早稲田大学審査学位論文 博士(スポーツ科学)
概要書
陸上競技の曲走路における短距離走動作の解析 A biomechanical analysis of curved sprinting
in Track and Field
2019 年 7 月
早稲田大学大学院 スポーツ科学研究科 東 洋功
AZUMA, Hiroyoshi
研究指導教員 : 矢内 利政 教授
学位論文の概要
本学位論文の目的は,陸上競技における曲線走の特徴である,進行方向を変化させ,
かつ,身体の向きも常に変化させる動作を深く理解するために,その力学的メカニズ ムを明らかにすることである.第 2 章では曲線走の運動学的分析,第 3 章では曲線走 の運動力学的分析をとおして,曲線走を成立させる身体重心点の曲線(円)運動と,
身体重心まわりの回転運動に起因する接地期に身体へ作用する地面反力について論議 した.
第 2 章 曲線走の運動学的分析
(第 24 回バイオメカニクス学会大会 口頭発表)
この章では,曲線走の疾走動作の運動学的特徴を左右差の点から明らかにすること を目的とした.大学短距離選手 10 名による陸上競技 400m トラックの曲走路を疾走さ せ,4 台の高速ビデオカメラにより動作を撮影した.曲線走の基礎データである疾走速 度やストライド,ピッチ,身体重心高,身体重心速度ベクトルの角度変化,接地脚の 踏み出し角度などを算出した.その結果,右足接地期の時間が左足よりも有意に短か ったが,ストライドや接地時および離地時の身体重心高,疾走速度,水平面内におけ る接地期の身体重心速度ベクトルの変化角度において左右の差異は認められなかった.
これらの左右のデータの特徴から接地期に身体に作用する地面反力について,総括論 議にまとめた.
第 3 章 曲線走の運動力学的分析
(バイオメカニクス研究 16 号 3 巻 投稿論文)
曲線走では,走者は身体重心まわりの回転運動によって身体の向きを常に曲走路の 周回方向に合うよう走行する.直線走では,脚部が大きな前方回転運動を行っている ため,全身の角運動量も前まわり角運動量をもつことがわかっている.曲線走ではこ の前まわり角運動量ベクトルの向きを,走者の向きの変化に合わせて常に回転し続け なければならない.そこで,この章では,この角運動量の向きの変化はどのようにし て起こるのかを明らかにすることを目的とした.その結果,前まわり角運動量ベクト
ルは,右足接地期において走者が身体の向きを曲走路の周回方向へ変化するのと同じ 方向へ向きを変え,左足接地期ではその反対方向へ向きが変化したことがわかった.
これら接地期の違いをふまえて総括論議では前まわり角運動量ベクトルの向きを変え る地面反力について述べた.
第 4 章 総括論議
第 2 章で得られた曲線走の運動学的分析の結果から,曲線走を成立させる身体重心 点の曲線(円)運動について論議した.まず,疾走速度に左右の差がなく,身体重心 速度ベクトルの向きの変化にも左右差がないということは,左右の接地期における水 平方向の地面反力の力積,つまり向心力成分の力積には差がないことがわかる.さら に,右足の接地時間が短いことから,右足接地期においてより大きな地面反力が身体 へ作用したことを示す.よって,走者は右足接地期の局面において,大きな力を受け つつも,身体重心の移動に左右差を生じさせない滑らかな曲走路疾走を可能なものに していると考えられる.
第 3 章で得られた前まわり角運動量ベクトルの向きの変化から,角力積を作り出す 身体重心まわりの地面反力のモーメントが明らかとなり,その力のモーメントの回転 方向を示す主要な地面反力成分がわかる.この考えのもとにすると,身体の向きも常 に変化させる曲線走は,曲走路の周回方向へ全身の角運動量の向きを変化させ続ける 運動であり,その向きの変化は右足接地期の地面反力の鉛直方向成分が重要な役割を 果たしていることがわかった.