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中国・新五カ年計画の骨格と特徴
小康社会の全面的完成に向けた習政権の政策課題
○ 中国では、10月29日に閉幕した「五中全会」で2016~2020年までの中期政策大綱である第13次五カ 年計画の草案が採択され、2020年にGDPを2010年対比で倍増させる目標を堅持する方針が示された ○ このほか、イノベーションの促進等を通じた経済の生産性向上、都市・農村間の所得格差問題、貧 困問題、環境汚染問題等に対し、従来以上に取り組みを強める方針も強調された ○ 「年平均+6.5%以上」と予想される経済成長率目標は、財政余力等を背景に達成可能とみられる が、長期的に持続可能な小康社会の実現のためには、草案で示された改革の着実な実行が必要に1.2016 年から第 13 次五カ年計画が始動
中国では、建国後の1953年以来、基本的に5年ごとに経済・社会の発展プランが五カ年計画として定 められ、これに基づき政策が策定・実施されてきた。2015年は第12次五カ年計画の最終年となり、翌 2016年から第13次五カ年計画が始動する予定だ。 2015年10月26~29日にかけて開催された中国共産党第18期中央委員会第5回全体会議(以下、五中全 会)の場では、この次期五カ年計画の策定に向けて「国民経済・社会発展第13次五カ年計画の制定に 関する中共中央の建議」(以下、建議)が議論され、最終日に採択された。同日にはコミュニケ(公 式声明文の意で、中国では「公報」)と呼ばれる会議の結果概要が公表され、また11月3日には建議の 全文と習近平総書記による建議策定に関するコメントが公表された。こうして、2016~2020年にかけ ての中国経済・社会の発展の大枠が定められたことになる。 そこで本稿では、コミュニケや建議、習総書記のコメントなど第13次五カ年計画の骨格や背景につ いて示した重要文書をもとに、第12次五カ年計画の数値目標の進捗状況等を踏まえつつ、習政権が考 える2020年の中国の将来像と、その実現に向けた政策の方向性を探る。2.「小康社会の全面的完成」の「勝敗を決める時期」となる第 13 次五カ年計画期間
第13次五カ年計画の目標達成が持つ意義は、第12次五カ年計画のそれとは大きく異なる。計画が対 象とする5年間(2016~2020年)が、中国共産党が掲げる「2つの100年」(中国共産党建党100年と中 華人民共和国建国100年)という長期執政目標のうち「小康社会の全面的完成」を目標とする第1の100 年の終了時期(~2021年)とほぼ重なるためだ1。このため、建議の中で第13次五カ年計画の期間は「小 康社会の全面的完成の勝敗を決める段階」と位置づけられており、目標達成に向けた習政権の切迫感 が強く滲み出ている。 アジア調査部中国室主任研究員 三浦祐介 03-3591-1376 [email protected]アジア
2015 年 11 月 13 日みずほインサイト
2 図表 1 第 13 次五カ年計画の骨子案の概要 (注)1.「主体功能区」は、第 12 次五カ年計画期間から実施されている地域開発政策。全国を、都市化を進めるエリア、農産品の生産拠点とし て開発するエリア、生態系の保全に注力するエリアの 3 種類に大別して開発を進めることとされている。 2.「一帯一路」は、「シルクロード経済ベルト」(一帯)と「21 世紀の海のシルクロード」(一路)の総称で、経済、産業、金融、人文など、 多分野での対外交流強化策。 3.みずほ総合研究所による抄訳。 (資料)「中共中央关于制定国民经济和社会发展第十三个五年规划的建议」(『新华网』2015 年 11 月 3 日)より、みずほ総合研究所作成 ○経済の中高速の成長の維持 ⇒ 2020年に向けたGDP及び1人当たり国民所得の2010年対比倍増、産業高度化、個人消費拡大、農民の都市市民化加速、など ○国民生活の水準・質の普遍的向上 ⇒ 十分な雇用の実現、公共サービスの更なる整備、教育の現代化・普及加速、所得格差縮小、農村の貧困根絶、など ○国民の素養・社会文明の顕著なレベルアップ ⇒ 中国の夢と社会主義の核心的価値感の浸透、公共文化サービス体系の整備や文化産業の発展、など ○生態環境の質の総体的な改善 ⇒ 産業・家庭部門の低炭素化加速、エネルギー資源の利用効率・総量の規制強化、汚染物質の排出削減、など ○各分野の制度の一層の成熟と定型化 ⇒ 国家のガバナンス体系・能力の現代化、民主の更なる整備、開放型の経済体制の構築、党建設の制度化加速、など ・新たな発展の原動力の育成 ・対外開放の戦略配置の整備 ・新たな発展の空間の開拓 ・対外開放の新たな体制の構築 ・イノベーション駆動型の発展戦略の実施 ・「一帯一路」建設の推進 ・農業現代化の強力な推進 ・大陸と香港・マカオ、台湾の協力的発展の深化 ・新たな産業体系の構築 ・グローバル経済ガバナンスへの積極的参画 ・新たな発展の体制の構築 ・国際的な責任・義務の積極的引き受け ・マクロコントロールの方法の刷新・整備 ・公共サービスの提供拡大 ・地域間の協調のとれた発展の推進 ・脱貧困完遂プロジェクトの実施 ・都市・農村間の協調のとれた発展の促進 ・教育の質の向上 ・物質文明と精神文明の協調のとれた発展の推進 ・就業・創業の促進 ・経済と国防の融合的発展の推進 ・所得格差の縮小 ・人と自然の調和のとれた共生の促進 ・より公平で持続可能な社会保障制度の構築 ・主体功能区の建設加速 ・健康中国の建設推進 ・低炭素・循環型発展の推進 ・バランスのとれた人口の発展の促進 ・全面的な省エネと資源利用の高効率化 ・環境ガバナンスの強化 ・環境保全のための防壁の構築 小康社会の全面的完成に向けた目標 政策方針 ①創新 (イノベーション) ④開放 ⑤共享 (分かち合い) ②協調 ③緑色 (グリーン) 建議で示された第13次五カ年計画の概要は、図表1の通りだ。まず、五カ年計画が目的とする「小康 社会の全面的完成」の具体的な目標は、「経済の中高速の成長の維持」「国民生活の水準・質の普遍 的向上」「国民の素養・社会文明の顕著なレベルアップ」「生態環境の質の総体的な改善」「各分野 の制度の一層の成熟と定型化」となっている。これらは、中国共産党第18回全国代表大会(2012年開 催、以下、十八大)や、中国共産党第18期中央委員会第3回全体会議(2013年11月開催、以下、三中全 会)、同第4回全体会議(2014年10月開催)など、習近平体制の発足時及び発足以降の重要会議での決 定事項を踏襲したものといえる。 また、政策方針は①創新(イノベーション)、②協調、③緑色(グリーン)、④開放、⑤共享(分 かち合い)という5つの柱からなる。後述するように、具体的に挙げられている政策は習政権発足後に 公表されてきたものが大半であり、内容面での目新しさはあまり感じられない。ただ、これら5つの柱
3 に冠された言葉からは、今回の五カ年計画策定の根底にある習政権の思いを汲みとることができる。 以下では、この点を踏まえ、第13次五カ年計画の注目点をみていきたい。
3.注目される「第 13 次五カ年計画」期の経済政策の重点
中国では経済成長率の鈍化が続いており、特に2015年6月に株価が急落して以降、中国経済の先行き や習政権の経済運営の方向性に対する関心が強まっている。これに対し、コミュニケや建議が示唆し ているのは、中高速の成長維持と構造改革の加速による「経済のニューノーマルへの移行」という経 済政策方針の維持であり、高成長への回帰や急激な成長鈍化の容認といった政策方針の極端な変化は 起こらないだろう。 (1)成長維持 ~年平均+6.5%以上の経済成長率維持が目標となる見込み 成長維持に関しては、十八大において「2020年のGDPと都市・農村1人当たり所得を2010年対比で倍 増させる」という目標が小康社会の実現に関する唯一の数値目標として設定されており、今回のコミ ュニケでも同目標達成の必要性が改めて言及された。経済成長の鈍化を容認しつつも、成長の下限も 意識した経済運営が当面続けられることになるだろう。具体的には、習総書記のコメント中で言及さ れているように、年平均+6.5%以上が実質GDP成長率の下限とされる見込みだ(なお、2011~2014年 の年平均成長率の実績は+8.1%)。 ただ、中国がこの目標通りの経済成長を続けるのは必ずしも容易ではない。コミュニケの中で、第 13次五カ年計画期間中の中国を取り巻く環境に対する認識として「多くの矛盾が重なり合う状況や潜 在的なリスクの増加という厳しい挑戦に直面している」と指摘されているように、現在の中国は、4 兆元の景気刺激策を契機に深刻化した製造業の過剰生産能力や企業等の過剰債務などの調整圧力を背 景とする経済の下押し圧力や、デフォルト多発等の金融危機発生のリスクに晒されているためだ2。ま た、建議策定に関する習総書記の説明で言及されているように「経済構造や技術的条件が十分に改善 をしていない」なかにあっても「資源の安全供給、環境の質、温室効果ガス排出削減」に関わる規制 を強化していく必要があり、それも今後経済成長の制約要因となり得る。 そのため、成長率目標達成には、しばらくの間、財政出動や金融緩和など政策的下支えの力を借り る必要があるのが現状だ。その際には、2014年頃から重視されており、建議にも盛り込まれている「分 野を絞ったマクロコントロール」(小規模零細企業向けの金融緩和など)の強化や「インフラ投資に 対する民間資金の導入促進」など、効果的、効率的な財政・金融政策が心がけられるだろう。 (2)経済構造改革 ~イノベーション促進による生産性向上の模索 第13次五カ年計画期間中に中国が抱える経済上の問題として、建議の中で「粗放型の発展方式」「弱 いイノベーション能力」「一部産業での生産能力過剰」「企業の効率、収益の低下」など、労働・資 本投入の量的拡大に依存した、従来の経済成長パターンの弊害が指摘されている。こうした認識の下、 生産性向上を通じた効率の高い経済成長モデルに切り替えていくことが、ニューノーマルへの移行過 程での重要課題となっている。 この問題意識は、マクロコントロールにおいて重視すべきポイントとして、従来から重視されてい た「雇用」「物価」「構造調整」や、2015年に入り強調されるようになった「リスクの防止・コント ロール」に加え、建議では新たに「効率の向上」「環境保護」が追加されたことにも反映されている。4 図表 2 第 12 次五カ年計画の数値目標の達成度(経済発展・科学技術教育関連) (注)1.2010 年時点の数値のうち、( )内の数値は期間中に改訂された後の数値。「2015 年目標」は、2010 年時点からの上積み分を示す (GDP を除く)。「達成度」は、2010 年対比での変化率または変化幅により評価。2015 年以前に既に達成した項目を「◎」、2014 年までの平均ペースが続けば 2015 年に達成が見込まれる項目を「○」、2014 年までの平均ペースでは達成が見込めない項目を「△」 とした。 2.研究開発支出の対 GDP 比は、国家統計局による GDP 算出方法の見直しに伴う改定後の GDP(2015 年 9 月 9 日公表)により算出。 (資料)中国国家統計局、中国教育部、中国国家知識産権局、CEIC Data より、みずほ総合研究所作成 2 0 1 0 年時点 2 0 1 5 年目標 2 0 1 4 時点 達成度 経済発展 39.8兆元(40.9兆元) 年平均+7% 年平均+8% ◎ 43%(44.2%) +4%pt +3.9%pt ○ 47.5%(49.9%) +4%pt +4.8%pt ◎ 科学技術教育 89.7% +3.3%pt +2.9%pt ○ 82.5% +4.5%pt +4%pt ○ 1.73% +0.45%pt +0.32%pt △ 1.7件 +1.6件 +3.2件 ◎ GDP GDPに占めるサービス業のシェア 9年制義務教育の歩留まり率 指標 高等教育の粗就学率 研究開発支出の対GDP比 1万人当たり特許保有量 都市化率 特に、経済成長のモデル転換において重視されているのが、イノベーションを通じた経済効率の向 上だ(環境保護については後述)。創新(イノベーション)が「国家の発展のあらゆる局面において 中核に位置づけるべき」ものとされ、政策の第1の柱に据えられたことがその現れである。 具体的には「双創(大衆による創業・万人によるイノベーション)」「インターネット+」、「中 国製造2025」など、習政権下で既に公表されている科学技術や産業に関する政策が挙げられている。 第12次五カ年計画の数値目標の達成度をみると、達成度が高い経済発展に関する項目に比べ、科学技 術教育に関する項目のうち研究開発支出の対GDP比の達成度が芳しくない(図表2)。こうした状況も 踏まえて、第13次五カ年計画期にはイノベーションに向けた資源の投入が強化されることになるだろ う。また、北京・天津・河北の一体的発展計画や長江流域の経済ベルト開発計画等の地域開発戦略、 三中全会でも示された諸制度改革(行政許認可の委譲・削減、国有企業、財政制度、金融制度・シス テム改革など)が、イノベーション促進の文脈で盛り込まれている。このほか、5つの政策の柱のうち 第4の柱である「開放」の中で、沿海部でのハイレベルな製造業拠点の育成やネガティブリストの全面 実施、金融分野等のサービス業の一層の開放、資本取引規制の緩和推進、FTA戦略の加速など、生産性 向上に資するような対外開放政策の方向性についても言及されている。 なお、生産年齢人口減少による経済成長への下押し圧力を緩和するために、今回のコミュニケでは、 中国で長らく続けられてきた1人っ子政策をついに廃止し、2人っ子政策(全夫婦が子どもを2人までも うけることを認める政策)に変更することが明言されたほか、定年延長に関する政策についても言及 があった3。
4.経済分野以外で注目される政策の重点
(1)「全面的」な発展の実現に向けた社会・環境の改善 「小康社会の全面的完成」の中の「全面的」という言葉には、経済分野にとどまらない、社会、環 境、文化など幅広い分野での発展という意味合いや、全国平均としての発展ではなく、国民一人一人 の生活水準の向上といった意味合いが含まれている。 中国の現状をこの目標と照らし合わせてみると、達成には程遠い状況にある。第12次五カ年計画に5 図表 3 第 12 次五カ年計画の数値目標の達成度(資源環境・国民生活関連) (注)1.2010 年時点の数値のうち、( )内の数値は期間中に改訂された後の数値。「2015 年目標」は、2010 年時点からの上積みないしは削 減分を示す(都市住民 1 人当たり可処分所得、農村住民 1 人当たり純収入、都市部登録失業率、総人口を除く)。「達成度」は、2010 年対比での変化率または変化幅により評価。2015 年以前に既に達成した項目を「◎」、2014 年までの平均ペースが続けば 2015 年に 達成が見込まれる項目を「○」、2014 年までの平均ペースでは達成が見込めない項目を「△」とした。 2.森林率、森林蓄積は 2013 年時点の値。都市住民 1 人当たり可処分所得、都市部登録失業率、都市部新規就業者数、都市基本養老保 険加入者数、都市保障性住宅の着工数は、2015 年 9 月末時点の数値。農村住民 1 人当たり純収入の平均伸び率及び基本医療保険加入 率の伸び幅は、推計値。平均寿命は、中国国家衛生・計画生育委員会による見込み値。 3.耕地保有量の単位「ムー」については、1 ムー=666.7m2。 (資料)中国国家統計局、中国水利部、中国環境保護部、中国国家能源局、中国国家林業局、中国人力資源・社会保障部、中国国家衛生・計 画生育委員会、世界銀行、CEIC Data より、みずほ総合研究所作成 2 0 1 0 年時点 2 0 1 5 年目標 2 0 1 4 時点 達成度 資源環境 18.18億ムー +0ムー以上 +2.1億ムー ◎ - ▲30% ▲30% ◎ 0.5 +0.03 +0.03 ◎ 8.6% +3.1%pt +2.6%pt ○ - ▲16% ▲13.3% ○ - ▲17% ▲14.3% ○ 主要汚染物質の排出量 化学的酸素要求量 - ▲8% ▲10.1% ◎ 二酸化硫黄(SO2) - ▲8% ▲13.0% ◎ アンモニア態窒素 - ▲10% ▲9.8% ○ 窒素酸化物 - ▲10% ▲8.6% ○ 森林増加 森林率 20.36% +1.3%pt +1.27%pt ○ 森林蓄積 137億m3 +6億m3 +14.4億m3 ◎ 国民生活 19,109元 年平均+7%以上 年平均+7.7% ◎ 5,919元 年平均+7%以上 年平均+10.2% ◎ 4.1% 5%以下 4.1% ◎ - 累計4,500万人 累計6,185万人 ◎ 2.57億人 +1億人 +0.9億人 ○ - +3%pt +4%pt ◎ - 累計3,600万戸 累計3,903万戸 ◎ 13億4,091万人 年平均7.2‰以下 年平均5.0‰ ◎ 73.5歳(74.83歳) +1歳 +1歳 ○ GDP1単位当たりのCO2排出量 都市住民1人当たり可処分所得 総人口 平均寿命 農村住民1人当たり純収入 都市部登録失業率 都市新規就業者数 都市基本養老保険加入者数 基本医療保険加入率(都市農村3種類合計) 都市保障性住宅の着工数 指標 工業生産付加価値生産額1単位当たりの利用水量 1次エネルギーに占める非化石エネルギーのシェア GDP1単位当たりの最終エネルギー消費量 農業灌漑用水有効利用係数 耕地保有量 おける国民生活や環境に関する数値目標の達成度を見る限りでは、社会・環境分野での諸問題は改善 に向かっているようにみえる(図表3)。だが、実際にはそうではない。習総書記が説明の中でも認め ているように、これらの指標では捉え切れていないものの、小康社会を全面的に完成させる上で克服 すべき問題が社会・環境の分野に存在している。例えば、農村を中心とする貧困問題や、都市・農村 間等でいまだ高水準にある所得格差、PM2.5に代表される大気汚染の問題など、これまでの数値目標に は含まれていなかった問題が依然として深刻な状態にあるのだ。 このように習政権は、社会・環境面での生活の質の向上や、発展の成果を国民全員があまねく享受 できるような社会の実現は急務だと認識している。こうした認識が、建議の中で、上述のGDP及び所得 倍増目標達成の前提条件として「平衡性(バランス)・包容性(インクルージョン)・持続可能性(サ ステナビリティ)の向上」が強調されている点や、政策の5つの柱のうち3つが「協調」「緑色」「共 享(分かち合い)」とされている点に強く反映されている。 具体的に計画されている政策は多岐にわたるが、習総書記のコメントで特に紹介されているものと
6 しては、農村戸籍を持つ住民の都市市民化の加速による都市・農村間の所得格差縮小4や、農村におけ る貧困問題の根絶、エネルギー・水資源・建設用地等の各種資源の利用総量及び利用効率に関する規 制強化、環境保護行政の体制見直しによる管理・監督の実効性の強化などが挙げられる。 (2)国際的影響力強化の方針も強調 中国は、世界金融危機を契機に先進国経済が低迷し始めた頃から大国としての影響力を強める外交 方針に舵を切っており、特に習政権発足後、その動きが鮮明になっている。こうした外交政策の方針 はコミュニケや建議の中にも色濃く反映されている。 例えば、第12次五カ年計画期間中に「我が国経済、科学技術、国防の実力や国際的影響力は、さら に一段上のレベルまで高まった」と評価し、自国の国際的影響力が強まったことを確認している。そ の上で「『一帯一路』建設の推進」を改めて目標として確認し、海外でのインフラ建設への参画やア ジアインフラ投資銀行(AIIB)の設立について言及したり、「グローバルな経済ガバナンスへの積極 的参画」を目標として掲げ、ネット空間や深海、宇宙空間など新分野での国際ルール策定への参画や、 FTAAP(アジア太平洋自由貿易圏)実現の推進等について言及したりしている。また、2015年に入り中 国が力を入れている人民元のSDR(IMF(国際通貨基金)の特別引出権)構成通貨入りに向けた取り組 みの推進も目標として盛り込まれているなど、既存の国際秩序に対して中国からの働きかけを強めよ うとする意向が透けてみえる。 他方「国際的な責任と義務の積極的引き受け」を謳い、気候変動に関する交渉への積極参画等につ いても言及している。既存の国際ルールとの歩調の合わせ方は分野によって異なるとみられるが、い ずれにせよ国際社会における中国の影響力をより強めようとする政策が第13次五カ年計画期間中も続 けられることは間違いないだろう。
5.問われるのは持続可能な形での「小康社会の全面的完成」の成否
以上のように、第13次五カ年計画で習政権が考える2020年の中国の将来像は、GDPと所得が2010年対 比で倍増し、生産性の高い経済構造を有し、格差や貧困の無い環境配慮型の社会というもので、非常 に意欲的な目標といえる。 これに対して、「小康社会の全面的完成」が数値目標の達成を単に意味するだけであれば、その実 現は必ずしも難しくはない。中国には財政余力が当面は存在しているためだ。例えば、財政出動によ って年平均+6.5%の経済成長を維持してGDPや国民所得の倍増目標を達成させたり、補助金拡充等に よって一時的に貧困を根絶したりすることは不可能ではない。また、これまでのように行政的に工場 の稼働を止めて汚染物質の排出削減を強制することもできるだろう。 しかし、対症療法で実現した小康社会は持続可能ではなく、2020年以降の中国経済・社会が不安定 化するリスクを高めることになるだけだ。国有企業や金融制度、戸籍制度、社会保障制度、環境保護 規制などの様々な制度改革を前に進め、それを通じて小康社会を実現させる必要がある。これら制度 改革は、もはや先送りにすることはできない。2020年代に入ると、生産年齢人口ばかりか総人口も減 少に転じるなど、成長余力、財政余力が低下する可能性が高まるからだ。その意味で、第13次五カ年 計画の成否は、中国が長期的発展の基盤を作り上げられるか否かの鍵を握ることになるだろう。7 1 第 2 の 100 年は 2049 年を終了年とし、「富強、民主、文明、和諧(調和の意)の社会主義現代的国家の完成」を目標としてい る。 2 中国の中期的な経済政策を巡る論点については、みずほ総合研究所「不安定感を強める中国経済」(みずほ総合研究所『緊急リ ポート』2015 年 10 月 9 日)参照。 3 ただし、2 人っ子政策の効果の発現は、漸進的、限定的なものにとどまるとみられる。政策変更に伴う出生数の増加が労働力人 口の増加として効果を現すまでに少なくとも 15 年を要するほか、都市部での養育費の上昇などを背景に 2 人以上の子どもをもう ける意欲が低下している可能性がある。 4 中国の戸籍制度と都市・農村間の所得格差の関係については、三浦祐介「戸籍制度改革加速を迫られる中国」(みずほ総合研究 所『みずほインサイト』2014 年 4 月 8 日)参照。 ●当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに 基づき作成されておりますが、その正確性、確実性を保証するものではありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります。