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近年の高専入学者における,志望動機および進路意識に関する研究

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近年の高専入学者における,志望動機および進路意識に関する研究(𠮷村) 131

1.問題設定

かつて,工業高等専門学校(以下,「高専」と表記)は,1960年代に産業界からの工業系人材養 成の要望に応える形で設置が始まったこともあり,もっぱら即戦力の技術者養成機関とみなされて いた。中学校卒業者を受け入れ,工学系の1つの分野について5年間の専門教育を行い,卒業後は すぐに技術者として社会に送り出すことが前提とされていたのである。ところが近年では,必ずし もそうではない。例えば,1992年の高専専攻科設置開始以降,高専本科卒業者の進学率は上昇し(1)

(図1-1),近年の高専本科卒業者の大学・高専専攻科への進学率は4割程度となっている(文科省,

2019)。また,2019年4月現在,全国の国立工業高専43校の約3割にあたる13校において,「複合学科」

が導入されているが,これは「低学年時から複数の専門分野の基礎を学び,その後,自分に合った専 門分野に進むことができる学科(2)」というものである。多くの導入校の場合,1年次には全員が共 通カリキュラムを履修し,2年次進級時(もしくはそれ以降)に専攻選択を行う。

矢野ら(2015)が1976~2008年の国立工業高専卒業者を対象として行った調査によれば,高専へ の入学動機として主要なものは,「就職に有利」,「技術への興味」,「専門的知識を身につける」,「学 費の安さ」である。ところが近年においては,卒業後すぐに就職することが当然視されているわけで はなく,また,特に複合学科導入校においては,入学前に専攻分野を決めておく必要もない。近年の 中学生は,なぜ,また何を求めて高専に入学するのであろうか。

131

近年の高専入学者における,志望動機 および進路意識に関する研究

複合学科制度を採用する国立工業高専・A 校を例に

𠮷 村   薫

図 1

-

1.高専本科卒業者進学率および,高専専攻科設置校数の推移(3)

0 10 20 30 40 50

0.0 10.0 20.0 30.0 40.0 50.0

1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018

本科卒業者進学率(年度ごと, 単位:%) 専攻科設置校数(国立工業高専のみ)

(2)

2.先行研究の検討

高専への入学動機を扱った先行研究はほとんどなく,教育社会学分野においては,先述した矢野ら の研究(2015, 2018)が数少ない例といえる。これは,主に工業高校や大学工学部と比較した場合の,

高専教育の特徴に着目し,それが卒業後のキャリアへどのように影響しているかを,高専卒業者への 質問紙調査の結果から明らかにするものである。先述した,高専入学動機についての問いかけが,こ の質問紙調査においてなされている。

また,井上(2007)は,高専教育全般について述べる中で,自身が勤務する国立工業高専の受験生を 対象とした調査から,「将来の仕事を考えて」,「自分の好きなことができる」,「就職率の良さ」の3つを,

主な受験動機として挙げている。その他,高専を対象とした研究は,いくつかあるものの,その関心は,

高専での技術者教育への評価(例えば福政(2012),阪本(2013))や,高専卒業者の進路(例えば荒 木(2007))に集中しており,高専への入学動機に着目したものはほとんどみられない。また,理工系 への進学(例えば小倉ら(2012, 2013))については,すでにいくつかの研究がなされているが,いずれ についても,高校での文理分けや大学進学時の学部選びをテーマとしたものであり,高専を対象とした 研究ではない。高専への進学は,「中学校卒業者の理工系への進学」ととらえることができると考えら れるが,現在までの先行研究のほとんどが,高校から理工系大学への進学に焦点を当てたものである。

また,これまで筆者は,近年の国立工業高専への進学者における,進学動機や進路意識について調 査・研究を進めてきた。2017~2018年に,卒業生の進学率が極めて高い(7割程度),ある国立工業 高専において,教員および入学希望の中学生を対象とした調査を行っており,その結果,「専門分野 への興味」,「早く専門的な勉強が始められる」ということに加えて,「高専卒業後の進学」が,主要 な入学動機になっていることが示されている(𠮷村,2019)。

3.調査について

本研究においては,「複合学科導入校における,近年の高専入学者の入学動機および進路意識」を 明らかにする。先述のように,進学率が高い高専において,「卒業後の進学」が,高専への主要な進 学動機になっていたことから,高専入学者の進学動機が,各高専が有する特徴に影響されている可能 性があると考えられる。「進学率の上昇」と並んで,近年の高専に起きている大きな変化として「複 合学科の導入」が挙げられ,導入校においては,専攻選択時期が遅くなることから,「進路について は後から考えれば良い」,「とりあえず入学する」といった入学者が多くなるのではないかと考えた。

なお,本研究における「進路意識」とは,「自分自身の進路に関する希望や価値観,進路設計の状況」

とし,例えば,「大学に進むことは必要かどうか」,「将来,どのような職業に就きたいと思っている か」,「どの時期に,どの段階まで詳しく,進路を選択する(した)か」等といったことが該当する。

基本的に高専への入学に直接関係することに限定した「入学動機」に対して,「進路意識」は,高専 卒業後も含めた,より広い意味での,自分自身の進路に対する考え方であるといえる。

(3)

近年の高専入学者における,志望動機および進路意識に関する研究(𠮷村)

すなわち,本研究における調査対象の条件は「複合学科導入校の新入生」であり,この条件を満た す,国立工業高専のA校を調査対象校とした。A校は,1960年代前半に設置されており,専攻科設 置は2000年代前半である。そして,2010年代前半に複合学科を導入した,この制度における先駆け 的な存在である。近年の卒業者の進学率は,全国平均よりもやや低い3割程度であり,2019年卒業 者の場合は28.3%である。調査設計開始時点で,複合学科が導入されていた工業高専は他にほとんど なく,調査への協力が得られたA校を,調査対象校とした。図3-1.に,調査日時点における,A校 の学科制度を示した。A校においては,入学時に,学生本人の希望に基づく「仮学科」を決めるもの の,これは形式的なもの(4)であり,1年生は,仮学科に関係なく,全員が混合クラスで共通カリキュ ラムを履修する。そして,2年次進級時に学科選択を,4年次進級時にコース選択をそれぞれ行う。

なお,この調査は,近年の中学生が高専を志望する動機や過程を明らかにすることを目標として筆者 が取り組んでいる,一連の研究の一部であり,同時期に,同様のテーマの調査を,複数の高専におい て,入学希望の中学生や高専教職員,高専卒業者等に対しても行っている。

3

-

1.調査の概要

調査の概要を,表3-1に示す。この調査は,2度に分けて行われており,第1回は2018年2月,

第2回は2018年8月である。それぞれ,調査日時点の本科1年生を対象としており,第1回は2017 年度入学者,第2回は2018年度入学者がそれぞれ回答している。第1回の対象学生数は185名,有 効回答数は167名(回収率90.3%),第2回の対象学生数は198名,有効回答数は186名(回収率

93.9%)である。2回の調査によって得られた回答の分布に,ほとんど差がみられなかったことから,

本研究においては,2回の調査を合算したデータを用いて,分析および考察を進める。

図 3

-

1.A校の学科制度(5)

(4)

3

-

2.分析および考察

3-2-1.進学動機

表3-2より,8割以上の者が,中学2年生以前の早い段階で高専を知っていた一方で,受験や志望 学科(8)の決定時期については,過半数が中学3年生以降であったこと,特に志望学科については,

半数近くが中学3年生の9月以降に決めていたことがわかる。これらの時期について正確に考察を行 うには,他の高専でも同様の調査を行い,比較することが必要であろう。ただし,志望学科を選択す る時期については,複合学科を導入していない,多くの高専において,志望学科がある程度決まって いることを前提とした説明会や体験入学会が,例年6~8月頃に行われていることから判断して,比 較的遅いのではないかと考える。複合学科導入校は,非導入校と比較して,学科(専攻分野)選択時 期がおよそ1年後ろ倒しになるが,その影響があらわれている可能性が否定できない。

表3-3より,高専への進学動機として多く選ばれた項目(9)は,「就職実績」,「工学を専門的に学べ る」,「進学実績」,「早く工学を学びはじめられる」,「大学編入試験」,「人に勧められた」の6つであ る。このうち,「工学を専門的に学べる」については工業高校へ,「早く工学を学びはじめられる」に ついては普通科高校を経て大学理工系学部へ進んだ場合との比較として,ともに,A校に限らず,高 専の学校説明会等においてたびたび取りあげられる,高専の制度的な特長である。これらのことに魅 力を感じた中学生が,高専に集まっているということであろう。

表3-4より,学科の志望動機として多く選ばれた項目は,「分野への興味や関心」,「将来就きたい 職業との関連性」,「就職実績」,「社会的に重要な分野だと思った」,「進学実績」の5つである。「分 野への興味や関心」,「将来就きたい職業との関連性」が主要な動機となっていることから,正式な学

表 3

-

1.調査の概要(第1回調査,第2回調査の合算)

② 標本抽出 なし(悉皆調査)

③ 調査方式 質問紙調査(無記名・自記)

④ 対象学生数(6) 383名

⑤ 有効回答数(7) 353名

⑥ 回収率(=⑤/④×100) 92.2%

⑦ 回答者男女比 男性77.3%,女性22.7%

表 3

-

2.受験決定時期等(11)

中学入学前 中学1年 中学2年 中学3年

(8月まで) 中学3年

(9月以降) 計(n)

① 高専を知った 38.0 26.6 19.8 11.0 4.5 100.0(353)

② 高専受験決定 7.3 11.7 22.8 32.5 25.7 100.0(342)

③ 志望学科決定 2.3 6.7 13.7 33.9 43.3 100.0(342)

(5)

近年の高専入学者における,志望動機および進路意識に関する研究(𠮷村)

科選択時期が遅い複合学科導入校においても,「自分の興味に合う分野」,「将来就きたい職業」等の,

自身の将来に対する検討が,中学時点ですでに行われていることがわかる。

A校は,高専全体の平均と比較して,本科卒業時の就職率が高いため,「就職実績」が,入学・学 科選択の両方において,特に主要な動機になっていると考えられる。そして,「進学実績」についても,

過半数の回答者にとって,入学・学科選択動機となっている。本調査では,志望動機の順位付けを求 めていないため,「進学実績」が,他の動機に比べてどの程度大きかったのかを知ることはできない。

ただし,「卒業後の進学」を動機のひとつとした高専進学者が,一定程度存在することが明らかになっ たといえる。先述した,矢野らの調査(2015)においては,高専への進学理由として「大学に編入学

表 3

-

3.高専への進学動機(出願時点)(12)

該当 やや該当 やや非該当 非該当 計(n)

① 就職実績 62.8 24.4 7.4 5.4 100.0(352)

② 工学を専門的に学べる 58.4 31.3 4.0 6.3 100.0(351)

③ 進学実績 46.3 28.0 14.9 10.9 100.0(350)

④ 早く工学を学びはじめられる 42.5 32.5 13.7 11.4 100.0(351)

⑤ 大学編入試験 38.4 27.8 17.2 16.6 100.0(349)

⑥ 人からの勧め 23.4 33.1 15.1 28.3 100.0(350)

⑦ 学費 15.3 22.0 25.1 37.6 100.0(346)

⑧ 過去に訪れたイベントの印象 12.9 22.1 23.5 41.5 100.0(349)

⑨ 研究室生活 12.9 20.9 29.1 37.1 100.0(350)

⑩ 学生寮 11.7 10.0 15.1 63.2 100.0(351)

⑪ コンテスト(ロボコン等) 9.0 15.0 31.8 44.2 100.0(346)

表 3

-

4.学科選択の動機(出願時点)

該当 やや該当 やや非該当 非該当 計(n)

① 専門分野への興味や関心 73.4 18.1 2.5 5.9 100.0(353)

② 将来就きたい職業との関連性 50.4 33.2 7.2 9.2 100.0(349)

③ 就職実績 49.1 26.1 12.6 12.1 100.0(348)

④ 専門分野の社会的重要性 36.3 39.5 14.1 10.1 100.0(347)

⑤ 進学実績 35.1 28.6 18.6 17.7 100.0(350)

⑥ 人からの勧め 20.6 24.1 19.8 35.5 100.0(349)

⑦ 入学難易度 5.7 21.8 23.6 48.9 100.0(348)

⑧ 友人や先輩と同じかどうか 2.9 8.6 24.3 64.3 100.0(350)

⑨ 女子学生の比率 2.3 8.6 19.8 69.3 100.0(348)

⑩ 入りたい研究室がある 2.0 11.5 35.7 50.7 100.0(347)

(6)

できる」を選択した者は,最も割合が高かった2005~08年卒業者の世代群であっても,12.6%(10)に とどまっており,これと比較しても,十分に高い割合といえよう。

3-2-2.出願時点の進路意識

表3-5に,出願時点の進路意識の集計結果をまとめたが,ほとんどの項目について,肯定的な回 答が多い。表中の④,⑦,⑧の3項目すべてにおいて,肯定的な回答が50.0%を超えているため,「高 専で何を学びたいかが決まっていた」と答えながら,「1年生の間に学びたいことを見つけられれば 良いと思った」,あるいは「高専で,自分が何をしたいのかを見つけたいと思った」と回答している 者が存在していることになり,一見すると矛盾しているように思われる。理由として考えられるのは,

彼らが中学時点で決めている「学びたいこと」,「したいこと」と,高専入学後に決めようとしている

「学びたいこと」,「したいこと」の広さ,深さに違いがあるということである。つまり,中学時代に,

漠然と「○○の分野を学びたい」と決めておき,高専入学後に,「〇〇の分野の中でも,特に ×× に ついて学びたい」というように,さらに絞り込みたいということであろうと考えられる。A校の場合,

2年次進級時の学科選択,4年次進級時のコース選択というように,進路選択の機会が複数回設けら

表 3

-

5.進路意識(出願時点)

該当 やや該当 やや非該当 非該当 計(n)

① 高校よりも高専に進む方が,自分の将

来の希望をかなえやすい 59.5 27.9 6.8 5.7 100.0(351)

② 理系に進みたかった 50.1 23.8 13.6 12.5 100.0(353)

③ 工学系に進みたかった 49.0 29.9 10.8 10.3 100.0(351)

④ 高専で,自分が何に向いているのかを

見つけたい 41.0 39.9 10.0 9.1 100.0(351)

⑤ 高専で,自分が何をしたいのかを見つ

けたい 36.9 35.7 16.0 11.4 100.0(350)

⑥ 本科卒業後,大学に進学したい 32.7 24.4 24.1 18.8 100.0(352)

⑦ 高専で何を学びたいかが決まっていた 28.6 33.1 27.7 10.6 100.0(350)

⑧ 1年生の間に学びたいことを見つけら

れれば良い 27.1 36.9 21.7 14.3 100.0(350)

⑨ 高専で,自身の理系や工学への適性を

試したい 25.1 44.0 21.4 9.4 100.0(350)

⑩ 本科卒業後,すぐに社会に出たい 22.1 26.1 29.5 22.3 100.0(349)

⑪ 本科卒業時に希望の職業に就けるなら

ば,大学に行く必要はない 20.0 27.1 28.9 24.0 100.0(350)

⑫ 志望学科の学問分野やカリキュラムに

ついて把握できていた 19.1 40.0 29.4 11.4 100.0(350)

⑬ 本科卒業後,専攻科に進学したい 7.7 20.8 37.6 33.9 100.0(351)

(7)

近年の高専入学者における,志望動機および進路意識に関する研究(𠮷村)

れており,1年次には学科選択に備えた,2~3年次にはコース選択に備えた,各分野に関する概論的 な科目が設置されている。そのため,段階的な進路選択を前提として,「一通り学んでから,細かな 選択をしたい」という学生が多くなると考えられる。

3-2-3.複合学科制度および,現在の学校生活に対する所感・評価

表3-6および表3-7より,91.3%の者が,「入学後に学科変更ができる制度は必要」と考えており,

37.7%の者が,1年生の間に「学科変更をしたい」と思ったことがあり,13.8%の者が,実際に学科

変更することを決めている。2回の調査ともに,正式な学科選択を行う前であるため,「入学時の仮 学科に残ることを希望したものの,選考の結果,学科を変更しなければならなくなった」というケー スは含まれていない。また,「変更が決まっている」という場合についても,調査日時点において,「本 人の意識として,変更を決めた(2年進級時の正式な学科選択の時に,入学時の仮学科とは違う学科 を希望すると決めた)」という意味である。ほとんどの者が学科変更制度を必要と考える一方で,実 際に変更に踏み切るのが13.8%というのは,低い割合のように思われる。ところが,複合学科非導入 校の場合,転科試験を経て学科変更をする者は,多くても5%程度であり,これと比べれば,十分に 高い割合であるといえる。表3-7の2項目について,他の調査項目との関連性を,クロス表を作成し て検討したが,特に強い関連を示すものは見つからなかった。すなわち,必ずしも「入学した仮学科 が合わないと気づいたから変更する」ということではなく,3-2-2にも示したように,そもそも学科 変更ができることを前提とした,「1年生の間に学びながら学科を決める」と考える者が,一定数い ると考えられる。表3-6に示したように,「専攻したい分野以外の工学も学びたい」という内容の項

表 3

-

6.学科制度に対する所感,高専での学び方に対する希望等(調査日時点)

該当 やや該当 やや非該当 非該当 計(n)

① 入学後に学科変更ができる制度は必要 63.5 27.8 7.1 1.7 100.0(353)

② 自分が専攻したい分野と近い,工学の

他分野も学びたい 44.9 41.2 10.8 3.1 100.0(352)

③ 中学生の頃と比べて,工学(自分が専

攻したいと思う分野)が好きになった 36.5 45.6 13.0 4.8 100.0(353)

④ 自分が専攻したい分野にこだわらず,

工学全般を広く学びたい 30.7 40.3 23.9 5.1 100.0(352)

⑤ 中学校の授業と現在の高専での授業

に,関連性があると思う 22.4 44.3 27.6 5.7 100.0(352)

表 3

-

7.入学後の学科変更状況(①:A校入学~調査日時点,②:調査日時点)

該当 やや該当 やや非該当 非該当 計(n)

① 変更したいと思ったことがある 22.0 15.7 16.6 45.7 100.0(350)

② 変更が決まっている 13.8 0.0 0.0 86.2 100.0(318)

(8)

目(表中②,④)に肯定的な回答が多く集まったのも,「学科選択に向けて,さまざまな経験を積み たい,情報収集をしたい」ということが,要因の1つになっていると考えられる。

表3-8より,A校への満足度は全体的に高く,また,表3-9より,「下の世代にA校を勧められる かどうか」ということについても,おおむね肯定的であった。ただし,表3-10に示したように,「専 門科目の授業への満足度」と,「A校を下の世代に勧められる度合い」の関連は弱く,同様の傾向が,

表 3

-

8.A校での生活に対する満足度(調査日時点)

満足 やや満足 やや不満足 不満足 計(n)

① 設備,環境 38.9 42.9 10.5 7.7 100.0(352)

② 部活動 38.0 34.7 17.7 9.6 100.0(271)

③ 授業(専門科目) 37.9 51.9 6.3 4.0 100.0(351)

④ 学校行事 37.0 43.9 12.5 6.6 100.0(351)

⑤ 授業(一般科目) 26.4 49.1 17.0 7.4 100.0(352)

表 3

-

9.A校を下の世代に勧められる度合い(調査日時点)

10(とても勧めたい) 5.8

9 7.2

8 22.8

7 23.6

6 9.8

5 10.1

4 6.9

3 5.8

2 2.9

1(全く勧めたくない) 5.2

計(n) 100.0(347)

表 3

-

10. 「専門科目の授業に対する満足度(13)」と「A校を下の世代に勧められる度合い(14)」の 関連性

満足 やや満足 やや不満足 不満足 計(n)

9, 10(勧めたい) 57.5 31.3 4.5 6.7 100.0( 45)

7, 8 40.9 54.1 3.0 2.0 100.0(159)

5, 6 33.5 52.0 11.5 3.0 100.0( 69)

3, 4 32.0 52.4 10.9 4.7 100.0( 44)

1, 2(勧めたくない) 7.3 70.8 7.3 14.6 100.0( 28)

n=345,p<0.01,Cramer’s V=0.19

(9)

近年の高専入学者における,志望動機および進路意識に関する研究(𠮷村)

表3-8の他の項目と,「A校を下の世代に勧められる度合い」の間においてもみられた。

3-2-4.高専卒業後の進路

表3-11に,希望する最終学校段階について示した。最も多かった回答は①の「高専本科まで」

(42.7%)であるが,表中②の「高専専攻科」から,⑦の「大学(編入)→大学院(博士)」までの 6項目の合計が55.2%であるため,過半数が進学を望んでいることになる。また,表3-12に,職種 ごとの希望度合いについてまとめた。職種同士の関連性の強さを多重クロス表にて検討したところ,

やや曖昧ではあるものの,おおむね「企業・研究機関志望(表3-13の①~③)」,「大学教員志望

表 3

-

11.希望する最終学校段階(調査日時点)

① 高専本科 42.7

② 高専専攻科 8.6

③ 大学(編入) 33.2

④ 高専専攻科→大学院(修士) 1.1

⑤ 大学(編入)→大学院(修士) 4.9

⑥ 高専専攻科→大学院(博士) 1.4

⑦ 大学(編入)→大学院(博士) 6.0

⑧ その他 2.0

計(n) 100.0(349)

表 3

-

12.職種ごとの希望度合い(調査日時点)

なりたい ややなりたい あまりなりたくない なりたくない この職業を知らない 計(n)

① 企業の技術者 47.4 34.5 11.1 3.5 3.1 100.0(287)

② 企業の研究開発者 29.3 43.9 17.1 6.3 3.1 100.0(287)

③ 研究機関の研究者 23.2 35.6 26.6 10.7 3.5 100.0(289)

④ 公務員(③,⑤を除く) 14.6 32.1 26.5 21.3 5.2 100.0(287)

⑤ 大学等の研究者,教員 8.4 21.0 31.8 34.6 3.8 100.0(286)

表 3

-

13.「研究者希望の度合い(15)」と「希望学歴(16)」の関連性 希望学歴高専本科 希望学歴

大学・高専専攻科 希望学歴

大学院 計(n)

研究者希望―あり 45.5 46.0 8.4 100.0(202)

研究者希望―なし 39.1 56.3 4.7 100.0( 64)

n=266,p=0.30,Cramer’s V=0.10

(10)

(同④)」,「公務員志望(同⑤)」の3つに分かれた(どの職種に対しても肯定的な回答をした者が2 割程度みられたため,はっきりと分かれることはなかった)。一般的に,研究職に就くためには,大 学院修了以上の学歴が求められるが,表3-13より,研究職を志望する度合いと,希望する最終学校 段階の関連は弱く,研究職志望者が,大学や大学院への進学を望んでいるとは限らない。さらに,「学 費が高専を志望する理由になったかどうか」(表3-3の⑦)を投入した三重クロス表を作成し,家庭 の経済状況に基づく影響の有無を検討したが(表3-14),こちらにおいても,特に関連はみられなかっ た。高専1年生(15~16歳程度)の段階では,なりたいものがあったとしても,必ずしもそのため に必要な準備(例えば「どの学校段階まで行く必要があるのか」等)まで理解が進んでいない,ある いは,職業そのものについての理解が形成途上にあるのではないかと考えられる。

4.まとめ

A校の本科1年生における,高専進学の主要な動機は,「就職実績」や「進学実績」,「工学を専門 的に学べる」,「早く工学を学びはじめられる」,「人に勧められた」の6つ,学科選択の主要な動機は,

「分野への興味や関心」,「将来就きたい職業との関連性」,「就職実績」,「社会的に重要な分野だと思っ た」,「進学実績」の5つであった。また,進路意識に関しては,多くが「高専で学びたいこと」を決 めて進学しながら,一方で「高専進学後に,学びたいことを見つけたい」とも考えていた可能性が示 された。決して,「進路については後から考えれば良い」,「とりあえず入学する」という意識のもとに,

A校への入学が行われていたわけではなかった。A校は,入学後に時間をかけて,段階的に学科や細 かな専攻分野を決めていくため,学生の意識としても,出願時点では大まかなところまで,1年生の 間にもう少し細かなところまで,というように,段階を踏んだ進路選択が行われていくと考えられる。

多くの者が,入学後の学科選択制度を必要であると感じており,実際に,入学前の志望学科とは異な る選択をする者も,一定数存在した。過半数の者が,A校卒業後の進学を望んでおり,希望する職種 として特に多かったのは,企業の技術職や,企業や研究機関の研究職であった。

本調査からはまた,15歳のA校1年生の職業や進路に対する理解が,形成途上にある可能性も示 された。たとえ,なりたいものが決まっていたとしても,そのために必要な準備について,同じよう に理解が進んでいるとは限らない。中学校と高専のカリキュラムが大きく異なっていることもあり,

表 3

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14.「研究者希望の度合い」と「希望学歴」,「家庭の経済状況(学費考慮の有無)(17)」の関連性(18)

希望学歴高専本科 希望学歴

大学・高専専攻科 希望学歴

大学院 計(n)

研究者希望―あり 学費考慮―あり 42.4 50.6 7.1 100.0( 85)

学費考慮―なし 47.9 42.7 9.4 100.0(117)

研究者希望―なし 学費考慮―あり 26.3 68.4 5.3 100.0( 19)

学費考慮―なし 44.4 51.1 4.4 100.0( 45)

n=266,p=0.26,Cramer’s V=0.16

(11)

近年の高専入学者における,志望動機および進路意識に関する研究(𠮷村)

中学生の時点で,高専での学びや理工系職について得られる知識,あるいは想像できうる範囲には,

どうしても限界がある。表3-5にも示したように,出願時点で,志望学科の学問分野等について把握 できていたのは,約6割にとどまっている(表中⑫)。このような事情からも,高専入学後,工学を 学び始めてからの進路変更に柔軟な複合学科は,有用な制度であると考えられる。

本調査で得られた調査結果が,他の(特に複合学科を導入している)高専においても同様にいえる ことであるのかについては,今後十分に検討をする必要がある。また,高専入学者の入学動機や進路 意識についてさらに考察を深めるにあたり,これまでに調査を行ってきた,高専に直接の関わりがあ る人々だけではなく,中学校の教員や高専卒業者を受け入れている大学の教員等,あるいは,高専進 学者が進路の選択肢の一つとして検討したであろう,高校の関係者等に対しても,調査を行い,検討 する必要があると考える。引き続き,調査・研究を進めていきたい。

注⑴ 専攻科設置校の増加に伴って,大学編入枠も増えており,2017年の高専本科(国内の全57校)卒業者に おける進学者の内訳は,約6割が大学編入,約4割が専攻科進学である(文科省,2018)。

 ⑵ 中学生向けのパンフレットである,「「高専」という選択。高専ガイド」(高専機構,発行年不明(2017年 9月入手))に記載されている,「複合学科」の説明である。同様の表現が,高専機構が発行する他の資料や,

各高専での学校説明会においても,「複合学科」の説明に用いられている。

 ⑶ 「高専本科卒業者進学率」については,学校基本調査(文科省)を,「高専専攻科設置校数」については,

各高専のホームページに記載されている,専攻科設置年を参考にし,𠮷村が作成した。

 ⑷ 推薦入試で入学する場合に限り,学生本人が希望すれば,2年次進学時に仮学科と同じ学科に必ず進むこ とができる。ただし,推薦入学者も,一般入学者と同様に,仮学科とは異なる学科に進むことが認められて おり,また,入試区分による1年次のカリキュラムの違いは一切ない。

 ⑸ A校の学校案内をもとに,𠮷村が作成した。なお,表内での呼称については,便宜上𠮷村がつけたもので あり,実際のものとは異なる場合がある。また,1年次の所属学科は入学時に定める仮学科であるが,1年生 の授業がすべて,混合クラスで行われることから,本図には記載していない。

 ⑹ A校のホームページに記載されている,「学生現員」に基づく。

 ⑺ ④の「対象学生数」から,「調査当日の欠席者数」および,「全員に回答を求めた質問への回答数が,30箇

所(約3分の1)未満の質問紙の数」を引いた数とした。

 ⑻ A校の場合,例年入学者の大半が推薦入試を受験しているため,ここでの「志望学科」は,1年次の「仮学科」

に限定された,実際の進学学科とは無関係なものではなく,2年次以降に正式に進むことを想定したもので ある可能性が高いと考えられる。

 ⑼ 「該当」,「非該当」の合計が50.0%以上の項目とする。以降の表についても同様。

 ⑽ 4件法で該当の有無を尋ね,「とてもあてはまる(最も該当側)」と回答した者の割合である。

 ⑾ 表中の各数値は,回答者数nを母数とした割合(単位:%)である。他の集計表についても同様。

 ⑿ 各項目について,内容を損なわない範囲で要約している箇所がある。他表についても同様。

 ⒀ 表3-8の③を使用した。

 ⒁ 表3-9について,10段階を「10, 9」,「8, 7」,「6, 5」,「4, 3」,「2, 1」の5段階に整理した。

 ⒂ 表3-12の②について,「該当」および「やや該当」→「あり」,「やや非該当」および「非該当」→「なし」

として整理した。表3-14についても同様。

 ⒃ 表3-11について,①→「高専本科」,②,③→「高専専攻科・大学」,④~⑦→「大学院」として整理した。

表3-14についても同様。

 ⒄ 表3-3の⑦について,「該当」および「やや該当」→「あり」,「やや非該当」および「非該当」→「なし」

(12)

として整理した。

 ⒅ ここに示した表では,「研究者希望」のデータを表3-12の②「企業の研究開発者」としたが,表3-12の③「研 究機関の研究者」のデータと入れ替えて三重クロス表を作成しても,ほぼ同様の傾向がみられた。

参考文献等一覧

(書籍,論文,文書等)

荒木光彦,2007,『技術者の姿-技術立国を支える高専卒業生たち』,世界思想社.

井上雅弘,2007,「高専教育に携わって思う我が国の技術者教育」『工学教育』第55巻3号,pp. 11-16.

小倉康,後藤顕一,猿田祐嗣,松原憲治,西村圭一,2012,「理系のキャリア意識と理系進路の意識形成過程」『日 本科学教育学会年会論文集』Vol. 36,pp. 408-439.

小倉康,西村圭一,後藤顕一,松原憲治,猿田祐嗣,2013,「理系のキャリア意識と理系進路の意識形成過程(そ の2)」『日本科学教育学会年会論文集』Vol. 37,pp. 440-441.

阪本甚三郎,2013,「高専卒業生から見た高専教育の振り返りと今後の高専教育への期待」『工学教育』第61巻1号,

pp. 224-227.

独立行政法人国立高等専門学校機構,発行年不明(2017年9月入手),『「高専」という選択。高専ガイド』.

福政修,2012,「高等専門学校における技術者教育の歩み」『電気設備学会誌』第32巻5号,pp. 328-332.

文部科学省,「学校基本調査-結果の概要(高等教育機関)」(平成12~令和元年度版)

文部科学省,2018,「国立高等専門学校の現状等について」(高等教育調査研究協力者会議「第4期中期目標期間 における独立行政法人国立高等専門学校機構運営費交付金の在り方に関する検討会(第1回)」資料)

矢野眞和,濱中義隆,浅野敬一他,2018,『高専教育の発見―学歴社会から学習歴社会へ』岩波書店.

矢野眞和,濱中義隆,新谷康浩他,2015,「高専におけるエンジニア教育とキャリアの接続関係」『日本教育社会 学会大会発表要旨収録』第76集,pp. 240-243.

𠮷村薫,2019,「なぜ今,中学生は国立工業高専に進むのか ―現職国立工業高専教員へのインタビュー調査か ら―」,『早稲田大学大学院教育学研究科紀要別冊』,早稲田大学大学院教育学研究科,第27号-1,pp. 147- 157.

(ホームページ等)

独立行政法人国立高等専門学校機構ホームページ

http://www.kosen-k.go.jp/ (2020年4月1日確認)

各高専のホームページ(ホームページ上にある入試要項,学校案内を含む)

※URL省略 (2020年4月1日確認)

参照

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