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新しい音楽鑑賞指導

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Academic year: 2021

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新しい音楽鑑賞指導

著者 川合 利幸

雑誌名 教育実践開発研究センター研究紀要

巻 23

ページ 151‑154

発行年 2014‑03‑31

その他のタイトル New Teaching Method of Listening Music URL http://hdl.handle.net/10105/9828

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1.はじめに

今回新しい音楽鑑賞楽曲選択型音楽鑑賞指導を試行 するきっかけになったのは次に示す2つの事からである。

一つは音楽配信や音楽の聴きかたの変化である。二つめ は音楽鑑賞の中に対話的なセッションを取り入れようと 考えたからである。まず、学校での音楽鑑賞指導におい て、音楽配信と聴きかたの変化を考慮した指導のあり方 を考えなければならない時代であるという認識が重要だ と考えた。レコードを使い音楽鑑賞した時代は過去にか なり長くあった。1980年代初めにはCDが使われ始め、

雑音のない澄んだ音に感動を覚えた時代もあった。

学校の音楽鑑賞の指導にもCDが使用された。その後 1980年代後半にはレーザーディスクが登場し鑑賞指導の 方法が変化した。音のみではなく映像も紹介しながら音 楽を聴くことが可能になった。しかし現在これらの様子 は大きく変化しつつある。音楽配信はデーターの時代に なり学校での音楽鑑賞の方法も今後楽曲のデーターをダ ウンロードして使うようになると考えられる。また音楽の 聴きかたも多様化し、同じ楽曲を全体でスピーカーをとお して聴くこと以外の方法も考えられるようになってきた。

二つめの事として音楽鑑賞の指導過程において鑑賞し た楽曲についての個人の印象や感想を出し合うセッショ ンを取り入れようということである。音楽鑑賞の指導の方 法として従来よく行われたのは、授業の前半で、ある楽曲

を一斉に聴かせる。その後楽曲に対する意見や感想、作 曲者についての指導や旋律や音の使われ方についての印 象や意見、自分の楽曲に関する思いなどを書かせたり、

発表させるといったやり方であった。しかしこれらの方法 はセッションをさせるということを考えれば意見交換の幅 が狭くなると考えた。単一の楽曲をみんなで鑑賞し意見 や感想を出し合うよりは良く似た複数の楽曲を試聴させ、

次に自分の選んだ楽曲を丁寧に聴きそれをもとにセッ ションをさせる方が多種多様な考えが出てくると考えた。

また鑑賞する側の意欲を考えれば、さらに多くの結果が 得られると考えた。このようなセッションをミュージック・

トーク(注1)と名前をつけて、より対話的要素を引き出 す音楽鑑賞指導を考え今回の試行を行った。著作権のこ とも、音楽の配信され方、聴き方の大きな変化や多様化し た現在にマッチした学校での音楽鑑賞指導の可能性を 広げてみようと思った。ただ今までの音楽鑑賞の常識で ある一つの楽曲を全員に聴かせるということからは少し 飛躍しているかもしれない。しかしESDの視点で考える なら、学校の音楽鑑賞授業が日常に生かされ、将来へと つながる経験となりえると考えられる。

2.音楽に対する中学生の価値観

音楽鑑賞の授業をどのようにするかを大きく左右する 要因の一つに、音楽に対する中学生の価値観の変化があ 川合利幸

(奈良教育大学 附属中学校)

New Teaching Method of Listening Music Toshiyuki KAWAI

(Junior High School attached to Nara University of Education)

要旨:学校で芸術教科とし今まで行われていた音楽鑑賞の指導は、いろいろな方法で一つの楽曲を指導対象生に鑑賞させ ることが主であった。しかし今日音楽の聴き方の多様化や音楽配信の多様化、またESDを考えて複数の楽曲の中から、そ れぞれの楽曲を試聴させながら個人的に気に入った楽曲を丁寧に鑑賞させ、最後にセッションをさせる音楽鑑賞指導を試み た。今回の試行はコンピューターを使用し、ヘッドセツトを使い楽曲を聴かせた。また対象生徒のレディネスを考慮し、アント ニオ、ヴィヴァルディ作曲の合奏協奏曲「四季」全曲を取りあげた。また生徒対象に音楽の聴き方や音楽の好みに関するアン ケートを実施して指導計画に役立てた。そして指導の最後にミユージック・トークと名前をつけた対話型のセッションを行わ せた。

キーワード: 楽曲選択,Choice of music 持続可能な教育、ESD ミュージック・トーク Music talk

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る。このことを考慮しないで新しい授業の実践は無意味 に思われる。若者の音楽に対する価値観は時代と共に 変化してゆくものであるが、今日音楽に対する価値観の 変化とその多様性はめまぐるしく推移しているように感じ られる。日本のヒット曲で、その曲の何に最も音楽的価値 を見いだすかというアンケートを、2009年6月に本校第三 学年の生徒を対象に実施した。この結果は予想外であっ た。ヒット曲の何に価値観を感じ、気に入った曲であると 思うかということに対して歌詞が最も重要だという結果が 出た。事前の予想としては旋律が気にいるからだという 意見が一番多いと考えていた。音楽の価値観が短い間に 移り変わっている現在、学校の授業としての音楽鑑賞も 根本から考え直す時期にあると感じた。現在の生徒達の 音楽に対する価値観を考慮した音楽鑑賞の指導を模索 するべき時期だと感じた。もちろん教材として取り上げる 音楽のジャンルも含めてである。このような音楽に対する 価値観の移り変わりを考えてみると、今までのように教科 書に取り上げられている楽曲のみを、全員で一斉に鑑賞 させる授業とは異なる方法の授業を考えることが必要だ と考えた。具体的には同じ楽曲を全員で同じ時間に鑑賞 させるという方法を考え直し、あらかじめ何らかの意図を 持って選んだ複数の楽曲を提示して、生徒自ら気に入っ た曲を深く丁寧に鑑賞させる方法が良いのではないかと 考えた。そして異なる曲を鑑賞した生徒達のセッションの 場を設定しお互いの音楽についてトークをさせることが 重要ではないかと思った。このような方法で音楽鑑賞へ のモティベーションが高まり生徒達が積極的な態度で楽 曲を聴き、セッションも意欲的に行えると考えられる。

3.音楽の聴き方について

今回の試行を実施する根拠の一つとして、今中学生た ちの音楽の聴き方について調査してみた。事前の予想と しては、レンタルショップ等でソフトを借りるかダウンロー ドした音楽を音楽再生ギアを使い聴いているなどが思い 浮かばれた。今回の調査は、試行授業を予定している本 校の中学第二学年合計149名(男子79名、女子80名)を 対象に行った。その結果を次に示す。

3.1.1 調査内容

次の質問に対する回答を後に示す4つの項目から 選択させた。

日常的に音楽をどのような方法で聴いているか?

スピーカーを通して聴くには家庭でのオーディオ装置 や、ラジカセ等も含む。

3.1.2 結果

図1に示されたように、今回の結果やはり多くの若い 世代の人と同じように中学生も音楽をダウンロードしてイ ヤーホーン等で聴いているというのが普通であると思わ

れた。このことは音楽の聴かせ方、鑑賞の方法を改めて 考え直すことが求められているようにも受け取れる。中学 生の場合、やはりまだウォークマンが一番多くなった。

4.指導の概要 4.1.1 楽曲について

今回はアントニオ・ヴィヴァルディ作曲の合奏協奏曲

「四季」を全曲取り上げて指導した。各3楽章形式の春・

夏・秋・冬の合計12曲である。

4.1.2 鑑賞の方法

鑑賞の方法はコンピューターのメディアプレーヤーを使 い、合計12曲のファイルが入ったフォルダーを作成し生 徒各自がファイルを選びながら聴くというやり方で実施し た。音は各ブースのヘッド・セットを使い聴かせた。音量 は各自の好みにより調節させた。そしてまず全曲を1分程 度試聴させた後、さらに気に入った曲を絞り込むためにさ らなる試聴の時間を取らせて、最後に自分の1番好みの 曲を丁寧に鑑賞させる。

4.1.3 セッション(ミュージック・トーク)

12曲の中から自分の好みの楽曲1曲を丁寧に鑑賞して その曲の印象や、自分が選んだ理由、お勧めの点などを お互いにトークさせる。また各自の試聴した印象も意見 交換することで学習も深められる。

A ウォークマン等で聴く 46人 約30%

B 携帯電話で聴く 42人 約28%

C アイポッドで聴く 38人 約26%

D スピーカーを通して聴く 22人 約15%

A B C D

図1.アンケートの結果

図2.鑑賞させる楽曲の一覧

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4.1.4 指導の過程

今回の授業展開の内容を次に示す。

今回はIT支援員の協力も得て指導を行った。生徒の 台数のコンピューターを正確に作動させるためや、急な事 態に対処する為には初期段階では必要な支援だと考えら れる。

4.1.5 使用音源

どの演奏で鑑賞させるかはとても迷った点である。一 般にヴィヴァルディの「四季」といえば数十年前からイタ リアの「イ・ムジチ」合奏団の演奏がどこの国においても よく取り上げられている。しかし今回中学生を対象にす るということで比較的テンポの速い演奏を選んでみよう と考えた。結局「ウィーン・コンツェントス・ムジクス」(注 2)の演奏を使用した。この演奏は「冬」の第二楽章が際 だってテンポが速いことで知られている。今までの指導 経験をもとに振り返ると生徒達はだいたいどの楽曲にお いても少し速めの演奏を好む傾向が認められたからであ る。

5.結果 5.1 授業後の感想について

今回の授業の生徒の感想をまとめると以下に示すよう になる。今までとは違って多くの曲の中から自由に自分の 気に入った音楽を選べるということに多くの生徒が共感 を覚えたことは間違いない。

(生徒の授業後の感想例)

・ 何曲かの中から自分で選んで聴けたのがよかった。

・ コンピューターで鑑賞することは目新しかった。

・ 普段音楽を聴くスタイルで鑑賞できた。

・ 自分で何を鑑賞するか全曲試聴してから決められた ので、楽しかった。

・ 今まで、音楽教室で一斉に聴くのが鑑賞だと思ってい た。

・ 今の時代に合っているように感じた。

・ やはり音楽室で同じ曲を聴くのが良いような気がし た。

・ 今日の授業の時間がたりなかった。

・ 試聴して自分の好きな曲を決めるのにもう少し時間が ほしかった。

・ 曲が12曲もありかなり迷った。

5.2 ミュージック・トークの内容

授業の後半生徒たちのセッションでだされた内容を以 下に示す。

・ 私は、全曲を、少し時間をかけ試聴してみたけど、なん となく曲の感じが似ているように感じた。

・ わたしも似ているように思ったけど、冬の第二楽章は 他と違った印象を持った。

表1.授業展開チャート

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・ 今冬に近いから、冬を丁寧に聴いた結果冬の第一楽 章と第二楽章が良い感じがした。

・ それは冬の第一楽章が何かのCMで使われているか らじゃない?

・ 僕は冬の第二楽章にメチャ感動して何回も聴いたよ。

曲の時間も短いし。

・ 俺は秋の第三楽章のリズムが良かったな。・・・

生徒達各自が丁寧に鑑賞しようと選んだ楽曲の中で一 番多くの生徒が選んだのは、「冬」の第二楽章であった。

この曲は149人中33人もの生徒に選ばれた。

また、次は「冬」の第一楽章であった。しかしこの曲 に関しては第3位に選ばれた「秋」の第三楽章と僅差で あった。「冬」の第二楽章を選んだ生徒が多かった理由 については個人によりさまざまではあったが、今回選んだ 演奏スタイルにもよるかもしれないと考えている。つまり 標準的な速さよりかなり速く演奏する団体の音源を聴か せたかもしれない。次に2割を越える生徒たちが丁寧に 鑑賞した合奏協奏曲「冬」の第二楽章の出だしの部分の 楽譜を図3に示す。ただ今回使用したウィーン・コンツェ ントス・ムジクスの「冬」第二楽章はかなり速いテンポの演 奏である。

6.考察

今回新しい音楽鑑賞指導の試行を行ってみたが、基 本にあるのは音楽の聴き方の変化を意識したということ でありまた学校で指導される音楽鑑賞の授業はその時だ けにとどまらず、将来音楽を聴く何らかのヒントになれば いいということである。学校の音楽の授業でのみ出会う 機会があろう音楽もたくさんあり、生徒達の音楽の幅が ひろがることを期待したい。ESDの視点は鑑賞教育に おいて大切だということである。ネガティブな面としては、

今回のような試行はただ自分の好きな音楽を聴かせるだ けで、学校の授業として行わなくてもよい。また鑑賞の指 導は必要なくこれをさらに拡大して考えると学校での音 楽の授業そのものの必要性が問われかねないといった意 見もあるのではないかと思われる。しかし、著作権も含め 時代的なことや音楽の聴き方の変化、個人の多様化など を考えれば音楽鑑賞の一つのあり方の提案になりうると 思う。また、セッションをより対話型に持っていこうとした

ミュージック・トークを鑑賞授業の中に取り入れることは 単なる感想の発表ではなく、コミュニケーション力をつけ る音楽鑑賞指導という観点から今後さらに工夫をし、進 めていこうと考えている。

注釈

注1

音楽鑑賞の授業において、音楽を聴いた後のより対 話的な要素が多く含まれるセッションをミュージック・

トークと呼ぶことにした。

注2

ウィーン・コンツェントス・ムジクスの合奏協奏曲「四 季」の演奏は、演奏家自身が楽曲を自由に解釈して演 奏するというバロック時代の演奏スタイルを取ってい る。

7.参考文献

最新名曲解説全集 Ⅰ、Ⅱ

音楽の友社 1982年2月版 音楽史17の視座 田村 和紀夫 著 音楽の友社 1998年年4月発刊 音楽つくりのヒント 野村 誠   著 音楽の友社 2010年8月発刊

図3.一番多くの生徒が選んだ旋律

(合奏協奏曲「冬」第二楽章冒頭)

参照

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