第2回
みんなで支える在宅医療講座
認知症の在宅ケア
新宿ヒロクリニック 英 裕雄
本日の目標
認知症について理解を深めよう
認知症ケアの原則を理解しよう
認知症高齢者は非常に多い
前期高齢者(65歳~74歳) 2% 後期高齢者(75歳以上) 10% 85歳以上 20~25% 要介護高齢者310万人のうち150万人が認知 症と推定されている。 2015年には、250万人。2025年には、約320 万人に増加すると予想される。認知症とは
?
一般に「一旦は正常に発達した知能が、その 後に起こった慢性の脳機能障害のために異 常に低下してしまった状態」を指し、知能には 「部分的ではなく、包括的な低下が認められ る」ような「病気」であると定義されている。人間の記憶とは?
即時記憶
短期記憶
長期記憶
知能の発達と認知症
年齢 → ← 知 能 b. a.認知症の診断基準
D. A,B,Cが せん妄状態の 時だけに 生じるのではない E. 器質性因子の存在が 証明・推測される A.記憶の障害 B.認知の障害 C.社会的または職業的機能の著しい障害を引き起こし、病前 の機能水準からの著しい低下を示す 認知症 認知症記憶の障害
新しいことを覚え込む
以前覚えたことを思い出すことが困難、でき ない
認知の障害(下記のうちひとつ以上)
▻言葉の障害 ▻身体は動くのにある動作ができない ▻感覚はあるが認識できない ▻計画を立てる、物事を組み立てる、順序立てること などができない社会生活機能低下
社会的または職業的機能の著しい障害を引 き起こし、病前の機能水準からの著しい低下 を示す。
さらに
これらがせん妄状態の時だけに生じるのでは ない
正常な知的機能の老化
障害の範囲が限定されている 40歳くらいから目立ちはじめ、徐々に進行す る 日常生活や職業活動に支障をきたすことは ない それまでの高級な精神活動も維持される 本人に明白な自覚があるBPSDとは?
Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia
記銘力低下→計算・構成力低下(抑うつ的)→異常行動・社会生活障害 →自立生活機能低下 予防・治療→周辺症状改善→ターミナルケア 初期は外来→中期、在宅→末期、在宅もしくは施設 予防・治療(生活習慣病・塩酸ドネパジル・リハビリプログラム)→薬物療 法(抗精神病薬など)・ケア(介護者・本人)→栄養管理・合併症予防 MCI→認知症(初期→中期→末期)
精神面の障害
幻覚:幻視、幻聴、体感幻覚、幻臭 妄想:物盗られ妄想、被害妄想、嫉妬妄想など 睡眠覚醒障害:不眠など 感情面の障害:抑うつ、躁、不安、恐怖、興奮、感情失 禁、感情鈍麻など 人格面の障害:多幸、脱抑制、易怒性、易刺激性、無 関心、依存など行動面の障害
不適切・無目的な行動 仮性作業・仮性対話 火の不始末 不潔行為 性的脱抑制行為 徘徊 繰り返しの質問 付きまとい蒐集 独語・独笑 攻撃的言動等暴行、暴言 など 焦燥・叫び声・拒絶 食行動の異常・異食・過食・拒食・盗食基本症状と
BPSDの関係
基 本 症 状
心理状態・環境的要因・性格など 行動障害(BPSD)
Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia
アルツハイマー病
アルツハイマー病は、65歳以上人口の最大で8%程 度が有していると推測され、近年日本においても認 知症の基礎疾患として最多であると考えられている。 現在のところ原因は不明であるが加齢とともに有病 率は増加していく。男女比は1:2で女性に多い。 危険因子としては頭部外傷、血管性認知症の諸要 因、糖尿病、エストロゲン、アルミニウムなどが挙げ られている。 神経病理学的には脳内で過剰にリン酸化されたタ ウ蛋白が凝集して螺旋構造をとった神経細胞内物 質による神経原線維変化と老人斑によって特徴付 けられる。アルツハイマー病の経過
病気の進行 前駆期: ・記 憶 障 害 に ついて本人は 否認または強 い嘆き ・IADL(日常生活 関連動作)に若干の 支障が認められる 場合も ・女性の場合は料 理のレパートリー ↓、簡素化 初期: ・記 名 力 障 害 が 明確に ・愁訴(頭痛、無気力、 易疲労、不眠など) ・IADLに低下が明確 になり、約束を忘れ る、重複買いをする 等生活上の小事件↑ ・物取られ妄想 中期: ・BPSD↑ ・転倒↑ ・記憶障害が進行、 新しい記憶が特に ↓ ・判断・問題解決 能力/身辺自律 /ADL等↓ 後期: ・ろう便などの BPSD↑ ・睡眠覚醒リズム障 害 ・全般的な認知機能+ 身体機能↓ ・誤嚥、転倒から怪 我↑血管性認知症
血管性認知症はアルツハイマー病に続き2番目に多い認 知症である。また、アルツハイマー病と血管性認知症を併発 しているもの(混合性認知症)も多い。ある調査ではアルツハ イマー病と血管性認知症のそれぞれ単独のものより併発し ているものが多いという結果になっている。 血管性認知症の原因は脳の血管障害である。主に脳梗塞 や脳出血によるが背景には高血圧症や脳動脈の硬化があ り、糖尿病、高脂血症もリスクファクターになる。血管性認知 症の場合、脳の血管障害により傷害された容積や梗塞の数、 障害部位によって状態は異なる。 治療に際しては脳血管障害そのものや後遺障害の治療に 重点が置かれ、アルツハイマー病とは異なった対応が必要 となることもありより適切なケアをするためにも基礎疾病の鑑 別は必要である。血管性認知症の経過
発症は脳梗塞や脳出血の発作後やや急激に認知 症症状が認められるようになる。その後は症状に波 があり一時的に軽快することもある。しかし、脳内の 状態の変化に応じ階段状に症状は進行する。通常、 症状は脳の障害部位などにより変化することから “まだら状”であり、ある機能は正常であるが他の機 能は早期から障害が認められることもある。傷害さ れていない領域が十分にあるときには積極的なリハ ビリテーションが効果をあげることがある。レビー小体病
近年の研究では上記の2疾病に続き多いとされてい る。脳内にレビー小体という異常な神経内蓄積物が 増加することによって特徴付けられる。アルツハイ マー病を併発することも多い。男女比は2:1で男性 に多い。症状は発症初期からパーキンソン症状を伴 うことが多く、他にも幻視・幻覚の訴えが多い、妄想 も幻視などに関連したものが多い、症状の進行が比 較的早いなどの特徴がある。特に初期においては 認知症症状が軽いうちに幻視や妄想、抑うつなどの 精神症状がアルツハイマー病などと比べると生じや すく、その時期においては精神科的な対処が重要と なる。前頭側頭葉変性症(ピック病)
アルツハイマー病が記憶を司る海馬を含む側頭葉 内側や側頭頭頂後頭葉など脳の後方部分が傷害さ れるために記憶障害や認知障害が生じやすい。こ れに対し前頭側頭葉変性症では前頭側頭葉といっ た脳の前方部が傷害されるために記憶障害などよ り人格障害や行動異常などの社会生活上の障害が 目立つという特徴がある。前頭側頭葉変性症の特 徴として、病識の欠如、感情・情動変化、脱抑制・反 社会行動、自発性の低下・無関心、常同行動、食行 動異常などの多彩な行動異常をあげることができる。 また、このグループには意味認知症という認知症も 含まれるが、これは意味記憶が選択的に傷害され る認知症である。認知症を引き起こす疾患等と特徴
■ 皮質下認知症 パーキンソン病:振(震)顫と筋固縮、寡動 進行性核上麻痺:人格変化 ハンチントン病 白質認知症(ビンスワンガー型認知症) ■ 脳感染症 クロイツフェルト・ヤコブ病:プリオン(異常な蛋白粒子)が病原 エイズ脳症・梅毒脳症 進行麻痺 ■ その他の脳疾患 頭部外傷・外傷性認知症 慢性硬膜下血腫 ボクサー認知症 正常圧水頭症 脳腫瘍 アルコール認知症・代謝性認知症・薬剤性認知症 機能性疾患における仮性認知症:うつ病性仮性認知症・心因性仮性認知症(ヒステリーの一型)・陳旧 性分裂病の認知症様状態) 廃用性知能衰退:知的刺激の乏しい環境など、日常生活の自立は維持されている.認知症高齢者をケアするということ
高齢者を対象とした福祉・医療サービスに従事して いると認知症高齢者のケアは避けられない。 さらにBPSDのように認知症高齢者のケアをしてい るとは様々な対応困難な状況に遭遇する。 そのような場合には、またはそのような状況になら ないようにするためにはどのようにしたら良いのだろ うか。・基本症状と行動障害(
BPSD)の理解
認知症の場合、基本症状と環境・個人の相互作用から BPSDが生じることが多い。 BPSDについてもそれが生じる理由を基本症状、環境的要 因などの観点から理解する必要がある。この点が欠けてしま うと症状やBPSDの責任を認知症高齢者本人に負いかぶせ てしまうことになり、なんら問題は解決しないと考えられる。 また、「困った」状態が生じてもそれが症状や環境的要因か ら生じるのであるということが分かっていれば少なくてもその 「困った状態」について本人を責めることはなくなるだろう。 (風邪を引き熱を出している子どもに向かって「なぜ熱を出した のか!」といって責めはしない)認知症者の内的世界の理解
もし私たちがついさっきやったことを忘れてしまった らどんな気持ちになるだろうか。 または以前一度会い名刺交換した人と再会したが 名前を思い出せないまま話をしないといけないとし たら、落ち着いて話を進めることができるだろうか。 認知症高齢者にも全く同じことが言うことができる。 人や場所、時間、出来事などを覚えていられないこ と、または以前は普通にできたこと、わかっていたこ と、認識していたことが今は困難になっていることは、 その人にとっても負担を強いているのである。認知症の心理的特徴
・不快 ・不安 ・混乱 ・被害感 ・自発性の低下 ・揺れ動く感情 ・行動を取り繕う行為適切なケア・環境調整によるBPSDの縮小 BPSD 基本症状 BPSD <適切なケア> <環境整備> 基本症状
観察の整理方法
その現象(行 動・状態)が生 じた前の状況 その現象の頻度、 強度、持続時間 その現象の後の 状況 対象とする場面 の決定適切なケア・環境調整を可能にする観察 適切なケアや環境調整を行うためには、まず 現状の観察が必須である。観察においては 1.対象とする場面の決定(どの現象を対象とす るか) 2.その現象(行動・状態)が生じた前の状況、 3.その現象の頻度、強度、持続時間 4.その現象の後の状況、などに整理できるよう にする。
ケアの検討
適切に観察ができたらその現象がどうして生 じているのかがおおむね理解できるようにな るはずである。そうすると、その現象を変える ためにはその本人を変えることが必要なので はなくその現象が生じなくても良いように、も しくは代わりのより適切な現象に置き換えら れるように前後(つまりケアをする人やその方 法)を調整すればよいということになる。ケアの検討
point
■ ケアの指針の確認 目指すところ:安全・快適(満足・喜び)・価値・自立 など ■ ケアの検討 現在のケアの見直し 対象となる行動に関連する要因の整理 言語・行動パターンの把握 欲求・不安・退屈・孤独感など心理状態の検討 行動(麻痺などによる行動の制限)・認知能力(見当識・理解力など)の検討 人格的変化(罪悪感・羞恥心)→性的問題 視力・聴力・水分・栄養補給・意識障害・身体的違和感・体温・便秘等を含む身 体状況の把握 家族関係・他の利用者・職員などとの人間関係の検討(居場所としてのなじ み集団・友人) 物理的環境の検討(照明・騒音・物品の管理・衣服アメニティーなど):常に<身 体面・心理面・環境面>に注目する 行動抑制の必要性の検討:問題に蓋をしているだけ? 安全(衛生・本人・他者)?・客観的、主観的QOL?ケアの原則
回復可能な機能の回復を図る
失われた機能を使う機会を減らす
個別的対応の指針
正常化をあせらない 間違った言動を否定しない 失敗行為をとがめない 説明や説得は効果が薄い 命令調、高圧的な態度はとらない 不用意な言動で患者を傷つけない 良い点をはっきり評価する 受容的・保護的な接し方が原則 残存能力への働きかけにも工夫する 日常のケアには専門性が必要主体性と自己決定の尊重 継続性の保持 自由と安全の保証 権利侵害の排除 社会的交流とプライバシーの尊重 個別的対応 環境の急激な変化の忌避と心地よい変化のある生活環境 その人のもっている能力を大切にし、生きる意欲・希望の再発見への支援 人としての尊厳の保持 身体的に良好な状態の維持と合併症の予防 認知症ケアの理念と原則
わたしの個別対応の指針
1. 2. 3. 4. 5. 6. 7. (自身の経験等を活かして、追加するものが あれば書き足していきます)認知症の早期診断の意味
診断する。治療する。ケアする。準備する。ことの重要性 改善可能な認知症を見逃さない。さらに早期 治療していくことで進行を遅らせる。 本人の準備(病気に対する対応、社会的対 応)を 家族の準備家族が気づいた認知症の初期症状
同じことを何度も言う ものの名前が出なくなった。 関心や意欲がなくなった 物忘れやしまい忘れが目立った 約束を忘れるようになった。 以前の性格と異なってきた など →軽度認知障害はまず疑うことが重要!家族の介護負担とは
異常行動に振り回されること この先の病状の進行の仕方がわからないこ とやどこまで介護を続けるのかという不安 家族が自由になる時間がないことや自分の 身の回りのことができないこと 便・尿失禁などの対応 伝えたいことを伝えられないことや人や時間 がわからなくなること →本人の保護・ケアと同時に介護者の保護を!異常行動の多くは薬物的に対応可能?
ケア的・環境整備的対応が不可欠だが、最近 少しずつ異常行動に対する薬物療法が確立 してきている。 特に不隠、興奮・睡眠障害 異常行動を放置したら、在宅介護は成り立た ない!重度認知症で起こりうることとは?
歩行障害・嚥下障害などの障害の進行
肺炎・床ずれなどの合併症の併発
ターミナルケア(その人らしい最期を家族とと もに過ごせるために)
新宿ヒロクリニックの認知症相談
ファックスにて相談(相談依頼表をファックス にてご送付ください。折り返しご連絡いたしま す。) 月曜日外来にて通院 往診にて対応(往診希望日を記載してくださ い)早期認知症の当院対応
MMSE・リバーミード行動記憶検査・などの実 施にて認知障害の有無の検査 MRI・SPECT検査の実施(他医療機関にて) 専門医紹介(東京医大老年病科など) などによる確定診断をつけ、薬の処方などの 医療的対応 さらに介護者への教育(外来にて)中等度認知症に対しての当院対応
異常行動の対応 主治医意見書作成や介護保険対応 合併症予防 介護力の有無などにより、施設への円滑移 行末期認知症に対する当院対応
合併症予防や初期対応
ターミナルケア
認知症というレッテルを貼るだけで安心していない か? それぞれの障害は皆異なっている。どのよう な障害が有意にあるのかをきちんと解析し皆 が理解すること。 適切な医療・ケア・環境整備を行なうこと。 認知症の患者さんが将来自立生活をまっとう 出来る社会を目指して! →そのために連携することが重要