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研究リポート

IT

IT

IT

IT革命とは?

革命とは?

革命とは?

革命とは?

―超長期的な視点からの考察

超長期的な視点からの考察

超長期的な視点からの考察

超長期的な視点からの考察―

2001 N 8 Ž

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〔要旨〕

1. 200年以上という非常に長期的な視点から、インターネットを中心と した近年の技術進歩とそれによってもたらされる社会の変化である 「IT革命」について考察を行なった。具体的には、IT革命はなぜ起 こったのか、IT革命とは何か、どういう影響が社会にもたらされる可 能性があるのかを考察した。 2. なぜ起こったのか:IT革命を引き起こすような社会的な変化があり、 IT革命が起こったわけではない。インターネットを支えているのは、 基本的にコンピュータ技術であり、コンピュータ技術の進歩の必然的 な帰結としてIT革命が起こったものと考えられる。 3. IT革命の最大の特徴は、ネットワークの有用性は利用者数の2乗に比 例するというメトカーフの法則の影響のもとに進んだことである。メ トカーフの法則のもとでは、利用者の増加がさらに利用者の増加をも たらすため、インターネットは過去に例のないスピードで普及したと 考えられる。 4. IT革命とは何か:IT革命により組織間、社会全体の情報化が可能に なった。その点で、IT革命はコンピュータの利用を新たなフェーズに 移すものといえよう。 5. どういう影響を社会にもたらすのか:IT革命によって達成される経済 成長は、19世紀後半に発明された技術の進歩によって起こったとさ れる第2次産業革命を大幅に越えるものではないと思われる。 6. IT革命は、産業・経済よりも、非営利のコミュニティー活動などに対 してより大きな変化をもたらす可能性を持っていよう。また、これま で技術進歩の恩恵をあまり受けてこなかった産業に大きな影響を与え る。 調査研究部 主事研究員 近藤佳大 tel: 03-5281-7562 fax: 03-5281-7512 e-mail: yoshihiro_kondou@fuji-ric.co.jp

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〔目次〕 はじめに... 1 1.産業革命以降の経済成長... 4 (1)1人あたり生産量の成長率... 4 (2)全要素生産性... 5 (3)資本蓄積... 7 2.技術進歩をもたらした社会的背景... 8 (1)技術進歩の要因... 8 A.産業革命の背景... 8 B.第2次産業革命の背景 ... 9 C.IT革命の背景... 9 (2)技術進歩を促進する要因の分類...10 (3)IT革命をもたらす技術進歩は何ゆえ起こったのか...13 3.IT革命の要因となった技術 ...15 (1)産業革命、第2次産業革命、情報革命、IT革命で進んだ技術...15 (2)インターネット技術の新しさ...16 4.IT革命の特徴 ...18 (1)ムーアの法則...18 (2)メトカーフの法則...18 (3)情報革命とIT革命の違い...19 5.IT革命によりもたらされる可能性がある社会の変化 ...21 (1)勤労形態の変化...21 (2)日常生活の変化...22 (3)産業構造の変化...24 (4)ITが利用される分野 ...26 6.IT革命の経済成長への影響 ...27 (1)全要素生産性のゆくえ...27 A.ITプロデューシングセクター ...27 B.ITユージングセクター ...28 (2)メトカーフの法則が全要素生産性上昇に与える影響...30 (3)全要素生産性上昇の更なる上昇の可能性...33 (4)資本蓄積のゆくえ...34

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A.販売されている製品、サービスの変化の影響――消費関 数側からの考察...34 B.収穫逓減の影響――生産関数側からの考察...35 おわりに...37 【参考文献】...39 補論A 外生的経済成長モデルにおける持続状態 ...43 (1)一部門外生的成長モデル...43 (2)二部門外生的成長モデル...47 補論B IT革命と産業革命の比較...56 (1)技術的進歩をもたらした社会的背景...56 (2)IT革命の要因となった技術...58 (3)メトカーフの法則...59 (4)IT革命による社会の変化...60 補論C ソフトウエア産業の規模の経済について ...61 (1)ハードウエアの必要性により規模の経済が薄められる可能性...61 (2)需要飽和の可能性...62 (3)今後の課題...64

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はじめに

1733年、イギリスで飛杼と び ひと呼ばれる装置が発明された。これにより、そ れまで2人で織っていた布を1人で織ることができるようになった。織るこ とのできる布の幅も広がった。これが、産業革命の発端といわれている。 産業革命では、繊維産業の生産性が格段に向上した。 その約270年後の現在、IT革命が進行中である。本稿では、産業革命以 降の技術進歩、経済成長とIT革命の比較を通して、IT革命はなぜ起こった のか、何が起こっているのか、また起こる可能性があるのか、どういう影 響が社会にもたらされる可能性があるのかを考察したいと思う。200年以 上という極めて長期の視点から、これまで見過ごされていた「IT革命の本 質」を探る取り組みともいえる。IT革命には、産業革命に似ている面もあ れば、異なっている面もあろう。これまでの技術進歩にはない、IT革命特 有の性質こそ、「IT革命の本質」といえるかもしれない。 本稿で本質を把握したいと考えているIT革命とは、インターネットを中 心とした近年の技術進歩とそれによってもたらされる社会の変化のことで ある。IT革命を言葉どおり情報技術革命と訳すと、コンピュータや通信技 術の進歩によって起こる社会的な変化ということなる。しかし本稿の目的 は、こうした数十年以上前から起こっている現象を考察することではない。 本稿の目的は、ここ数年内に始まり、「猫も杓子も」といえるような状況 にまで注目を集めるに至った電子商取引(EC)やeビジネスの本質を見極 めることにある。そのため、IT革命という言葉は、ここ数年内に始まった 変化に限って使うことにしたい。コンピュータや通信技術の進歩によって 起こる社会の変化という意味では、情報革命という用語を用いることにす る。 「IT革命」を彫刻に例えるならば、本稿は、その彫刻にいつもとは違う 方向から照明をあて、鑑賞したものといえる。すなわち、本稿で示してい るのは、普段とは逆の方向に陰ができている「IT革命」である。必ずしも 網羅的な分析とはいえないため、「IT革命」の一部に普段とは逆の方向か らスポットライトをあててみた結果といったほうが良いかもしれない。ス ポットライトをあてた各論点においても、考察を深めなければならないと 思われる点がまだ多く残されている。しかし、通常とは異なる姿を示すこ

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とで、議論のきっかけになるなど、IT革命をより深く理解することに何ら かでも貢献ができれば幸いである。 本稿は、第Ⅰ部(第1章)、第Ⅱ部(第2∼3章)、第Ⅲ部(第4∼6章) の3部構成になっている。第Ⅰ部は、イントロダクションに相当し、産業 革命から現在までの経済成長を簡単に振り返ったものである。これが、以 下の分析の基礎となる。 第Ⅱ部では、インターネットを中心とした技術進歩が近年急速に進んだ 理由について考察を行なう。ここでの分析は、技術の進歩のスピードは、 技術の進歩を促がす社会の仕組みと技術そのものの性質(技術の性質に基 づく自立的な進歩)との両方に依存するという考えに基づいている。 まず第2章で前者の仮定に基づいて、技術の進歩を促がす社会的な仕組 みに近年大きな変化があったのかどうかについて検討する。技術の進歩が 社会の仕組みに依存するというのは、制度学派の経済学の考え方である。 したがって、第2章の分析は、制度学派の考えに基づいたものといえる。 続いて第3章で、技術そのものについて考察を行なう。ここでは、新しい 技術であれば従来にないスピードで進歩する可能性があるという仮定に基 づき、インターネットを支えているのが新しい技術かどうかについて検討 を行なうことになる。 第Ⅲ部で、技術進歩が社会に与える影響に考察を進める。ただし、社会 全体に対する影響に焦点を絞り、企業レベルでの影響については考察しな い。IT革命が企業に与える影響は、非常に重要なテーマである。そのため、 別途本格的な研究が必要と考えられ、本稿の一部として扱うことは難しい。 第Ⅲ部では、ベンチャー企業であろうが大手企業であろうが、同じ事業を 同じように行なっているのであれば社会に与える影響は異ならないと考え、 議論を進めていく。 まず、第4章で、情報技術、インターネットの特徴についてまとめる。 それが、以後の分析の前提となる。続いて、第5章で社会に与える定性的 な影響について考える。その結果を踏まえ、第6章で、技術の進歩が経済 成長率に与える影響を考察する。 第6章での分析は、新古典派の経済学(外生的経済成長モデル)の考え 方に基づいている。本来であれば、技術進歩が経済成長に与える影響の大 きさにも社会の仕組みが影響を与えているはずであり、制度学派的な視点

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も導入すべきと思われるが、それには十分対応できていない。しかしなが ら、技術進歩に対して制度が与えている影響の方が、技術進歩が経済成長 に与える影響に制度が干渉する程度よりも格段に大きいと思われる。この ため、第Ⅱ部で制度学派、第Ⅲ部で新古典派の経済学に基づいた分析を行 なうのは、第一次近似として望ましいアプローチと思われる。

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1.産業革命以降の経済成長

本章では、産業革命以降現在までの経済成長の状況を簡単に整理してお きたい。歴史を概観しておくことは、非常に長期的な視点からIT革命につ いて考察するという本稿の目的にとって、不可欠な作業と思われる。 (1)1人あたり生産量の成長率 まず1人あたり実質GDP(国内総生産)など、国民1人あたりの生産量の 成長率の推移をみてみることにする1。1900年代に米国の1人あたりGDP が英国を上回るようになっているため2、それまでは英国の成長率をとり、 それ以後は米国の成長率をとって示すと、図表1のようになる。 長期的なトレンドとしては、産業革命以降成長率が徐々に高まってきて いることがわかろう。特に20世紀後半に高い成長率が実現されている。こ の高い成長は、19世紀後半の電球、電車、内燃機関(自動車)、電話など の発明(第2次産業革命3)により実現されたと考えられている。技術が発 明されてから、およそ100年後にそれが大幅な経済成長に結びついたとさ れているのである。産業革命についても同じことがいえる。産業革命は18 世紀半ばに始まったとされるが、高い成長率が実現されたのは19世紀半ば になってからである。 1 急速な技術進歩とそれによる経済成長、すなわち産業革命(一般)は、国全体で はなく、地域レベルで起こることが多い。アメリカのIT革命も、技術を提供して いるのはシリコンバレーの企業が多い。したがって、本来産業革命(一般)が起 こっている地域の成長率を用いるべきだが、統計が整備されていないことから、 ここでは国レベルの成長率を用いた。国レベルの成長率を用いることは、需要面 からは望ましいことと考えられる。所得移転により需要の平準化が行なわれてい るは国レベルだからである。 2 技術的に後れている国は、技術輸入によって、自ら最先端の技術を開発していか なければならない国に比べてより高い成長率を達成することが可能と考えられる。 そのため、技術的に最も進んでいる国の成長率の推移をみていくことが必要であ る。ここでは、アメリカの1人あたり生産量がイギリスを越えた時点で、最先端 の技術を開発している国がイギリスからアメリカに移行したと仮定している。 3 20世紀半ばの鉄道、蒸気船などの影響を第2次産業革命と呼び、20世紀後半のそ れを第3次産業革命と呼ぶことも多い。

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図表1 1人あたり生産量の成長率の推移

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1

2

3

4

1700

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1900

2000

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(資料)C. Knick Harley ‘Reassessing the Industrial Revolution: a Macro View’ in Joel Mokyr(ed.) The British Industrial Revolution 2nd Ed.、アンガス・

マ デ ィ ソ ン 『 世 界 経 済 の 成 長 史 』 、Oliner and Sichel ‘The Resurgence of Growth in the Late 1990s: Is Information Technology the Story?’

(2)全要素生産性 生産の増加は、工場設備などの資本の増加(IT革命の場合には企業内の パソコンの増加など)、労働投入量の増加(教育水準の上昇等を含む)、 全要素生産性の上昇(資本の増加と労働投入量の増加の影響を除いた生産 性の上昇)の3種類の効果によりもたらされると考えられている。前節の1 人あたり生産量の成長率の比較は、概略、資本の増加と全要素生産性の上 昇の影響をあわせて比較したものといえる。以下では、資本増加の影響と 全要素生産性上昇の影響に分解して、労働生産性の推移をみてみよう。 紡績機や自動車の開発が資本の増加スピードに影響を与えた可能性もあ るが、純粋に技術の進歩によってもたらされた変化は、資本の増加による 影響ではなく、全要素生産性の上昇といえる。本稿では、IT革命をイン ターネットを中心とする技術が進歩することにより、社会が受ける変化と 考えている。したがって、特に注目すべきは全要素生産性ということがで きよう。 図表2に示されるように、最も全要素生産性の寄与度が大きかったのは、

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1913年∼1973年である。すなわち、第2次産業革命の影響が表れたと考え られる時期である。次に、1996年∼1999年が大きい。産業革命の影響で 成長率が高まったと考えられる19世紀における全要素生産性の寄与度は比 較的小さい。 図表2 資本蓄積と全要素生産性の寄与度

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1760-18001800-18301820-18701870-19131913-19501950-19731974-19901991-19951996-1999

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(資料)Joel Mokyr, ‘Editor’s Introduction: The New Economic History and the Industrial Revolution’ in The British Industial Revolution 2nd Ed.、アンガ

ス・マディソン『世界経済の成長史』、Oliner and Sichel, ‘The Resurgence of Growth in the Late 1990s: Is Information Technology the Story?’

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図表3 資本蓄積と全要素生産性の寄与率

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(資料)図表2に同じ。 (3)資本蓄積 しかしながら、産業革命による全要素生産性の上昇の影響を過小評価す べきではないだろう。第2次産業革命より大きさは格段に小さいものの、 それにより資本蓄積による経済成長が可能になった可能性があるからであ る。 産業革命以前には、資本蓄積の寄与度はほとんどゼロであったが、産業 革命以降は1%弱程度の資本蓄積の寄与度が続いている。産業革命以前に は、生産能力が限られていたため、そのほとんどすべてを消費しなければ 大衆は生きていけなかったと考えられる。それが、産業革命による全要素 生産性の上昇により、所得のすべてを消費しなくても、十分に生きていけ るようになった可能性がある。小さい値ながらも、産業革命による全要素 生産性の上昇は、こうした質的な変化、経済成長へのテイクオフを可能に するという画期的な影響を社会に与えたと思われる。図表3に示すように、 産業革命期には、資本蓄積に比べて全要素生産性が相対的に極めて大きな 役割を果たしている。

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2.技術進歩をもたらした社会的背景

本章では、なぜインターネットを中心とした急速な技術進歩が起こった のか、どのような社会の仕組みが技術進歩を促進したのかという点を考察 する。もし従来なかったような要因が出現したため技術進歩のスピードが 上昇したのだとすれば、その要因こそがIT革命の本質ということになろう。 (1)技術進歩の要因 産業革命、第2次産業革命でも急速な技術進歩が起こっている。そこで まず本節では、産業革命期と第2次産業革命期も含めて、技術進歩を引き 起こした社会的な仕組みとして、どのようなことが指摘されているかをみ ていくことにしたい。産業革命と第2次産業革命については既存の文献か ら、IT革命についてはまとまったものがないため、独自に整理を行なった。 A.産業革命の背景 ロバート・ハイブローナーらは、「経済社会の興亡」という書籍の中で、 イギリスにおいて産業革命が起こった要因として、 ①他国に比べて豊かであり、大衆消費市場が存在していた、 ②徹底的に封建社会から商業社会へ移行していた、 ③科学と工学に例をみないほど情熱を持っていた の3点を重要なものとしてあげている。また、この他、 ④石炭、鉄鋼石の巨大な資源があった、 ⑤特許制度が確立していた を産業革命の付属的要因としてあげている4。 また、クリストファー・フリーマンらは、産業革命をもたらした技術開 発の要因として、 ①ナショナル・アカデミー、ロイヤル・ソサエティによる科学の 振興、 ②技術者、発明者・企業家、パートナーシップ、 ③地域のサイエンス・ソサエティ、工学ソサエティ、 4 ロバート・ハイブローナー(2000)。

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④パートタイム・トレイニング、OJT、 ⑤土木エンジニアのブリティッシュ協会、 ⑥特許制度の改革と強化、 ⑦熟練労働者の移住受け入れによる技術移転、 ⑧実施、使用、インタラクションによるラーニング をあげている5。 B.第2次産業革命の背景 同じくクリストファー・フリーマンらは、第2次産業革命6をもたらした 技術開発の要因として、 ①アメリカ、ドイツの化学、電機産業における社内研究開発部門 の確立、 ②大学の科学者、エンジニア、工科大学の卒業生のリクルート、 ③公的標準機関、国立研究所 ④普遍的な初等教育、 ⑤実施、使用、インタラクションによるラーニング、 をあげている。 C.IT革命の背景 他国に比べ、IT革命が米国で進んでいる要因としては、次のようなもの が指摘されている。 ①高い家庭へのパソコンの普及率。 ②コンピュータ・ネットワークの利用に積極的な企業。 ③株式市場、ベンチャーキャピタル、エンジェルなどによるリス クマネーの供給。 ④規制緩和(通信費の低下等)。 ⑤大学の技術移転機関(TLO)などによる大学から民間への技術 移転。 ⑥プロパテント政策(ビジネスモデル特許など)。

5 Christopher Freeman and Carlota Perez, ‘Structural crisis of adjustment, business cycles and investment behaviour’ in Dosi(1988).

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⑦国防を目的とした基礎研究の存在。 ⑧大学でのネットワークの構築と、そのためのソフトウエアの無 料公開。 (2)技術進歩を促進する要因の分類 次に、前節であげられた要因の分類を試みたい。それにより、技術進歩 を促進する一般的な要因と、産業革命、第2次産業革命、IT革命それぞれに 特有な要因を明らかにすることができるであろう。 結果は、図表4に示すとおりである7。技術進歩を促進する要因は、 ①技術開発・イノベーションに対する金銭的インセンティブ、 ②技術開発・イノベーション、資本蓄積に対する投資、 ③技術開発・イノベーションを可能にする基礎研究、 ④新技術に対する需要、 ⑤技術開発・イノベーションを行なうための組織、体制、 ⑥その他 の6種類に分類される。 7 産業革命の要因の大衆消費市場の存在を、「技術開発・イノベーション、資本蓄 積に対する投資」と「新技術に対する需要」の2つの欄に掲載した理由は、次の ようなものである。第一に、大衆消費市場の存在は、生産性を向上させ、大量の モノを生産できるようになれば、それを購入する消費者が存在するという予想を 促し、技術開発に対する金銭的インセンティブになる。第二に、大衆消費市場の 存在は、生活に最低限必要なモノを購入する以上の収入があり、所得の一部を貯 蓄に回すことができる層が比較的多数存在していたことを意味する。すなわち、 資本蓄積に貢献できる層が多かったことを意味する。「ナショナル・アカデミー、 ロイヤル・ソサエティによる科学の振興」を、「技術開発・イノベーションを可 能にする基礎研究」ではなく、その他に分類したのは、次のような理由による。 すなわち、産業革命期の技術開発においては、ニュートンなどによる科学の研究 とアークライトやワットなどによる機械の開発との間には、直接的な関係はほと んどなかったといわれているためである。科学的な思考方法は技術開発や新技術 の受け入れに役立った可能性が高いが、科学そのものが技術進歩に貢献すること は産業革命時代にはそれほどなかったとされている。

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図表4 産業革命とIT革命の要因の比較 産業革命 分類 ハイブローナら フリーマンら 第2次 産業革命 IT革命 技術開発・イ ノベーション に対する金銭 的 イ ン セ ン ティブ 徹底的に封建 社会から商業 社会へ移行し ていた 特許制度が確 立していた 特許制度の改 革と強化 プロパテント 政策(ビジネ スモデル特許 など) 規制緩和 技術開発・イ ノ ベ ー シ ョ ン、資本蓄積 に対する投資 他国に比べて 豊かであり、 大衆消費市場 が存在してい た 技術者、発明 者・企業家、 パ ー ト ナ ー シップ 株式市場、ベ ンチャーキャ ピタル、エン ジェルなどに よるリスクマ ネーの供給 技術開発・イ ノベーション を可能にする 基礎研究 公 的 標 準 機 関、国立研究 所 国防を目的と した基礎研究 の存在 新技術に対す る需要 他国に比べて 豊かであり、 大衆消費市場 が存在してい た 高い家庭への パソコンの普 及率 コ ン ピ ュ ー タ ・ ネ ッ ト ワークの利用 に積極的な企 業 規制緩和(通 信 費 の 低 下 等) 技術開発・イ ノベーション を行なうため の組織、体制 アメリカ、ド イツの化学、 電機産業にお ける社内研究 開発部門の確 立 大 学 の 科 学 者、エンジニ ア、工科大学 の卒業生のリ クルート 大学の技術移 転 機 関 (TLO)など による大学か ら民間への技 術移転 大学でのネッ トワークの構 築と、そのた めのソフトウ エアの無料公 開

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図表4 産業革命とIT革命の要因の比較(続き) 産業革命 分類 ハイブローナら フリーマンら 第2次 産業革命 IT革命 その他 石炭、鉄鋼石 の巨大な資源 があった 科学と工学に 例をみないほ ど情熱を持っ ていた 熟練労働者の 移住受け入れ による技術移 転 ナショナル・ アカデミー、 ロイヤル・ソ サエティによ る科学の振興 地域のサイエ ンス・ソサエ ティ、工学ソ サエティ 土木エンジニ ア の ブ リ ティッシュ協 会 実施、使用、 イ ン タ ラ ク ションによる ラーニング パ ー ト タ イ ム・トレイニ ング、OJT 普遍的な初等 教育 実施、使用、 イ ン タ ラ ク ションによる ラーニング (資料)R・ハイブローナー、Wミルバーグ「経済社会の興亡」、Christopher Freeman and Carlota Perez, ‘Structural crisis of adjustment, business cycles and investment behaviour’ in Dosi et al. (ed.), Technical Change and Economic Theory.

①「金銭的インセンティブ」は、技術開発を行なったものが利益を得ら れるかどうかに関連する要因である。利益の獲得は、技術開発の最も重要 なインセンティブといえよう。②「投資」は、資金調達の方法や最終的な 資金の提供者に関連する要因である。開発資金がなければ、技術を開発す ることはできない。③「基礎研究」をとりあげたのは、新製品や新サービ スに直結する技術開発には、そもそもその技術開発の前に収益に直結しに

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くい基礎研究が必要な場合が多くなっているためである。④「需要」の要 因をあげているのは、技術開発により収益が得られるためには、その技術 開発の成果を購入する人々が必要だからである。④は、①「金銭的インセ ンティブ」の一部と考えることもできるが、ここでは新技術に需要があっ た場合に開発者が収益を得られるかどうかに関連する要因を①とし、需要 がそもそもあるかどうかを④として、分けて考えることにする。①では知 的所有権制度など、制度が中心になるのに対して、④は消費者の所得レベ ルや嗜好などに関連しており、対象が大きく異なるからである。⑤「組織、 体制」は、ほとんどの技術開発は多数の人が協力して行なう必要があるこ とから、その共同作業がどのような体制で行なわれているかに関連する要 因である。 (3)IT革命をもたらす技術進歩は何ゆえ起こったのか 図表4より、産業革命や第2次産業革命の時には存在しなかった、IT革命 に特有な促進要因を、4点あげることができる。第1に、ベンチャーキャピ タルなどによりリスクマネーが供給されるようになっていることである。 第2に、技術開発・イノベーションを行なうための組織、体制が企業レベ ルから国家レベルに変化していることである。技術進歩に対して、大学が 大きな役割を果たすようになっている。第3に、ソフトウエアに特許など の知的所有権が認められるようになったことがあろう。ITの重要な一部を 構成するソフトウエアに知的所有権が認められなければ、IT革命が起こら なかった可能性もあると思われる。第4に、高い家庭へのパソコンの普及 率やコンピュータ・ネットワークの利用に積極的な企業の存在がある。 このなかで、最もIT革命の要因として本質的と考えられるのは、1点めの ベンチャーキャピタルによるリスクマネーの供給であろう8。他の要因には、 IT革命に特有ではないと考えられる次のような理由があるからである。ま ず2点めのイノベーションを行なうための組織、体制が企業レベルから国 家レベルに変化していることに関しては、ITよりもバイオなど他の分野の 方が大きな影響を受けている。確かにITでもソフトウエアの開発などに大 8 ベンチャーキャピタルによるファイナンスの通常のファイナンスや大企業内部で のファイナンスとの違いについては、青木昌彦(2001)等で分析が行なわれている。

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学は重要な役割を果たしているが、バイオなどに比べるとはるかに企業の 役割が大きい。3点めのソフトウエア特許に関しては、ソフトウエア特許 は産業革命以前から認められている機械に対する特許と本質的には異なら ないと考えられるからである9。ソフトウエアに特許が認められるように なったのは、自然な流れと思われる。産業革命や第2次産業革命に特許が 果たした役割よりも、IT革命にソフトウエア特許が果たしている役割は小 さいと考えられる。4点めのパソコンの普及率などに関しては、IT革命は情 報革命が前提といっているにすぎない。IT革命は情報革命が前提となると いうのは、確かにそのとおりで、ある意味本質的なことであるが、あまり に当然のことともいえる。3点めのソフトウエアに関しても、IT革命の要因 というよりも、情報革命の推進要因といったほうが良いかもしれない。 1点めのベンチャーキャピタルによる投資に関しても、情報革命の時代 からベンチャーキャピタルは大きな役割を果たしてきている。こうしたこ とを考えると、IT革命は技術進歩を支える要因が高度化していく中で起 こったものであるが、特に何か新たな要因が出現したことによってIT革命 が起こったとは考えられないといえよう。 9 その理由については第5章第3節を参照。新たな分野では特許の影響が大きくなり がちであり、ビジネスモデル特許を含めソフトウエアに特許を認めることは、機 械に特許を認めることよりも大きな影響を与えるように思える。しかし産業革命 期には、機械の場合に同じような大きな影響が生じてきたと考えられる。

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3.

IT

革命の要因となった技術

本章では、IT革命をもたらしている技術について考察する。急速に進歩 しやすい技術分野もあれば、技術進歩が難しい分野もある。また、ある程 度技術が進んでくると、一般的に更なる技術進歩は難しくなる。多くの技 術分野において、技術進歩の速さはS字カーブを描いているのである。し たがって、従来存在しなかった新しい技術は、急速に技術が進むポテン シャルを持っているといえる。もし、インターネットに使われている技術 が、従来の技術と異なる新しい技術であるために急速な進歩が可能になっ ているのだとすると、そこにIT革命の本質があると考えられる。 (1)産業革命、第2次産業革命、情報革命、IT革命で進んだ技術 産業革命で進んだ技術は、紡績機など繊維機械と蒸気機関である。第2 次産業革命では、電気(照明)、モーター、ラジオ、自動車、電話、プラ スチックなど非常に多くの技術が進歩した。これに対して、情報革命は、 コンピュータという単独の技術の進歩によっている10。 インターネットに使われている技術は、インターネットワーキング技術 と、狭義のデジタル通信技術11である。まず、狭義のデジタル通信技術と は、単純にデータを伝えるための技術である。例えば、光ファイバーを通 してデータを送ったり、無線でデータを送ったりする技術といえる。この 分野では、例えばWDM(波長多重)技術の進歩により一本の光ファイバ で伝達できるデータの量が格段に増加してきている。また、家庭用として は、xDSLの開発などがあげられよう。xDSLでは、旧来の銅線を使用して、 格段に通信速度を向上させることができる。 次に、インターネットワーキング技術とは、データを目的とするコン ピュータに届けるにはどの線にデータを流せばよいかを判断する技術のこ 10 コンピュータを作るためには、化学や光学を含め、非情に多数の技術が用いら れている。 11 通常、デジタル通信技術には、狭義の通信技術とインターネットワーキング技 術が両方含まれる。本稿では、これを広義のデジタル通信技術と呼ぶことにする。 広義のデジタル通信技術には、インターネットワーキング技術以外のデータ交換 のための技術、例えば、デジタル交換機の技術などがある。ISDNは、デジタル交 換機の技術を使ったサービスである。

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とである。インターネットの概念図を示すと、図表5のようになる。イン ターネットワーキング技術は、図表5のなかのルータという装置で使われ ている。ルータは、目的のコンピュータにデータを届けるために、どの線 にデータを流すかを決めなければならない。これを実現するのがインター ネットワーキング技術というわけである。実際にデータを伝えるには、狭 義のデジタル通信技術が使われる12。 図表5 インターネットの概念図 ルータ5 ルータ4 ルータ3 ルータ2 PC A PC B PC C PC D PC E PC F PC G PC H PC I PC Gにデー タを届けく ださい。 ルータ5に届 けると近い ルータ1 ルータ4に届 けると届く PC Gには直接 届けられる (2)インターネット技術の新しさ 電話にみるように、通信技術そのものは第2次産業革命期から存在する 技術である。電話でも、狭義のデジタル通信技術が使われている。ルータ 間を接続している狭義のデジタル通信技術は、電話のために発展してきた といっても良いかもしれない。したがって、狭義のデジタル通信技術は新 12 本文では簡単のために単純化して述べたが、ルーター間でデータを伝えるには、 通常インターネットワーキング技術以外を用いた広義のデジタル通信技術が用い られている。

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しい技術とはいえない。 インターネットワーキング技術は、コンピュータ技術を応用したもので ある。ルータは、デジタル通信機能を持ったコンピュータということがで きる。現在ではハードウエアで処理する場合も増えているが、どの線に データを流すかの判断は従来ソフトウエアを用いて行なわれてきた。これ は、コンピュータの情報処理能力を利用してインターネットワーキングを 実現しているということである。したがって、インターネットワーキング 技術も、新しい技術とはいえない13。 このように、インターネットを支えている技術は、既存の技術を組み合 わせたものであり、それほど斬新な技術分野ということはできない。ハー ドウエアで行なわれているルータについても、それを支えている技術は、 コンピュータと同じく半導体技術である。したがって、技術面ではコン ピュータ技術とインターネットワーキング技術を分ける理由はほとんどな いとえいる。情報革命で急速に進んだ技術と、IT革命で急速に進んでいる 技術はほぼ同じ種類の技術ということができる14。 インターネットワーキング技術は、従来の電話やISDNで使われている交 換機の技術とはかなり異なるものである15。しかしながら、全く新しい技 術というわけではなく、情報革命で進歩してきたコンピュータ技術を利用 したものといえる16。 13 当然ながら、インターネットワーキング技術のうち、ソフトウエアの部分は比 較的新しい技術分野といえる。 14 将来的には、光スイッチなど、これまでの半導体技術とは大幅に異なる技術が 使われるようになる可能性がある。 15 半導体技術を用いる点では同じ。 16 これは、通信業界にとっては、主要技術が転換していることを意味する。通信 機器メーカーにとっては、非常に大きな変化である。また、この転換に伴いイン ターネット電話などで通信サービス業への新規参入が容易になるなど、産業構造 に変動がもたらされる可能性もある。

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4.

IT

革命の特徴

本章では、インターネットを支えている技術の特徴について整理を行な いたい。 (1)ムーアの法則 まず、インターネットワーキング技術は、前章で説明したようにコン ピュータ技術の一種である。したがって、コンピュータ技術で過去数十年 にわたり成立してきたムーアの法則がそのままインターネットワーキング 技術でも成り立つと考えることができる。 ムーアの法則とは、簡単に述べると、1.5年で、コンピュータの能力は倍 になるというというものである17。同じように、インターネットワーキン グ技術も、定率で成長していくことが考えられる。 狭義のデジタル通信技術に関しても、すでに述べたように急速な技術進 歩が続いており、今後も当面継続するものと考えられている。 (2)メトカーフの法則 インターネットにおいて、ムーアの法則に並べて語られることが多く なったのが、メトカーフの法則である。これは、ネットワークの有用性は、 利用者数の2乗に比例するというものである。これはネットワーク外部性 として以前より指摘されてきたものである。 情報革命では、IT革命に比べてメトカーフの法則はそれほど重要な役割 を果たしてこなかったと思われる。コンピュータのハードウエアやソフト ウエアにも、確かにネットワーク外部性は存在する。同じOSやワープロソ フトを使っている人が多いほうが、便利な場合が多い。しかし、ネット ワークの場合のようにユーザーの2乗で有用性が高まると考えられるほど の外部性があるわけではない。IT革命でもたらされたネットワーク外部性 は、情報革命でのネットワーク外部性よりも、はるかに大きいものといえ よう。 17 本稿では、性能が向上しても製造コストはそれに比例して上昇しないことを含 めて、ムーアの法則と呼ぶことにしたい。

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メトカーフの法則が成り立てば、インターネットワーキング技術は、一 つの方式(プロトコル)しか成り立たなくなると考えられる。少しでも利 用者が多い技術を誰もが選択するようになるからである。産業革命や情報 革命が蒸気機関やコンピュータという一般名詞とともに語られるのに対し て、IT革命がインターネットという固有名詞とともに語られる背景には、 こうしたことがあると思われる。メトカーフの法則のもとでは、複数の類 似のサービスや製品(IT革命の場合には広域的なネットワーク)が存在す ることが難しく、一般名詞が必要とされなくなる18。 したがって、IT革命とは、インターネットを中心とした技術の進歩とそ れによって起こる社会の変化であるが、必ずしもインターネットにIT革命 の本質があるわけではない。世界中のコンピュータをつなぐことができる ネットワーク技術であれば、必ずしもインターネット技術である必要はな いと考えられる。したがって、IT革命とは、世界中のコンピュータをつな ぐことができるネットワーク技術の進歩と、それによって起こる社会の変 化ということができよう。インターネット以外の広域ネットワークがスタ ンダードになっていたとしても、IT革命は起こったと考えられる。 (3)情報革命とIT革命の違い 情報革命とIT革命の大きな違いは、情報革命が基本的に組織内や個人の 情報化であるのに対して19、IT革命は独立した組織間や個人をまたぐ情報 化であることである。組織内であれば、その組織で使う技術を決めれば、 社内全体でその技術を活用することができる。しかし組織をまたぐ情報化 は、あるネットワークがスタンダードとして成立しなければ行ないにくい。 ほぼ全員がインターネットをスタンダードとして認めたことで、IT革命は 起こったと考えられる。スタンダードが決まることで20、組織をまたぐ情 報化のコストパフォーマンスが著しく向上したことが、IT革命が起こった 18 主要製品のシェアが極めて高い場合、製品名が一般名詞のように使われるよう になる場合がある。例えば、セロテープやポケベルなど。ただし、固有名詞の the Internetと一般名詞のinternetが使い分けられることもある。 19 本稿では、LANの利用は情報革命と考えている。 20 ネットワークだけでなく、より上位層のアプリケーションレベルでもWWW (HTTP+HTML)がスタンダードに決まったことがIT革命の原因となっている と思われる。

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根本的な原因であり、IT革命の最も重要な本質といえよう。 こうした観点からIT革命と情報革命を峻別しようとすると、消費者と企 業がネットワークで結びつくことによって進展するECやCRM、企業間を ネットワークで結ぶことにより在庫の削減などを目指すSCMがIT革命の影 響、一方で基本的に組織内で完結しているERPは情報革命の影響というこ とになる21。 21 社内の情報化でも、インターネットと同じ技術が利用可能なため、IT革命によ り社内の情報化のコストダウンが促進される。また、社外情報の入手がIT革命に より容易になるため、社内の情報化のパフォーマンスが向上する。こうしたこと から、ERPの普及にもIT革命は大きく影響する。

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5.

IT

革命によりもたらされる可能性がある社会の変化

本章では、IT革命によって、どのような変化が社会にもたらされる可能 性があるのかを考察することにしたい。社会の変化をできるだけ網羅する ため、図表6の分類に従い考えていくことにする。 図表6 社会への影響評価分析の視点 労働の視点から 個人の視点から 余暇、消費の視点から 産業構造の視点から 産業の視点から ITの利用産業、利用分野の視点から (1)勤労形態の変化 産業革命が社会にもたらした最大の変化は、生産が大規模な組織で行な われるようになったことといわれている。産業革命以前には、工業製品は 農家で生産されている場合が多かった。こうした農家による工業製品の製 造の進展はプロト工業化と呼ばれる22。これが、産業革命により、集中作 業所での生産(工場制工業)に移行したとされる。 これにともない、工場で雇用され働く賃金労働者が増加することになっ た。その際の変化(農家から労働者への変化)は、当時の人々にとって非 常に大きなものであったと考えられる。仕事が機械に奪われるという危機 感から、工場を破壊することもしばしば行なわれた(ラッダイト運動)。 インターネットの影響により例えば50年後に就労形態がどのように変 わっているかを想像することは難しい。可能性としては、テレワークや 個々人が受託により業務を行なう形態が大半を占めるようになるなど、産 業革命とは逆方向の変化を生じさせることが考えられる。しかしながら、 現実にそうした動きがすでに生じているとはいえない。フェイス・ツー・ フェイスのコミュニケーションの重要性、市場原理に基づかない指揮命令 による組織運営の必要性等を考えると、技術の進歩のみによってこうした 変化が生じると考えるわけにはいかないと思われる。しかしながら、産業 22 L.A.クラークソン(1993)。

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革命の場合にも技術進歩のみによって就労形態の変化が起こったとは考え られておらず23、他の要因が加われば、IT革命は産業革命で起こった就労 形態の変化を反転させる可能性があるといえよう。 (2)日常生活の変化 日常生活にIT革命がもたらす変化は、入手できる情報が格段に増加し、 また、入手できる情報の質も変わることといえよう。情報の入手という面 で大きな変化があったのは、15世紀のグーテンベルグによる印刷技術の発 明といわれている。その後、1860年代に、輪転機が開発され、大量の新聞 や雑誌を短時間で印刷することができるようになった。ラジオやテレビの 普及も、人々が入手できる情報を格段に増加させたといえよう。 これらの技術進歩により入手が可能になった情報は主に万人向けの情報 であった。情報を流通させるのにかかるコストが低下したといっても、各 人のニーズに合わせて情報を送れるほどのコストダウンは実現しなかった からである。また、ラジオやテレビの場合には、周波数が限られているこ とから、同じ内容しか送ることができない。これに対して、IT革命は、各 人のニーズに合わせて情報を送れるほどのコストダウンを実現した。今の ところ文字情報と静止画(簡単な動画)が中心であるが、将来的には映画 のような動画も各人のニーズに合わせて低コストで送信できるようになる と考えられている。これは、輪転機(第2次産業革命期)とは質的に異な る、産業革命期以降起こったことのない変化ということができよう。 ECの本質も、低コストでの情報提供にあると思われる。ECは販売を目 的としているが、同時に顧客が望む情報をその場で提供するものでもある。 出歩かなくても家庭や職場でモノが買えるだけであれば、従来の通販と同 じである。従来の通販ではカタログがほしいと思ったときにすぐ手に入れ ることはできない。ECでは、必要に応じで直ちに商品情報を顧客に届ける ことができる24。この点に、ECと従来の通販の大きな違いがある。 しかしながら、この情報の流通コストの低下のみで、社会に大きな変化 23 農業の生産性向上により、農業へ従事する必要がある人口割合が低下したこと なども大きく影響したと考えられている。 24 消費者が明示的に求めたカタログだけでなく、消費者が求めているであろう商 品情報を企業が類推し提供することもできる。

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がもたらされると考えることはできない。情報を作るためにもコストがか かるからである。テレビ番組や映画を作成したり、ニュースを入手するに はかなりの費用が必要となる。したがって、情報(コンテンツ)の流通コ ストが低下したからといって、各人のニーズに合わせて情報(コンテン ツ)が生産されるようになるとは考えられない。コンテンツの生産効率を 格段に向上させるような技術は開発されていない。そのため、コンテンツ はある程度のマスに対してしか作ることはできないという状況が続くもの と考えられる。現在可能になっているのは、消費者の好みに合わせてコン テンツを自動的に選択し、消費者に提供するレベルである。コンテンツの 自動選択程度であれば、現在の情報技術でもある程度行なうことができる。 例えば、顧客が関心を持ちそうな内容の書籍を案内することなどが行なわ れている。 ただし、各人のニーズに合わせてコンテンツを作成することはできない ということには例外がある。それは、消費者間のコミュニケーションであ る(広くは、非営利のコミュニティ活動など)。この場合、特定の、ある いは少数の人々に対して、コンテンツが生産される。特定の相手にメール を書いたり、写真を送ったりすることは、その相手だけのためにコンテン ツを作成していると解釈することができる。 つまり、個人の場合には電話や電子メールなどでコンテンツがすでに大 量に作られているのである。したがって、流通コストさえ低下すれば、膨 大な量のコンテンツが流通し始める可能性がある25。流通コストが低下し、 多くの人に伝えられることがわかれば、より大量のコンテンツが作成され るようになろう26。このため、IT革命は、企業による営利活動よりも、非 営利のコミュニティ活動や友人間のコミュニケーション活動に対してより 質的な変化をもたらす可能性が高いと思われる。すなわち、非商業ベース の大量の情報が流通し始めることによってもたらされる社会の変化がIT革 命の本質と思われるのである27。 25 ただし、受け取る側の能力に限界があるため、増加には限度があるとも考えら れる。 26 営利のためのコンテンツ作成では、対価の回収ができなければコンテンツの作 成は拡大しないが、非営利の場合にはそうした問題はない。 27 当然CRM等、商業ベースの情報も拡大し、社会に影響を与えることになる。し かし、商業ベースでは従来からマスコミを通して情報が流通しており、非商業

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例えば、そうした変化の一例として、非商業ベースで開発されているOS 「Linux」があげられよう。Linuxは、インターネットにより多数の人が大 量の技術情報を交換できるようになったことで実現したと考えられる。そ して、Windowsの最大の競合製品とみなされるまでに注目を集めている。 資本主義の考えに基づかない、従来とは異なったモチベーション(イン ターネットを通して交流しているコミュニティ内での評価)に動機付けら れた開発をインターネットは一般的にしていくのかもしれない。Linuxは こうしたモチベーションに基づいて開発が行なわれている。 また近年注目を集めた例に、音楽コンテンツを交換できるナプスターが ある。ナプスターのようなサービスにより単にコンテンツを交換している だけであれば、レコード産業の収益を低下させるだけであろう。しかし、 同時に評価に関するコミュニケーションも行なわれ、マスメディアから得 る情報以上に重要な役割を果たすようになれば、音楽に対する好みが大幅 に変化してくる可能性も指摘できる28。 (3)産業構造の変化 産業革命に伴い、繊維産業が経済に占める割合が増加したように、IT革 命ではIT産業が経済に占める割合が増加する。このことは、重要な社会の 変化と考えるべきものであろうか。 産業分類によれば、IT産業のなかの重要な一部であるソフトウエア産業 は、サービス産業に分類される。また、そのため、IT産業の増加は、現在 の産業分類に従えばサービス化につながる。しかしながら、ソフトウエア 産業を他のサービス産業と同列に考えることはできないであろう。ソフト ウエア産業は、工業としての側面を強く持つと思われる。 それは、ソフトウエアは単独では利用できず、コンピュータにより動か して初めて役立つものだからである。別々の企業が開発を行なっていたと いても、利用者がメリットを受けているのは、コンピュータとソフトウエ アの組み合わせといえる。 ベースのものの方が質的な変化としては大きいと考えられる。 28 こうした変化は、情報革命では起らないと考えられる。本稿が、情報革命とIT 革命を分けて考えている理由の一つはここにある。

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昨年末、わが国の特許庁はソフトウエアをモノの一種として考え、特許 の審査を行なうことを決めた。ある意味、ソフトウエアの開発は、機械の 図面を引いているのと同じである。図面もソフトウエアも複製するのは極 めて容易である。一方、それを利用しようと思えば機械を作成したり、コ ンピュータを購入したりする必要がある。 機械産業とIT産業が大きく異なる点は、ソフトウエア産業は単独の産業 として大きく成長しているのに対して、機械の設計のみを行なう産業は、 ほとんどないことであろう。これは、ITの場合にはユーザーがソフトとコ ンピュータを別々に購入することができるのに対して、機械の場合には不 可能なためと考えられる。このため、機械産業とソフトウエア産業では、 大きく性質が異なっている。しかし社会全体に対する影響という点では、 ソフトウエア産業単独で考察すべきではないであろう。コンピュータとの 組み合わせで考えるならば、機械産業とIT産業の異質性は縮小する。 また、ソフトウエア産業の増加は、IT革命に限ったことではない。情報 革命によっても進展している現象である。したがって、ソフトウエア産業 の増大をIT革命の本質と考えることはできない。また、コンピュータ以外 の分野でも、人が持つ知識や発想力が重要になってきている。こうした知 識社会への変化は、情報革命やIT革命と平行して起こっている社会変化と いうことができよう。 もう一つ、IT革命により起こると考えられる産業構造の変化に、流通業 の縮小がある。卸売業、小売業などの縮小である。例えば、メーカーが直 接消費者と取り引きするようになれば、卸売業も小売業も必要なくなる。 消費者への販売は小売業で行なわれつづけるとしても、メーカーと小売企 業が直接取引きし、卸売業を通さないことも増えてこよう。 しかしこうした変化は、経済全体でみれば、メーカーが卸売業や小売業 も行なうようになったと理解すべきものといえよう。社会全体では、卸売 り業の役割をメーカーが担っていようと、卸売り専業の企業が担っていよ うと、大きな違いはないと考えられる29。 29 ただし、法と経済学の視点からは、この変化は非常に大きなものと考えられる。 市場から組織による取引へと大きく変るからである。しかし、社会全体でみれば、 組織による取引の割合がIT革命により格段に大きくなるとは思われない。また、 IT革命は、企業間の情報交換を容易にすることから、逆の動きを加速する性質も 持っている。

(30)

(4)ITが利用される分野 EC(電子商取引)が、IT革命の代名詞となっているように、IT革命で情 報技術の利用が進んでいる産業は、主に小売業、卸売業(マーケットプレ イスを含む)である。 こうした産業は、他の産業に比べて、これまで機械などの技術をあまり 利用してこなかった産業といえる。したがって、第2次産業革命などによ り扱う製品そのものは変化しても、業務の実施方法はあまり変化してこな かったといえよう。したがって、ある意味、産業革命も第2次産業革命も 経験していない産業ということができる。IT革命で、初めて急速な技術進 歩による直接的な影響を受けることになったのである30。 同じことは、製造業の中の業務分野についてもいえよう。調達や販売業 務では、これまで製造部門のようには技術進歩が大きな役割を果たしてこ なかった。IT革命が影響を与えているのは、主にこうした業務である。ま た、社員間のコミュニケーションなど、技術が従来あまり役立ってこな かった分野にも、IT革命は影響を与えている31。 こうしたこれまで技術進歩の恩恵をあまり受けてこなかった分野にも恩 恵をもたらすことが、従来の技術進歩とは異なる、IT革命の特徴の一つと いえよう。 30 加えて、前節で述べたように、他業種が参入し、競争が激しくなるという変化 がある。しかしこれは、社会全体でみれば大きな変化とはいえないであろう。 31 他企業の社員とのコミュニケーションもある。

(31)

6.

IT

革命の経済成長への影響

本章では、IT革命により、長期的に経済成長率がどのような影響を受け る可能性があるか考えてみたい。主に、新古典派の経済学(外生的経済成 長モデル)の考え方に基づいて考察を進める。 そのため、IT革命が物価や失業率に与える影響については考察できない。 これは、長期的には、完全雇用が実現され、物価は貨幣供給量で決まると 考えているためである。IT革命がフィリップス曲線(物価上昇率と失業率 の関係)に与える影響は非常に重要なテーマである。しかしながら、金融 政策や財政政策など、比較的な短期的な視点から重要視される内容であり、 本稿のような長期的な視点から分析を行なうことは難しい。また、フィ リップス曲線にIT革命が直接影響を与えるわけではない。フィリップス曲 線に直接的な影響を与えるのは生産性の向上と考えられる。IT革命は、生 産性の上昇を通して、失業率やインフレ率に間接的に影響を与えているに すぎない。したがって、IT革命の影響を考察するには、まず生産性に対す る影響を考察することが重要であろう。 (1)全要素生産性のゆくえ 全要素生産性が今後どのように変化していくかを予想することは極めて 困難である。全要素生産性の上昇率を予想する手法はほとんどないといえ よう。したがって、必ずしも信頼できる評価はできないが、ここではITを 提供する産業(ITプロデューシングセクター)と、ITを利用する産業(IT ユージングセクター、ITプロデューシングセクター以外の産業)に分けて、 考えてみることにしたい32。 A.ITプロデューシングセクター ITプロデューシングセクターでは、70年代より非常に高い全要素生産性 の伸びを実現してきた。この背景にはムーアの法則があり、ムーアの法則 は今後もしばらくの間継続するというのが一般的な意見である。したがっ て、非常に素朴な予測ではあるが、ITプロデューシングセクターの全要素 32 ECはITユージングセクターに分類される。

(32)

生産性の高い成長率は今後も継続すると考えられる33。ITプロデューシン グセクターが経済に占める割合は今後も上昇を続けよう。したがって、IT プロデューシングセクターの全要素生産性の上昇が一定スピードであれば、 経済全体の全要素生産性の上昇スピードは高まることになると考えられる。 これらは、IT革命の結果というよりも、情報革命の結果と考えられる。 第3章で述べたように、技術面、すなわちITプロデューシングセクターの立 場からは、情報革命とIT革命を区別する理由はあまりない。これまで同様 に情報革命がITプロデューシングセクターに関しては続いていくといえよ う34。補論Aで示すように、ITプロデューシングセクターの継続的な技術 進歩のみでも、安定した経済成長を実現することが可能と思われる。 B.ITユージングセクター ITユージングセクターでは、ITプロデューシングセクターほどには高い 全要素生産性の上昇を経験してこなかった。これが、近年0.5%程度の全要 素生産性の伸びを示すようになった35。将来予測を行なうには、まずこの 上昇の原因を探る必要があろう。可能性としては、次の3つの原因が考え られる。 ①景気循環の影響。 ②数十年前から起こっている情報革命の影響がやっと全要素生産 性の上昇となって表れてきた。 ③IT革命の影響で全要素生産性が上昇している。 ①の要因が大きければ、今後全要素生産性の上昇は低下してしまうことに なる。②の影響が中心であれば、それは継続することになろう。IT革命の 影響が加われば、更に上昇する可能性がある。第2次産業革命でも、技術 進歩が経済成長に大きな影響を与えるようになるまでにはかなりの時間が 33 ITプロデューシングセクターには、ソフトウエア産業も含まれる。ソフトウエ ア開発の生産性を向上させるための取り組みがさまざまに行なわれているが、画 期的な手法は出てきていないのが現状であろう。ソフトウエアの生産性向上は、 ハードウエアの性能向上と普及に伴うものと、従来にないアプリケーションを考 え出すという、偶然性の高い要素によるものが主と思われる。 34 ITプロデューシングセクターにおいても、販売面ではIT革命により大きな変化 がもたらされている。しかし、全要素生産性の上昇の大部分は販売よりも製造段 階で起こっていると考えられる。 35 Oliner(2000)等。

(33)

かかっていることを考えると、③が中心という可能性はあまりないと考え られる。しかし、仮にそうだとすると、全要素生産性の上昇は継続しよう。 米国の株価の下落や景気後退をみると、①の要因がないとはいえないで あろう。かなりの部分がこの要因によるものかもしれない36。 一方で、②の要因が全くないとは考えられない。第2次産業革命では、 技術を利用する側の産業の全要素生産性も大きく上昇したことが知られて いるからである(スピルオーバー効果)。しかしながら、第2次産業革命 でスピルオーバー効果があったからといって、情報革命でも単純に同じ効 果があると期待することはできないと思われる。それは、コンピュータ投 資においては、性能の向上が資本投入の増加としてカウントされるように なっているからである。 コンピュータにおいては、プライス・インデックスにヘドニック法が使 われている。これは、同じ価格でコンピュータが販売されていたとしても、 もし性能がアップしているなら、価格が低下したことにする物価指数であ る37。ヘドニック・プライス・インデックスを使わなかった場合に比べて、 ヘドニック・プライス・インデックスを使用すると、ITプロデューシング セクターの全要素生産性の上昇が大きく計測され、ITユージングセクター の全要素生産性が小さく計測されることになると考えられる。これは、ヘ ドニック・プライス・インデックスを使うことにより、使わなかった場合 に比べて格段に低いプライス・インデックスが用いられることになり、よ り多くのコンピュータが生産され、それをITユージングセクターが使って いることになるからである(生産金額をプライス・インデックスで割った ものが生産量として把握されるため)。すなわち、ITユージングセクター においては、資本増加の寄与度が大きく、したがって全要素生産性の寄与 36 本稿は、長期的な視点からIT革命の影響を考察することを目的としている。そ の た め 、 短 期 の 景 気 変 動 の 影 響 に つ い て の 考 察 は 行 な わ な い 。 ち な み に Gordon(2001)は、耐久財製造業を除いた非農業セクターにおいて、景気循環の 影響により0.48%ポイント成長率が上昇したと推計している(1995年∼2000 年)。一方Basu(2001)は、より詳細な分析により90年代前半には稼働率の上昇 が生産性を向上させたが、90年代後半は技術進歩が中心的な役割を果たしたとい う結論を導いている。 37 具体的な定義についてはHoldway(2000)、Sinclair(1990)等参照。品質調整が 十分行なわれていれば、ヘドニック法に限らず、オーバーラップ法等でも同様な 議論が成り立つと考えられる。

(34)

度が小さく計測されることになる。 第2次産業革命期の統計では、近年のコンピュータにおけるヘドニッ ク・プライス・インデックスほど、品質調整が十分行なわれているとは考 えにくい。また、第2次産業革命では、動力源が蒸気機関などからモー ターに変るといった変化が起こっている。動力源をモーターに代えれば、 同じ価格のモーターであったとしても、工場の生産性はアップしたであろ う。したがって、全要素生産性が高まることになる。一方、情報革命の場 合には、古いコンピュータを最新の同価格のコンピュータに代えたとする と、それはより大量のコンピュータを導入したことに統計上はなる。した がって、コンピュータの入れ替えにより労働生産性が上昇したとしても、 それはコンピュータを大量に入れたため(資本の増加のため)で、全要素 生産性が上昇したためではないということになる可能性があるのである。 つまり、ヘドニック・プライス・インデックスを用いることにより、第2 次産業革命ではスピルオーバーとして観察された技術進歩の影響が、IT革 命ではITプロデューシングセクターの全要素生産性の上昇として観察され るようになっている可能性がある。逆にいえば、第2次産業革命で観察さ れたスピルオーバーは、性能の高いモーターなどを生み出した産業の全要 素生産性上昇として本来把握すべきものを、それができないために利用産 業の全要素生産性向上として測定したものである可能性があるのである。 (2)メトカーフの法則が全要素生産性上昇に与える影響 次に、IT革命が全要素生産性に将来与える影響について考えてみよう。 第4章で示されたように、IT革命の最も重要な特徴は、メトカーフの法則が 重要な役割を果たしていることにある。したがって、メトカーフの法則が 全要素生産性にどのような影響を与えるかを考えることは非常に重要なこ とであろう。 全要素生産性の計測においては、規模に関して収穫一定が仮定される場 合が多い38。図表2の全要素生産性もそうである。そのため、メトカーフ 38 これは、全要素生産性を生産関数で説明できない残差と考えた場合の説明であ り、ソローの残差と呼ぶべきものともいえる。全要素生産性をディビジア指数に よるアウトプットとインプットの比と定義すると、収穫逓増は定義から全要素生 産性の上昇をもたらすことになる。ディビジア指数による全要素生産性の定義に

図表 1 1 人あたり生産量の成長率の推移 01234 1700 1800 1900 2000(%)YÆv½ ITv½CMŠXAŠJ
図表 3  資本蓄積と全要素生産性の寄与率 0%10%20%30%40%50%60%70%80%90%100% 1760-18001800-18301820-18701870-19131913-19501950-19731974-19901991-19951996-1999
図表 4  産業革命と IT 革命の要因の比較 産業革命  分類  ハイブローナら フリーマンら 第 2次  産業革命  IT革命  技術開発・イ ノベーション に対する金銭 的 イ ン セ ン ティブ  徹底的に封建社会から商業社会へ移行していた特許制度が確 立していた 特許制度の改革と強化 プロパテント政策(ビジネスモデル特許など)規制緩和  技術開発・イ ノ ベ ー シ ョ ン、資本蓄積 に対する投資  他国に比べて豊かであり、大衆消費市場が存在していた  技術者、発明者・企業家、パ ー ト ナ ー
図表 4   産業革命と IT 革命の要因の比較(続き) 産業革命  分類  ハイブローナら フリーマンら 第 2次  産業革命  IT革命  その他  石炭、鉄鋼石の巨大な資源があった 科学と工学に例をみないほど情熱を持っていた  熟練労働者の移住受け入れによる技術移転ナショナル・アカデミー、ロイヤル・ソサエティによる科学の振興 地域のサイエンス・ソサエティ、工学ソ サエティ  土木エンジニ ア の ブ リ ティッシュ協 会 実施、使用、 イ ン タ ラ ク ションによる ラーニング  パ ー ト タ
+2

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