第2部 公共領域の構造
第4章 公共領域の分析パースペクティブ
本章では、これまでに論じた組織間関係論の議論を公共領域の構造(本論文では 構造には「過程」も含む)分析に導入するための議論を展開する。まず、公共領域 の特質を明らかにする。第2に、公共領域が行政組織を核とする議論であることか ら非営利組織における組織間関係の研究成果を援用することができることを示す。
第3にこれまでの公共的分野を中心とする組織間関係の文献をサーベイし、公共領 域を分析する示唆を得る。得られた示唆は、次の第 5章において公共領域を分析す るパースペクティブとして整理される。
第1節
公共領域の特質
本節では、公共領域の特質について、あげて論じておく。
第 1に、公共領域は行政組織を核にしている。一方、組織論の一分野を構成する 組織間関係論は、本来的には全ての組織共通の理論構築を目指している。このため、
公共領域に適するパースペクティブあるいは分析手法を選択し開発することが求め られる。特に、行政組織には、階層制(官僚制)、所掌事務の分掌構造などの作動様 式、政策立案および実施過程などに、企業組織とは異なった特徴を持つ。このよう な行政組織と、他組織や個人(住民)との間の関係を説明するには、工夫を要する。
第 2に、行政組織を核に位置づけるとしても、行政中心の分析にとどまるエゴセ ン ト リ ッ ク (egocentric) な 把 握 に 終 始 す る の で は 不 十 分 で あ り 、 多 様 な 組 織 と 行 為者が交錯し交渉を行うフィールドであることに配慮する必要がある。現実には、
種々の資源の制約のなかで、行政組織の外部環境との間で、物的資源、財務資源、
情報資源、ノウハウなど技術資源についてさまざまな交換関係が生じている。こう して行政組織と民間企業、行政組織と非営利組織、行政組織と住民、行政組織・住 民・企業等が複合的に関係するマルチ・セクター型の提携、さらにはネットワーク 組織など、種々の関係が分析対象に包摂される。
さらに、各組織の対境担当者はもちろんのこと、「中間組織」の役割が重要となる ことが多い。外部環境と交渉を持つ場合には審議会や委員会のような議事機関や、
一定の事項について審査を行う審査会が開催される54。行政からみて、外部環境に 位置する者の見解と判断を取り入れることで、判断の公平性や公正性を担保し、決 定にいたるプロセスの客観化や透明化を図ることが一般である。行政と特定少数の 民間企業との癒着を排除するといった目的もある。
第 3に、公共領域の分析には、国による自治体への法制度的な規制や、監督機能
54 例 えば、情報 公開審査会 、建設工事 の請負契約 を審査する 都道府県審 査会がある 。 56
を通じた制約といったパースペクティブを含む必要がある。国内では地方分権の進 展がみられ、2006年 12月に成立した地方分権改革推進法により、地方分権は「第 2ステージ」に入ったとされる。この法律は、いわゆる「骨太の方針 2006」に基づ いて関係法令の一括した見直しに向けた推進体制等を定める。しかしながら、国に よる関与は残っているといえ、国と自治体との関係が公共領域の形成・維持・変化 にとり大きな影響を持つことが予想される。
第 4に、公共領域は当然に存在するわけではない。特定の政策的課題の存在を前 提に、前述した多様な主体ないしアクターが、多様な利害関係を持って交渉をもつ ことで現れる。そこで、出現するメカニズムを明らかにする必要がでてくる。さら に、出現した公共領域が、発展していくメカニズムについても把握しなければなら ない。本論文ではこれらを、公共領域の形成と深化と意義づける。公共領域の形成 と深化の議論は、組織的な事象としての公共領域をどのようにマネジメントしてい くのか、という視点を提供するだろう。
第 5に、第 1章でも論じた公務員制度に対する不信がある。国民や住民から行政 システムへの不信を払拭し、民間企業や NPO などからの信頼をどのように形成し ていくかが重要である。そのためには、行政組織と関係する他組織や行為者との間 のフォーマル、インフォーマルのネットワーク構造の解明と、信頼形成の状況把握 が鍵となる。
第 6に、具体的に存在する問題解決を行う場面のみを説明するのではなく、組織 学習ないしは組織間学習の場面も射程に入れるべきである。さらに、必ずしも目的 が明確に定まっていないような、いわば組織学習あるいは組織間学習により、問題 自体を認知していく局面も射程に入れることが望ましい。成り立ちそのものがオー プンであるといわれる行政組織、特に自治体の組織では(田尾, 1990)、「創発的内 省」55 を包含する協働こそが求められる姿であるからである。
以上の 6点をふまえると、公共領域の分析には、前章で概観した組織間関係論と 隣接する諸学や諸理論を利用する際に、適切に射程を設定し注意深く援用すること が必要である。
なお、公共領域のアクターとしては、組織化されていない住民が含まれる。この ため「組織間」の関係をとりあげる組織間関係論を逸脱する。
この点、山倉は、地域住民を「ある地理的範囲によって画された空間に生活する 人々、あるいは人々の集合」とする(山倉, 1993, p.250)。したがって、現実の空 間 概念に限っており、公共領域が含む仮想空間については対象の枠外になっている。
おそらく山倉は、地域住民をひとつの「組織」として把握し、組織間関係論をその
55 創 発 的 内 省 と は 、「 他 者 の 目 を 通 じ て 客 観 的 に 自 己 の 内 側 を 振 り 返 る こ と に よ っ て 、 そこ に何か新し いものが生 み出される ことである 。『創 発的内 省』によっ て、自己が 新 しく 生まれ変わ ると同時に 、他者や社会 も変わるよ うになる 」(船 津(他 ), 2005, p.16)。
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まま適用しようとすることから、現実の空間概念に限定したものと推測される。ま た、企業と地域住民との関係を組織間関係と仮定した考察を行っており、例えば、
調整メカニズムの形成と維持のプロセスを明らかにする。住民リーダーの存在を前 提に、住民のまとまりについても、具体的で組織に近い存在であるとして分析を行 う(山倉, 1993, p.256-258)。
公共領域については、一定程度具体的な課題や目標設定を前提とするものの、地 域住民については、リーダーの存在を当然視することはしない。したがって、組織 化していない住民との関わりを一定程度考察対象としている点で山倉の考察とはや や異なっている。
そこで以下では、第1に、組織間関係論のうち公共領域に援用する議論の分野(第 2節)、第 2に、公共領域に援用可能な分析パースペクティブ(第 3節)について論 じていく。
58
第2節
組織間関係論と公共領域―援用理論
第1項 非営利組織研究―米国における豊富な研究蓄積と背景
組織論は、本来は企業、非営利組織、公共組織、住民組織などを通じた、一般的 な理論の構築を目指している。組織間関係論も組織論の有力な一分野である以上、
同様である。
しかしながら佐々木(2005)が指摘するように、組織間関係論自体にも、どの程 度、さまざまな組織の特殊性をとりあげるかという点については異なった考え方が ある。端的には、「組織間関係と企業間関係とがどのように違うのか」という問題提 起が行われる56。
これは、組織間関係には企業間の関係だけではなく、種々の事情により、企業と
NPO、企業と行政、企業と NPO と行政など、セクターを超えた関係が重視される
よ うに なった ため である 。同 一セク ター (例え ば、 企業―企 業 、NPO―NPO、 行 政
―行政など intra-sector)の協力関係から、異なるセクター(例えば、企業―NPO、
企業―行政など multi-sector あるいは cross-sector)の協力関係へと、関係が複雑 化していることを率直にとらえようとする。しかし、企業を中心に他のセクターと の関係をとらえるだけでは十分ではない。
米国の組織間関係の研究では、企業間の提携がとりあげられることが多いのはも ちろんである。一方で、非営利組織の組織間関係、特にヒューマン・サービス組織 の研究蓄積が豊富にある。ここでヒューマン・サービスとは、人が人に対して、い わば対人的に提供されるサービスである(田尾, 2001, p.6)。対人サービスともいわ れる。ヒューマン・サービス組織とは、その活動による無形の成果、つまり、サー ビスを外部の受け手、クライアントに向けて提供する組織である(田尾, 2001, p.10)。
ヒューマン・サービスは、医療、保健、福祉サービスを包括したサービスである。
また、ヒューマン・サービス組織とは、病院、カウンセリング機関、保健機関、福 祉機関などを指す。
米国でヒューマン・サービス組織について研究が行われてきたのは、地域でこれ らの組織が離合集散を活発に展開してきたためである。というのも、非営利組織内 部で、目標へ合理的に接近することを意識することから組織間関係を目的的にとら え、かつ組織間関係を操作するようになったことや、非営利組織をとりまく外部環 境が大きく変化し、非営利組織における戦略的な提携が増加したことが背景にある
(Bailey and Koney, 1996, 2000)。例えば、ヒューマン・サービス組織に資金を拠
56 佐 々木は、① 企業間関係 と組織間関 係とをほぼ 同義とみる 立場、②企 業間関係を 組 織間 関係に含ま れるとし、組織 間関係 の特殊な場 合が企業間 関係である とする立場、③ 企業 間関係と組 織間関係と を区分する 立場、があ るとする( 佐々木, 2005, p.31-32)。
59
出する側が、野放図なコミュニティ開発を問題視し、資金を出す際に運営体制を整 備するように求めることもみられるようになり、戦略的提携により役割分担するこ とが増加していった(Cutlip, 1965)。今日では、ケア・サービスに関連して、ヒュ ーマン・サービス組織がネットワークを創出してサービス供給を行うことも一般化 している(Arenault, 1998)。ロジャーズ=ウェッテン(Rogers and Whetten, 1982)
は、第1に米国でヒューマン・サービス組織の研究が理論的にも実証的にも蓄積さ れていること、第 2に連邦予算のうちヒューマン・サービス組織に対する予算の割 合が最も高いこと、第3にヒューマン・サービス組織の歴史的発展過程は 4段階に 区分でき、各段階で特徴的な組織間調整メカニズムがみられることから、米国ヒュ ーマン・サービス組織を組織間関係の研究対象とするにふさわしいとする。
第2項 非営利組織研究―日本での蓄積の少なさと偏り
一方、日本では、一部の例外を除いてヒューマン・サービス組織やボランタリー 組織の組織間関係についての議論が手薄である。
たとえば、国内の非営利組織研究については、営利組織との対比で非営利組織の 特徴をとらえ、非営利組織特有のミッションについて論じ、その後に組織管理につ いて論じたものがある(島田, 2003)。また、ヒューマン・サービス組織について直 接論じたものは少ないが、ヒューマン・サービスが人と人との関係により成り立つ ことに着目し、社会心理学、とくに対人関係の心理学にたって、心理構造、マネジ メント・コントロール、コミュニティとの関係、ヒューマン・サービスの評価、サ ービス革新について論じた研究がある(田尾, 2001)。いずれも、組織間関係から論 じたものではない。
概括すれば、組織間関係については、前提にする組織形態、関係形態、主要テー マ、分析に用いるデータの種類が異なっていることをあまり意識しておらず、営利 組織としての企業間の関係が重視されすぎていることや、営利組織間の関係と非営 利組織間の関係の相違を意識しないで議論されることで生じる「意図せざる結果」
へ十分に配慮されていない(佐々木, 2005, p.35)。
国内において非営利組織に比較的近い議論としては、昨今実務的にも注目されて い るPPP(Public-Private-Partnership) や 公 民 連 携 に つ い て の 整 理 が あ る 。 行 政 組織をひとつの核に、民間企業との関係を捉える文献は多い(なお、PPPについて の研究動向については第 7章を参照)。しかしながら、それらのほとんどはNPM論 の 一部あ るい は、NPM論 の欠 点を 克服し つつ 発展さ せた ものと 位置 づける こと も、
あながち不当ではなかろう。政治的プロパガンダである「官から民へ」というドグ マを前提に、どのように官すなわち行政で行っていた「非効率的な」行政サービス の提供を効率的にするかが基本的な実務の視点である。実務マニュアルに近い文献
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も多数ある(例えば、出井編著, 2006)57。
以上に対して、本論文がとりあげようとしている、PPPや公民連携の構造と過程 そのものを率直にとらえたものは蓄積に乏しい。
第3項 公共領域を分析するための理論―非営利組織の組織間関係論の導入
公共領域は、行政を中心とする組織間関係を主に議論する。地方債市場のように 金融機関など民間企業も利潤動機を抱えて関係する領域であるものの、基本的には 政策的課題解決のために組織間関係ないしは組織と個人あるいは住民の関係が形成 される。その結果、組織間構造(ないしは組織―個人間構造)、資源交換、パワーの 行使、コミュニケーション、協同行動、ならびに、価値共有が現れる。
より分析的にみると、以下の点で、公共領域は非営利組織の組織間関係に「類似」
する。
①公共領域は、一定の政策的課題解決を主要な目的とすること、
②公共領域は垂直的なネットワークというよりも水平的なネットワークに近いと 想定されること、
③公共領域におけるコミュニケーション構造と意思決定過程が複雑であること、
である。以下敷衍する。
①については、組織のミッション(使命)の位置づけにかかわる。非営利組織の 存立基盤は、営利と結びつかない、組織の何らかのミッションを達成することにあ る。行政組織を核とする公共領域についても、何らかのミッションがあり、ミッシ ョンを具体化したビジョンあるいは目標がある点で、類似する。
もっとも、市場原理あるいは競争原理が働く場面で、公共的なミッションや政策 的課題の解決といったものが、民間企業側にとって、どれほどの意味を持ちうるの かは、議論の余地がある。
ここでは以下のように地方債制度ないしは地方債市場の場合をあげて、民間企業 側が公共的なミッションないし目標に向けて行動するか考察する。地方債制度ない しは地方債市場が維持されるには、一定の取引慣習や規律、参加者の自制を前提に、
金融機関が取引関係に入らなければならない。ある金融機関が、極端に安い手数料
57 な お、効率性 については、現 在ではNPM論の文 脈で語られ ることが多 い。しかし な がら、組 織間関 係論が成立 した当時は 異なってお り、行政管 理論的な視 座から議論 され てい た。ヒュー マン・サー ビスを提供 する組織の 集合体を「 コミュニテ ィ」とし、水平 的な 連結形態で あると考え られた。そのう えで、コミ ュニテ ィ内部で適 切な調整を 行っ て効 率的にサー ビス提供を 行うための 方策につい て検討され ていた(Whetten, 1981;
佐々 木, 2005, p.33)。非営利 ヒューマン・サービス 組織である ことと、効率的サービ ス
供給の 2点が当 初の議論の 主眼であっ たわけであ る。NPM論では、前者 が行政組織 中 心の 議論となっ ている。
61
で、自治体が発行する地方債を引き受けるような場合、あるいは、発行団体が流通 市場での実勢利回りを無視した極端に安い利率で起債したような場合(例:同年限 の国債よりも安い利率での起債)、いずれも、結果的に市場は不安定になるか、機能 不全に陥る。そこで、引受等に関与する金融機関については適切な利潤を得つつ、
かつ、発行団体については適切な起債コストで発行できるように、地方債制度ない し地方債市場を維持しようとする。その結果、自治体の市場からの資金調達が円滑 に行われることを目指すというかたちで、金融機関は、消極的ではあるが公共的な 目標を有している、あるいは、発行団体との間で価値の共有を行っているといって いいのではなかろうか。
②については、公共領域の構造にかかわる58。
非営利組織の代表的な例であるヒューマン・サービス組織を例に議論する。田尾
(2001)は、コミュニティそのものを、ヒューマン・サービス提供のための大規模 な 組 織 と し て 把 握 し よ う と す る59。 す な わ ち 、 コ ミ ュ ニ テ ィ を 、「 サ ブ 組 織 」 の 間 で依存性と自律性とを内包する複雑なネットワークと考える。コミュニティのサブ 組織とは、前述したヒューマン・サービス組織のほか、行政組織や住民組織を含ん でおり、これらがなんらかの協同関係をとることで、特定の目的を達成することを 目指す。
田尾によれば、コミュニティにおける組織間関係には、資源を独占的に所有し支 配する組織、すなわちコア組織が存在していない。「必要なサービス資源が広く多重 に地域社会に偏在して、互いが相互依存関係にあること」(田尾, 2001)がコミュニ ティの特徴であり、この特徴によってコミュニティは成果を得る。コア組織が存在 していなくて、個々のヒューマン・サービス組織の資源が偏在する場合、目的達成 のためには、組織間でどのように協同を進めるか検討することが大きな課題となる。
田尾の議論にしたがう限り、ヒューマン・サービス組織においては組織間構造が水 平的なネットワーク構造になる。
ただ、この議論を類推し、公共領域が水平ネットワーク構造と想定できるかは検 討の余地があるだろう。
まず、ガバナンス・レジームにおいては、行政、住民、企業などの利害関係者が
「協働」することが規範的に要請されており、そこではネットワーク型に近い組織 がイメージされている。組織間関係論に立った場合、組織間の実態に即した議論を する必要がある。
58 た だし、公共 領域が水平 的ネットワ ーク関係に あるのかど うかについ ては、構造 分 析の 後に結論づ けられるも のであり 、現段階では 仮説的な議 論にすぎな い点に留意 を要 する 。
59 田 尾のいう「 コミュニテ ィ」は、地 方自治など 、行政学等 で用いられ る、地域住 民 から なる相互扶 助的な組織 である「コ ミュニティ 」とは異な っている。
62
フェファー=サランシック(Pfeffer and Salancik, 1978)の資源依存パースペク ティブからすれば、資源のやりとりに相互依存がみられる場合、資源のばらつきが 均一でない限り、一部の組織に資源が偏る。そこでパワー関係が生じることとなり、
コア組織とまではいえないまでも、ある程度有力な組織が発生せざるをえないだろ う。このため田尾の議論は、やや規範的なものと考えられなくはない。特に公共領 域では行政組織を核とする。行政組織が財政資源を中心に、領域内部のアクターの なかで、量的に充足しているかはともかく、徴税権や国からの地方交付税や国庫支 出金といった税財政資源を相対的に安定的に持つことから、パワーを持っている(詳 しくは後に分析される)。また、行政サービスの供給は、法律や政令、およびこれら に基づいて制定された条例に基づいて供給されるものが多い。このため、民間企業 とのパートナーシップといっても、政策立案過程でかなりの部分が行政の手により 決められ、実施部分を共同していく、ということも多いだろう。たとえばアウトソ ーシングはこのような場合に相当しよう。アウトソーシングの場合、ある種の階層 組織(企画組織―実施組織)と考える方が実態に沿っており、垂直的な組織間形態 に近いこととなろう。
一方、行政組織全体あるいは、ある政策分野において、確保できる金銭的資源で ある税財源が減少してくると、資源依存関係は変化してくる。従来と同様の行政サ ービスを提供する場合には、当然ながら外部の金銭的資源に依存せざるをえない(例 えば、増税、起債の増加、利用料・手数料の新規設定や値上げ)。さらに、行政組織 が環境問題に対処する場合、新しい技術を導入するための知的資源や、リサイクル 事業を行うために住民の協力を得て廃棄物を回収するなどの物的資源の面で、利害 関係者の諸資源にいっそう依存するようになる。金銭的資源に加え、知的資源や物 的資源についても外部の資源に依存せざるをえなくなる。この場合には、パワー関 係は単純な大小ではなく、組織間構造も複合的となろう。少なくとも階層制の組織 間形態よりも、共同する各組織ないし個人(住民)が水平的に結びつくネットワー ク型に近い形態になると思われる。
以上のような、行政組織をとりまくマクロ的な環境変化に鑑みると、規範的にも、
また、実態的にも、公共領域の組織間構造は、垂直的形態を残しつつも、水平的な ネットワーク型の形態に接近しつつある、ということができるであろう。
③については、公共領域の過程にかかわる。
典型的な非営利組織、特にヒューマン・サービス組織では、意思決定過程でコン センサスが形成されることを重んじることが多い。目標を達成するにあたって、構 成する組織間の価値共有を前提にしているからである。このため意思決定には時間 と手間がかかり、意思決定のプロセスは複雑である60。
60 た とえば、米 国のヒュー マン・サー ビス組織の なかには、 戦略提携( ネットワー ク 63
一方、公共領域には多様な目的あるいは目標が存在する。それぞれの目的あるい は目標ごとにアクターが変化し、組織間構造も変化する。このため、意思決定過程 におけるコミュニケーションも多様なルートを辿ることとなり紐帯は複雑化する。
そこで、公共領域と非営利組織の組織過程は類似してくることとなろう。
以上をふまえると、公共領域の構造と過程を論じるにあたっては、非営利組織に おける組織間関係の議論を軸に、企業間の組織間関係を加味しつつ、考察を進める ことが適当と考えられる。そこで、非営利組織や行政を中心とするパートナーシッ プや組織間関係に関する外国文献を主に渉猟することで、理論的な整理を行うこと としたい。
形態 )により共 同活動に入 る場合に 、組織の規模 等に関係な く、議決権 については 一票 ずつ 与える事例 がみられる。こ の事例 の場合には、保 有する 資源の多寡 によるパワ ーが 組織 間関係の支 配的原理と なるのでは なく、組織 的な価値の 共有に重点 が置かれる(例 えば 、Bailey and Koney, 2000, p.121)。
64
第3節
公共領域の分析視座―先行研究のサーベイと整理
第1項 公共領域の構造分析の観点
本節では、公共領域の分析視座を得る前提作業として先行研究のサーベイを行い つつ議論を整理する。
まず、公共領域の組織過程を分析するにあたってどのような側面に注目すればよ いだろうか。
組織間関係論の協働的な提携(collaborative alliances)についてのレビュー文献 として参照されることの多い、グレイ=ウッド(Gray and Wood, 1991)およびグ レイ(Gray, 1989)を基点とする。前者は、協働的提携について特集した Journal of
Applied Behavioral Science誌の冒頭におかれた論文であり、9つのケーススタデ
ィの論文を要約するとともに、学説状況について体系的な整理を行ったものである。
内容は大きくは 2点である。
第1に、分析対象である。グレイ=ウッドは協働および協働的提携に着目する61。 グ レ イ に よ る と 、 協 働 (collaboration) と は 、「 あ る 問 題 の も つ 異 な っ た 側 面 を 認 める複数の集団が、これらの局面の相違を建設的に考察することが可能なプロセス であり、かつ、何が可能かということについて、個々の限られた見方を超える解決 策 を 探 す こ と 」 で あ る (Gray, 1989, p5)62。 協 働 の 定 義 を 受 け て 、 協 働 的 提 携
(collaborative alliances)を、「複雑かつ多大な時間を要するために、一面的な組 織行動によっては解決することができない問題を処理するための組織間の努力」と して規定する。
グレイ =ウッドは 、これらの 定義および 規定から、 協働とは「 過程(process)」
に関わり、協働的提携は「形態(forms)」であるとする。形態の内容は必ずしも明 らかにされていない。さらに子細に協働および協働的提携の定義をみると、①何ら かの問題が生じていること、②問題の解決を目指すこと、③多様な背景を有する当 事者の関与を前提とすること、も含まれている。一方、グレイ=ウッドは、個々の 組 織 か ら 、 特 定 の 問 題 に 結 び つ い た 組 織 の 形 態 (Emery and Trist, 1965; Trist,
61 な お、提携に ついては 、戦略的提携(strategic alliances)として分析 するのが一 般 であ る。例えば 、ベイリー =コーニー は、「 戦略的 提携とは、 複数の組織 体の関係で あ り、かつ、これ らのパート ナーシップ が個人ある いは組織間 に生じるか どうかにか かわ らず 、個々の戦 略的提携は 、提携戦略 と提携関係 の形態という2 つの要 素により定 義づ けら れる」とす る(Bailey and Koney, 2000, p.3)。前者の提携 戦略につい ては、ひと つひ とつの集団 が、組織間 関係に入る ことで達成 をめざすも の、および 、その集団 が目 的に到達する手段に関係する。後者の提携形態については、 組織間関係 が創り出さ れ、
維持 されるであ ろう手段に 関係する。
62 グ レイのいう 「協働」は 、第2 章で 定義した、 本論文での 「協働」概 念よりも若 干 広い ものの、ほ ぼ同じと考 えてよい。
65
1983)としてのドメイン、すなわち組織間レベルを基礎に組織化の局面を分析する ように主張している。そこで、グレイ=ウッドのいう「形態(forms)」とは、単な る協働のパターン(様式)というよりも63、問題解決に向け当事者が行動する状況 も含む、「構造」として理解される。結局、本論文の第 2 部であつかおうとする、
過程を含んだ構造分析に重なるということになろう。
第 2 に、分析手法である。グレイ=ウッドによれば、1990 年 代初頭までの協働 的提携についての研究はケーススタディに依拠したものが大半である。ケーススタ ディの果たした貢献は、提携の背景と必要性の確認、提携構築の段階あるいは経緯 の解明、イノベーションの促進や問題解決に至るパートナーシップの成功要素等の 確認、であったとする。
そ の う えで 、 ケ ー スス タ デ ィ では 、 ① 提 携に 至 る 「 前提 条 件 (precondition)」、
例えば動機(motivations)や環境的な刺激因(environmental stimulants)、②目 的達成のために相互交渉を行う「プロセス(processes)」、③「成果(outcomes)」
の3点について今後さらなる理論化を図ることが重要であることを確認した。分析 対象で論じた点も加味すれば、④構造分析を伴うこと、といった観点も付加すべき であろう。
グレイ=ウッドの考察は、営利組織を前提としているものとする文献もあるもの の64、公共領域の組織過程を把握しようとする本論文のテーマから、同様の項目を 考察対象として設定することに問題はないと思われる。
そこで次に、公共領域の構造と過程にかかわる文献を抽出し、グレイらの考察と の関係に留意しつつ、類型化する。
第2項 公共領域の構造・過程に関する文献レビュー
公共領域の構造と過程の分析に関連する文献数は多い。そこで、グレイ=ウッド 以降の理論動向に十分注意しつつ、もっぱら 2000 年 以降に公刊された組織間関係 に 関 す る 英 語 文 献 を サ ー ベ イ す る 。 書 籍 に 加 え 、 行 政 関 係 の 専 門 誌 と し てPublic Administration Reviewの ほ か 、 非 営 利 組 織 の も の と し てNonprofit & Voluntary
63 パ ターンとは 、例えば、PFIで 、行 政と、建設 会社A、運 営会社Bおよび銀行Cから なる 企業グルー プとが、事業契約を結 ぶといった ことを示す 。一方、構造とは、このよ うな パターンの 把握に加え て、組織の 結びつきで ある紐帯 、資源交換の 状況、行為 者の 行動 などを含む 。
64 Bailey and Koney(2000, p.17-18)。しかしながら 、グレイ= ウッドの論 文を読む 限 り、営利 組織を 念頭に整理 するとの記 述は必ずし もみられな い。本文中 の組織に該 当す る部 分の論述も 企業組織で はなく、よ り一般的に”organizations”と され ているほか 、 協働 的提携の例 のなかに、public-private partnership(PPP) の例 もあげ られている
(Gray and Wood, 1991, p.4)。 た だ 、 ベ イ リ ー = コ ー ニ ー が 指 摘 す る よ う に (p.17)、
研究 蓄積等に鑑 みれば、かなりの部分 について営 利組織を念 頭において いると読め ない こと はないであ ろう。
66
Sector Quarterly、公共組織ならびにヒューマン・サービス組織についての専門 誌 であるAdministration & Societyを中心に検索した65。理論的整理を行ううえで重 要な、引用数の多い文献については、企業の研究や 2000 年より以前のものについ ても含んでいる。
抽出した代表的文献は、以下のように5つに類型化することができる。
第 1類型としては、分析パースペクティブの体系化に関する研究群である(Gray and Wood, 1991; Galaskiewicz and Bielefeld, 1998; Raitan, 1998; Guo and Acar, 2005; Selsky and Parker, 2005)。
第 2類型としては、個々のパースペクティブにもとづいた分析群である。支配的 パースペクティブとしての資源依存パースペクティブの修正については、たとえば カスキアロ=ピスコルスキ(Casciaro and Piskorski, 2005)がある66。また、ネ ットワーク・パースペクティブ(とくに社会ネットワーク分析や信頼理論)をベー ス と し た 研 究 が 多 い (Snavely and Tracy, 2002; Meier and O’Toole Jr., 2005;
Provan et al., 2005; Choi and Brower, 2006; Edelenbos and Klijn, 2007)。一方、
ネ ッ ト ワ ー ク ・ パ ー ス ペ ク テ ィ ブ に 対 す る ア ン チ テ ー ゼ と し て の 研 究 も あ る
(Stevenson and Greenberg, 2000; Thacher, 2004)。制度化パースペクティブにつ いては、古くはセルズニック(Selznick, 1957=1963)までさかのぼるが、近時はス コットが有力である(Scott, 1994a, 1994b, 1995)。
第 3類型としては、協働のパターンを類型化した研究群である(Waddock, 1991;
Sinclair and Galaskiewicz, 1997; Austin, 2000; Bailey and Koney, 2000)。
第 4類型としては、協働プロセスや動態(ダイナミクス)について分析した研究 群である(Westley and Vrendenburg, 1991; Lober, 1997; Clarke and Roome, 1999;
Klijn,2001; Hall and O’Toole Jr., 2004; Cho and Gillespie, 2006)。
第 5類型としては、協働ないしはネットワークが業績に及ぼす影響を分析した研 究群である(Jennings Jr. and Edward, 1998; Ospina and Yoroni, 2003; O’Toole Jr.
and Meier, 2004; Wever et al., 2005; Selden et al., 2006)。
これらの類型は、前述したグレイ=ウッド(Gray and Wood, 1991)により、ケ ーススタディをつうじた理論化が求められるとされた、①前提条件、②プロセス、
③成果、および、④構造分析、のいずれかと関係をもっている67。
65 検 索には「早 稲田大学電 子ジャーナ ル」を利用 した。キー ワードとし ては、
“interorganizational relations”、“alliance(s)”、“coordination”や“public private
partnership” 等 を入れた。ま た、本文中 に記載のあ る論文集に ついては 2000年以降 に
つい て、目次とabstractによ り内容を確 認しながら、公 共領域 と関連のあ るものを抽 出 した 。
66 資 源依存パー スペクティ ブについて は、さまざ まな事例の 分析に利用 された後、 近 時は 限界も指摘 されるよう になってい る。ただ、依然 として 組織間関係 の現象への 説明 力が 高いと認識 されている ことから、 修正してい こうとする 研究が出て きている。
67 若 干説明を加 えると、第1 項で論じ たように、 前提条件に ついては、 協働や提携 に 67
本論文では、公共領域の組織過程の分析を目的としており、分析対象は構造とマ ネジメントである。第2部では構造(ただし過程を含む)分析を行おうとする。構 造分析の視座を得、そして、構造把握と過程分析をおこなおうとする観点から、以 下では文献類型のなかで、第1類型(→第 3項)、第 2類型(→第 4項)、第 4類型
(→第 5項)の研究群をとりあげ、検討していくこととしたい。
第3項 分析パースペクティブの体系化と新しいアプローチ
(1)体系的整理-グレイ=ウッドならびにレイタン の試み
第 1の分析パースペクティブに関する研究群は、パースペクティブについて整理 や統合を行って体系化しようとする類型である。第 3章で論じた組織間関係論のパ ースペクティブよりも、多様なディシプリンとの接点を考察する論文がみられるの が特徴である。
前述のグレイ=ウッド(Gray and Wood, 1991)は、協働(collaboration)と協 働的提携(collaborative alliances)を説明する理論的パースペクティブとして、① 資源依存的視点、②企業社会業績理論(corporate social performance theory)/
制度派経済学的視点、③戦略マネジメント理論/社会生態学的視点、④ミクロ経済 学 的 視 点 、 ⑤ 制 度 化 パ ー ス ペ ク テ ィ ブ (institutional theory) / 交 渉 秩 序 理 論
(negotiated order theory)的視点、⑥政治学(political theory) 的視点、の6種 類をあげる。②と④の経済学的パースペクティブを除けば、本論文での射程は①③
⑤⑥に絞られる。
このうち、③戦略マネジメント理論については、競争的優位を獲得するために、
焦点組織がとる独立した一連の行動を描写する。⑥政治学的視点については、もと もと政治学は、国家・地方制度、政策形成・決定・執行制度や過程、政治行動・政 治文化、利益集団や政党などの政治組織、権力とそれをめぐる争い(政治過程、政 治体制、リーダーシップ、政治運動、権力関係の分析)など広範な内容を含む(加 茂, 2003, p.10)。グレイ=ウッドは、これらのうち協働と協働的提携との関係では、
政策形成・決定・執行制度や過程、ならびに、政治過程や権力関係の分析に相当す る、アクターの利益とコンフリクトに焦点を当てるとする。その意味で、公共政策 学でいう政策過程論や政策アクター論に近いところが組織間関係論との接点である 至る 動機や環境 要因などを 含んでおり 、「な ぜ組織 間関係に入 るのか」と いうことに 密 接に 関係する 。そこで、例えば、資源 依存パース ペクティブ のような組 織間関係の 分析 パー スペクティ ブと関係が 深い。構造 分析につい ては、社会 ネットワー ク分析に端 的に みら れるように、組 織ない し行為者間 の関係の構 造特性を明 らかにした り、構造特 性が 当事 者間の信頼 にどのよう な影響を及 ぼすか、とい ったことを 分析したり する。そこで 、 構造 分析も分析 パースペク ティブと関 係が深いこ とになる。
68
( 公 共 政 策 学 の 意 義 や 主 要 な 内 容 に つ い て は 、 足 立 ・ 森 脇 編 (2003) に 詳 し い )。
以上から、本論文との関係においては、③および⑥を独立したパースペクティブと はしないで、焦点組織の行動や、組織過程のマネジメント(第3部)を考察する際 に参照することにしたい。
そこで以下①と⑤につきコメントする。
グレイ=ウッドは、前述のように、協働的提携の前提条件、プロセスならびに成 果の理論化を強調しており、①資源依存パースペクティブについては前提条件ない し提携動機の説明力は高いものの、プロセスを説明できないとする。さらに、個々 の組織のレベルだけでなく、ドメイン・レベル、すなわち組織「間」のレベルを説 明することが重要であるとするが、資源依存パースペクティブはここでも個々の組 織レベルの分析に限られ、ドメイン・レベルの分析には必ずしも耐えないとする68。 一方で、⑤制度化パースペクティブについては、協働プロセスと、利害関係者お よび環境との間の継続的な関係の解明に主要な関心がある。結局、どの理論も、あ る局面ではきわめて有意義であることを認めつつ、単独の理論では協働の一般理論、
すなわち、前提条件、プロセスならびに成果を包括的に説明する、適切な基礎を提 供していないと結論づける。
レイタン(Raitan, 1998)は、非営利組織、なかでもヒューマン・サービス組織 を対象にとりあげている。個人、グループ、組織内部、社会的アプローチへと、分 析対象を順次広げて整理を行い、①顧客ニーズ・パースペクティブ、②専門的職業 パースペクティブ、③リーダーシップと組織学習、④経済的組織理論―取引コスト 理論とプリンシパル・エージェント理論、⑤資源依存パースペクティブ、⑥ガバナ ンス・パースペクティブ、⑦制度化パースペクティブ、⑧知識社会学とマルキスト・
パースペクティブ、⑨ポストモダニズム、の9つのパースペクティブをあげる。実 務家と研究者の双方にとって意味のあるアプローチを提示することに加えて、各パ ースペクティブの長所と短所について論じている。もっとも、パースペクティブの 統合(integration)の必要性は認めつつ、一つの組織間関係論に絞ることはしてい ない69。以下の考察では、経済学理論である④、組織理論や組織間関係と直接の関 係を問うものではなく哲学的ないし科学的思考そのものを問う⑧70、マックス・ウ ェーバー以来の組織のとらえ方自体を根本的に否定する⑨71、を除く。また、③に
68 例 えば 、「利害 関係者が協 働的提携を 採用する環 境とは何か ?」「 資源交 換からもた らされる相互依存のパターンとは何か?」といったリサーチクエスチョ ンがドメイ ン・
レベ ルであると する(Gray and Wood, 1991, p.7)。
69 そ の意味で本 論文は、ミ クロ・レベ ルからマク ロ・レベル まで、ヒュ ーマン・サ ー ビス の組織間関 係論を学際 的に配列し 、分析上の メリットと デメリット をあげたに すぎ ない 、とも評し うるだろう 。
70 知 識社会学で は、思想な いし知識と 社会構造と の関係が必 然ではなく 、多様な歴 史 的文 化的コンテ クストの産 物であると 仮定する。
71 ポ ストモダニ ズムでは、 計画された 合理性、安 定性、コン トロール、 規律および 予 69
ついては、組織過程そのものを問うものではないことからここではとりあげない。
そこで、①顧客ニーズ・パースペクティブ、②専門的職業パースペクティブ、⑤資 源依存パースペクティブ、⑥ガバナンス・パースペクティブ、および、⑦制度化パ ースペクティブをとりあげ議論する。
①の顧客ニーズ・パースペクティブでは、ヒューマン・サービスを顧客の視点よ りとらえ、顧客ニーズを充足するには、組織単体ではなく、システムとしてとらえ る必要があることを前提に置く(Moor and Kelly, 1996)。ただ、このパースペクテ ィブには問題が多い(以下、Raitan, 1998, p.289)。顧客の求めるものにいかに 応 えるかということが目的であり、組織間関係から生じる政治性を捨象してしまう。
また、顧客のニーズが組織間行動を規定してしまうという点で決定論的色彩が強す ぎるとの批判がある。特に、顧客と組織間に生じる潜在的コンフリクトも等閑視し ている点は、顧客と、ヒューマン・サービス組織のメンバーの利害が一致している という前提に立っており、実体にそぐわない。
一方、顧客ニーズ・パースペクティブは、住民ニーズに応えるために組織間関係 を形成するという点で、公共領域と問題意識を共有する。本論文では、パースペク ティブとはしないまでも、公共領域のマネジメントを考察する際の「要素」として 扱うこととする。
②の専門的職業パースペクティブでは、専門家集団と、組織の官僚制との関係に ついて論じている。例えば、専門家集団が、属する組織の官僚制とのコンフリクト を回避するために、他組織との関係を結ぶ、といったケースである。官僚制と専門 職との関係は公共領域でも問題となりうることから、本理論の適用可能な部分があ る 。た だ、専 門家 集団を 主体 とする 組織 間関係 の開 発(development) に 重きを お いており組織間関係の分析自体を目的としたものではない。また、ヒューマン・サ ービス組織でさえ、現実には専門家の数が少ないのが実態で適用余地が狭く、専門 家 集 団 の 忠 誠 心 な る も の が 未 成 熟 で は な い か 、 と い っ た 批 判 が 行 わ れ て い る
(Raitan, 1998, p.291)。日本国内における現実の行政組織はゼネラリスト集団 で あると揶揄されるなかで、本パースペクティブを用いることには躊躇を覚える。た だ、公立病院における行政と医師や看護師との関係では、参照する意義をもつ局面 があるかもしれない(公立病院については、第 7 章でとりあげられる)。そこで、
本論文では、②をパースペクティブとはしないまでも、必要に応じて参照する。
⑤資源依存パースペクティブについては、組織と環境との関係、特に、組織から 環境を操作する戦略を明らかにした資源依存パースペクティブの功績は大きく、税 財源、人的資源や情報といった資源面での制約が大きい公共領域の分析に適してい るとされる。
一方、第 1に、焦点となる組織から環境に働きかけるとしても、環境的な制約の 測可 能性といっ た伝統的な 管理概念の 一切を否定 する。
70
影響を十分に考慮していないこと、第 2 に、とりあげている環境自体についても、
地理的条件や組織の構造まで含んだ制度的な側面からの制約を看過していること、
第3に、目標など意思決定プロセスの重要な要素に触れていないこと、などの指摘 がある(Raitan, 1998, p.296)。
⑥ガバナンス・パースペクティブでは、個々の組織から政府、社会レベルに分析 の軸を移している点に特色がある。手法的には、方法的個人主義(Methodological individualism)に陥ることを嫌う。資源依存パースペクティブでは、行政官は組織 の生存、特権的地位、あるいは管掌事務の優越性を追求するものと仮定する。しか しながら、そのような仮定は、ネットワーク全体の特性を見逃し、公共政策過程に おける「公」の重要性を看過する。そこでガバナンス・パースペクティブでは、実 証性と同様に、公共的であるべきであるという規範性も重んじる。
一方、このようなガバナンス・パースペクティブの特徴は、欠点と表裏の関係に ある。多数の利害関係者が関わる公共政策プロセスは、意図されたとおりに進むも のではない。競合する目的と、多くの戦略とが乱雑に交錯するプロセスでもある。
特に組織間関係では、資源依存パースペクティブなどの一元的(monistic)パース ペ ク テ ィブと 、 ガ バナン ス ・ パース ペ ク ティブ の よ うな多 元 的 (pluralistic) パ ー スペクティブとの相違が顕著に現れる(Scharpf, 1978)。おそらく、多元的パース ペクティブとしてのガバナンス・パースペクティブには、何らかの基準となる概念 が必要となると思われる。
すなわち、多元的パースペクティブをそのまま使う場合には、複雑なプロセスそ のものを規範的に明らかにすることができるにとどまる72。多元的パースペクティ ブを用いて、何らかの戦略的行動を説明するとすれば、別の概念を導入する必要が ある。ひとつには、制度的概念であり、もう一つは、信頼や相互調整概念である。
前者から制度化パースペクティブを意義づけることができる。また、後者から信頼 によるネットワーク概念を意義づけることができる(Raitan, 1998, p.297)73。以 上の考察から、ガバナンス・パースペクティブは、別のパースペクティブに昇華さ せて捉えるべきものと考えたい。
⑦制度化パースペクティブの概略は前章で触れた。制度化パースペクティブでは、
プロセスそのものを論じる。プロセスを経ることで、意思決定者は、効率的な組織 形態の概念を多かれ少なかれ無批判に受け入れやすい。レイタンは、制度化パース ペクティブについて以下のように批判されると指摘する(Raitan, 1998, p.299)。
第1に、組織目標に向けて行動するアクターの役割を無視している。第2に、規範
72 た だし 、ガバナ ンス・パー スペクティ ブを応用す ることで 、協働がなぜ 生じるのか 、 多元 的な流れで 説明するこ とができる 。これが「協働の窓 」概念である 。詳細は本 節第 5項(1)で述べる 。
73 な お、レイタ ン自身は、 制度化パー スペクティ ブとネット ワーク・パ ースペクテ ィ ブと を明確には 区別してい ないが、別 の概念であ る。
71
や義務の強調は、同意や継続性を前提とし、制度的な変革やコンフリクトの果たす 機能をないがしろにする。第 3 に、理論的には同語反復(tautological)の可能性 がある。即ち、結果(outcome)としての制度化は、利害関係や政治性を「超えて」、
組織の構造や実践を規定する。一方で、プロセスとしての制度化は、きわめて政治 的なものであり、組織化した利害関係であるパワーの強弱を反映する。第4に、何 が制度化で、何が制度化でないのかについてあまり議論されていない。ある組織間 現象を説明するために「遡及的に(ex post facto)」制度化理論を適用している場合 があるほか、論者が独自に制度化を意義づけて論じてしまう危険がある、とする。
これらの批判には誤解もみられるが(特に第 1 と第 2 の指摘)、真摯に対応すべき 点がある。
グレイ=ウッドおよびレイタンらの議論をふまえ、前提条件、プロセスおよび成 果を明らかにする観点から公共領域の構造と過程を分析するパースペクティブを整 理すると、①資源依存パースペクティブ、②制度化パースペクティブ、および、③ ネットワーク・パースペクティブの 3つを抽出することができる。
一方、第 3章で論じたように、各パースペクティブの理論的基礎は多岐にわたっ ていることや、公共領域の外縁が不明確であるなど、分析対象自体の特質を踏まえ ると、パースペクティブについてさらなる考察が必要である。そこで次に、分析パ ースペクティブの再構成やパースペクティブ相互の新たな関係構築、など、パース ペクティブについての研究アプローチについてみてみる。
(2)分析視座の新たなアプローチ
先行研究の方向性としては2つみられる。第 1に、上記 3つのパースペクティブ を再構成するアプローチ、第2に、グレイ=ウッド(Gray and Wood, 1991) も論 及したように上記パースペクティブの「結合を試みる」アプローチ、である74。
①再構成するアプローチ
第 1 のア プ ロ ーチは 、 例 えばセ ル ス キー= パ ー カーが と っ ている (Selsky and Parker, 2005)。
セルスキー=パーカーは、社会問題を処理するための、プロジェクト・ベースの セクター横断的なパートナーシップ(CSSPs: cross-sector partnerships to address
social issues, 以下、この項目では CSSPsと略す)が、企業-非営利組織間、企業
74 広 辞苑第5版(新村編, 1998)に よると「結合」とは「結び合 うこと。結び合わせて 一 つに すること」 とある。
72
-政府間、政府-非営利組織間、そして企業-非営利組織-政府間の三者横断的、
といった 4つのアリーナで生じていることに注目する。
そのうえで、CSSPs に関する研究は、そもそも学際的であることを率直に認め、
これまでの組織間関係のパースペクティブにこだわらない新しい分析パースペクテ ィブとしての「プラットフォーム」を提唱する。それらは、(a)資源依存プラットフ
ォーム、(b)社会的問題プラットフォーム(social issues platform)、そして(c)社会
的セクター・プラットフォーム(societal sector platform)である。ただし、(a)と
(b)については新しいパースペクティブではない。(a)は資源依存パースペクティブそ
のものであることからここでは説明を省略する。以下、(b)(c)について敷衍する。
(b)社会的問題プラットフォームでは、発生した社会的な問題を中心に提携が生じ る点を捉え考察する(Selsky and Parker, 2005, p.852)。組織や利害集団は、組織 の 利 害 関 係 者 で は な く 、 社 会 的 問 題 の 利 害 関 係 者 と み な さ れ る (Waddell, 2005)。
社会的問題には、環境問題など民間企業の関わる分野もある。そこで、社会的問題 や公的課題を処理するために、なぜ、あるいは、どのように、企業が資源を提供し て い く か と い う 、 企 業 と 公 的 セ ク タ ー 間 の 協 働 や 企 業 の 社 会 的 責 任 (CSR:
Corporate Social Responsibility) に 関 す る 考 察 を 含 む ( 例 え ば 、Andriof and Waddock, 2002)。社会的問題の発生と解決のメカニズムは以下のとおりである。情 報社会の到来により、問題発生の認知は加速する。企業を含めた組織や公的なセク ターに対する期待と、現実の成果とのギャップを原因に、公的な問題が発生する。
この公的な問題は、社会的問題、すなわち「メタ・プロブレム(metaproblems)」
であり個々の組織レベルを超える問題も多い。そこで、政府、企業および非営利組 織が社会的問題を解決すべきであるという「信仰」を刺激する。利害関係者や世論 の外部的圧力によって、組織管理者に解決を促すこととなる(Oliver, 1991)。
このプラットフォームでは、問題が発生し、その結果、問題のもたらす社会的コ ンテクストが CSSPs を生じさせるメカニズムに焦点を当てている。その意味で、
前提条件、すなわち CSSPs 形成の動機ないし理由を重視した議論ということがで きる。プロセスや成果そのものについては、二次的に捉える傾向にある。
同時に、組織の外縁あるいはアクターと、CSSPsの目的は所与のものとしている。
ロバーツ=ブラッドリーは、「(協働とは、)2つあるいはそれ以上の社会的アクター が、唯一共通の目的に向けて共同する、一時的な社会的取り合わせ(arrangement)」
とする(Roberts and Bradley, 1991, p.212)。そこで、各アクターは、組織の自治
を保持しつつ、共有された問題を処理しようと資源を持ち寄る。
以上より、社会的問題プラットフォームは、組織中心的な、即ちエゴセントリッ ク的な基礎に難点を持つこと、公共領域の境界の抽象性に十分対処できないこと、
多数かつ多様なアクターを含む、複雑なドメインにおける協働プロセスやガバナン ス 構 造 に つ い て 適 切 な 説 明 力 を 持 つ か ど う か 疑 わ し い こ と ( 最 後 の 点 に つ い て Westley and Vrendenburg, 1991)、等の問題があり、公共領域の特質を正しく捉え
73
ることはできない可能性がある。
(c)社会的セクター・プラットフォームは、一般的には組織研究以外の分野、なか でもパートナーシップ論から導入されたものである。政府、民間企業および市民社 会組織の間の新しい関係が、セクター間の境界、即ち「外縁(spheres)」を不分明 にしている(blurring)と論じる(Selsky and Parker, 2005, p.853; Prakash, 2002;
O Riain, 2000)。しかも、「それぞれの外縁は、他のセクター内に『埋め込まれる』
ことが増加している(multiply embedded)。他のセクター間と絡み合っているため に、明確に境界を画すことができない」(O Riain, 2000, p.191)と考える。
セクター間の境界が不分明となる埋め込みの状況は、政府が、民間企業や非営利 組織に外部委託する場合があげられ、伝統的には他のセクターに関係する役割や機 能を取り込むときに生じる。背景としては、典型的には行政の機能不全があり、伝 統的セクターだけでは、ある種の課題を解決できない場面が増加していることがあ る。
そこで、他のセクターに位置している組織から学習することで、伝統的セクター の能力を向上させる必要性を説く。このロジックには 2つある(Selsky and Parker,
2005, p.853)。第 1に代替ロジック(substitution logic)、第2 にパートナーシッ
プ・ロジック(partnership logic)である。前者は、個々のセクターが、社会にお いて本来的役割と機能を有しておりながら、もし本来のセクターが期待された生産 物を供給することに失敗するならば、もう一つのセクターが、他のセクターを代替 することができるというものである。後者は、セクターが、緊急の社会的問題を処 理するために、自然の流れとして、互いにパートナーを組む傾向にあるというもの
である(Linder and Rosenau, 2000)。前者は可能性の議論にすぎない。後者のパ
ートナーシップ・ロジックは、ガバナンスのコンセプトである「第3の道」と同様 に、公民パートナーシップの概念上の源泉である。後者のロジックは環境あるいは 制度的要因として社会的問題をとらえており、公共領域の議論に通じる。
重要な点は、CSSPsをモデル化する方法である。一般的に、行政と企業のパート ナ ーシ ップあ るい は公民 連携 では、NPM 論を もと に、イ ンプ ットと アウ トプッ ト との関係を中心に捉える。行政自身がサービスを提供する場合と比較し、コストを いかに下げるかが最大のテーマである。したがって、パートナーシップ形成と実践 の機能的な方向の確認および成果に影響する因果的要素を考察するのに適している。
しかし、このような線形のモデル化では、パートナーシップのプロセスを全て把握 したことにはならない。制度化パースペクティブで考察される、より大きな構造あ るいは制度内における社会的プロセスの埋め込みが捨象されているからである。複 雑系理論で考察される、非線形の創発プロセスについても見過ごされる。
そこで、社会的セクター・プラットフォームは、例えば変革や、境界が不分明に なっている役割や機能と同様に、価値、モチベーションおよび管理様式のように、
主要な社会的セクターの特徴を考察する。また、セクター間の交流を通じた知識の
74
吸収プロセスを重んじて、組織間学習の重要性を強調する75。いいかえれば、社会 的セクター・プラットフォームは、組織間やセクター間の境界の曖昧さと不分明さ を積極的に把握することを目指し、組織間文化、組織間行動、組織学習および組織 間学習、組織間経営管理、さらには、制度化や埋め込みアプローチなど、きわめて 広範な内容を盛り込もうとする。
セルスキー=パーカーは、3 つのプラットフォームのなかで社会的セクター・プ ラットフォームが有望であるとする。理由は、第1に、各アクターから CSSPs へ の影響を論じることができること、第 2 に、各アクターから CSSPs を通じて環境 すなわち制度的コンテクストに働きかけることを説明できること、第 3に、CSSPs の 有 す る 学 習 機 能 な い し 問 題 認 知 機 能 の 分 析 に 貢 献 で き る こ と 、 か ら で あ る
(Selsky and Parker, 2005, p.867)。
たしかに、パートナーシップ・ロジックを前提に、環境的圧力により、行政、企 業および非営利組織が協働し、同時に、組織の外縁が不分明になっている状況を率 直に捉えることができる点は、公共領域の分析にも適したフレームワークを提供し ている。
しかし、フレームワークに多様なディシプリンを含むために弱点も持つ。とくに 体系的理論化は道半ばといえる。そこでセルスキー=パーカーは以下のように述べ る。
「一つのありうる方向性としては、例えば同じ研究のなかで、3 つのプラッ トフォームを並列することにより、複合的な方法 でCSSPsを組み立てること が考えられよう。社会的セクター・プラットフォームは、CSSPsの 政治的方 向性を調査するためのもっとも適切なプラットフォームであるように思わ れ る。各パートナーが共に社会的問題の責任主体となり、当該問題を行動と 目 標の中心セットにするよう統合するようなパートナーシップ論理を作り上 げ る こ と に よ り 、 組 織 研 究 に 貢 献 す る 」(Selsky and Parker, 2005, p.867;
Linder and Rosenau, 2000, 下線部は筆者が付加)。
第 3章で論じたように、資源依存パースペクティブと制度化パースペクティブと は異なった理論的基礎を持つ。その意味で、セルスキー=パーカーが 3つのパース ペクティブを単純に「結合」するのではなく、すくなくとも「複合的」に捉えよう とした点は正しい76。つまり、複合的にとらえることで、環境への操作可能性(こ
75 た とえば学習 については 、CSSPs形 成と 実施過 程における 学習効果に よって、各 セ クタ ーに属する アクターの 機能を変質 させる。このた め、パート ナーシ ップが終了 した とき にも、参加 組織は、ミッション 、行動および セクターの アイデンテ ィティにつ いて 思考 する基礎と なる、変質 したままの 新しい様式 を保持する (Waddock, 1991)。
76 広 辞苑第5版(新村編, 1998)によ ると、「複合 」とは「2種以上のも のが合わさ っ 75
れは主に資源依存・社会的問題プラットフォームからの立論である)、環境からの制 度的圧力の双方を分析することができる。ただ、それでも、どのように複合するか については明らかにされているわけではなく、理論的に錯綜してしまうおそれがな いとはいえない。
②「結合」を試みるアプローチ
第 2のアプローチは、例えば、ガラスキヴィクス=ビーレフェルト(Galaskiewicz
and Bielefeld, 1998) やギュオ=アカー(Guo and Acar, 2005)らがとっている。
ガラスキヴィクス=ビーレフェルトは、1980年から 1994年までのクロスセクシ ョン・データにもとづき、米国ミネアポリス・セントポール都市圏における非営利 組 織 、 な か で も 慈 善 活 動 を 行 っ て い る 非 営 利 団 体 の 組 織 変 化 (organizational change)の状況を実証分析するにあたって、組織理論のパースペクティブの結合を 行っている。具体的には、3つのモデルを設定し結合しようとする。
第 1は「淘汰モデル(selection models)」である。理論的にはハナン=フリーマ ン の 組 織 生 態 学 ( な い し は 個 体 群 生 態 学 モ デ ル 。Hannan and Freeman, 1977, 1989)と制度化パースペクティブを含む。
第 2は「環境適応モデル(Adaptation Models)」である。合理主義の色濃い戦略 理論をベースに(Chandler, 1962; Mintzberg, 1987などを引用する)、エヴァン=
フリーマンの利害関係者アプローチ(なお、この理論については第8章 3節3項を 参照。Evan and Freeman, 1988)も借用する。戦略レベルとしては成長(Growth)
をとりあげ、戦術については、①管理的(Managerial)戦術、②政治的戦術、③統 合ないし削減(Consolidation/Retrenchment)戦術、の 3つを分析対象とする。
第 3は「構造的埋め込みモデル(Structual Embeddedness Models)」である。
合理性を追求する戦略理論だけでは、上層部の経営管理にみられる非合理的かつ非 意図的マネジメントを説明できない点を出発点とする(Baum and Dutton, 1996)。
構造的埋め込みモデルでは、フォーマル、インフォーマルの構造が、組織の戦略や 戦術の実践行動に影響を与えると議論する。構造が内包する要素としては、①組織 規模や組織年齢、②意思決定構造とパワー関係、③社会的ネットワーク、の3つを あげる。なかでも、社会的ネットワーク論―組織は、行動を制約し、目標達成の機 会を提供する、広範なネットワークに埋め込まれているとする(Granovetter, 1985)
―が重視される。
ところで、淘汰モデル、環境適応モデルならびに構造的埋め込みモデルのいずれ の理論も万能ではない。そこで、「資源調達がほとんどの組織的意思決定と行動を規 定する」(Galaskiewicz and Bielefeld, 1998, p.21)と捉え、資源調達を柱に組織変 て一 つとなるこ と」をいう 。一つとな っても、内 部に 2つ以上の部分の存在を認め る。
76