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橋梁維持管理計画へのゲーム理論(ナッシュ交渉解)の適用

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Academic year: 2022

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(1)

橋梁維持管理計画へのゲーム理論(ナッシュ交渉解)の適用

㈱日本海コンサルタント 正会員 ○喜多 敏春 金沢大学大学院自然科学研究科 正会員 近田 康夫

1.はじめに

橋梁維持管理計画の構成要素の一つとして,限ら れた予算内での維持管理計画(予算の平準化)があ る.ほとんどの自治体では橋梁補修の予算が限られ ているため,橋梁の最適な補修時期(ライフサイク ルコスト(LCC)が最小になる補修時期)がある年 度に重なり,補修費が予算を超過した場合は,健全 度を確保しつつ補修時期の前倒しや先送りをして,

予算内におさめる必要がある.この場合に,どの橋 梁を前倒しや先送りにするかを決める指標として,

全対象橋梁の健全度の総和やサービス水準の総和の 最大化を評価関数(目的関数)としている事例が多 く報告されている.対象橋梁全体の目的関数の総和 の最大化は,個々の橋梁の健全度の最大化の再評価 を行っていないため,ある橋梁の健全度が必要以上 に高い場合(一人勝ち)や必要以上に低い場合(1 人負け)が生じる場合がある.また,対象橋梁全体 の評価関数が最大であっても,個々の橋梁の健全度 は必ずしもバランスのよいものなっていない可能性 もある.この問題を解決するために,各橋梁を意思 決定者(プレイヤー)と考え,経済学の理論である ゲーム理論(ナッシュ交渉解)を援用し,各プレイ ヤーが協力することによってバランスのよい,前倒 しや先送り補修時期の組合せを求める.

2.ナッシュ交渉解のモデル

複数の意志決定者(プレイヤー)が存在し,それ らが相互に協力してゲームを行い,全てのプレイヤ ーの利得(効用)がこれ以上同時に増加しないパレ ート最適となる解がナッシュ交渉解である.

交渉問題は,ゲーム参加プレイヤーの集合を

N

n

人のプレイヤーが合意のうえで共同戦略をとった ときに期待される利得ベクトルの集合を

U

,プレイ ヤー間の連携なしで得られる利得集合(交渉が不成 立時の利得集合)を

d

とし,(

N

,

U

,

d

)で表現さ れる.

ナッシュが提示した交渉解が満たすべき 4 つの公 理を示す.

公理1.(強)パレート最適性 公理2.対称性

公理3.効用の正1次変換からの独立性 公理4.無関係な結果からの独立性

以上の公理を満たす交渉問題(

N

,

U

,

d

)の解

u

i

は式(1)で与えられる.

(1)

3.効用関数の設定

橋梁各部材の劣化曲線で示す健全度2(管理目標)

で補修した場合にLCCが最小であり効用値が高いと 仮定する.図-1の効用関数をもとに健全度(図-2)から 図-3に示す50年間の部材の効用が得られる。

図-1 効用関数

図-2 部材の50年間の健全度(劣化曲線)

図-3 部材の50年間の効用関数

i i i n

i i

d u U u to subject

d u aximize m

=

, ) (

1

-1 -0.5 0 0.5 1

1 2 3 4 5

健全度

1 2 3 4 5

0 10 20 30 40 50

経過年数

補修前倒し

-1 -0.5 0 0.5 1

0 10 20 30 40 50

経過年数

補修前倒し

キーワード ゲーム理論,ナッシュ交渉解,効用関数,橋梁維持管理計画

連絡先 〒921-8042 石川県金沢市泉本町 2-126 (株)日本海コンサルタント 技術本部 TEL076-243-8258 土木学会第65回年次学術講演会(平成22年9月)

‑867‑

Ⅵ‑434

(2)

橋梁各部材の50年間の効用値は図-3の効用関数の 積分値である.

4.橋梁補修部材の補修諸元の設定

対象補修橋梁5橋で各橋梁2部材の10部材につい て表-1 のように設定した.また,予算制約を 1,400 万円と設定する.

表-1 橋梁補修部材の橋梁諸元

5.ナッシュ交渉解による計算例

予算制約の中,補修時期の前倒し先送りをする組 合せの中から5サンプルを表-1,図-4に示す.Sample5 が最も効用値のナッシュ積が大きく,各補修部材の 効用値バラツキが小さい Sample5 がナッシュ交渉解 に最も近いと考えられる.また,交渉が決裂した場 合の利得

di

を0とした(式 (1) ).

表-2 サンプル毎の効用値の総和とナッシュ積 効用値の総和 効用値のナッシュ積 サンプル Σ 比率 Π 比率

当初 167.413 1.000 1.722E+12 1.000 Sample1 163.048 0.974 1.317E+12 0.765 Sample2 163.063 0.974 1.312E+12 0.762 Sample3 163.010 0.974 1.311E+12 0.762 Sample4 160.829 0.961 1.145E+12 0.665 Sample5 164.195 0.981 1.411E+12 0.819

図-4 数値計算結果一覧

表-3 最適補修時期(Sample5)

表-3にSample5の前倒し後の補修時期を示す.

6.補修時効用値の和を50年間効用値とする方法

図-5 部材の50年間の効用値

前項の計算例で示した効用関数の積分値による方 法と,補修時の効用値の和を50年間の補修部材の効 用値とする方法では,50年間の補修回数が同じであ れば,橋梁全体のナッシュ交渉解の傾向は変わらな い.しかし,前倒しにより補修回数が増えた場合に は,補修回数が増加した分だけ効用値が増え,有利 となり実情と合わない場合が生じる.効用関数の積 分値による方法は,このような影響がない.

7.まとめ

個々(各橋梁)の利得の最大化と全体(対象橋梁 群全体)の利得の最大化を同時に図る手法を,ナッ シュ交渉解を援用することで提示できたと考える.

現在まで土木分野でゲーム理論の援用が進んでい ない要因は,各プレイヤーの利得を正当に設定する ことが難しいためである.本研究では,利得を健全 度に対応した効用関数に変換し,利得を金額ではな く,どの時期に補修したらその橋梁(プレイヤー)に とって効用が高いかを効用値で表現したことで,ゲ ーム理論の援用の一手法を提示できたと考える.

参考文献

1) 喜多敏春,近田康夫:ゲーム理論(ナッシュ交渉 解)による橋梁維持管理計画の基礎的研究,構造 工学論文集,Vol.56A,2010.3

2)岡田章:ゲーム理論,有斐閣,pp.257-292,1996 3) 鈴木光男:新ゲーム理論,剄草書房,pp.147-172,

1994 橋名 補修工法

経過 年数

() 補修 周期

()

工事費 (万円)

桁塗装工事 5 8 345

A橋 床版疲労補修工事 5 20 1,322

桁塗装工事 5 10 283 B橋 床版疲労補修工事 5 20 1,081 桁経年劣化工事 20 13 120 C橋 桁中性化補修工事 20 25 1,322

桁経年劣化工事 5 13 120 D橋 桁塩害補修工事 5 8 962

桁塗装工事 5 7 218

E橋 床版疲労補修工事 5 20 829

0.60 0.65 0.70 0.75 0.80 0.85 0.90 0.95 1.00

A橋1 A橋2 B橋1 B橋2 C橋1 C橋2 D橋1 D橋2 E橋1 E橋2 Σ Π

Sample1 Sample2 Sample3 Sample4 Sample5

補修対象期間 1 2 3 4 5 6 8 9 11 13 14 15 16 18 19 21 23 25 27 29 30 31 32 33 34 35 37 43 44 45 47 50

補修工事1

補修工事2

補修工事1 ○ ○ ○ ○

補修工事2

補修工事1 ○ ○ ○ ○ ○ ○

補修工事2 ○ ○ ○ ○

補修工事1

補修工事2

補修工事1

補修工事2 ○ ○ ○ ○

注記:補修工事のない年度を表示していない. 凡例 ○:当初補修時期

○:前倒し後補修時期 :当初に補修の重なる年度

○:前倒し前補修時期 E橋

A橋 B橋 C橋 D橋

-1 -0.5 0 0.5 1

0 10 20 30 40 50

経過年数

補修前倒し

補修時効用値

土木学会第65回年次学術講演会(平成22年9月)

‑868‑

Ⅵ‑434

参照

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