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音楽鑑賞における理解を促す手法の提案 A proposal of the support system for audience to understand music

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Academic year: 2021

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音楽鑑賞における理解を促す手法の提案

A proposal of the support system for audience to understand music

1W090369-3 長尾 綾乃 指導教員

NAGAO Ayano

長 幾朗 教授 Prof. CHOH Ikuro

概要: 音楽を鑑賞する際、認知的枠組みである「スキーマ」を用いて、その音楽の背景や構成を文脈化するこ とにより、音楽が意味を持ち、理解や共感が生まれる。そのため自身のスキーマと異なった際、その音楽に対す る理解に至らず、鑑賞に退屈してしまう。本論文では、特定のジャンルに適合したスキーマを有しない鑑賞者に おいてもこれらのジャンルの作品の意味や理解し得る手法について論じた。これらのスキーマを形成する手助け として、演奏に際してその背景や構成に関する情報をモーションタイポグラフィによる「演奏会における同時配 信型字幕ガイド」および音楽の情景を喚起する「ビジュアライザーにより生成された映像を伴った音楽鑑賞」を 提案した。そして、これらのプロトタイプを基にその効果を測定し、検証した。さらにこれらの結果について評 価し、課題および今後の展望について考察した。

キーワード:スキーマ、モーションタイポグラフィ、ビジュアライザー Keywords: schema, motion typography, visualizer

1. 音楽鑑賞の現状

 人間は物事を理解するとき、長期記憶に保存さ れた知識や経験を元に判断する。長期記憶は、身 体的活動などに関わる潜在記憶と、事象や概念に 関連した顕在記憶に分かれる。潜在記憶は時間を かけて習得する代わりに素早く使うことが出来、

逆に顕在記憶は素早く形成されるものの利用の際 に時間をかけた意図的な思考を必要とする。また 顕在記憶は、特定の事象に関するエピソード記憶 と、カテゴリーや規則に関する意味記憶に分かれ る。類似の経験を繰り返すことで個々のエピソー ド記憶が一般化され、意味記憶となる。さらに意 味記憶は何度も使用することにより潜在記憶とな る。

 これらの記憶が体制化され、効率的に情報処理 を行える認知的枠組みとしてスキーマが形成され る。スキーマは出来上がると無意識的に働き、新 しい経験を文脈化する。一方でスキーマは、知覚 した事象の新奇性を見極め、注意を促す仕組みも 持っている。これが聴き手にとって何が意識の前 景に置かれるかということに関わる。

2. 音楽鑑賞における課題

 実際の演奏会では、舞台上で出される「音」を 鑑賞するため、開演中は常に客席では静寂が保た れている。そのため、配られたパンフレットに掲 載された解説を読む際も、ページをめくる音など に注意が必要である。また、視覚的にも舞台上に 集中させるため、客席の照明は通常よりも暗く設 定されている。そのため、携帯端末など光を発す る機器を使って情報を得ることは他の鑑賞者の妨

げとなるため好ましくない。

 このような状況を踏まえた上で、スキーマを有 しない人々にとっても鑑賞しやすく、また新たな スキーマの形成を補助する手段として、本論文で は二つの鑑賞方法を提案する。

3. 演奏会における補足情報の提示方法

 実際の演奏会において、背景知識などの補足情 報を提示する方法として、同時配信型字幕ガイド を提案する。これは、曲の進行と同時にその曲の ストーリーや構成、用いられる動機、作曲された 経緯、当時の状況などの包括的な情報を、鑑賞者 が装着したシースルー型のヘッドマウントディス プレイに字幕ガイドとして配信するものである。

 この手法の特徴は、曲の進行と同時に配信する ことで楽譜の読めない人であっても直感的に曲を 理解することができ、またそれによって鑑賞に必 要なスキーマ形成を促進することができることで ある。

図1 字幕ガイドのイメージ

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 この効果を検証する実験では、一般に規則が多 く特にスキーマの形成が難しいとされるクラシッ ク音楽の作品を取り上げた。手法としては、過去 の演奏を録画したものに字幕ガイドを追加した映 像を用い、それを鑑賞した人にアンケートへの回 答を求めた。

 その結果、「( 字幕は ) わかりやすかった」、「曲 の情景が想像できた」、「この曲を最後まで聴いて みたいと思った」、「クラシック音楽に対する興味 が深まった」、「解説があれば、他の曲も聴いてみ たい ( または演奏会に行ってみたい )」といった 評価が高いことが示された。つまりこの字幕ガイ ドには、鑑賞者の作品に対する理解やこのジャン ルの音楽に対する興味を深める効果があったとい える。解説内容としては、「曲のストーリー」「作 曲された状況」「曲の構成」、「登場する動機につ いて」が求められる傾向にあった。これらの内容 を中心に、音楽鑑賞自体を妨げないよう情報量に 注意しながら配信する必要がある。また、字幕ガ イドの表示される位置については、映画のように 画面下方に固定した方が良いとの意見を得たが、

一方でモーションタイポグラフィによる演出を期 待する声もあった。そのため、文字情報の表示方 法については引き続き検討の必要がある。

4. 音楽鑑賞における映像の効果について

 この鑑賞方法では、ビジュアライザーにより音 楽データから映像を生成し視覚化することで、鑑 賞者の持つ聴覚的なスキーマだけでなく、視覚的 なスキーマとも連携して音楽を鑑賞することが可 能となる。このように視覚と聴覚を両方用いた鑑 賞体験により、よりその鑑賞がエピソード記憶と して残りやすくすることを目的としている。

図2 音楽に連動した映像のイメージ  実験では、曲調の異なる 4 つの曲を用い、音楽 のみ鑑賞した場合と、その音楽データから生成し た映像を鑑賞した場合に鑑賞者が受ける印象を、

それぞれ SD 法を用いて分析した。

 その結果、音楽と映像がそれぞれ与える印象に

は相関性があり、音楽のみ鑑賞した場合と比べて 作品に対する印象を深める可能性が示された。特 に「静かな―うるさい」「激しい―穏やかな」「に ぎやかな―寂しい」「ゆるやかな―急な」といっ た形容詞については、比較的音楽と映像それぞれ の鑑賞において印象の差が少ないことが明らかと なった。つまりこれらの形容詞で表される感性は、

音楽とその音楽を元にビジュアライザーで生成し た映像との間に共通したイメージを持たせる要因 となる感性だと推測される。

図 3 音楽と映像の与える印象差

 また、先行事例では音楽データではなく、指揮 者の動きをデータ化し、さらに映像化する手法も 示された。このように音楽の視覚化には様々な手 法があるため、手法によって印象がどのように変 わるかなどについては今後の課題としたい。

5. 結論

 本論文では、音楽鑑賞における作品理解とス キーマの必要性について述べ、そのスキーマの形 成を補助する鑑賞方法を二つ提案した。それを実 際にプロトタイプを作って検証し、その有用性や 課題について明らかとすることができた。

 今後も、音楽の芸術としての本質を保った上で、

より多くの人がこの芸術を楽しむきっかけとなる ような鑑賞方法を研究していきたい。その鑑賞体 験によって作られたスキーマが、日常生活におい ても潜在的に生かされ、優れた効果を発揮するよ うになることが期待される。

[

1] オーディオテクニカ『音、音、音。音聴く人々』

幻冬舎 ,2012 年 ,pp.30-36.

[2] 岩下豊彦『SD 法によるイメージの測定』川島 書店 ,1983 年 ,pp.30-38.

[3] ボブ・スナイダー『音楽と記憶 認知心理学 と情報理論からのアプローチ』音楽之友社 ,2003 年 ,pp.82-93

[4] ヴァルター・ザルメン『コンサートの文化史』

柏書房 ,1994 年 ,p.325

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