現代数学への流れ
浪川 幸彦
June 6, 2007
1 数の近似
1.7
応用と次章への準備:級数数を近似するのには,数列の形以上に,級数によるものがよく用いられる。次章では関数 の近似を取り扱うが,そこでは一連の関数群による級数和の形を取ることが多い。ここでは 次章への橋渡しとして,前節の数列を受ける形で級数についての基本事項を学んでおこう。
1.7.1 級数の収束
まず用語を復習しておく。
Definition 1.7.1. i)数列{an}∞n=1から作られた形式
a1+a2+a3+· · ·=
∞
X
n=1
an
を(無限)級数とよぶ;
ii)sn=a1+a2+a3+· · ·+anを第n部分和とよぶ;
iii)数列{sn}が収束して極限値sを持つとき,この級数は収束して和sを持つといい
s=a1+a2+a3+· · ·=
∞
X
n=1
an
と書く。極限値を持たないとき,この級数は発散するという;
iv)数列{sn}が∞(または−∞)に発散するとき,この級数は∞(または−∞)に発散す るといい,
a1+a2+a3+· · ·=∞(または−∞) と書く。
1
Proposition 1.7.2. 等比級数
∞
X
n=1
arn−1 =a+ar+ar2+ar3+· · · (a 6= 0)
|r|<1のときa/(1−r)に収束,|r| ≥1で発散。
1.7.2 正項級数
Definition 1.7.3. an ≥0である級数P
anを正項級数という。
前回のTheorem 1.6.7から次の定理が得られる。
Theorem 1.7.4. 正項級数は部分和が有界ならば収束する。そうでなければ∞に発散する。
Proof. 条件から部分和{sn}が単調増大数列になる。
Proposition 1.7.5. {an}, {bn}を二つの正項級数で,かつan≤bn, n= 1,2,3, . . .とする。
i). (優級数判定法)P
bnが収束すれば,P
anも収束する;
ii). P
anが発散すれば,P
bnも発散する
Proposition 1.7.6.
∞
X
n=1
1 n =∞. Proof. s2n−sn >1/2.
Corollary 1.7.7 (Euler). 素数は無限個存在する。
1.7.3 交代級数と収束の速さ
級数の収束は第一に重要であるが,実用的にはその速さもきわめて重要である。遅い収束 級数に対し,その収束を早める手法が知られている。
Definition 1.7.8. 正負の項が交互に現れる級数を交代級数という。
Theorem 1.7.9 (Leibniz). 数列{an}が単調減少で,0に収束するとき,級数 a1−a2+a3−a4+· · ·+ (−1)n−1an+· · ·
は収束する。
Proof. s2m+2 =s2m+ (a2m+1−a2m+2)より数列{s2m}は単調増加列。一方 s2m =a1−(a2−a3)−(a4 −a5)− · · · −(a2m−2−a2m−1)−a2m < a1
より有界。よって数列{s2m}は収束する。
一方s2m+1 =s2m+a2m+1であるから,条件のan→0と併せて数列{s2m+1}も数列{s2m}
と同じ値に収束する。
Examples
1− 1 2+ 1
3− 1 4 +1
5 − · · · = log 2;
1− 1 3+ 1
5− 1 7 +1
9 − · · · = π
4 (Leibniz).
Proposition 1.7.10. 収束級数
s=
∞
X
n=0
(−1)nan が与えられたとすると,その階差級数も収束して,
2s=a0+
∞
X
n=0
(−1)n(an−an+1)
である。
Examples 上の例に適用すると,次のより早く収束する数列が得られる:
2 log 2 = 1 +
∞
X
n=2
(−1)n n(n−1); π
2 = 1 + 2
∞
X
n=1
(−1)n+1 4n2−1.
前回の出席レポートへのコメント
●レポートの問題について
前回の課題は講義内容を典型的に用いるものでしたが,出来はよくありませんでした。以 下に大まかな解答を記しておきますので,よく理解してください。
a1 > b1 >0を2実数とする。an+1 = an+bn
2 , bn+1 =√
anbn, n∈Nで数列{an}, {bn}を定 める。
問1)a1 ≥a2 ≥ · · · ≥an ≥ · · · ≥bn≥ · · · ≥b2 ≥b1 を示せ。
解:まずan≥bn を示す。n= 1は仮定より。n >1は相加相乗平均の不等式より。
次いでan ≥an+1. an+1 = an+b2 n ≥ an+a2 n =an. またbn ≤bn+1. bn+1 =√
anbn≥√
bnbn =bn. 評:これは良く出来ていました。
問2)an−bn→0を示せ。
解:0< an+1−bn+1 ≤ 12(an−bn)を示す。実際1)から an+1−bn+1 ≤an+1−bn= 1
2(an+bn)−bn= 1
2(an−bn).
したがって帰納法でan−bn ≤ 1
2 n−1
(a1−b1), 練習問題1問題4より 1
2 n−1
→0 (n → ∞).
挟み打ちの原理により,an−bn→0.
問3)数列{an}, {bn}は同じある値に収束することを示せ。
解:問1)の結果から数列{an}は単調減少で,しかも有界。したがって(Theorem 1.6.7に より){an}は収束して極限値aを持つ。(同様に数列{bn}も収束。すると
limbn = lim(an−(an−bn))
= liman−lim(an−bn)
= a−0 =a.
この極限値は算術幾何平均とよばれます。相加平均のことを算術平均,相乗平均のことを 幾何平均とも言うからです。1599年5月30日に22歳の青年ガウスは数値計算で 1と √
2 の算術幾何平均が円周率とある楕円積分の周期との比になることを発見しました。そこで彼 は保型関数論という数学の最も深い理論の一つへつながる扉を開けたのです。保型関数論は フェルマーの最終定理の証明でも本質的な役割を果たします。またこの方法は上の2)に見 るように収束が速いので,現在コンピュータによる円周率の計算でも用いられています(ガ ウス・ルジャンドルのアルゴリズム)。
●レポートでの質問へのお答え
問. レポート問題の1)はa1 > a2 >· · ·> an>· · ·> bn>· · ·b2 > b1ではありませんか?
答. 今の場合前提からそれが成り立っていて,その方がより強い結果です。しかし≥は> or= ですから,これでも間違いではありません。
問. 「超越数」とはどんなものですか?
答. いかなる整数係数方程式の解としても書けない数のことです。よく知られた例としては 円周率π や自然対数の底eがあります(証明は難しい)。無理数は整数係数1次方程式の解 にならない数のことですから,その延長上にあると言えましょう。
後半の予定
• No.09 06月06日,級数(第3回レポート)
• No.10 06月13日,テイラー展開とその剰余項
• No.11 06月20日,多項式による関数の近似
• No.12 07月04日,直交多項式
• No.13 07月11日,フーリエ級数
• No.14 07月18日,応用
(第4回レポート[提出期限日は8月7日])
6月27日は浪川の海外出張のため休講とします。
連絡先
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