ラットにおける希少糖D-プシコースのセカンドミール効果
松尾達博・宮本奈緒美Second-meal Effect of D-psicose in Rats
Tatsuhiro MATSUO and Naomi MIYAMOTOAbstract
Low postprandial blood glucose is associated with low risk of metabolic diseases. An ability of meal to diminish the glucose response to carbohydrates eaten during the following meal is known as the “second-meal effect”. The reduced glycemia elicited by low glycemic index foods consumed during the first meal has been suggested as the main mechanism for second-meal effect. D-Psicose is a sweet monosaccharaide that provides no energy to growing rats and leads to less glycemic response induced by other carbohydrates. In this study, we examined the second-meal effect of D-psicose in rats. Twenty-eight male Wistar rats (6 weeks old) were fed the first meals (dextrin or CE-2 with 10% D-psicose) at 9:00 and then they were fed the second meals (dextrin or CE-2 without D-psicose) at 14:00. Plasma glucose concentration was measured for 3-hours after second ingestion of test meals. However, glycemic re-sponses after second meals did not differ regardless of composition of the first meals. In conclusion, the present study found no second-meal effect of D-psicose in rats.
Key words : D-psicose, second-meal effect, glycemic response, rat
緒 論 現在わが国では,食の多様化により食事内容が高脂肪 食化しており,エネルギーを過剰に摂取することによる 肥満や糖尿病,高血圧などの生活習慣病が蔓延してい る.特に糖尿病による死亡者数は年間1万人以上との報 告もあり(1),国民病と言っても過言ではない. 糖尿病はその原因により2つに分けられる.1型糖尿 病は,インスリンを合成・分泌する膵臓ランゲルハンス 島β細胞の破壊消失によるインスリン分泌不全が原因で ある.インスリンは,生体内で唯一エネルギーの蓄積に 働くホルモンであり,膵臓ランゲルハンス島で生成・分 泌され,門脈を通り肝臓に達し,肝静脈を経て全身の組 織に送られる.肝臓や筋肉,脂肪組織などのインスリン 感受性を有する細胞のインスリン受容体にインスリンが 結合すると,それらの組織でグルコースの細胞内への取 り込みが行われ,エネルギーとしての利用やグリコーゲ ン貯蔵の促進,タンパク質の合成促進,細胞の増殖など の働きを示す.一方,2型糖尿病はインスリン分泌低下 をきたす素因に,さらに複数の遺伝的素因,過食,肥 満,運動不足,ストレスなどの環境因子及び加齢が加わ ることでインスリン感受性が低下し,発症する(2).糖尿 病を発症した場合,高血糖による合併症を防ぐために は,血糖値コントロールが必要であり,そのため様々な 機能性食品が開発されている.その中の一つとして,近 年D-プシコースが着目されている. 希少糖D-プシコースはD-フルクトースのC-3エピ マーであり,天然にごくわずかしか存在しない単糖で ある.そのため,これまでD-プシコースを用いた研究 はあまりなされてこなかった.しかし,近年,微生物を 用いて酵素的にD-プシコースを大量生産する方法が確 立されたことにより,その生理活性の探索,食品や医療 品への応用などの研究が進められている(3).先行研究に よると,D-プシコースは,体脂肪蓄積抑制作用(4)およ び食後血糖値上昇抑制作用(5),(6)をもつことが明らかに なった. 一方,摂取時の血糖値上昇だけでなく,次の食事後の 血糖値上昇も抑制することを,血糖値に対するセカン ドミール効果という(7),(8).特に,低グリセミックイン デックス(GI)食品は,セカンドミール効果を有するこ 香川大学農学部学術報告 第63巻 73∼76,2011
香川大学農学部学術報告 第63巻,2011 とが報告されている(9).食後の血糖応答を低く抑えるこ とは,健常者と疾患保有者の別を問わず有益である(10). とりわけ糖尿病患者では,日常の血糖値をコントロール することが治療の根幹に据えられている(2),(11). D-プシコースは,摂取量によっては下痢を発症させ ることが明らかにされている(12) .そのため1回目のD-プシコース摂取で,2回目以降の食事摂取後にも血糖値 上昇を抑制できれば,下痢などの欠点を最小限に抑え ながらD-プシコースの有用性を得ることが可能になる. そこで本研究では,D-プシコースにセカンドミール効 果が確認されるか否かを,第1食として定量摂取させや すいデキストリンとD-プシコースをラットに同時経口 投与した場合(実験1),予めラットにD-プシコースを 市販粉末飼料(CE-2)に混ぜ2週間摂取させた後,実 験1と同様にデキストリンとD-プシコースを同時経口 投与した場合(実験2),デキストリンの代わりに市販 粉末飼料(CE-2)とD-プシコースを混合した実験食を ラットに摂取させた場合(実験3)について,第2食後 の血糖値上昇抑制作用が認められるか否かについて検討 した. 実 験 方 法 (実験1)実験動物を6週齢Wistar系雄ラット8匹とし た.ラットを12時間絶食させた後,午前9時に1食目と して25%デキストリン溶液,もしくは25%デキストリン +2.5% D-プシコース溶液を体重あたり20ml/kg(デキス トリン5g/kg,D-プシコース0.5g/kg)経口投与し,5時 間後の午後2時に2食目として25%デキストリン溶液の みを体重あたり20ml/kg(デキストリン5g/kg)経口投 与した.投与前および投与後30,60,90,120,180分に 微量採血管(テルモ株式会社)を用いて尾静脈より採血 し,血液採取後,3000rpmで15分間遠心分離し,得られ た血漿を−20℃で保存した.試験物質摂取による影響を 除外するため,次回の試験摂取については前回の摂取か ら1週間以上の間隔をあけるものとした.血漿グルコー ス濃度については,Bergmeyerら(13)の方法で測定した. (実験2)実験動物を6週齢Wistar系雄ラット10匹とし た.市販粉末飼料(CE-2,日本クレア株式会社)に 10%のD-プシコースを混合し,ラットに2週間自由摂取 させた.その後の実験方法については実験1と同様であ る. (実験3)実験動物を6週齢Wistar系雌ラット10匹とし た.摂取物質して,市販粉末飼料(CE-2)に10%のD-プシコース,あるいはショ糖を含む餌を用いた.10% D-プシコース食を2週間,午前8:00∼9:00,午後 1:00∼1:30の2食制下に摂取させた.同時に摂取量を 測定し,各時間内に食べきる量を決定した.実験当日, 第1食として10%D-プシコースあるいは10%ショ糖食を 午前8:00∼9:00に摂取させ,第2食として10%ショ糖 食を午後1:00∼1:30に摂取させた.いずれもあらかじ め決定したラットが食べきる量を与えた.その後の実験 方法については実験1と同様である. 測定値については,各群の平均値と標準偏差で示し た.採血時間ごとの測定値の比較を,対応のあるStu-dentのt-testによって行った.いずれも,P<0.05で有意差 ありと判定した. 結果および考察 (実験1)いずれの被験物を摂取した場合でも,時間の 経過にともない血糖値は120分まで上昇し,その後180分 にかけて減少した(表1).しかし,D-プシコースの有 無に関わらず,どの時間においても血糖値に有意な差は みられなかった. 第1食でD-プシコースの摂取の有無に関わらず,第 2食以降の血糖値上昇に有意な差はみられず,D-プシ コースのセカンドミール効果は認められなかった.本実 験では,投与前の飼育期間に市販飼料であるCE-2を自 由摂取させており,実験当日のみD-プシコースを与え た.そのため,ラットがD-プシコースの代謝にうまく 適応できず,このことがセカンドミール効果の発現を消 去してしまった可能性がある.そこで実験2では,あら かじめラットにD-プシコースを含む餌を摂取させD-プ シコースに十分適応させた後,同様の実験を行うことに した. (実験2)いずれの被験物を摂取した場合でも,時間の 経過にともない血糖値は120分まで上昇し,その後180分 にかけて減少した(表1).しかし,D-プシコースの有 無に関わらず,どの時間においても血糖値に有意な差は みられなかった. 第1食でD-プシコースの摂取の有無に関わらず,第 2食以降の血糖値上昇に有意な差はみられず,実験1 と同様にD-プシコースのセカンドミール効果を認めな かった.実験1,2で用いたデキストリンは,一定量を ラットに投与する場合に適しているが,実際の食餌と比 べて糖質以外の栄養成分を全く含んでいない.このこと がD-プシコースのセカンドミール効果に影響したか否 かは不明だが,影響が無いとは言いきれない.そこで実 験3では,デキストリンの代わり市販粉末飼料を用いて D-プシコースのセカンドミール効果の有無を調べるこ とにした. 74
松尾達博 他:D-プシコースのセカンドミール効果 (実験3)いずれの被験物を摂取した場合でも,時間の 経過にともない血糖値は120分まで上昇し,その後180分 にかけて減少した(表1).摂取前の血糖値は,第1食 でショ糖食を摂取した場合に比べて,D-プシコース食 を摂取した場合で有意に低かった.しかし,摂取後30∼ 180分ではD-プシコースの有無に関わらず,いずれの時 間においても血糖値に有意な差はみられなかった. 本実験では,摂取前血糖値が第1食にD-プシコース 食を摂取した場合で有意に低かった.これは第1食で 摂取したD-プシコースにより血糖値の上昇が抑えられ, その結果が第2食摂取時まで持続したためである可能性 がある.しかし,第2食の摂取後,第1食におけるD-プシコースの摂取有無に関わらずその後の血糖値に有意 な差が認められなかったこのことから,第2食を与える 時間をもう少し早くすると,D-プシコースのセカンド ミール効果が見られるかもしれない. セカンドミール効果の原因として,食物繊維による消 化管内での滞留時間の遅延作用や(9),ある種のアミノ酸 および脂肪酸によるインスリン分泌促進作用(14)などが 考えられている.D-プシコースには消化管内での滞留 時間の遅延作用やIn vivoでのインスリン分泌促進作用は 認められていないので,本研究で見られた結果は先行研 究と矛盾するものではない.D-プシコースの血糖値上 昇抑制機能は,糖質食品と食べ合わせることで発揮され ることを考慮して摂取すべきであると思われる. ま と め 希少糖D-プシコースは,食後血糖値上昇を抑制する 効果を持つことが確認されている.一方,摂取時の血 糖値上昇だけでなく,次の食事後の血糖値上昇を抑制 することを,血糖値に対するセカンドミール効果とい う.本実験では,食後血糖値上昇抑制作用がある希少糖 D-プシコースにセカンドミール効果が確認されるか否 かをラットを用いて検討した.実験1では6週齢Wistar 系雄ラットを12時間絶食後,第1食に25%デキストリン 溶液もしくは25%デキストリン+2.5%D-プシコース溶 液を体重あたり20ml/kg(デキストリン5g/kg,D-プシ コース0.5g/kg)経口投与した.投与5時間後に,第2食 に25%デキストリン溶液のみを体重あたり20ml/kg与え た.第2食投与直前,投与後30,60,90,120,180分に 採血し,血糖値を測定した。その結果,D-プシコース の有無に関わらず,2食目以降の食後血糖値に有意な差 を認めなかった.実験2では,6週齢Wistar系雄ラット に,市販粉末飼料(CE-2)に10%のD-プシコースを混 合し,2週間飼育した.その結果,D-プシコースの有 無に関わらず,2食目以降の食後血糖値に有意な差を 認めなかった。実験3では,6週齢Wistar系雌ラットに 市販粉末飼料(CE-2)に10%のD-プシコースを混合し, 2週間飼育した.その後,飼育時と同時刻に,1食目に 10%D-プシコース食を含むCE-2食または10%ショ糖を 含むCE-2食を,2食目に10%ショ糖を含むCE-2食を与 えた.その結果,第2食投与前の血糖値は第1食でショ 糖食を摂取した場合に比べて,D-プシコース食を摂取 した場合で有意に低かった.このことは,第1食でD-プシコースを摂取したことにより,血糖値の上昇が抑え られ,その効果が第2食摂取時まで持続したためである 可能性がある.しかし,第2食の摂取後でD-プシコー スの摂取有無に関わらず有意な差は認めなかった.以上 の結果から,D-プシコースは血糖値に対するセカンド ミール効果を持たないことが示唆された. 表1 2食目摂取後の血漿グルコース濃度の経時変動(mg/dl) 摂取後時間(分) 0 30 60 90 120 180 (実験1) Dex+Psi 57.1±8.4 87.5±10.8 90.7±15.3 94.3±11.0 96.4±12.5 81.3±11.3 Dex 54.3±6.2 80.9±12.3 88.7±9.3 93.0±12.9 97.8±14.7 75.6±8.1 (実験2) Dex+Psi 54.0±11.3 74.9±6.9 77.9±10.8 83.3±8.5 87.0±13.9 68.6±14.3 Dex 52.5±7.1 76.7±11.3 79.6±8.8 87.6±11.9 94.8±15.5 72.1±15.8 (実験3) CE-2+Psi 78.8±4.9* 92.2±9.7 99.6±7.0 109.0±9.5 110.5±9.9 105.2±10.4 CE-2+Suc 91.4±7.5 104.7±7.7 106.9±7.9 114.3±8.1 117.0±8.3 112.5±8.5 データを平均値±標準偏差で示す(n=8-10).Dex,デキストリン.Psi,D-プシコース.Suc,ショ糖. *p<0.05 vs. CE-2+ショ糖摂取. 75
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