1.は じ め に 東日本大震災後の復旧・復興作業は,津波と地震に よる建物の倒壊・破壊が生み出した大量のがれきの撤 去作業から,放射能汚染された福島第一原子力発電所 内部と周辺地域の除染作業に及ぶ.このような復旧・ 復興作業を遂行する上で,夏の暑さと冬の寒さは避け ることのできない大きな環境ストレス要因と考えられ る.作業現場は自然気象の影響をもろに受けるからで ある. わが国の夏は高温のみならず高湿であることから, 復旧・復興作業者の大多数は,夏季には厳しい暑熱環 境で作業をしていることになる.がれきの撤去作業で は,粉じん対策や安全対策のために,防じんマスク, ヘルメット,防護服,安全手袋,安全靴などの労働衛 生保護具を着用しなければならない.作業内容によっ ては重量物の運搬に伴う作業強度の増加により,体内 で発生する熱産生量も増大する.これらの条件は作業 者への暑熱ストレスを一層増大させる要因となる.特 に放射能汚染地域での除染作業では,電離放射線から の防護のために全身を漏れなく防護服と防護具で覆う ことになるので,作業者の暑熱ストレスの大きさは極 めて深刻なものとなる.一方で,冬季の復旧・復興作 業は特に被災地の大半が東北地方の太平洋沿岸の寒冷 地域なので,しばしば厳しい風雪や冷たい降雨に曝さ れて著しい寒冷作業環境になる.したがって,このよ うな復旧・復興作業に伴う暑熱・寒冷環境ストレスに よる健康障害を防止して安全に作業を行うためには, 暑熱・寒冷ストレスによってどんな健康障害や身体負 担が引き起こされるのかを理解しておくことが必要で ある. 暑熱・寒冷ストレスがもたらす健康障害の大半は, 暑熱や寒冷曝露によって引き起こされる全身あるいは 局所の生体組織の過熱や過冷が原因となる.身体の過 熱や過冷が発生する条件は,気温だけでは決まらず, 風速,放射温,湿度などの環境因子とともに,衣服の 保温性能や人体の代謝熱産生量などの人体側因子も関 係する.水中での作業や手指を冷水や冷却物体に触れ ての作業では,水温や物体表面温度が気温に代わる重 要な温熱パラメーターとなる.したがって,暑熱・寒 冷環境や暑熱・寒冷ストレスを正確に評価するために は,作業場の気温を測定するだけでは不充分であり, その他の温熱因子を総合的に考慮しなければならな い.一方,「暑くてのどが渇いたら水を飲めばいい」 とか「寒かったら厚着をすればよい」といった作業者 本人の主観的判断にもとづく防暑・防寒対策が時には 有効でないことがあり,防暑・防寒対策を実施して作 業をしているつもりでいても,気づかぬうちに健康障 害が発生していることが多い.以上の点を踏まえて, 本稿では,暑熱・寒冷ストレスがもたらす身体負担と
暑熱、寒冷環境下での作業に伴う健康リスクと予防方策
澤
さわ田
だ晋
しん一
いち† 東日本大震災後の復旧・復興作業を遂行する上で,夏の暑さと冬の寒さは不可避である.その上,がれ きの撤去作業や除染作業では,粉じんや電離放射線からの防護と安全対策のために,マスク,ヘルメッ ト,防護服,安全手袋,安全靴などの労働衛生保護具を着用しなければならない.これらの作業条件は夏 季には作業者への暑熱ストレスを過酷なものにする.冬季の復旧・復興作業は特に被災地の大半が東北地 方の太平洋沿岸の寒冷地域であることから,しばしば風雪や冷たい降雨に曝されて厳しい寒冷作業にな る.本稿では,このような復旧・復興作業を遂行する上で懸念される暑熱,寒冷負担と健康障害の病因, 病態,兆候について,温熱生理学的観点から概説した.またこれらの健康リスクを予防するための方策に ついて,暑熱,寒冷ストレスの測定・評価法とそれにもとづく労働衛生管理対策のありかたに焦点をあて て論じた. キーワード:暑熱障害,寒冷障害,WBGT,IREQ,労働衛生管理 東日本大震災特集号 † (独)労働安全衛生総合研究所 国際情報・研究振興セン ター:〒 214-8585 神奈川県川崎市多摩区長尾 6-21-1 E-mail [email protected]健康障害リスク,並びに暑熱・寒冷ストレスの予防対 策のポイントを,筆者が行った調査研究結果を交えて 概説する. 2.暑熱ストレスの健康リスクと予防方策 2.1 暑熱ストレスが引き起こす暑熱負担と健康障害 暑熱曝露時に最初に起こるのは,皮膚血管拡張反応 であり,寒冷環境下では皮膚血管の収縮によりほとん ど 0 となる皮膚血流が,暑熱環境下では増大し,身体 表層部の熱伝導度は数倍に増加して体内の熱が放散さ れる.皮膚血管拡張反応は,軽度の暑熱環境下ではエ ネルギー消費の少ない経済的反応といえるが,環境温 が体温以上の過酷な暑熱条件では外界から人体に熱が 流入することになるので熱放散機能の意味がなくな る.また,皮膚血管が拡張すると末梢血管抵抗が減少 するので,血液が身体末梢部や下半身に貯留しやすく なる.その結果血圧や脳血流が低下して,めまいや吐 き気に続いて失神が起こりやすくなる(熱失神あるい は熱虚脱).これを防ぐために代償性に心拍数や心拍 出量が増大し,その結果血圧が上昇して循環系負担が 増大することになる.また身体末梢部や下半身への血 液の貯留により,手足に浮腫が生ずることもある(熱 浮腫). 環境温が上昇して暑熱ストレスが増大すると体熱の 放散は発汗による水分蒸発が主体となる.特に環境温 が体温より高くなると外界の熱が体内に流入するので 汗の蒸発以外に体熱を放散する手段がなくなる.暑熱 強度によっては 1 時間の発汗量は 1 リットルを容易に 越える.1 リットルの汗が全部蒸発すると 580 kcal の 体熱放散がおこるので,体重 70 kg のヒトでは体温を 10℃低下させるほど強力な身体冷却効果がある.しか し,大量の発汗が生じたとき,水分を補給しないでい ると脱水状態が進行し,体重の 3 ~ 5%以上の水分が 喪失すると身体的・精神的無力状態となり(熱疲労あ るいは熱疲はい),体温上昇がおこり熱射病の危険が 増す.熱射病にかかると,突然意識を失い体温が 40 ℃を越えて発汗が止まり皮膚表面が乾いた状態に なる.放置すると死亡の危険も高く緊急の治療を要す る.通常はその前に強い渇き感が生ずるので自発的に 水分補給されることが多い.しかし水分のみを摂取し て汗に失われた NaCl を補給しないと,こむらがえり や筋肉の痛みを伴うけいれん(熱けいれん),のどの 渇きを伴わないさらなる脱水の危険が生ずる.脱水に より血液の粘性が高まり心臓に対する負荷が増大す る.また,大量に発汗して汗管が塞がれ,そのまま不 衛生にしておくことで発汗部位の皮膚に汗疹が生ず る.そのほか,暑熱曝露によって心臓血管系に大きな 負担が生ずるので,心臓疾患や高血圧症など循環器疾 患の有症労働者は症状が悪化する危険性がある(作業 関連疾患). 以上の暑熱作業環境下で起こりうる暑熱障害の分 類,症状,病態を表 1 にまとめた. 表 1 暑熱障害の分類,症状,病態 熱虚脱 (熱失神) 熱中症 I 度(軽症),めまい,立ちくらみ,失神, 脳血流低下,顔面蒼白,冷汗(血圧低下),正 常体温 熱痙攣 熱中症 I 度(軽症),筋肉のこむらがえり,筋肉硬直,有痛性筋けいれん,正常体温 熱疲労 (熱疲はい) 熱中症 II 度(中等症),頭痛,気分の不快,吐 き気,嘔吐,倦怠感,虚脱感,体温上昇,脱水 熱射病 熱中症 III 度(重症),視力障害,意識障害,痙 攣,手足の運動障害,皮膚の乾燥,体温上昇(40℃ 以上),DIC,脳浮腫,肺水腫,肝不全,腎不全, 多臓器不全,溶血,筋肉融解,予後不良 熱浮腫 手足の腫れ 汗 疹 水晶様汗疹(非炎症性水泡),紅色汗疹(赤い 丘疹,膿疱),深在性汗疹(炎症性丘疹,小結節, 膿瘍) 作業関連疾患 高血圧疾患,心疾患 2.2 暑熱障害の予防方策 震災復旧・復興作業による暑熱障害を予防するため には,作業現場における暑熱ストレスを認知し,その 程度を客観的かつ定量的に評価した上で,適切な予防 対策をたてることである.その一連の手順のポイント を以下に述べる. 2.2.1 暑熱ストレスの測定と評価 暑熱ストレスを評価するには,気温を測定すること は自明の理であるが,それは必要最少要件である.屋 外作業での熱中症発生時の気象条件を調べた筆者らの 調査研究では,気温が 30 ℃を超えると熱中症発生件 数が急増するが,30 ℃より低くても被災するケース が少なくないことがわかった.その場合は,図 1 に 示すように相対湿度が高い条件で発生するケースが多 図 1 屋外作業で熱中症が発生した時点の外気温と相対湿度
かった1).以上から気温のみならず湿度も重要な環境 因子であることがわかる.加えて湿度以外の輻射熱 (放射温)と空気の流れ(風速)も人体と環境との間 の熱交換に大きく影響し,暑熱ストレスを評価する上 ではこれらも無視できない. 一方で,比較的冷涼な環境でも,激しい身体活動を 行ったり厚着をしすぎると,暑くて汗をかき不快にな ることを経験するように,身体作業強度や作業服の保 温力・断熱性能も暑熱ストレスの評価にとって重要な 因子となる.特に前述のように,がれき撤去作業や電 離放射線の除染作業では,防じんマスクや防護服を着 用して重作業を行わねばならないので,身体作業強度 と防護服・防護具着用による暑熱ストレスの評価は極 めて重要である.このように,気温のみならずその他 の暑熱ストレス危険因子(湿度,風速,放射熱,身体 作業強度,作業服の熱特性)に留意し総合的に評価す ることが暑熱ストレスの測定と評価の基本である. WBGT(湿球黒球温度)指数はその条件をある程度 満足し,かつ実用性,簡便性,流通性,国際性,信頼 性の面からみて現時点で最良の暑熱評価指標であると 考えられる.米国海兵隊員の訓練中の熱中症を予防す るために,訓練中止の基準として気温の代わりに WBGT(湿球黒球温度)指数を採用したところ,熱中 症発生数が大幅に減少した.このような歴史的事実を 背景として,WBGT 指数は米国国立労働安全衛生研 究 所(NIOSH), 米 国 政 府 労 働 衛 生 専 門 家 会 議 (ACGIH)2),国際標準化機構(ISO7243)3)等の国 際的にも影響力ある機関で採用され,現在暑熱評価指 標として国際的に広く認知されている.わが国でも日 本産業衛生学会や日本工業規格(JIS Z8504)の高温 許容基準においても評価指標として採用され,厚生労 働省も平成 17 年 7 月 29 日付基安発第 0729001 号通達 と平成 21 年 6 月 19 日付基発第 0619001 号通達で熱中 症の予防対策における WBGT の活用を促している4). WBGT指数は,図 2 のような測定器を用いて,自 然湿球温度(tnw),黒球温度(tg),気温(ta)を測定 し,屋外で太陽照射のある場合は次式(1)により, 屋内や屋外で太陽照射のない場合は次式(2)により 求められる. WBGT=0.7 tnw+ 0.2 tg+ 0.1 ta (1) WBGT=0.7 tnw+ 0.3 tg (2) 国際標準化機構(ISO7243)では,WBGT 指数を用 いて作業場の暑熱環境評価を迅速かつ簡便に実施する 方法を提案している.身体作業強度別,暑熱順化の有 無,気流の有無により 14 通りの WBGT 指数による暑 熱許容基準値が示されている(表 2).作業時の暑熱 条件がこの基準値を超えていることは,熱中症の発生 リスクが高いと判断し,次に示す暑熱対策を入念に行 う必要がある.ただしこの基準値は,最高直腸温 38 ℃を許容限度とし,通気性があり水蒸気を通す標 準的な作業服(保温力 Icl = 0.6 Clo)の着用を前提と している.したがって,防護服や防護具の着用を余儀 なくされるがれき撤去作業や除染作業では,着用する 作業服・防護服の種類に応じて,表 3 に示した作業 服の補正値を WBGT 測定値に加えた値を基準値と比 較する必要がある2),4). 2.2.2 作業場が WBGT 基準値を超えた場合の労 働衛生管理対策 対策の基本原則は,作業環境管理,作業管理,健康 管理,労働衛生教育からなる.これらの 3 管理 1 教育 からなる労働衛生管理による予防対策を可能な限り徹 底的に実施する. ( 1 )作業場の環境改善対策(作業環境管理) 次のような「作業環境」を改善することにより,作 業者への暑熱負担を軽減する措置を講ずるべきであ る. a.直射日光ならびに周知の壁面及び地面からの照り 返しができる簡易な屋根等を設ける. b.適度な通風又は冷房を行うための設備を設ける. 自然湿球温度 黒球温度 図 2 WBGT 測定器の例
c.通風が悪い高温多湿作業場所での散水は,散水後 の湿度上昇に注意する. d.最高気温等の気象条件により熱中症多発が予想 された場合には「熱中症注意報」を作業現場に発 令する. e.作業現場は注意報が発令された場合や,熱中症の 発生の恐れのある場合は,朝礼等で作業員に注意 を与える. f.作業場所の近隣に冷房を備えた休憩場所や日陰等 の涼しい休憩場所を設ける. g.休憩場所は臥床することができる広さを確保す る. h.作業場所又はその近隣に氷,冷たいおしぼり, 作業場所の近隣に,ミスト扇風機,シャワー等身 体を適度に冷やすことのできる用品及び設備等を 設ける. i.水及び塩分の補給を定期的かつ容易に行えるよう に作業場所に飲料水,スポーツドリンク・経口補 水液等,熱中飴,製氷機等を備えておく. ( 2 )作業方法の改善対策(作業管理) 次のような「作業」自体を改善することにより,作 業者への暑熱負担を軽減する措置を講ずるべきであ る. a.休憩をとらないで仕事を早く片付けようとすると 熱中症の危険が増す.休憩をこまめにとったり, マイペースで仕事をしたり,休憩時間とは別に作 業者が遠慮なく気軽に休憩が欲しいと言える職場 環境(雰囲気)を作ることが重要である. b.暑さに対する慣れの有無は熱中症の発生リスク に大きく影響する.梅雨明けの気温が急に上昇す る時期の作業のように普段から暑熱作業に慣れて いないと熱中症発生リスクを高めるので,特に注 意が必要である.暑さに慣れない状態からは 7 日 以上かけて熱へのばく露時間を次第に長くするこ とが望ましい. c.のどの渇きに依存しない水分・塩分等の摂取を奨 励する.熱中症の災害事例を調べると,当日は暑 さのために水分を補給していたにもかかわらず被 災した例が少なからずみられた5).そこで,夏期 屋外暑熱条件を想定した暑熱環境下で歩行運動実 験を実施して,発汗によって失われた水分量(体 重減少量)と歩行後の自発的水分摂取量を比較し たところ,体重減少に見合う水分補給が自発的に はなされない傾向が認められた(図 3).この実 験結果は,のどの渇きに依存した水分補給は,発 汗により喪失した体の水分を補うのに不十分であ り,休憩時にこのような水分補給が繰り返される と,気づかぬうちに脱水が進行する危険性を示唆 する.したがって,のどの渇きがなくても自覚症 状以上に脱水状態が進行していることがあること 等に留意の上,自覚症状の有無にかかわらず,作 業前後の摂取及び作業中の定期的な摂取を指導す る必要がある.作業強度に応じて必要な水分・塩 分摂取量等は異なるが,少なくとも,0.1 ~ 0.2% 表 2 WBGT 指数による暑熱許容基準値 身体作業強度 (代謝率区分) 作業内容 WBGT基準値(℃) 例 熱に順化している人 熱に順化していない人 安 静 安静 33 32 軽作業 (低代謝率) 楽な座位、軽い手作業(書く、タイピング、簿記)、手及び腕の作業(点検、組 み立てや軽い材料の区分け)、普通の状態での乗り物の運転、歩行(3.5km/h) 30 29 中等度作業 (中程度代謝率) 継続した頭と腕の作業(釘打ち、盛り土)、腕と脚の作業(トラックのオフロー ド運転、トラクター及び建設車両)、腕と胴体の作業(トラクター組み立て、中 くらいの重さの材料を断続的に持つ作業、草むしり、草掘り、果物や野菜を摘む)、 軽量な荷車や手押し車を押したり引く。歩行(3.5 ∼ 5.5km/h) 28 26 重作業 (高代謝率) 重い材料を運ぶ、シャベルを使う、のこぎり作業、大ハンマー作業、草刈り、掘る、 歩行(5.5 ∼ 7km/h)、重い荷物の荷車や手押し車を押したり引いたりする。ブロッ クを積む。 気流を 感じな い時 25 気流を 感じる 時 26 気流を 感じな い時 22 気流を 感じる 時 23 極重作業 (極高代謝率) 最大速度でとても激しい作業。おのを振るう。激しくシャベルを使ったり掘った りする。階段を上る。走る。歩行(7km /h) 23 25 18 20 表 3 作業服の種類による WBGT 値に加えるべき補正値 作業服の種類 補正値(℃) 作業服(長袖シャツとズボン) 0 布(織物)製つなぎ服 0 二層の布(織物)製服 3 SMS ポリプロピレン製つなぎ服 0.5 ポリオレフィレン布製つなぎ服 1 限定用途の蒸気不浸透性つなぎ服 11
の食塩水や市販のスポーツドリンク,経口補水液 を,20 ~ 30 分ごとにカップ 1 ~ 2 杯程度は摂取 することが望ましい. d.クールベスト等の防暑冷却服(具)の着用を検 討する.発汗は高温下での体温上昇を防止する強 力な体温調節機能である.したがって,汗をかか ずに体温が上がってしまうより汗を多くかいて体 温が上昇しないほうが身体の負担は少なくなる. しかし,かいた汗は蒸発しなければ冷却効果はな く流れ落ちるだけでは体温調節上無意味である. 作業服も透湿性・通気性がよくないと汗が蒸発せ ずに衣服の中にたまるだけで冷却効果が期待でき ない.したがって,気温がそれほど高くなくても ヘルメットや防じんマスク,通気性の悪い防護 服,安全手袋・安全靴を着用してがれき撤去作業 や除染作業を続けると暑熱負担が予想以上に増大 することになる.これを軽減するために,事前に 使用条件や適用限界を理解して上で,クールベス トなどの防暑冷却服(具)を積極的に活用する. e.作業者の健康状態を確認し,熱中症を疑わせる兆 候が表れた場合において速やかな作業の中断,そ の他必要な措置を講ずる.作業場所の巡視に際し ては,作業管理者による作業者の健康状態の確 認,問いかけを行う.また,作業者同士で顔色の 確認,声掛けなどを行い,お互いに体調が確認し 会えるようにする. ( 3 )作業者の健康確保対策(健康管理) 健康診断や健康測定を通じて「作業者」の健康状態 を把握し,作業環境や作業内容との関連を検討する対 策を行う必要がある. a.糖尿病,高血圧症,心疾患,腎不全,精神・神経 関係の疾患,広範囲の皮膚疾患,肥満などは,熱 中症の発症に影響を与えるおそれのあることか ら,健康診断の実施,異常所見に対する医師等の 意見の聴取,当該意見を勘案した就業場所の変更 等の適切な措置の徹底を図る. b.作業開始前,作業中の巡視による労働者の健康 状態の確認等を行う.特に作業開始前に,睡眠不 足,風邪,発熱,下痢など体調不良,前日の多量 飲酒,朝食の未摂取等を確認する. c.作業場所や休憩場所に体温計,体重計等を置き必 要に応じて体温,体重その他身体の状態を確認で きるようにする.作業者に次の兆候が見られた場 合は,作業を中止して充分休憩をとり,作業開始 前の状態まで回復するのを待つ必要がある. ・1 分間の心拍数が数分間継続して 180 から年齢を 引いた値を超える場合 ・体温が作業開始前より 0.5 ~ 1℃以上上昇してい る場合 ・作業開始前の体重より 1.5%を超えて減少してい る場合, ・作業強度のピークの 1 分後の心拍数が 1 分間当た り 120 以下に戻らない場合 ・急激で激しい疲労感,悪心,めまい等の症状が発 現した場合 ( 4 )作業者への教育(労働衛生教育) 作業管理者や作業者等に対して,熱中症を予防する ための教育をあらかじめ次の事項について行う. a.熱中症の原因と症状 b.熱中症の予防対策 c.熱中症発生時の救急処置 d.災害事例 e.関係法令 f.熱中症予防用品等の取扱い方法等 3.寒冷ストレスの健康リスクと予防方策 3.1 寒冷ストレスが引き起こす寒冷負担と健康障害 全身を寒冷に曝露すると,皮膚の冷受容器が刺激さ れて自律神経反射により皮膚血管が収縮する.その結 果,暖かい血液が身体中心部に集まり深部体温が保持 される一方で,身体表層部の血流が減少して皮膚温が 低下する.皮膚血管収縮神経の支配が密で体実質当た りの体表面積が大きい手足などの身体末梢部でその傾 向が著しい.防寒服を着用していても手足が冷えやす いのはこのためである. 手足などの身体末梢部の冷却によって,その近傍の 組織温度が低下し血流量も減少するので,知覚神経や 運動神経の伝導時間および神経筋接合部の伝達時間が 遅延し,筋力も低下する.関節滑液の粘性が低温で高 図 3 暑熱曝露後の体重減少量と自発的水分補給量との関係(澤 田,2010) (7 名中 5 名が,発汗による体重減少に見合う水分補給を行って いないことがわかる)
まり,関節や靱帯の滑らかな動きが阻害される.これ らの結果,手足の円滑かつ広範な動作や協調運動,あ るいは器用さを要する細かい手指作業などが素速く的 確に出来にくくなるので,同じ作業を達成するまでの 時間が増大し,かつ筋疲労が起こりやすくなる.指の 巧緻動作は,指皮膚温が約 30 ~ 31 ℃で,手の粗大動 作や筋力は皮膚温 20 ℃あたりから影響を受け始める. 主観的感覚については,手皮膚温が約 20 ℃で「不快 な冷たさ」を,約 15 ℃で「極度の冷たさ」を,約 10 ℃ で「痛み」を感じるようになる.皮膚温が 6 ℃前後ま で下がると,神経の伝導ブロックがおこり,感覚麻痺 が生じるとともに巧緻動作は全く不可能となる.そし て,0 ℃以下では凍傷が発生する. 身体末梢部の冷却は,末梢血管を収縮させ総末梢抵 抗を増加させるので,血圧が上昇する.上昇の程度 は,中高年齢者で特に著しい.また末梢血流の減少に よる体中心部への血液量の増加が刺激となり,利尿が 促進され,かつ血液の細胞間隙への移動が生ずること で,気づかぬうちに脱水が進行し血液濃縮が起こる. その結果,血液粘性が増加し,末梢血液循環が阻害さ れ,血栓症や凍傷が起こりやすくなる. 皮膚血管の収縮による熱放散の抑制だけでは,寒冷 下での深部体温を保持できなくなると,生体は代謝熱 産生を増大させて体温を保持しようとする.人間では ふるえが主要な熱産生源となり,本来は運動にたずさ わる骨格筋の拮抗筋どうしが同時に,不随意的かつ持 続的に収縮することで大量の熱が産生される.ふるえ が起こっている時はもちろん,ふるえが発生する前の 筋緊張の増加も,円滑な身体作業を妨害し,作業疲労 を増悪させる. 以上のような熱放散抑制反応と熱産生増加反応で対 応出来ないほどの寒冷曝露が加わると,体表面の皮膚 温のみならず深部体温も低下し始める.軽度の低体温 で,記憶力や注意力が関係する認知作業への悪影響が 示唆されている.一般に,単純な作業ではほとんど影 響はないが,複雑な認知作業になるほど影響を受けや すいといわれている. 深部体温が 35 ℃前後に低下するまでにふるえは最 大となるが,さらに低下するとふるえが減弱し体温低 下が加速される.その結果,末梢神経・筋のみならず 心臓・肺・脳・肝臓など体内の主要臓器の冷却が進行 し,精神機能,筋機能,呼吸・循環機能,代謝機能な どの低下と障害が現れる.論理的思考力,判断力,警 戒心が低下し,身体作業能力や運動機能も極端に減弱 して,寒冷ストレスから逃れるためには他人の介護が 必要になる.深部体温が 33 ℃以下は重い低体温症と され,極めて危険な状態である. 顔面や手足などの身体局所のみに寒冷刺激が加わっ たり,寒冷気を吸入するだけでも,寒冷負担は増大す る.顔面を冷風に曝露すると,その他の身体部位に防 寒対策がなされていたとしても,反射的に血圧が上昇 する.冷水に手足をつけたり冷凍物体をつかむ作業で も,血圧上昇が起こり循環系の負担が増大する.寒冷 気を吸い込むと,持病の喘息や気管支炎,狭心症の発 作が起こったり症状が増悪する場合がある.氷点下の 寒冷環境下で軽作業をすると,健常人でも呼吸気道に 炎症反応が起こるという報告もある6). その他の全身や局所の冷却による健康問題として, 腰痛,肩こり,神経痛,リューマチ,レイノー現象, 浸水足,末梢神経障害が指摘されている.女性では生 理障害も起こる.まれに,寒冷蕁麻疹,クリオグロブ リン血症,寒冷凝集素症などの寒冷アレルギーがみら れることもある.凍傷と低体温症以外で,これまで報 告されてきた寒冷曝露に関連すると考えられる疾病と 症状を臓器別にまとめると表 4 のようになる7). 表 4 寒冷曝露に関連すると考えられる疾病と症状の臓器別分類 呼吸器障害関連 喘息,慢性閉塞性肺疾患(COPD),気管支炎,肺炎,息切れ,喘鳴,咳 耳鼻咽喉障害関連 一次刺激性鼻炎 循環器障害関連 冠動脈心疾患,心筋梗塞,狭心痛,不整脈, 脳梗塞,脳出血,高血圧,ショック,徐脈, レイノー現象,手腕振動障害 末 梢・ 中 枢 神 経 障 害関連 末梢性顔面神経麻痺,多発性神経障害, 神経痛,寒冷痛,感覚麻痺,しびれ,掻 痒感,疲労感,意識混濁 筋骨格器障害関連 腰痛,手根管症候群,腱滑膜炎,腱周囲炎, 肩こり,首や肩の痛み,関節痛,腫れ, 動作制限,感覚異常,筋脱力,筋けいれん 皮膚障害関連 一次刺激性皮膚炎,寒冷じんましん,凍 瘡,乾癬,アトピー性皮膚炎,かゆみ, 皮疹,紅斑,浮腫,肌荒れ 血液障害関連 クリオグロブリン血症,寒冷凝集素症,チアノーゼ 生殖器障害関連 月経困難症 精神・行動障害関連 錯乱,幻覚,せん妄 3.2 寒冷障害の予防方策 震災復旧・復興作業による寒冷障害を予防するため には,前述の暑熱障害の場合と同様,作業現場におけ る寒冷ストレスを認知し,その程度を客観的かつ定量 的に評価した上で,必要に応じて適切な予防対策をた てることである. 3.2.1 寒冷ストレスの測定と評価 寒冷ストレスの測定と評価にあたっては,暑熱スト レスと同様に気温のみならずその他の暑熱ストレス危
険因子(湿度,風速,放射熱,身体作業強度,作業服 の熱特性)に留意し総合的に評価する必要がある.寒 冷ストレスの評価法として現時点で最も定量的で国際 的に認知されているものに,ISO11079 の評価法があ る8). ( 1 )全身及び局所の寒冷ストレスの評価法 (ISO11079 ) これは衣服の必要保温力 IREQ(required clothing insulation)という指標をもとに全身寒冷曝露による 身体冷却のリスクを評価する手法である.IREQ は, 寒冷環境で作業を行う場合,その環境の身体冷却力と 作業にともない生ずる熱産生の水準に応じて,体温や 皮膚温をある許容できる水準に維持するのに必要な衣 服の保温力と定義され,クロ(clo)値で示される(表 5)*1.気温が低下したり風速が増大するといったよ うな寒冷環境の身体冷却力が大きければ,IREQ の値 は 増 加 す る. ま た, 一 定 の 寒 冷 環 境 条 件 下 で は, IREQの値は身体活動量の増大による代謝熱産生量の 増加にともない減少する.IREQ には,生理的負担の レベルに応じて,IREQminimalと IREQneutralという 2 種類の指標がある. IREQminimalは,平均体温が正常よりやや低い状態 で体熱平衡が維持されるのに必要な最小限の衣服の保 温力と定義され,作業を継続して実施可能な身体冷却 の許容限界を示す.IREQneutralは,平均体温が正常に 維持され身体冷却がほとんどおこらない熱的中立状態 を確保するのに必要な衣服の保温力と定義される.こ のモデルを用いると,90W/m2の代謝熱産生のある軽 作業(例えば時速 3km 歩行による監視作業)を,気 流 0.4m/s,相対湿度 50%,作用温度*2が- 10 ℃の 寒冷環境で行う場合,防寒服の保温力は,IREQneutral では約 3.3 clo,IREQminimalは約 3.0 clo 必要であると 評価できる(図 4).もし実際に着用している防寒服 の保温力が IREQneutral,IREQminimalに満たない場合は (例えば 2.0 clo),寒冷曝露限界時間 DLEneutralは約 40 分,DLEminimalは約 1 時間と予測計算される(図 5).
図 4 作業代謝率別にみた作用温度と必要保温力(IREQneutral,
IREQminimal)の関係(ISO110798)を改変)
図 5 作業代謝率別にみた作用温度と寒冷曝露限界時間
(DLEneutral, DLEminimal)の関係(ISO110798)を改変)
*2 作用温度(OT)とは,気温と周囲壁面温度が等しくな い非等温環境における対流および放射による熱放散と等 量の熱放散が行われるような仮想上の等温環境温(気温 と周囲壁温が等しい)と定義される.静穏気流(0.2 m/s 以下)では,次式で求められる. OT=(MRT + ta)/2(℃) MRT:平均放射温(℃),ta:気温(℃) *1 clo(クロ)は,衣服の保温力の単位.1clo の衣服とは, 気温 21.2℃,相対湿度 50%,気流速度 0.1m / s の条件 で椅座安静にしている時に快適に感じられる保温力を もった衣服である(1clo = 0.155m2・℃/ W). 衣服の保温力のクロ値(clo)は,重ね着する衣服の組み 合わせにより表 1 のように推定できる. 表 5 衣服の組み合わせによる保温力の推定 衣服の組み合わせ clo 値 下着(下),シャツ,ズボン,上っ張り,靴下,靴 0.9 下着(上下),シャツ,ズボン,上衣,ベスト,靴下,靴 1.1 下着(上下),防寒ジャケット,防寒ズボン,靴下,靴 1.4 下着(上下),シャツ,ズボン,ジャケット,オーバー ジャケット,帽子,手袋,靴下,靴 1.6 下着(上下),シャツ,ズボン,ジャケット,オーバー ジャケット,オーバーズボン,靴下,靴 1.9 下着(上下),シャツ,ズボン,ジャケット,オーバー ジャケット,オーバーズボン,帽子,手袋,靴下,靴 2.0 下着(上下),オーバージャケット,オーバーズボン, 防寒ジャケット,防寒ズボン,靴下,靴 2.2 下着(上下),オーバージャケット,オーバーズボン, 防寒ジャケット,防寒ズボン,帽子,手袋,靴下,靴 2.6 極地服 3 ∼ 4.5 寝 袋 3 ∼ 8
以上の IREQ を用いた全身寒冷曝露のリスク評価手 法に加えて,風冷温度 twc(Wind Chill Temperature) を用いて局所の露出皮膚の凍結リスクを評価する手法 がある.これは,風速 1.17 m/s(時速 4.2 km/h)で の気温と等価な冷却力を生ずる風速と気温の複合指標 であり,次の式(3)で算出される. twc=13.12+0.6215・ta-11.37・v0.16+0.3965・ta・v0.16 (3) ここで,v は気象台の地上 10 m で測定された風速, taは気温である.地上で実測された風速を使用する場 合は,1.5 倍して上式の v に代入する.twcは気象台の 観測データを利用できるので,温度計や風速計が不要 というメリットがある.表 6 に風冷温度と生体影響 の関係を示した. 表 6 風冷温度(twc)による露出皮膚の凍結リスク リスクの分類 風冷温度 twc(℃) 影響 1 − 10 ∼− 24 不快な寒さ 2 − 25 ∼− 34 非常に寒い.皮膚凍結の危険 3 − 35 ∼− 59 10 分で露出皮膚の凍結 4 − 60 ∼ 2 分以内に皮膚の凍結 ( 2 )低温物体との接触のリスク評価法 (ISO13732-3 )9) 作業中の低温物体との接触による凍傷は,我が国で も寒冷による業務上疾病の大半を占めている.職業性 凍傷の労災事例を調べると,偶発的あるいはうっかり ミスによる接触で生ずる凍傷が多くを占める中で,防 寒手袋を着用しているにもかかわらず気づかないうち に凍傷に被災する例も少なからず認められた10).ま た実験的にも手指の冷却を繰り返すと休憩を採っても 主観的感覚とは無関係に凍傷のリスクが増悪すること が検証された11).このことから,適切な防寒具の着 用方策を考えるとともに,低温物体を取り扱う際の凍 傷リスクを事前に客観的に把握しておくことが望まし い.ISO13732-3 は,このような低温物体との接触に よるリスク評価法を提示している9).これは,寒冷物 体に接触した場合に寒冷痛,感覚麻痺,凍傷が発現す る時間を予測するもので,物体表面温度,物体の材 質,接触の型(触れる,握る)を知ることにより評価 する.図 6 には,指が種々の材質の寒冷物体に接触 した時の凍傷が発現する時間閾値を示した. 3.2.2 寒冷ストレスの労働衛生管理対策 暑熱ストレスと同様,寒冷ストレスについても環 境,作業,健康,教育の 3 管理 1 教育からなる労働衛 生管理対策を必要に応じて実施する. ( 1 )作業場の環境改善対策(作業環境管理) a.作業場の寒冷ストレスの実態を客観的かつ定量的 に評価するために環境測定を行いその結果によ り,必要に応じて工学的対策による施設・設備の 改善・点検などを行い,寒冷ストレスの除去や軽 減を図る. b.寒冷環境の評価に関しては,前述の通り気温の みならず,湿度,風速,放射温(輻射熱)の温熱 因子を考慮すべきだが,有風の寒冷環境では風速 が特に大きな因子になる.そこで,ISO11079 が 提示する風冷温度指数を用いて寒冷環境を評価す る. c.風速の強い作業場では作業者に直接冷風があたら ないように,作業者の周囲に囲いを置く. d.手指の巧緻性を確保するために,局所温風機や ヒーターを設置して手を温める環境を整えるとと もに,接触凍傷を防ぐために作業中に接触する可 能性のある低温物体に対しては,必要に応じて金 属製ハンドルや工具等直接手で触れる部分を断熱 材で覆う. e.寒冷環境の改善が工学的に制御不可能な場合は, 採暖できる休憩室を設置するなどの対策を実施す る. ( 2 )作業方法の改善対策(作業管理) 寒冷作業では作業環境管理による抜本的な工学的職 場環境改善措置が容易でないので,その分寒冷曝露許 容時間の設定,作業休止基準,作業と休憩の方法の改 善,防寒服(具)の適切な着用などの作業管理対策が 極めて重要となる. a. ISO11079の IREQ による寒冷評価手法により, 図 6 手指が種々の材質の低温物体に接触した時の凍傷発現時 間閾値(ISO13732-39)を改変)
当該寒冷作業で必要とされる防寒服の保温力 (IREQneutralあ る い は IREQminimal) を 算 出 す る.
実際に着用している防寒服の保温力(表 5)がこ れ に 満 た な い 場 合 は, 寒 冷 曝 露 限 界 時 間 (DLEneutral, DLEminimal)を算出して作業時間管理
に資する. b.また作業休止の基準として,寒冷作業時の手足 の先の痛みを凍傷の危険信号,激しいふるえを低 体温の危険信号と考える12).その他,激しい疲 労感,眠気,いらだち,多幸症等の兆候がみられ たら,無理に作業を続けず休憩室に戻って充分な 採暖をおこなう. c.休憩室では作業服や下着が汗で濡れていたら乾い た新しいものに交換する.また,寒冷環境では脱 水が気づかぬうちに進行し,末梢循環が阻害され るリスクが高まるので,休憩所には温かい飲み物 やスープを自由に飲めるようにしておき,水分と カロリーを補給させる(但し,コーヒー等の利尿 作用のある飲料は禁忌). d.筆者らの実験結果によると,寒冷曝露をくり返 した後の休憩室で生ずる快適感や温暖感覚は,身 体冷却の進行や生理的負担の増大を警告する信頼 できる指標にならないことがわかった13).これ は,休憩室では作業者本人の主観的判断にまかせ ることなく充分な休憩と採暖対策をとることの重 要性を示唆する.できれば,体温計や血圧計を常 備しておき,緊急時だけでなく休憩時や作業後に 測定する習慣をつけ,低体温や循環系負担の危険 をモニターするのが望ましい. e.防寒服(具)については,寒冷強度,作業時間, 作業強度などに応じて,乾燥した適切な保温性能 をもつ防寒服や防寒用手袋・靴などの防寒具を適 宜選択しなければならない.全身の冷却防止のた めには,IREQ が示すように気温が低く風速が大 きい作業場ほど,保温性の高い防寒服が必要であ るが,作業強度によっては発汗がおこり,衣服が 湿って保温力が大幅に低下する.作業中に発汗が 起こらないようにきめ細かな衣服調節をするとと もに,発汗が起こったら速やかに乾燥した暖かい 衣服に取り替えるべきである.降雨・降雪時の屋 外作業では,保温性能のみならず防水性能の保証 された防寒具を使用せねばならない.手足の冷却 防止のために,軍手はもちろん市販の手袋やブー ツがほとんど役に立たないことがある.特に凍結 した物体を直接つかんでいたり,凍結した床面に 長時間立ち続けていると,接触部の断熱材が圧縮 されて保温力が激減し,素手や素足と同等の熱放 散がおこる.凍傷の防止だけでなく巧緻性を維持 するためにも,保温性能の保証された防寒手袋や 防寒靴の使用が望ましい.顔面,頭部,呼吸気道 の冷却防止のために,適切な保温性能を持つ防寒 帽,耳あて,マスク,ゴーグルなどを適宜使用す べきである. f.氷点下の厳しい寒冷作業では,単独作業を避けお 互いに監視しあう作業方法をとることや新人の作 業者には特に十分な防寒対策を行いフルタイムで 作業させないことも重要である. ( 3 )作業者の健康確保対策(健康管理) a.健康診断や健康測定により作業者の健康状態と基 礎疾患の有無を把握するとともに,寒冷への過敏 性(あるいは耐寒性),寒冷障害(凍傷,低体温 症,しもやけ)の既往歴,寒冷アレルギーの有 無,呼吸器,循環器,筋骨格系症状の経験等の把 握をすることが重要であり,それらの結果に基づ いて寒冷作業を行わせるかどうかの措置をおこな う. b.基礎疾患として心臓血管系疾患(狭心症,高血 圧症等),呼吸器疾患(喘息,気管支炎等),筋骨 格系疾患(腰痛,関節痛等),代謝性疾患(糖尿 病,甲状腺機能低下等)のある作業者は,寒冷に よる影響を受けやすい.また,女性は月経困難症 や冷え性等,寒冷の影響を受け易いという報告も ある. ( 4 )作業者への教育(労働衛生教育) 作業管理者や作業者等に対して,寒冷障害を予防す るための教育をあらかじめ次の事項について行う. a.寒冷障害を発症した場合の正しい救急処置と身体 加温法 b.作業服・防寒服(具)の適切な着用法 c.凍傷の危険の認識法 d.深部体温の異常低下の認識法 e.安全な寒冷作業の進め方 f.休憩の仕方(十分な採暖,作業服の交換,水分補 給等) g.健康的な日常生活習慣(特に飲食習慣と睡眠) 等 4.お わ り に 暑熱,寒冷ストレス環境下での震災復旧・復興作業 に伴う健康障害の発生リスクとその予防方策について 温熱生理学と労働衛生管理の観点から概説した.寒 冷,暑熱ストレスに共通する問題点は,「寒い」「暑 い」「のどが渇く」あるいは「快適」「不快」といった 主観的な感覚が身体の温熱状態や作業負担を知る上で
必ずしも信頼できる指標にならない場合もあることを 認識する必要がある.暑熱,寒冷環境下で復旧・復興 作業を行う場合は,この点に留意し自覚的判断にたよ らず,暑熱,寒冷ストレスに対する客観的な指標を用 いてリスクを定量的に評価した上で,予防対策の徹底 を図っていただきたい.そのために本稿で述べた内容 が少しでも参考になれば幸いである. 参 考 文 献 1) 澤田晋一 , 暑熱ストレスのリスクアセスメントと作業管 理 , 労働の科学 , 62-9, pp.34-38 (2007)
2) ACGIH TLVs and BEIs, Heat Stress and Heat Strain, Threshold Limit Values for Chemical Substances and Physical Agents & Biological Exposure Indices, pp.211-220 (2011)
3) ISO7243, Hot environments – Estimation of the heat stress on working man, based on WBGT-index (wet bulb globe temperature), International Standard Organization, Geneva (2003) 4) 厚生労働省 “ 職場における熱中症の予防について ”, http://www.mhlw.go.jp/houdou/2009/06/h0616-1.html 5) 澤田晋一 , わが国の職業性熱中症対策の最近の話題と課 題 , 神奈川産業保健交流研究,37,pp.1 - 57 (2007) 6) 澤田晋一,寒冷作業の労働衛生の現状と問題点─寒冷作 業基準を中心として─,産業医学レビュー,8, pp.193-209 (1996) 7) 澤田晋一,寒冷作業環境のリスクマネジメント, 産業医 学ジャーナル,32-4,pp.31-38 (2009)
8) ISO11079, Ergonomics of the thermal environments-Determination and interpretation of cold stress when using required clothing insulation (IREQ)and local cooling effects. International Standard Organization, Geneva (2007)
9) ISO13732-3, Ergonomics of the thermal environment-Assessment of human responses to contact with surfaces. Part 3-Cold surface, International Standard Organization, Geneva(2005)
10) 澤田晋一,労働者死傷病報告からみた異常温度条件によ る業務上疾病の最近の発生動向,産業衛生学雑誌,42, p.560 (2000)
11) Sawada S. et.al., Changes in Cold-induced Vasodilatation, Pain and Cold Sensation in Fingers Caused by Repeated Finger Cooling in a Cool Environment, Industrial Health, 38, 79-86 (2000)
12) ACGIH TLVs and BEIs, Cold Stress, Threshold Limit Values for Chemical Substances and Physical Agents & Biological Exposure Indices, pp.202-210 (2011) 13) Sawada S. et.al., Thermoregulatory characteristics and
thermal loads obser ved during alternately repeated exposure to cold and warm environments, Proceedings of the 7th International Symposium on Ventilation for Contaminant Control (Ed. By Kubota H.), pp.195-200 (2003)