官民協同事業におけるリスク分担について
著者 岸本 哲也
雑誌名 同志社商学
巻 57
号 6
ページ 17‑28
発行年 2006‑03‑15
権利 同志社大学商学会
ドウシシャ ダイガク ショウガッカイ
URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000007338
官民協同事業におけるリスク分担について
*岸 本 哲 也
蠢 はじめに
蠡 官民協同事業モデル 蠱 協同事業のナッシュ均衡解 蠶 ナッシュ均衡解の社会的最適性 蠹 最適なリスク分担のあり方 蠧 結語
Ⅰ は じ め に
公共部門の各種事業を公共部門自身が直轄で行うのではなく,民間企業との協同で行 う方式は従来から行われていたが,最近その範囲が一段と広がっている。事業の外部委 託,第三セクターなど以前からあった形態に加えて,最近はPFIや指定管理者制度な どが加わってきてい
1
る。
このような潮流において重視されるのは,民間企業の経営方式を公共部門に活かすこ と,そして,これまで公共部門がさながら担ってきたリスクを民間部門に移転させるこ とである。本論文では,後者のリスク分担の問題を取り上げて,果たして民間企業にリ スクを移転することが望ましいのかどうかを理論的に検討す
2
る。
この問題についての理論分析の端緒はHart et al.[1]による。官民協同事業における 成果を両者で分け合う方式が事業の適切な遂行のいかんを決めることが示された。しか し,そこではリスク分担が明示的に扱われていない。
大島[7]は,事業を担当する民間企業が不況のもとで損失をこうむる場合に,公共 部門が損失補頡を行うか否かが事業の適切な遂行を左右することを示した。そこでは,
リスクは全て民間企業か公共部門のどちらかに負わされることを想定している。
小川[5]は,公共部門が民間企業に委託料を支払って進める事業を想定して,社会 的に望ましいリスク負担のあり方を求めている。そこでは,双方の主体のリスクへの態 度(リスク回避か中立か)が大きな決定要因にな
3
る。そして,民間企業にリスクを全て
────────────
* この研究には2004年度早稲田大学特定課題研究の助成金を受けている。
1 第三セクター,PFI,指定管理者制度などについては,宮木[3],西野[4],三野[2]参照。
2 小川[5]が官民協同事業で生じる可能性のあるリスクの一覧を提示している。
3 小川[5]で用いられている「リスク分担」の概念は,後述のように本論文で用いるそれとは異なる。
各主体がリスク中立的か回避的かを確認することは難しいので,それに議論を依存させると,議論の有 用性に疑問が生じる。
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負わせることは必ずしも適切ではないことが示される。
以上の研究においては,民間企業が得る利潤が(不確実性を除いて)民間企業の行動 のみによって決まるとされている。しかし,官民協同事業であれば,公共部門の行動が 民間企業の利潤に無視できない影響を与えるはずである。もちろんその逆の影響もあ る。そのような場合では,民間企業のみではなく,公共部門の生産活動も考慮に入れな ければならない。上記の先行研究はこの側面を十分に考慮していない。小川[6]は,
そのような状況のもとで適切なリスク負担のあり方を求めている。そして,モデルで用 いられる関数を特定化した上で,社会的に最適なリスク分担のあり方が民間企業と公共 部門の努力の生産性の相対的な大きさに依存することを示した。
本論文では,関数を特定することなく小川[6]の結果を一般化する。官民協同事業 として適切な事業については,民間企業に全てのリスクを負わせることが一般的には適 切ではないという結論が得られる。さらに,最適なリスク分担のあり方に関して,社会 的余剰を最大にする静態的な側面と,時間の経過の中での各主体のインセンティブとい う動態的な側面において一種のディレンマが生じることを指摘する。
論文の構成は以下の通りである。蠡で「官民協同事業モデル」を提示し,蠱では,協 同事業のナッシュ均衡解を求め,蠶,蠹において社会的に最適なリスク分担のあり方が 検討される。最後に蠧は結語に当てられる。
Ⅱ 官民協同事業モデル
公共部門と民間企業が一つの事業を協同で行う。公共事業の外部委託,第三セクタ ー,PFI,指定管理者制度などのケースが考えられる。官民が共同で事業をするのが適 切であるのだから,その事業の成果は双方の当事者の努力に依存しているはずである。
この事業の成果として,民間企業は利潤を得る一方,公共部門はある種の公共目的を達 成する。利潤の大きさは,事業環境,民間企業の努力,そして公共部門の努力の大きさ に依存する。公共部門の利得である公共目的の達成度も同様に,民間企業と公共部門の 努力に依存する。
公営ゴミ焼却場の廃熱を民間企業に供給して,民間企業が営利事業として地域暖房を 行うという例を考えよう。暖房事業から得られる利潤は,売り上げと費用の大きさに依 存し,それらにはリスクが伴う。また,企業が経営努力をすることで利潤が大きくなる のは当然であるが,公共部門による廃熱供給が適切に行われなければ営業に支障を来 す。廃熱供給が適切に行なわれるかどうかは公共部門の努力に依存する。公共部門の立 場から見れば,良質の地域暖房が提供されるなら,地域振興が進み,公共目的の一部が 達成される。地域振興は民間企業努力による地域暖房の成功と,公共部門自身の努力に
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依存するのである。
このような状況を単純なモデルに表そう。民間企業と公共部門の努力水準をそれぞれ m, g とする。事業に関わる環境が平時のものであれば,この事業を通じて利潤R(m, g)が得られる。Rm>0, Rg>0, Rmg>0, Rmm<0, Rgg<0と仮定する。R の下つき文字はそ れぞれの変数によるR の偏微分を表す。事業環境の悪化があったときには,同じm と gのもとでより小さい利潤tR(m, g)しか得られない(t<1,利潤は負になることもあ る)。このような事業環境の悪化としては,市場状況の悪化や契約時に想定していた条 件よりも不利な環境が生じるなどの場合が考えられる。異常時の利潤の減少分(1−t) R(m, g)は両者で負担する。民間企業の負担割合を0≦b≦1とする。b=1であれば,
民間企業が利潤減少分を全て負担し,異常時の利潤はtR(m, g)になる。b=0であれ ば,民間企業は平時・異常時に関わらず利潤R(m, g)を保障され,リスクを負担しな い。異常時には公共部門が利潤の差額(1−t)R(m, g)を民間企業に支払って,利潤の 減少分を埋めるのである。0<b<1の場合には,両者が共に利潤減少分を引き受け,リ スクを分担することになる
このような意味での「リスク分担」は,通常使われている概念とは違っている。通常 使われている概念によると,事業環境に応じて民間企業が得る利潤の変動が大きいほど 民間企業によるリスク負担が大きいと捉える。そして,事業環境に関わらず一定の利潤 が保障されるなら,企業はリスクを負わないとす
4
る。b=1の場合にはどちらの概念の もとでも「企業が全てのリスクを負う」ことになるが,民間企業が平時にも異常時にも 期待利潤を保障されるなら,通常の概念によれば,企業はリスクを負担しないことにな る。本論文で用いる概念によれば,民間企業は利潤の変動から免れているが,平時に得 られるよりも小さい利潤しか得られないという意味でリスクを負担しているのである。
通常の概念から外れた概念をとる理由は二つある。まず,実際に使われている「リス ク負担」の概念が本論文で使われているものと一致するからである。官民協同事業にお いて,契約時には想定されていなかった状況が生じたときに,売り上げ減少あるいは費 用増加により,民間企業の利潤が予期しない減少に見舞われることがある。そのときに は,契約で想定していた利潤のどれだけの部分を民間企業に保障するかが問題になる。
保障の程度が低いほど民間企業のリスク負担が大きいと捉えられる。このようなリスク 負担の概念は,本論文で用いる概念に一致する。第2の理由は,通常のリスク負担の概 念は,各主体がリスク中立であれば役に立たないことである。変動幅のいかんに関わら ず,利得の期待値が同じであれば,リスク中立な主体にとって,それらは同じ利得と認 識される。その場合には,通常の概念によるリスク分担の程度は主体の行動に影響を与 えないことになる。
────────────
4 小川[5]で用いられる「リスク分担」はこの意味でのものである。
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平時と異常時が実現する主観確率をそれぞれs1, s2とし,民間企業と公共部門に共通 のものとする。0<s1, s2<1, s1+s2=1である。民間企業,公共部門の双方はリスク中立 である。
民間企業の期待純利得は,期待利潤から努力の費用を差し引いたものである。努力の 限界費用は一定で1に等しいとする。民間企業の期待純利得は,
s1R(m, g)+s2{tR(m, g)+(1−b)(1−t)R(m, g)!−m=
[s1+s2{t+(1−b)(1−t)!]R(m, g)−m=hR(m, g)−m, h≡1−s2b(1−t)
事業を通じた公共目的達成度をG(m, g)とする。Gm>0,Gg>0,Gmg>0,Gmm<0,Ggg
<0,と仮定する。公共部門の期待純利得はG(m, g)から公共部門の努力の費用を差し 引いたものである。努力の限界費用が1で一定であるとすると,それは,
G(m, g)−s(1−b2 )(1−t)R(m, g)−g=G(m, g)−vR(m, g)−g, v≡s(1−b)2 (1−t)
Ⅲ 協同事業のナッシュ均衡解
民間企業と公共部門の期待純利得の大きさは,リスク分担のありかたbに依存する が,それは契約によって定められている。それぞれの努力水準を決めるに当たって,通 常は両者が協議してそれを決めるのではなく,それぞれが「最善を尽くす」ことを期待 されている。しかし,相手が最善を尽くしているかどうかを検証することはできない。
そこで,両者は自己にとって最も有利なように(自己の)努力水準を決めることにな る。このような状況の中で実現する努力水準として最もありそうなのは,両者が相手の とっている行動のもとでは自己の努力水準を変える誘因を持たないナッシュ均衡におけ るそれである。以下では,蠡のモデルにおけるナッシュ均衡解を求める。
民間企業と公共部門の最大化の1階の条件はそれぞれ,
hRm−1=0 (1)
Gg−vRg−1=0 (2)
である。各関数の変数表示は省略してある。最大化の2階の条件は,(1)についてはRmm
<0の仮定によって満たされる。(2)については,
Ggg−vRgg<0 (3)
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を仮定する。
(1)(2)をm, g, bに関して全微分すると,それぞれ
hRmmdm+hRmgdg=s(1−t)2 Rmdb (4)
(Gmg−vRmg)dm+(Ggg−vRgg)dg=−s(1−t2 )Rgdb (5)
となる。(m, g)平面に描いた民間企業の反応曲線の傾きは,
dg
dm=−Rmm
Rmg
>0,
公共部門の反応曲線の傾きは,
dg
dm=−Gmg−vRmg
Ggg−vRgg
である。民間企業の反応曲線は右上がりだが,公共部門のそれの傾きの正負は確定しな い。ここでは,ナッシュ均衡が一つ存在し,安定であることを仮定する。安定条件は,
−Rmm
Rmg
>
││ Gmg−vRmg
Ggg−vRgg
││ (6)
である。第1図と第2図に反応曲線の組み合わせの二つのケースとナッシュ均衡E が 描かれている。
(4)(5)の左辺のヤコビアン行列の行列式をD とすると,
D≡h{Rmm(Ggg−vRgg)−Rmg(Gmg−vRmg)!
第1図 ナッシュ均衡(ケース1) 第2図 ナッシュ均衡(ケース2)
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(6)を用いると,
sgn D=−sgn(Ggg−vRgg)
であ
5
る。リスク分担のあり方bの変化が両者の努力水準に与える影響を求める。
dm
db=s(1−t)2
D {R(Gm gg−vRgg)+hRgRmg" (7)
dg
db=−s(1−t2 )
D {hRgRmm+R(Gm mg−vRmg)" (8)
ナッシュ均衡における努力水準を(m0, g0)とすると,(7)(8)より,いずれの努力 水準も,民間企業のリスク分担の増加に対して高まるか否かは確定できない。民間企業 のリスク負担が大きくなると,期待利潤が小さくなるので,民間企業は努力水準を低下 させるように思える。しかし,民間企業のリスク負担が大きくなることは,裏を返せ ば,公共部門にとって民間企業の逸失利潤を保障する必要が少なくなるので,公共部門 は利得の機会が増えることになり,努力水準を高める。それは民間企業の利潤機会を大 きくする。その効果が十分に大きければ,民間企業の期待利潤が大きくなるので,努力 水準を高めるのである。
民間企業の期待利潤に関するこのような間接効果はRmgが小さい(つまり,民間企業 の努力の限界生産性が公共部門による努力にほとんど影響されない)場合には無視でき る。その場合には,(7)の右辺の! "内第2項を無視できるので,dm/db<0という 常識的な結果が得られ
6
る。
しかし,dg/db の符号は確定せず,民間企業により多くのリスクが負わさたとき,公 共部門の努力水準が増えるかどうかは確定しない。公共部門のこのような反応行動には 公共部門の純利得における「ねじれ」が反映されている。それは,民間企業と公共部門 との利益相反が生じていることの現れである。(平時の)民間企業の利潤が大きいほ ど,(一定のb のもとで)異常時に公共部門が負担しなければならない補償金額が大き くなる。これは公共部門にとって負担の増大を意味する。そのために,公共部門は民間 企業の利潤があまり大きくならないことを願うことになるのである。ここに,「官民協 同」といいながら,実際には利益相反が埋め込まれているというディレンマが生じる。
それを避ける最も簡単な方法は,b=1つまりリスクは全て民間企業が負担するような
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5 巻末の数学注参照。
6 Rmg=0であれば,(7)の右辺の! "内はRm(Ggg−vRgg)になり,sgn D=−sgn(Ggg−vRgg)を考慮す ると,dm/db<0が得られる。
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契約を結ぶことである。次節で,そのような契約が果たして望ましいのか否かを社会的 余剰の観点から検討する。
Ⅳ ナッシュ均衡解の社会的最適性
協同事業の成果を評価する基準として,民間企業の期待純利得と公共部門の期待純利 得の和である「社会的余剰」を採用しよう。それは,
W(m, g)=kR(m, g)+G(m, g)−m−g k≡s1+s2t (9)
である。最大化の1階の条件は,
kRm+Gm−1=0 (10)
Gg+kRg−1=0 (11)
である。最大化の2階の条件は満たされているとする。なお,異常時における逸失利潤 の補償は社会的余剰においては相殺されるので,社会的余剰は,リスク分担のあり方b とは独立である。
(10)(11)を満たす(m, g)を(m*, g*)とし,それを「社会的最適解」と呼ぶ。
(1)(2)と(10)(11)より,(m0, g0)と(m*, g*)が一般的に一致しないのは明らか である。ナッシュ均衡解は社会的余剰を最大にできないのである。
まず,ナッシュ均衡解(m0, g0)と社会的最適解(m*, g*)の大小関係を調べよう。
(1)(2)と(10)(11)より,一般的に(m0, g0)と(m*, g*)の大小関係が確定しない のは明らかである。そこで,ナッシュ均衡(m0, g0)において,それぞれm, g を単独で 大きくした場合に社会的余剰が増えるか否かを調べることにする。
(9)をm, g に関して全微分すると,
dW(m, g)=(kRm+Gm−1)dm+(kRg+Gg−1)dg (12)
(12)より,
∂W
∂m|(m0,g0)=kRm+Gm−1 (13)
∂W
∂g|(m0,g0)=kRg+Gg−1 (14)
官民協同事業におけるリスク分担について(岸本) (415)23
となる。左辺の(m0, g0)の表示は,各偏微分が(m0, g0)においてのものであることを 示す。(13)と(1)より,
∂W
∂m|(m0,g0)=Gm−vRm (15)
(15)の右辺の符号は一般的には確定しないが,b=1であれば,v=0となり,(15)の 右辺は正,したがって,民間企業の努力水準を高めることによって社会的余剰が増える ことが分かる。
(14)と(2)より,
∂W
∂g|(m0,g0)=hRg>0 (16)
が得られ,公共部門の努力水準を上げることによって社会的余剰は確実に大きくなる。
公共部門の利害はR(m, g)とG(m, g)の双方に関わることでは社会的余剰と同じで あるが,R(m, g)については,それが大きくなることに対して不利益を感じる。その ために,公共部門の努力水準はナッシュ均衡解においては過小になるのである。他方,
民間企業は,自らの利潤のみに関心を持ち,G(m, g)には配慮しない。無視されたG
(m, g)への民間企業による貢献Gm が十分に大きければ,ナッシュ均衡解における民 間企業の努力水準は過小であり,それを高めることで社会的余剰を増やすことができ る。しかし,bが0に近い,つまり民間企業がリスク負担を免れているなら,異常時に も大きな利潤を確保できるので,民間企業は楽観的に過ぎ,過大な努力水準を選んでし まうのである。
以上で見たのは,ナッシュ均衡解において,民間企業努力のみ,あるいは公共部門努 力のみを増やしたときに社会的余剰が増えるかどうかという,局所的な効果である。そ の限りにおいて,公共部門の努力水準は過小であることが判明した。民間企業のそれに ついては,必ずしも確定せず,民間企業による努力のG(m, g)への貢献がかなりの程 度あれば,リスクの多くを民間企業に負わせることは民間企業の努力水準を過小にさせ る。逆に,民間企業にリスクを負担させない場合には民間企業の努力が過大になること もある。
Ⅴ 最適なリスク分担のあり方
前節では,与えられたリスク分担のもとでのナッシュ均衡解における両者の努力水準 の局所的な意味での適切さを調べた。ナッシュ均衡解はリスク分担のあり方に応じて変
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化するのであるから,次の問題は,社会的余剰ができるだけ大きくなるようなリスク分 担のあり方を求めることとなる。そこで,この節では,ナッシュ均衡での社会的余剰の 大きさがbにどのように依存するかを調べる。
(9)をbに関して全微分して整理すると,
dW
db =(kRm+Gm−1)dm
db+(kRg+Gg−1)dg
db (17)
(17)に(1)(2)を適用すると,
dW
db =(Gm−vRm)dm
db+hRgdg
db=s(1−t2 )
D [(Gm−vRm)×
!R(Gm gg−vRgg)+hRgRmg"−hR!hRg gRmm+R(Gm mg−vRmg)"] (18)
(18)の右辺の符号は,一般的には確定しない。そこで,b=1において社会的余剰が最 大になる可能性を調べよう。b=1であれば,v=0であることを考慮すると,(18)の 右辺[ ]内は
G(Rm mGgg+hRgRmg)−hR(hRg gRmm+RmGmg) (18′)
になる。ここで,民間企業の利潤R(m, g)に対してはg よりm が,そして公共部門 の利得G(m, g)に対してはm よりg がはるかに大きな影響を与えると想定するのが 妥当だと思われる。その場合には,RgよりRm の方が,そしてGmよりGgの方がはる かに大きい。(18′)には,RmGm, RgGm, RmRg,(Rg)2などの各関数の1階の偏微分の積が 含まれるが,そのうち,RgとGm のみから成るRgGm と(Rg)2はRmGm, RmRgに比べて非 常に小さいだろう。そうすれば,(18′)の値はGmRmGgg−h RmRgGmg<0によって近似さ れる。仮定により,Ggg−vRgg<0であるから,D>0を考慮すると,dW/db<0となり,
b=1において社会的余剰が最大になることはない。
もちろん,この結果は関数 R(m, g)とG(m, g)に関する上記の仮定に依存してい る。そこで,上記の仮定を必ずしも満たさないけれども,やはり同じ結果に導く簡単な 例を二つあげておこう。いずれの例においても,m, g が等しければRm=Gm=Rg=Ggと なり,上記の仮定を満たさない。また,例1においてはRmg=Gmg>0,例2においては Rmg=Gmg=0である。
(例1) R(m, g)=G(m, g)≡(mg)13
官民協同事業におけるリスク分担について(岸本) (417)25
Rm=Gm, Rg=Gg, Rmg=Gmg であるから,(18)の右辺[ ]内は,
((1−v)Rm)2Rgg−(hRg)2Rmmになる。各偏微分を求めて代入すると
2
81s(mg)2 −1(1+k)(1−t)(1−2 b) (19)
が得られる。D=h(1−v)(mg)−43/27>0と(19)より,b=1
2 のときに社会的余剰が最 大になることが分かる。
(例2) R(m, g)=G(m, g)≡m12+g12
(例1)と同様にして,(18)の右辺[ ]内は,
((1−v)Rm)2Rgg−(hRg)2Rmm= 1
16(mg)−1!h2m−21−(1−v)2g−12" (20)
(1)(2)にRm, Gm, Rgを代入してmとgを求めると,
m−12=2 h−1, g−12=2(1−v)−1
が得られる。これらを(20)に代入して,h, 1−v の値を考慮すれば,
1
8s(mg2 )−1(1−t)(1−2 b)
となる。D=hRmm(Ggg−vRgg)=h(1−v)(mg)−23>0であることから,ここでも社会的余 剰が最大になるのはb=1
2 のときである。
こうして,民間企業にリスクを全て負担させるのは,社会的余剰から見て一般に望ま しくない。この結論は,Rm が非常に大きく,Rgが0に近い場合でも成り立つ。これ は,利潤の大きさを決めるのに,民間企業の努力が重要であり,公共部門のそれはほと んど無視できることを意味する。そして,それはさらに,利潤の変動が「民間企業の責 め」によるという状況になっていると解釈することができる。通常の官民協同事業にお ける契約において,そのような場合には民間企業が全てのリスクを負担することになっ ている。上記の結論は,そのようなリスク分担のしかたは社会的余剰から見て望ましく ないことを示唆しているのである。
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Ⅵ 結 語
官民協同事業において,民間企業が得る利潤に関するリスクを全て民間企業に負わせ ることは,社会的余剰から見て一般的に適切ではないことが分かった。しかも,事業契 約において通常「民間企業の責めによる」と規定される状況においてもそうである。し かしながら,リスクを両者で分担すると,公共部門が(異常時の利潤補頡の義務を負う という利益相反により)平時の利潤を大きくすることに対して消極的になる可能性が生 じる。民間企業による技術革新や費用削減の工夫に対して公共部門が冷淡になる誘因が 生じるのである。このような傾向はGm が大きければいくらか緩和されるかもしれな い。つまり,民間企業の努力が公共部門固有の利得に大きく貢献するので,民間企業の
(平時)利潤が大きくなり,それが大きなm そして大きな G につながるからである。
このプロセスは長期間を要するので,一回限りの契約においては機能しない。これまで の典型的な官民事業契約は一回限りのものが多く,上記の利益相反の影響が生じる可能 性が大きい。その場合には,短期の社会的余剰を犠牲にしても,民間企業がリスクを全 て負担するのが適切とする根拠がある。他方PFIのように,民間企業と公共部門が長 期にわたって協同する場合には,利益相反は緩和されるので,リスクを両者で分担する のが適切とする根拠がある。
数学注
ナッシュ均衡の安定性の仮定(6)
−Rmm
Rmg>
││ Gmg−vRmg
Ggg−vRgg
││
より,
Rmm│Ggg−vRgg│+Rmg│Gmg−vRmg│<0。 (数1)
(i) Ggg−vRgg>0, Gmg−vRmg≧0の場合
D=Rmm(Ggg−vRgg)−Rmg(Gmg−vRmg)≦Rmm│Ggg−vRgg|+Rmg│Gmg−vRmg|<0を得る。
(ii) Ggg−vRgg>0, Gmg−vRmg<0の場合
(数1)より直ちに
D=Rmm(Ggg−vRgg)−Rmg(Gmg−vRmg)<0を得る。
(iii) Ggg−vRgg<0, Gmg−vRmg≧0の場合
(数1)より
−Rmm(Ggg−vRgg)+Rmg(Gmg−vRmg)<0,したがってD>0を得る。
官民協同事業におけるリスク分担について(岸本) (419)27
(iv) Ggg−vRgg<0, Gmg−vRmg<0の場合
(数1)より
Rmm(Ggg−vRgg)+Rmg(Gmg−vRmg)>0。
D=Rmm(Ggg−vRgg)−Rmg(Gmg−vRmg)>Rmm(Ggg−vRgg)+Rmg(Gmg−vRmg)>0。
参考文献
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