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著者 網谷 岳夫

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Academic year: 2021

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既設耐候性鋼橋梁の落橋防止装置に用いる高力ボル ト重ね摩擦接合継手の耐力評価法に関する研究

著者 網谷 岳夫

著者別名 AMITANI Takeo

ページ 1‑114

発行年 2018‑03‑24

学位授与番号 32675甲第432号 学位授与年月日 2018‑03‑24

学位名 博士(工学)

学位授与機関 法政大学 (Hosei University)

URL http://doi.org/10.15002/00014630

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博士学位論文

論文内容の要旨および審査結果の要旨

氏名 網谷 岳夫 学位の種類 博士(工学)

学位記番号 第659号

学位授与の日付 2018年 3月24日

学位授与の要件 本学学位規則第5条第1項(1)該当者(甲) 論文審査委員 主査 教授 森 猛

副査 教授 溝渕 利明 副査 教授 藤山 知加子

副査(学外)大阪市立大学教授 山口 隆司

既設耐候性鋼橋梁の落橋防止装置に用いる高力ボルト重ね摩擦接合継手 の耐力評価法に関する研究

1. 論文内容の要旨

耐候性鋼橋梁は1980年頃から鉄道橋で採用され始め,2015年までに10万t以上の耐候 性鋼鉄道橋が建設されている.耐候性鋼鉄道橋の多くは,兵庫県南部地震(1995年)以前 に設計されたものである.兵庫県南部地震以降の1999年に制定された「鉄道構造物等設計 標準・同解説(耐震設計)(以下,耐震標準)」では,大規模地震動に対して損傷を許容・

制御する設計法が示された.既設構造物についても,兵庫県南部地震以降,大規模地震動 で崩壊させないという目標が明確となり,耐震補強が行われるようになった.1995年の兵 庫県南部地震以降,2003年には三陸南地震,2004年には新潟県中越地震,2011年には東 北地方太平洋沖地震,2016年には熊本地震が発生しており,近年では大規模地震の発生確 率が高まっているように感じられる.東北地方太平洋沖地震を経て,2012年には耐震標準 も改訂され,今後,既設耐候性鋼橋梁に対する耐震補強工事が順次行われるものと想定さ れる.

既設鉄道橋に対する耐震補強の一つとして,落橋防止装置の設置が挙げられる.落橋防 止装置のうち,PCケーブルまたはワイヤロープで桁と下部工を連結する場合,主桁との接 合には,図 1 に示すような偏心荷重が作用する重ね継手形式が用いられることがある.偏 心荷重が作用する重ね継手は,「鉄道構造物等設計標準・同解説 鋼・合成構造物」に従い,

すべり先行型であることを前提に,図2に示す 2面摩擦継手と同じ設計が行われている.

この理由は,すべり/降伏耐力比βが0.5未満と推定される図3に示す重ね継手試験体を用 いた試験結果において,2面摩擦継手のすべり係数と同程度であったという実験結果に基づ いていると考えられる.しかし,すべり/降伏耐力比βが異なれば,偏心荷重の影響やすべ

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り係数は異なる可能性があると考えられる.既設鋼鉄道橋に対する落橋防止装置の接合部 に用いられる重ね継手のすべり耐力や降伏耐力について,偏心荷重やすべり/降伏耐力比β の影響を明らかにすることは,地震被災時の安全性や復旧性を確保する上で重要である.

既設耐候性鋼橋梁の耐震補強工事で高力ボルト摩擦接合継手を適用する際,すべり耐力 を確保するために既設耐候性鋼橋部材表面の素地調整が重要となる.現状では,既設耐候 性鋼橋は一般的な塗装橋に準じて素地調整を行われることがある.この場合,耐候性鋼橋 に生成されたさびを完全に除去することとなる.図 4 に示すように,耐候性鋼材に生成さ れるさび層構造は,表層さびと内層さびで形成される2層構造であることが知られている.

既設耐候性鋼橋部材表面を素地調整する際,表層さびは動力工具でも容易に除去できるの に対し,内層さびは鋼材素地に固着していることから,ブラスト処理でも完全に除去する ことは困難である.そこで,既設耐候性鋼橋部材表面を動力工具で簡易に素地調整し内層 さびを残した状態に対して,表面処理した新設部材を摩擦接合した場合のすべり耐力を明 らかにすることができれば,それに対応する設計が可能になるとともに,工期短縮や工費 縮減などの効果が期待できると考えられる.

この論文では,既設耐候性鋼橋梁に落橋防止装置を設置する際に用いる高力ボルト重ね 摩擦接合継手の耐力評価法を示すことを目的としている.ここでは,落橋防止装置のボル ト

図1 落橋防止装置接合部の継手形式例

図4 さび層断面の模式図

図2 2面摩擦継手

【A部拡大図】

既設側下フランジ

A部

重ね継手形式

偏心荷重

図3 重ね継手

FeOOH(外層さび)

保護性さび(内層さび)

地鉄

クラック

地鉄

FeOOH

FeOOH Fe3O4

耐候性鋼材 普通鋼材

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また,既設耐候性鋼材表面を簡易な素地調整を施した状態に対し,ブラスト処理または無 機ジンクリッチペイントを塗布した添加鋼材を摩擦接合した場合のすべり耐力とその影響 因子および経時変化を明らかにするための検討を行っている.

本論文は7章で構成されており,各章の概要は以下のとおりである.

第 1 章「序論」では,研究の背景について,既設耐候性鋼橋梁の現状と既設耐候性鋼橋 梁に落橋防止装置を設置する際の課題について述べている.そして,既往の研究を整理し,

本研究の目的と本論文の構成を示している.

第 2 章「偏心荷重が作用する高力ボルト摩擦接合継手のすべり耐力と降伏耐力」では,

偏心荷重の影響を明らかにすることを目的に,すべり/降伏耐力比βが 0.8 になるよう設計 した2面摩擦継手,1面摩擦継手,重ね継手試験体の引張試験とFEM解析を行っている.

そして,偏心荷重が作用する重ね継手と1面摩擦継手のすべり耐力は,2面摩擦継手と比較 した場合に 10%程度低下することを示すとともに,低下の原因がボルト軸ひずみの低下と ボルト軸力の作用範囲の違いにあることを明らかにしている.また,重ね継手と 1 面摩擦 継手の降伏耐力は2面摩擦継手と比較した場合に20%程度低下することを示すとともに,

降伏耐力の低下の要因が偏心荷重による板曲げ応力にあることを明らかにしている.

第 3 章「高力ボルト重ね摩擦接合継手のすべり耐力と降伏耐力に関する解析的検討」で は,高力ボルト重ね摩擦接合継手の耐力評価法を提示することを目的に,すべり/降伏耐力 比β,偏心量,継手長さをパラメータとしたFEM解析を行っている.そして,βの増加に 伴いすべり係数の低下が大きくなるが,すべり先行型となるβ≦0.6の場合は2面摩擦継手 のすべり係数と同程度であるという結果を示している.また,βが同じでも偏心量が大き い場合はすべり係数が低くなることを明らかにしている.さらに,重ね継手の降伏耐力を2 面摩擦継手と比較した場合βの値によらず 25%程度低いという結果もしている.また,継 手長さがすべり耐力および降伏耐力に与える影響は小さいという結果も示している.

第 4 章「既設耐候性鋼橋のさび生成状態の調査」では,落橋防止装置を設置することが 想定される経年30年程度の既設耐候性鋼鉄道橋の桁端部の部材を対象に,部位ごとの表層 さびの局所評価と内層さびの状態を把握することを目的に行なった実橋調査結果が示され ている.それらの結果に基づき,表層さびと内層さびの状態が,架設地域や部位によって どのように異なるかが整理されている.

第 5 章「既設耐候性鋼橋に用いる高力ボルト摩擦接合継手のすべり耐力」では,既設耐 候性鋼橋梁に高力ボルト摩擦接合継手を適用する場合の,接合面状態に応じたすべり係数 を提案することを目的に実験的な検討が行なわれている.経年30年程度の既設耐候性鋼橋 と同等のさびが生成されている耐候性鋼材を用いて,既設耐候性鋼橋梁に落橋防止装置を 設置する場合を模擬した重ね継手試験体を用いて引張試験を行われている.そして,既設 鋼材をカップブラシで素地調整した面に,ブラスト処理または無機ジンクを塗布した添加 鋼材を接合した場合のすべり係数とその影響因子を明らかにしている.また,既設鋼材に うろこ状さびが生成されている場合は,エポキシ樹脂系接着剤を用いた場合のすべり係数

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とその影響因子を明らかにするとともに,継手試験体を腐食促進することで,すべり係数 や接合面の経時変化を明らかにしている.そして,第2 章,第3章,本章での検討結果を 踏まえ,接合面の状態とすべり/降伏耐力比βの値に対応したすべり係数を提示し,偏心荷 重が作用する高力ボルト摩擦接合継手の降伏耐力の低下を考慮した耐力評価法が示されて いる.

第 6章「既設耐候性鋼橋に設置する落橋防止装置の耐力評価法と照査例」では,第2章 と第3章で示した重ね継手の耐力と,第 5章で明らかにしたすべり係数を用いて,既設耐 候性鋼橋に落橋防止装置を設置することを想定した重ね継手の耐力評価法と評価例が示さ れている.また,既設耐候性鋼橋梁に重ね継手を適用する際の接合面状態に応じたすべり 係数を用いた設計および施工上の留意点がまとめられている.

第 7 章では,本研究において得られた研究成果をまとめるとともに,今後の課題が示さ れている.

2.審査結果の要旨

耐候性鋼鉄道橋の耐震補強,すなわち落橋防止装置を設置する際に問題となる「重ね摩 擦接合継手」のすべり耐力と降伏耐力について,詳細な実験と解析によって検討し,それ らを求めるための評価方法を明らかにしている.具体的には,これまでの検討事例が多い 2面摩擦継手と重ね継手の各耐力を十分に計画された実験によって明らかにするとともに,

その結果を詳細な解析により再現し,耐力に影響を及ぼす因子とその程度を明らかにして いる.また,既設耐候性鋼材の素地調整について,施工の効率化の観点から表層さびのみ をケレンした既設耐候性鋼表面と種々の表面処理を施した連結鋼材間のすべり係数を一連 の実験から明らかとしている.そして,上記の耐力評価法とすべり係数を組み合わせて「既 設耐候性鋼橋梁の落橋防止装置に用いる高力ボルト重ね摩擦接合継手の耐力評価法」を提 示している.

以上のように,ここでの成果は鉄道橋だけではなく,耐候性鋼材を用いた道路橋の落橋 防止装置の合理的な設計法の確立に寄与するものである.さらに,ここで示されている結 果は,落橋防止装置だけでなく,重ね継手や1面摩擦継手を用いる場合の新設橋,また普 通鋼材を用いた既設橋補修のより合理的な設計法の確立に寄与するものであり,工学的に 高い価値を有するものと判断される.よって,本審査小委員会は全会一致をもって提出論 文が博士(工学)の学位に値するという結論に達した.

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