人類は進歩しているのか:
After and before corona に向けて
村田 潔
明治大学商学部
第32回 社会科学研究所公開シンポジウム
「新常態という社会のあり方:With, after and before corona」
公開シンポジウムのねらい
• COVID-19(新型コロナウィルス感染症)の感染拡大以降,社
会生活や経済活動のあり方は大きく変化しようとしている。経 済の停滞や失業者の増加,医療ならびに学校教育の混乱,
将来への漠然とした不安など,社会へのマイナス影響が顕在 化している一方で,この感染症をきっかけとして,これまで日 本社会の課題として話題に上りながらも一向にその解決の方 向性が見えてこなかったさまざまな問題,たとえば働き方改 革や女性の活躍,生産性の向上などに,これまでのしがらみ や既得権益を離れた取り組みがなされようとしている。
• 本シンポジウムは,コロナと共に生きる(with corona)新常態
(new normal)という現在の社会状況の中で見えてきたさま ざま問題点や今後の社会・経済の展開について,コロナ克服 後の社会(after corona)ならびに次に発生する可能性のある 新たな社会的脅威(before corona)をも視野に入れ,多角的 に検討する。
本報告のねらい
1. 現在の “With corona” の状況を「情報学的に」
読み解く
– パオロ・ジョルダーノ(飯田亮介訳)『コロナ時代の僕 ら』早川書房, 2020 年
2. 感染症のパンデミックに関する文献の記述から,
現在の状況を考える
3. コロナ克服後の社会( after corona )ならびに次 に発生する可能性のある新たな社会的脅威
( before corona )にどう備えるか
With corona の局面で見えてきたこと
• 不信の三角形
一般市民
中央政府
地方政府 専門家
マスメディア
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コマーシャリズム
日常生活
感染症対策
経済対策 感染抑止
医療崩壊回避
With corona の局面で見えてきたこと
• ジョルダーノ( 2020 ; 92 頁)
– 「行政は専門家を信頼するが,僕ら市民を信じようと はしない。市民はすぐに興奮するとして,不信感を 持っているからだ。専門家にしても市民をろくに信用 していないため,いつもあまりに単純な説明しかせ ず,それが今度は僕らの不信を呼ぶ。僕たちのほう も行政には以前から不信感を抱いており,これはこ の先もけっして変わらないだろう。そこで市民は専門 家のところに戻ろうとするが,肝心の彼らの意見が はっきりせず頼りない。結局,僕らは何を信じてよい のかわからぬまま,余計にいい加減な行動を取って,
またしても信頼を失うことになる。」
With corona の局面で見えてきたこと
• 愚かな市民?
– パニック
• 買い占め
• 対人トラブル
– コロナ疲れ,緊張感の緩和
• Go to …
– 検査拒否
– 多数派なのか?
• 日本モデル?
– 勤勉,真面目な日本人
• 感染者への偏見
• 病院関係者への差別
• 感染地域在住者への差別
– 集団主義的文化
→ 西欧の個人主義的文化
• ステレオタイプ
With corona の局面で見えてきたこと
• 政策の貧困?
–初動の失敗
• 春節の経済効果
–検査体制の不備
–感染症対策と経済政策という連立方程式
• 解は存在しない
–有効な感染症対策は経済的損失を招き,有効な経済政策は感染症 を拡大させる(?)
–感染を拡大させれば…より深刻な経済的損失を招くのでは
• 何をやっても批判される –一斉休校要請
–緊急事態宣言 –自粛要請
–特別定額給付金 – Go to キャンペーン
• 東京オリンピック
–最悪の事態を想定すべきなのではないか…
With corona の局面で見えてきたこと
• あてにならない専門家?
– 専門家間での発言内容の相違
– 時間の経緯の中で発言内容が変化
– 解明されない新型コロナウィルスの特性
• 感染症の流行はいつ終わるのか
• 有効なワクチンはいつできるのか
• 道具あるいは消費財としての専門家 – 政策の正当化
– 漠然とした不安をあおる
• ジョルダーノ(2020;80頁)
– 「複数の科学者が同じデータを分析し,同じモデルを共有し,正反対の 結論に達する時,そのどれが真理だというのだろう?
– 今回の流行で僕たちは科学に失望した。確かな答えがほしかったのに,
雑多な意見しか見つからなかったからだ。ただ僕らは忘れているが,実 は科学とは昔からそういうものだ。いやむしろ,科学とはそれ以外のか たちではありえないもので,疑問は科学にとって真理にまして聖なるも のなのだ。」
With corona の局面で見えてきたこと
• マスメディアとコマーシャリズム
– 社会の木鐸
• 権力から独立した存在
–政府,企業,…
• 人々が知りたい情報を報せる
– 不信の三角形
• 相互不信を拡大・ビジュアル化
–誰の意見が,どのような基準で取り上げられているのか?
• 不安感をあおる
–感染症の専門家
–経済政策の専門家?
• TVというニュースメディアの劣化
情報はどこにあるのか?
• 厚生労働省新型コロナウ イルス接触確認アプリ
(COCOA)
• 東京都LINE公式アカウン ト「新型コロナ対策パーソ ナルサポート@東京」
情報はどこにあるのか?
• Johns Hopkins’ Covid-19 Dashboard
情報はどこにあるのか?
• Google Covid-19 感染予測(日本版)
情報はどこにあるのか?
• なぜ感染者「数」が問題なのか?
– 人口,検査数との対比 – 実効再生産数
– 医療のひっ迫状況
情報はどこにあるのか?
• 自助,互助,共助,公助
– どの産業がどれだけ危機的状況に陥っているの か?
• 財源?
– 日本経済全体にどれほどの影響が及んでいる のか?
• 世界経済は?
– 私たちの生活はどうなるのか?
• 給与カット,増税 … ?
• 具体的な数値がまったく手に入らない
人類は進歩しているのか?
• 「病気が発生している町であ りながら、誰かれの見境もな しに交際するような人々は、
まず疫病を免れる道はない ということ、自分で知らなくて もかかっていることがあると いうこと、また同様に自分で は病気だと知らなくても他人 に感染させることもあるとい
うこと」(邦訳 349 頁)
1722年出版人類は進歩しているのか?
• Typhoid Mary (腸チフスのメアリー)
–Mary Mallon (1869-1938)
• 無症状保菌者
–1900 年からの約 15 年間で 47 人の腸チフス感染 者と 2 名の死者
1909年の新聞記事
人類は進歩しているのか?
• 「天災というものは人間の尺度とは一致し ない、したがって天災は非現実的なもの、
やがて過ぎ去る悪夢だと考えられる。とこ ろが、天災は必ずしも過ぎ去らないし、悪 夢から悪夢へ、人間のほうが過ぎ去って いくことになり、それも人間中心主義者た ちがまず第一にということになるのは、彼 らは自分で用心というものをしなかったか らである。わが市民たちも人並以上に不 心得だったわけではなく、謙譲な心構えを 忘れていたというだけのことであって、自 分たちにとって、すべてはまだ可能である と考えていたわけであるが、それはつまり 天災は起りえないとみなすことであった。」
(邦訳56頁)
1947年出版
人類は進歩しているのか?
• 感染症は,菌の保有者が交易のために交通 サービスを使用し、人が多く集まる他国もしくは 国内の他の都市に持ち込むことや戦争による人 の接触や往来によって広がる
• 感染状況は衛生状態の良し悪しによって変化
– 「人口が集中し、交流の中心となっているような数少 ない重要な地点はヒトを宿主とする感染の連鎖が永 続的に確立するのに絶好の場所」(邦訳144頁)
– 「なんらかの病気が田舎に広がった時は、すでにその 病気を経験しある程度の免疫を得ている都市住民に 対するよりも、はるかに凄まじい結果をもたらすことが あり得た。」(邦訳120頁)
• 「文明特有とみなされる感染症は、大部分、いや 恐らくはそのすべてが、動物の群れからヒトのポ ピュレーションに移行したものである。」(邦訳100 頁)
• 「感染が長く続くものであった場合、感染が異常 な時期で発生する時期と、その病気が退潮して ほとんど消滅したかに思われる時期が交互に繰 り返される。」(邦訳111頁)
1998年出版
人類は進歩しているのか?
• 環境破壊と感染症の発生は密接に 関係
– 新興感染症の75%は動物に起源が あり、森林破壊によって本来の生息 地を追われた動物たちが人里に押し 出されて病原体を拡散させるように なった
• 野生動物の狩猟時・解体時の血液は感 染のもと
• 人と人とが密集することは、感染リ スクを上昇させる
– 世界人口の爆発
– 国境を越えた人やモノの移動
• デング熱 2018年出版
人類は進歩しているのか?
• 研究や診断治療だけでなく歴史から学 ばなければ、ウイルスによる健康被害 は減らない
– エボラ出血熱(1976),AIDS(1981),
Sars(2002),新型インフルエンザ(2009),
Mers(2012)
• 「病原体は、今後も絶えることなく新た に人間社会に侵入・出現してくる。この 侵入・出現を防ぐのは、早期発見のた めのシステム・ネットワークを構築し、早 期発見・診断に続く早期治療・対策を実 施することである。」(3頁)
• ウイルスの出現に対しての素早い周知 と日ごろからの避難訓練が必要
2018年出版