陸上競技の授業報告
̶教材としての短距離走の学習方法とハードル走の評価方法̶
黒須雅弘*・木村華織**・中田有紀***
Ⅰ. はじめに
本学スポーツ健康科学部における陸上競技の実技授業は、「スポーツ実習」、「スポーツ方法学実 習」、「保健体育科教育法」が開講されている。これらの授業は、教職関連科目と非教職関連科目に大 別されており、教職課程履修者は「スポーツ方法学実習」と「保健体育科教育法」、非教職履修者は 「スポーツ実習」を受講している。 教員養成を目的とする授業では、学生が身につけらければならない能力として実践的指導力が重要で ある。特に体育実技の授業では、受講者がスポーツと教育の専門家としての知識と技術を学ぶことがで きる質的保証が求められる。 本稿では、実技授業を通じて学ぶ教材としての陸上競技について、短距離走の学習方法とハードル走 の評価方法を中心に報告することを目的とする。Ⅱ. 教職課程科目の特徴
陸上競技を教材とした「スポーツ方法学実習」と「保健体育科教育法」では、どちらも教職専門科目 の必修科目として位置づけられている。「保健体育科教育法」は、教育課程及び指導法に関する科目。 「スポーツ方法学実習」は、教科に関する科目(体育実技)である。どちらの授業でも、陸上競技の 走・跳・投の運動様式を含む種目を行い、各種目4∼5週(回)分の配当時間を確保している。1クラ ス男女合わせて30∼36名の受講者数でクラス構成されており、授業担当教員の目が行き届きやすい人数 でないかと思われる。 Ⅱ-1. 「スポーツ方法学実習(陸上Ⅰ)」、「スポーツ方法学実習(陸上Ⅱ)」 「スポーツ方法学実習(陸上Ⅰ)」(以下:陸上Ⅰ)では、1年生次の春学期に開講される実技科目 で、短距離走、走り高跳び、ハードル走の3種目を実施する(表1)。同じく1年生次秋学期では、 「スポーツ方法学実習(陸上Ⅱ)」(以下:陸上Ⅱ)が開講され、リレー種目、走り幅跳び、砲丸投げ の3種目を実施する(表2)。陸上Ⅰ、陸上Ⅱのどちらの授業でも、受講生の実践学習による専門的知 識・技術の習得を目的としている。 Ⅱ-2. 「保健体育科教育法(陸上)」 保健体育科教育法がスポーツ方法学実習と大きく異なるのは、陸上競技の各種目特性を理解した上 で、指導方法や評価方法を学習することを目的としている点である。具体的には、模擬授業の実践や指㻝㻚㻌㻡㻜㼙䝝䞊䝗䝹㉮䛾 ᐃ 㻞㻚㻌䝝䞊䝗䝹䝻䝇䝍䜲䝮䛾⟬ฟ䠊 䚷䚷䞉㻡㻜㼙㉮䛸㻡㻜㼙䝝䞊䝗䝹㉮䛾 ᐃ⤖ᯝ䜢䜒䛸䛻䝝䞊䝗䝹䝻䝇䝍䜲䝮䛾⟬ฟ䠊 㻝㻚㻌䝝䞊䝗䝹䞉䝗䝸䝹䛾ᐇ㊶䠊 䚷䚷䞉Ṍ⾜䝇䝢䞊䝗䛷ᢤ䛝㊊䠈䝸䞊䝗⬮ືస䛾⧞䜚㏉䛧⦎⩦䠊 䚷䚷䞉䝆䝵䜼䞁䜾䝇䝢䞊䝗䛻䜘䜛䝝䞊䝗䝹㉮䛛䜙ᚎ䚻䛻㉮䝇䝢䞊䝗䜢ୖ䛢䛶䝝䞊䝗䝹䜢㉺䛘䜛䠊 㻞㻚㻌䜲䞁䝍䞊䝞䝹㛫䜢㻟Ṍ䛾䝸䝈䝮䛷㉮䜜䜛䜘䛖䛻䛺䜛䠊 䚷䚷䞉䝝䞊䝗䝹㧗䠄⏨Ꮚ㻤㻠㼏㼙㻘㻌ዪᏊ㻣㻢㼏㼙䠅䠈䜲䞁䝍䞊䝞䝹䠄⏨Ꮚ㻣㻚㻜㻙㻤㻚㻡㼙㻘㻌ዪᏊ㻣㻚㻜㻙㻣㻚㻡㼙䠅 䚷䚷䞉㻡ྎศ䠄㻡㻜㼙㻴䠅䛾⦎⩦䠊 㻝㻚㻌䝝䞊䝗䝹䝻䝇䝍䜲䝮䛾ㄝ᫂ 㻞㻚㻌㻟㻜㼙䝝䞊䝗䝹㉮䛾䝍䜲䝮 ᐃ 䚷䚷䞉䝝䞊䝗䝹㻞ྎタ⨨䠄ྛ⮬䠈䝝䞊䝗䝹䜢㻟Ṍ䝸䝈䝮䛷㊴䜃䛺䛜䜙㉮䜚䛝䜜䜛䜲䞁䝍䞊䝞䝹䜢㑅ᢥ䠅䠊 䚷䚷䞉䛂㻟㻜㼙㻴㉮䝍䜲䝮䠄⛊䠅㻙㻟㻜㼙㉮䝍䜲䝮䛃䛷䝝䞊䝗䝹䝻䝇䝍䜲䝮䜢⟬ฟ䛩䜛䠊 㻝㻚㻌䜲䞁䝍䞊䝞䝹䜢㻟Ṍ䛾䝸䝈䝮䛷㉮䜛䛣䛸䛜䛷䛝䜛䠊 䚷䚷䞉ྛ⮬䛻䛒䛳䛯䜲䞁䝍䞊䝞䝹䠄㻣㻚㻜䡚㻤㻚㻡㼙䠅䛷⦎⩦䠊 䚷䚷䞉㋃䜏ษ䜚⨨䜢Ᏻᐃ䛥䛫䜛䠊 㻞㻚㻌㻡㻜㼙䝝䞊䝗䝹㉮䛾⦎⩦ 㻝㻟㐌┠䠄ሙᡤ䠖㝣ୖ➇ᢏሙ䠅 㻝㻠㐌┠䠄ሙᡤ䠖㝣ୖ➇ᢏሙ䠅 㻝㻡㐌┠䠄ሙᡤ䠖㝣ୖ➇ᢏሙ䠅 䛆䝝䞊䝗䝹㉮䠖䝝䞊䝗䝹䝻䝇䝍䜲䝮䛾⌮ゎ䛇 䛆䝝䞊䝗䝹㉮䠖䝝䞊䝗䝹㛫䜢䝸䝈䝭䜹䝹䛻㏿䛟㉮䜛䛇 䛆䝝䞊䝗䝹㉮䠖 ᐃ䛇 ⾲㻝㻚㻌䛂䝇䝫䞊䝒᪉ἲᏛᐇ⩦䠄㝣ୖ䊠䠅䛃䛾ᤵᴗෆᐜ 䛆䜺䜲䝎䞁䝇䛇 䛆▷㊥㞳㉮䛾ᑟධ䛇 㻝㻚㻌㝣ୖ➇ᢏ✀┠䛾䝝䞊䝗䝹✀┠䛾⤂ 䚷䚷䞉䝝䞊䝗䝹㧗䠈䜲䞁䝍䞊䝞䝹䠄䝝䞊䝗䝹㛫䠅䛾⤂䠊 䚷䚷䞉ᩍᮦ䠄Ꮫᣦᑟせ㡿䛷ᢅ䜟䜜䛶䛔䜛䠅䛸䛧䛶䛾䝝䞊䝗䝹㉮䛾⨨䛵䛡 䚷䚷䞉ᩍဨ᥇⏝ヨ㦂䛾ᐇᢏ✀┠䛸䛧䛶䛾䝝䞊䝗䝹✀┠䠊 㻞㻚㻌䝝䞊䝗䝹㉮䛾ᐇ㊶ 䚷䚷䞉ᵝ䚻䛺㧗䛥䠈䜲䞁䝍䞊䝞䝹䛷䝝䞊䝗䝹䜢㉺䛘䜛䠊 䚷䚷䞉䝸䞊䝗⬮䠈ᢤ䛝㊊䛾ᑓ㛛ⓗືస䛾ᐇ㊶䠊 㻝㻚㻌ᤵᴗ䜺䜲䝎䞁䝇䠄ᤵᴗෆᐜㄝ᫂䠈ཷㅮୖ䛾ὀព䠈ᐇ✀┠䛾⤂䠈ホ౯᪉ἲ䛾ㄝ᫂䛺䛹䠅 㻞㻚㻌ᩍ⛉䛸䛧䛶䛾㝣ୖ➇ᢏ䛻䛴䛔䛶 㻟㻚㻌㝣ୖ➇ᢏሙ䛻⛣ື䛧䛶䠈㍍㐠ື 㻝㻚㻌䝇䝖䝺䝑䝏䞁䜾㻘㻌䝟䞊䝖䝘䞊䝇䝖䝺䝑䝏䞁䜾 㻞㻚㻌䝇䝥䝸䞁䝖䝗䝸䝹䠈䛚䛔䛛䛡䛳䛣䝎䝑䝅䝳 㻝㻚㻌㝣ୖ➇ᢏ䛾䝹䞊䝹䛻๎䛳䛯 ᐃ᪉ἲ䛾ㄝ᫂䠈ᐇ㊶䠊 㻞㻚㻌㻟㻜㼙㉮䛾 ᐃ 䚷䚷䞉㝣ୖ➇ᢏ䛾䝹䞊䝹䛻๎䛳䛶䝇䝖䝑䝥䜴䜷䝑䝏䜢᧯స䛷䛝䜛䜘䛖䛻䛺䜛䠊 䚷䚷䞉㉮⾜୰䛾Ṍᩘ䛸Ṍᖜ䛾 ᐃ 㻝㻚㻌㻡㻜㼙㉮䛾 ᐃ 㻞㻚㻌䜽䝷䜴䝏䞁䜾䝇䝍䞊䝖䛾⤂䠈ᐇ㊶䠊 㻟㻚㻌䝇䝍䞊䝔䜱䞁䜾䝤䝻䝑䜽䛾⏝ἲ䛾⤂䠈ᐇ㊶䠊 㻝㻚㻌ຍ㏿㻡㻜㼙㉮䛾 ᐃ 㻞㻚㻌ຍ㏿䛾㔜せᛶ䜢ᐇ㊶ⓗ䛻⌮ゎ䛩䜛䠊 ㉮䜚㧗㊴䜃 䛆▷㊥㞳㉮䠖ィ䛾᪉ἲ䠈 ᐃ䛇 㻝㐌┠䠄ሙᡤ䠖ᩍᐊ䠈㝣ୖ➇ᢏሙ䠅 㻞㐌┠䠄ሙᡤ䠖㝣ୖ➇ᢏሙ䠅 㻟㐌┠䠄ሙᡤ䠖㝣ୖ➇ᢏሙ䠅 㻠㐌┠䠄ሙᡤ䠖㝣ୖ➇ᢏሙ䠅 䛆▷㊥㞳㉮䠖ィ᪉ἲ䠊 ᐃ䠊䜽䝷䜴䝏䞁䜾䝇䝍䞊䝖䛾ᐇ㊶䛇 䛆䝝䞊䝗䝹㉮䠖୍ᐃ䛾䝸䝈䝮䛷䝝䞊䝗䝹䜢㉺䛘䛺䛜䜙㉮䜛䠊䛇 䛇 ἲ ᪉ ౯ ホ 䛺 䚻 Ⰽ 䠖 ㉮ 㞳 ㊥ ▷ 䛆 䠅 ሙ ᢏ ➇ ୖ 㝣 䠖 ᡤ ሙ 䠄 ┠ 㐌 㻡 䛇 ㊴ 㧗 ㉮ 䠖 ┠ ✀ ㌍ ㊴ 䛆 䠅 ሙ ᢏ ➇ ୖ 㝣 䠖 ᡤ ሙ 䠄 ┠ 㐌 㻜 㻝 䡚 㻢 䛇 ධ ᑟ 䛾 ㉮ 䝹 䝗 䞊 䝝 䠖 ㉮ 䝹 䝗 䞊 䝝 䛆 䠅 ሙ ᢏ ➇ ୖ 㝣 䠖 ᡤ ሙ 䠄 ┠ 㐌 㻝 㻝 㻝㻞㐌┠䠄ሙᡤ䠖㝣ୖ➇ᢏሙ䠅
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Ⅲ. 実施種目の運営方法と評価
スポーツ専門学部として、専門性に特化した授業内容は必要ではあるが、陸上競技を競技としてでは なく、教育教材としてどのように授業を運営し、受講者を評価するかについて検討することは、教員養 成を目的とした授業特性上必要なことである。 Ⅲ-1. 短距離走 陸上競技に限らず、あらゆるスポーツ種目において速く走ることは、そのスポーツの専門技術以上に 必要とされ、選手の能力を評価するための一部として扱われる。したがって、殆どの受講生が興味を もって取り組む種目でもあるが、一方では、タイムという“ものさし”よって優劣差が顕著に分かる種 目である為、走ることが“嫌い”や“苦手”といった印象をもつ学生も少なくはない。生徒の疾走能力 を評価する新たな試みを提案した伊藤ら(2011)は、生徒の短距離疾走能力を評価する際、疾走タイム が評価の対象になってしまうと、評価される生徒側にとっても疾走タイムだけで評価されると思われる ため、タイムが遅い生徒は走運動への学習意欲が低下傾向になることを指摘している。 陸上Ⅰの授業においては、30mや50mの走タイム(秒)測定に限らず、走行中の歩数と平均ストライ ド長(m / 歩)を計測し、受講生が自らの疾走中の特徴を客観的に評価する方法を学ぶ機会を設けて いる(図1)。走行中の歩数は、走行者自ら測定することはできない為、測定の際は、計時する者、歩 数を数える者、記録記入者に分かれてグループワーク形式で授業を展開している。疾走中の歩数が分か れば、ピッチ(歩数/ 秒)と平均ストライドを算出することができるため、疾走過程におけるピッチや ストライドの容態を確認することができる。また、受講生には測定毎に内省を記述させ(図1)、自己 の疾走様相がどのような関係要因によって成り立っているか興味をもち学習課題として取り組む導入を している。 図1. 短距離走の授業資料Ⅲ-2. ハードル走 ハードル走は、小・中・高等学校すべての学習指導要領において、保健体育(小学校は「体育科」) の教科内容として実施することが明記されている。また、多くの都道府県の教員採用試験の実技種目の 一つとして含まれていることから、体育教員養成課程をもつ高等教育機関においても、重点種目の一つ であるといえる。 2009年に学習指導要領が改訂(以下、新学習指導要領とする)され、小学校では2011年度、中学校で は2012年度、高等学校では2013年度より新学習指導要領が完全実施を迎えた。学校現場を対象とした ハードル走の指導法に関する研究については、これまでにも多くの研究成果が蓄積されているが、その 多くは新学習指導要領以前の指導要領に対応したものである。例えば、伊藤(2010)や大塚ら(2011) が指摘するように、改定以前の学習指導要領は、振り上げ足や抜き足の動作、または踏切・着地位置な ど、ハードル動作についての学習内容・目標になっていた。先行研究の多くがこうした技術的な視点か らの検討であり、技術指導に重点を置いたものとなっている。 他方、新学習指導要領の高等学校学習指導要領においてはハードル技能の一つに「スピードを維持し た走りからハードルを低くリズミカルに越すこと」(文部科学省・高等学校学習指導要領、2009)、中 学校においても「スピードを維持した走りからハードルを低く越すこと」(文部科学省・中学校学習指 導要領、2009)等が明記された。つまり、従来の学習指導要領のハードリングを強調した内容から、 「身体上体を低くしながらハードルを滑らかに越える」などの表記が多くなり、低くハードルを越え ることによって、結果的にハードルのタイムを向上させることを到達目標とする記述となった(伊藤 2010、大塚ら2011)。 また、小中学生を対象とした指導において、ハードル高(cm)やハードル間(m)を一律に設定し た授業展開は、生徒の身体的特徴や運動能力の差がハードル走タイムに大きく影響するとこれまでの研 究で問題視されている。そのような問題に対して、後藤(2009)や金高(2009)らは、生徒個々の発育 発達過程や運動能力差が影響しないように、ハードルロスタイムを評価の指標としている。 後藤(2009)、金高(2009)にならい、陸上Ⅰにおいても、ハードル走の授業評価は、ハードル走タ イムに加えて、ハードルロスタイム(踏切からハードルを越えて着地するまでの時間)を用いた評価を 採用している。金高ら(2009)が行った研究同様にハードルロスタイム0.3(秒/台)基準を参考にする と、50mハードル走の場合、5台分のハードルを越えるので、ハードルロスタイムは1.5秒(0.3秒×ハー ドル5台分)を1つの指標として用いている。陸上Ⅰは成長期が過ぎた大学生を対象としているが、受 講生間の運動能力差を考慮すると、この評価基準は個人内評価も可能なため有用である。表3は、2011 年度に陸上Ⅰを受講した男子学生の50m走と50mハードル、ハードルロスタイムの測定結果である。
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改訂後の新学習指導要領のハードル走指導法に関する研究を概観すると、学習指導要領にみられる ハードル技術とその指導法を照らし合わせながら行っている研究としては、小学校を対象とした研究が 比較的多く見られる(池田ら2009、伊藤ら2010、大塚ら2011)。一方、中学校を対象としたものは、 ハードル走の実態をバイオメカニクス的観点から指導法について検討を行った上原ら(2010)の報告に 留まっており、高等学校に至ってはほとんどみられないのが現状である。“ハードルが十分に並べられ る場所がない”や“生徒数に対してハードル数が少ない”などの施設条件下におけるハードル走授業に 対しても、今後、効率的な練習方法および指導方法を提示することが求められる。