規則に対するプリ・エンフォースメント訴訟と排他 性の問題
著者 小谷 真理
雑誌名 同志社政策研究
号 4
ページ 44‑75
発行年 2010‑03‑08
権利 同志社大学政策学会
URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000012108
44
規則に対するプリ・エンフォースメント訴訟と 排他性の問題
小谷 真理 Mari Kotani
はじめに
2004年の行政事件訴訟法改正に際してなされた処分性概念の拡大論議において、
行政立法の処分性をいかに扱うべきかは、大きな論点の一つであった1)。
行政立法は、現代国家において、行政政策の実現を図る上で行政機関によりその 決定や行動の拠りどころとして用いられ、よって、我々国民の権利・利益に大きな 影響を及ぼすものとして機能している2)。しかし、行政立法に関する議論は、そも そも我が国の行政法学において、決して中心的地位を占めるものではなかったとも 言われ、その統制は十分といえる状況にはなく、理論的解明が模索されてきた3)。 司法的統制においては、行政立法とは国民一般という不特定多数をその対象とす る一般的基準であって、その制定により直ちに個々の国民の法的地位に具体的な変 動をもたらすものではないとして、その処分性が否定され、直接に司法審査の対象 となることはなく4)、主として個別的処分や国家賠償請求訴訟において当該処分の 前提として争われる場面に限ってその適法性が問われるのが通例である。
もっとも、行政立法が行政機関に対してその決定や行動の指針とし機能している ことを踏まえれば、その制定が個々の国民の法的地位に及ぼす影響は、常に具体的 なものではないと断じることはできない。例えば、違法と考えられる規制基準が示 される場合、被規制者は、右基準に従った資本や労力の投入をするべきか、あるい は基準に違反して、時には刑罰を含む何らかの制裁的措置を受ける危険を冒しても 基準の違法性を争うか、ジレンマの状態におかれることがある。審査基準が誤って いる場合には、本来であれば当該の法的地位を得られたであろう者の多くが、そも そも申請を断念することが予想される。また、基準の違法性を認識し、これを争う 意思をもつならば、先立って書類等を整え、場合によっては、設備投資等の金銭的 負担を伴う準備をした上で、まず申請を行い、その拒否決定を受けてこれを争うな かで審査基準の違法性を主張するというプロセスを踏まねばならい。結果として、
多くの場合、個々の決定を争うまでには至らないであろう。
被規制者であれ、給付等の申請者であれ、ときとして行政立法はその法的地位に 具体的な影響を及ぼし、その適法性に疑いがあるとき、審査の時期を個別に規則が 適用される段階まで遅らせることは、規則を争う私人の側に非常にシビアな選択を 強い、手間や大きなリスクを抱えるなど、大きな負担を求めるものとなることがあ る。
このような場合、規則の示す基準の具体的適用を待たずともその利害関係者が当
45 該基準を直接争うニーズは少なからず認められるものといえよう。また、具体的適
用以前の段階で利害関係者に及ぶ以上のような影響は、具体的な個々の国民の法的 地位に変動をもたらすものとして捉えて、その処分性を肯定する解釈を導きうる余 地をもつものといえるのではないだろうか。
近年、行政立法に関する議論が高まりを見せている5)。伝統的な法規命令と行政 規則の二分論の定義によっては捉えきれない処分基準、要綱あるいはガイドライン といった多様な形式による基準が登場し、これらの基準が実務において重要な役割 を果たしている現状が改めて認識される中で、2004年の行政事件訴訟法の改正論議 において、検討項目の中に行政立法への直接審査が挙げられるにいたったのである。
最終的に行政立法を直接審査の対象とする議論は、今回の行政事件訴訟法改正に おいて実を結ぶには至らなかった6)。しかし、その4条後段においては、実質的当 事者訴訟の中に「公法上の法律関係に関する確認の訴え」が明示された。立法者は 公法上の確認訴訟の導入にあたり、行政立法を契機として争いが生じた公法上の法 律関係に関してもこの確認訴訟が活用可能であると説明したことが紹介されてい る7)。また、改正行政事件訴訟法は処分性概念に変更を加えるものではなかったが、
近時の最高裁判決には処分性の判断に変化が見られ、「従来の公式」を修正する動 きがうかがえる8)。さらには、2005年の行政手続法改正によって行政立法手続が整 備された9)。我が国おいて、行政立法を直接対象とする訴訟が発展する土壌は整え られたといえる段階にきている。
このような状況において、次に大きな問題となるのが、行政立法に対する取消訴 訟が認められることを前提とした場合に、これを提起せずに当該行政処分の具体的 な適用処分に対する取消訴訟や、その他の当該行政立法の下で生じうる私人間の民 事訴訟において、当該行政立法の違法性の主張・審理が遮断されるのか、という点 である。これまで、行政立法を具体的な適用を待たずして直接に審査の対象とする 議論がなされるとき、行政立法の内容を抽象的に争うことになるので「法律上の争 訟」に当たらないのではないか、また、行政立法の根拠規範や規制規範が具体性を 欠くため、実際に審査を認めたとしても有効な統制を司法が加えることは困難なの ではないか、といった点が主に論じられ、違法性の遮断問題については十分な検討 が加えられてこなかった。しかし、行政立法を直接に審査の対象とすることを確立 するためには、いまや違法性の遮断問題は、解決すべき直近の課題といえるだろう。
本稿では、違法性の遮断問題を検討する端緒としてアメリカの例を素材とする。
アメリカにおいては、約40年前より規則10)に対して適用以前の段階で直接その適 法性を争うプリ・エンフォースメント訴訟(pre-enforcement review)を容認して きた歴史があり、現在では、個別法においても行政活動の授権法規中に規定が設け られ、規則を争う標準的な形態として定着している。個別法によるプリ・エンフォー スメント訴訟の法制度化により、規則を争う訴訟ルートは複数存在している。
これまでの研究では、このプリ・エンフォースメント訴訟の訴訟形式としての生 成・発展・展望に係る判例法理の歴史的展開を検討してきた11)。本稿では、法制度
46
化という新たな展開の結果、訴訟ルートの分岐によって、実際の個々の司法審査の 場において、審査対象となる争点の振り分けがどのように処理されているのかにつ いて焦点を当てる。規則の一般的・継続的に適用されるという性質からして、適用 以前の段階において訴訟を認めるとき、やはり後続訴訟における争点の遮断が問題 となる。
第1章では、個別法において一般的な訴訟形式の一つとしてプリ・エンフォース メント訴訟が規定されるに至った経緯を概観する。第2章では、規則の適法性を争 うについて複数の訴訟ルートが存在するなかで、裁判所が、議会による法制度化の 意図を踏まえて、プリ・エンフォースメント訴訟の段階と後続の執行訴訟その他の 訴訟の場とにおいて審査対象とする争点の振り分けにいかなる基準を用い、よって 排他性の問題を処理しているのかを判例の動向より導き出すことを試る。
1. 規則に対するプリ・エンフォースメント訴訟
現在、多くの個別法に司法審査に関する規定が置かれており、その中には規則を 対象とするプリ・エンフォースメント訴訟の規定も含まれる12)。
たとえば、労働安全衛生法(以下、OSHAという。)は、「本条の下で公布された 基準により不利益を被る者は誰でも、当該基準の公布より60日以内に、その者が居 住しもしくはその者の主要な事業所が所在する巡回区の連邦控訴裁判所に、当該基 準の適法性を争う訴えを提起することができる。」13)と規定し、安全飲料水法(以下、
SDWAという。)は「全国第一次飲料水規則(最大汚染物質基準目標を含む。)を設 定する行為への訴えは、コロンビア特別区の連邦控訴裁判所にのみ提起することが できる。また、(2)本章に定める行政庁[EPA長官]による他の一切の最終的な 行為への訴えは、原告が居住し若しくは当該行為により直接に影響を受ける事業を 行う巡回区の連邦控訴裁判所に提起されることができる。以上の訴えはすべて、規 則の公布若しくは審査が求められている他の最終的な行政機関[EPA]による行為 があった日から起算して45日以内に、または審査が求められている決定のあった日 から45日以内になされるものとし、当該訴えが、もっぱら上記期間の経過後に生 じた理由に基づく場合には、45日の期間経過後においてもなされるものとする。」14)
としている。
しかし、規則に対するプリ・エンフォースメント訴訟は、そもそも個別法に規定 された訴訟形式としてではなく、いわゆる判例法上の司法審査として発展してきた。
本稿は、プリ・エンフォースメント訴訟により規則を適用以前の段階で争うことが 認められることによって、規則の適用後の審査との間に生じる問題に主眼をおくも のであるが、議論の前提として、プリ・エンフォースメント訴訟が現在のように個 別法で規定されるようになるまでの経緯を概略的に確認しておく15)。
47 1.1. 判例法上のプリ・エンフォースメント訴訟
アメリカ行政手続法(以下、APAという。)では、行政活動に対して司法審査を 求める形式は、制定法上の司法審査と判例法上の司法審査の2つの形式が予定され ている16)17)。前者は、個別の制定法上に置かれた訴訟対象や出訴期間などの司法審 査に関する規定に基づく審査であり、後者は、そのような個別の制定法における司 法審査規定に基づかない、裁判所が一般的な管轄権限の行使として判例法上で認め てきた審査の形式である。制定法が訴訟事項に関して特別に審査手続を定めている 場合は、右の規定を根拠として司法審査を求めることとなる。他方、制定法によっ て個別に司法審査が規定されていない場合、あるいはそれが不適切である場合には、
たとえば、アメリカ合衆国もしくは合衆国法の下で生じた一切の事件を取り上げて 審査することを認めている連邦問題管轄権に関する法律18)などを根拠として、第 一審管轄権を与えられた連邦地方裁判所に対して、行政活動に不服をもつ者は、適 切な救済を求めた訴訟を提起することができる19)。審理手続は、事実審裁判所にお いて開始されることとなる20)。
判例法上の司法審査においては、単に適切な事物管轄権を有する裁判所に対して 不服とする行政機関の行為の違法等を申し立てることにより、全ての訴えが審査に 入ることになるわけではない。
まず、合衆国憲法第3編2条により、連邦裁判所が司法権を行使しうる対象は、
事件あるいは争訟(case or controversy)に限られる21)。また、連邦最高裁は、司 法権行使の限界を論じる際に、端的に事件性・争訟性の言葉を通して論じずに、司 法判断適合性(justiciability)の語を用いてこれを把握する。司法判断適合性とは、
連邦最高裁判所がその権限を行使すべき適切な範囲を画するなかで、憲法上の要請 に政策的配慮とを踏まえた混合物として用いられてきた22)、歴史的・経験則的に形 成された判例理論の総体を示すものである。具体的には、勧告的意見の法理、原告 適格の法理、紛争の成熟性の法理、訴えの利益の事後消滅(ムートネス)、政治的 問題の法理がその内容を成す23)。これらは入口の問題といわれ、訴訟要件として司 法審査が提起された最初の段階で、司法が当該事案につき、その権限において審査 を行うに適当なものであるかの篩分けを行う際に用いられる。
APAには、判例法上培われてきた基準を確認する6条からなる司法審査の規定が 置かれている。司法審査の提起に係る部分では、701条(a)項24)は、「①制定法が司 法審査を排除しているとき、あるいは②行政機関の行為が法により行政機関の裁量 に委ねられている範囲を除き」、行政機関の行為の司法審査が許されると定める。
702条25)は、「行政機関の行為によって違法な侵害を受け、または関係法規の意味 において、不利益を受けあるいは利益を害せられた者は、その行為について司法審 査を求める権利を有する」と司法審査を求めうる者の範囲を限定する。704条26)は、
「個別の制定法により審査可能とされた行政機関の行為、ならびに他に適切な救済 のない最終的な行政機関の行為」を司法審査の対象となりうる行為とする。
すなわち、判例法上の司法審査訴訟について、まず裁判所は、提起された当該行
48
政機関の行為がAPA701条(a)項にいう2つの例外により審査を排除されるものに該 当しないことを確認する。これは、審査対象性(reviewability)の問題として扱わ れる27)。規則の違法を訴える原告には、当該行政機関の行為によって特定の権利・
利益に損害が生じることを訴訟の場で示すことができれば、原告適格が認められる。
そして、当該行政機関の行為が、司法審査を受けるにふさわしい最終的な行政機関 の行為であれば、裁判所はそのタイミングで審査に入る。
規則については、その公布時点でも私人の権利・利益に実質的な影響を与える場 合がある。他方で、規則は、その制定、適用あるいは執行までを行政機関による一 連の判断の積み重ねと捉えれば、適用あるいは執行の段階に進むことで、当該規則 の目的とする行政政策の内容がより具体的に明らかになることもある。規則のプリ・
エンフォースメント訴訟を求めるとき、そもそも個々の事案に対する具体的な行政 機関の判断がなされてはいない適用以前の段階において、規則の適法性を司法審査 の対象とすることが、憲法上許容されるのであろうか。また、審査対象として原告 の主張する規則の瑕疵を、その制定、適用、執行のいずれの段階において争うこと が適切であるのか、審査の時期(タイミング)の問題としても議論を要するところ である。裁判所では、規則に対するプリ・エンフォースメント訴訟が提起された際、
果たして適用以前の段階において審査をすることが適切といえるか否かを紛争の成 熟性の法理を用いて判断してきた。
規則に対する判例法上のプリ・エンフォースメント訴訟が確立は、1967年の
Abbott判決28)を契機とする。Abbott判決は、紛争の成熟性を判断する基準として、
①争点が司法判断に馴染むのもであるか、②司法審査が控えられることによって、
当事者が困難を被るかどうか、の2つのテストを示した。いわゆるAbbottテストと いわれるものである。以後、プリ・エンフォースメント訴訟は、規則を争う標準的 な訴訟形式となる29)。
1.2. プリ・エンフォースメント訴訟の法制度化
プリ・エンフォースメント訴訟が個別法において規定されるようになったのは、
1970年ごろからである30)。典型的な例である連邦水質汚濁防止法(以下、CWAと
いう。)の司法審査規定509条(b)31)で、基本的な構造をみておこう32)。
CWAは509条(b)(1)において次のように列挙する一定の行為に関し、原則として 当該行為が行われてから120日以内に連邦巡回区控訴裁判所に訴えを提起すること を認める規定をおく。
「行政庁[EPA長官]のなす、(A)306条によるすべての達成基準[新規発生源達 成基準(NSPS)]を公布し、(B)306条(b)(1)(C)に従った一切の決定をし、(C)307条 に基づきすべての排水基準、禁止、もしくは予備処理基準を公布し、(D)402条(b)
[連邦汚染物質排出除去システム(NPDES)の州への委譲制度]に従って提出され た州の許可プログラムに関する一切の決定をし、(E)301条、302条、306条もしくは 405条により一切の排水規制もしくはその他の規制に同意し、またはこれを公布し、
49 (F)402条[NPDES]に基づく一切の許可あるいは不許可をなし、(G)304条(1)によ
り一切の個別制御戦略を公布する行為への司法審査は、利害関係を有する者であれ ば誰でも、その者が居住する、あるいは当該行為によって直接の影響を受ける事業 を行う連邦裁判区の連邦巡回区控訴裁判所において提起することができる。右の請 求はすべて、当該の決定、同意、承認、公布もしくは拒否がなされた日より120日 以内に、あるいは訴えがもっぱら120日を経過後に生じた理由に基づく場合にはそ の日より120日以内に提起されるものとする。(カッコ内は筆者の手による。)」
加えて、CWA509条(b)(2)では、「前項(1)の規定により司法審査を受けることが できるEPA長官の行為は、民事あるいは刑事の執行手続上において司法審査の対象 とはならない。」と定め、例えば私人による達成基準違反行為に対してEPAが刑事 上あるいは民事上の制裁的措置を裁判所に求める執行訴訟上では、被告となる私人 が抗弁として当該違法行為の前提となる達成基準を示す規則の違憲・違法を防御的 に主張することを、509条(b)(1)に基づく司法審査において争いえたものとして禁 じている。
なぜ、プリ・エンフォースメント訴訟が個別法によって法制度化されたのか。そ れは、純粋に、プリ・エンフォースメント訴訟の優れた点を認めたことを表すもの なのであろうか。紐解く鍵は、その規定上の特徴にある。
個別法にみられるプリ・エンフォースメント訴訟の規定では、まず、その事物管 轄権を与える裁判所が限定されている。一般には、13区から成る連邦巡回区控訴 裁判所に、なかには、コロンビア特別区巡回裁判所に特定するものもある。また、
60日~90日の出訴期間が設定されている。特に環境法の領域では、CWA509条(b)
(2)の例にみられた様に、規則等に示された基準等に対する私人の違法行為につい て、行政機関が刑事上あるいは民事上の制裁的措置を裁判所に求める執行訴訟にお いて、被告となる私人が抗弁として当該違法行為の前提となる規則等の違憲・違法 を防御的に主張することを明示的に禁止する規定を設けていることが多い。
プリ・エンフォースメント訴訟には、私人において、資金の投入等その他一定の 行為負担を前提とせずに、規則によって及ぼされる不利益を除去する手立てとなり、
また、瑕疵ある規則によって不適当な政策がなされることを早期に防ぎ、規則を通 じた行政政策の適法性を安定させる利点がある一方、訴訟提起に際してコスト負担 の少なく、利便性の高い点は、特に被規制者の立場にある私人にとっては、時に規 制の遵守時期を遅らせたり、規制そのものを弱めたりするための有効な手段として、
戦略的に積極的な訴訟提起を促す側面があることが指摘される33)。Abbott判決の反 対意見では、プリ・エンフォースメント訴訟を認めることで、訴訟件数が増加し、
規則によって実現しようとする重要な政策が停滞することが危惧されていた34)。 もちろん、不適当な訴えは、Abbottテストの的確な適用によって排除される理屈 である。しかし、判例法上の司法審査では、一人の裁判官による単独審理の形式を とる連邦地方裁判所35)に管轄権がおかれているため、主として戦略的な訴訟提起 をなすことが見込まれる全国規模の巨大な事業者等によって、いわゆる裁判地漁り
50
が行われる可能性がある。
議 会 に は、 裁 判 地(venue)、 審 査 期 間(timing of review)、 審 査 範 囲(scope of review)等を限定するなど、いくつかの方法により司法審査に制限を加える裁量が ある36)。議会は、ここで対策として、各行政活動の根拠法規中に管轄権を排他的に 連邦巡回区控訴裁判所に付与したプリ・エンフォースメント訴訟規定をおくことを 試みた37)。連邦巡回区控訴裁判所は、設置数は13箇所と少なく、3人の裁判官によ る合議体で審理を行うため、慎重な判断が下される可能性が高い38)。連邦巡回区控 訴裁判所に第一審管轄権を付与することは、特に、一貫性や画一性が強く求められ る行政政策に関して有効であり39)、管轄権の付与対象をコロンビア特別区巡回裁判 所に限定することは、さらにこの効能を高めるものである。
また、出訴期間の設定は、期間内であれば規則公布後の速やかなる訴え提起が可 能となることを前提として、私人に自己の権利・利益に対する損害について事前に これを防止する機会を与えるが、原則として、その機会は規定の期間内に限られる こととなる。プリ・エンフォースメント訴訟の利用に期間制限を課すことで、議会 は、期間の満了により早期に規則の有効性を確定させ、以後の迅速で画一的な行政 政策の実行を確保し、当該規則により影響を受ける者に対して、一定の合理的な期 間をもってその適法性を知らせることを可能ならしめた。
議会は、判例法上の司法審査としてプリ・エンフォースメント訴訟が確立した状 況を前提に、個別法による法制度化によって、その訴訟形式としてのメリットを認 め、これを維持、促進する一方40)、その規定にいくつかの工夫をすることにより、
公益を損害する可能性を縮小させ41)、そのデメリットと調和させたものと評価でき るだろう。
2. 排他性の問題
プリ・エンフォースメント訴訟の登場は、規則の適法性を争う機会を新たにもた らした。個別法による法制度化がなされたことで、その利用可能性は高まっている。
もっとも、適用以前の段階で裁判所が審査し得る規則の瑕疵の範囲には、一定の 限りがあるものと予想される。一般論として、規則そのものを争う点において、個 別の具体的な事実に係らない文面上の瑕疵の訴え(facial challenge)がその対象と なると考えられるが42)、実際のところ、いかなる争点が適用以前の段階で審査可能 であるのか、個々の事案における瑕疵の主張に則してその線引きをなすことは容易 ではないだろう。
APAには、701条に、司法審査を「制定法により司法審査が排除されている場合、
あるいは行政機関の行為が行政機関の裁量に全面的に委ねられている場合を除い て」許されるものと定め、703条にて、「法律により事前の適切で排他的な審査の機 会が定められている場合を除き、行政機関の行為について裁判所による強制執行を 求めるための民事あるいは刑事の訴訟手続において右行為は司法審査に服する」と 規定される。
51 個別法において、規定の裁判所に排他的管轄権を付与した特定の訴訟形式がお
かれる一方で、一定の出訴期間制限があり、場合によっては後続の執行訴訟等に おける瑕疵の主張一切の排除が明文により謳われているとき、文面上の瑕疵の訴 えについては、この個別法に定めるプリ・エンフォースメント訴訟の場をもって、
APA703条にいう「事前の適切で排他的な審査の機会」が与えられていると考える のであろうか。また、議会がこのような規定を置く意図は、単に追加的に新たな訴 訟ルートを付与しようとするものであるのか、それとも、出訴期間経過後の訴訟を 全部あるいは一部制限する、すなわちAPA701条(a)項にいう「制定法により司法審 査が排除されている」場合に該当するものと解するべきなのであろうか。
プリ・エンフォースメント訴訟が法制度として確立されるとき、プリ・エンフォー スメント訴訟という制定法が指定する訴訟ルートにて争うべき瑕疵の範囲と後続の 適用あるいは執行手続その他の訴訟上において訴えを許される瑕疵の範囲とを区分 する議論は、APAの規定に則し、後続訴訟においていかなる瑕疵の主張が遮断され るのかという、排他性(exclusivity)の問題として把握される。制定法上のプリ・エ ンフォースメント訴訟は、この後続訴訟での瑕疵の主張を遮断する面をもって、排 他的プリ・エンフォースメント訴訟と呼ばれることがある43)。
排他的プリ・エンフォースメント訴訟の規定は、先に見たとおり、後続の適用あ るいは執行に係る訴訟について、OSHAやSDWAのようなイ)明文による排除規定 がおかれていない場合と、CWAのようなロ)明文による排除規定がおかれている 場合の二つに大きく分かれる。個別法にみられるプリ・エンフォースメント訴訟規 定の多くは、イ)の類型に属し、むしろロ)に該当するものは稀で、主として環境 法領域に限定してみられる傾向である44)。
ロ)の場合、議会が後続の訴訟において規則の適法性が争われることを排除して いることは明白である。もっとも、プリ・エンフォースメント訴訟が法定されたた めに逆に、適用段階での司法審査において規則の違法を主張する機会が一切認めら れないと解されるならば、それはデュー・プロセスの観点から重大な問題を惹起す ることになろう。最高裁は、限定解釈を加えることによってこの問題を回避してき た45)。
イ)の場合、管轄権を限定したプリ・エンフォースメント訴訟の規定をもって他 の訴えが排除されるか否かは解釈問題である。制定法による、明文での明確な意思 が示されないままに、新たな訴訟ルートが創設される場合、訴訟ルートが複数存在 することによって、個々の訴訟ルートにおいて何が審査対象となるのかという複雑 な問題が新たに生じる。
本稿では、このイ)の類型に係る排他性の問題を取り上げる。この問題は、一般 に、審査対象性の法理を通じて論じられる。審査対象性の法理に関して、先に見た Abbott判決がリーディングケースとなっている。司法審査を排除するにおいては、
当該審査を排除するという立法者の意図が「明白かつ強力な証拠」により立証され なければならず、単に制定法中に一部の行政機関の行為に対する司法審査が規定さ
52
れていることをもって、他の行為に対する司法審査は排除されないとの判断を右判 決は示した。近年、審査を排除する議会の意図について「明白かつ強力な証拠」の 存在をメルクマールとして積極的に審査可能性を推定する姿勢は、最高裁において 修正、転換される兆しを見せているところである46)。本稿においては、排他性の問 題について、審査対象性の法理の展開を軸とした分析は他日を期すこととし、連邦 裁判所が、排他性の及ぶ範囲を画する上で、いかなる基準をもってこれを行ってい るのかについて、つまり、プリ・エンフォースメント訴訟の提起が認められている 出訴期間内と後続訴訟とのそれぞれ審査対象とする争点の振り分け方に焦点を当て た検討をすることとしたい。
2.1 労働安全衛生法をめぐる判例
イ)類型の規定形式の典型といえるのは、OSHAの規定である。OSHA655条(f)は、
同条の下で労働安全衛生局長が公布する職場の安全及び衛生保護に関する連邦統一 基準により不利益を被る者は誰でも、右基準の適法性をその公布後60日の期間にお いて連邦巡回区控訴裁判所で争うことができると定める。本節では、OSHA665条(f) の規定を例にとり、判例動向を具体的にみてみよう。
(a)National Industrial Contractors, Inc.判決47)(以下、NIC判決という。)
建設会社である原告の建設現場で発生した落下事故に対して労働安全衛生局が調 査の結果下した安全基準違反通知について、原告による労働安全衛生審査委員会(以 下、OSHRCという。)への不服審査申立てが棄却されたため、これを争う訴えが第 8区巡回裁判所に対してなされたものである。原告は、安全基準を示すOSHA規則 の制定手続に瑕疵があり、また原告の基準違反を認める決定には実質的証拠が不十 分であると訴えた。
判決では、手続的瑕疵の訴えと規則が専断的・恣意的である場合などの実体的瑕 疵の訴えとが区別される。まず、OSHA6条(f)の法案説明が当該規定は「基準に対 するプリ・エンフォースメント訴訟を求める唯一の手段となるが、他方で本規定を もって雇用者が執行手続上において基準の適法性を争うことを排除しない」と述べ る点につき、少なくとも実体的瑕疵の訴えは規則が個別に適用される段階でなしう るとの立法意図を示すものと裁判所は解する。そして、手続的瑕疵と実体的瑕疵と を区別する理由として次のように述べた48)。
実体的瑕疵の訴えについては、「プリ・エンフォースメント訴訟の提起は一般に は執行停止をもたらすものではないので、右訴訟判決確定前に規則が適用され執行 手続が開始されるおそれがある」こと、また、「雇用者が誠実に基準遵守に努めた 結果、経済的・技術的に基準には実行性が欠けることが判明することもあるが、こ のような問題が明らかとなる頃には60日のプリ・エンフォースメント訴訟の出訴期 間を経過していると思われる」ことから、出訴期間の制限は課せられない。他方で、
「手続的瑕疵の訴えは、時間の経過によって明らかになるのを待つ必要はなく直ち
53 に訴えることが可能である」。
「実体的瑕疵の訴えと手続的瑕疵の訴えを区別することは有益である」として、
APAその他の制定法の手続要件を満たしていないことを理由とする訴えは、OSHA の規定するプリ・エンフォースメント訴訟を規則の施行後60日以内に争う中でのみ 許されるとし、執行手続上においてはもはや認められないとして、本訴における手 続的瑕疵の訴えを却下した49)。実体的瑕疵の訴えは本案審理され、結果として棄却 されている。
OSHA6条(f)に関する初期の判例である右判決では、明文による排他規定をもた ない制定法上のプリ・エンフォースメント訴訟規定と執行訴訟その他の後続手続と の関係を解釈する上での有益な基準として、手続的瑕疵と実体的瑕疵とを区分する 方法が示された。
しかし、他方でOSHA665条(f)について、一切の排除を否認する解釈を示す裁判 所も多数ある。
(b)Union Oil Co.判決50)
本件は、OSHA規則違反により罰金及び改善命令を受けた原告であるユニオン 石油会社が、右OSHA規則の違法を訴えてOSHRCに不服申立てを行ったところこ れが認められたため、労働省長官が右OSHRCの決定を争った事案である。地上 10フィート以上にある作業用の踊り場に手すり等の防護設備の設置を義務付ける OSHA規則の手続的瑕疵を原告が執行手続上において抗弁として主張することが OSHA665条(f)により排除されるか否かが問題となった。
第9区巡回裁判所は、「行政機関の行為に対する司法審査は、『それを排除するこ とが議会の意図であると信じるに足る説得的理由がない限り、排除されない』」と するAbbott判決による司法審査許容原則及びData Processing判決で示された「制定 法の体系から審査対象性を否定する推定をして行政絶対主義を支持する意図がまず まず認識できない限りは、そのような前提は存在しない」51)とする連邦最高裁判例 に従いOSHAの立法史等に吟味を加える。先の(a)NIC判決でも引用されたOSHAの 法案説明について、当該規定をもって雇用者が執行手続上で基準の適法性を争うこ とを排除しないとの叙述を実体的瑕疵の訴えのみに限定するものとは解さず、また 議会による明示的な排除規定を欠くことをもって、OSHA規則の手続的瑕疵を争う ことは排除されないと判示した52)。
(c)Deering Milliken, Inc.判決53)
綿塵を含めた大気汚染物質の排出基準を定めたOSHA規則に違反するとの OSHRC決定に対し、紡績製造業者である原告により右規則の手続的瑕疵並びに実 体的瑕疵が争われた事案である。
第5区巡回裁判所もやはりAbbott判決に倣い、審査対象性の積極的推定を前提と
54
して、OSHA665条(f)において司法審査を排除する明白かつ説得的な証拠が認めら れるか否かを審査する。本裁判所は、右規定がプリ・エンフォースメント訴訟後の 司法審査に対する排除について沈黙していること、さらにその立法史からも排除の 意図が認められる明白かつ説得的な証拠はないことをもって原告の訴えを排除しな かった54)。
(d)Daniel International Corp.判決55)(以下、Daniel判決という。)
OSHAによる立入調査の結果、建築安全基準違反の通知を受けたダニエル・イン ターナショナル社が、右通知に対する不服申し立てをOSHRCになしたところ右違 反通知を支持する決定がなされたため、さらに第4区巡回裁判所において争われた 事案である。原告は、建築安全基準を示すOSHA規則には規則制定手続において告 知・コメント手続が採られなかったという手続的瑕疵があると主張した。
本件において裁判所は、前述の(b) Union Oil判決、(c) Deering Milliken, Inc.判決 を引用して原告は規則の実体的瑕疵と同様に手続的瑕疵を主張することを妨げられ ないとして、原告の訴えを排除しなかった56)。ただし、原告は手続的瑕疵を主張す ることが認められたものの、手続的瑕疵により損害を被っていることを立証しな ければならず、本件ではこれを認めることができないとして訴えは棄却されてい る57)。
以上のように一切の排除を認めない解釈傾向は、OSHA以外の個別法による出訴 期間制限付きのプリ・エンフォースメント訴訟規定に対してもみられる。
(e)Commonwealth Edison Co.判決58)
本件では、電力会社である原告がなした原子力発電所の免許申請に対して連邦原 子力規制委員会(以下、NRCとする。)が下した審査料の支払い決定等が争われ、
審査料の算定基準を定めたNRC規則が問題となった。免許申請における審査料は、
1984年にNRCにより上限額を引き上げる基準改正がなされていた。原告は、もと もと基準改正をする規則案に対し、意見提出手続を通じて不服を表明しており、原 告による免許申請審査の手続が1984年規則の施行日をまたいで行われていたことも あいまって、原告は、本件においては旧規則が適用され、当該決定額は不当に高額 であると主張した。
第7区巡回裁判所は、本訴を単純に原告に対する1984年規則の適用を争うもの ではなく、1984年規則そのものを争うものであり、ホッブス法2344条59)に基づき、
1984年規則の公布後60日の出訴期間の経過をもって排除されるとするNRCの主張 を退け、本件における事物管轄権を有すると判示した。Abbott判決に則り、「ホッ ブス法2344条の規定は、単に出訴期間の経過をもって規則に対するプリ・エンフォー スメント訴訟の事物管轄権が一般に本裁判所から失われることを意味するに過ぎな いものと解されるべき」であり、CAA等の例にみられる執行手続上での規則に対す
55 る明示的な審査禁止規定を置かないホッブス法の沈黙をもって、本裁判所における
事物管轄権の存在を示すとする60)。特に、ホッブス法の法構造・法目的において、
同法はいくつかの行政機関による最終的な命令を対象としてその司法審査における 事物管轄権を統制するものであって、対象とする最終的な行政機関の命令は無数に 存在し、またその現れる状況も多様であることを前提とすれば、明確な警告をする こともなく、議会が執行前の段階で規則を争わなければ執行段階における司法審査 の途を分断することを選択したとは考えにくいと述べている61)。
OSHA665条(f)をAbbott判決が示した司法審査対象性の積極的推定の原則に則り、
後続手続上おいて規則への違法性の主張をすることを排除するものではないとする 解釈は、(b)~(d)判決を代表例とした一連の判例による蓄積があり62)、また(e)
Commonwealth Edison Co.判決に見たようにOSHA以外の個別法規定の解釈におい ても採用されている。(c)Deering Milliken, Inc.判決では、(a)NIC判決による違 法事由の実体・手続二分論は、立法解釈の結果として導かれたものではなく、政策 的考慮に由来するものであると断じられている63)。
しかし、(b)~(d)判決が出された後においてもOSHAの出訴期間制限付きプリ・
エンフォースメント訴訟規定を解釈した判例の中には、OSHA規則の手続的瑕疵 を訴えることを排除するものがある。次の第5区巡回裁判所が示す判例は、OSHA の同一条文の解釈において先の後続訴訟における一切の排除を認めなかった(c)
Deering Milliken判決と同一の裁判所の手によるものとして興味深い。
(f)RSR Corp.判決64)
本件は、連邦安全衛生局による立入調査の結果、OSHA規則違反通知を受けた鉛 精製業者である原告が、執行手続上において申立てた右通知及び罰金命令の取消し の不服申立てが棄却されたため、右棄却決定を第5区巡回裁判所において争うもの である。鉛の許容暴露基準を定めるOSHA規則は、大気中に飛散した鉛について従 業員に対する防御措置を講じる義務を雇用者に課しており、防御措置の一つである 防御マスクに関して大気中の鉛濃度のレベル別に選択タイプを指定して列挙するも ので、原告は従業員に配布した防御マスクについて右マスク選択基準への違反を問 われた。
原告は基準に違反したことを認める一方で、配布したマスクは適切な防御装備で あるとの認識の下、①当該基準は実際の防御係数や装着する従業員による容認等へ の考慮を欠いた不合理で不適法なものであり、また基準が適法だとしても、②規則 違反の判断において基準を遵守することが不遵守以上のリスクが発生するかどうか を考慮していない点及び③単なる技術的基準違反をもって重大な違法に該当すると の誤認がある点の以上3点につき棄却決定を争った。原告は当該規則の制定手続に おいて意見提出を行い、規則自体に対するプリ・エンフォースメント訴訟にも参加 するものであったが、本件での主張はこれらの手続上ではなされてはいなかった。
56
第5区巡回裁判所はまず、NIC判決を引用して、OSHA6条(f)を少なくとも後 続の執行手続上においてOSHA規則の実体的瑕疵を争うことを禁じるものではな いと判示した。判決は、手続的瑕疵を争うことを否定する前提として、本件が
OSHA6(b)65)に基づき告知・コメント手続を経て制定された規則を争うものである
のに対し、手続的瑕疵の訴えを認めた(c)Deering Milliken, Inc.判決その他の判 例で問題とされたのはOSHA6条(a)66)に基づく略式手続より公布された規則である ことを指摘する67)。OSHA6条(a)は最低限度の安全・衛生基準を迅速に整備するた めの暫定措置としてOSHAの施行後2年間の期限付きにて採用されたものであり、
APAによる規則制定手続を免除する。(c)Deering Milliken, Inc.判決では、OSHA 6条(a)に基づき制定された無数の複雑な規則を綿密にチェックして60日以内にそ の違法性を争うことは事業者に非常な負担を強いるものであると判示されたが68)、 規則制定手続の異なる本件ではどうであろうか。裁判所は原告による主張①~③に ついて、次のように判示した69)。
主張①について、原告には、規則制定手続並びにプリ・エンフォースメント訴訟 において以上の主張をする十分な機会が与えられており、また、当該基準の欠陥は 文面上明白であって、明らかとなるのに時間を要するものではなかった点を指摘す る。(c)Deering Milliken, Inc.判決で示した司法審査対象性の積極的推定は強力な ものであるが、本件の上記のような状況においては、議会が絶え間なく審査がな されることを認めることを意図していたとは解されないと判示した。また、右解 釈が、労働者の安全で健全な職場環境を確保し、人的資源を保全するというOSHA の目的にも適うものであることを強調する。すなわち、後続の執行訴訟において基 準自体の不合理性・違法性の主張を認めることは、原告のような雇用者がその間基 準を無視して従業員の安全性を危険に晒し、法目的を阻害することを許すものであ り、雇用者においてはむしろ、早期に規則を争う機会を捉えて訴えるべきであると した。主張②についてはOSHRCでの審判後に追加的になされた訴えであったため
OSHA11条(a)70)に基づき却下されたが、主張③については本案審理に入った。
現在、明文による排除規定をおかないOSHA665条(f)について、判例の多くは一 切の排除を否認する解釈傾向を示しているといわれる71)。では、一定の排除をなす 判例はいかなる理由により審査対象を区別したのであろうか。また、一切の排除を 否認する解釈は適切といえるのであろうか。その判断基準を導き出すためには更な る判例の分析が必要とされるが、ここでは解釈上のポイントとして、次の2点を指 摘しておきたい。
まず、(f)RSR Corp.判決は、争う機会があったか否かを軸として解釈による排 除の問題を整理し直したものとして評価できるだろう。同じOSHA665条(f)の解釈 をめぐる一連の判例の中で、同規定の立法史や法構造、さらには問題とされる規則 の授権法にアプローチし、原告が60日というプリ・エンフォースメント訴訟の訴訟 期間満了までに規則の違法を知りえたか、またこれを訴える機会を与えられていた
57 かを問題とされる個々の規則の制定手続の違いを手がかりに問うことで、執行手続
上において主張しうる争点の範囲を分けた。一見すると実体・手続二分論を踏襲す るようにも思えるが、主張しうる違法事由を規則制定手続・プリ・エンフォースメ ント訴訟=手続的瑕疵、適用段階での執行手続その他の訴訟=実体的瑕疵とする一 面的な区分を離れて、争う機会の有無を線引きの基準とする判旨は説得的であるよ うに思われる。
また、一切の排除を否認する判例の一つである(d)Daniel判決が、本案審理に おいて原告は主張する手続的瑕疵により損害を被っていることの立証をしなければ ならない点を強調していることは注目される。
(d)Daniel判決は本案審理に入る冒頭において、(b)Union Oil Co.判決、(c)
Deering Milliken, Inc.判決と(a)NIC判決とを区別することはそれほど重要なこと ではないと述べている72)。すなわち、制定法規定の出訴期間経過後、規則の適用段 階において手続的瑕疵を争うことができたとしても、手続的瑕疵のある行政機関の 行為によって不利益を被っていることの立証責任は、私人の側が負う。適用段階で は、私人は抗弁として規則の違法・無効の主張をなすものであるから、民事訴訟法 の一般原則に従って立証責任を負う立場にある。他方で、制定法上のプリ・エン フォースメント訴訟においては、規則・命令を発する側、つまり行政機関が行政記 録に基づいて規則の適法性を立証しなければならない73)。私人が手続的瑕疵を立証 することは、実際のところ困難を伴うものであろう74)。
事実、(d)Daniel判決では原告の主張により、手続的瑕疵は立証されていないと して、訴えは棄却されている。解釈による排除を一切認めなかったとしても、結局 のところ手続的瑕疵の訴えが容認される可能性が低いとすれば、(d)Daniel判決が 訴えを却下しなかった背景に、問題となった規則に関しては争う機会が十分ではな かったというRSR判決の指摘に対する留意があったものと捉えることもできるので はないだろうか。
2.2 コロンビア特別区巡回裁判所による違法事由を区別する判例
次に、OSHA以外の個別法の規定がどのように解釈されているかをみてみよう。
前節では1つの個別法規定をめぐる一連の判断を概観したが、ここでは特徴ある判 決傾向を示すものとして、コロンビア特別区巡回裁判所の判例に着目する。同裁判 所は、個別法によるプリ・エンフォースメント訴訟の出訴期間経過後における執行 その他の手続上での実体的瑕疵の訴えについては、これを排除しない姿勢を早期の 段階で明確に示してきたといわれるが、実態はどうであろうか75)。
(g)Natural Resources Defense CouncilⅠ判決76)(以下、NRDCⅠ判決という。)
本件は、エネルギー再編成法206条(a)(2)77)により原子力発電施設の部品を製造・
販売する企業が負う「基幹部品」の欠陥に関する報告義務についての連邦原子力規 制委員会(以下、NRCという。)規則が争われた事案である。最終的なNRC規則に
58
は、利害関係者による要請を受けて「基幹部品」の定義から一部の製品を除外する 修正が加えられており、修正部分については範囲が限定的であったことから告知・
コメント手続はとられなかった。原告である環境保護団体、全米資源保護会議(以下、
NRDCという。)は、実体的瑕疵及び手続的瑕疵を主張してNRCに修正NRC規則の 廃止請求を申し立てたが、NRCがこれを棄却したため、右決定を最終決定として ホッブス法2344条に基づきコロンビア特別区巡回裁判所に訴えた。原告による右の 訴えは、修正NRC規則の公布後7ヶ月を経過した段階でなされたものであった。
NRDCの主張は、規則を直接争う機会がありながらこれをしなかった者が、APA 上の権利に基づいて規則の改廃を目的とした規則制定手続の申立てをし、これを拒 否する行政機関の決定に対して司法審査を求めるなかで、元々の規則に対する不満 を訴えているものととらえることもでき、いわば「裏口手続によって規則を争うこ とが許される」78)か否かが本件での問題であった。
まず、手続的瑕疵の訴えについては却下された。出訴期間の規定が「行政過程を 終結させ、よって行政資源の節制と当該規制対象者の信頼保護を図るという重要な 目的に適うものである」79)ところ、手続的瑕疵の訴えが本件のような形でいつまで も許されることはこの目的を損なわせると述べる。他方で実体的瑕疵については、
行政機関の行為が「専断的・恣意的、裁量の濫用あるいは法律・憲法への抵触にあ たる」80)との実体的瑕疵の主張は先例においても司法審査が認められてきたことを 指摘し、原告による修正NRC規則がエネルギー再編成法206条に抵触するとの主張 について直ちに本案審理に入った81)。最終的には、修正NRC規則の実体的瑕疵は認 められなかった。
(g)NRDCⅠ判決は、制定法により出訴期間制限が規定された立法目的に手掛か
りを求めた。明示的な事後の訴訟における審査の排除規定がなく、かつ原告が制定 法規定の出訴期間内にプリ・エンフォースメント訴訟を提起していない場合におい て、一体いかなる争点が執行段階その他の手続上における司法審査の対象となりう るのかという命題について、手続・実体二分論という違法事由を基準とする萌芽が ここにみてとれる。さらにこの区別は次の判例により、現在でも有効なガイドライ ンとして示される。
(h)National Labor Relations Board Union判決82)(以下、NLRB Union判決という。)
本件では、原告である連邦労働関係局組合が連邦労働関係局(以下、FLRAという。)
により1980年に制定された2つの規則に対して求めた修正申請が拒否されたため、
連邦部局労使関係法7123条(a)83)に基づき右拒否決定を争った事案である。雇用者 としての連邦部局は、労働組合等に対して労働条件に関する誠実交渉義務を負い、
右義務違反は不当労働行為としてFRLAによる審判手続下の救済措置対象となる。
1980年規則は、労働条件の改善提案が各連邦部局の管理権や連邦法その他に抵触す ることを理由として連邦部局が誠実に交渉を拒否する場合には、FLRAによる不当
59 労働行為への救済措置対象から労働組合が右交渉拒否を交渉義務違反として訴える
ことを除外する旨を規定するものであるが、原告は同規定が労働者の権利を不当に 侵害するものであって、FLRAにはこのような規則を制定する権限はないと主張し て争った。FLRAは、7年前に公布された1980年規則を争うものであって、連邦公務 員労使関係法7123条(a)に定める出訴期間60日の経過によって当該連邦巡回区裁判 所の事物管轄権は失われていると主張する。
本件でコロンビア特別区巡回裁判所が示したガイドラインとは次の通りであ る84)。
まず、出訴期間経過後に残されている訴訟ルートとして2つの方法を示す。第一 に、規則の適用後、原告適格を有する者であれば、行政機関による権限の逸脱を主 張することができる。一般には、執行手続上での防御の訴えの形もあろう。第二に、
行政機関に対して規則の改正または廃止を求め、これに対する行政機関の判断につ いて訴えを提起する方法がある。
次に、両訴訟ルートにおいて主張が予想される違法事由とその審査対象性につい て3つの類型に区別して説明する。
(1)手続的瑕疵の訴えは一般に、制定法に出訴期間制限がある場合には、その期 限内に提起されなければならない。例えば、行政機関が規則制定手続において利害 関係人に意見提出の機会を不合理に認めなかったといった手続的瑕疵は、制定法規 定の出訴期間経過後に司法審査の対象となることは認められない。
(2) 規則制定権の欠如の訴えを除く実体的瑕疵の訴えは、執行手続上において、
あるいは個々の規則の改廃を求める規則制定手続の申立てに対する審査において主 張され得るものといえる。後者の具体的手続としては、まず行政機関に対して規則 の改廃を請求し、行政機関が右請求を拒否するならば、その拒否決定を争うことと なる。但し、規則の改正あるいは廃止の請求拒否の定義は、狭義に限定され、その 実態が元々の規則の公布自体を争うものである場合にまで拡大されない。また、新 たな規則制定の請求に対する拒否決定ついての審査は、厳格に制限される。
(3) 規則が授権法に抵触している、つまり規則制定権の欠如を理由とする訴え は、執行手続及びその他の手続上において主張することができる。 .
判決は本訴を(3)に該当するものとして、本案審理に入っている。
その後の判例は、(h) NLRB Union判決によるガイドラインに則った判決結果を みせる。
(i)JEM Broadcasting Co.判決85)
本件では、FM放送局である原告が新規FM局開設のために免許申請をしたとこ ろ、申請書類の内容に不備があることを理由として連邦通信委員会(以下、FCCと いう。)が下した不許可処分が争われた事案である。右不許可処分は、免許申請に おいて申請内容に不備がある場合、申請者に修正の機会を与えずして拒否処分をな
60
す手続を定めたFCC規則に基づいて出されたものであるが、原告は、当該規則は適 切な告知と意見提出手続を欠いた違法なものであり、原告はその適用を受けるもの ではないと主張した。FCC規則の違法性を争う訴えは、本来、ホッブス法2344条の 規定に従いその公布から60日以内になされねばなない。
判決は、まず期間制限はその適用において柔軟性を欠く原則ではないと断った上 で、(h) NLRB Union判決を引用し、(1)主張される争点が実体的瑕疵か手続的瑕 疵か、(2)訴えが、規則の改正・廃止の申請を介して直接提起されたものか、あ るいは執行手続上での抗弁として間接的に提起されたものかのいずれかに該当する か否か、の順に検討するとした。そして、本件はFCC規則の手続的瑕疵を争うもの であるから、出訴期間経過後の段階において審査対象とはならないとして訴えを却 下した86)。
(j)Graceba Total Communications, Inc.判決87)(以下、Graceba判決という。)
本件では、オークション方式によるインタラクティブビデオデータサービスの免 許申請において、人種的マイノリティー及び女性を事業主とする民間事業者に対し て免許のいわば購入価格となる申出金額の25%を免除することを規定したFCC規則 が問題となった。FCC規則が示す人種並びに性別を理由とした区別は違憲であり、
またオークション方式によって免許落札の申出金額が人為的に高騰させられている と主張して通信事業者である原告が申し立てた同規則の改正請求に対する棄却決定 が争われている。FCCは、棄却理由として、FCCによる命令その他の行為への再考 慮の請求は連邦通信法405条88)により当該行為がなされてから30日以内にFCCへ申 立てなければならないと規定されていることを挙げる。
コロンビア特別区巡回裁判所は、「『行政規則は、常時適用作用が行われるもので あるので』、規則への審査請求を規則制定手続直後の期間に制限することは、『最終 的に規則により影響を受ける多くの当事者に対して、実際上、規則の有効性を争う 機会を否定することになるだろう。』よって、たとえ最初の規則制定後から起算し た審査期間が満了している場合であっても、行政機関による公布済みの規則の適用 や再考慮に対する違憲・違法の訴えは認められる。」89)と述べて制定法規定の出訴 期間経過後にラジオ音楽放送免許に関するFCC規則の実体的瑕疵を争うことを認め たFunctional Music, Inc.判決90)を引用し、本件への事物管轄権を認めて本案審理に 入った。
(k)Independent Community Bankers of America判決91)(以下、ICBA判決という。)
本件は、連邦準備制度理事会がトラベラーズ・グループによる持ち株会社申請に 対して出した承認決定を、5300行から成る地方銀行の連合団体である原告ICBAが 争った事案である。原告は、右承認決定における理事会のグラス・スティーガル 法20条92)の解釈が緩やか過ぎるとして承認に条件の追加を主張するものであるが、
そのなかで同条に基づく唯一の制限が示された規則が問題となった。右規則によれ
61 ば、新たに設立されるシティ・グループの系列会社の総収入の内、証券取引資格の
ない銀行から得ることが許されるのは25%を上限とすることとなる。原告は、この
25%規則を制定法の定める出訴期間である30日の内に争うことができたが93)、この
機会を利用しなかった。
判決は、グラス・スティーガル法20条の下では総収入への制限として比例限度を 定めるだけでなく容量制限を加えるべきであるとの原告の訴えを、25%規則の適用 に係る規則の実体的瑕疵の主張に当たるものと判示し、本案審理に入った。その理 由付けとして、これまで本裁判所が示してきた解釈に言及して次のようにまとめて いる。
「異議申立人は、たとえ告知を受けて直接、制定法の規定する期間内に規則を争 う機会を与えられていたとしても、規則の適用時において、行政機関に当該規則の 制定権限がないとの主張を含む規則の実体的瑕疵の訴えをすることができる」が、
反対に「規則の制定に対する手続的瑕疵の訴えは、適用段階においては禁止され る」94)。
さらには、連邦規模あるいは産業規模での迅速な規則の遵守が達成されなければ ならないといったやむにやまれぬ必要性が認められない限り、議会は制定法上の規 則制定権に関する異議申立てを禁止するものではなく、本件のように、明示的な禁 止規定がないことは議会が通常申立ての審査を認めていることを示すものであると して、本案審理を行った95)。
コロンビア特別区巡回裁判所は、(g)NRDCⅠ判決さらには(h)NLRB Union判 決を通じて、明示的な間接訴訟を排除する規定がない場合において、制定法上のプ リ・エンフォースメント訴訟規定の排他性を解釈するにあたり、出訴期間制限を付 した議会意図を踏まえて手続的瑕疵の訴えを排除する一方、適用段階において実体 的瑕疵の訴えを認める解釈を示した。
ただし、長年にわたり、同裁判所の手による判決文の中で、この実体的瑕疵の主 張を認めるという適用段階における出訴期間制限の例外的取扱いは、傍論で述べら れるに留まってきた96)。(j)Graceba判決は、そのなかで(h) NLRB Union判決の ガイドラインを傍論ではなく、正面から明確に適用した事例として評価できる。そ の後、現在ではNLRB Unionガイドラインに沿った解釈が多くの判決文本文の中で 示されるようになった。それは、コロンビア特別区巡回裁判所以外の連邦巡回区控 訴裁判所にも及び、同ガイドラインが広く解釈基準として確立したことを示すもの といえるだろう97)。具体例を挙げておく。
(l) Legal Environmental Assistance Foundation, Inc.判決98) (以下、LEAF判決という。) 本件は、EPAがSWDAの下で制定した規則が問題となった事案である。当該規則 は、合衆国内の各州が提出する汚染物質の地下圧入管理プログラム(以下、UICプ ログラムという。)の承認要件を定めるものである。環境保護団体である原告は、
62
EPAによる承認を受けたアラバマ州UICプログラムがメタンガスを発生させ、結果 として水質を悪化させるおそれのある「水圧破砕」を規制対象としていない点を取 り上げて、SWDAにおいて地中にある井戸等の水源を汚染する可能性をもつものと して規制対象とされる「(汚染物質の)地下圧入」の定義には「水圧破砕」が含ま れるべきであり、これを除外する現EPA規則の解釈はその規則制定権を逸脱した違 法なものであると主張する。原告は「水圧破砕」を規制対象に含め、アラバマ州に 対する右承認を撤回する内容の新規則の制定を申立てたが、EPAが規則公布の請求 に対して棄却決定を出したため、原告が同棄却を45日以内に制定法に基づき争った のが本件である99)。
第11区巡回裁判所は、本訴は7年前に公布された現EPA規則を争うものであり、
制定法の定める45日の出訴期間を経過した現在にあっては、裁判所の事物管轄権は 失われているとの主張を退けた。(g)NRDCⅠ判決及び(h)NLRB Union判決に従 えば、「本件における原告の訴えは、実体的瑕疵の訴えを構成するもの」であり、「そ の本質においては、EPAがその規則制定権を逸脱していることを理由として」EPA が当該規則に依拠することを改めるよう求めるものである。「当該EPA規則が授権 法に反した無効なものであるとの原告の主張に対しては、制定法が定める出訴期間 経過後の訴えであることと無関係に、本裁判所は事物管轄権を有する」と判示す る100)。
このように、個別法によるプリ・エンフォースメント訴訟が登場後、新たに発生 した排他性の問題への対処を各裁判所が模索する中で、(h)NLRB Union判決は大 きな役割を果たした。その意義は次の2点にまとめられる。
まず出訴期間経過後に規則を争いうる途として、2つの方法を明示した。第1の 方法では、排他性が問題となる典型である規則の執行手続上で規制の相手方が当該 執行行為を争う場面において、規則自体が行政機関の規則制定権を逸脱したもので あるとの主張を抗弁としてなしうることが確認された。また第2の方法では、(g)
NRDCⅠ判決では「裏口手続」とも言われた、規則の改正あるいは廃止の申立てを 起こし、それに対する行政機関の判断について、プリ・エンフォースメント訴訟規定 を含む個別法上の司法審査規定を利用して争うことを認めた。このルートによって、
一般に規則の適用行為を争うには原告適格等が認められにくい、あるいは執行手続上 において当事者とはなりえない、行政機関が規則に基づきなす後続行為の直接の相 手方とはならない利害関係者が出訴期間経過後も規則を争う新たな途が開かれた。
次に、規則適用後の執行訴訟その他の手続上での審査に対する明示的な排除規定 がない場合、制定法による出訴期間制限付きのプリ・エンフォースメント訴訟規定 をもって、いかなる範囲に排他性が及ぶのか、その解釈基準としてその後現在まで 広く用いられるガイドラインを示した。
ただし、このガイドラインをもって解釈による排他性の問題がすべて解決される わけではない。