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RIETI - 労働時間法制の課題と改革の方向性

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RIETI Discussion Paper Series 10-J-012

労働時間法制の課題と改革の方向性

水町 勇一郎

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RIETI Discussion Paper Series 10-J-012 2010 年 1 月

労 働 時 間 法 制 の 課 題 と 改 革 の 方 向 性

∗ 水 町 勇 一 郎 ( 東 京 大 学 ) 要 旨 働き方を変えるには、その問題点と問題解決の方向性を労使の間で話し合い、現場主導で改革 を進めていくことが何よりも重要である。しかし同時に、人間性を損なうような働き方に法的な 制約を加えることや、労使当事者の建設的な話し合いを法的に促していくことも、重要な課題と なる。 日本の労働時間をめぐる問題を法的にみた場合、改革の大きなポイントは、①長時間労働問題 への対応を図ること、②労働者の多様化(法と実態の乖離)に対応するために法制度の整理・再 編を図ること、③(②の対象者も含めて)健康問題への組織的対応(予防)を図ることにある。 そのためには、労働基準法、労働安全衛生法、労働保険料徴収法などの関係法令を改正・整備す ることが必要になる。 また、このような改革を実現し、日本の働き方を変えていくためには、単に労働時間法制に手 を入れるだけでなく、他の諸制度との有機的連携、法制の背景にある日本的な雇用システムとの 関係、政策的要請を実現するための実効的な法システムの構築をも視野に入れて、幅広くかつシ ステムの根本から議論をしていくことが重要である。 本稿では、労働法の視点から、日本の労働時間制度の課題と改革の方向性について考察 する。 RIETI ディスカッション・ペーパーは、専門論文の形式でまとめられた研究成果を公開し、活発な 議論を喚起することを目的としています。論文に述べられている見解は執筆者個人の責任で発表する ものであり、(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。 ∗本稿は、(独)経済産業研究所におけるプロジェクト「労働市場制度改革」の一環として執筆されたものである。

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1 改 革 の 背 景 と 課 題 日 本 の 労 働 時 間 法 制 に は 、 現 在 大 き く 2 つ の 問 題 があ る 。 1.1 世 界 的 課 題 ― 労 働 法 の 機 能 不 全 1 つ は 、 旧 来 の法 の 機 能 不全 に 起 因 する も の で ある 。 そ も そ も 近 代 的 労 働 法 は 19 世 紀 後 半 か ら 20 世 紀 に か け て、当 時 の 社 会的 原 動 力 で あ っ た 「 工 場 で 集 団 的 に 働 く 従 属 的 労 働 者 」 を モ デ ル と し て 形 成 さ れ た と い う 経 緯 を も っ て い る (AGRIETTA [1976],BOYER [1986], 水 町 [2008:9-18])。な か で も そ の 嚆 矢 と な っ た 労 働 時 間 法 制 は 、 集 団 的 に 働 く 工 場 労 働 者 を 念 頭 に 置 き な が ら 定 型 的 な 規 制 を 課 す ( 例 え ば 1 日 8 時 間 ・ 週 48 時 間 労 働 で 1 日 の 労 働 の 間 に 45 分 の 休 憩を 全 員 に 一斉 に 付 与 する こ と を 原則 と す る )と い う 性 質を も つ も の で あ っ た1 1 19 世 紀 に は 、 イギ リ スの 1802 年 工 場法 ( も っ とも 1802 年 法 は 教 区 徒弟 の 悪 疫 か ら の 保 護 と い う 旧 救 貧 法 的 性 格 を も あ わ せ も つ も の で あ り 、 工 場 労 働 の 悲 惨 な 状 態 を 公 的 に 規 制 す る 近 代 的 工 場 法 の 原 型 を 完 成 さ せ た の は 1833 年 法 であ っ た ( 戸 塚 [1966: 242-271]))、 ド イ ツ ( プ ロ イ セ ン ) の 児 童 労 働 保 護 に 関 す る 1839 年 規 定、フ ラ ン ス の 年少 者 労 働 時間 規 制 に 関す る 1841 年 法 な どを 嚆 矢 と し て 、 年 少 者 と 女 性 を 対 象 に 労 働 時 間 や 休 日 ・ 深 夜 労 働 を 制 限 す る 立 法 が 各 国 で 定 め ら れ た 。 こ の 19 世 紀 の 労働 時 間 規 制の 主 た る 目的 は 、 将 来労 働 力 や 兵力 と な る 子 ど も と 子 ど も を 産 む 女 性 を 保 護 す る こ と ( 労 働 力 再 生 産 機 能 の 保 護 ) に あ っ た が 、20 世 紀 にな る と 、年少 者 や 女 性に と ど ま らず 、労 働 者一 般 を 対 象と し た 労 働 時 間 規 制 が 展 開 さ れ る よ う に な る 。 工 業 化 の 進 展 が 欧 米 列 強 よ り 遅 れ た 日 本 で は 、1911 年 の 工場 法 で 初 めて 女 性 や 年少 者(「 保 護 職 工」)を 対 象 と した 労 働 時 間 規 制 が 定 め ら れ ( 渡 辺 [2007: 101-110]), そ の 後 労 働 者 一 般 を 対 象 と し た 労 働 時 間 等 の 規 制 が 定 め ら れ た の は ,第 2 次 大 戦 後(1947 年 労 働 基準 法 )で あ っ た( 日 本 の 労 働 法 制 の 歴 史 的 経 緯 ・ 展 開 に つ い て は 、 野 川 [2007: 40-51] 参 照)。 ア メ リ カ で は 、1840 年 代 から 州 レ ベ ルで 年 少 者 や女 性 の 労 働時 間 を 規 制す る 法 律 が 定 め ら れ て い た ( 代 表 例 は 1842 年 マ サ チ ュ ーセ ッ ツ 州 法) が 、 南 北戦 争 後 に 設 け ら れ た 合 衆 国 憲 法 第 14 修 正 の デュ ー プ ロ セス 条 項 に は実 体 的 デ ュー プ ロ

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し か し 、1970 年 代 以 降 の ポス ト 工 業 化、グ ロ ー バル 化 の 社 会趨 勢 の な か、旧 来 の 定 型 的 な 労 働 時 間 法 制 は 多 様 化 す る 社 会 実 態 に 対 応 で き な い 事 態 に 陥 っ た 。 そ の な か で 先 進 諸 国 は 、1980 年 代 以 降 、労 働 時 間 法制 の 柔 軟 化を 進 め て いく2。 日 本 も 1987 年 労 基法 改 正 以 降、 変 形 労 働時 間 制 の 拡大 や 裁 量 労働 制 の 導 入な ど 、 労 働 時 間 制 度 の 多 様 化 ・ 柔 軟 化 を 図 る 法 改 正 を 行 っ て き た 。 し か し な お 現 行 法 制 は 、 多 様 で 複 雑 な 労 働 実 態 に 十 分 に 適 合 し た も の と は な っ て い な い 。 現 行 法 と 実 態 の 間 に は な お 乖 離 が み ら れ 、 労 使 双 方 か ら 現 行 制 度 へ の 不 満 の 声 が あ が っ て い る3 1.2 日 本 固 有 の 課 題 ― 長 時 間 労 働 問 題 も う 1 つ は 、 労働 を め ぐ る日 本 固 有 の問 題 で あ る。 日 本 の 労 働 問 題 の な か で も 最 も 深 刻 な 問 題 の 1 つ と し て 、 長時 間 労 働 の問 題 が あ る 。 特 に 近 年 、 労 働 時 間 の 二 極 化 傾 向 が 進 み 、 正 社 員 の 労 働 時 間 が 長 時 間 化 し て い る ( と り わ け 平 日 の 労 働 時 間 が 長 く な り 睡 眠 時 間 が 減 少 す る 傾 向 に あ セ ス ( 契 約 の 自 由 ) の 保 障 も 含 ま れ る と 解 釈 さ れ る よ う に な り 、 こ れ ら の 労 働 者 保 護 立 法 は 契 約 当 事 者 の 自 由 を 侵 害 す る ゆ え に 違 憲 無 効 で あ る と の 連 邦 最 高 裁 判 決 が 、19 世 紀 末以 降 相 次 いで 出 さ れ た( そ の 代 表例 が 1905 年 の Lochner 事件 判 決 (Lochner v. New York, 198 U. S. 45 (1905)) で あ る)。 こ の 連 邦 最高 裁 の 保 守 的 性 格 が 覆 さ れ ( 例 え ば 1937 年 Jones & Laughlin 事 件 判決 ( NLRB v. Jones & Laughlin Steel Co., 301 U. S. 1( 1937))), 労 働 者 保 護 立法 の 合 憲 性が 広 く 認 め ら れ る よ う に な っ た の は 、 最 低 賃 金 や 時 間 外 労 働 賃 金 等 の 一 般 的 な 規 制 を 定 め た 公 正 労 働 基 準 法( 連 邦 法 )が 制 定 さ れ(1938 年 )、Darby 事 件 判決(United States v. Darby, 312 U. S. 100 (1941))で そ の合 憲 性 が 承認 さ れ た( 1941 年 )、1930 年 代 後 半 以 降 の こ と で あ る ( そ の 背 景 に あ る ア メ リ カ 法 思 想 の 転 換 に つ い て は 、 ホ ー ウ ィ ッ ツ [1996] 参 照)。 2 例 え ば 、フ ラ ンス で は 、1982 年 の オー ル ー 改 革以 降 、労 働時 間 規 制 を中 心 に 規 制 権 限 を 国 家 か ら 労 使 へ 、 さ ら に は 産 業 レ ベ ル の 労 使 か ら 企 業 レ ベ ル の 労 使 へ と 移 行 さ せ る 労 働 法 の 柔 軟 化 ・ 分 権 化 の 動 き が 進 め ら れ て い る 。 諸 外 国 の 労 働 時 間 法 制 の 歴 史 と 概 要 に つ い て は 、 山 口 ・ 渡 辺 ・ 菅 野 編 [1988]、 労 働 政 策 研 究 ・ 研 修 機 構 [2005b]、 水 町 [ 2005: 140-145] な ど 参 照。 3 例 え ば 、 日 本 労務 研 究 会 [ 2005]、厚 生 労 働 省 [ 2005] な ど 参 照 。

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る )こ と が 指 摘 さ れ て お り4、そ の 極 限 状 況 で は 過 労 死・過 労 自 殺 に 至 る5な ど 、 日 本 に お け る 過 剰 労 働 の 問 題 は 欧 米 諸 国 に 比 べ て か な り 深 刻 で あ る こ と が 認 識 さ れ て い る ( 労 働 政 策 研 究 ・ 研 修 機 構 [2005b])。 そ の 要 因 と し て は 、 ① 日 本 的 雇 用 シ ス テ ム の 最 大 の 特 徴 で あ る 長 期 雇 用 慣 行 の 下 で は 外 部 労 働 市 場 を 利 用 し た 雇 用 の 柔 軟 性 ( 外 的 柔 軟 性 ) を 確 保 す る こ と が 難 し か っ た こ と か ら 、 企 業 内 部 で 柔 軟 性 ( 内 的 柔 軟 性 ) を 確 保 す る 方 法 の 1 つ と し て 、 日 常 的 に 長 時 間 の 時 間 外 労 働 が 行 わ れ て き た ( 不 況 で 業 務 量 が 減 っ た と き に 時 間 外 労 働 を 減 ら す こ と で 一 種 の 雇 用 調 整 を 行 っ て き た ) こ と 、 お よ び 、 ② 日 本 的 な 労 働 市 場 の 二 重 構 造( 正 規 労 働 者 と 非 正 規 労 働 者 間 の 大 き な 格 差・乖 離 )が 残 存 す る な か で 、 1990 年 代 後 半 以降 、グ ロ ーバ ル 競 争 の激 化 、景 気 低 迷 の 長 期化 、企 業 内人 員 構 成 の 高 齢 化 な ど を 背 景 に コ ス ト 削 減 圧 力 が 急 激 に 高 ま っ た た め 、 コ ス ト 削 減 の 手 段 と し て 非 正 規 労 働 者 が 増 加 し 、 量 的 に 減 少 し た 正 規 労 働 者 の 過 剰 労 働 を 深 刻 化 さ せ た こ と が 挙 げ ら れ る 。 日 本 の 長 時 間 労 働 問 題 は 、 日 本 の 雇 用 シ ス テ ム や 労 働 市 場 の 構 造 と 密 接 に 係 わ っ た 深 刻 な 問 題 と な っ て い る 。 ま た 、 年 次 有 給 休 暇 の 取 得 日 数 ・ 取 得 率 は 1990 年 代 の 中盤 以 降 減 少・ 低 下 す る 傾 向 に あ り6、休 暇 を と り に く い 状 況 に も な っ て い る 。こ の よ う な 深 刻 な 過 剰 労 働 問 題 に 対 し 、 法 は 必 ず し も 実 効 的 に は 機 能 し て い な い ( 労 働 政 策 研 究 ・ 研 修 機 構 [2005a]。 1.3 改 革 の 模 索 ― 2006 年 厚 生 労 働 省 研 究 会 報 告 書 こ の よ う な 状 況 の な か で 、長 時 間 労 働 問 題( ひ い て は 労 働 者 の 健 康 確 保 問 題 ) へ の 法 的 な 対 応 を 図 る と と も に 、 労 働 実 態 の 多 様 化 に 対 応 す る た め の 法 の 整 備 を 図 る こ と が 重 要 な 政 策 課 題 と な っ て い る 。 4 例 え ば 、2004 年 に 実 施 し た労 働 者 ア ンケ ー ト 調 査に よ り 日 本に お け る 長時 間 労 働 の 実 態 を 明 ら か に し た も の と し て 労 働 政 策 研 究・研 修 機 構[2005a]、総 務 省「社 会 生 活 基 本 調 査 」の time-use data を 用 い て 1976 年 か ら 2006 年 に か けて の 労 働 時 間 ・ 生 活 時 間 の 推 移 や 内 容 等 を 分 析 し た 論 考 と し て 黒 田 [ 2009] が あ る 。 5 川 人 [ 1998] な ど 参 照 。 井上 [ 2001: 160] は 、日 本 で み られ る 過 労 死は デ ュ ル ケ ー ム の い う 集 団 本 位 的 自 殺 と 通 底 し て お り 、「 高 度 産 業 資 本 主 義 と 共 同 体 的 社 会 編 成 原 理 を 結 合 し た 現 代 日 本 社 会 の デ ィ レ ン マ を 象 徴 し て い る 」 と し て い る 。 6 年 休 の 取 得 日 数・取 得 率( 平 均 )は、2007( 平 成 19)年現 在 8.2 日・46.7% と な っ て お り 、1995 年 の 9.5 日・55.2% 以 降 、減 少・低 下 傾 向が 続 い て いる( 厚 生 労 働 省 「 就 労 条 件 総 合 調 査 」( 旧 「 賃 金 労 働 時 間 制 度 等 総 合 調 査 」)。

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2006 年 1 月 に 出さ れ た 厚 生労 働 省「 今 後 の 労 働 時間 制 度 に 関す る 研 究 会」( 座 長 : 諏 訪 康 雄 教 授 ) 報 告 は こ れ ら の 課 題 に 応 え る た め の 提 言 を 行 っ た が 、 そ の 提 案 の 多 く は 2008 年 労 働 基準 法 改 正 には 盛 り 込 まれ な か っ た。 労 基 法 改正 で と ら れ た 方 策 は 、 月 60 時 間 を超 え る 時間 外 労 働 につ い て の 割増 賃 金の 25% か ら 50% へ の 引 き上 げ(労 基 法 37 条 1 項・3 項 )、時 間 単 位 の年 休 付 与 の許 容( 39 条 4 項 ) の 2 点 で あ り ( 2010 年 4 月 施 行 )、 問 題 の 根 本 的解 決 に は なお 遠 い 状 況 に あ る 。 2 改 革 の 方 向 性 こ こ で は 、 以 上 の よ う な 問 題 状 況 の な か 、 日 本 の 労 働 時 間 法 制 を め ぐ っ て 行 わ れ る べ き 改 革 の 方 向 性 に つ い て 、 長 時 間 労 働 問 題 へ の 対 応 、 労 働 実 態 の 多 様 化 へ の 対 応( 適 用 除 外 と 裁 量 労 働 制 の 整 理・再 編 )、労 働 者 の 健 康 確 保 の た め の 取 組 み ( 組 織 的 対 応 の 促 進 ) の 順 に 検 討 す る 。 2.1 長 時 間 労 働 問 題 へ の 対 応 健 康 確 保 の た め の 労 働 時 間 規 制 ― 最 長 労 働 時 間 、 休 息 時 間 の 保 障 な ど 労 働 時 間 に 対 す る 法 規 制 の 1 つ の 大 きな 目 的 は 、労 働 者 の 健康 確 保 に ある 。し か し 、 現 行 法 の 法 定 労 働 時 間 ( 週 40 時 間 、 1 日 8 時 間 〔 労基 法 32 条〕) は 必 ず し も そ れ に 即 し た も の で は な く 、 か つ 、 こ れ を 超 え る 時 間 外 労 働 に 対 す る 日 本 の 法 規 制 は 絶 対 的 な 上 限 を 欠 く も の と な っ て お り 、 労 働 者 の 健 康 確 保 の た め に 十 分 な 制 度 と は な っ て い な い 。 そ こ で 、 ヨ ー ロ ッ パ の 労 働 時 間 法 制 を 参 考 に し つ つ 、 次 の よ う な 労 働 時 間 規 制 を 講 じ る こ と が 考 え ら れ る 。 第 1 に 、法 定 労働 時 間 と は別 に 、時 間外 労 働 を 含む 労 働 時 間の 上 限 と して の 最 長 労 働 時 間 を 設 定 す る こ と で あ る 。 最 長 労 働 時 間 の 長 さ に つ い て は 、 ① 週 48 時 間(EU の 労 働 時間 指 令〔 93/104/EC〕の 原 則〕、② 週 60 時 間( EU の最 長 労 働 時 間 の 例 外 と し て 位 置 づ け ら れ て い る イ ギ リ ス の オ プ ト ア ウ ト 等 の 上 限 と し て 提 案 さ れ て い る 時 間 〔 濱 口 [2009a:71-75]〕)、③ 月 251 時 間( 1 か 月〔 30 日 〕の 時 間 外 労 働 を80 時 間〔 日 本 の 過労 死 の 労 災認 定 基 準 であ る 平 成 13・12・12 基 発 1063 号 参 照 〕 と し て 計 算 し た も の ) な ど の 選 択 肢 が 考 え ら れ よ う 。 第 2 に 、前 日 の労 働 終 了 時刻 か ら 当 日の 労 働 開 始時 刻 ま で の間 の 労 働 解放 時 間 と し て 保 障 さ れ る 休 息 時 間 を 設 定 す る こ と で あ る 。EU の 労 働 時 間 指 令 は 、 1 日 11 時 間 の 休 息 時 間 の 保 障 を 定 め て い る 。 日 本 の 現 在 の 労 働 実 態 か ら す れ ば 1 日

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11 時 間 は か な り厳 し い 基 準で あ る と いえ る が 、他 方 で 、日 本 の( 特 に 大都 市 部 の) 通 勤 時 間 が 相 対 的 に 長 く 、 長 時 間 労 働 と あ い ま っ て 労 働 者 の 睡 眠 時 間 が 減 少 す る 傾 向 に あ る こ と を 考 慮 す る と 、 労 働 者 の 休 息 時 間 と し て 1 日 11 時 間 程度 の 保 障 が 必 要 と も い え る 。 な お 、 情 報 通 信 産 業 ・ 情 報 サ ー ビ ス 産 業 等 の 産 業 別 労 働 組 合 で あ る 情 報 労 連 で は 、使 用 者 と の 協 定 に よ り 、10 時 間 の 休 息時 間 を 保 障す る「 勤 務 間 イ ン タ ー バ ル 制 度 」 の 導 入 を 進 め て い る ( 杉 山 ・ 村 上 [2010])。 第 3 に 、 労 働 時間 制 度 の 柔軟 性 に か かわ ら ず 必 ず保 障 さ れ るべ き 休 日 とし て 、 週 休 1 日 の 確 保 を 法 律 上 定 め る こ と で あ る 。こ れ は 、労 働 者 の 健 康 確 保 の た め に 、 労 働 時 間 制 度 の 適 用 除 外 者 や 変 形 労 働 時 間 制 の 適 用 者 等 で あ っ て も 保 障 さ れ る べ き 休 日 と 位 置 づ け ら れ る7 ま た 、 こ れ ら の 法 規 制 と 併 せ て 、 兼 業 労 働 者 の 労 働 時 間 規 制 の あ り 方 ( 現 行 法 で は 労 基 法 38 条 1 項 ) を見 直 す こ とも 課 題 と なる 。 少 な くと も 労 働 者の 健 康 確 保 の た め の 法 規 制 に つ い て は 、労 働 時 間 の 通 算 制 を 実 効 性 あ る も の と す る た め に 、 他 事 業 場 で の 労 働 時 間 の 申 告 制 な ど の 整 備 を 図 る べ き で あ る 。 WLB の た め の 労 働 時 間 規 制 ― 週 休 2 日 の 保 障 、 年 休 の 完 全 付 与 労 働 者 の 健 康 確 保 の た め の 法 規 制 と 並 ん で 、 労 働 者 に 一 定 の 休 日 ・ 休 暇 を 保 障 し 、労 働 者 の ワ ー ク・ラ イ フ・バ ラ ン ス(WLB)を 図 る た めの 法 規 制 も重 要 で あ る 。 ワ ー ク ・ ラ イ フ ・ バ ラ ン ス の た め の 法 規 制 と し て は 、第 1 に 、週 休 2 日 制 を 保 障 す る こ と 、 第 2 に 、年 休 の完 全 付 与 を実 現 す る こと が 挙 げ られ る 。こ れ ら の 点 は 、 政 府 の 経 済 財 政 諮 問 会 議 労 働 市 場 制 度 改 革 専 門 調 査 会 の 第 1 次 報 告 ( 2007 年 4 月 )で 掲 げ られ た 目 標 でも あ る 。この う ち 、特に 第 2 の 点 は 、労 働者 に 時 季 指 定 権 を 与 え て い る 日 本 の 年 休 制 度 に 起 因 し て い る 問 題 で も あ る 。 使 用 者 に 年 休 計 画 表 を 策 定 さ せ て い る ヨ ー ロ ッ パ の 年 休 制 度 と は 異 な り 、 年 休 の 付 与 時 期 を 労 働 者 に 決 定 さ せ る 日 本 の 制 度 に お い て は 、 年 休 を と り に く い 職 場 の 雰 囲 気 や 、 労 働 者 自 身 が 病 気 の た め に 年 休 を と っ て お く と い う 事 態 を 生 み 、 年 休 が な か な か 消 化 さ れ な い と い う 結 果 に つ な が っ て い る の で あ る 。こ の 問 題 を 解 消 す る た め に は 、 ヨ ー ロ ッ パ の よ う に 、 年 休 の 指 定 義 務 を 使 用 者 に 課 す こ と に よ っ て 年 休 の 完 全 付 与 を 実 現 す る と い う 改 革 が 必 要 に な る 。 こ こ で は 同 時 に 、 年 休 と は 別 に 、 不 測 の 7 労 働 時 間 制 度 に関 す る 課 題と 改 革 の 方向 性 に つ いて は 、 梶 川[ 2008]、 濱口 [2009b: 23-51] な ど 参 照。

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病 気 等 に 備 え る た め の 休 暇 制 度 を 整 備 す る こ と も 重 要 で あ る 。 な お 、 こ れ ら の ワ ー ク ・ ラ イ フ ・ バ ラ ン ス の た め の 法 規 制 に つ い て は 、 労 働 者 の 希 望 や 現 場 の ニ ー ズ に 合 っ た 形 で 制 度 の 運 用 を 図 る こ と を 可 能 と す る た め に 、 労 働 者 代 表 と の 合 意 に よ っ て 例 外 を 設 け る ( 例 え ば 、 ① 労 働 者 代 表 と の 協 定 に 基 づ き 週 休 2 日 を 年単 位 で 平 均し て 柔 軟 に付 与 す る 、②使 用 者 によ る 年 休 指定 の 例 外 と し て 労 働 者 が 個 人 的 に 指 定 で き る 年 休 日 数 を 一 定 範 囲 で 残 し て お く ) こ と を 認 め る こ と が 考 え ら れ よ う 。 2.2 労 働 実 態 の 多 様 化 へ の 対 応 ― 適 用 除 外 と 裁 量 労 働 制 の 整 理 ・ 再 編 現 行 制 度 の 問 題 点 現 行 の 管 理 監 督 者 の 適 用 除 外 制 度 ( 労 基 法 41 条 2 号 ) は 、 その 法 律 規 制の あ り 方 が 簡 略 ・ 不 明 確 で あ り す ぎ る た め 、 法 と 実 態 の 乖 離 を 生 み 、 い わ ゆ る 「 名 ば か り 管 理 職 」 の 問 題 を 発 生 さ せ て い る 。 他 方 で 、 労 働 時 間 制 度 を 柔 軟 化 す る た め に 導 入 さ れ た 裁 量 労 働 制 度 ( 特 に 企 画 業 務 型 裁 量 労 働 制 度 ( 労 基 法 38 条の 4)) は 、労 使 委 員 会 を 設 置 し て 委 員 の 5 分 の 4 以 上 の多 数 に よ る決 議 を し 、その 決 議 事 項 と し て 、 健 康 確 保 措 置 お よ び 苦 情 処 理 措 置 を 講 じ 、 労 働 者 の 個 別 同 意 を 得 る 必 要 が あ る こ と が 求 め ら れ て い る な ど 、 法 律 規 定 や 要 件 が 複 雑 す ぎ て 実 務 上 使 い に く い も の と な っ て い る 。厚 生 労 働 省「 平 成 20 年 就 労 条 件 総合 調 査」に よ る と 、 企 画 業 務 型 裁 量 労 働 制 を 利 用 し て い る 企 業( 常 用 労 働 者 が 30 人 以 上 の 民営 企 業 ) は 0.9% に す ぎ ない 。 3 つ の 適 用 除 外 制 度 へ の 整 理 ・ 再 編 そ こ で 、 こ れ ら の 制 度 を 連 続 性 と 一 貫 性 を も っ た 制 度 と し て 位 置 づ け 、 適 切 な 規 制 の 下 で 実 態 に あ っ た 利 用 を 可 能 と す る こ と が 重 要 に な る 。 具 体 的 に は 、 こ れ ら の 制 度 を 、 ① 実 体 的 要 件 の 明 確 化 ( 管 理 監 督 業 務 ・ 専 門 業 務 ・ 企 画 業 務 に 従 事 す る と い う 職 務 ・ 責 任 要 件 、 実 際 に 労 働 時 間 管 理 を 受 け て い な い と い う 時 間 管 理 要 件 、適 用 除 外 さ れ る に ふ さ わ し い 処 遇 を 受 け て い る と い う 処 遇 要 件 )、② 労 働 者 代 表 と の 協 定 、 ③ 行 政 官 庁 へ の 届 出 と い う 3 つ の 要件 の 下 で 、 3 つ の タ イプ の 適 用 除 外 制 度 ( 管 理 監 督 型 適 用 除 外 、 専 門 業 務 型 適 用 除 外 、 企 画 業 務 型 適 用 除 外 ) に 整 理 ・ 再 編 す る こ と が 考 え ら れ る 。 こ れ ら の 要 件 の う ち 、 第 1 の 実 体 的 要 件( ① )に つ い て は、法 令 に よ っ て詳 細 で 画 一 的 な 基 準 ( 例 え ば 年 俸 額 な ど ) を 定 め る の で は な く 、 労 使 に よ る 合 意 に よ っ て 多 様 な 実 態 に 応 じ た 柔 軟 な 対 応・決 定 が で き る よ う に す る こ と が 重 要 で あ る 。

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第 1 の 要 件 が 柔 軟に 設 定 さ れる 分 、第 2 の 要 件 と して の 労 働 者代 表 と の 交渉 プ ロ セ ス ( 協 定 ) が 重 要 な 役 割 を 果 た す こ と に な る 。 そ し て 、 こ れ ら の 適 用 除 外 は 、 い ず れ も 法 定 労 働 時 間 ( 労 基 法 32 条 ) と割 増 賃 金 支 払 い(37 条 )の 適 用 除外 、す な わち 、法 定 労働 時 間 を 超え る 労 働 をし て も 法 定 の 割 増 賃 金 は 発 生 し な い と い う 効 果 を も つ も の と 位 置 づ け る べ き で あ る 。 例 え ば 、 適 用 除 外 の 対 象 と さ れ る 管 理 監 督 者 に な っ た と た ん 、 そ の 健 康 確 保 や ワ ー ク ・ ラ イ フ ・ バ ラ ン ス は 法 的 な 保 護 に 値 し な く な る わ け で は な く 、 こ れ ら の 適 用 除 外 者 に も 健 康 確 保 や ワ ー ク ・ ラ イ フ ・ バ ラ ン ス の 法 的 要 請 は 同 様 に あ て は ま る は ず で あ る 。 だ と す れ ば 、 こ れ ら の 適 用 除 外 者 に つ い て も 、 健 康 確 保 や ワ ー ク ・ ラ イ フ ・ バ ラ ン ス の 観 点 か ら な さ れ る 最 長 労 働 時 間 、 休 息 時 間 、 週 休 制 、 年 次 有 給 休 暇 の 規 制 ( 上 記 2.1) の 適 用 は 除 外 さ れ な い も の と す べ き で あ る 。 こ こ で 適 用 除 外 さ れ る の は 、 労 働 時 間 数 と 賃 金 を 結 び つ け る 規 制 の み と 位 置 づ け る べ き で あ る 。 2.3 労 働 者 の 健 康 確 保 の た め の 取 組 み ― 組 織 的 対 応 の 促 進 労 働 者 の 健 康 確 保 問 題 は 、単 に 労 働 時 間 の 長 さ と い う 視 点 だ け で 解 決 さ れ る も の で は な い 。 そ こ で 、2.1 で述 べ た 長 時間 労 働 に 対す る 法 規 制に 加 え て 、各 事 業 場 が 、そ の 事 業 場 固 有 の 状 況 を 考 慮 に 入 れ な が ら 、労 働 者 の 健 康 確 保 へ 向 け た 組 織 的 対 応 を 講 じ る こ と を 促 す こ と も 政 策 的 に 重 要 な ポ イ ン ト と な る 。 こ こ で は 、 上 記 2.2 の 適 用 除外 者 も 対 象含 め て 、 対策 を 講 じ るべ き で あ る。 特 に こ こ で は 、① 労 働 者 代 表 と の 協 議・合 意( 協 定 )に 基 づ い て 、②PDCA サ イ ク ル8等 の 方 法 で 労 働 者 の 健 康 確 保 ・ 増 進 に 向 け た 取 組 み を 組 織 的 ・ 継 続 的 に 行 い 、③ 当 該 事 業 場 の 病 気 罹 患 者 が 減 少 す る な ど 一 定 の 成 果 を 上 げ て お り 、④ そ の 取 組 み の 内 容 お よ び 結 果 が 公 表 さ れ て い る 場 合 に は 、労 災 保 険 の 保 険 料 を 引 き 下 げ る な ど 、政 策 的 イ ン セ ン テ ィ ヴ を 与 え る 制 度 と す る こ と が 考 え ら れ る 。現 行 の 労 働 保 険 料 徴 収 法 12 条 の 2 に 定 め られ て い る 安全 衛 生 確 保措 置 ( こ れを 講 じ て い る 事 業 主 に は 労 災 保 険 の 保 険 料 の 割 引 〔 割 増 〕 率 の 上 限 が 40% か ら 45% に 引 き 上 げ ら れ る )は 、こ の よ う な 観 点 か ら の 改 革 の 萌 芽 と み る こ と も で き る 。ま た 、こ の よ う な 予 防 的 な 取 組 み を 実 効 的 に 行 っ て い る こ と は 、労 働 者 の 健 康 被 害

8 計 画( Plan)、実 行( Do)、評 価( Check)、改 善( Act)の 4 つ の ス テッ プ を 循

環 的 に (Cycle と し て ) 繰 り返 し 行 っ てい く こ と によ り 、 状 況に 応 じ た 事態 の 改 善 を 継 続 的 に 図 る 手 法 を い う 。

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に 対 す る 使 用 者 の 健 康 配 慮 義 務 違 反( 損 害 賠 償 責 任 )の 免 責 事 由( 使 用 者 の 義 務 違 反 を 否 定 す る 要 素 ) と し て 考 慮 ・ 評 価 す べ き で あ ろ う 。 3 改 革 の 視 点 こ れ ら の 労 働 時 間 法 制 改 革 を 実 現 し て い く た め に は 、2 で 述べ た 具 体 的な 制 度 設 計 の 検 討 と 並 ん で 、 広 く 視 野 に 入 れ て お く べ き 重 要 な 課 題 が あ る 。 3.1 他 の 諸 制 度 と の 有 機 的 連 携 第 1 に 、単 に 労働 時 間 制 度だ け に 目 を向 け る の では な く 、労働 時 間 の 問題 は よ り 広 く 他 の 諸 制 度 と も 密 接 に 係 わ り あ っ た 問 題 で あ る こ と を 認 識 す る こ と で あ る 。 例 え ば 、 労 働 者 の 健 康 確 保 に つ い て は 労 働 安 全 衛 生 法 上 の 安 全 衛 生 委 員 会 等 の 取 組 み (17 条 以 下)、 女 性活 用 の 視 点か ら は 男 女雇 用 機 会 均等 法 上 の ポジ テ ィ ブ ア ク シ ョ ン (14 条)、 子 育 て支 援 と い う視 点 か ら は次 世 代 育 成支 援 対 策 推進 法 上 の 一 般 事 業 主 行 動 計 画 (12 条 以 下)、 労 働 時 間 に関 す る 総 合的 対 策 と して 労 働 時 間 等 設 定 改 善 法 上 の 労 働 時 間 等 設 定 改 善 委 員 会 (6 条 以 下 ) など 、 幅 広 い観 点 か ら 法 的 な 取 組 み が 推 進 さ れ て い る 。 労 働 時 間 を め ぐ る 問 題 を 考 え る 際 に は 、 他 の 諸 問 題 と 有 機 的 に 結 び つ い て い る こ と を 認 識 し 、 こ れ ら の 問 題 を 視 野 に 入 れ な が ら 問 題 の 解 決 ・ 予 防 を 図 っ て い く と い う 視 点 が 重 要 に な る 。 3.2 背 景 に あ る 日 本 的 な シ ス テ ム と の 関 係 第 2 に 、 日 本の 長 時 間 労働 問 題 は 、 1.2 で 述 べた よ う に 、① 日 本 の 長期 雇 用 慣 行 を 中 心 と し た 雇 用 シ ス テ ム の あ り 方 や 、 ② 正 規 労 働 者 と 非 正 規 労 働 者 の 間 に 大 き な 格 差 ・ 乖 離 が あ る 労 働 市 場 の 構 造 と 密 接 に 結 び つ い た も の と い う 性 格 ・ 背 景 を も っ て い る 。 そ こ で 、 日 本 の 労 働 時 間 問 題 を 考 え る 前 提 と し て 、 例 え ば 、 ① 長 期 雇 用 慣 行 そ の も の を 見 直 し て 外 部 労 働 市 場 の 柔 軟 性 を 取 り 込 む 形 で 改 革 を 進 め て い く の か 、 長 期 雇 用 慣 行 自 体 は 維 持 し な が ら 他 の 方 法 で 雇 用 の 柔 軟 性 を 確 保 す る こ と を 模 索 す る の か 、② 非 正 規 労 働 者 は 正 規 労 働 者 の 雇 用 を 守 る た め の 調 整 弁( バ ッ フ ァ ー ) で あ る と い う 位 置 づ け を 今 後 も 維 持 す る の か 、 正 規 労 働 者 と 非 正 規 労 働 者 を あ わ せ て 労 働 者 全 体 で 雇 用 の 柔 軟 性 の バ ラ ン ス を と っ て い く の か と い う 問 題 を 、 も う

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一 度 根 本 か ら 考 え る 必 要 が あ る9 労 働 時 間 を め ぐ る 問 題 を 考 え る 際 に は 、 労 働 時 間 法 制 上 の テ ク ニ カ ル な 議 論 ・ 改 革 だ け で な く 、 雇 用 シ ス テ ム や 労 働 市 場 の あ り 方 自 体 を 見 渡 し な が ら 、 労 働 法 制 全 体 の 改 革 を 検 討 す る 視 点 が 重 要 に な る 。 3.3 実 効 的 な 法 シ ス テ ム の 構 築 第 3 に 、 労 働時 間 法 制 (さ ら に 労 働法 制 全 体 )の 改 革 を 進め て い く うえ で は 、 そ の 法 的 基 盤 と し て 、 実 効 的 な 法 シ ス テ ム の あ り 方 を 検 討 し 構 築 し て い く こ と が 重 要 な 課 題 と な る 。 例 え ば 、 労 働 基 準 監 督 署 な ど 公 的 機 関 に よ る 厳 格 な 監 督 を 行 い 、 違 法 な 行 為 が あ れ ば 積 極 的 に 処 罰 を し て い く べ き か ( 国 家 管 理 モ デ ル )、 私 的 自 治 ( 契 約 自 由 ) を 重 視 し 、 契 約 違 反 が あ っ た 場 合 に は 裁 判 に よ る 権 利 の 実 現 を 図 る こ と で 対 処 す べ き か( 私 的 契 約 モ デ ル )、そ れ と も 国 家 管 理 と 私 的 自 治 の 中 間 と し て 、多 様 な 意 見 利 益 を 調 整 ・ 反 映 す る 集 団 的 シ ス テ ム を 構 築 し 、 集 団 的 な 問 題 の 発 見 ・ 解 決 を 図 っ て い く べ き か( 中 間 集 団 モ デ ル )。ま た 、集 団 的 な シ ス テ ム を 構 築 し て い く 場 合 、 そ の 実 効 性 や 公 正 さ を 支 え る 基 盤 と な る 組 織 は 労 働 組 合 な の か 、 新 た な 労 働 者 代 表 制 な の か10 労 働 時 間 法 制 や 労 働 法 制 全 体 の 改 革 を 論 じ る 際 に は 、 新 た な 社 会 の あ り 方 に 適 合 し た 実 効 的 な 法 シ ス テ ム を 構 築 し て い く 視 点 が 、 改 革 の 基 盤 と し て 、 重 要 に な 9 こ れ ら の 点 は、国 の 法 律 政策 の あ り 方と し て は、解 雇 法 制、有 期 労 働 契約 法 制 、 労 働 者 派 遣 法 制 な ど を 含 む 労 働 市 場 法 制 全 体 を ど の よ う に 設 計 す る か ( そ れ と の 関 係 で 労 働 時 間 法 制 を ど う 設 計 す る か ) に 係 わ る 問 題 で あ る 。 例 え ば 、1 つ の 方 向 性 と し て は 、 正 規 労 働 者 の 労 働 時 間 規 制 を 強 め る 分 、 正 規 労 働 者 の 解 雇 規 制 を 相 対 化 し 、 正 規 労 働 者 と 非 正 規 労 働 者 ( 有 期 契 約 労 働 者 や 派 遣 労 働 者 な ど ) を あ わ せ て 雇 用 の 柔 軟 性 の バ ラ ン ス を と る と い う 選 択 肢 が あ り う る 。 ま た 、 各 企 業 ・ 事 業 場 レ ベ ル で 、 労 使 の 話 し 合 い を 通 じ て 、 個 別 に そ の 方 向 性 や 重 点 の 置 き 方 を 決 め る と い う 方 法 も 考 え ら れ る 。 例 え ば 、 一 方 で 、 正 規 労 働 者 の 雇 用 保 障 を 重 視 し 、 非 正 規 労 働 者 の 雇 用 は 柔 軟 な も の と す る が 、 非 正 規 労 働 者 に は そ の 不 安 定 さ を 保 障 す る 手 当 を 支 払 う と い う 企 業 ・ 事 業 場 が あ り 、 他 方 で 、 正 規 ・ 非 正 規 労 働 者 の 垣 根 な く 雇 用 の 継 続 性 を 重 視 し つ つ 、 経 営 難 に 直 面 し 雇 用 調 整 が 必 要 と な っ た と き に は 正 規 ・ 非 正 規 労 働 者 の 区 別 な く 調 整 の 対 象 と す る と い う 企 業 ・ 事 業 場 も あ り 、 そ れ ら の 選 択 を 各 企 業 ・ 事 業 場 に お け る 労 使 の 協 議 ・ 決 定 に 委 ね る と い う 方 法 で あ る 。 10 例 え ば、2 で 提 示 し た「 労 働 者 代 表」と の 協 議・協 定 は、既 存 の 労 働 組合( 特 に 過 半 数 組 合 ) と の 協 議 ・ 協 定 に よ っ て そ の 実 効 性 や 公 正 さ を 確 保 す る こ と が で き る の か 、 非 組 合 員 を 含 む 労 働 者 全 体 に よ っ て 代 表 を 選 出 す る 新 た な 制 度 を 設 け そ こ で 選 ば れ た 労 働 者 代 表 に よ っ て そ の 役 割 が 担 わ れ る べ き な の か が 、 こ こ で の 重 要 な 検 討 課 題 と な る 。

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る11 【 参 考 文 献 】 井 上 達 夫 [2001]『 現 代 の 貧困 』 岩 波 書店 梶 川 敦 子 [2008]「 日 本 の 労 働 時 間 規 制 の 課 題 ― 長 時 間 労 働 の 原 因 を め ぐ る 法 学 的 分 析 」 日 本 労 働 研 究 雑 誌 575 号 17 頁 以 下 川 人 博 [1998]『 過労 自 殺 』岩 波 書 店 黒 田 祥 子 [ 2009] 「 日 本 人 の 労 働 時 間 は 減 少 し た か ? ―1976-2006 年 タ イム ユ ー ズ ・ サ ー ベ イ を 用 い た 労 働 時 間 ・ 余 暇 時 間 の 計 測 」ISS Discussion Paper Series J-174 厚 生 労 働 省 [2005]「 裁 量 労働 制 の 施 行状 況 等 に 関す る 調 査 」 杉 山 豊 治 ・ 村 上 陽 子 [2010]「 労 働 組 合 の 視 点 か ら 」 水 町 勇 一 郎 ・ 連 合 総 合 生 活 開 発 研 究 所 編 『 労 働 法 改 革 』 日 本 経 済 新 聞 出 版 社 戸 塚 秀 夫 [1966]『 イ ギ リ ス工 場 法 成 立史 論 』 未 来社 日 本 労 務 研 究 会[2005]『 管 理 監 督 者 の実 態 に 関 する 調 査 研 究報 告 書』( 座 長:島 田 陽 一 ) 野 川 忍 [2007]『 労働 法 』 商事 法 務 濱 口 桂 一 郎 [2009a]「 EU 労 働 時 間 指令 改 正 の 動向 」 労 働 法律 旬 報 1687・ 88 号 71 頁 以 下 濱 口 桂 一 郎 [2009b]『 新 しい 労 働 社 会』 岩 波 書 店 ホ ー ウ ィ ッ ツ( モ ー ト ン ・J)( 樋 口 範 雄訳 )[ 1996]『 現 代 アメ リ カ 法 の歴 史 』弘 文 堂 水 町 勇 一 郎[2005]「 労 働 時 間 政 策 と 労 働 時 間 法 制 」日 本 労 働 法 学 会 誌 106 号 140 頁 以 下 水 町 勇 一 郎 [2008]『 労 働 法〔 第 2 版 〕』 有 斐 閣 水 町 勇 一 郎 ・ 連 合 総 合 生 活 開 発 研 究 所 編 [2010]『 労 働 法 改 革 』 日 本 経 済 新 聞 出 版 社 山 口 浩 一 郎 ・ 渡 辺 章 ・ 菅 野 和 夫 編 [1988]『 変 容 す る 労 働 時 間 制 度 』 日 本 労 働 協 会 11 こ の よ う な 視 点か ら 労 働 法改 革 の グ ラン ド デ ザ イン に つ い て論 じ た も のと し て 、 水 町 ・ 連 合 総 合 生 活 開 発 研 究 所 編 [2010] が あ る 。

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労 働 政 策 研 究・研 修 機 構[2005a]『日 本 の 長 時 間 労働・不 払 い労 働 時 間 の実 態 と 実 証 分 析 』( 小 倉 一 哉 ・ 藤 本 隆 史 ) 労 働 政 策 研 究 報 告 書 No.22 労 働 政 策 研 究・研 修 機 構[2005b]『諸 外 国 の ホ ワ イト カ ラ ー 労働 者 に 係 る労 働 時 間 法 制 に 関 す る 調 査 研 究 』( 座 長:山 川 隆 一・荒 木 尚 志 )労 働 政 策 研 究 報 告 書 N0.36 渡 辺 章 [2007]「 工場 法 史 が今 に 問 う もの 」 日 本 労働 研 究 雑 誌 562 号 101 頁 以 下 AGRIETTA (M.) [1976], Régulation et crises du capitalisme : L’expérience des

États-Unis, Paris, Calmann-Lévy

BOYER (R.) [1986], La Théorie de la régulation : Une analyse critique, Paris,

参照

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