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自動車運転者の個人特性評価に基づく反応理解手法に関する研究-香川大学学術情報リポジトリ

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博 士 論 文

自動車運転者の個人特性評価に基づく

反応理解手法に関する研究

A Study on Methods for Understanding Automotive Driver ’s Response

Based on Assessment of Individual Characteristic

石橋 基 範

Motonori Ishibashi

香川大学大学院工学研究科

2009 年 3 月

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目 次

第 1 章 緒言 1 1.1 研究の背景 ... 1 1.1.1 人に優しい も の作りの 推進 1.1.2 自動車におけ る人に優 しい もの作り 1.1.3 運転支援にお ける運転 特性評価の問 題点と解 決方法 1.1.4 ドライバ個人 特性の分 類と反応の 指 標との 対 応 1.2 本研究の課題 と 目的 ... 7 1.3 ドライバ個人 特性を仲 介させる意義 ... 8 1.3.1 設計上の意義 1.3.2 実験評価上の 意義 1.4 本研究の概要 と特徴 ... 10 参考文献 ... 12 第 2 章 単調運転模擬 作業と高 速道路走行の タスク負 荷量の検討 15 2.1 はじめに ... 15 2.2 設定した作業 課題 ... 16 2.2.1 課題の設定方 針 2.2.2 トラッキング 二重課題 の詳細 2.3 負荷量の関係 の検討方 法 ... 18 2.3.1 検討方針 2.3.2 主観評価方法 2.4 実験的検討 ... 20 2.4.1 トラッキング 二重課題 の単調性の検 証 2.4.2 検証結果 2.4.3 高速道路単調 運転の実 験方法 2.4.4 両作業の比較 結果と考 察 2.5 まとめ ... 29 参考文献 ... 30

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第 3 章 覚醒低下に伴 う反応時 間と脳波の変 動の指標 化 32 3.1 はじめに ... 32 3.2 方法 ... 33 3.2.1 実験参加者 3.2.2 刺激および呈 示方法 3.2.3 実験参加者 の 作業課題 3.2.4 手続き 3.2.5 データ解析 3.3 結果 ... 38 3.3.1 主観評価 3.3.2 反応時間 3.3.3 α波ピーク周 波数 3.3.4 脳波帯域パワ スペクト ル 3.3.5 α波帯域の周 波数ゆら ぎ 3.4 考察 ... 44 3.5 まとめ ... 47 参考文献 ... 47 第 4 章 向性と精神的 負荷が精 神疲労に及ぼ す影響モ デルの構築 50 4.1 はじめに ... 50 4.2 脳波の刺激応 答タイプ の検討 ... 52 4.2.1 実験方法 4.2.2 脳波 解析方法 4.2.3 結果 4.2.4 考察 4.3 向性・精神的 負荷・精 神疲労の関係 モデルの 提案 ... 59 4.4 向性・負荷相 互作用モ デルの検証 ... 60 4.4.1 実験方法 4.4.2 解析方法 4.4.3 結果 4.4.4 考察 4.5 結論 ... 68

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4.6 今後の展望 ... 68 参考文献 ... 69 第 5 章 運転スタイル の指標化 と追従運転行 動解析へ の適用 71 5.1 はじめに ... 71 5.2 運転スタイル の構成尺 度 ... 72 5.2.1 調査方法 5.2.2 解析方法 5.2.3 主成分 分析の 結果 5.2.4 主成分の解釈 と構成項 目 5.2.5 先行研究との 類似点 5.2.6 運転スタイル チェック シートの作成 5.3 低速での追従 運転行動 と運転スタイ ルの関係 ... 79 5.3.1 実験 方法 5.3.2 解析方法 5.3.3 運転スタイル 尺度と運 転行動 の相関 5.3.4 従来の個人属 性指標と 運転スタイル 尺度 の比 較 5.3.5 車間距離指標 と 運転ス タイル尺度 の 関係のモ デル化 5.4 結論 ... 87 5.5 今後の展望 ... 87 5.6 運転スタイル チェック シートの統計 資料 ... 88 参考文献 ... 89 第 6 章 ドライバの運 転負担感 受性の指標化 と経路選 択嗜好分析へ の応用 91 6.1 はじめに ... 91 6.2 運転負担の構 成尺度 ... 92 6.2.1 調査方法 6.2.2 解析方法 6.2.3 因子分析の結 果 6.2.4 因子の解釈と 構成項目 6.2.5 運転負担感受 性チェッ クシートの作 成 6.3 経路選択嗜好 と運転負 担感受性の関 係 ...100 6.3.1 調査方法

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6.3.2 解析方法 6.3.3 結果 6.3.4 考察 6.4 結論 ...107 6.5 今後の展望 ...108 6.6 運転負担感受 性チェッ クシートの統 計資料 ...108 参考文献 ...110 第 7 章 ドライバ特性 としての 車載装置に対 する知識 の評価方法 111 7.1 はじめに ...111 7.2 個人特性評価 方法の妥 当性検討と改 良の進め 方 ...112 7.2.1 試作フェース シートの 現状と課題 7.2.2 妥当性検討と 改良の視 点 7.3 車載装置に対 する知識 レベルの評価 方法 ...115 7.3.1 はじめに 7.3.2 方法 7.3.3 結果と考察 7.4 知識レベルと 運転態度 ・負担意識と の関係 ...122 7.4.1 はじめに 7.4.2 方法 7.4.3 結果と考察 7.5 まとめ ...125 参考文献 ...125 第 8 章 結言 127 8.1 研究のまとめ ...127 8.1.1 本研究の結論 8.1.2 本研究の総括 8.1.3 本研究の成果 により見 込まれる効果 8.2 今後の課題 ...133 参考文献 ...134 謝辞 136 本研究に関す る論文 お よび研究発表 の一覧 137

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要 旨

自動車の事故 低減およ び運転負担軽 減のため に運転支援シ ステムの 研究が進 められており ,そこで は人間・機械 系のミス マッチが懸念 されてい る.これを 解決し自動車 運転者( ドライバ)に より優し いシステムを 構築する アプローチ として,運転 環境や支 援システムに 対するド ライバの反応 を正しく 理解した上 での自動車開 発の取り 組みが重要と なる. ドライバの反 応(生理 ,心理,行動 )は交通 状況や道路環 境,シス テム仕様 等の外的要因 (刺激) で決まるとさ れるが, 同じ外的刺激 でもドラ イバの反応 は多様で,大 きな個人 差が反応を正 しく理解 する妨げとな る. それ は,ドライ バ反応は外的 刺激以外 にもドライバ 固有の特 徴や個性であ る個人特 性(内的要 因)に大きく 影響され るからである .そこで ,諸要因を整 理してド ライバの反 応を理解する ためには ,ドライバの 多様な反 応という出力 と,ドラ イバへの刺 激(環境・シ ステム) という入力と ,それら をつなぐ人間 特性(ド ライバ個人 特性)をそれ ぞれ把握 して関係づけ る必要が ある.すなわ ち,従来 は「刺激- 反応」で捉え られてき た関係を「刺 激-人間 -反応」の枠 組みで捉 え,ドライ バ特性を類型 化した上 で刺激と反応 との関係 を探ることが 反応理解 に向けた解 決策となりう る.そし て,ドライバ 個人特性 は先天的な側 面(性別 ,感覚・知 覚,性格・気 質等の人 間が元々備え ている面 )と後天的な 側面(認 知,運転習 慣,運転態度 ・意識等 の生活や運転 で獲得し た面)に分け られる. そこで本論文 では,ま ず居眠りや精 神疲労に 伴う生体活性 の低下に よる危険 防止を想定し て,刺激 (運転模擬環 境)と反 応(生体指標 )に関す るドライバ 計測の基礎技 術を構築 し,先天的な 特性の面 から 「刺激- 人間-反 応 」の枠組 みの適用を行 った.次 に,運転支援 による負 担軽減を想定 して,行 動や負担と の関係が考え られる後 天的な個人特 性の指標 化と運転行動 解析への 応用を行い , ドライバ反応 理解に向 けた指標構築 のアプロ ーチを整理し た.具体 的には以下 の内容から構 成される . 1. 単 調 運 転 模 擬 作 業 と 高 速 道 路 走 行 の タ ス ク 負 荷 量 の 検 討 自動車単調運 転の要素 を実験室で再 現するた め,トラッキ ングと視 覚選択反 応を組み合わ せた運転 模擬作業を開 発し,そ の作業課題が 眠気や緊 張感,疲労

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感といった面 で高速道 路単調運転と 同様の特 徴を備えてい ることを 検証した. 2. 覚 醒 低 下 に 伴 う 反 応 時 間 と 脳 波 の 変 動 の 指 標 化 眠気を積極的 に生じさ せる実験で反 応時間と 反応直前の脳 波特徴量 との関係 を検討し,反 応時間遅 延時に,頭頂 部脳波の α波帯域周波 数の低下 が中枢系の 活性レベル低 下を反映 した指標であ ることを 示した. 3. 向 性 と 精 神 的 負 荷 が 精 神 疲 労 に 及 ぼ す 影 響 モ デ ル の 構 築 生体活性の変 化の個人 差に影響する 個人特性 として脳波の 刺激応答 のタイプ に着目し,内 向性・外 向性の性格と 対応する ことを示した .これを 踏まえて, 運転後の精神 疲労の大 きさは精神的 負荷(刺 激)と向性( 刺激応答 タイプと対 応)が相互に 影響して 決まるとモデ ル化し, 運転模擬作業 を用いて モデルの妥 当性を検証し た. 4. 運 転 ス タ イ ル の 指 標 化 と 追 従 運 転 行 動 解 析 へ の 適 用 運転に対する 態度 や考 え方である「 運転スタ イル」の構成 尺度を質 問紙調査 から明らかに し,簡便 な手法で指標 化した. 次に ,低速で の追従運 転行動の解 析に適用し, 行動との 相関解析によ り妥当性 を検証すると ともに, 従来の個人 属性指標との 比較やモ デル化により 運転行動 の個人差を理 解する上 での有用性 を示した. 5. ド ラ イ バ の 運 転 負 担 感 受 性 の 指 標 化 と 経 路 選 択 嗜 好 分 析 へ の 応 用 各種運転負担 の感じ方 である「運転 負担感受 性」の構成尺 度を質問 紙調査か ら明らかにし ,簡便 な 手法で指標化 した.次 に ,経路選 択嗜好の 解 析に適用し, 従来の個人属 性指標と の比較で優位 性を確認 するとともに ,嗜好の 違いを本尺 度で説明でき る可能性 が分かり,運 転行動の 個人差を理解 する上で の有用性を 示した. 6. ド ラ イ バ 特 性 と し て の 車 載 装 置 に 対 す る 知 識 の 評 価 方 法 ドライバの個 人特性評 価の手法構築 において ,まず手法の 妥当性検 討や改良 のためのアプ ローチを 示した.次に ,ドライ バ特性の具体 例として 「車載装置 の機能に対す る知識の 量」を取り上げ てその アプローチを 適用し ,「機能の知名 度の高さ」に よる知識 レベル評価法 を考案し て運転スタイ ル,運転 負担感受性 という個人特 性との関 係を 示した. 以上の研究に より,ド ライバの個人 特性評価 に基づく反応 理解の手 法を体系 化し,運転支 援やシス テムの研究へ 応用して いく有用性を 示した. 本研究の成 果により,シ ステム設 計面では,ド ライバへ の適合化を図 る上でド ライバ特性

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を数値表現す ることに よりシステム のモデル に組み込みや すくなる 効果が見込 まれる.また ,実験評 価面では,評 価結果に 影響を及ぼす ドライバ 特性をあら かじめ統制し たり,評 価結果がばら ついた理 由を事後に解 釈したり できる効果 が見込まれる .

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第 1 章

緒 言

1.1

研究の背景

1.1.1

人に優しいもの 作り の推進

20 世紀 前期 か ら 中 期 に か け て ,工 業 製 品 は 効率を上げて 大量生産 することに 重きが置かれ ,生活者 は 安価で均一 な品質の 製品を入手で きるとい う恩恵を享 受してきた. その一方 で,生活者に とって製 品をより良い ものとす るには ,製 品を使う人間 の特性 が 「もの作り」 で考慮さ れる ことが必 要である .家具やソ ファといった 職人が手 掛ける製品, いわば 伝 統的なクラフ トマンシ ップ とも言 える領域では 経験的に それがなされ てきたが ,大量生産の 工業製品 の領域では 稀なことであ った. し かし, その後 , 人間生 活の質をよ り 向上させ ようという 流れが先進国 で 見られ るようになっ た. 工業 製品に関して は, 一部 の研究機関 や製品開発者 の間 で人 間計測に基づ く 製品評 価 が試みられ ていた が ,その流れ を受けて次第 に広く そ れが着目され 始めた. このような流 れの下, 日本では「人 に優しい もの 作り」と いう言葉 を耳にす る機会が増え てきた. 現在,その言 葉は 社会 的 に十分認知 されるよ うになった と言えよう. 日本の政 府機関が 産業 界で「人 に優しい もの 作り」を 国策として 具現化しよう とした 第 一歩は,旧通 商産業省 が 1991 年度か ら 1998 年度にかけ て推 進し た 「 人 間感 覚 計測 応用 技術 」 プロ ジ ェク ト で あっ た と考 え られ る(1-1 ) このプロジェ クトでは ,製品や環境 を人間側 から評価する ことを目 的に ,人間 (作業者等) のストレ スや疲労,覚 醒 のレベ ル といった人 間状態 の 評価技術, 繊維製品の質 感 や見映 え ,椅子の着 座性能 と いった 人間適 合性の 評 価技術,照 明や空調と作 業性や快 適性 との関係 といった 作業環境・生 活環境の 人間 適合性 の評価技術等 ,多くの 人間計測技術 の 研究が 取り組まれた . このプロジェ クト は, 製品開発にお ける人間 計測 が日本の 産業界に 認知され

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ていく契機と なっ た と 言えよう .国 内では 「 人に優しいも の 作り」 に関する研 究手法が整備 され, 製 品開発に必要 な基盤 技 術や 製品設計 に直結す る技術に関 する人間研究 が 推進さ れ て,産業界 に 広がっ ていった .前 者につい ては ,人間 の 生 理 ・ 心 理 ・行 動 の 諸 反 応 の 計 測 技術(1-2), 視 聴 覚 の 知 覚・ 認 知 機 能 特 性(1-3) や 動 作 特 性(1-4)等 の 人 間 特 性 や そ の デー タ ベ ー ス(1-5), 高 齢 者 の 身 体 機 能 の 諸 特 性(1-6),製品や環 境に 対する人間の 諸反応を シミュレーシ ョンでき る デ ジ タ ル ・ ヒューマン技 術(1-7)と いった例が挙 げられる .また,後者 について は ,視 聴覚の 基 礎 特 性 に 基 づく 設 計 標 準(1-8), 居 住 空 間 の 温 熱 環 境 の 標 準化(1-9), 情 報 機 器 の 画 面 等 の 視 覚 イ ン タ フ ェ ー ス の 設 計 方 法(1- 10)や ユ ー ザ ビ リ テ ィ 評 価 方 法(1-11) いった例が挙 げられる . 国家プロジェ クトも同 様に進められ てきた .「人間感覚計測 応用技 術」プロジ ェクトの後に は, 人間 の行動特性に 適合させ た製品開発の 技術構築 に焦点を当 てて,経済産 業省 が 1999 年度から 2003 年 度にかけて「 人間行動 適合型生活環 境創出シ ステム 技術」 プロジェ クト を 推進し た(1-12), (1-13).こ のプロ ジェクト で は,日々の自 動車の 運 転,住宅内で の生活, もの作りの生 産現場, プラントメ ンテナンスや 建設とい う職住場面で の人間行 動や認知に関 わる機能 を計測し, 理解し,デー タベース 化して活用す るという フレームで研 究が進め られた. そ して,現在で も経済産 業省主導 で人 間生活の 質 の向上を目 指した 製 品開発の 取 り 組 み が 進 め ら れ て お り , そ れ は 「 感 性 価 値 創 造 イ ニ シ ア テ ィ ブ 」(1-14)の 推 進 や,2030 年に向けた 人間生活工学 の技術開 発のロードマ ップを示 した「人 間生 活技術戦 略 2007」(1-15) の策定といっ た 施策に 代表されてい る.

1.1.2

自動車における人に優しい も の作 り

工業製品の代 表 格 であ る自動車にお いても ,「人に優しいも の 作り 」の取り組 みが進められ て きた. 自動 車の性能 , 仕様と 自動車運転者 (ドライ バ) とが関 わり合う領域 は多岐に 渡る.走行性 能の領域 では ,例えば 操舵しや すさの評価 に 腕 の 筋 力 の 発 揮 特 性 を 応 用 す る 研 究(1-16)や , 操 舵 特 性 の 違 い を 心 拍 数 の 変 動 か ら 評 価 し よ う と し た 研 究(1-17)等 が 見 ら れ る . イ ン テ リ ア に 関 し て は , メ ー タ 配 置 の 見 や す さ(1-18), (1 -19)や メ ー タ 文 字 の 見 や す さ(1-20)と い っ た 視 認 性 に 関 す る 研究,機 器のス イッチ(1-21), (1-22)やマニ ュアル ・トラン スミッ ション の シフト レ バー(1-23)の操 作性の研 究,シー トの着座 性能 と疲労の関係 の研究(1 - 24),さらに は

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車両の乗 降しや すさの 研究(1-25), (1 -26)等が挙げ られる . また, 昨今で は ,利便 性 の向上や事故 防止のた めに 情報提供 機器が自 動車に 導入さ れるよう になってき た.ドライバ はその恩 恵を受ける 一 方で,従 来の運転では 存在しな かった新た な作業が課さ れること にもつながり ,情報機 器の使用 がか えってド ライバの 負 担にならない ようにす る研究が必要 となる. その目的で, 例えばカ ーナビゲー シ ョ ン 使 用 時 の ド ラ イ バ の 認 知 情 報 処 理 の 負 担(1-27)や , 人 間 特 性 に 適 合 し た 視 聴 覚 に よ る 情 報 提 供 要 件 や 統 合 方 法(1-28)等 が 研 究 さ れ て い る . こ の よ う に , 自 動車開発にお いても, 人間特性の解 明に基づ いた設計 や人 間計測に よる製品の 実験評価が行 われてき た. 今後,自動車 における 「人に優しい もの作り 」の 流れはよ り重要視 されてく ると思われる . ドライ バの運転特性 評価は , 現象計測,理 解・解析 ,システム 応用という流 れで進め られ ,将来的 には 使用 者(ユーザ) の多様化 と高齢化, お よ び 個 性 化 傾 向 を 踏 ま え て ド ラ イ バ 特 性 評 価 の 高 度 化 が 期 待 さ れ て い る(1-29) そして,ドラ イバ特性 を踏まえた自 動車開発 の対象は,現 在研究が 進められて いる運転支援 システム の領域に まで 発展しよ うとしている(1-30) .

1.1.3

運転支援における運転特性評価の問題点と解決方法

自動車事故の 低減や運 転負担の軽減 のために 運転支援シス テムの研 究が進め られている. ドライバ はシステムか らの支援 を享受できる ようにな る一方で, 自動車開発者 にとって 運転支援シス テムはド ライバと自動 車との関 係をより複 雑化するもの であると 考えられる. 例えば, システムへの 過信や不 信 ,設計者 の意図とは反 した過度 の依存や誤用 といった 新たな問題が 予想され ており,そ れらが関係を 複雑化し ,人間・機械 系のミス マッチとなっ て表面化 する ことが 懸念されてい る.これ を解決し てド ライバに より優しいシ ステムを 構築する ア プローチとし て,運転 環境や支援シ ステムに 対するドライ バの反応 を正しく理 解した上での 自動車開 発の取り組み が重要と なる. ドライバの反 応には生 理的, 心理的 ,行動的 側面があるが ,反応は ,例えば 他の交通参加 者の動き の認知や予測 といった 交通状況,車 線や交差 点構造の把 握や天候要因 といった 道路環境,支 援システ ム の仕様等の 外的要因 で決まると される.そし て,外的 要因は外界か らのドラ イバへの入力 ,それに 対するドラ イバの反応は ドライバ からの出力と 捉えられ る. 一方で, 同じ入力 であっても

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ドライバの反 応が異な ることは,我 々の日常 経験からも明 らか なこ と と思われ る.例えば, 同じ交通 密度の道を走 って いて も車線変更や 追従運転 の仕方とい った行動は人 それぞれ である し,ま た同じカ ーナビゲーシ ョンであ ってもナビ ゲーションが 示した道 をどれだけ信 用してそ のルートを選 ぶかも人 によって異 なる.このよ うに,外 界からの入力 が同じで あっても ドラ イバの反 応は多様で あり,反応の 違い ,す なわち 反応の 個人差 が 存在する. こ れが大き いことは一 入力に対して 多出力と なることに相 当するた め,入出力の 間に一義 的な関係を 見出せなくな ると考え られ,個人差 が大きい ということは ドライバ の反応を正 しく理解する 妨げとな る. この問題を解 決して入 出 力の関係を 正しく理 解していくに は,入力 と出力の 両者を仲介し ,反応 の 多様性(個人 差) を説 明できる変数 が必要 と な る.それ がドライバの 内的要因 ,すなわち ド ライバ固 有の特徴や個 性である 個人特性 で あり,ドライ バの反応 は外的要因と 同時 にこ のような内的 要因にも 大きく 影響 されると考え られる . 例えば,交通 密度の例 であれば, あ くまで 自 分のペース で運転するド ライバは 車線変更や追 い越しを 頻繁に行う一 方で,周 囲 の交通に 合わせるドラ イバは走 行車線を維持 して追従 していくもの だと説明 できるかも しれない.カ ーナビゲ ーションの例 なら,ナ ビに対する習 熟度が低 いドライバ はナビが示し た道をそ のまま信用し ,習熟度 が高いドライ バは疑問 に思ったら ルート検索を やり直す ものだと説明 がつくか もしれない. 内的要因と反 応の多様 性の問題に関 しては , 心理学史が多 くの示唆 を与えて くれる.19 世紀 後半 に誕生した初 期の実験 心理学では ,人間 行動 の一般法則を 探る上で人間 に対する 入力を刺激, 人間から の出力を反応 として両 者の関係を 調べる研究手 法が採ら れ てきた.そ して, 心 の働き一般の 法則を見 出すことが 主眼とされ,個 人差の 問題は 取り上 げられな かった .その後,20 世 紀に入って 知能や性格の 研究がき っかけとな り ,個人差 が注目される ようにな ってきた. 昨今では,単 に刺激と それに対する 反応とい う単純化され た図式で はなく,個 人 差 を 一 定 の 係 数 と し て 組 み 入 れ る よ う に な っ た と い う(1-31). ま た , 心 理 学 で 1900 年 代 前 半 に 提 唱 さ れ た 行 動 主 義 は ,科 学 的 ア プ ロ ー チ を 採る という理由か ら客観的に観 察しうる ものを対象 に しており ,外観するこ とが難し い人間の内 的な意識の問 題(認知 過程の違い等 )を 意図 的に扱わない ようにし ていた .す なわち,個人 差の問題 には焦点が当 たること はなかったと 言え よう .しかし, 行動主義の機 械論的な 枠組みは批判 を受け, その後に現れ た 新行動 主義では,

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人間の認知作 用や目的 ,要求等を取 り入れた 刺激-主体( 人間)- 反応という 関係で理論構 築が試み られる ように なった(1 - 32) . このように心 理学の潮 流を振り返っ てみても ,旧来の刺激 -反応と いう枠 組 みから脱して ,個 人差 やその発生原 因を考慮 する流れ が現 れて きて いる.ま た, 心理学的アプ ローチを 自動車のヒュ ーマンエ ラー研究へ応 用するに あたって, 内 部 の 認 知 メ カ ニ ズ ム を 伴 わ な い 行 動 主 義 的 ア プ ロ ー チ で は 人 の 振 舞 い の 理 解・予測には 限界があ り, ドライバ エラーの モデル化には 意思決定 のメカニズ ム の 理 解 が 不 可 欠 で あ る と 指 摘 さ れ て お り(1- 33), 人 間 の 内 的 な 面 に 着 目 す る 重 要性が示唆さ れている . ここでの議論 をまとめ ると ,運転環 境や支援 システムとい った外的 要因,つ まり外界から の刺激に 対するドライ バの反応 をより正しく 理解する には,個人 差の発生要因 であるド ライバの内的 要因(個 人特性)をあ らかじめ 何らかの形 で整理し,刺 激と反応 との関係を調 べ ること が重要と考え られる. つまり, ド ライバの多様 な反応と いう出力と, ドライバ へ の外界から の 刺激( 環境・ シス テム)という 入力と , それら をつな ぐ人間特 性(ドライバ 個人の特 性)をそれ ぞれ把握して 関係づけ る 必要がある .すなわ ち, 図 1-1 に示すよう に,ドライ バと環境・シ ステムと の関係を「刺 激-人間 -反応」の枠 組みで捉 え,ドライ バ個人特性を 類型化し た上で刺激と 反応との 関係を探 るこ とである .これによ り反応の個人 差を説明 可能 なことを 示すこと ができれば , この枠組 みの適用が ドライバの反 応理解に 向けた解決策 となりう る. 刺激 (環境・ システム) 人間 (ドライバ) 人間(ドライバ) 特性A 特性B 特性C 反応A 反応B 反応C 刺激 (環境・ システム) 従来の考え方 個人特性の仲介 反応X 反応Y 反応Z

図 1-1 ドライバ 反応 理解に向けた 枠組み

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1.1.4

ドライバ個人特性の分類 と反応の 指標との対応

前述の枠組み を適用す るにあたり, 例えば岩 男らが指摘す るように ドライバ 個 人 の 特 徴 を 記 述 す る 項 目 は 非 常 に 多 く 考 え ら れ(1-34), ま た 反 応 計 測 の た め の 指標も多岐に わたる. そこで,反応 の指標と 対応づけてド ライバ個 人特性にど のように着目 したら良 いのか,何ら かの指針 が必要 になっ てくる. ここで,人間 の性質 を 構成す る側面 を考えて みると ,大き くは先天 的に備え ている側面と 後天的に 獲得した側面 に分けら れる .岩波国 語辞典 ( 第三版 )に よると,「先天的 」と は 「生まれな がらにし て持っている こと 」で あり ,「 後天 的」とは「後 天(生ま れてから後に 身に備わ ること)のも のである こと 」を指 す.本研究の 対象であ る自動車運転 において も ,ドライバ 個人特性 を 大きくは これらの側面 で整理で きると思われ る . 先天的な側面 は,主に 生物的,生理 学的な機 構に根拠があ る特性と 考えるこ とができる. 例えば, 性別,年齢, 身体的特 性(形態や動 態),感 覚器の特性 , 知覚特性等が 挙げられ る. また,性 格は遺伝 (先天的)と 環境(後 天的)の相 互 作 用 に よ っ て 形 成 さ れ る と 考 え ら れ て お り(1-35), 先 天 的 な 一 面 を 持 つ も の と 考えられる. 特に,個 人の情緒的反 応の特徴 である気質は ,刺激に 対する感受 性や反応の強 度, 速度 に特色が現れ るとされ ,生体内部の 生理学的 過程との関 連が深く先天 的なもの と見られてい る(1-36) 一方,後天的 な側面は 日常生活や自 動車運転 の 経験の中で 獲得,形 成されて きたものであ り,認知 的な特性と考 えること ができる. な お,ここ で 用いてい る「認知」と は,複数 の感覚系や運 動系から の影響 をより 多く受け ,また多く の過去の経験 によって 規定され,言 語や思考 の影響 が大き い心理的 な過程のこ と を 指 し て い る(1-37). 自 動 車 運 転 で 慣 用 的 に 用 い ら れ る 「 認 知 ・ 判 断 ・ 操 作 」 という処理の 流れの「 認知」は感覚 や知覚も 含め た広い意 味で用い られる が, それとは異な ることを 付記しておく . 認知的 な特性 には, 例えば運 転経験,運 転習慣,運転 態度・意 識,知識・理 解,社会 生活上の特徴 , ストラ テジ (各種 行動の戦略 )等が挙 げ られ る.そ して,経験 により獲得さ れたもの に基づいて, 人 間 の 行 動 は 周 囲 の 環 境 に 適 応 す る よ う に 変 化 し て い く(1-38). こ の こ と か ら 認 知的特性はド ライバが 自身の特性に 合わせて 運転行動を最 適化する ための基礎 と考えられ, 運転行動 の違いとなっ て現れ や すい と予想さ れる . 以上のように , ドライ バ個人特性 に は先天的 な側面と後天 的な側面 があり,

(15)

前者では生理 的な反応 に,後者では 行動的な 反応に違いが 現れやす いと思われ る.もちろん ,例えば 後天的な側面 では心理 (主観)的, 生理的な 反応に現れ ないことはな く,何に 重きを置いて 反応を理 解しようとす るか 対応 づけ を考慮 しておくこと が重要と いう ことであ る. さら に,研究目的 に応じて 主に着目す べき反応の側 面 は異な ることを考え ると ,そ の目的に応じ て先天的 ,後天的い ずれのドライ バ個人特 性の側面 で整 理すべき か が決まって くるので はないだろ うか.ここ での議論 か ら ,図 1-2 に 示すよう に,「 刺激-人 間-反 応」の枠組 み の適用に際し て ドライ バ個人特性の 側面とそ れに対応し て 重きを置 く 反応の側 面の組み合わ せ が考え られ,これが 対応づけ の指針と言え よう.

先天的な特性 (生物的)

・性別 ・年齢 ・身体的特性 ・感覚器の特性 ・知覚特性 ・性格・気質 ・・・

心理的

反応

刺激

(環境・ システム)

人間

(ドライバ)

後天的な特性 (認知的)

・運転経験 ・運転習慣 ・運転態度・意識 ・知識・理解 ・社会生活上の特徴 ・ストラテジ ・・・

生理的

反応

行動的

反応

反応

図 1-2 ドライバ 個人 特性の側面と 反応の側 面の対応づけ

1.2

本研究の課題と目的

これまでの議 論をまと めると ,ドラ イバの反 応理解のため には 「刺 激-人間 -反応」の枠 組み の適 用 が解決策と なり,先 天的な面での ドライバ 個人特性と 生理的な反応 を, 後天 的な特性 と行 動的な反 応を対応づけ るという 指針を示し た.次の段階 として, この 考え方が 自動車工 学で有用であ ることを 示す 必要が ある.そのた めには , 運転支援を目 的とした ドライバの反 応理解に このような 考え方を実際 に適用し ,反応の個人 差を説明 することがで きるか明 らかにする ことが必要で あり, こ れが本研究に おける課 題 である.

(16)

以上を受けて ,本研究 の目的を 次の 通り設定 する .運転環 境や支援 システム に対するドラ イバの反 応理解に向け て,ドラ イバと環境・ システム との 関係を 「刺激-人間 -反応」 の枠組みで捉 え,ドラ イバ個人特性 を類型化 した上で刺 激と反応との 関係を探 る方法論の有 用性を明 らかにする. これによ り, ドライ バの個人特性 評価に基 づく反応理解 手法を体 系化する.

1.3

ドライバ個人特性を仲介させる意義

1.3.1

設計上の意義

一つは,シス テムを個 人適合化させ る設計へ 展開可能にな る という ことであ る.従来,ド ライバ特 性を考慮した 製品開発 と言うと,例 えば平均 体形をレイ アウトやシー トの設計 に反映させる 等の,母 集団としての ドライバ の平均的特 性を製品に織 り込むこ とが多かった .こ と自 動車のような 大量生産 製品では, 量産効率の良 い平均的 特性をもの 作 りの前提 としてきたの は当然と も言える. しかし,人間 は多様 で あり,前述の とおり個 々のドライバ は様々な 個性 を持つ た め , 何 か 一 つ の 平 均 値 に 合 わ せ よ う と す る と ひ ず み が 生 じ る . さ ら に 近 年 , 「集団から個 の時代へ 」と言われて おり,個 人の特性を重 視する考 え方になり つつある.運 転支援に 関しては,高 次レベル の支援におい て,ドラ イバの情報 処理能力推定 に基づく システム構築 によって 車両がテーラ メイド化 されていく こ と が 予 想 さ れ て い る(1-30). 以 上 の こ と を 考 え る と , こ れ ま で は 個 々 の ド ラ イ バが平均値を 前提とし たシステム に 自らを合 わせてきたが ,今後 は 個人の多様 な特性にシス テムを適 合化させるこ とが求め られ ,個人特 性を仲介 させる意義 があるものと 考えられ る.

1.3.2

実験評価上の意義

も う 一 つ は , 実 験 評 価 の 信 頼 性 を 確 保 す る と い う こ と で あ る(1-39). ド ラ イ バ によるシステ ム評価 実 験において, 統計的な 立場 からは標 本(抽出 された実験 参加者)は母 集団(対 象としたいユ ーザ)か ら無作為抽出 されるこ とが理想 だ が,抽出方法 が的確で あるか 不明で ある .そ の解決のため には,ど ういうドラ イバがどうい う状況で 示した反応結 果だった かを明確にす る必要が ある. これ は,例え ば材料の 強度 試験で,試料にか ける 負荷(「どうい う状況 で」に相 当す

(17)

る)と試 料の組成(「 どういう ドラ イバ が 」に相当する )を明 示し た上で試験結 果を検討する ことと同 じことである .「ど う いう状況」は実 験条件 等によって 明 らかになるが ,ドライ バ側の条件を 明 らかに する には実験 に参加し たドライバ の特徴を正し く把握す ることが重要 となる. これを怠ると , 2 つの問題が生じ ると考えられ る. 一つは「再現 性の確保 」という問題 である. 例えば,年齢 や運転経 験歴 だけ を同条件に実 験しても いつ も同様の 結果が得 られる保証は ない.若 年ドライバ と一口に言っ ても 運転 への積極性は 異なり, また 初心者や 熟練者と いった層別 をした中でも 運転に対 する負担意識 は異なる .これらが実 験や評価 の結果 に関 与しそうなこ とは容易 に想像できる . 図 1-3 に示した例の ようにド ライバの個 人特性は多様 であり, 実験評価の再 現性を確 保するにはど のような ドライバ条 件を揃えてお くべきか 明確にしてお く必要が ある. 例) 年齢と性別だけ同条件して,いつも同じ結果が得られるか?

運転

年齢 性別 運転スタイル 負担感受性 運転経験 走行エリアの環境 性格 視覚機能 認知特性 装備利用経験

・・・

図 1-3 「再現性 の確 保」の問題 もう一つは「 妥当性の 確保」という 問題であ る.つまり, 実験評価 に参加し た限られたド ライバが ,実交通の中 で研究対 象としたい集 団から正 しく選ばれ ていることを 示す必要 がある.図 1-4 に模式 図を示す.例 えば高齢 者の運転負 担を研究対象 としたい からと言って ,年齢だ けを高齢に揃 えて実験 することが 妥当と言える だろうか .こういった 評価に積 極的に参加 す る高齢者 は好奇心を 持ってアクテ ィブに行 動する人だと 経験的に 言われること もあ る. そのような 実験参加者を 用いて 運 転負担の実験 を行った 結果で,例え ばいつも 通う店舗や 病院等と自宅 と の往復 だけに しか車 を使わな い ような高齢 者の 運転 負担 を論じ ることは難し いと容易 に想像でき る .この よ うに,妥当 性を確保 す る上で,個 々 のドライバの 特徴と母 集団(すなわ ち研究対 象 とする集団 )の統計 的分布の特 徴を明らかに しておく 必要がある.

(18)

調査・試験に参加した被験者 ≒ 研究対象を代表する被験者? 抽出 母集団を推定 母 集 団 被 験 者 集 団 図 1-4 「妥当性 の確 保」の問題 以上のように ,実験評 価の信頼性を 確保する 上でドライバ 個人特性 を仲介さ せる意義があ る もの と 考えられる.

1.4

本研究の概要と特徴

本研究では, まず,居 眠りや精神疲 労に伴う 生体活性の低 下による 危険防止 を想定して, 刺激(運 転模擬環境) と反応( 生体指標)に 関するド ライバ計測 の基礎技術を 構築 する .そして ,先 天的な特 性の面から 脳 の刺激応 答特性を反 映した性格に 着目して ,精神疲労の モデル化 について 「刺 激-人間 -反応」の 枠組みを適用 する.次 に,運転支援 による負 担軽減を想定 して,行 動や負担と の関係が考え られる後 天的な個人特 性 (運転 態度や意識) の指標化 を行い,運 転行動解析へ 適用 する .最後に,ド ライバ反 応理解に向け た 個人特 性 指標の構 築のアプロー チを整理 する. このような流 れの下, 本論文は以下 の内容か ら構成される . なお, 第 2 章~ 第 7 章で述べ られてい るそれぞれの 研究は, 図 1-5 のように 関係づ けられる. 第 2 章「単調 運転模擬 作業と高速道 路走行の タスク負 荷量 の検討」 では,自 動車単調運転 の要素を 実験室で再現 するため ,トラッキン グと視覚 選択反応を 組み合わせた 運転模擬 作業を開発し ,その作 業課題の負荷 が眠気や 緊張感,疲 労感といった 面で高速 道路単調運転 とどのよ うな関係にあ るかを検 討する. 第 3 章「覚醒 低下に伴 う反応時間と 脳波の変 動の指標化」 では,眠 気を積極 的に生じさせ る実験で 反応時間と反 応直前の 脳波特徴量と の関係を 検討し,反 応時間遅延時 に現れる 脳波の特徴を 明らかに する.これに より,中 枢系の活性 レベル低下を 反映した 脳波指標を示 す.

(19)

先天的な特性 (生物的)

・性別 ・年齢 ・身体的特性 ・感覚器の特性 ・知覚特性 ・性格・気質 ・・・

心理的

反応

刺激

(環境・ システム)

人間

(ドライバ)

後天的な特性 (認知的)

・運転経験 ・運転習慣 ・運転態度・意識 ・知識・理解 ・社会生活上の特徴 ・ストラテジ ・・・

生理的

反応

行動的

反応

反応

第2章

第3章

第4章

第4章

第5章

第6章

第5章

第6章

第7章

第5章

第6章

図 1-5 それぞれ の研 究の関係性 第 4 章「向性 と精神的 負荷が精神疲 労に及ぼ す影響モデル の構築」 では,生 体活性の変化 の個人差 に影響する個 人特性と して内向性・ 外向性の 性格に着目 し,まず脳波 の刺激応 答と の対応関 係を 第 3 章で提案した 脳波指標 を用いて 検 討する.これ を踏まえ て,運転後の 精神疲労 に影響する要 因として 精神的負荷 (刺激に対応 )と向性 (刺激応答タ イプと対 応) に着目し ,精神疲 労との関係 をモデル化す るととも に, 第 2 章で 開発した 運転模擬作業 と第 3 章 での脳波指 標を用いて ,モデ ルの 妥当性を 検討 する .こ のように ,「刺 激-人 間-反応 」の 枠組みを適用 し て精神 疲労の個人差 を理解す ることを試み る. 第 5 章「運転 スタイル の指標化と追 従運転行 動解析への適 用」では , 日常の 運転行動に関 係すると 考えられるド ライバ個 人特性として 運転に対 する態度や 考え方である 「運転ス タイル」 を設 定し,そ の構成尺度を 質問紙調 査から明ら かにし,簡便 な手法で 指標化 する. 次に,低 速での追従運 転行動の 解析に適用 し,行動との 相関解析 により妥当性 を 調べる とともに,従 来の個人 属性指標と の比較やモデ ル化によ り運転行動の 個人差を 理解する上で の有用性 を 検討する . 第 6 章「ドラ イバの運 転負担感受性 の指標化 と経路 選択嗜 好分析へ の応用」 では,運 転負担へ の対 処行動に 影響 すると考 えられるドラ イバ個人 特性として , 各種運転負担 の感じ方 である「運転 負担感受 性」の構成尺 度を質問 紙調査から 明らかにし ,簡便な 手 法で指標化 す る.次 に ,経路選択 嗜好の解 析 に適用し て,

(20)

従来の個人属 性指標と 比較 すること によって 優位性を明確 化する と もに, 嗜好 の違いを本尺 度で説明 できる可能性 を調べる .これらより , 運転行 動の個人差 を理解する上 での有用 性を 検討する . 第 7 章「ドラ イバ特性 としての車載 装置に対 する知識の評 価方法」 では,ド ライバの個人 特性評価 の手法構築に おいて, まず手法の妥 当性検討 や改良のた めのアプロー チを 整理 して示す .次 に,ドラ イバ特性の具 体例とし て「車載装 置の機能に対 する知識 の量」を取り上 げてそ のアプローチ を適用し て ,「機能 の 知名度の高さ 」による 知識レベル評 価法を 提 案する.そし て, 第 5 章で提案し た運転スタイ ル, 第 6 章で提案した 運転負担 感受性という 既知の個 人特性との 関係を検討し ,さらな る簡易指標化 の可能性 を探る.これ らにより ,運転行動 の個人差理解 に有用な 個人特性指標 の構築 ア プローチを整 理する . 第 8 章「結言 」では, 本研究 の結論 ,総括, 本研究の成果 により見 込まれる 効果,そして 今後の課 題について述 べる.

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(22)

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(23)

第 2 章

単調運転模擬作業と高速道路走行の

タスク負荷量の検討

2.1

はじめに

交通事故の多 発による 死傷者の増大 は 大きな 社会問題とな っており ,交通事 故は覚醒低下 に起因す るものも尐な くない. 従って,事故 防止の視 点として覚 醒低下の防止 は重要で ある. 従 来 , 覚 醒 低 下 研 究 で は , 深 夜 作 業(2-1)や 疲 労(2-2)に 起 因 す る 事 例 が 多 く 取 り 上げられてき た.自動 車運転場面で も,ドラ イバの生理心 理状態の 変化という 視 点 か ら , 夜 間 運 転 や 長 距 離 運 転 に お け る 機 能 低 下 が 研 究 さ れ て き た(2-3), (2-4), (2-5), (2-6), (2-7).しかし, 深夜作業や疲 労という 原因以外にも 単調作業 時には覚醒 の低下は顕著 になると されており(2 -8),従 来 からその危険 が指摘さ れている(2-9 ) 自動車運転に おいて 高 速道路走行は ドライバ の機能低下を 誘発する 単調運転と 考 え ら れ(2-10), ま た , そ の 模 擬 場 面 で は 車 線 逸 脱 を 生 じ る レ ベ ル の 覚 醒 低 下 が 多 数 生 じ る 可 能 性 が 指 摘 さ れ た(2-11). さ ら に , 先 行 車 と の 車 間 距 離 を 一 定 に保 持 す る よ う に 追 従 運 転 を 行 う 車 間 距 離 自 動 制 御 シ ス テ ム ( Adaptive Cruise Control: ACC)(2-12 )や,白線 内から車 が逸脱し そうになると 警告や車 線内に戻り や す い よ う な 補 助 を 行 う 車 線 維 持 支 援 シ ス テ ム(2-12)を 始 め , 本 格 的 な 導 入 が 今 後期待される 高度な車 両 制御システ ムは 自動 化の促進によ って ドラ イバの負担 を低減する一 方で,結 果として 運転 操作を容 易化する こと になるた め ,単調に よる覚醒低下 を助長す る 危険性が懸 念される . こ れ ま で 覚 醒 低 下 に 関 し て は 居 眠 り 検 出(2 -13)や 覚 醒 低 下 の 防 止 策(2- 14), (2-15) 多く研究され て おり, また覚醒状態 を段階的 に 推定する研 究 も試み られている (2-16). そ し て , 覚 醒 低 下 研 究 で は , 実 験 室 に お い て 単 調 運 転 を 想 定 し た 運 転 模

(24)

擬作業が多く 用いられ てきた.運転 模擬作業 を用いる理由 として, 実験条件の 統制,再現性 ,あるい は実験時の安 全の確保 等が挙げられ る.しか し,模擬作 業による実験 結果をよ り信頼性の高 いものと するためには ,実走と の負荷特性 の違いを把握 した上で 結果を解釈し ていく必 要がある .その方 法の 一つとして , 両者の作業負 荷量の関 係を確認する ことが考 えられる.し かし,運 転の代用負 荷 と し て の 各 種 模 擬 作 業 の 基 礎 特 性 を 検 討 し た 事 例(2-17)は あ る も の の , 実 際 の 運転負荷との 関係は殆 ど検討されて なくいま だ不明確であ る. 本研究では, 覚醒低下 研究の視点か ら,実験 室での単調運 転模擬作 業と高速 道路単調運転 の負荷量 の関係検討を 目的とし た.関係の定 量化に際 しては,実 験室,実走い ずれの場 面でも 同様に 計測でき る主観評価を 用いた. ここでは, 主観評価の挿 入が 実験 参加者 の覚醒 等の状態 変化に及ぼす 影響をで きるだけ抑 えるように評 価間隔や 評価所要時間 を考慮し た. 最初に, 単調運転 模擬作業と して独自にト ラッキン グ二重課題を 設定し ,覚醒低下が生 じること を確認した . 次に,トラッ キング二 重課題と高速 道路単調 運転の負荷量 の関係を 定量的 に比 較,検討した .

2.2

設定した作業課題

2.2.1

課題の設定方針

単調運転場面 として高 速道路定常走 行を想定 し た.この走 行状態を , 長時間 の注意持続が 必要で , かつ前車のブ レーキ等 の希に出現す る信号 を 認知して 正 確な反応が要 求される ヴィジランス 課題と考 え た.これは ,ランダ ムに出現す る複数種類の 視覚刺激 を判別して, 刺激に対 応した適切な 反応を行 う 選択反応 課 題 の 形 態 で 模 擬 で き る(2-11). さ ら に , 実 際 の 自 動 車 運 転 で は , 手 足 の 協 調動 作により車線 内 の制御 あるいは前方 車への追 従も同時に行 われる. 車線内制御 や追従の要素 は,トラ ッキング課題 という 形 態で抽象化で きる. ト ラッキング の忙しさや複 雑さが変 わると 作業負 荷 が変わ り,それは高 速道路に おける追従 時の走行車速 の変化や カーブ曲率の 変化等に 相当する .以 上の理由 から,単調 運転模擬作業 として, 自動車用シー トに着座 状態で 常時ト ラッキン グ課題を 行 いながら選択 反応課題 を 行うトラッ キング二 重課題を設定 した. こ こでは,排 気量 1.8L のセ ダン 型 乗用 車 の運 転 席レ イア ウト を 再現 す るこ とに よっ て 実験 参加者が着座 姿勢を取 るようにした . その概 要を図 2-1 に示 す.

(25)

追跡枠 ターゲット 反応要求刺激 軌道 ハンドル操作 アクセル操作 道路 ディスプレイ 押しボタン 1.8L乗用車 (セダン)のレイアウト 図 2-1 トラッキ ング 二重課題

2.2.2

トラッキング二重課題の詳細

課題は,着座運 転姿勢 の 実験参加者 前方 約 1m の台上に 置かれ た 14 インチデ ィスプレイ上 に提示さ れ た.トラッ キング課 題において, 実験参加 者 には,移 動するターゲ ットを常 時追跡枠の中 に収める ように ハンド ル とアク セルを使っ た操作を要求 した. タ ーゲットの軌 道と速度 は 予備検討に より設定 した. 軌道に関して ,自動車 運転では基本 的に現在 の自車位置と 道路形状 ,他車と の関係から将 来をある 程度予測して 自車を制 御するが,時 々予測と は異なる状 況になること もある. その要素を抽 象化して ,上下 ,左右 ,斜めへ の移動方向 の予測が可能 な直線的 な 軌道とし, 一定の確 率で ,平均で 10s に 1 回の割合で 移動方向がラ ンダムに 変化するよう にした.ターゲットは 緑色円形(直径 6mm) で,速度は 6mm/s と した.追跡枠 (水色円 形,直径 18mm)はハ ンドル操作に よって左右に 移動し, アクセル開度 に比例し てディスプレ イ上方向 に移動する ように設定し た . 選択反応課題 では ,反 応要求刺激は 赤,青 ,黄色 の円形視 覚刺激( 直径 42mm) で構成され ,ター ゲッ トと同心に 5s から 20s のランダムな 時間間隔 で提示 した . 実験参加者は ,ハンド ル 上の左右に 配置さ れ た 2 個の押 しボタンを 反応要求刺 激の色に応じ て できる だけ速くかつ 正確に押 し分けること を要求さ れ た(赤: 右ボタン,青 :左ボタ ン,黄色:両 方同時 ).

(26)

2.3

負荷量の関係の検討方法

2.3.1

検討方針

(1) ト ラ ッ キ ン グ 二 重 課 題 に つ い て の 検 討 二重課題は高 い 負荷を かけるために 用いられ ることが多い .さらに ,トラッ キング課題で は,ター ゲットの軌道 と速度に よっては覚醒 低下を招 かず,逆に 緊 張 を 高 め る こ と に も な り う る(2-18). そ こ で 第 一 段 階 と し て , 今 回 設 定 し た ト ラッキング二 重課題が ,緊張は生じ ず覚醒低 下が生じ る単 調課題で あることを 検証した. (2) 作 業 負 荷 の 評 価 の 考 え 方 人間への負荷 を精神的 負荷と身体的 負荷に分 け,トラッキ ング二重 課題と高 速道路単調運 転の負荷 量の関係検討 を試みた . 芳賀によると ,作業負 荷は時々刻々 と変化す るものであり ,負担は 作業継続 時 間 の 積 分 値 と 考 え る こ と が で き る(2-19). こ れ に 基 づ け ば 作 業 負 荷 の 評 価 で は ほぼリアルタ イムの変 化を捉える必 要があ り ,今回のよう に主観評 価を用いる 場合には,作 業の妨げ になる, 人間 の自然な 状態変化を妨 げるとい った問題が 生じる.そこ で, 本研 究では 状態変 化 に影響 しない範 囲の できるだ け短い時間 間隔で主観評 価を実施 し,その 区間 積分値で ある精神的 負 担や身体 的 疲労のレ ベルを評価す ること に より,積分的 な効果も 含めてその作 業が持つ 負荷と 近似 した.そして , 両作業 中の 精神的負 担と身体 的疲労 の時間 変化 を検 討すること で , 両 作 業 の 負 荷 量 を 比 較 し た(2-20). こ こ で は , 状 態 変 化 へ の 影 響 を 抑 え つ つ 評価間隔を短 くするた めの時間間隔 を ,予備 検討を通し て 10 分に 設定した. また,作業負 荷 が 人間 に及ぼす影響 を検討す る 上で,ある 時間長で の負荷の 平均強度と最 大強度と いう 2 つの視 点があ る(2-19).これ を台 風の 風の強さに例 えると,「平均 風速 」と「最大 瞬間風速 」の それぞれの面 から評価 すること に相 当する.そこ で本研究 でも ,負荷量 の比較 の 視点として両 作業の負 荷の推移傾 向(平均強度 に相当) と最大負荷量 (最大強 度に相当) の 2 点を設 定した.推 移傾向につい ては, 各 作業で主観評 価得点の 時系列変動 の 概要を分 析 した後, 両作業におけ る 等時間 長の主観評価 得点 の時 系列 を分散分 析で 比較 した. 最大 負荷量につい ては ,あ る時間長にお いて両作 業が 実験参加 者に及ぼ した負荷 の 最大値を比較 した.

(27)

2.3.2

主観評価方法

(1) 精神的負荷

主観評価が実 験参加者 の状態変化に できるだ け影響しない ようにす るには短 時間での評価 が必要で あり,そのた めには精 神的 負担の現 象を必要 十分な因子 で説明できる 主観評価 方法の適用が 望ましい .そこで, 財 団法人 労 働科学研究 所が開発した 「精神的 作業負担チェ ックリス ト 」(Roken Arousal Scale : RAS) を使用した(2 -21).RAS は,眠気や精 神的緊張 を伴う作業に よる負担 をごく簡便 に 1 分程度 の短時間で 評価可能であ る.因子 分析により精 神負担現 象を説明す る 6 因子を抽 出して尺 度化され てお り,各尺 度は 2 項目の 質問で構 成される. RAS の尺度 と質問 項 目 ( ① ② は 便 宜 上 の 番 号 ) を表 2-1 に 示 す . 表 2-1 RAS の 6 尺度 とそれに対応 する質問 項目 尺 度 名 質 問 項 目 眠 気 ① ま ぶ た が 重 い と 感 じ る ② 眠 い 緊 張 ① 緊 張 し て い る ② ど き ど き し て い る リ ラ ッ ク ス ① く つ ろ い だ 気 分 だ ② ゆ っ た り し た 気 分 だ 注 意 集 中 困 難 ① 思 考 が に ぶ っ て い る ② 注 意 の 集 中 が で き に く い 全 般 的 活 性 ① 活 力 が み な ぎ っ て い る ② 積 極 的 な 気 分 だ 意 欲 減 退 ① や る 気 が で な い ② 何 か す る こ と に 気 乗 り が し な い 評価スケール は,1:「 あてはまらな い」,3:「尐し」あて はまる,5:「かなり」 あてはまる,7:「非常 に」あてはま る, と設 定し,それぞ れ強度を 表す副詞の 数値(奇数) 間に偶数 値 を設定し て 7 段階と した.また, 各段階の 間の中間値 (小数)も認 め,中間 値で評価した ときには 低い方の段階 値に一 律 0.5 を加算 して扱った(例 えば 3 と 4 の間に評 価されれ ば 3.5 とする).そ し て,各因子の 評価得点は対 応する質 問 2 項目の平 均点とし た. (2) 身体的負荷 身体疲労感を ,項目を 絞って 評価さ せた.具 体的には,手 腕部,首 肩部,腰 部の 3 部 位それぞ れ の疲れ・こり ・痛み, および目の疲 れの 計 4 項目を RAS 同様に 7 段階 (小数の 中間値も認め る)で評 価させた.

(28)

2.4

実験的検討

2.4.1

トラッキング二重課題の単調性の検証

(1) 実験参加者 運転免許を所 持する 健 常な男女大学 (院) 生 8 名とし, 実験終了 後に謝礼を 支払った. (2) 実験室条件 室温を 24~26℃に設 定した,低照 度の簡易 防音室. (3) 実験の流れ 図 2-2 に 示すよう に, 暗順応も兹ね て習熟試 行を 7 分間実施 した後 ,実験参 加者の心理状 態を安定 させるために 安静閉眼 状態にさせた .安静閉 眼では,背 景音として小 川のせせ らぎを 40dB(A)で実験参加者前方の スピーカ より呈示し た(音楽専用 のオーデ ィオシステム を使用 ).その後,10 分を 1 セッションと してトラッキ ング二重 課題を実験参 加者に課 し,1 実験につき 6 セッ ション(Ss1 ~Ss6)繰り返し た. 全セッション 終了後, 再び安静閉眼 状態(背 景音も呈示 ) にさせて実験 を終了し た.主観評価は 作業開 始前(Pre)と各セッ ション後(s1 ~s6)に 質問 紙を 用い て実 施し た. ただ し, 身体 的負 荷の 評価 項目 の「 目の疲 れ」は Pre と s6 でのみ評価を行っ た. 暗順応 7分 安静 閉眼 5分 課題 10分×6セッション 安静 閉眼 5分 Ss1 10分 Ss2 10分 Ss3 10分 Ss4 10分 Ss5 10分 Ss6 10分 s1 s2 s3 s4 s5 s6 Pre 図 2-2 トラッキ ング 二重課題実験 の流れ (4) 行動指標 の 計 測 ・ 解 析 方 法 反応要求刺激 が 提示さ れてから 実験 参加者 が 反応するまで の選択反 応時間を ,

(29)

パーソナル・コン ピュ ータ の内部ク ロックを 用いて 1ms 単位で 計 測した.そし て,セッショ ン毎に 式 2-1 で表され る反応 遅れ RMS(2-11) に変換し て用いた . 𝑅𝑇𝑟𝑚𝑠 = (𝑅𝑇𝑖− 𝑅𝑇𝑏𝑎𝑠𝑒)2 𝑁 ただし, RTi :反応要求刺 激に対す る反応時間系 列( i=1,2,3,…,N) RTbas e :個人が元々 持ってい る 反応能力に 相当する 反応時間 ここで,反応 遅れ RMS 指標につい て略説す る.反応時 間 RTiは,課題遂行に 伴う人間の状 態変化を 反映した部分 と,元々 個人が反応能 力 として 持っている 部分 RTbaseの和で記 述 できる.そし て,RTbas eを個人が発揮し うる 最高パフォー マンスと考え て課題遂 行によって変 化しない もの (すなわ ちベース ライン) と 仮定すると, 状態変化 に相当する部 分 を忠実 に抽出するた めに は RTi と RTbas e の差を用いる ことが適 切 と考えられ る.以上 から ,覚醒低 下に伴っ てこのばら つきが大きく なるとい う現象を Root Mean Square (RMS) で表現し た.なお,

RTbas eは,反応時 間系 列を昇順ソー トして異 常値 (上位 2.5%のデ ータ,一般正 規分布 N(μ,σ2) での 2σ の 片 側 確 率 に ほ ぼ 相 当 ) と 見 な さ れ る 部 分 を 除 去 し た 後 の, 速 い 方 か ら 5%のデ ー タ の 平 均 値と 仮 定 した . 本 実 験 で は , 実 験参 加 者毎に 6 セッシ ョン 分のデータか ら RTbaseを算出して, 各セッシ ョンの反応遅 れ RMS を算出した. さらに,追従 誤差とし て ,追跡枠中 心とター ゲット中心の 間の距離 をサンプ リング周 期 0.5s で計 測した.そ して,各セ ッションでそ の平均値 を算出して代 表値とした.

2.4.2

検証結果

(1) 精神的負荷 図 2-3 に RAS 得点 平 均値の推移を 示す.眠 気,注意集中困難,意 欲減退 は時 間経過に伴っ て増加傾 向を示し,眠 気は最大 で「尐し」~ 「かなり 」の中間レ ベルに達した .また, 緊張は低いレ ベルで推 移した.リラ ックス, 全般的活性 は時間経過に 伴って 減 尐傾向を示し ,得点は 低かった.時 間変動を 統計的に検 討するため, セッショ ンを要因とし た繰り返 し測度の分散 分析を行 った結果, (2-1)

(30)

セッションの 効果が有 意であったの は眠気( p<0.1),リラ ックス( p<0.01),注 意集中困難(p<0.05),意欲減退(p<0.07)であった. (2) 行動指標 図 2-4 に 反応遅れ RMS 指標と追従誤 差の平 均値の推移を 示す .反 応遅れ RMS は 0.2s~0.4s で推移して増加傾向を 示し,ま た 追従誤差も 時間経過 に伴って増 加傾向を示し た. (1)と同様の分散 分析の結 果,反応遅 れ RMS(p<0.08),追従 誤差(p<0.05)ともセ ッションの効 果が有意 であった. 1 3 5 7 Pre s1 s2 s3 s4 s5 s6 セッション 緊張 (n.s.) 眠気 (p<0.1) リラックス (p<0.01) Pre s1 s2 s3 s4 s5 s6 セッション 意欲減退 (p<0.07) 注意集中困難 (p<0.05) 全般的活性 (n.s.) 主観評価得点 1 3 5 7 主観評価得点 図 2-3 精神的負 担の 主観評価得点 (トラッ キング二重課 題) 0.0 0.2 0.4 0.6 Ss1 Ss2 Ss3 Ss4 Ss5 Ss6 セッション 反応遅れ RM S (s ) mean±SD 0.0 10.0 20.0 30.0 40.0 Ss1 Ss2 Ss3 Ss4 Ss5 Ss6 セッション 追従誤差 (dot ) mean±SD 図 2-4 作業成績 (ト ラッキング二 重課題)

(31)

(3) 考察 実験では眠気 は時間と ともに 増加し たが,緊 張は ほとんど 生じず変 動も 見ら れなかった. また,作 業成績は 時間 とともに 低下した.以 上から, 今回設定し たトラッキン グ二重課 題は ,緊張は 生 じず覚 醒低下が生じ る単調課 題と考えら れる.その他 の特徴と して,リラッ クスが実 験後に減尐 し ていく 様 子 を示した こと,全般的 活性 は 低 い値のまま ほ とんど 変 動が見られな かったこ と,注意集 中困難と意欲 減退が時 間とともに増 加したこ とが挙げられ る. なお , 身体的負 荷について は 2.4.4 で 議論する.

2.4.3

高速道路単調運転の実験方法

(1) 実験参加者 22~ 40 歳 で 日 常 か ら 自 動 車 運 転 を 行 う 健 常 な 男 女 8 名 と し ,実験 終了 後に謝 礼を支払った . (2) 実験車両 排気量 1.8L のセダン(4 速オートマテ ィッ ク・トランス ミッショ ン)を使用 した. (3) 走行 コ ー ス お よ び 走 行 条件 実験には東名 高速道路 を使用し ,昼 間から夕 方にかけて片 道 2 時間 連続の追 従走行をモデ ルケース として 往 復 4 時間の走 行を行った. 実験車両には 実験参加 者と実験者 の 2 名が乗 車し,午 前中に基 地を 出発して , 慣熟走行を兹 ねて実験 参加者の運転 で海老名 サービスエリ アまで移 動した. そ して,停車して 約 30 分の休憩を取 った後,実験参加者の 心理状態 を安定させる ために出発直 前に車内 で 5 分間の 安静閉眼を 行ってから同 所を出発 した.出発 後すぐに評価 対象とす る運転 (往路 ) を開始 し, 名古屋方 面に 走行 し て 2 時間 を超えたとこ ろで 評価 対象の運転を 終了した .その後, 最 寄りのイ ンターチェ ンジで降り, 料金所を 出てすぐに折 り返して 再び東名高速 道路に入 って 直近の サービスエリ ア または パーキングエ リア まで 移動し, 約 30 分の休 憩を取った . 出発直前に車 内で 5 分 間の安静閉眼 を行った 後,東京方面 に向けて 出発して す ぐに評価対象 の運転( 復路) を開始 した. 実 験の流れを 図 2-5 に示 す. 評価対象の運 転 では, 原則として走 行車線を 交通の流れに 乗って走 るように 指示した.車 速の遅い 車の後ろにつ いたとき には実験者が 追い越し を指示した

図 3-11   α波帯 域周波 数ゆらぎ係数 の推移
表 5-2  実験 コー スお よび実験参加 者の割り 当て の概要 男性 女性 つくば市東新井 霞ヶ浦運動公園 12.6 3 1 土浦市中村西根 川口運動公園 13.8 1 3 谷和原村小張(運動公園) 手代木公園 15.0 3 1 つくば市花島新田 つくば市春日 11.0 1 3始点終点走行距離(km)実験参加者数 実験に先立っ て,実験 参加者は出発 地から目 的地まで地図 を見ずに 運転でき るように,計 測員が同 乗して 練習走 行を行っ た.そして, 実験では 普段どおり の 運 転 を す る
表 5-3  DSQ 尺度得点 と運転行動指 標の相関 係数  加 速 度 車速 正 4 平均 -0.62 * ~ SD -0.56 * -0.69 ** 20 平均 SD 平均 SD -0.69 ** 平均 SD 0.64 ** 21 平均 -0.55 * ~ SD -0.56 * -0.73 ** 40 平均 SD 平均 -0.59 * SD -0.69 ** 平均 SD 負 4 平均 ~ SD 20 平均 0.53 * SD 0.50 * 0.59 * 平均 0.59 * -0.59 * -0.56
表 6-4  全体 およ び男 女別の平均値 と標準偏 差(WSQ)  平均 SD 平均 SD 平均 SD 交通状況把握 3.07 0.66 3.00 0.66 3.17 0.65 道路環境把握 2.91 0.73 2.77 0.70 3.13 0.72 運転への集中阻害 2.63 0.67 2.56 0.63 2.73 0.71 身体的活動度の低下 3.10 0.83 2.91 0.74 3.39 0.88 運転ペース阻害 2.78 0.79 2.82 0.79 2.73 0.77 身体的苦痛 3.19
+2

参照

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