社交不安症は,「他者によって注視されるかもしれ ない社交状況に関する著明または強烈な恐怖または不 安 」 を 特 徴 と す る 精 神 疾 患 で あ る(American Psychiatric Association, 2013 高橋・大野訳 2014)。社 交不安症は,このような社交不安に対して強い苦痛を 感じたり,しばしばそのような場面を回避したりする ことが特徴として挙げられる精神疾患である。
社交不安を示す者に対する心理臨床的介入として は, 個 人 を 対 象 と し た 認 知 行 動 療 法(Cognitive Behavioural Therapy;以下,CBTとする)を用いた治 療 が 最 も 有 効 で あ る こ と が 示 さ れ て い る(Mayo- Wilson et al.,2014)。一方で,治療後においても事後 の症状が十分に改善されていない患者が多いことも報 告されており,治療法のさらなる改善が必要であるこ とも指摘されている(金井,2015)。したがって,現 在行われているCBTが有効な効果を示さない臨床像 を同定するとともに,それに対応する治療法の精緻化 が必要であると考えられる。
実際に従来型のCBTの治療を受けたものの症状の 改善がみられなかった臨床像の特徴の1つとして,た とえば,赤面,震え,発汗などの,内部感覚を示すこ
とによって他者からの否定的な評価を受けることを恐 れ て い る こ と が 挙 げ ら れ て い る(Durham, Higgins, Chambers, Swan, & Dow, 2012)。この従来型の標準的 なCBT治療は,具体的には以下の5つの要素から構 成される。すなわち,(a)心理教育:社交不安症とは 何か,社交不安症はどのように発生し維持されるの か,そして社交不安症の治療法と認知行動療法の説 明,(b)恐怖を感じる場面への曝露を行うエクスポー ジャー,(c)認知的再体制化:非機能的思考記録表を 使用して偏った考えを変容する,(d)リラクセーショ ン・トレーニング:恐怖場面にさらされたときの生理 的覚醒を弱め,エクスポージャーを行うときの緊張度 を低減させる,(e)社会的スキル訓練,で構成される
(金井,2015)。一方で,これら5つの要素は,臨床像 の中核的特徴である内部感覚を,必ずしも直接的な治 療標的として含んでいないのが特徴であると考えられ る。また,Durham et al.(2012)は,社交不安症を含む,
さまざまな不安症全般に対して行われた従来型の CBTを受けた患者が,治療1年後においても,内部 感覚に対する非機能的な認知が変容されず,依然とし て不安症状が残存することを報告している。このこと
社交不安傾向者への内部感覚エクスポージャーの効果
深澤 克二
早稲田大学前田 駿太
東北大学荻島 大凱
早稲田大学嶋田 洋徳
早稲田大学The effect of interoceptive exposure for social anxiety tendencies Katsuji FUKASAWA (Waseda University), Shunta MAEDA (Tohoku University)
Hiroyoshi OGISHIMA, and Hironori SHIMADA (Waseda University)
The present study examined the infl uence of interoceptive exposure on anxiety sensitivity and social anxiety for social anxiety tendencies in university students. Thirty-four university students (19 female, 15 male; mean age = 20.6 [1.9]) completed the experiment procedure. They were randomly divided into two intervention groups: interoceptive exposure (n
= 18) and control (n = 16). Contrary to the hypothesis, interoceptive exposure did not modulate the reduction of anxiety sensitivity and social anxiety. These fi ndings suggest that the effectiveness of interoceptive exposure, which has been theoretically assumed, may not necessarily be observed in actual clinical practice. In addition, the procedure of this study may provide insuffi cient exposure to interoceptive sensations; hence, a future re-examination with a more sophisticated procedure is suggested.
Key words: social anxiety, anxiety sensitivity, interoceptive exposure Waseda Journal of Clinical Psychology
2018, Vol. 18, No. 1, pp. 37 - 44
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からも,従来型のCBTは,内部感覚に対する介入と いう点において改善の余地があると考えられる。
一方で,これまでの研究では,不安症状に関連する 自身の内部感覚に対して,過度な恐怖を喚起させる状 態は,「不安感受性(Anxiety Sensitivity)」という概念 で整理されてきた(Reiss, Peterson, Gursky & McNally, 1986)。不安感受性とは,「不安を感じることが,さら なる不快な身体症状や困惑感,さらに強固な不安を喚 起させるという非機能的な信念によって,不安を経験 することに対して過度な恐怖」を有する臨床像を示す 概念である(Reiss et al.,1986)。ここでいう非機能的 な信念としては,たとえば,動悸を感じた際に,自分 は心臓発作かもしれないとかたくなに思うことや,お 腹がなってしまった際に,自分はひどく困惑してしま うとかたくなに思うことがあげられる。すなわち,不 安症状として生じた内部感覚に対して,自身が恐れて いるような身体的,精神的,社会的結果を引き起こす のではないかという恐れから,さらに自らの不安を増 幅 さ せ る 概 念 で あ る と さ れ る(Collimore &
Asmundson, 2014)。実際に,一部の研究では,不安感 受性は,あらゆる不安症に共通して基底となる特徴で あ る こ と が 指 摘 さ れ て い る(Domschke, Stevens, Pfl eiderer, & Gerlach, 2010)。実際に,不安感受性を不 安症状とは異なる特性的な変数として想定した多くの 研究において,不安感受性は不安症状の増悪要因とな る こ と が 示 さ れ て い る。 た と え ば,Domschke et al.(2010)は,内部感覚を多く知覚する者は不安を感 じやすく,このことがパニック症や全般不安症の増悪 リスクとなりうることを報告している。加えて,実際 にパニック症においては,89% の患者が動悸という 内部感覚の生起に苦痛を抱いていたことが指摘されて いる(Domschke et al., 2010)。
このように,不安感受性は様々な不安症を増悪させ るという指摘があるが,社交不安症においてもこれは 例外ではない。社交不安症における不安感受性に関す る近年の研究動向として,社交不安を示す者は高い不 安感受性を有することが示されている(e.g., Wheaton, Deacon, McGrath, Berman & Abramowitz, 2012)ことや,
不 安 感 受 性 の 低 減 が 社 交 不 安 の 改 善 を 予 測 す る
(Nowakowski, Rowa, Antony & McCabe, 2016)という 知見が得られつつある。このような背景から,社交不 安の改善においても,他の不安症の改善と同様に,不 安感受性の低減に焦点を当てた心理臨床的介入が有用 である可能性があると考えられる。
このように,これまでの研究においては,不安感受 性と社交不安の間には一定の関係性があることが示さ れており,個別の事例においては不安感受性に焦点を 当てた支援もなされてきたと考えられるものの,社交 不安を示す者に対して,不安感受性そのものの低減を 目指した介入の効果を体系的に検討する研究は試みら
れていない(Collimore & Asmundson, 2014)。そこで 本研究においては,不安感受性の低減を目標とする介 入が,不安症状の程度に及ぼす影響を実証的に検討す ることを目的とした。
なお,これまで社交不安を示す者を対象とした研究 では,直接的に不安感受性の低減を目指す介入は,内 部感覚エクスポージャー(Interoceptive Exposure;以 下,IEとする)の有効性が理論に示唆されるにとど まっている(Hofmann, 2007)。すなわち,社交不安を 示す者に対してIEを行うことで,社交状況で生じる ような,たとえば動悸といった内部感覚は,自身で考 えているようには危険ではないということを体験的に 理解する。このことを通して,社交不安を示す者は,
社交場面にともなって生起する内部感覚を過度に回避 することなく,社交状況への従事が可能になると考え られている(Hofmann, 2007)。先行研究においては,
社交不安を示す者が内部感覚の喚起によって不安を喚 起 さ れ る こ と が 示 さ れ て い る(Collimore &
Asmundson, 2014)ものの,不安を喚起させる内部感 覚の喚起手続きを用いたIEの効果については,十分 に明らかにされてはいない。そこで本研究において は,不安感受性の低下させる具体的な方法として,先 行研究(Collimore & Asmundson, 2014)において確認 された内部感覚を喚起させる手続きに,さらに社交不 安の特徴を踏まえた改良を加えたDixon, Kemp, Farrell, Blakey & Deacon(2015)の手続きを用いてIEの効果 を検討することとした。
仮説
1. 社交不安を高く示す者において,IEを行うことで,
行わない場合と比較して,不安感受性がより低減する だろう。
2. 社交不安を高く示す者において,IEを行うことで,
行わない場合と比較して,状態不安がより減少するだ ろう。
方 法
実験参加者
早稲田大学に所属する大学生および大学院生37名 に対して実験を行い,スピーチ課題中,または運動課 題中に感じた感覚と,社交状況に感じる感覚の類似度 について 全く似ていなかった と回答した3名を除 外 し た,34名( 女 性19名, 男 性15名, 平 均 年 齢 20.6±1.9歳)を最終的な分析対象とした。実験前に
(a)病気や怪我がないこと,(b)服薬をしていないこ と,(c)極度の疲労や睡眠不足がないこと,(d)心理 療法やカウンセリング経験がないこと,(e)トラウマ ティックな体験がないこと,(f)複数日に渡る他の実 験へ参加していないこと,を確認した。あらかじめ,
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実験参加者をIE18名,統制16名の2種類の介入方法 に割り付けた。
実験計画
介入の種類2(IE,統制)×時期2(pre,post)×
社交不安2(高群,低群)の3要因混合計画であった。
調査材料
社交不安の程度 金井他(2004)によって作成され た,Social Phobia Scaleの日本語版(以下SPSと略記)
を用いた。本尺度は,計20項目についてそれぞれ5 件法で回答を求める尺度であり,得点が高いほど社交 不安の程度が高いことを示すものである。「他者から 見られることへの恐れ」について,0(全くあてはま らない)〜4(非常にあてはまる)で回答を求めた。
IE,統制の双方においてpre時点で測定した。
不安感受性の程度 村中他(2001)によって作成さ れた,Anxiety Sensitivity Indexの日本語版(以下ASI と略記)を用いた。本尺度は,計16項目についてそ れぞれ5件法で回答を求める尺度であり,得点が高い ほど不安感受性の程度が高いことを示すものである。
「不安に対する恐怖」について,1(全くそう思わない)
〜5(非常にそう思う)で回答を求めた。IE,統制の 双方においてpre時点で測定した。
な お, 本 研 究 で 用 い たASI日 本 語 版 は, 村 中 他
(2001)によって3因子構造を有することが確認され ている。しかしながら,この因子構造は,原版のASI で 得 ら れ た, 身 体 的 な 不 安 症 状 へ の 恐 れ で あ る
「Physical Concerns」,心理的な不安症状への恐れであ る「Mental Incapacitation Concerns」,社会的な場面に おける不安症状への恐れである「Social Concerns」か らなる3因子構造(Zinbarg,Barlow & Brown,1997)
と必ずしも合致していない。社会的な場面における不 安症状への恐れとは,他者から否定的な評価をされる ような社会的反応に関する懸念による,不安に関連づ けられた内部感覚への恐れ(Nowakowski et al., 2016) である。とくに,社交不安の改善を予測することが示 さ れ て い る「Social Concerns」 因 子(Nowakowski et
al., 2016)は,ASI日本語版では再現されていない。
IEの理論的背景からすると,IEによる効果が期待出 来る臨床像は,「Social Concerns」因子が高い者であ るため,本研究においては,ASI日本語版では確認出 来ていないものの,Zinbarg et al.(1997)によって得 られた3因子構造に基づいて各因子得点を算出した。
課題中の「状態不安」・「社交状況の類似度」・「内部 感覚」 Dixon et al.(2015)によって作成されたPost- exercise questionsを用いて測定した。スピーチ課題お よびIE課題が終了した直後に実施し,課題中のピー ク時の「状態不安」に関する1項目,課題中に生じた 内部感覚と社交状況において生じる感覚の「社交状況
との類似度」に関する1項目,課題中に生じた「内部 感覚」に関する21項目の,計23項目についてそれぞ れ11件法で回答を求めた。「内部感覚」に関する21 項目は,「赤面」に関連する4項目,「震え」に関連す る5項目,「発汗」に関連する4項目,「その他のパニッ ク症状」に関連する8項目によって構成された。「状 態不安」においては,「課題中に感じた不安や苦悩」
について,0(全く感じなかった)〜10(非常に強く 感じた)で回答を求めた。「社交状況との類似度」に おいては,「課題中に感じた感覚と社会的状況に感じ る感覚の類似度」について,0(全く似ていなかった)
〜10(非常に似ていた)で回答を求めた。「内部感覚」
においては,「課題中に感じた感覚の強さ」について,
0(全くあてはまらない)〜10(非常にあてはまる)
で回答を求めた。IE,統制の双方においてpre時点,
運動課題直後,post時点で測定した。
状態的な不安感受性 状態的な不安感受性として,
内部感覚に対する他者からの否定的評価の確信度を,
本研究において独自に作成した質問紙を用いて測定し た。この質問紙は,得点が高いほど内部感覚が生じた ことによって他者から否定的評価を受ける確信度が高 いことを示すものである。運動課題の前後で2度測定 した。運動課題の前では,「内部感覚が生じたことに よって他者から否定的評価を受ける確信度」につい て,0(全くあてはまらない)〜10(間違いなくあて はまる)の11件法で回答を求めた。運動課題の後で は,「内部感覚が生じたことによって他者から否定的 評価を受けた確信度」について,0(全くあてはまら なかった)〜10(間違いなくあてはまった) の11件 法で回答を求めた。
手続き
参加者は健康アンケート,SPS,ASIに記入を行った。
スピーチ課題と運動課題は,Dixon et al.(2015)によっ て用いられた手続きに基づいて実施した。具体的な手 続きとして,参加者はまずpre測定として,1人の評 定者の前で,3分間のスピーチ課題を行った。なお,
本実験で用いたスピーチ課題のテーマについては,
「大学生活について」と「将来の生活について」の2 種類を用意し,呈示順序は実験参加者間でカウンター バランスをとった。スピーチのテーマは,各スピーチ の直前に口頭にて教示した。スピーチの準備時間は3 分間とした。また,より効果的に不安を喚起すること を意図して,スピーチ中の様子はビデオで撮影した。
スピーチ課題後,参加者はPost-exercise questionsに回 答した後,スピーチ課題によって生じた内部感覚を低 減させるため,5分間の休憩をとった。休憩後,参加 者は内部感覚に対する他者からの否定的評価の確信度 に回答し,1人の評定者の前にて,内部感覚を喚起す るために 1分間その場で運動課題として足踏み運動
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を行った。この足踏み運動は発汗や震えなどの内部感 覚を明確に喚起できる課題であることがこれまでに確 認されている(Dixon et al.,2015)。IEに割り付けら れた参加者には,足踏み運動によって確実に内部感覚 が喚起されることを意図して,1秒に4回のペースで,
太ももを床と水平になる高さまで上げて足踏みを行う ように教示した。それに対して,統制に割り付けられ た参加者には,足踏み運動によって確実に内部感覚が 喚起されないことを意図して,2秒に1回のペースで,
足をあまり上げずに足踏みを行うように教示した
(Figure 1)。参加者は教示を受けた後,実際に足踏み
が行われた様子が流れる映像を視聴し,足踏み運動を 行 っ た。 足 踏 み 運 動 後, 参 加 者 はPost-exercise
questionsと内部感覚に対する他者からの否定的評価の
確信度に回答し,足踏み運動によって生じた内部感覚 を低減させるため,5分間の休憩をとった。休憩後,
post測定として,再度1人の評定者の前で3分間のス ピーチ課題を行い,Post-exercise questionsに回答した。
倫理的配慮
本研究は早稲田大学「人を対象とする研究に関する 倫理審査委員会」の承認を得て実施された(申請番 号:2016‑140)。対象者には,実験参加は自由意思に よるものであり,不参加や中断によって一切の不利益 な対応を受けることがないことについて十分な説明を 行った。そして,実験の実施に際しては書面によるイ ンフォームドコンセントを得た。
結 果
実験参加者に関する記述的特徴
2つの介入の種類に割り付けられた実験参加者の年 齢,SPS,ASIの記述統計量をTable1に示した。pre時 点の年齢,SPS,ASIの各得点を従属変数,介入の種 類を独立変数としたt検定を行った結果,いずれの変 数も,介入の種類間に有意差はみられなかった(ts <
0.99,ps > .33)。このことから,IEと統制の性質は均 質であり,参加者の割り付けは妥当であると判断した。
内部感覚の喚起に関する操作チェック
スピーチ課題時および運動課題時に,参加者が社交 状況において生じる感覚と類似している内部感覚を,
実際に感じることができたかを確認するために,pre 時 点 と 運 動 課 題 後,post時 点 の そ れ ぞ れ で,Post- exercise questionsの「社交状況との類似度」得点を従 属変数,介入の種類を独立変数としたt検定を行った。
その結果,いずれの時点においても,介入の種類間に 有意差はみられなかった(ts < 1.58,ps > .13)。この ことから,どちらの介入の種類においても意図通り に,各課題によって生じた感覚に対して,社交状況に おいて感じる内部感覚と類似していると,同程度に感 じたことが確認された。これらのことから,内部感覚 の喚起を意図した操作は妥当であると判断した。
また,IEの運動課題時においてのみ内部感覚が適 切 に 喚 起 さ れ た か を 確 認 す る た め に,Post-exercise
questionsの「内部感覚」の下位項目である赤面,震え,
Table 1
介入の種類別の記述統計量 Figure 1 介入の種類による運動課題時の足踏みの違い
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発汗,その他のパニック症状の合計得点を従属変数,
介入の種類を独立変数としたt検定を行った。その結 果,IEと統制の全ての内部感覚について有意差がみ られた(赤面:t = 6.19,p < .01;震え:t =3.16,p <
.01;発汗:t = 6.82,p < .01;その他のパニック症状:
t = 9.68,p < .01)。このことから,IEは統制と比較し て,運動課題によって内部感覚をより喚起されたた め,操作は妥当であると判断した。
参加者全体における記述統計量および相関分析
Table2に実験参加者全体のSPS,ASI,pre時点での 状態的な不安感受性および状態不安の平均値,標準偏 差,尺度間の相関係数を示した。本研究における実験 参加者は,理論的な想定とは異なり,SPSとASIの social項目との間(r = .33,p = .06)と,ASIのsocial 項目とpre時点での状態的な不安感受性との間(r = .29,p = .10)に,十分に強い相関を示さなかった。
不安感受性の程度が状態不安の程度に及ぼす影響
社交不安とpre時点の状態不安の関係の強さに,ど の程度pre時点の状態的な不安感受性が影響をもつか を検討するために,社交不安を説明変数,pre時点に おける状態不安を目的変数,pre時点の状態的な不安 感受性を媒介変数とした媒介分析を行った。その結 果, 間 接 効 果 は 有 意 で は な か っ た(z = 1.63,p = .10)。一方で,pre時点での状態的な不安感受性を媒 介させる前は直接効果が有意(β = .44,p < .01)であっ たものの,媒介させることで直接効果が有意でなくな る(β= .30,p = .07)まで効果が低減することが明ら かとなった。以上のことから,統計的検定上では媒介 しているとは言えないものの,社交不安とpre時点の 状態不安の関係の強さに,理論的に想定された通り,
状態的な不安感受性はある程度の説明力を有する可能 性があることが示唆された。
IE と社交不安の程度が状態的な不安感受性に及ぼす 影響
SPS得点が平均値以上の者を社交不安高群,平均値
より低い者を社交不安低群に割り付けた。なお,岡 島・金井・陳・坂野(2006)は,アナログ研究におい て社交不安高群を設定する場合には,SPS得点が37 点を超えることを基準とすることが望ましいと示して いる。本研究の実験参加者におけるSPS得点の平均 値は23点であり,必ずしも先行研究におけるカット オフポイントを満たさない。しかしながら,社交不安 の程度が高い者においては,低い者と比較した場合 に,IEがより有効であると想定できるために,本研 究においてはサンプルの平均値を基準として群分けを 行った。
内部感覚が喚起されたことによって,社交不安を高 く示す者の,状態的な不安感受性が低減したかどうか を検討するために,内部感覚に対する他者からの否定 的評価の確信度を従属変数として3要因分散分析を 行った。その結果,交互作用は有意でなく,時期の効 果のみが有意であるにとどまった(F (1,30) = 3.06,
p < .01)。このことから,介入の種類,社交不安の程 度にかかわらず,preからpostにかけて状態的な不安 感受性が減少したことが示された(Figure 2)。
Figure 2 社交不安高群における内部感覚喚起前後の状態 的な不安感受性の変化。
**p< .01
Table 2
参加者全体の SPS,ASI,pre 時点の状態的な不安感受性,
pre 時点の状態不安の記述統計量および相関分析の結果
性
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IE と社交不安の程度が状態不安に及ぼす影響
内部感覚が喚起されたことによって,社交不安を高 く示す者の,スピーチ中の状態不安が低減したかどう かを検討するために,Post-exercise questionsの「状態 不安」を従属変数として,同様の3要因分散分析を 行った。その結果,交互作用は有意でなく,時期の効 果のみが有意であるにとどまった(F (1,30) = 25.70, p < .01)。すなわち,介入の種類,社交不安の程度に かかわらず,preからpostにかけて状態不安が減少し たことが示された(Figure 3)。
Figure 3 社交不安高群における内部感覚喚起前後の状態 不安の変化。
**p< .01
IE と不安感受性の程度が状態的な不安感受性に及ぼ す影響
SPS得点と,ASIのsocial項目得点の2つの変数の 間には,理論的な想定とは異なり,十分に強い関係が みられなかった(r = .33,p = .06)。そこで,高い不 安感受性を有する者に対してのIEの効果を検討する
ために,ASIのsocial項目得点が平均値以上の者を不
安感受性高群,平均値より低い者を不安感受性低群に 割り付け,二次的な分析を行った。ASIのsocial項目 得点が平均値以上の者を不安感受性高群,平均値より 低い者を不安感受性低群に割り付けた。内部感覚が喚 起されたことによって,高い不安感受性を有する者 の,状態的な不安感受性が低減したかどうかを検討す るために,内部感覚に対する他者からの否定的評価の 確信度を従属変数とし,独立変数の社交不安を不安感 受性(高群,低群)とした,3要因分散分析を行った。
その結果,交互作用は有意でなく,時期の効果のみが 有意であるにとどまった(F (1,30) = 8.16,p < .01)。
このことから,介入の種類,不安感受性の程度にかか わらず,preからpostにかけて状態的な不安感受性が 減少したことが示された。
IE と不安感受性の程度が状態不安に及ぼす影響
内部感覚が喚起されたことによって,高い不安感受 性を有する者の,スピーチ中の状態不安が低減したか どうかを検討するために,Post-exercise questionsの「状 態不安」を従属変数として,同様の3要因分散分析を 行った。その結果,時期の効果が有意であるにとど まった(F (1,30) = 24.31,p < .01)。すなわち,介入 の種類,不安感受性の程度にかかわらず,preから postにかけて状態不安が減少したことが示された。
考 察
本研究の目的は,IEを用いた介入が不安感受性お よび社交不安の程度に及ぼす影響を実証的に検討する ことであった。
本研究の結果から,IE,統制ともに,状態的な不安 感受性が低減することが示された。したがって,IE を行い,内部感覚を喚起させることによって,社交不 安の程度が高い場合には,IEを行うことで不安感受 性がより低減するという仮説1は,支持されなかった。
仮説が支持されなかった理由としては,想定していな かった結果となったものの,場面エクスポージャーの 観点から考察が可能であると思われる。すなわち,必 ずしも内部感覚を喚起させずとも,人前でパフォーマ ンスを行うのみでも,社交不安が顕著に喚起される社 交場面へのエクスポージャーとしての効果が期待でき ることから,統制群においても状態的な不安感受性が 低減したことが考えられる。 また,同様に,状態不 安の減少の程度においても,社交不安の程度,内部感 覚の喚起による影響がみられなかった。このことか ら,社交不安の程度が高い場合,IEを行い,内部感 覚を喚起させることによって,状態不安がより減少す るという仮説2は支持されなかった。これらの結果か ら,本研究の当初の想定と反して,社交不安症状を示 す者における不安感受性の低減を目指した介入の効果 は,確認できなかったと考えられる。
このように仮説を支持する結果が得られなかった背 景として,本研究で採用したDixon et al.(2015)の IEが,不安に曝すというエクスポージャーの手続き として不十分なものであった可能性が考えられる。本 研究では,Dixon et al.(2015)に従い,内部感覚に曝 す時間を1分間と設定した。しかしながら,Dixon et al.(2015)においては,不安を喚起させる運動課題を 同定することが強調されており,不安喚起について は,十分なデータが示されているものの,不安低減の 効果については,検討がなされていなかった。実際 に,本研究においても,Dixon et al.(2015)の研究結 果と同様に,不安症状に対応するような内部感覚は喚 起された一方で,不安低減に関する効果については,
IEを行った場合と統制した場合において,不安感受
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性の低減効果には差がみられなかった。このIEの効 果は,不安感受性の中でも,とくに社交不安の改善に 重要であることが示されているASIのsocial項目得点 の平均値を基準として群分けをし,再度同様の分析を 行った場合でも,当初仮説としていたような,不安感 受性を高く示す者に対してIEを行うことが,状態的 な不安感受性および状態不安の低減に大きく寄与する という結果は得られなかった。
しかしながら,本研究の結果からは,統計検定上は 有意ではなかったものの,状態的な不安感受性の媒介 前後において,社交不安が状態不安に及ぼす効果は低 減する可能性があることも示唆された。このことか ら,社交不安における状態不安については,状態的な 不安感受性が媒介変数としてある程度の説明率をもつ ことも考えられる。したがって,先行研究において理 論上想定されていた通り,社会的な場面における不安 症状への恐れといった不安感受性に焦点を当てた介入 が社交不安の改善には,依然として有用であることが 指摘された。
本研究の限界と今後の展望
本研究は,社交不安を示す者におけるIEの介入効 果を初めて体系的に検討した研究として一定の意義を 有する研究であると考えられる。しかしながら,本研 究においてIEの効果が明確に示されなかった背景と して,いくつかの方法論上の限界があった可能性も否 定できない。とくに,内部感覚に曝すことは依然とし て有効である可能性が考えられる一方で,本研究にお いて内部感覚を十分に喚起できたことは確認されたに もかかわらず,不安症状の低減が確認されなかったこ とは,当初の想定と整合的であるとは言いがたい。こ のような結果の不整合は,不安症状に対応するような 内部感覚は喚起されていたものの,十分に内部感覚に 曝露するという観点においては,不十分であったため に生じた可能性が考えられる。本研究における内部感 覚の喚起の手続きには,Dixon et al.(2015)によって 行 わ れ た1分 間 の 足 踏 み 運 動 を 用 い た。Dixon et al.(2015)は,不安を喚起させる運動課題と同定する ことを目的としたため,運動課題を1分間と設定した。
しかしながら,喚起された内部感覚に十分に曝すこと を達成するためには,それ以上の時間を要したことが 予測される。したがって,内部感覚を喚起させた後に 曝される時間を十分に確保したうえで,追試が行われ ることが望ましいと考えられる。
また,本研究の結果を踏まえると,仮説が支持され なかった原因としては,理論的に想定されていた社交 不安を示す者における不安感受性が,実態とは異なっ ていた可能性があげられる。これまでの研究では,社 交不安症における不安感受性は,社交不安症の認知的 特徴として最も説明率の高い,否定的評価懸念の観点
から検討されてきた。すなわち,社交不安症と内部感 覚の生起に対して恐怖を感じるのは,たとえば発汗や 赤面などの「内部感覚の生起そのものについて,他者 からの否定的評価に恐怖を感じる」ためと考えられて きた。したがって,このような先行研究の理解から,
本研究では,状態的な不安感受性として,「内部感覚 が生じたことによって他者から否定的評価を受ける確 信度」を尺度として測定した。しかしながら,不安感 受性の本来的な意味は,「不安症状と対応した内部感 覚の生起そのものについての恐怖」であり,本研究の 手続きとしては,それが適切に反映されず,十分に測 定できなかった可能性があると考えられる。したがっ て,今後の研究では,社交不安症における不安感受性 については,本来的な想定である「不安症状と対応し た内部感覚の生起そのものについての恐怖」について も,適切に測定していきながら,本研究の着眼点を含 めた総合的な検討を行っていく必要があると考えられ る。
引 用 文 献
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