w1] = 16, P[w2] = 1
6, · · · ,P[w6] = 1 6
となる.
¦2 しばしば, 事象空間”とも呼ばれる.
3 この講義では,Fとしては,常に 巾集合族= Ωの部分集合の全体 を考えるので,今後は気にしなくて良い.
4F はΩの巾集合族
F ≡ {∅,Ω, w1,· · ·, w6, w1∪w2,· · ·, w5∪w6, w1∪w2∪w3,· · · } で26= 64個の集合から成っている.
問題
1.3.例題
1.2の確率空間
(Ω,P)で,
A≡
サイコロの目が奇数
={w1, w3, w5}, B≡サイコロの目が
4以上
={w4, w5, w6}とおく. 次の確率を計算せよ.
(i) P[A∩B], (ii) P[A∪B], (iii) P[A] +P[B]−P[A∩B]. ]
例題
1.4.コインを
2回投げる. 起こり得る事象は
w1≡ {1
回目=表, 2 回目=表
}, w2≡ {1回目=裏, 2 回目=表
}, w3≡ {1回目=表, 2 回目=裏
}, w4≡ {1回目=裏, 2 回目=裏
},の
4通りであり, 事象空間は
Ω ={w1,· · ·, w4},その巾集合族
Fは
16個の集合から成って いる
5.ここで
(1.2)
投げたコインは必ずしも公正ではなく, 表がでる確率が
p, 0< p <1,とする. このとき 確率測度
Pは
P[w1] =p2, P[w2] =P[w3] =p(1−p), P[w4] = (1−p)2
となる.
¦==========上級=============
次の例の様に, 事象の数が多いときに, 確率空間をきちんと定義することは易しくない. 20 世 紀初頭にロシア人の数学者コロモゴロフ
Kolmogorovが,
例題
1.5で
n→ ∞の場合にも, 確率空間を定義できる方法
(= Kolmogorovの拡 張定理)
を証明し, 近代確率論が誕生した.
例題
1.5.今度は
(1.2)のコインを
n回投げる. 起こり得る事象は
w1≡ {1
回目=表, 2 回目=表, 3 回目=表,
· · · ,n回目=表
}, w2≡ {1回目=裏, 2 回目=表, 3 回目=表,
· · · ,n回目=表
}, w3≡ {1回目=表, 2 回目=裏, 3 回目= 表,
· · ·,n回目=表
},...
wN ≡ {1
回目=裏, 2 回目=裏, 3 回目=裏,
· · ·,n回目=裏
}, (1.3)の
N= 2n通りであり, 事象空間は
Ω ={w1,· · ·, wN}6.5 Ωの巾集合族は
F ≡ {∅,Ω, w1,· · ·, w4, w1∪w2,· · ·, w3∪w4, w1∪w2∪w3,· · ·, w2∪w3∪w4} で24= 16個の集合から成っている.
6F はΩのべき集合族で2N= 22n 個の集合から成っている.
このように極めて多数の元からなる
Ωを扱う場合には, (1.3) を次のように書き直した方が 分かり易くなる.
別の表記法
: 1が表, 0 が裏を表すとして,
w∈Ω
にたいし
w= (w(1), w(2),· · ·, w(2))ここで
w(k)= 1もしくは
0.(1.4)
この表記法を使うと, (1.3) は
w1= (1,1,· · ·,1), w2= (0,1,· · ·1), w3= (1,0,1,· · · ,1),· · · , wN = (0,0,· · · ,0)
となる. すると確率測度
Pは
w∈Ω
にたいし
P[w] =p|w|(1−p)n−|w|,ここで
|w| ≡w(1)+w(2)+· · ·+w(n)=表がでた回数
(1.5)となる.
¦=======================
1.3
条件付き確率
確率空間
(Ω,F,P)を与える.
A, B ∈ Fにたいし, 条件付き確率
conditional probability P[A/B]を
Bが起こったとして,
Aが起こる確率
7とする. このとき
(1.6) P[A/B]≡ P[A∩B]
P[B] (ベイズの公式)
が成立している.
事象
A, Bが互いに無関係
(1.7) P[A/B] =P[A]
のとき 事象
Aと
Bは独立
independentという.
定理
1.6.事象
Aと
Bが独立.
⇔(1.8) P[A∩B] =P[A]·P[B]. ¦
証明
.ベエズの公式
(1.6)と 独立” の定義
(1.7)より
P[A∩B]P[B] =P[A/B] =P[A].
つまり
P[A∩B] =P[A]·P[B]となる.
一方
(1.8)が成立していれば,
P[A/B] = P[A∩B]
P[B] = P[A]·P[B]
P[B] =P[A]
となり, 独立 の定義
(1.7)が得られる.
27 P[B]6= 0とする.P[B] = 0も許す場合は,状況が大変複雑になる.
例題
1.7 (王に姉妹はいるか?).先王には子供が二人おり, その内の一人が新たに王として即 位した. 新王に姉妹がいる確率を求めよ. ただし, 男女の比率は
1 : 1とする.
¦解答.
B≡子供が男,
G≡子供が女 という記号を使う. 左の記号が年長者を表すとする と, 起こりえる事象は
w1≡(B, B), w2≡(B, G), w3≡(G, B), w4≡(G, G)
であるから, 確率空間は
(1.9) Ω≡{
w1, w2, w3, w4
}, P[wk] =1
4, k= 1,· · ·,4
となる.
U ≡
子供の一人が男
=w1∪w2∪w3, V ≡子供の一人が女
=w2∪w3∪w4という記号を使う. (1.9) を考慮して
P[王に姉妹がいる] =P[V /U] =P[V ∩U]
P[U] = P[w2∪w3]
P[w2∪w3∪w4] = 2/4 3/4 = 2
3. 2
問題
1.8. (Ω,P)を 例題
1.2の確率空間とする.
(i)
事象
A≡偶数の目がでる を
w1,· · ·, w6を使って表せ.
(ii)
条件付き確率
P[w2/A]を計算せよ.
(iii)
事象
Aと
w2は独立か?
]問題
1.9. (Ω,P)を 例題
1.4の確率空間とする.
(i)
事象
A≡ 1回目のコイン投げが表 を
w1,· · ·, w4を使って表せ.
(ii)
事象
B≡ 2回目のコイン投げが表 を
w1,· · ·, w4を使って表せ.
(iii)
事象
Aと
Bは独立か?
]問題
1.10. 6枚は赤, 4 枚は黒の印を裏側に付けたカードがある. その
10枚のカードを表側を 上にして並べ, その中からランダムに選んだ3枚のカードを順に裏返す.
A≡ {
最初に裏返したカードが赤印
}, B≡ {2番目に裏返したカードが黒印
}, C≡ {3番目に裏返したカードが赤印
},とおくとき, 次の確率を計算せよ.
(i) P[A∩B], (ii) P[B], (iii) P[B∩C], (iv) P[C]. ]
例題
1.11(医学検査の有効性). HIVウイルスによる感染の有無を検査する. この検査を市
民全員に行う ことは合理的か?
¦解答
. Step 1.医学検査は完全ではなく, 常にエラーを伴う. いまエラーの起こる確率を
P[検査結果が白/実際に感染している] = 0.05,(1.10)
P[検査結果が黒/実際には感染していない] = 0.05, (1.11)
とする.
ここで, 事象
A, Bを
(1.12) A≡ {
被験者が感染している
}, B≡ {検査結果が黒
}とおくと, (1.10), (1.11) は
(1.13) P[Bc/A] = 0.05, P[B/Ac] = 0.05
と表すことができる.
図
1:市民の分布
Step 2.
ベイズの公式
(1.6)から
P[B/A] +P[Bc/A] = P[B∩A]
P[A] +P[Bc∩A]
P[A] = P[B∩A] +P[Bc∩A]
P[A]
= P[A]
P[A] = 1.
これより
(1.14) P[B/A] = 1−P[Bc/A] = 1−0.05 = 0.95.
Step 3.
次に, 市民全体での感染率は
xとする
(0< x <1):P[A] =x.
これと
Step 2の計算から,
P[B]を求めよう. ベイズの公式
(1.6)を使うと,
0.95 =P[B/A] = P[B∩A]
P[A] = P[B∩A]
x ⇒ P[B∩A] = 0.95x.
0.05 =P[B/Ac] = P[B∩Ac]
P[Ac] = P[B∩Ac]
1−x ⇒ P[B∩Ac] = 0.05 (1−x).
つまり
P[B] =P[B∩A] +P[B∩Ac] = 0.95x+ 0.05 (1−x) = 0.05 + 0.9x.
Step 4.
検査の有効性
Q(x)は,
Q(x) =
検査結果が黒の中で本当の感染者がいる割合
=P[A/B]だから, その値を計算する:
Q(x) =P[A/B] = P[A∩B]
P[B] = 0.95x
0.05 + 0.9x = 19x 1 + 18x. x
にいろいろな値を入れて,
Q(x)がどうなるを調べる:
x 0.1% 0.2% 0.5% 1% 2% 3% 5% 8% 10%
Q(x) 1.8% 3.7% 8.7% 16.1% 28% 37% 50% 62.3% 67.9%
上の計算結果より次の結論が得られる. :
(i)
市民全体の感染率
x≤2%の場合, 検査の有効性
Q(x)≤28%となり, 検査は有効では ない.
(ii)
感染率
x≥5%の場合,
Q(x)≥50%となり, 検査は有効である.
Step 5.(上級) このモデルの確率空間を考える. 図1で P[A∩Bc] = 0.05x, P[A∩B] = 0.95x,
P[Ac∩B] = 0.05(1−x), P[Ac∩Bc] = 0.95(1−x) (1.15)
となるが,今後の議論のため別の記号を導入する:
u1≡A∩Bc. u2≡A∩B, u3≡Ac∩B, u4≡Ac∩Bc とおくと,一人の市民の確率空間は,
Ωk≡ {u1, u2, u3, u4}, k= 1,2,· · ·, n, Pk[u1]≡0.05x, Pk[u2]≡0.95x,
Pk[u3]≡0.05 (1−x), Pk[u4]≡0.95 (1−x) (1.16)
となる. n人の市民がいるので,
Ω≡Ω1×Ω2× · · · ×Ωn,
S≡ui1×ui2× · · · ×uin, i1,· · ·, in= 1,2,3,4 (1.17)
として,
P[S] =P1[ui1]×P2[ui2]× · · · ×Pn[uin] とおけば, (Ω,P)が求める確率空間である. 2
2 確率変数
確率空間
(Ω,P)を固定する.
全ての事象
w∈Ωにたいし実数を与える関数
X: Ω→Rを確率変数
random variableと呼ぶ.
2つの確率変数
X(w),Y(w)を考え,
X(w)は
a1, a2,· · ·, anの値,
Y(w)は
b1, b2,· · ·, bmの値をとるとする.
X(w)と
Y(w)が 独立
independentとは, すべての
1≤j≤n, 1≤k≤mにたいし
(2.1) P[X(w) =aj, Y(w) =bk] =P[X(w) =aj]·P[Y(w) =bk]
が成立することである.
例題
2.1.例題
1.4の確率空間
(Ω,P)で 確率変数
X(w), Y(w)を次のように定義する:
X(w)≡ {
1 1
回目のコイン投げが表
−1 1
回目のコイン投げが裏
Y(w)≡{
1 2
回目のコイン投げが表
−1 2
回目のコイン投げが裏
(2.2)すると,
P[X(w) = 1] =P[w1∪w3] =P[w1] +P[w3] =p2+p(1−p) =p, P[X(w) =−1] =P[w2∪w4] =P[w2] +P[w4]
=p(1−p) + (1−p)2= 1−p,
P[Y(w) = 1] =P[w1∪w2] =P[w1] +P[w2] =p2+p(1−p) =p, P[Y(w) =−1] =P[w3∪w4] =P[w3] +P[w4]
=p(1−p) + (1−p)2= 1−p (2.3)
となる.
¦問題
2.2.上の
(2.2)で述べた確率変数
X(w), Y(w)は独立である. 実際に
P[X(w) = 1, Y(w) = 1], P[X(w) = 1, Y(w) =−1], P[X(w) =−1, Y(w) = 1], P[X(w) =−1, Y(w) =−1],を計算し, 独立であることを確かめよ.
]問題
2.3.例題
1.4で述べたコインを2回投げ,
(2.4) Z(w)≡
出た表の数
×100円
だけ賞金がもらえる. この確率変数
Z(w)を
(2.2)の
X(w), Y(w)を使って表せ.
また次の確率を計算せよ.
(i) P[Z(w) = 200], (ii) P[Z(w) = 100], (iii) P[Z(w) = 0]. ]
==========上級=============
例題
2.4.つぎに, 例題
1.5の確率空間
(Ω,P)で, 確率変数
Xk(w), k= 1,2,· · ·, n,を次で定 義する.
(2.5) Xk(w)≡
{
1 k
回目のコイン投げが表
−1 k
回目のコイン投げが裏
この場合にP[Xk(w) =±1]の確率を計算してみよう: (1.4)の表記法を使う. 数学的帰納法を使えば P[Xk(w) = 1] =P[{w∈Ω :w(k)= 1}] = X
w∈Ω,w(k)=1
P[w] =p
P[Xk(w) =−1] =P[{w∈Ω :w(k)= 0}] = X
w∈Ω,w(k)=0
P[w] = 1−p
が簡単に証明できる. ¦
例題
2.5. (2.5)の確率変数
Xk(w), k= 1,2,· · ·, nにたいし, 新しい確率変数を
(2.6) Sk(w)≡
{
0 k= 0
X1(w) +· · ·+Xk(w) 1≤k≤n.
この確率変数は標準ランダム・ウォークrandom walkと呼ばれ,応用上,重要なものである. ¦
問題
2.6 (2項分布).
(2.6)の
Sk(w), k= 0,1,· · · , n,にたいし,
P[Sk(w) =j] =kC(k+j)/2p(k+j)/2(1−p)(k−j)/2,
ここで
−k≤j≤kかつ
k+jは偶数
(2.7)となることを示せ. ( (2.7) の右辺は
2項分布
binomial distributionと呼ばれる. )
]=======================
3 確率変数の平均
確率変数を特徴づける数値はいろいろあるが, 特に 平均 が重要である.
定義
3.1. (i) a1,· · ·, anの値をとる確率変数
X(w)にたいして,
E[X(w)]≡a1P[X(w) =a1] +a2 P[X(w) =a2] +· · ·+an P[X(w) =an]
を
X(w)の平均
mean8と呼ぶ.
¦例題
3.2.例題
2.1で定義された確率変数
X(w)の平均を求める. (2.3) を使うと
E[X(w)] = 1·P[X(w) = 1] + (−1)·P[X(w) =−1]= 1·p+ (−1)·(1−p) = 2p−1. ¦
8 しばしば,期待値expectationとも呼ばれる.
例題
3.3.次の賭
Gを行う:
G:
サイコロを
1回投げ, 出た目
×100円の賞金を獲得 このとき, 賭
Gの参加料を幾らに設定
9すれば公平か?
¦解答
.例題
1.2の確率空間
(Ω,P)を考えると, 賭
Gで得られる賞金の額は
w=wkのとき
Z(w) =k·100, k= 1,2,· · · ,6と表現できる.
§5で述べる
Kolmogorovの強大数の法則 より
n
を十分大きな数とする. 賭
Gが
n回実施されたとき, 賞金の支払い総額は
n·E[Z(w)]に近づく
が判っている. これより 賭
Gの参加料 は
E[Z(w)] = 100·P[Z(w) = 100] +· · ·+ 600·P[Z(w) = 600]
= 100·1
6 +· · ·+ 600· 1
6 = 2100
6 = 350
円 に設定すれば, 主催者/参加者の両者に対し公平である.
2一般に, 平均の計算は易しくない. その計算を少しでも容易にするために, 次の補題がある.
補題
3.4. X(w), Y(w)を確率変数,
a, bを定数とする.
(i) E[
a X(w) +b Y(w)] =aE[X(w)] +bE[Y(w)].
(ii)
定数
aにたいしては,
E[a] =a.(iii) X(w)
と
Y(w)が独立なら
E[X(w)·Y(w)] =E[X(w)]·E[Y(w)]. ¦定義
3.5.成功と失敗の2つの結果しかない試行を ベルヌイ試行 と呼ぶ.
¦ベルヌイ試行は大変単純だが, 実は広く応用されている:
例題
3.6.有る工場は注射薬を生産している. この注射薬は全製品の検査が必要だか, 検査費 用が高額なので検査回数を減らしたい. どのような方法があるか?
解答
.注射薬の生産数を
N個とする. まず
検査方法
A:全製品から個別に検査用のサンプルを採取し, それを検査する
(検査回数=N
).一方,
検査方法
B: (i) N =k·rとし, 全製品をそれぞれ
k個ずつからなる
r個のグ ループ
G1, G2,· · ·, Grに分ける.
(ii) G1
に属する製品から検査用のサンプル
k個を採取し, その
k個を混ぜ合わ せて, あたらしい検査用のサンプル
S1を作る.
(iii) S1
が検査に合格すれば,
G1に属する製品は合格
(検査回数=1).不合格なら,
G1
に属する全製品を再検査(検査回数= 1 + k).
(iv)
グループ
G2,· · ·, Grについても
(ii)+(iii)の手順を繰り返す.
9 運営費用は考えない.
Step 1.
発見的的思考: 定性的な状況を把握するためには, 極端な例を考えることがしばしば有 効である. 極端な二つの場合を考えてみよう.
Case 1:
全製品が合格するとき,
検査方法
A⇒検査回数=N 検査方法
B ⇒検査回数=k となり, 検査方法
Aの回数
>検査方法
Bの回数 である.
Case 2:
全製品が不合格なとき,
検査方法
A⇒検査回数=N
検査方法
B ⇒検査回数=r
+r·k=r+Nとなり, 検査方法
Aの回数
<検査方法
Bの回数 である.
Step 2.
不良品の発生率を
q, 0< q <1,とし, 前述の
Case 1と
2でどちらが起こりやすい か計算しよう.
グループ
G1の検査回数を
Y1(w)とすると,
Y1(w) ={
1
サンプル
S1が合格
1 +k
サンプル
S1が不合格のとき
ここで, サンプル
S1が合格するには,
k個の製品がすべて良品でなければならないので サンプル
S1が合格する確率
= (1−q)k.また
サンプル
S1が不合格となる確率
= 1−(1−q)kである. 確率変数
Y1(w)は
1か
1 +kの2つの値しかとらないベルヌイ試行で,
E[Y1(w)] = 1×(1−q)k+ (1 +k)× {1−(1−q)k}= 1 +k−k(1−q)k.Step 3.
グループ
G2の検査回数を
Y2(w) ,· · ·,グループ
Grの検査回数を
Yr(w)とする.
Y1(w),· · ·, Yr(w)
はそれぞれ独立で同分布の確率変数なので,
R(q, k)≡検査方法
Bでの検査回数の平均 とおくと
R(q, k) =E[Y1(w)] +· · ·+E[Yr(w)] =r{1 +k−k(1−q)k}
=r+r·k−r·k(1−q)k= N
k +N−N(1−q)k =N(1
k+ 1−(1−q)k) .
Step 4.
不良品の発生率
q= 1/100として,
(3.1) Q(k)≡ 1
k+ 1−(1−q)k
を数値計算すると, 下図の通りである.
それぞれの値は
k 2 5 8 10 12 15 20
Q(k) 0.519 0.249 0.202 0.1956 0.197 0.207 0.232
で,
Q(11) = 0.19557が最小値である.
結論: 不良品発生率
q= 1/100の場合,
2≤k≤30とした検査方法
Bは 検 査方法
Aより少ない検査回数で済む.
とくに
k= 11のとき, 検査方法
Bの検査回数は 検査方法
Aの
20%となる.
Step 5.(上級)数値計算によらずに(3.1)で与えられたQ(k)の性質を調べてみる.
基礎数学/解析学で学ぶ「微分」「テイラー展開」を使う.まずQ(k)をk に関して微分して, dQ(k)
dk =−1
k2 −log(1−q) exp{klog(1−q)}.
log(1−q), exp{−kq}のテイラー展開は
log(1−q) =−q−q2 2 −q3
3 − · · ·, (3.2)
exp{−kq}= 1−kq+k2q2 2! −k3q3
3! +· · · (3.3)
である. q は十分小さい数なので,
log(1−q)∼ −q とおいて,
dQ(k) dk ∼ −1
k2 +q exp{−kq}.
つぎに, (3.3)より
dQ(k) dk ∼ −1
k2 +q(1−kq)∼ 1 k2 +q.
これより,Q(k) = 0はk∼1/√
qの近辺で満たされるから,Q(k)はk∼1/√
qの近辺で最小値をとる. もし,q= 1/100なら,最小値はk∼1/10近辺である. 2
例題
3.7.成功確率
pのベルヌイ試行を成功するまで繰り返す.
(i) k
回以内に成功する確率
F(k, p)を計算せよ.
(ii)