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水稲根における呼吸作用の生産生理学的意義に関す る研究

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九州大学学術情報リポジトリ

Kyushu University Institutional Repository

水稲根における呼吸作用の生産生理学的意義に関す る研究

山口, 武視

https://doi.org/10.11501/3083859

出版情報:Kyushu University, 1995, 博士(農学), 論文博士 バージョン:

権利関係:

(2)
(3)

水稲根における呼吸作用の生産生理学的 意義に関する研究

山口武視

1 995

(4)

目 次 第l章 緒 言

第2章 根の呼吸速度測定法の検討 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 5 材料と方法 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 5

1. 根の呼吸速度の測定

2. 水中における根からの二酸化炭素放出量の測定

結 果 7

1. 水中および空気中での根の二酸化炭素放出量の比較 2. 温度と根の呼吸速度との関係

考 察 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 7

材料と方法

。U ウム 今,ん うん 1i -i 噌EA --

摘 要

第3章 ストレス環境下での光合成速度と根の呼吸速度との関連性 第l節 水稲光合成速度の高温低下現象と根の呼吸速度との関係

1. 光合成速度測定法 2. 材料と処理

結 果 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 14 1. 高温による光合成速度の低下現象と根の呼吸速度との関係

2. 根の呼吸速度と蒸散速度との関係

考 察 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 24 摘 要 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 28

第2節 低夜温による水稲光合成速度の低下と根の呼吸速度との関係 ・ ・ 29 材料と方法 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 29

結 果 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 30 1. 低夜温処理が光合成速度と蒸散速度に及ぼす影響

2. 相対総光合成‘速度, 相対蒸散速度に関与する要因の解析

考 察 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 39 摘 要 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 42

第3節 弱光条件に対する水稲の個体光合成速度の調節機構と根の活力の役割Ij 46

材料と方法 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 47

結 果 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 49 1. 形態的変化を通しての弱光条件への調節

2. 弱光条件への光合成速度の調節

3. 体内窒素含有率の決定機構と根の呼吸速度

摘 要

65 69

考 察

(5)

第4章 根の呼吸速度に関与する要因の解析 材料と方法

結 果

-L 1i 守'l】

7 7

7

1. 根の呼吸速度に関与する要因 2. 根の窒素含有率の決定要因 3. 根の全糖含有率の決定要因

考 察 81

摘 要 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 84 第5章 登熟期における光合成関連形質と根の呼吸速度との関係 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 85 第1節 水稲の登熟前半の粒重増加に及ぼす葉身窒素含有率の影響 ・ ・ ・ 85 材料と方法 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 86 結 果 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 89

1. 生育と収重

2. 籾当たり葉面積と粒重増加との関係 3. 登熟前半の粒重増加に関与する要因

考 察 ・ ・ ・ 96

摘 要 100

第2節 登熟後半の粒重増加に及ぼす葉身窒素含有率と可能登熟率の影響 101

材料と方法 101

結 果 103

1. 生育と収一

2. 登熟後半の粗籾重増加に関与する要因

考 察 108

摘 要 110

第3節 登熟期の根の呼吸速度と葉身窒素含有率および葉面積との関係 ・ ・ 113 材料と方法 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ · 113

結 果 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ · 113

1. 圃場条件下で-の根の呼吸速度の推移 2. 籾当たり葉面積に関与する要因

3. 葉身窒素含有率と根の呼吸速度との関係

考 察 1

5 6 6 7 9 っι''u

qJU''

U 噌『ム JU 噌,A τ,A 旬。ム 4Eム 噌BA

摘 要

第6章 水稲茎基部からの出液速度と根の呼吸速度との関係 第1節 水稲の茎基部からの出液速度に関与する要因の解析

材料と方法 結 果

(6)

1 . 出液速度に関与する要因

2. 根の呼吸速度と出液速度との関係

考 察 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 136 摘 要 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 140

第2節 登熟期における水稲茎基部からの出液中のアンモニア態窒素濃度な

らびに出液中のカルシウムに対する珪酸の比と根の呼吸速度との関係 142 材料と方法 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 143 結 果 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 143

1. 各処理区の生育量と珪酸およびカルシウム吸収量 2. 出液中のアンモニア態窒素濃度

3. 出液中の珪酸およびカルシウム濃度と根の呼吸速度との関係

考 察 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 152

摘 要 第7章 総合考察

1. 環境ストレス下での根の機能発現

2. 不良環境への調節機構に関与する根の機能 3. 根の機能と作物体の健全性

4. 登熟期における根の機能維持と栽培管理

157 158

総合摘要 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 167

謝 辞 引用文献

171 172

(7)

第1章 緒 言

水稲に対する多く の栽培技術, 例えば有機物や化学肥料などの 施用, 中干しゃ

間断かんがいなどの 水管理, 圃場の透水性の改善な どは, 根を対象として行わ れ るものである. I米作日本一」表彰事業に代表され る多収穫をあげた農家 の調査 事例よりみて, 農家がもっとも努力を傾注した のは, 暗渠排水, 客土, 有機物施 用, 深耕などの 土壌環境の 改良である. すなわち, 土壌環境の改良は根作り に結 びつくものであり, それゆえ, I根を健全に保つことこそが増収の決め手である」

との認識が農家 や 農業技術者に広く受け入 れられてきた. しかしながら, 通常,

根は人間の目に触れること のない土壌中に生育しているので, その形態や機能を 把握することは容易でない. 片山(1951)は「作物体は若さ を異にする器官群 の連鎖体である」と表現し たが, 根においてもまさしく同一時期でも新旧, 優劣 なものが多種多様 に存在していることとなる. こ の ような複雑な根系をし、か なる

方法で把握するかが問題と なるが, 現在 のとこ ろ, 根の調査には多大な労力と時 間を必要とするのが実状で ある. それ ゆえ に, 未だに根 の機能に関して明確でな い点が 多いと言わざるを得ない. 何を もって「根の健全化J, I根の活力」 を表 現すればよい のだろうか. I根の活力」という漠然とした言葉を少しでも明確に したい, という のが本研究 の出発点である.

わが国に おける水稲根の機能に関する研究 を通覧す ると, 古くは佐藤 ・森田 (1943)が, 水中溶存酸素 の消耗から根の機能を把握した研究がある. さらに

湿地に生育する水稲の 根の形態的特徴として, 破生通気組織が発達していること (嵐・新田 1955, K a ta ya m a 1961) , こ の破生通気組織 を通して地上部から酸 素の供給を 受 けているこ とが山田ら( 1954) , 有門( 195 6, 19 60) , 相見 (1960)らに よって明らか にさ れた. また, 根の酸化力に関 する研究では, 塩 入(1944)が老朽化水田 において根腐れを 生じた根は白色を呈しているが, 普 通水田の 根は酸化鉄様化合物によって赤褐色になっていることを観察し, 川田・

石原(1964 )は根の二酸化鉄酸化力は根毛にお いて著しいこ と を報告し た . こ

- 1-

(8)

の酸化力と呼吸に関するものとしては, 土井(1952), Kenten a n d M an n(1952),

坂井・吉田(1957), Yamada and Ota (1958a, 1958b) , 相見・藤巻(1959),

Matsunaka (1960)の研究がある. それらは, 酸化力 は呼吸系の代謝と関係があ り, これは過酸化水素を生成する酵素 系とこの過酸 化水素を利用したノfーオキシ ダーゼの 作用に よ る も の で あ るこ と を 報 告 し た. また , 野本 ・ 石川 (195 Oa, 19 50b)はαーナフチルアミン が稲の根によって 酸化 され ることを報告 し, これは現在ではα-ナフチル アミンを用いて根の 酸化力を測定す る方法とし て確立されてい る. 秋落ち抵抗性と根の酸化力 との関係については池畑 ・山口 (195 3) , 馬場(1955, 1958)らの報告がある. さ らには酸化力と生育時期

〈三井 ・天正19 52)や栄養条件(木内1952, 岡 島1958, 三井 ・熊沢1964)と の関係についての研究も行われている. これらの成果よりみて, 根の酸化力 は形

態的差よりも植物体の代謝活性の 差によって影響を受けるものであると言えよう.

一方, 老朽化水田の秋落 ち現象を解明するために , 硫化水素による根腐れとそ の対策が確立された. これに関する一連の成果とし て , 三井ら(1951, 1953),

岡島・高城( 1953 ) , 馬場(195 8 ), 山田 ・太田(1958b, 1958c)による硫化 水素 などの土壌中に生成す る還元性有害物質による養分吸収阻害の研究があげら れる.

さらには, 山田ら(1953, 1 954, 1958a , 1958b)の呼吸作用を中心とした研 究 , 岡島(1960)の窒素栄養を中心 とした栄養生理学的研 究 , 吉田 ・高橋 (195 8a, 1958b, 1958c, 1958d, 1960a, 1960b)の生育時期に伴う根の生理 的変化に関する研究, 稲田(1967)の根 のageと根群の生理的研究など , 水 稲根 に関しての生理, 生化学的な多くの業績がある. その中で, 根の呼吸は先端部が 最も盛んであ り , 基部にゆくほど衰えること(木戸 ・武舎1954, 岡島1960, 吉 田・高橋1960b), 呼吸活性が高い先端部は , 高い養分吸収をもつこ と(馬場 ・ 稲田1958, 稲田 1967)が明らかにされた.

1960年代になると, 土壌一植物一大気の水の流れを統一的に理解できる水ポ

勺ん

(9)

テンシャルの概念が導入され, 1970年代になって稲で検討され始めた. これに よると, 吸水は土壌と根の 木部水ポテンシャル差が推進力となるが, 根の木部水 ポテンシャルの低下要因に より受動的吸水と能動的 吸水とに分けられる. すなわ ち, 受動的吸水は茎葉の蒸散によって恨の木部の圧ポテンシャルが低下すること によって おこる吸水であり , 能動的吸水は根の塩類の積極的吸収によって木部の 浸透ポテンシャルが低下して起こる吸水であると理解されている. そして, 登熟 期の水稲で能動 的吸水が低 下するのは, 木部液の浸 透ポテンシャルが高くな るこ とが一つの要因であり(Hirasawa and Ishihara 1991) , 受動的吸水の低下は根 の水の通導抵抗が増大する た めであること(Hirasawa et al. 1991 ,1992a ,1992b)な

どが明らかとされてきた.

根の 生態的研究では, 藤井(1961 )が根の規則性, ならびに地上部生長との 関連性を明確にし, 猪ノ坂(1961)は, 茎 およ び葉の維管束 と根の維管束の連 絡について規則性が あることを見いだした. さらに, 川田らは1956年より, 根・

茎および葉を一つの単位とみなす「要素」概念を打ち出し, それに基づく根 の形 態形成を中心に水稲根群の発達に関して詳細な研究を行い, 一連の研究成果をま とめて論文集を発刊した() I [回1982).

根また は根群の研究は地上部との関連性なしには 論議されてはいないが, 地上 部と地下部 と の関連性を直接解明した研究としては, 李・ 太田( 1973) が根 の 形態・機能と地上部諸形質との関連について, M u r a t a e t al. (1965 ) , 津野・ 鳥 生(1987)が 地上部の光合成作用と根の機能と の関連性を検 討している. これ とは別に, 戸刈・折谷(1960), 折谷(196 3)は , 葉のタンパク代謝に根で生 成されるサイトカイニンが関与していることを明らかとした. しかしな がら, 根 の機能と地上部との関連性について直接解明した研究は意外と少ない.

そこで本研究は, 1株の根群を対象として, 根の 機 能を根が呼吸によって空気 中に放出する二酸化炭素量で代表させた. そして, 環境ストレス下および登熟期 における根の 呼吸速度と光合成速度ならびに光合成関連形質との関連性を明らか

- 3-

(10)

とするとと もに, 根の呼吸速度に関与する要因を解明することで, 水稲根の呼吸 作用の栽培学的意義を明らかにしようと した. ここで得られた結果は, 1 9 8 2 年より 1 994年までの 1 3年間にわたって行った実験より得られたものであ っ て, 上記目的を十分に満足するもの とは言えなし、か も知れないが, いままで漠然 といわれて いた「根の活力」の意義について一定の 知見を提供できると信ずるも のであり, ここにとりまとめて報告する次第である.

- 4 -

(11)

第2章 根の呼吸速度測定法の検討

根の生理的活性を測定する方法としては, 1)酸素吸収量または二酸化炭素発 生量の測定, 2)パーオキシダーゼなどの根の呼吸に密接に関連した酵素活性の 測定, および3)培地からの無機成分吸収量の測定など が古くから行われている.

特に1 )に関しては, 酸素の吸収量から呼吸速度を測定する方法として, ワール ブルグその他の検圧計による方法や水中溶存酸素量 を測定する方法が採用されて いる. また, 根からの二酸化炭素発生 量から呼吸速度を測定する方法としては,

呼出二酸化炭素 をアルカリ溶液に吸収させる方法や赤外線炭酸ガス分析計による 方法が用いられている. 酸素吸収による呼吸測定で注意しなけれ ばならないのは,

水稲根の表面に付着し た硫化欽の酸化によってo 2吸収が異常に高くなることが ある点〈吉田 1966 )である. このような根でも根 が呼 出する二酸化炭素量に は差のないこ とを山田(1957)は指摘している.

本研究を遂行するに当たり, 土耕栽培の根 を調査対象とした これは, 水耕栽 培では根の伸長や分岐性が困場条件下で生育した根 と著しく異なることが予想さ れたからである. また, 根の表面に付着した硫化鉄の影響を除外するためにも,

根が放出する二酸化炭素を直接, 炭酸ガス分析計で 測定する方法が容易であると 考え, この方法を採用することにした. すなわち, 根の呼吸活性を空気中におか れた根 が放出する二酸化炭素の量で代表させよう とした.

そこでまず, 本研究で用いた根の呼吸速度の測定手順について述べるとともに,

本法の妥当性についての検討を行った(津野 ・山口1987) .

材料と方法

1 . 根の呼吸速度の測定

第3章以降に述べる試験では, ポットで土耕栽培したものと闘場栽培した材料 を対象とした. 各実験の栽培方法の詳細はそれぞれ の項に記載したので, ここで は, 根の呼吸速度測定の手順についてのみ記述する.

-5-

(12)

ポット栽培では全根をていねいに土壌より訪れ、出して, 株を茎ごとに分解した

後, それぞれの茎の根を上部 3節根 (上 根〉とそれ 以下の節の根(下根〉に分級 しながら切り取った. す なわち, すべての茎を刃物で縦に分断して, 地中発根節

の上位3節より発生した恨を上根, それ以下の節より発生した根を下根 とした.

これは藤井(1961)の提案に基づくもので, 太田 ・山田(1961)もこの方法を 採用している. 分級中は乾燥防止のため, 根を水中においた. 圃場栽培 の水稲で は, シャベルで株を中心として土ごと掘取り(土量 約1 5 L) , 根を土壌からて いねいに洗い出して, 必要に応じて上述の方法で根を分級した.

根の切り放しが終了すると, 根を両掌で軽く保持しながら3回, 強く空中で振っ て余分の水を 切った. この根を , ガス交換が 容易であるように幅1 0 cm, 長さ 1 6 cmのプラスチック製の網の上に一様に広げて, 容量1L ( 1 0 cm X

1 6 cm X深さ6 cm)の測定箱に収容した. この容器の一端より外気を3L min ・1

通気して, 他端の小孔より排出する空 気の一部を赤外線炭酸ガス分析計に導いて,

放出す るCO2濃度が 一定に なった ことを記録計で確認し, このときの濃度に流 量を乗じて呼吸量とした• 1試料の測定には, 根を測定箱に収容後約 3 0分を要 した . なお, この測定容器に収容可能な根 は, 新鮮重で最大2 0 g (乾物重で約 1 .6 g)程度であった.

2. 水中における根からの二酸化炭素放出量の測定

上述の方法でブk稲の呼吸速度を測定するとき, 最も懸念されるのは根 のおか れ た測定環境によって, 根の日子吸速度が大きく左右されるのではなし、か という点で ある. す なわち, 水稲根は湛水条件下の低酸素分圧環境で呼吸作用を行っている が, 土壌より洗し、出した根を空気中において呼吸速度を測定すると, 損傷による 一時的な呼吸速度の増大に加えて, 酸素分圧の上昇による影響も無視し得ないと 考えられる. そこで, 水耕栽培した水稲を用いて, 無傷の根 が水中に放出するこ 酸化炭素量を測定した.

まず, 1 0 Lのポリエチレン製容器に9 Lの水耕液(木村氏B液〉を入れ, こ

- 6-

(13)

れに1時間以上空気を通気 して, 溶存 する二酸化炭素を追い出し, この液中に水 稲個体を移して, 1"-'311寺間にわたって根から放出される二酸化炭素を 水耕液に 溶解させた. その後に, 根を引き上げて, その水耕液を容器のまま個体光合成測 定用の同化箱〈小糸工業製MC-90W)にいれ, 71<耕液に同化箱内の空気を通気し て溶存二酸化炭素を追い出し, これを赤外線炭酸ガス分析計で定量した. そして,

その個体から根を切り取り, 前項と同様の方法で空気中における二酸化炭素の放 出量 を 定量して, 水中と空気中との値を比較した.

結 果

1 . 水中 お よ び空気中の 板の二酸化炭素放出量の 比較

水稲根が湛水条件下で-示す呼吸量と, 酸素分圧のより高い通常空気中で示す呼 吸量との値を第 2- 1図に示した. 測定6例中の5例までが両者はほぼ等しいと いう結果であった. 図中に空気中に おい た根の乾物1g当た りの呼吸 速度 (mgCO 2 g-l h-1)を実数で示すと, 4mgC02 g-l h-1以下では両者は一致した値 をとり, それ以上の速度 の恨では空気中のものが水中のものよりも大となった.

2. 温度と根の呼吸速度との関係

園場栽培された水稲根に つ いて, 測定箱の気温を 低温側から高 温側ヘ約1時間 かけて昇 温させ て, 温度と根の呼吸速度との関係を求め, その結果を第2 -2図 に示した. 同図のY軸は対数目盛で示したが, 温度の上昇につれて呼吸速度 は指 数関数的に増加した. 根の 呼吸速度の 温度 係数(Q 10)を求めると, 呼吸速度が 高い根〈幼穂形成期〉のQ 10 は2.1, 呼吸速度が低下 した根(登熟後期〉のQ 10 は1.9であった. 根の老化が進み, 呼吸速度が低下した根では温度係数が若干 低下したが, ほぼQ 10 = 2 . 0とみなすことができょう.

考 察

水稲は湛水条件下で-生育しており, 根の呼吸作用に使われる酸素は地上部より

-7-

(14)

1 : 1

3.5 ハU

ハU ハU

A坤・

τ上(【'f'ω}仏ESN。υ∞E)酬明司話N。υQ'ド号以刺

80

60

20

ハUnU

80 100

水中で-のCO2放出量(mgC02sample-1

h勺 60

40 20

第2-1図

水耕栽培した水稲根の水中ならびに空気中での 酸化炭素放出量の比較.

図中の数字は空気中で、の呼吸速度(mgC02 g-l

hヘ280C).

- 8 -

(15)

β

,竺

.除ν-,

--色 --&

4"

ムノ 1.5

1.4 1.3 1.2 1.1 1.0 0.9

(H14-ー∞NOU

∞E)

Q10=1.9 0.8

0.7 0.6

制制収NE小口(も騨

0.5

36 34 26 28 30 32

温度 CC) 22 24

0.4 20

第2-2図 温度と根の呼吸速度との関係.

品種:ヤマビコ.

0・:幼穂、形成期, ム,.A.:登熟後期.

同一記号は同一個体.

-9-

(16)

送られることを山田 ・猪山(1953), 山田ら( 1954), 有門( 1956, 1960) , 相見( 1960 )は報告している. この酸素は根部の破生通気組織を通り, これ を 利用して水稲根は嫌気条件下でも有気呼吸をすることができる. 板を茎から切り 離す と, 地上部からの酸素 の供給は期待でき ない が, 空気中に置くとい う措置に よって好気的条件を与えることとなり, 水中での値 と空気中での値がほ ぼ等しく

なったと考え られる.

第2-1図で, 空気中での根の呼吸速度の高いものが水中で行うそれよりも高 い値となったのは, 根部の地上部より送 られる酸素量だけでは不足しているもの と推察さ れる. 本 研 究 で測定 し た土耕ポット栽培お よび圃場栽培 の根で ,

4 mgCO 2 g-l h-1以上の値であったのは幼穂形成期以前のもので少数であり, 大部

分の根の呼吸速度は3 mgC02 g-l h-1以下の値であった. したが って, その多くは 水中での呼吸速度と同等の材料を測定対象としているとみなす ことができる.

また, 温度と呼吸に関して, 一般に10 oC ---3 5 oC程度の通常の温度範囲では,

水稲'の呼吸 速度の温度係数は1.7---2.1の範囲にあることが報告され ている (Yamada et. al. 1955, Tajima 1965, Tsuno and Lazimar 1983) . 一方, 津野ら (1994)が1次根からの出液を調査した結果によれば, 極端に衰弱した根で は

温度変化に追従できず, 出 液に変化がなかったと報告している. 本実験では, 第 2-2図に示したように, 根の呼吸速度の高低に関係 なく, Q 10は約2.0の値で あった. 本研究の一連の実験では, 根の呼吸速度測定の際に 温度制御をせず に室 温で測定したので, 測定 温度の範囲は21 oCより28 oCま でで一定でない . そこ で, 第2-2図の関係より求めた 温度係数(Q 10)を2.0として, 個々の根の呼 吸速度の測定値を3 0 oCの 値に温度補正して表示することにした.

摘 要

本研究では土耕栽培した水稲の根を土壌より洗い出して, 空気中においた根が 放出する二酸化炭素量を炭酸ガス分析計で測定して, 根の呼吸速度とした.

- 10-

(17)

水耕栽培の無傷の根が水 中に放出する二酸化炭素量と空気中においた根が放出 する二酸化炭素量を比較すると, 両者はほぼ等しい値であった これより, 本法 で得られた根の呼吸速度の値は, 水中 での呼吸速度と同等 のものとみなせた.

根の 呼吸速度の温度係数( Q 10) を求める と , 呼 吸速度 が高い根の Q 10は 2.1, 呼吸速度が低下した根のQ 10 は1.9であり, ほぼQ 10 = 2 .0とみなすこ と ができた. そこで, 以後の実験では根の呼吸速度の温度係数( Q 10)を2.0 として, 個々の根の呼吸速度の測定値を3 0 OCの値に温度補正して表示すること にしfこ.

- 11-

(18)

第3章 ストレス環境下での光合成速度と根の呼吸速度との関連性 第 1 節 水稲光合成速度の高温低下現象と根の呼吸速度との関係

作物の光合成速度と温度との関係につい て, 同化箱法で求められた試験を比較 すると, 一般に光合 成速度 の適温は冬作物よりも夏作物が高 く, さらに, C 3型 植物に属する作物よ りもC 4型作物 に属する 作物の方が高いことが知られている (Lar cher 197 5) . 一方, 同一作物でも生育時期あるいは状態によって光合成速 度の適温が異なることが報告されてい る〈津野 1975) . このことは, 同ーの温 度環境でも, そ れが強い ストレスを作物に及ぼす場合と, そうでない 場合 の ある ことを推察させる. また, 気温の日変化の範囲内に おいて, ストレスの 生じる温

度範囲があるとすれば, 作物栽培のうえからみても軽視できない問題といえよう.

日変化の範囲内でおこる高温ストレスの主たる影響は, 蒸散速度の昂進にとも なう葉内水分の損失を防止するため に気孔抵抗が増大し(Hofst ra and Hes ke th 1969, Whitema n and Koller 19 64, 1967) , こ れが光合成速度の低下を招来す

るものであろう. もし, 根部の吸水力が旺盛で, 蒸散速度の増加に見合うだけの 水を地上部に供給できるならば, 光合成速度の高温低下現象は緩和される にちが いない. したがって, 根の 吸水能力が温度一光合成関係に強く関与するとの仮定 のもとで, 以下に述べる実験を行った(津野 ・山口1987).

材料と方法 1 . 光合成速度測定法

個体光合成作用を対象として製作された同化箱(小糸工業製MC-90W)を用い て, ポット栽培された水稲個体が取り込む二酸化炭素を測定した. こ の間化箱の 温度調節装置により箱内気温を2 0 oCより40 oCまで, 予め設定した温度上昇パ ターンで約4時間にわたって段階的に変温させた. 光合成速度の 測定では, 光源、

には三菱M形BOCランプを4個使用して, 斜上4方向より光を照射し, 株元で 4 5 Klx以上(光飽和条件)とし た. また, 2 0 oCと 40 oCでの光合成速度を測定

- 12-

(19)

した後に, 同化箱をH音幕でおおってl呼吸速度を測定した.

通気量は葉面積当たり約3L dm-2とし, 同化箱に設置された空気撹持装置に より箱内風速を o.3m sω-1,こ保った. 個体をポットごと同化箱に収容したので,

3cmのかんがい水を通して板お よび 土壌呼吸による二酸化炭素が放出されると 考えられるが, 測定時に水道水をかんがいすると, Jl<を通しての放出は本測定条 件では検出不能で あった. 光合成速度の測定が終了すると, ただちに根をていね いに洗い出して , それぞれの茎の根を上部3節根(上根〉とそれ以 下の節の根 (下根〉に分級して, 既述の方法で根の呼吸速度を測定した.

2. 材料と処理

品種目本晴とコシヒカリを開口部面積がa/3000(容量6 L)のポットで土耕栽 培した. ポット栽培を採用したのは, 個体の全部の根を採取するためである. 用 いた土(6.5kgpot-1)は, 根の 洗い出しを容易にするために, 水田土壌と砂を 2 : 1の割合で混合した. 地え付け苗数はlポット 1本とした. 以上の材料に対 して, 根の呼吸速度に変化を与える目的で次の処理を行った.

1 )深 水処理:移植後2 0日目にポットを大型水槽に沈め, 収穫期まで水深を 常に土面より1 0 cmに保った.

2 )透水 処理:透水速度が3 0 mm day - 1になるようにポットの下部より水を 滴下させ, これを捕集して再びかんがい 水の一部とした(処理 期間は深水処理と同じ)

3 )努葉処理:止業が完全展開した直後に, 上位3葉を残して, 1株全ての下 位葉を到除した.

施肥量はすべての処理共通で, 尿素人り硫化燐安4 8号(16-16-1 6)をポット 当たり6.3 g(3要素とも各1g)と珪酸石灰6gを基肥で与え, 追肥は行わなかっ た. また, 一部には基肥として化学肥料に加えて, 稲ワラ完熟堆肥を4 0 g pot-1 施す堆肥区も設け, これには移植後2 2日にo . 2 g po t・1 の窒素追肥を行った (移植日: 1 9 8 3年6月4日)

- 13-

(20)

結 果

1 . 高温による光合成速度の低下現象と根の呼吸速度との関係

まず, 根部の環境に変化,を与えた処理だけ を抽出して収量およびその構成要素 をみると〈第3-1表) , 深水 処理は穂数, 登熟歩合 が劣るために収量は著しく 減少したが, ポット栽培として通常の水管理をした浅水と透水処理とでは収量に 大差はなかった.

これらの水稲'について, 幼穂、形成期, 出穏期および登熟中期(出穂後 1 5--- 1 9 日〉の3時期に, それぞれの個体光合成速度を 測定しな が ら温度ストレスを与え たが, その結果を品種ごとに 第3-1図および第3 -2図に示し た. これら は, 個 体光合成速度を葉面積当たりで表示したが, その基本となる個体純光合成速度な

らびに個体 呼吸速度は第3-2表にまとめて 表示した.

本実験 で得られた温度と純 光合成速度との関係は, 第3-1, 3-2図のように すべて単頂曲線とな ったので, 光飽和のもとでの純光合成速度(Po) を温 度

(t)の2次関数として, Po=-at2+bt+c の一般式を与え, これによって各測定 例を整理し, 第3-3表にかかげた.

すべて の測定例とも上記し た一般式の適合は高く, 相関係数は0.9以上であっ た純光合成速度の最適温度は, 式の定数を用いてb/2aで、求める こ とができる.

こうして求めた最適温度は, 幼穂形成期におけるコシヒカリの深水処理を除けば,

両品種とも2 1 "-' 3 1 ocの範囲にあり, n寺期, 処理によって一定の傾向を発見す るこ とは困難で ある. また, 生育の初期 で高く, 後期において低下するという根 の呼吸速度の推移(第3-3表〉とも対応しない.

本実験における純光合成速度 は個体 光合成速度の測定結果か ら求めたので, 茎,

葉鞘などの非光合成器官のl呼吸速度が葉身の光合成速度を打ち消しているものと 考えられる. 事実, 単位葉面積当たりH予吸速度と純光合成速度との和である総光 合成速度を第3-1, 3-2図でみ ると, 明らかに 温度-純光合成速度関係とは異

なる傾向になっている.

-14-

(21)

第3-1表 水稲の生育および収量とその構成要素.

品種処理 処理月日 出穂、日最高分止葉1株精 収 量構成要素 開始~終了 げつ数葉位 籾匂)重 穂1株数 粒1数穏 精粒籾重千包)歩登合熟(%) 伺.日) (月.日) (月.日) (hill・1)

コシヒカリ

浅水6. 4---9.26 8.15 45.0 16 40.4 27.5 76.6 24.9 77.0 深水6.24 ---9.26 8.16 36.8 16 23.8 23.3 72.8 24.4 57.5 透水7. 5 "-' 9 . 26 8.16 49.6 16 40.2 28.5 70.0 26.5 76.1

日本晴

浅水6. 4,,-,9.28 8.23 54.4 17 35.4 25.0 66.4 25.1 85.0

深水6.24,,-,9.28 8.24 47.0 16 19.3 25.4 57.5 24.0 55.2 透水7. 5 "-' 9 . 28 8.23 52.8 17 36.3 25.2 63.7 26.6 85.1 浅水および透水処理の水深は1 "-' 3 cm.

- 15 -

(22)

門 戸・0 ・ ・ーロ _ .o�日 】

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10

F

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20 15

5

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10 15

5

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G一一0--ο\�O

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て冷71< ,・6 0

20

10 5 15

Mm判別部世・慣やポ

40 35

CC) 30

通風温度 25 20 20 0

10 5 15

40 35

CC) 20 25 30

通風温度 40

35 CC) 0

20 25 30 通風温度

第3-1図 温度と光合成速度および呼吸速度との関係.

品種:日本晴. 図中の数字は測定日(月.日).

口:総光合成速度1 0:純光合成速度, .:呼吸速度.

fhu 噌Eム

(23)

司 二。

?

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一一ー浸水 8.31 20

-‘

15 10

5 20 0

10 15

5 20 0

N 'E℃ (マ耳

NOυ凶日)

15

5

Mm制収忠世・慣や米

9.

2 40 35

9.

1

35 40 20 25 30

CC) 通風温度

20 25 30

.'.0・-ー'--- -0 ・・ 通風温度

6-9�

CC)

、o

�'X.�

20 0

5 15 10

9. 7

35 40

CC)

悶汀ぜ!

ノコ

0 20 25 30

通風温度

第3-2図 温度と光合成速度および呼吸速度との関係.

品種:コシヒカリ. 図中の数字は測定日(月.日).

口:総光合成速度, 0:純光合成速度, ・:呼吸速度.

司/1i

(24)

ー・ー

第3-2表 300Cにおける個体光合成速度(P)と個体呼吸速度(R)ならびに 根重に対する葉面積の比(F/RW).

コシヒカリ 日本晴

時期 処理 P R R/P F/RW P R R/P FIRW

(mgCO 2 plant -1 hつ (%) (dm2 gう (mgCO 2 plant -1 hつ (%) (dm2 gつ

幼穂形成期

浅水 415.7 146.0 35.1 4.70 555.5 156.8 28.2 4.69 深水 319.5 154.4 48.3 6.35 438.5 190.3 43.4 4.59 出穏期

浅水 298.0 108.5 36.4 1.51 244.1 125.8 51.5 1.34 深水 251.4 106.6 42.4 2.19 249.4 98.9 39.7 1.87 透水 267.5 107.9 40.3 1.67 112.9 48.7 43.1 1.14 登熟中期

浅水 164.6 57.5 34.9 1.15 143.7 48.3 33.6 0.52 深水 186.6 69.7 37.4 2.03 131.9 60.1 45.6 0.85 透水 175.8 74.3 42.3 1.11 144.5 43.9 30.4 0.46 列葉 100.1‘ 48.0 48.0 0.53 144.7 48.4 33.5 0.79

- 18 -

(25)

第3-3表 品種, 生育時期, かん水処理別の温度一純光合成曲線式(Po=-at2+bt+c) のa, b, Cイ直と相関係数, 最適温度CC), Po(mgC02 dm切っの最大値(PO max) ならび、に根の呼吸速度(Ro,mgC02g-1 h-1) , 窒素含有率および全糖含有率.

品種時期処理 aイ直 b値 c1直

コシヒカリ 幼穂、形成期

浅水 0.015 0.67 6.58 深水 0.011 0.35 9.97 出穏期

浅水 0.018 0.93 -1.14 深水 0.015 0.79 -1.35 透水 0.021 1.18 -7.04 登熟中期

浅水 0.021 1.14 -5.45 深水 0.024 1.31 -7.04 透水 0.010 0.47 4.85 見葉 0.028 1.35 -2.71 日本晴

幼穂形成期

浅7]( 0.018 0.94 1.01 深水 0.010 0.49 5.30 出穂期

浅水 0.011 0.45 4.12 深水 0.017 0.85 -1.75 透水 0.014 0.67 1.58 登熟中期

浅水 0.017 0.87 -1.84 深水 0.010 0.52 3.71 透水 0.033 2.03 -19.74 蒐葉 0.020 1.01 -1.34

相関 係数

0.906**

0.968**

0.996本本 0.965**

0.991 **

0.957本*

0.973**

0.944**

0.994**

0.966**

0.927**

0.996**

0.975**

0.974**

0.971 **

0.958本*

0.939**

0.956**

最適 温度

22.3 15.9

25.8 26.3 28.1

27.1 27.3 23.5 24.1

26.1 24.5

20.5 25.0 23.9

25.6 26.0 30.8 25.3

PO Ro

max

14.1 1.45 12.8 2.13

10.6 0.84 9.1 0.96 9.5 0.88

10.0 0.63 10.8 0.80 10.4 0.88 13.6 0.31

13.3 1.57 11.3 1.65

8.7 0.66 8.9 0.70 9.6 0.86

9.3 0.47 10.3 0.50 11.5 0.45 11.4 0.53

最適温度はb/2aにより求めた. PO max'ま(b 2+4ac) /4a により求めた.

** 1 %水準で、有意.

- 19-

窒素 全糖根部

1.13 0.58 1.39 1.23

0.90 1.80 1.03 1.58 0.86 1.04

0.75 1.89 0.97 1.45 0.75 2.24 0.79 0.76

1.19 0.23 1.26 1.11

0.76 1.07 0.90 0.86 0.80 1.27

0.57 1.55 0.77 0.60 0.57 1.44 0.69 0.92

(26)

いま, 各処理における呼吸速度と組皮との関係をQ 1011直で・示すと, 第3-4表の とおりである. 明らかにQ 10イ直は幼松形成j切に高く, 出穏期および登熟中期では 低下しており, この仰の共なることがさきの温度-純光合成速度関係にも影響を 与えている. さ らに, 問題としなければならないのは, 個体光合成速度に対する 個体呼吸速度の割合である. これは第3-2表に示し たとおりに35'"""52%に も達している. こうし た場合には , 純光合成速度に個体呼吸速度を個 体葉面積で 除した値を加えて, 1別立%面積当たりの総光合成速度として表示した方が光合成 速度をより確に表 現できると考えた.

そこで, 高組ストレスが光合成速!支に及ぼす影響を表示する方法と して, 3 0

OCと40 oCにおける総光合成速度の比(4 OOC/'3 OOC)を求め, これと上部3 節根(上根〉の呼吸速度との関係を第3-3図に示し た. 両者の聞には1 %水準 で有意な正の相関関係(0.732*つが認められた.

先に第3-3表で見た組皮一光合成速度関係式にも, 第3-3図の関係を介して

根の呼吸速 度は影響を与えている. つまり, 第3-3表の数式より純光合成速度 がOになる高温側の温度を求めると, ほとんどが45'"""550Cの範囲にあった.

この値と総光合成述皮の;j 0 oC 3 0 oC比との関係は第3-4図の とおりで, 相

関係数は0.726*本であった また, 第3- 4図の純光合成速度がO とな る高温側の 温度と根の呼吸速j立=との相関係数は0.790業本 であった.

2. 根の呼吸速度と蒸散速 度との関係

一般に吸水は蒸散に起凶する吸引正による受動的な部分と, 根の呼吸エネルギー に依存する積極的な部分とに分けてとらえる ことができる. ここで問題となるの は, 高温による蒸散述j交の促進に迫従し うる恨の|汲水能力である. つまり, 高温 ストレス下では積極的政水能)Jの高低が光合成速度の高温低 下現象に, より強く かかわっているものと考えられる.

この点を明らかにするために, 個体光合成速度の測定中に個体当たりの蒸散速 度を同化箱中で秤量して求めた. そして, 飽差当たりの蒸散速度 (蒸散能〉 を算

-20-

(27)

個体呼吸速度の温度係数(QI0) . 第3-4表

コシヒカリ 日本晴 理

f 山内

2.19 2.04

7](

7](

浅 深 幼穂形成期

2.40 2.03

1.60 1.60

7](

7](

71く

浅深透出穂、期

2.02 1.56

1.90 2.01

1.82 1.64

1.41 1.44

1.85 1.53

1.87 1.77

浅深透第 水水水葉 登熟中期

- 21 -

(28)

近乙J 1 . 2 Y=0.105X+0.864 [=0.732**

\ Cげコ】

ζ , てQ

1.1

I

制f 賢

司米

1.0 0.9

0.7 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 根の呼吸速度

(mgCO gLU 2 g ・1 h・1)

第3-3図 上部3節根の呼吸速度と300Cと400Cにお げる総光合成速度の比(400C/300C)との関係.

今''u今L

(29)

60

55 I

,,-.、

L、-JJ

住羽当 50

Y=25.35X+25.48 r=0.726**

40

0.7 0.8 0.9 1.0 1.1 1.2 1.3

総光合成速度の400C/300C比

第3-4図 300Cと400Cにおける総光合成速度の比

‘(400C /300C)と純光合成速度がOになる高 温側温度との関係.

司、d勺,U

(30)

出し, これ らの値を第3-5表に示した. この表をみると, 蒸散速度につ いて は 3 0 OC付近と4 0 OC付近では高温条件の方 が増加しているが, 蒸散能ではすべて の測定 において低温(3OOC)側 が大であった . 高温側では飽差に対応できるだ けの蒸散が行われていない ことがわかる. 通常の気温の日変化に出現する30 OC 付近の蒸散能でその個体の 蒸散能力を代表させ, これと根の呼吸速度とを対応 さ せてみると, 第3-5 図 に 示した とおり の関係が得ら れた. 供試材料の生育時 期 は出穏期と登熟中期のものであるが, この期間において根の呼吸速度〈上・ 下根 の加重平均値〉の高いもの ほど蒸散能 が高いといえる. つまり, 根の呼吸速度が 高い個体は吸水力が大で地上部への 水分供給力 が旺盛であるので, 第3-3図 に みられる関係が 成立するものと考えられる.

考 察

水稲葉身の温度-純光合成関係は, すでにYamada et al. (1955)が約19�

3 4 ocという広範囲に山を有する台形に近い形の単頂曲線で示されることを報告 している. また, 水稲個体を対象としても170C� 3 70Cでほぼ一定値をと るこ とが松島ら(1958 )によって明らかにされている. 他方, 村田(1961)は個葉 での温度一光合成関係は, 27,....,330C の範囲にピークを有するなだ らかな単頂

曲線であり, 4 0 oCでは明らかな高温低下現象のあることを認めている. また,

津野(1975)は光合成速度の 適温は生育時期により異なり, 根の機能が それ に 関与することを示唆した. 本実験においても水稲個体の純光合成速度適温は時期 により, また処理によ って異なることが第3-3表より指摘できる.

本実験の結果では, 第3-3図でみた とおり 根の呼吸速度が2. 0 mgC02 g-l h-1 以上を示す場合は, 総光合成速度は 30 oC よりも4 0 oC の値が高く, か つ, 純光 合成速度がOと なる高温域が高いという結果であった (第3- 4図). 光合成関 連酵素の最適温度, C02の葉肉への拡散速度などの点に限ってみれば, 3 0 oCよ りも4 0 oC の温度条件の方 が勝っている(1 sh i i e t al. 1977) . ただ, 4 OOCで

- 24-

(31)

第3-5表 各処理における蒸散速度(gH20dm-2 h-1)と単位飽差当たり蒸散速度 σ's, mgH20dm切ー1

Paう

コシヒカリ 日

本 晴

時 期

処理 温度湿度蒸散速度 Ts 温度 湿度 蒸散速度 Ts

eC)

(%)

eC)

(%)

幼穂、形成期

浅水 30.0 1.62 30.6 1.31

40.3 2.75 I 1.70 I 39.7 2.40

深水 30.8 1.48 30.7 1.37

40.1 2.50

I

1.69 I 39.9 2.28

I

1.66 I

出 穂 期 浅水

32.2 86 1.68 2.55 32.7 80 1.72 1.73

41.9 76 3.31 1.73 42.7 64 2.39 0.73

深水 32.7 85 1.60 2.18 32.5 85 1.69 2.33

40.2 74 2.09 1.05 40.5 72 2.54 1.20 透水 33.5 88 1.74 2.85 32.6 85 1.74 2.40

39.8 79 2.94 1.95 41.5 70 2.18 1.58

登熟中期

浅水 32.9 77 1.45 1.28 31.5 71 1.63 1.20

41.0 67 3.02 1.20 41.9 62 2.01 0.68

深水 32.5 78 2.06 1.95 31.0 80 1.40 1.58

40.0 77 2.74 1.65 41.8 66 1.54 0.60

透水 31.0 76 1.96 1.80 32.5 77 1.42 1.28

41.3 70 2.63 1.13 41.5 70 1.37 0.60

真葉

33.8 84 3.00 3.60 32.7 75 1.46 1.20

40.4 68 3.00 1.28 41.0 70 2.21 0.98

|内の数値は300Cに対する400Cの蒸散速度の比.

- 25-

(32)

Y=2.33X+0.19 r=0.859**

3.0

2.0 2.5

1.5

1.0

(マ

£一 'ZN 'E℃C

NE凶日)

Mm制消極純心リK知則州選

0.5

0.4 1.1 1.2

(mgC02 g-l h・1) 1.0 0.9 0.8 根の呼吸速度

0.7 0.6 0.5

第3-5図 根の呼吸速度と飽差当たり蒸散速度との関係.

蒸散速度は31.0"-' 33.5 ocで測定.

0:日本晴, ・:コシヒカリ.

- 26-

(33)

総光合成速度が低下したもの は蒸散速度の増大による水分不足(津野 1975)

が光合成速度に対して負の要因として作用したと考えられる. しかし, 根の吸水 力が強く, 葉内に水分供給が多くなされている場合は, この 温度条件での蒸散速 度の増大 は問題とならない(津野 1975) . 蒸散抑制による光合成速度の低下現 象の存在などから考えて, むしろ蒸散の促進はガス交換を促すとこ ろのプラスの 因子(津野1975)となる であろ う. したがって, 4 0 oC程度の高温による光合

成速度の低下は, いわゆる葉肉抵抗の増大によるものとは考えられず, 葉身 の水 分を保有しようとする気孔抵抗の増大〈石原ら1972 , 津野 ・杉本 1981)に原因 を求めるべきであり, これは第3-5表に示した高温側での蒸散能の低下に よっ

て裏付けられる.

また, 津野(1975)は根中の全糖含有率が高いか, ある いは葉面積(F)に対 して相対的 に 多 くの 根重(RW)を有するものが35 oCにおける気孔開度を大に して, 光合成速度の高いことを水稲で認めている. 糖は呼吸基質であると同時に 根細胞の浸透圧を通して吸水力と関連することが考えられる. また, 津野 ・ 鳥生 (1987) の報告にあるとおり, 根の呼吸 は積極的吸水に関与している. この こ とは, 本報告においても第3-5図の関係によって支持される.

そこで, 葉身に対する水分供給を根の質と量との2面より考察すると, 前者を 呼吸速度とみなし, 後者を根重に対する葉面積の比(F/RW)とおくことがで きる. いま, 第3-3図に挙げた総 光合成速度の400C/ 300C比を目的変数 (Y)とし, 根の呼吸 速度(R 0)とF/RWを説明変数として重回帰分析を行う と, 重回帰式は,

Y = 0.259 Ro - 0.070 (F/RW) + 0.831

とな り , 重 相関係数は0.813いで あった . さ らに標準偏回帰係数 はR0 :

1 . 8 0, F /RW : - 1 . 1 2であった. これより, 根の 呼 吸速度が強く高温低下 現象に関わる ものの , 葉面積:根重比も大きな意味を持ち, 葉面積に対して相対 的に根重が多いほど高温低下現象を軽減できるといえる. ただし, この場 合 の計

- 27 -

(34)

算ではRoとF/RWとは0.951**という相関関係があったことを念頭にお かなけれ ばならない. つまり , 幼穂形成期は葉面積に対して相対的に根重が少ない(第 3-2表〉が, 根の呼吸速度が高いた めにそれをカバーしている. 一方, 根の呼 吸速度の低下した登熟期 では相対的に根重が多くなって水分吸収を助け ているこ とが推察できた.

摘 要

ポット栽培した水稲根の呼吸速度に変化を与える ために深水, 透水, 努葉処理 を行い, 同化箱内気温 を200Cより400Cまで変化させて , 高温ストレスに よる 個 体光合成速度の低下現象と根の呼吸速度との関連性を明ら か にしよ うとした .

純光合成速度と呼吸速度の和であ る総光合成速度 について, 300Cの 値と400C の値とを比較すると, 根の呼吸速度が高い個体(2 .OmgCO 2g-1 h-1以上〉は, 400C の高温でも総光合成速度の低下はみられなかった. 根の呼吸 速度の低い個体では,

総光合成速度の高温低下現 象が顕著であった.

また, 根の呼吸速度とともに, 根重に対する葉面積の比( F/RW)も高温低下 現象に関与しており, 恨の呼吸速度が低下する登熟期では, 葉面積に 対して根重 の多いものほど高温低下現象を軽減できた.

- 28-

(35)

第2節 低夜温による水稲光合成速度の低下と根の呼吸速度との関係 わが国の立地と作期からみて, 水稲はその生育の初期 と後期において低温の影

響を強く受け, 諸々の生理活性は温度によって規制される面が強いと考えられる . 冷害に関する 研究は別として, 水稲に2, 3日間の低温処理(5'"'-'100C)を施 すと, 光合成速度は10'"'-'50%程度抑制され(雨 宮ら 197 6, Kishita ni and Tsunoda 1 974, 李ら 1975, 朴 ・角田 1983, 佐藤・ 金 1980, 田 中・吉富 1973, 田中・秋田 1976, 田中ら 197 7) , また, 他の縞物においても同様の現 象が認められている (Crookston et al. 1974 , Drake a nd Raschke 19 74, Izhar and Wallace 1967, 高ら19 78a, 1978 b) . さらに, 印度型および日印交雑型品 種は日本型品種よりも低温による光合成速度の抑制程度が大である との報告が あ る(雨宮ら 1976, 李ら 1975, 田中・秋田1976). これに関して, 同一品種で も生育時期により抑制程度 が異な ることが予想され, その抑制程度の強弱がし、か なる要因によって生じる かを明らかにした研究は見当たらない.

そこで, 低温に遭遇する頻度の高い夜間における 低温が翌日の光合成速度, 蒸 散速度に及ぼす影響 と, 特-に根の呼吸速度な らびに地上部の形質との関連につい て解析を行った(津野ら1989).

材料と方法

供試した材料 は日本型3品種(藤坂5号, ユーカラ, コシヒカリ〉および日印 交雑型2品種(密陽23号 , 水原2 5 8号〉の合計5品種を用いた. これらをaj 3000 (容量6 L)のプラスチックポットで土耕栽培し, 戸外で生育させた. 移植 は, ユーカラ, 藤坂5号は 1 9 8 7年5月2 8日, 他の3品種は6月3日に行っ た. 実験期間の平均気温は 6, 7月が平年値より約1 oC高く, 8 , 9 月は平年値

とほぼ同じであった.

穂首分化期より登熟中期に各品種の材料を午後7 時に気温1 0 oCに調節(湿度 90%以上〉した人工気象室に搬入し, 夜間1 2時間低温に遭わせた. この 時,

ny 司JU

(36)

一部のポットは根部のみを2 OOC に保温した. 低夜温処理は処理装置の都合で全 品種を同ーの生育時期にそろえることはで きなかった.

光合成速 度は, 個 体用同化箱(小糸工業製MC-90W)を用い, 株元照度

3 5 klx, 気温25 ocの条件下で測定し, その後, 同化箱に暗幕をか け て呼吸速 度を測定した. 処理終了後, 直ちに光合成速度の測定を開始したが, 測定順序は

①気温, 地温とも1 0 OC処理個体, ②気温1 OOC , 地温20 OC処理個体, ③無処 理個体とし, 1個体 の測定所要時間は約2時間であ った. また, 光合成測定個体 とは別のポット〈同様の低 夜温処理〉を戸外におき , その重量減を秤量した. こ れより, 同時間内における 無栽植のポットの重量減を差し引き, 蒸散速度を算出 した. 個体光合成速度, 個体蒸散速度ともに個体葉面積で除して, 単位葉面 積当 たりの速度として表示した. これは, 品種間, ある いは時期別での比較には, 葉 面積を基準とした速度が適切であると考え たからである.

さらに, 根は洗い出した 後, 既述と同様の方法で根の呼吸速度を測定した. 稲 体各部の乾物材料は, 全窒素はセミ ・ ミクロケルダール法で, 全糖はソモギ ・ネ ルソン法で定量した.

結 果

1 . 低夜温処理が光合成速度と蒸散速度に及ぼす影響

第3 -6表に各品種の処理時の地上部および地下部 の形質を 示した. 各品種と も茎数, 穂数からみて圃場栽培の個体と同程度以上の生育量を示した. ただし,

日印交雑型品 種の密陽2 3号と水原258号 は無効茎が多く発生し, 登熟期 の穂 数が幼穂分化期の茎数の約50%となった. また, 夜間1 0 oC, 1 2時間の 低温 処理後で葉色の変化や葉の萎凋等の外見的変化はみられなかった. しかし, 低温 処理個体の光合成速度と蒸散速度はともにすべての品種, 時期において程度の差

はあったが無処理個体よりも低下した.

まず, 低夜温処理後何時間まで蒸散速度が影響を受ける かを検討した. 第3-

- 30-

(37)

第3-6表 処理時における供試品種の地上部および地下部の諸特性.

種 出穂 地 上 部 地 下 部

口口

前後 茎数葉面積 SLA葉重茎重穂重呼吸速度窒素全糖根重 日数 (hilr1) (cm 2stem -lXcm 2g-1)一(g stem -1)一(mgC02i1 h-1) (%) (%)包hilr1)

ユーカラ -20 32.5 26.4 177 0.13 0.20 5.4 1.45 3.1 2.43 (7月19日) + 8 30.0 29.5 180 0.17 0.63 1.01 2.7 - 2.2 5.00

藤坂5号 -20 26.0 49.5 189 0.21 0.41 4.2 1.30 2.8 4.26 (7月26日) +19 21.0 28.1 153 0.19 1.00 1.62 1.6 - 2.3 4.88

コシヒカリ-32 24.0 42.6 209 0.23 0.30 5.3 - 2.8 3.25 (8月14日) + 6 21.3 78.4 174 0.41 1.59 0.44 2.0 - 2.5 6.17

密陽23号 -31 39.8 45.6 232 0.19 0.55 3.1 0.84 2.0 6.93 (8月23日) + 4 20.0 95.7 206 0.48 1.94 0.52 1.7 1.7 7.94

水原258号-17 44.5 52.7 213 0.26 0.69 2.1 0.74 2.3 6.95 (8月24日) +17 23.5 48.7 170 0.27 1.12 1.99 1.8 - 2.1 7.40

各数値は3個体の平均値. 出穂後の茎数は穏数. %は対乾物.

〉内は当該品種の出穂日.

-31-

(38)

6図は戸外自然条件下で測定した コシヒカリの蒸散速度で, 無処理個体の値に対 する相対値で示した. 気温, 地温 とも1 0 OC処理お よび気温1 OOC, 地温2 0 OC 処理個体 とも蒸散速度は大き く変動しながらも, 約6時間 後に無処理 個 体の約90

%まで回復し, そ の 後, 小さな変動を示しなが らほぼ90%の値を維持した. こ の変動は, 蒸 散速度に見合う水分の供給が不足した場合にみら れる現象(津野 1975, 田中・秋田1976)であり, 気孔の開閉運動に連動するもの と考えられる.

蒸散速 度の抑制は当然, 気孔抵抗の増大となって光合成速度を抑制する と推測で きるので, 処理後直ちに測定した 気温, 地温 とも1 0 OC処理個体の光合成速度の 値を解析の対象とした.

第3 -7表に, 個体葉面積当たり の純光合成速度, 呼吸速度, 両者の値を合計 した総光合成速度ならびに それぞれの処理後/処理前比率を示した. 穂、ばらみ期 間で低夜温による純光合成 速度の低下が最も 著しい のは密陽23号で, 次 いでブk 原258号であった. この 期間コシヒカリは影響を受けていない. 登熟期で低下 の著しい のは, やはり密陽23号で, 次いでコシヒカりとなり, 藤坂5号は無処 理と 大差がない. すべての品種の総光合成速度の低下度は純光合成速度 と同様の 傾向であった. 全般的にみて, 日印交雑型品種は低夜温による光合成速度の 低下 が大であった. 一方, 呼吸速度を みる と, 穂、ばらみ期で低下の著しい品種は, 水 原258号 とコシヒカリで, 他の3品種は影響を受けていなかった. 登熟期では 水原 258号, 密陽23号に約20"-'30%の低下がみられたが, 他は無処理と 大差のない値であった. n1吸速度においては, 水 原 258号のみが低夜温による 顕著な抑制が認められた.

次に, 低夜 温が蒸散速度に及ぼす影響について第3- 8表で検討した. 蒸散速度 はそれぞれの測定日が異なるので日射量, 気温が一定でなく, 品種間, 時期間で の比較は できないが, 無処理の値に対する処理の値の相対的比較は可能であ る.

蒸散速度は処理時の地温に関係なく低夜温処理により抑制された. 特に, 密陽23 号と水原258号の穂ばらみ期の処理個体は, 無処理個体に対して約50%程度

- 32-

(39)

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40 日射量 0.4 '8

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0・ J 0.0

G 2 4 6 8 10 12

処理後時間

第3-6図

低夜温処理後の蒸散速度の変化.

0:気温, 地温とも100C処理.

・ 気温100C, 地温200C処理.

品種:コシヒカリ. 1987年7月15日測定.

43 司令U

(40)

第3-7表 低夜温処理前後の個体葉面積当たり純光合成速度, 呼吸速度,

ならびに総光合成速度と処理前に対する処理後の比率(%)

口口口 種 出穂 純光合成速度 呼吸速度 総光合成速度 前後 (mgCO 2 dm -2 h-1) (mgC02dm-2h勺 (mgC02dm・2h-1) 日数 処理前処理後比率処理前処理後比率 処理前処理後比率

ユーカラ -20 21.2 17.6 83 7.8 7.8 100 29.0 25.4 88

藤坂5号 -20 14.7 12.0 82 4.6 4.6 100 19.3 16.6 86

+19 13.1 12.7 97 3.8 3.7 97 16.9 16.4 97

コシヒカリ-32 10.7 10.7 100 4.1 3.1 76 14.8 13.8 93

+ 6 12.6 10.7 85 2.5 2.3 92 15.1 13.0 86

密陽23号 -31 11.2 6.4 57 2.2 2.2 100 13.4 8.6 64

+ 4 9.7 6.5 69 2.6 2.1 81 12.3 8.6 70

水原258号-17 8.5 6.4 75 2.1 1.2 57 10.6 7.6 72

+17 9.5 8.3 87 4.4 2.9 66 13.9 11.2 81

低夜温処理は気温, 地温ともに100C.

-34-

(41)

第3-8表

口口

ユーカラ

藤坂5号

低夜温処理翌日の蒸散速度(gH20 dm-2 h-1)と無処理に対する比率(%).

出穂前 無処理 処 理 日寺 の 地 1n日E 測定

後日数 200C 比率 100C 比率 平均 比率 時間

-20 (17.9) (13.3 74 (12.9) 72 (13.1) 73 12.0

+ 8 5.41 3.42 63 4.12 76 3.77 70 9.5

-20 1.94 1.66 83 1.25 64 1.46 75 11.5

+19 6.20 4.37 71 4.69 76 4.53 73 0.5

コシヒカリ-32 0.61 0.52 85 0.45 74 0.49 80 11.0

+ 6 3.47 2.80 81 3.14 91 2.97 86 1.0

密陽23号 -31 0.96 0.43 45 0.44 46 0.44 46 10.5

+ 4 3.40 3.00 88 2.09 62 2.55 75 0.5

水原258号 -17 0.55 0.30 55 0.27 49 0.29 53 9.5

+17 2.94 2.41 82 1.47 50 1.94 66 0.5

〉内はgH20 plant-1 h-1で‘表不. 戸外自然条件下で測定.

- 35-

(42)

の蒸散速度にとどまった. 登熟期でも水原258号は他の品種に比べて強く抑制 されていた.

既述のとおり, 純光合成速度, 呼吸速度は個体での値を単位葉面積当たりで表 示しているので純光合成速 度が 個葉のそれより低い値となるので, 両者の和であ る総光合成速度を用いる方が光合成能力をよりよく示すと考え, 以下ではこ の値 を解析の対象とした.

第3-8表の相対蒸散速度と第3-7表の相対総光合成速度との関係は第3-7図 に示したとおりであった. 出穂、後1週間以内の2点を除いて, 穂ばらみ期 , 登熟 中期のものをこみにして, 密接な相関関係が得られ , 直線式で示すことができた.

回帰直線より外れた2点の測定時期は穂からの蒸散が盛んであるので, 葉身から の蒸散は抑制されて も穂の 蒸散速度が 抑制され ない場合には, こうした傾向をと るものと推察される.

2. 相対総光合成速度, 相対蒸散速度に関与する要因の解析

低温による光合成速度の低下が日印交雑型の2品種にお いてなぜ強くおこるの であろうか . 第 3-6表をみると, 日本品種に比べて日印交雑型品種は比葉面積 (SLA)が大で穂ばらみ期の根の呼吸速度が低いことがわかる

そこで, このSLAと根の呼吸速度(Ro)を説明変数とし , 相対総光合成速度 を目的変数とし て重回帰分析を行ったところ, 第3-9表に示すように決定係数 は0.774* (5 %水準で有意〉という結果が得られた. この2要因で相 対光合成速 度の変動の約80%を説明できる. また , これらの要因間の相対的関与度を 示す 標準偏回帰係数はSLA : -0 . 8 5, Ro : O. 5 0で, SLAは負の要因であるが よ り大きな値をとる. SLAとRoとの相関はr = O. 209 NSであり, 2要因は相互に独 立して関与する ものと考えられる. このことより, 低温に遭遇して も光合成速度 が低下しにくい個体 は, SLAが小(葉が厚い〉で, 根の呼吸速度が高いものであ

るといえる.

次に, 相対蒸散速度に関与する要因を重回帰分析によって検討すると, さ きの

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