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時系列複数SARデータの干渉解析による地盤沈下モニタリング ―青森県・津軽平野の解析を例として―

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1990年代以降の地盤沈下に関する研究においては,こ れらの特長を活かした人工衛星搭載の合成開口レーダ (SAR:Synthetic Aperture Rader) による観測データを 利用した研究が多く報告されている。しかし,それらの 研究は,短期間における地盤沈下を解析した結果のケー スが多く,数年から数十年というような長期の経年的な 変動について研究した事例は未だ少ない。さらに,地盤 沈下の調査や分析結果を,洪水,高潮,津波などの自然 災害の発生状況と関連付けて論じた研究も極めて少ない。 筆者らは,近年,洪水や高潮などの自然災害が多く発 生する傾向が指摘されている日本を含む東アジアにおけ 1 .はじめに これまで,地盤沈下の実態を把握するための調査や研 究は,水準測量やGPS測量が主流であったが,近年, 衛星データ利用技術の発展に伴い,SAR干渉処理技術を 利用した地盤沈下の調査や研究等が行われるようになっ てきた。この人工衛星を利用した調査や研究は,水準測 量やGPS測量によるものと比べて,広域かつ面的に地 盤沈下の実態を把握できること,およびアーカイブされ た過去の観測データを時系列で利用して地盤沈下を経年 的に調査できるという利点によるところが多い。特に,

宮下 智一

・中山 裕則

**

Authors are carrying out long-term monitoring of the ground deformation through the interferometric SAR (Synthet-ic Aperture Radar) analysis in alluvial plain with the natural disaster risk such as flood and storm surge. The purpose of this paper is to perform long-term ground deformation monitoring in multiple DInSAR (Differential Interferometric SAR) analysis, and to investigate those change causes. Firstly, in the area along Iwaki River of the Tsugaru plain in Aomori Pre-fecture with local and remarkable land subsidence, monitoring of ground deformation for about 23 years and investigation of its cause were accomplished based on the DInSAR analysis for several periods.

The result of this study showed clearly that land subsidence had arisen continuously from 1992 to 2015 in the DIn-SAR analysis using three data sets of JERS-1/DIn-SAR, ALOS/PALDIn-SAR, and ALOS-2/PALDIn-SAR-2. Actually, the cumulative land subsidence in the 4 periods of two years from 1992 to 1993, three years from 1995 to 1998, four years from 2007 to 2011, and one year of 2015 within 23 years were about 8 cm, 12 cm, 19 cm, and 3 cm respectively. Based on these results, the estimated accumulation land subsidence for 23 years was calculated with about 90 cm by assuming that the same subsid-ence continued in those periods without interferometric analysis. Then, the cause of this subsidsubsid-ence was able to infer the soft ground and the compaction by banking. Furthermore, it was also shown clearly that distribution of each maximum subsidence area of the 1990s and the 2000s had shifted in the direction of north and south.

Application to other alluvial plains of the monitoring method of the long-term ground deformation by this multiple DInSAR analyses continues to be expected.

Keywords: ALOS/PALSAR, ALOS-2/PALSAR-2, JERS-1/SAR, DInSAR, land subsidence, Tsugaru Plain

時系列複数

SARデータの干渉解析による地盤沈下モニタリング

―青森県・津軽平野の解析を例として―

Monitoring of the Land Subsidence Based on the Interferometric Analysis by Multi-temporal SAR Data:

A case study in Aomori, Tsugaru Plain

Tomohito MIYASHITA

and Yasunori NAKAYAMA

** (Accepted November 11, 2016)

Graduate School of Integrated Basic Sciences, Nihon University: 3-25-40,

Sakurajosui, Setagaya-ku, Tokyo, 156-8550, Japan

** Department of Earth Science, College of Humanities and Sciences,

Nihon University: 3-25-40, Sakurajosui, Setagaya-ku, Tokyo, 156-8550, Japan

日本大学院総合基礎科学研究科地球情報数理科学専攻:

〒156-8550 東京都世田谷区桜上水3-25-40

** 日本大学日本大学文理学部地球科学科:

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る低湿な平野を対象として,差分干渉SAR (DInSAR: Differential Interferometric SAR) 解析を用いた地盤変動 の長期モニタリングを行いつつある。すなわち,地盤沈 下は,地表流水の流動に影響を及ぼし,海面との相対的 な比高差の減少により洪水,高潮,津波などの自然災害 発生リスクを高めていることから,その実態を明らかに しようとしている。特に,複数種類の衛星搭載SARに よる時系列観測データを用いたDInSAR解析による 20∼ 30年程度の長期間での地盤沈下モニタリングが重要で あり,そのための基礎的な手法についての検討を行って いる。 本論では,複数のDInSAR解析を用いた20年を越える 長期間における地盤変動のモニタリングと,それによる 地盤沈下要因の分析を行った結果を述べる。 2 .研究の概要 2.1 研究の目的 本研究の目的は,まず,長期的な地盤変動モニタリン グを想定し,局所的ではあるが顕著な地盤沈下が認めら れている青森県津軽平野の岩木川流域を対象地とした複 数時期のDInSAR解析を用いた約23年の地盤変動のモニ タリング結果を示すことである。次に,その長期地盤変 動モニタリング結果に基づき,その示された地盤沈下の 要因の分析を論じ,最後に,本手法の他地域調査への適 用の可能性に言及することとした。 2.2 研究の背景 近年,発生が増加傾向にあるとされる自然災害のう ち,洪水,高潮,津波などのリスクの変化については, 気象・気候の変化とともに,地上での土地被覆変化や地 盤高変化の影響が大きい。このうち迅速な地盤沈下の把 握は,最近の異常気象などによる都市を含む低地での洪 水や高潮に対する対策の観点からも緊急を要すると考え られる。地盤高の変化については,例えば日本では,国 土地理院や各自治体などで,地上水準測量などにより実 施され,とりまとめられてきた (森下ほか,2010)。しか し,広域の変動を対象に常に実施するには,多くの時間 と人的資源が必要となる。 この広域に及ぶ地盤変動を定期的にモニタリングする 手法として,人工衛星や航空機に搭載されたマイクロ波 センサにより観測されたSARデータの位相情報の差分 を抽出する技術であるDInSARが用いられてきている。 この技術は,火山活動や地震に伴う地盤変動の検出に利 用され,火山性の地盤変動の事例としては,ニュージー ラ ン ド の タ ウ ポ 山 の 変 動 を 捉 え た も の (Sergey et al, 2011) や,2014年に発生した御嶽山の噴火に伴う地表変 位を検出したもの (山田ほか,2015) がある。地震性の 地盤変動に関しては,ネパールで発生した地震による地 すべり性の地表変動を検出したもの (佐藤ほか,2016) があり,多くの成果が報告されている。 一方,地盤沈下の検出については,日本が1992年に打 ち上げたJERS-1/SARの観測データを利用したDInSAR 解析による関東平野北部の地盤沈下を対象とした事例 (中川ほか,1999) や,後継機である ALOS/PALSARの観 測データを利用したものでは,日本の東京周辺と中国の 長江デルタの軟弱地盤地域の地盤変動を解析した事例 (上田ほか,2011),カトマンズ盆地の地盤沈下を対象と して,時系列解析を行った研究事例 (出口ほか,2015) がある。さらに,2014年には,PALSARの後継機である PALSAR-2が打ち上げられ,さらなる地盤沈下解析に利 用できると期待されている。 しかしながら,これらの変動検出事例の多くは4年か ら6 年という,数年間程度が中心であった。その理由 は,各SAR搭載衛星の観測諸元が異なることと,それ らの寿命が,長くても5∼10年であり,同一の SAR搭載 衛星では,十数年から数十年間という長期間の継続的な モニタリングが難しいからである。 そこで,本研究では,ほぼ類似した諸元の観測データ を利用して,可能な限り長期間にわたる時系列変動検出 の解析手法を適用し,その結果に基づいて,地盤沈下要 因の分析をし,同手法の他地域への適用の可能性につい て言及した。具体的には,日本が打ち上げたJERS-1, ALOS,ALOS-2にそれぞれ搭載されたSAR観測データ を用いて,1990年代初めから2015年までの約23年間の 時系列解析を行った。 2.3 干渉 SAR 解析による長期地盤沈下モニタリング 2.3.1 差分干渉処理 (DInSAR) の概要 SARは,衛星などのアンテナからマイクロ波を照射 し,地表の物体から散乱 (反射) されたマイクロ波を受 信するセンサである。この受信されたマイクロ波には, 地物の反射強度や偏波情報と共に衛星地表間の距離の情 報である位相情報が含まれている。DInSARは,ほぼ同 一の軌道上から観測された2 時期の SARデータの位相 情報の差分より地表面の高度や変位を抽出するものであ る。 DInSARによる地盤変動検出のマイクロ波計測の概念 図をFig. 1に示す。このとき,r1が1 回目の観測による マイクロ波ビーム,r2が2 回目の観測によるマイクロ波 ビームを示す。この地盤変化に伴う2 時期のマイクロ波

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の観測の際の衛星の位置のズレによって生じる軌道誤 差,大気中に不均一に存在する水蒸気によるマイクロ波 の遅延によって生じる位相遅延誤差,電離層の霍乱によ る誤差がある。しかし,大気中の水蒸気によるマイクロ 波の位相遅延による誤差や電離層の霍乱による誤差は, 除去するのに非常に困難を伴う。特に,水蒸気による位 相遅延の誤差を低減するためには,データ選定の際に, 水蒸気による影響が少ないデータを選択する必要があ る。すなわち,水蒸気の多い時期に観測されたデータ や,降雨など気象条件が悪い日に観測されたデータは極 力使用しないことなどが望ましい。 また,DInSARにおいて,検出される変動は水平成分 と鉛直成分の両方を合わせ持ったスラントレンジの伸び 縮み,すなわちLOS (Line of Sight) における変動量であ る。しかし,本論では,対象が地盤沈下であり,検出さ れた変動量のうち,特に鉛直成分についての議論を行う ため,Fig. 3のようにマイクロ波の入射角を用いて, LOS変動量を垂直成分における変動量に換算し,解析 を行った。 2.3.2 時系列地盤沈下モニタリング手法の概要 masterとslaveの画像によるDInSARの処理を繰り返 して時系列に地盤沈下をモニタリングする手法の概要を Fig. 4に 示 す。 こ こ で, ま ずSAR1をmaster,SAR2を slaveとしてDInSAR処理を行なった後,今度はSAR2を のずれの情報である位相情報の差分から地表の変位を求 めることができる。r1とr2による観測画像をマスター画 像 (以下masterと記す) とスレーブ画像 (以下slaveと記 す) と呼ぶが,これらより地表変動を求めるDInSARで は,変位の検出精度に影響を及ぼす成分がある。 DInSARにおいて,解析結果に含まれる軌道縞と地形 縞は除去する必要があり,Fig. 2に示す処理フロー中の Interferogram Generationの過程で処理を行う。軌道縞 は,衛星データのもつ軌道情報を用いて除去することが でき,地形縞は,既存のDEMを用いて推定した地形パ ターンに基づいて除去することが可能である。その他 に,除去する必要がある誤差成分として,r1の観測とr2

Fig. 1 The theory of differential Interferometric SAR (Modified from Murakami et al, 1997)

Fig. 2 A flowchart of DInSAR processing for  ground deformation using DEM

Fig. 3 The relationship of LOS deformation and the vertical deformation

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master,SAR3をslaveと し て 再 び DInSAR処 理 を 行 な う,というように,ひとつ前のDInSAR処理でslaveと して使用したデータを次の解析のmasterとして,繰り 返し処理を行っていくものである。このように短期間の DInSAR処理による結果を重ねていくことで,数十年単 位の長期的の地盤沈下を把握することが可能であり,さ らに,他の情報と合わせた分析で,地盤沈下の要因の検 討が可能である。地盤沈下の要因には,地下水の汲み上 げによる地盤内の有効応力の増加によるものや,市街地 の発達に伴う建造物や盛土などの荷重による圧密沈下な どがあり,長期的な地盤沈下のモニタリング結果は,自 然災害に対するリスク分析に適用することが可能である と考えられる。 3 .研究の方法 3.1 対象地域の概要 本研究で対象領域とした青森県津軽平野の岩木川流域 は,日本の代表的な沖積低地であり,局所的ではあるが, 顕著な地盤沈下が観測されてきた (森下ほか,2010)。地 盤沈下が観測された地域は,建造物が少なく農地が広 がっており,主にリンゴ畑として利用されている (Fig. 5)。 その農地管理のために地下水の汲み上げを行っているこ とが,現地調査より明らかになっている (Fig. 6)。解析 対象とした弘前市を含む24km四方の領域を,Fig. 7の LANDSAT画像に赤枠で示した。また,現地調査は筆者

Fig. 4 An overview of time series analysis for ground deformation by DInSAR processing

Fig. 5 A picture of apple field in study area

Fig. 6 A picture of the groundwater pumping equipment for the apple field in study area

Fig. 7 LANDSAT image showing study area with red rectangle frame and each observing area of SAR with other rectangle frames

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(3)2007年 2月3日∼2011年 4月1日〔⑤∼⑨〕 (4)2015年 4月7日∼2015年 9月8日〔⑩〕

な お,DInSAR処 理 に は ス イ スsarmap社 製 のSAR scapeを使用した。 4 .DInSAR 解析結果 4.1 JERS-1/SAR データによる結果 1992年から1998年までの期間のJERS-1/SARのデータ を用いて,Table 1の①から④のペアによるInSAR処理 を行い,地盤沈下を解析した画像をFig. 10に示す。な お,本論のDInSAR解析画像のカラーチャートは,PAL-SARの波長における色の配分に合わせてあり,Fig. 9の 通りである。 Fig. 10の解析画像によれば,弘前市の北部の岩木川 流域の2 本の支流が 1 本に合流している地域(Fig. 9の (a)の点A)において,地盤沈下のパターンが示されて おり,Fig. 10の (a) から (d) の 4 期間にわたって,同じ 地域で沈下パターンが検出された。(a) と (b) では,そ れぞれ308日と220日の期間に約 6cmの沈下が示され, (c) は176日 で 約 3cm,(d) は 期 間 が 長 く924日 で 約 10cmの沈下パターンが示された。また,(b) と (c) の間 で,SARデータの干渉性が非常に悪かったため,DInSAR 処理による変動検出が難しく,その528日間における変 らにより2015年 5月に実施され,以下の項目について調 査された。 ・国土交通省藤崎出張所での地盤沈下についての情報収 集 ・板柳町役場建設課での地盤沈下についての情報収集 ・地盤沈下地域の土地利用の把握 3.2 使用データ 本研究に用いたのは,日本が打ち上げた陸域観測衛星 に 搭 載 さ れ たJERS-1/SAR,ALOS/PALSAR,ALOS-2/ PALSAR-2によりそれぞれ観測された約10年間分のデー タである。 DInSARの処理において,基線長がなるべく短いもの が解析に向いているが,本研究では,より多くのデータ で長期間の変動抽出を目指したため,1,500mを超える やや長めの基線長を持つペアデータも解析に使用した。 Table 1に本研究で使用したSARペアデータの一覧を示 す。SARによる観測が連続しているデータ間は破線,連 続していないデータ間は実線による罫線で区切って示し てある。また,それぞれのSARの観測範囲は黄色と白 色,および水色の矩形枠としてFig. 7に示してある。 3.3 本研究の流れ 本研究の流れの概要をFig. 8に示す。まず,用意した SARデータをそれぞれのペアごとにDInSAR処理を施し ていき,地盤沈下パターンを検出していった。次に,そ れら全ての処理結果を加算して,累積沈下量を算出し, さらに,その累積沈下量に対応する標高を,現在の DEMと統合して,1992年の地盤標高を復元した。ここ で,23年間のうちには,JERS-1,ALOS,ALOS-2それ ぞれでSARデータ観測がなかったか,干渉が難しかっ た時期があるので,実際には変動の加算を,以下の4時 期について行った。〔 〕内はTable 1に示した使用デー タの番号である。 (1)1992年 6月5日∼1993年11月15日〔①,②〕 (2)1995年 4月27日∼1998年 5月1日〔③,④〕

Table 1 List of used data

Fig. 8 A Study Flow

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わせた数値として示してある。なお,画像上部の約7cm 前後の沈下パターンは,(a),(c),(d) の 3 時期で同様に 現れているため,実際に沈下である可能性があるが,検 証を行っていないため断定はできない。 4.2 ALOS/PALSAR データによる結果 2007年から2011年までの期間のALOS/PALSARデー タ (Table 1の⑤から⑨のペア) によるDInSAR処理結果 をFig. 12の (a) から (e) に示す。JERS-1/SARデータの 解析によって地盤沈下が示された領域(Fig. 10 (a) に示 した点A) よりやや北側に,沈下パターンが示された。 顕著にパターンが示された期間はFig. 12の (a) と (c) で あり,(a) は322日で約 6cm,(c) は782日で約 9cmの沈 下であった。(b) と (d) の期間でも,同じ領域でそれぞ 動を追うことは難しかった。なお,(b) の画像左側と (d) の画像右側のフリンジに関しては,除去しきれな かった地形ノイズが残ったものであると考えられる。 Fig. 11は,(a) から (d) で抽出された沈下量を加算し て累積沈下量を推定した画像である。変動地域のうち, 最大の地盤沈下量は約25cmであったことが分かった。 ここで,干渉が難しかった(b) と (c) の間の約 1 年半の 解析値はないままとして,3.3節で示した (1) と (2) を合 (a)Pair ① (b)Pair ② (c)Pair ③ (d)Pair ④

Fig. 10 Land deformation pattern in 1990s based on the DInSAR processing by JERS-1/SAR data

Fig. 11 Accumulation pattern of land subsidence by InSAR results of JERS-1/SAR data

(a)Pair ⑤ (b)Pair ⑥

(c)Pair ⑦ (d)Pair ⑧

(e)Pair ⑨

Fig. 12 Land deformation pattern in 2000s based on the DInSAR processing by ALOS/PALSAR data

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よびPALSAR-2の観測期間の同最大部 (Fig. 15中の点 b) は約27cmとそれぞれ示された。 さらに,検出された沈下量の検証を試みたが,水準測 量によるデータが十分に得られなかったため,国土地理 院が発行した50mメッシュの DEMデータ (国土地理院, 2001) と,同じく国土地理院の 5mメッシュのDEMデー タ (国土地理院,2015) を使用した。方法は,検出された 沈下量を,2001年から2015年までの14年分に換算し, それぞれのDEMの標高値と比較する,というものであ る。用いた点は,水準測量の基準点に基づいて選定し, 地盤沈下が観測された1 地点を含むFig. 16の①∼④の 計4 地点である。この 14年分の沈下量はおよそ 80cmと 推定され,Fig. 17に示すように,③の地点で 2001年の 50mのDEMに比べ 2015年の 5mのDEMの標高値が約 れ2cm前後の小さい沈下パターンが示された。ここ で,(e) の期間は,東北地方太平洋沖地震の発生日をは さんでいるため,地震による影響を受けていないとは断 定できない。しかし,この領域において発生している地 盤沈下との関連性は低いと考えられる為,本論では考慮 しないものとする。すなわち,2010年前半まで地盤沈下 が生じていた地域で変動パターンが認められず,少なく ともこの期間では一時的にせよ地盤沈下が沈静化したこ とが推察される。

Fig. 13には,(a) から (e),すなわち 2007年から2011 年までの地盤変動量を加算し,推定した累積沈下量の画 像を示す。この変動域内で最大の地盤沈下量は約19cm であることが分かった。 4.3 ALOS-2/PALSAR-2 データによる結果 PALSAR2データは,2015年 4月7日と2015年 9月8日 の2 シーンのペアでDInSAR処理を行った。ALOS-2は 衛星の軌道が毎回,非常に安定しているため,2 シーン 間の基線長は約-149.80mと非常に短く,高い干渉性が 得られる。Fig. 14は,PALSAR-2データによる干渉画像 であるが,JERS-1やPALSARの解析結果画像とほぼ同 地域において,約3cm前後の地盤沈下のパターンが示 された。 5 .地盤沈下の分析結果 5.1 累積沈下量の算出 3.3節で示したように,3 機の人工衛星の SARデータ で解析された4 時期の地盤沈下量のみをそれぞれ加算 し,1990年代から2000年代までの累積沈下量として表 した画像をFig. 15に示す。JERS-1/SARの観測期間の地 盤沈下最大部 (Fig. 15中の点a) は約35cm,PALSARお

Fig. 13 Accumulation pattern of land subsidence by

DInSAR results of ALOS/PALSAR data Fig. 14 DInSAR processing by ALOS-2/PALSAR-2Land deformation pattern in 2015 based on the data (Pair ⑩)

Fig. 15 Accumulation pattern of land subsidence by DInSAR results of JERS-1/SAR, ALOS/PALSAR and ALOS-2/PALSAR-2 data

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1.4m (標高値精度は±0.3m) 低下していた。この標高値 の精度の影響が最小と仮定しても1.1mの沈下となるた め,SARで観測できなかった期間に,推定よりも大きな 沈下があった可能性も推察される。

5.2 地盤沈下の経年変化

Fig. 15のABの 2 点間の領域沿いの地盤沈下量を,Ta-ble 1の①から⑩の期間まで順に加算しまとめたものを Fig. 18に示す。これによると,JERS-1/SARとPALSAR およびPALSAR-2の観測期間での各地盤沈下の最大部 は,水平距離で約1km移動していることが明らかに なった。すなわち1990年代 (JERS-1/SARの観測期間) は南側 (点Bに近い位置) で,2000年代 (PALSARの観 測期間) では,ここより約 1km北側の地域で最も沈下 が生じていたことがわかった。1995年10月20日と1998 年5月1日のペア (期間③で176日間) や2008年 3月23 日と2010年 5月14日 (期間⑦で782日間) のように長期 間では,それに伴い沈下量が大きくなっていることもわ かった。しかし,沈下領域が局所的であること,3.3節 に示したとおりSARデータの干渉が 4 期間,約 9 年間 であり,その累積沈下量の値は30cm前後と示され,こ の値程度の地盤沈下は洪水などの自然災害に与える影響 は少ないと考えられた。 そこで,対象期間の23年間の累積沈下量を推定した。 対象期間内には,SARデータが得られなかったか,干渉 が難しかった期間,すなわち,②∼③,④∼⑤,⑨∼⑩ の3期間があるが,この期間は,その前後の沈下量から

Fig. 16 Reference points for comparative analysis between elevation and land subsidence

Fig. 17 A comparative result of elevation (upper) and land subsidence amount (lower)

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示した領域が地盤沈下発生域で,標高値がわずかに変化 していることがわかり,もしこのような1m弱の沈下が あったならば,洪水や河川の増水時に冠水する地域が増 加するなど,被害が生じる可能性があると推察された。 5.3 地盤沈下の要因検討結果 対象地域でみられた地盤沈下に関して,その要因検討 を行った。津軽平野の岩木川沿いの地域には,沖積平野 補完的に計算した。Fig. 15中の地点aとbにおける1992 年から2015年までの23年間の推定累積沈下量は約90cm となった (Fig. 19)。さらに,補完的に求めた結果も含 めた推定地盤沈下量を,国土地理院が発行している5m メッシュのDEMデータ (2015年頃作成) に加算し,1992 年の地盤標高の復元を試みた結果をFig. 20に示す (左 図:国土地理院発行の5mメッシュDEM,右図:1992 年の地盤標高を復元したDEM)。画像中に黒色の楕円で

Fig. 19 The amounts of estimated accumulation land subsidence from 1992 to 2015 in A and B based on DInSAR analysis

(a) Image of original DEM by the GSI (b) Estimated image of changed ground height

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特有の軟弱な地盤が広がっており,地盤沈下が生じやす い地域である。しかし,軟弱地盤ゆえの地盤沈下である とすると,今回のような局所的な地盤沈下ではなく,タ イのバンコク周辺のように,広域に及ぶ地域で地盤沈下 が生じると推察される (Anuphao et al, 2013)。 ここで,対象地域の地質についての研究 (梅津,1976) によると,地盤沈下のパターンが示された地域の表層地 質は,砂礫質の自然堤防と示されている。さらに,Fig. 21 に示した国土地理院の治水地形分類図 (国土地理院, 2007) によると,青色の横縞で示された旧河道が沈下領 域にも分布しているため,地盤が軟弱であるということ も要因の一つとして考えられた。 また,今回検出された地盤沈下域内の2 箇所と地盤沈 下域からやや離れた地点の1 箇所,計 3 箇所 (Fig. 22内 の1∼3) におけるボーリングデータ (青森県庁,2012) があり,それらから地質断面図を作成した (Fig. 23)。 この図で,沈下領域内の表層は盛土になっており,その 下部にシルト層が分布することから,ある時期の盛土に より,その荷重で下部のシルト層が圧縮されて,沈下が 引き起こされたことが推察される。 5.4 時系列地盤沈下モニタリング結果のまとめ 本 研 究 で は,JERS-1/SAR,PALSAR,PALSAR-2の3 種類のデータを用いてDInSARを行い,それぞれの解析 結果から継続した地盤沈下を捉えることができた。1992

Fig. 21 Landform classification map for flood control (GSI,2007)

Fig. 22 Land subsidence image showing bowling points

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1992年 か ら 1998年 の 6 年 間 で 約 25cm,2007年 か ら 2011年の 4 年間で約19cm,2015年で約 3cmであっ た。また,各沈下量を累積した最大沈下量は約35cm であった。 (2)DInSARの時系列解析の結果に基づく累積の地盤沈 下横断面図により,地盤沈下量の時系列変化と,その 空間分布の変化,および1990年代と 2000年代におけ る最大沈下域が南北に約1kmずれていたことを明ら かにした。 (3)SARデータが得られなかったか,干渉が難しかった 期間について,その前後の沈下量から補完的に計算 し,1992年から2015年までの23年間の累積沈下量を 推定した結果,約90cmであった。 (4)本研究における複数の衛星による時系列SARデー タによる長期間のDInSARに基づき,地盤沈下量の時 系列変化に加え,空間分布の変化を示すことができた ことから,本手法は,他地域における地盤沈下量の時 系列変化や,その空間分布の変化などの把握について 可能性を有していると考えられる。 謝辞 本 研 究 に 使 用 し たJERS-1/SAR,ALOS/ PALSARお よ び ALOS2/PALSAR2データは宇宙航空研究開発機構と日本大学 文理学部との共同研究であるALOS研究プロジェクトの一環 として提供されたものである。また,本稿作成にあたり,一 般財団法人リモート ・ センシング技術センターの山之口勤博 士にはSARデータ解析と結果考察などについて貴重なご助 言をいただいた。ここに記して深甚なる謝意を表します。 なお,本研究は文部科学省学術研究助成金(基盤研究 (C) 課題番号26350406,代表者:中山裕則)の一環として行 われ,平成26年度∼平成 28年度日本大学文理学部付置研究 所所員個人研究費の一部も使用した。 年から2015年までの23年間のうち,SARデータが観測 さ れ た9 年 間 (1992年 ∼1993年,1995年 ∼1998年, 2007年∼2011年および2015年のうちの 5ヶ月間) で, 累積した最大沈下量が35cmと示された。また,1990年 代の地盤沈下と2000年代の地盤沈下の発生の最大値を 示す領域が約1km離れているということが明らかにな り,本手法で累積地盤沈下量に加え,その発生の空間的 分布の経年変化も明らかにすることができた。 本研究の複数のSARデータを用いる地盤変動モニタ リング手法は,他地域においても長期間の地盤変動を把 握することが可能とも考えられる。しかし,本研究で は,日本が打ち上げた3 機の衛星に搭載されたSARによ るデータのみの利用のため,1998年から2007年の間や 2011年から2015年の間で観測データがなく,その間は 前後の変動傾向から推定しなくてはならなかった。欠測 なく連続したより詳細な時系列モニタリングを行うため に は,ESA (European Space Agency: 欧 州 宇 宙 機 関 ) のENVISAT/ASAR や,DLR (Deutsches Zentrum für Luft - und Raumfahrt:ドイツ航空宇宙センター) のTer-raSAR-Xなど,他国の衛星による SARデータを利用し て,より連続したデータによる解析を行う必要がある。 6 .結論 本研究では,津軽平野の岩木川流域においてJERS-1/ SAR,ALOS/PALSAR,ALOS-2/PALSAR-2の 3 種の合成 開口レーダデータを用いたDInSARの時系列解析を行っ て,地盤変動のモニタリングと,地盤沈下要因の分析を 行った。得られた結論をまとめると以下の通りである。 (1)DInSARを利用した時系列解析により,1992年から 2015年までの約23年間のうち,2010年5月14日から 2011年 4月1日までの230日間を除いた期間で,継続 的な局所的地盤沈下が検出された。累積沈下量は,

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Anuphao Aobpaet, Miguel Caro Cuenca, Andrew Hooper, Itthi Trisirisatayawong:InSAR time-series analysis of land subsidence in Bangkok, Thailand, International Journal of Remote Sensing, Vol.34, No.8, pp.2969-2982, 2013

Sergey Samsonov, John Beavan, Pablo J. Gonzales, Kristy Ti-ampo:Ground deformation in the Taupo Volcanic Zone, New Zealand, observed by ALOS PALSAR interferometry, Geophysical Journal International, Vol. 187, pp.147-160, 2011 青森県庁:あおもり地中熱ホームページ[地下環境データ ベース],環境エネルギー産業振興グループ,青森県庁 ホームページ,2012, http://www.pref.aomori.lg.jp/sangyo/energy/geo_database. html, 最終閲覧日2016年 9月30日 上田麻礼・中山裕則・冨山信弘・山之口勤・鄭祥民・立旻 周:D-InSAR解析による軟弱地盤の都市域における地盤 変動解析―東京および上海を例として―,日本大学文理 学部自然科学研究所研究紀要,46,pp.241-253,2011 梅津正倫:津軽平野の沖積世における地形発達史,地理学評 論,49 (11),pp.714-735,1976 国土地理院:数値地図50mメッシュ (標高),2001年 5月1 日発行 (1 刷) 国土地理院:基盤地図情報サイト,国土地理院ホームペー ジ,2016, http://www.gsi.go.jp/kiban/,最終閲覧日2016 年10月16日 国土地理院:治水地形分類図,国土地理院ホームページ, 2007,http://www.gsi.go.jp/bousaichiri/fc_index.html, 最 終閲覧日2016年10月16日 佐 藤  浩・ 宇 根  寛:ALOS-2/PALSAR-2デ ー タ を 用 い た 2015年ネパール・ゴルカ地震による地すべり性地表変 動の検出,日本大学文理学部自然科学研究所研究紀要, 51,pp.37-45,2016 参考文献 出口知敬・六川修一・松島 潤:干渉SARの時系列解析に よる長期地盤変動計測,(一社) リモートセンシング学 会誌,29 (2),pp.418-428,2009 出口知敬・馬籠 純・佐藤実咲・石平 博:ALOS/PALSAR によるInSAR時系列解析で検出したカトマンズ盆地の地 盤沈下について,(一社) 日本リモートセンシング学会 誌,35 (5),pp.309-313,2015 中川弘之・村上 亮・藤原 智:JERS-1による干渉 SARで 検出した関東平野北部地域の地盤沈下,測地学会誌,45 (4),pp.347-350,1999 宮下智一・中山裕則:ALOS/PALSARデータを用いた津軽平 野における地盤変動解析とその要因検討,(一社) 日本 リモートセンシング学会第58回 (平成 27年度春季) 学術 講演会論分集,pp.125-126,2015 宮下智一・中山裕則:多時期干渉SARによる津軽平野の地 盤沈下の経年変化解析,(一社) 日本リモートセンシン グ学会第59回 平成27年度秋季) 学術講演会論文集, pp.133-134,2015 宮下智一・中山裕則:複数干渉SARによる地盤沈下の長期 モニタリング―青森・津軽平野の解析を例として―, (一社) 日本リモートセンシング学会第60回 (平成28年 度春季) 学術講演会論文集,pp.163-164,2016 村上真幸・藤原 智・飛田幹男・新田 浩・中川弘之:国土 地理院における干渉SARによる地殻変動検出技術の進 展,国土地理院時報,No.88,pp.1-9,1997 森下 遊・鈴木 啓,雨貝知美,唐沢正夫:干渉SARを活 用した効率的な水準測量の実施へ向けた取り組み,国土 地理院時報,No.120,pp.17-22,2010 山田晋也・森下 遊・和田弘人・吉川忠男・山中雅之・藤原 智:だいち2 号SAR干渉解析による御嶽山噴火に伴う 地表変位の検出,国土地理院時報,No.127,pp.11-15, 2015

Fig. 1 The theory of differential Interferometric SAR (Modified from Murakami et al, 1997)
Fig. 5 A picture of apple field in study area
Fig. 8 A Study Flow
Fig. 11 Accumulation pattern of land subsidence by InSAR results of JERS-1/SAR data
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参照

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