社会的スキルおよび共感性を育む体験的道徳教育プログラム87
社会的スキルおよび共感`性を育む 体験的道徳教育プログラム
一VLF(VOicesofLoveandFreedom)プログラムの活用一
渡辺弥生
Abstract
ThepurposeofthisstudyistoexaminetheeffbctivenessoftheVLFprogramon socialcompetence,ToinvestigaletheeffectivenessoftheVLF(VoiceSofLoveand Frcedom)programonsocial1ikills’72【hiIdgradeelementaryschooIstudentspartici‐
patedinthisstudy,36ofwhomhadparticipatedintheVLFprogramand36ofwhom hadonlythetraditionalmoraleducation・ThestudentscompIetedtheSocialSkills ScaIebothpriortoandsubsequenllolhe-VLFprogramorthetraditionaleducational program、Thetmditionalprogramtriedtomakestudentsunde応tandthefeelingsofthe maincharactersbyにadingasholtstory,whiletheVLFprogmmにquiredstudentsto understandthediffercntpointsofview5ofcharactersinastoryandtoengageinrole- p]ayingbasedonthecharaclers、Aone-wayanalysisofvarianceonthescoresofsocial skillsrevealedasignificantmaineffec【fbrtheclasses、TheincreaseinsocialskilIs scoresfiromprc-testtopost-tcstintheVLFclasswassignincantlyhigherthanthatof thelraditionalclassThis「esuItshowedthattheVLFprogramhadanpositiveimpaclon thecognitiveaspectsofstudents,socialcompetenceThisprogramstimulatedthe curiosityofchildre、whoparticipatedandenhancedtheirskillsinperspective-taking、
TheVLFexercisessuchasrole-playingorpalmerinterviewswereveryeffectiveat improvingthestudentsabi]itiestounderstandeachotherandloresolveinterpersonal
connicts.
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【Keywords】elementa「yschoolstudents,socialskills,VLFprogram,emPathy
【問題】
近年,子ども達による社会を震憾させるような凶悪犯罪が後を絶たない。事 件の背景にはさまざまな問題が絡んでいると考えられるが,その背景に子供同 士の対人関係の問題が指摘されることが多い。事件とはならずとも,子ども達 の世界では,いまだいじめや暴力などの問題は深刻な状況にある。平成]4年 度においては,いじめの発生件数は,22,207件,暴力行為の発生件数は学校 内だけで29,454件にのぼっている(文部科学省,2003)c
こうした問題に対応するために,近年,問題そのものに対する治療的・指導
的な取り組みだけではなく,こうした問題が起こらないような予防的取り組み が教育現場で強化されるようになっている。さらには,子ども達の社会的スキ ルや共感性など,道徳性や社会性の開発についてさまざまなサイコエデュ ケーションが導入されつつある。わが国でも,こうした問題を人権教育の問題と捉え,学校教育における人権 教育について一層の改善や充実が求められている。人権教育・啓発に関する基 本計画(平成14年3月閣議決定)によれば,今の学校教育における人権教育 は「教育活動全体を通じて,人権教育が推進されているが,知的理解にとどま り,人権感覚が十分身についていないなど指導方法の問題,教職員に人権尊重 の理念について十分な認識がいきわたっていない等の問題」があると指摘され ている。特に,児童生徒にも理解しやすい表現として「自分の大切さとともに 他の人の大切さを認めること」を理解し,それがさまざまな場面や状況下での 具体的な態度や行動に表れることを目標として考えられている。具体的な学校 での取り組みとしては,人間関係を築く社会的スキルや他者の役割取得ができ
るような体験的活動を,児童生徒が一人ひとり活躍でき,達成感を味わわせ,
自立心を養うよう工夫することが求められている。
先行研究においても,社会的スキルは,児童・生徒のその時期に必要な資質 というだけではなく,将来の職場など社会に適応を予測する重要な変数として も指摘されており(Deutch,1993;GaldneBl993),しかも,こうした社会的
社会的スキルおよび共感朧を育む体験的道徳教育プログラム89 スキルを育てていく時期としては,児童期から早めに発達段階に応じて開始し ていくことが求められている(Sandy,SV&Cochran,K,M,1998)。
VLF(VbicesofLoveandFreedom)プログラム(渡辺,2001)は,Selman (2003)の役割取得理論を基盤として,マサチューセッツ州ボストン市教育委 員会によって採用ざれ現在幼稚園から12学年で採用されているサイコエデ ユケーションである。さまざまな文化,宗教,人種的背景をもった子ども達が,
互いの違いを理解し,認めながら,共存していくことをめざして,ユニークな 体験活動をカリキュラムに導入したプログラムである。
幼稚園では自分自身のものの見方を表現する能力,小学校低学年では他者の 視点を表現できるような能力を強調し,中学年から高学年では他者から自分は どのようにみえているかについて表現する能力を加えていく。中学校において は,自分の人間関係が第三者的立場にはどのように映っているか,高校ではさ まざまな社会的カテゴリー(家庭,地域,日本,アジアなど)に身をおいて視 点を推測する力や,社会的に比較する力を発達させることが目指されている。
具体的な実践アプローチは以下の4ステップから構成されている。
①結びつくこと:教師が個人的な話を生徒にすることによって,クラス内に一 層信頼できる環境を生み出すことができる。教師の語りは生徒と共有され,生 徒は自分の話を皆と共有したいという動機づけを強める。パートナー・インタ ヴューを利用して,クラス全体で共有する前に,ペアーとの2者関係でインタ ヴューをする。この方法は自分の話しを物語る抵抗を軽減させることができる。
②討論すること:物語をもとに,さまざまなことを討論しあう。子どもたちは,
自分の視点を表現し,他者の発言に耳を傾けることが要求される。絵本教材が 使用され,主人公だけでなく,さまざまな登場人物の視点を考えさせ,葛藤を
体験させる。
③実習すること:物語から学んだことをパートナー同士で実習することにな る。物語を個人の経験として感じ,実際の生活に応用していくステップとする。
ロールプレイなどを自由に用いて,実際に自分ならどうするか,「**ならど うするか」といった気持ちの推測,葛藤解決を具体的に考えさせる。
④表現すること:物語から学んだことを自分自身の生活に統合させる。一人称 の物語(日記など),手紙(二人称の視点を強める),物語の創作(三人称の視
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点をとらせる),エッセイ,などのジャンルを利用して,役割取得の目標に対
応させる。
この4つのステップからなるVLF実践はわが国でも試み始められているが,
高学年においては授業に積極的に参加する生徒が減少していく傾向の中,全員
参加を可能にしている。また,ペア学習やパートナーによるロールプレイに よって個々の子どもが自分の気持ちや考えを相手に話すことや,相手の話を聴 くという経験を可能にするということで,思いやりを育むうえで有効であることが示唆されている(安富・吉永・小野間・高橋・渡辺,1999,渡辺,小野 間・安富・吉永・高橋,1999,小野間・森,2003,渡辺,2004)。日本での 目標は,①自他の視点の違いに気づく力,②自分の気持ちを相手に伝える力,
③他人の気持ちを推測する力,④自分と他人の葛藤を解決する力,を育てるこ
とが意図されている。
わが国においては,こうした人間性,社会性の教育は,各教科,特別活動,
道徳のすべての時間を用いて総合的に養うことを目的とされてきた。しかし,
実際は具体的な指導方法の内容や工夫が明確ではなく,正面きって教育として 実施されているのは,道徳の時間に限られているように思われる。また,一般 的に行われている道徳教育の方法は,副読本などの資料を中心に扱い,主人公
の心情の変化から道徳的価値について考えさせる指導法が一般的である。しかし,こうした方法は,教師側も生徒側もマンネリ化した状況に陥る場合
が少なくない。なぜなら,副読本から教師が選択する短い話が,どのような価 値を伝えたいかが一目瞭然であり,年齢が高くなるほど新奇性に欠け,押し付
けがましくうつることからである。また,主人公の心情を追っていくといった 方法で,国語の時間と同様に読解力が求められ,現実の「自分」の体験に結び つくほどのリアリテイを子どもたちに体験させていないのではないかと考えら れる。さらには,子どもの発達段階を重視し,プログラムの効果を検討してい る実践がほとんどなく,従来型の道徳教育の効果が科学的に明らかにされていない状況にある。体験的な活動も十分に取り入れられていない場合が多く,現
実場面における判断や行動力までを育てるには限界があると考えられる。したがって,本研究は,従来の指導法に積極的に体験型のプログラムを取り 入れていくことを学校教育に求めていくことを念頭におき,子どもの社会的ス
社会的スキルおよび共感性を育む体験的道徳教育プログラム91
キルや共感性の育成に,VLF実践が具体的に有効であるかいなかを,従来の 指導法と比較して検討することを目的とした。
【方法】
対象者静岡県の公立小学校3年生2クラス
A組:VLFの手法を用いた授業を実施するクラス(36名)
B組:資料中心の従来型の授業を実施するクラス(36名)
測定方法①児童用社会的スキル尺度:石111・小林(1998)が選定した項目 を参考にして作成された質問紙で25項目からなる(例:こまっている友だち を助けてあげる,ひとりで遊ぶほうが友だちと遊ぶより好き,はずかしくて 思ったことが言えない。人のせいにする),など児童自身が自分の行動につい て「全然しない」から「いつもそう」の4件法で評定を行った。
②共感性尺度:桜井(1986)で使用された尺度で9項目(付録参照)から構成 されている。「いいえ」「どちらかといえばいいえ」「どちらともいえない」「ど ちらかといえばはい」「はい」の5件法で評定された。
③絵カード:三森(2002)に記載されているもので,情報分析力を育てるた
Fig.1情報分析による絵カード(三森,2002)
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めに用いられている絵カード(Fig.1)が使用された。絵を分析する力を育て ることは,感受性やコミュニケーション力などを育てると考えられている。
用いられた絵には,雨の「11,男の子,犬,巡りを反対方向に行きかう大人 (クリスマスプレゼントをもった男と買い物縦を下げた女)が描かれている。
傘をさした男の子は,ゴミ箱の前にいる犬の力を見ている。
④ソシオメトリックテストとゲスフー・テスト:ソシオメトリックテストは隣 の席にすわってほしい友達の名前を3人書くように求め,ゲスフー・テストは
クラスでいちばんやさしいと思う人の名前を記名するように求めた。
学習内容
VLF授業資料:資料「にじいろのさかな」(識談社1995)マーカス・フイス ター作,谷川俊太郎訳:にじいろのさかなは,自分のきらきら光る美しいうろ こを自慢している。しかし,友達にあげようとしなかったためにしだいに孤立 していく。たこさんのアドバイスをもとに,他のさかなの気持ちを受け入れ,
分かち合う体験から友達の大切さに気づくようになる話。
資料中心授業資料:副読本「落ちていたきっぷ」(出文):駅で重い荷物をもっ ていたおばあさんがきっぷをホームに落として遜車にのってしまう。それに気
TabIel従来型の授業に対応するVLFの展開 y)原
社会的スキルおよび共感性を育む体験的道徳教育プログラム93 がついた明子はお母さんに相談して切符を届けようと考える話。
手続き授業前と授業後に,各尺度を実施した。社会的スキルについては4件 法が用いられた。絵カードも質問紙のように印刷して呈示して,どんなことに 気づいたかについて自由に記述させた。授業の各特徴の対応は,Tnblelのと おりであった。
【結果と考察】
1.授業の流れと違い
★VLF実践の内容と流れ
他人の立場に立って考える能力を高めると同時に,自分の感情を素直に表現し たり,コントロールして,対人葛藤を適切に解決する行動をとれるようにする
ことが念頭におかれた。
4つのステップ(●教師,○生徒)
①結びつくこと:.教師自身が仲間はずれにされてつらかった経験を語った。
・教師の話を聞いて,それぞれの思いを話し合った。
○つらい気持ち,○悲しくていやになる,○じっとがまんする
・ペアを組んで,パートナー・インタヴューをした。パートナー・インタ ヴューは,ペアになり,以下の質問をたずねあうエクソサイズが行われた。
●仲間はずれにされたことがありますか?
●そのときどう思いましたか?
●それでどうしましたか?
○私は,名前をあだ名で呼ばれてとてもいやだったことがあります。「もう呼 ばないで」って言ってもまた呼んでくるので,言う人は言われる人の気持ち を考えていないと思います。
②話し合うこと:絵本「にじいろのさかな」を教師が読んだ。
・場面を止めて発問
●どうして,みんなは|こじうおがくると,そつぼをむいたのでしょう?
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○いばっているから,○自慢しているみたいでいやだから,○自分だけきらき
らうろこをもっていて分けてくれないから。●みんなに,そつぼをむかれたにじうおはどう思ったのでしょう?
○仲間に入れてもらえなくてさみしいな。
○どうすればいいのかな。
○うろこを分けてあげるのは嫌いだけど,仲間に入りたいよ。
③実習すること:にじうおがうろこをあげたときの様子をペア・ロールプレイ した。両方のロールを体験し,みんなの前で発表できるペアに発表してもらっ
た。
●にじうおがうろこをあげたときの様子を友だちとペアになって言葉にしよ
う。
○「このうろこあげる。君もほしかったんだね。」
○「ありがとう,大切にするよ。」
○「大事なうろこだけど,ひとつあげる。この間は怒ってごめんね。」
○「ありがとう。君って優しいね。いっしょに遊ばないか。」
●大事なうろこが,たった-枚になってしまったのにどうしてにじうおは幸せ
なのでしょう。
○仲間ができたから。
○みんなと一緒に遊べてうれしいから。
○うろこより大事なものがわかったから。
④表現すること:●「にじうお」に言ってあげたいことを手紙に書いてみま しょう。にじうおの気持ちに立って手紙が書けるかをみた。
★資料中心授業の内容と流れ
副読本をもとに,主人公の心情を追って,「思いやり・親切」の価値を教え ることが目標とされた。(●教師,○生徒)
●副読本を読んで,落ちていたきっぷをみて,明子さんはどう思ったかと発問
した。
社会的スキルおよび共感性を育む体験的道徳教育プログラム95
○おばあさんは改札口を出られずに困るかもしれない。
○おばあさんは,きっぷがなくなって困っているだろう。
○おばあさんは,たくさん荷物を持っているのでその荷物の中に切符が紛れ込 んだと思い,荷物の中を探しているかもしれない。
●じっとしていられない気持ちになった明子さんはどんなことを考えたか。
○おばあさんにきっぷを届けようと考えた。
○駅の人に切符を届けておばあさんのことを説明しようと考えた。
●うれしそうに改札口を出て行くおばあさんの姿を思い浮かべて明子さんはど んなことを思ったか。
○困らなくてすみそうでよかった。
○おばあさん,改札口を出ることができるだろうからよかったな。
○たくさんの荷物の中から切符を探さずにすみそうでよかったな。
●人に親切にしたとき,どんな気持ちになったかな。
○ありがとうと言われたときはうれしかった。
○いい気持ちになった。
○友だちが喜んでくれたので,よかったなあと思った。また,親切にしたいと 思った。
以上の展開を比較すると,従来型の授業は,登場人物の中でも主人公の気持 ちを終始追う展開で,板書や発問がなされていた。おばあさんの気持ちも,あ くまでも明子の視点から推測させるものであり,おばあさんの視点,お母さん の視点の双方をとらせる試みはなされなかった。
また,主人公の気持ちが文章の中にすでに記述されており,この話での主人 公の気持ちをかなり誘導的に各生徒に同一視させようと意図する傾向が強いよ うに感じられた。しかし,明子の気持ちが与えられる前に,各生徒の気持ちな どの発達レベルをおさえておくことが重要に思われる。たとえば,「駅員さん はやさしい人だから,おばあさんが説明すれば大丈夫じゃない」といった考え をもつ生徒からすれば,明子の行動は単におせっかいと思ったかもしれないの である。実際に,生徒に体験話を聞くのも最後になってからであり,明子さん の気持ちを考えているときに,「自分だったらどうするか」「他の登場人物は明
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子さんの行動をどう思うか」といった問題意識や,実際に普段こんなときどの ように解決するのがよいのか,といった視点でのエクソサイズが不足している ように思われる。
これに対して,VLF授業では,教Bili自身の体験から自己開示が喚起され,
絵本のにじうおの話をもとにしながらも,自分はこう思うといった「自分」の 視点を考えさせると同時に,ペアやクラスの友だちの意見を聞く機会もたびた びあり,自然に複数の視点で考える体験をさせていると考えられる。また,実 際に,ロールプレイなどの行動をさせたI),手紙を書かせるなど,認知活動だ けではなく行動に移す体験も与えており,こうした点が社会的スキルに反映さ れるのではないかと考えられる。ただし,こうしたプログラムの成功の鍵はた ぶんに教師のこの実践の理解にかかっていると考えられた。先の従来型の授業 であれば,ある程度発問をきちんとしていれば,教師による差の少ない展開が 予想されるが,こうした新しい体験型の実践を行うためには,教師のグループ ワークのリーダーとしての力量や生徒の動機づけを考えながらの4つのステッ プのタイミングなどに差が生じやすいため,十分な準備期間が必要に思われ
る。
すなわち,とにかく体験させれば単純に子どもたちになにか良いものを与え ることができるという考え方は危険であ'〕,どのような活動や体験が,子ども たちのどのような心を育み,なぜ変化させるのかという理論と実践のつながり を理解しておくことが前提として必要に思われるのである。しかし,いったん,
教師がこうしたサイコ・エデュケーションの理論を把握することができれば,
それ'二1体が,子どもたちの`し、の教育に十分な成果をもたらすと考えられる。
2.クラス別の社会的スキルの変化
VLF実践クラスおよび従来型のクラスとを社会的スキルの変化によって比 較したところ,VLF実践クラスの方が従来型の実践クラスよりも,授業前か
ら授業後にかけて社会的スキルが向上したものの割合が存意に高かった(X2
(1)=6.34,p<・O5LFig、2に示されるように,VLF実践を経験した方が,授 業後に社会的スキルの評(illiが上がったことが1リ]らかになり,ロールプレイなど のさまざまな授業内の経験が新しいスキルを自分のレパートリーに獲得したの社会的スキルおよび共感性を育む体験的道徳教育プログラム97
000000000 87654321
I
□社会的スキル上昇 図社会的スキル下降
VLF実践クラス従来型実践クラ
Fig.2クラス別の社会的スキルの変化 だという認知を高めたと考えられる。
3.社会的スキルの各項目の変化
社会的スキルの項目において,どの項目が特に向上しているかをVLF実践 クラスで検討したところ,25項目のうち得点として向上しているのは16項目 であり,授業前から授業後に有意に向上している項目は,以下のようであった。
○困っている友だちを助けてあげる(p<、05),○相手の気持ちを考えて話す (p<・10),○先生や友達にあいさつする(p<,05),○自分からだれかに話し かけようとするとどきどきする(逆転:p<、05),○友達が遊んでいるところを
じっと見ていることが多い(逆転:p<,05),○クラスの決まりを守る(p<05),
であった。このことから,向社会性が高まり,引っ込み.思案なところが改善し たと認知されたことが示唆される。
4.社会的スキルの因子樹造
被験者数が100人に満たないが,変数の数よりはケース数が多いこともあり,
探索的に因子分析を行った。最尤法でプロマツクス回転を行ったところ,2つ の因子を抽出した。
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第一因子は,「人のせいにする」「いやなことを友だちにやらせる」「けんか をする」「人の悪いことや失敗したことをよく言う」などの項目に高く負荷し ており,「攻撃性」因子と命名した。第2因子は,「こまっている友だちを助け てあげる」「自分が悪いと思ったらすぐにあやまる」「友だちがなにか上手にで きたときうまいねとほめる」「相手の気持ちを考えて話す」などの項目に高く 負荷していたので,「向社会性」因子と命名した。
5.クラス・因子別の社会的スキルの変化
攻撃性因子と向社会性因子別に授業前から授業後に変化があったかどうか を,VLF実践クラスと従来型の実践クラスとで比較したところ,攻囎性因子 においては変化が見られなかったが,向社会性因子において傾向差が認められ た(F(1,56)=3.46,p<・10)。したがって,VLF実践によって,向社会的スキ
ルが向上する傾向にあったことが明らかとなった。
6.クラス別の共感性の変化について
VLF実践クラスと従来型のクラスとの間に,共感性の変化に違いがあるか いなかを検討したところ,VLF実践クラスの方がプラスになった割合がやや 高かったが,有意差はなかった。社会的スキル,共感`性,ソシオメトリーの被 選択数と相互選択数との相関関係を検討したところ,共感性についてはいずれ の変数とも有意な相関関係は見出されなかったが,社会的スキルについては,ソ シオメトリックテストの被選択数と5%水準で有意な相関があった(r=28)。
共感性の得点の変化に差がなかったことは,本研究で用いた共感.性尺度が,
小学生高学年を対象にしてつくられたものであることや先行研究でも指摘され ているように項目数が少ないことが結果に影響したと考えられる。これに対し て,社会的スキルについては質問紙で高く認知しているものが,実際にクラス でも人気があることが示唆され,質問紙の妥当性が示唆される。今後,共感性
と社会的スキルとの関係を明確に検討する必要があると考えられる。
7.クラス別の絵の情報分析の変化
絵の分析において,どのようなことに気づいたかという質問に対して,「悲
社会的スキルおよび共感性を育む体験的道徳教育プログラム99 しい感じがする」「かわいそうな犬がいる」「男の子が犬をかわいそうすてられ たのだと思っている」といった記述をした場合,「主観的」な認知とカテゴラ イズした。これに対して,「男の子が傘をさして犬を見ている」「傘をさしてい る背の高いおじさんがプレゼントをもっている」「おばさんがねぎやにんじん をもっている」といった記述をした場合,「客観的」な認知とした。すなわち,
感情的な要素を含んでいるかいなかによって分類した。こうした認知が,VLF 実践クラスか,従来型の授業クラスかによって違いがあるかいなかを検討した ところ,いずれのクラスも,絵を見て客観的な情報分析をした割合が高かった。
特に,授業前においては,VLF実践クラスの方が客観的な見方をしていたの が639%であったのに対して,従来型の授業クラスの方は94.3%とほぼ全員 が客観的な情報分析を行っていた。授業前から授業後についての変化を検討し たところ,VLF授業クラスは主観的な認知から客観的な認知が少し増えたの に対して,従来型の授業クラスは客観的な認知から主観的な認知に変化したも のが増えていた(X2(3)=13.8,p<、01)。社会的スキルの変化についての結果 とあわせて考えると客観的な認知をする方が社会的スキルの向上につながるの ではないかと予測された。
つぎに,Fig.3と4に示す通り,絵の分析において,視点を誰にとったかと
10 ㈱6
50 40
30
瞳
20
10
0
VLF実践クラス従来型授業クラス
Fig.3プリテストにおける視点の位霞
|鰯I 蝋 鱗
融鰯圃蕊4m
鍵
■
llllll|{'111■ ■
100
105050505050 僻544332211
眉麹
VLF実践クラス従来型授業クラス Fig.4ポストテストにおける視点の位圃
いう点についてクラスで比較した。授業前においては,VLF実践クラスは男 の子の視点にたつものが多かったのに対して,授業後は犬の視点にたつものの 割合が増えていた。また,従来型の授業クラスでは逆に犬の視点からから男の
子の視点に変化している子の割合が多かった(X2(4)=10.83,p<、05)。その
10 隅6
50 40
30 □犬→犬
團犬→男の子 圏男の子_犬 圏男の子→男の子
■その他
20
10
0
社会的スキル下降 上昇
Fig.5プリテストからポストテストにおける視点の変化
■■■■
關
蕊 illiilii |iliiI
社会的スキルおよび共感性を育む体験的道徳教育プログラム101 ため,こうした視点の変化と社会的スキルの変化との関係を検討したところ (Fig.5),社会的スキルの得点が上昇したものは,男の子から犬に視点を移し たものの割合が大きいことがわかった(X2(4)=10.25,p<、05)。したがって,
絵において同一視しやすい男の子(人間であり,読み手と同様の方向を向いて いる)から犬(動物であり,向こう側からこちらを見ている視点)へと視点を 移すことは,単一の感情移入しやすい視点からさらに視点を広げることによっ て,複数の視点をとれるようになったことを意味し,そのことが,社会的スキ ルの向上と関連するようになったのではないかと考えられる。今後この点につ いてはさらに検討する必要があると考えられる。
<要旨>
本研究は,公立小学校3年生の2クラスを対象に,社会的スキルを育むサイ コ・エデュケーションとしてのVLF(VbicesofLoveandFreedom)実践を用 いた場合と従来型の副読本を利用した道徳実践を行った場合とで,児童の社会 的スキルの向上に違いがあるかどうかを比較検討した。VLFプログラムは,
①自他の視点の違いへの気づき,②自分の気持ちを相手に伝える力,③他人の 気持ちを推測する力,④自分と他人の葛藤を解決する力,を育てることが意図 されており,絵本を教材とした4つのステップから構成される体験型の思いや り育成プログラムであった。パートナー・インタヴュー,ロールプレイなど多 様な活動が盛り込まれている。アセスメントは社会的スキル,共感性の質問紙 と情報分析力を明らかにする絵カードが用いられた。実践の授業前と授業後で 社会的スキルの変化を検討したところ,実践クラスにおいて社会的スキルの効 果が認められたほか,絵の分析における視点の変化も明らかになった。
102
<キーワード>社会的スキル小学生VLFプログラム共感性
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謝辞
本研究に快くご協力いただいた静岡県の小野間正巳先生ほか,多くの先生方
および生徒の皆様に心より感謝致します。
社会的スキルおよび共感性を育む体験的道徳教育プログラム103 付録
《共感性調査項目》
1.たとえ,自分はプレゼントをもらわなくても,他の人がもらったプレゼン トをひらくのをみると楽しくなります。
2.泣いている子をみると自分までなんだか悲しい気持ちになります。
3.悲しいドラマ(げき)をみているとつい泣いてしまうことがあります。
4.とても悲しい気持ちにするような歌があります。
5.犬やねこを人間と同じようにかわいがる人の気持ちがわかります。
6.友だちがいない子は,友だちがほしくないのだと思います。
7.悲しい物語や映画を見ていて,泣きたくなることがあります。
8.おやつを食べているとき,そばにいる子がほしそうにしていても,自分で ぜんぶたべてしまうことができます。
9.きまりをやぶって先生にしかられている友だちを見るとかわいそうに思い ます。(6と8逆転項目)
「いいえ」「どちらかといえばいいえ」「どちらともいえない」「どちらかと いえばいい」「はい」の5件法
《社会的スキル調査項目》
Lこまっている友だちをたすけてあげる。
2.ひとりで遊ぶほうが,友だちと遊ぶよりすき。
3.だれかがやさしくしてくれたとき,「ありがとう」と言う。
4.はずかしくておもったことが言えない。
5.自分がわるいと思ったら,すぐにあやまる。
6.友だちがなにかじょうずにできたとき,「うまいね」とほめる。
7.友だちの考えがちがうとき,きちんとその理由を言う。
8.人のせいにする。
9.いやなことは友だちにやらせる。
10.あいてのきもちをかんがえてはなす。
11.友だちからたのまれたことが,いやなときはいやと言える。
12.みんなでなかよく遊ぶことができる。
104
13.けんかをする。
14.あそんでいる友だちのなかにはいる。
15.人のわるいところや失敗したことをよく言う。
16.がまんしたほうがいいときは,がまんできる。
17.すぐおこる。
18.先生や友だちにあいざつをする。
19.たのまれたことはさいごまでやる.
20.人のじゃまをよくする。
21.自分からだれかに話をしようとするとドキドキする。
22.わるいことばをつかったり,らんぼうなあそびがすき’
23.友だちがあそんでいるところをじっと見ていることが多い。
24.クラスのきまりをまもる。
25.友だちのはなしをさいごまできく。