2008 年度夏季研修レポート
糖液からの硫酸分離回収実験
(株)藤井基礎設計事務所 ○藤本栄之助 【緒言】 これまでの木材の利用方法は、建築材として利用する以外はセルローズをパルプに利用 するか、または繊維に加工するだけで、貴重な資源として含まれるリグニンは廃棄するか、 せいぜい燃料にするだけであった。製紙工業や繊維産業が公害企業として糾弾されてきた のはそのためである。 石油資源の枯渇、原油の高騰そして地球温暖化を目の当たりにして、トウモロコシ、サ トウキビそして木質などから新エネルギーを創生する研究開発が急がれているが、欧米や ブラジルを中心にトウモロコシ、小麦などの原料が高騰し,食糧危機の引き金を引いてしま っている。一方、木質を原料とするバイオエタノール製造研究においても、リグニンは依 然として燃料にするだけで、過去の過ちを繰り返そうとしている。 舩岡研究室では、木質の中でセルローズに次いで多量に含まれる貴重な資源であるリグ ニンを熱可塑性樹脂として取り出すことに成功し、その事業化と商品開発に鋭意取り組ん でいる。木質を原料とするならば、バイオエタノール単独の製造研究をするべきではなく、 リグニンの有効活用と並列で研究すべきである。 木質から 72%濃硫酸を使ってリグニンとセルローズに分離し、リグニンはリグノフェノ ールに化学修飾されて、抽出剤によって抽出されると、硫酸酸性の糖液(バイオセルロー ズ)が残る。水素結合により、複雑で強固に絡み合ったリグニンとセルローズを解きほぐ し、分離するために使われる濃硫酸は、木質原料に由来する水によって薄められてもなお 50%前後の濃硫酸の領域にある。したがって、残部のバイオセルローズは加水分解を受け、 分子量 10 万から 1000 ぐらいのオリゴマーまでと、さらに単糖(主としてグルコース)に 完全に分解されたものなど幅広い分子量分布をした糖類に変質している。また、セルロー ズから分解したグルコースおよびヘミセルローズから分解したキシローズなどを主とした 6 種類の糖類で構成されている。 これらの混合体からなる糖液から硫酸を分離回収し、精製された糖を醗酵法によりバイオ エタノールまたはメタンガス化するための総合的な最適化条件を模索する実験を行った。 従来の製紙産業や繊維事業では、リグニンを分離するに当たり、高付加価値の商品化を 目ざすのではなく、ただ単に燃料として回収してきたが、リグノフェノールという高付加 価値商品の事業化を主眼とするこの報告書では、高濃度の硫酸を多量に使用するために、 硫酸回収を如何に合理的にやるかが事業化を成功させる Key Factors になる。 この報告書における実験で最も重要なことは、硫酸回収をどこまでやるかを設計するこ とである。具体的に言えば、 1.回収率の設定 2.回収濃度の設定 3.回収方法の選定4.回収されない残存硫酸の処置方法→醗酵を阻害する中和塩濃度を如何に下げるか などを総合的に設計することである。 硫酸回収率は高い方がいいのは当然であるが、あまり高くすると回収される硫酸濃度が 低くなり、リサイクルして使用する濃度の 72%まで濃縮するのに多額のエネルギー費用を 要し、経済性が低下する。また回収率が低くすぎると中和によって副生する塩濃度は高ま り、後工程のメタン醗酵を阻害するようになる。したがってベストな設定として Tab.1 回収率 95~98% 回収濃度 45%以上 を選定した。 想定される硫酸回収方法は、イオン交換膜法、樹脂吸着法(クロマト法)、電気透析法、 拡散透析法および電気分解法などがあるが、予備調査の結果 樹脂クロマト法→電気透析法 の 2 段法を選んだ上で、濃縮に要するエネ ルギー消費量について経済評価を加え、最終決定した。 最後に、回収されずに残る 5~2%の硫酸を中和するのに最も中和塩濃度が低くなる方法 を探索した。また、今回は検討課題からはずしたが、電気分解法の可能性についても論及 した。 【実験】 (1) 糖液サンプル調整 糖組成分析 硫酸糖液 5 ml を採り,全量が 192ml になるように蒸留水で希釈した(硫酸濃度 3%)。これ を120℃で 1hr オートクレーブ処理した。処理後冷却し,内部標準物質として Ribose を 20 mg 添加した。この溶液をBa(OH)2・8H2O により中和・脱塩後,0.45μm のディスポーザブルメ ンブレンフィルターユニットでろ過を行い,硫酸層に含まれる炭水化物の構成糖組成分析 試料を得た。 構成糖組成分析は L-アルギニンを反応試薬に用いたポストカラム誘導体化法による蛍光 検出法を採用した島津高速液体クロマトグラフ(HPLC)糖分析システムにより行った。この システムでは,ホウ酸緩衝液を溶離液とし,陰イオン交換カラムで分離した糖を L-アルギ ニンをホウ酸緩衝液に溶解した反応試薬液と混合させ,反応コイルで過熱することにより 還元糖が蛍光誘導体化される。この誘導体の蛍光強度を蛍光検出器で測定することにより 還元糖の量を測定することが可能である。
構成糖として針葉樹,広葉樹の主要構成糖である Mannose, Arabinose, Galactose, Xylose, Glucose の測定を行った。定量は Ribose を内部標準物質とした内部標準法により行った。 [HPLC condition]
Column: TSK-GEL SUGAR AXG (4.6mm ID. × 15 cm L. )
Eluent: A; 0.6 M potassium borate buffer (pH9.0),B; 0.8 M potassium borate buffer (pH9.0), Flow rate: 0.5 ml/min
Gradient: A 100% to B 100% (1.54%/min) Temp: 70℃
Reaction temp.; 150℃, detection wave; Ex-320 nm, Em-430 nm 分子量分布
硫酸糖液1 ml 採り,Ba(OH)2・8H2O で中和・脱塩し,0.45μm のディスポーザブルメンブ
レンフィルターユニットでろ過を行い,炭水化物分子量分布測定用試料を得た。 炭水化物の分子量分布は水系Size Exclusion Chromatography (SEC)により分析した。 [水系 SEC condition]
Column: Asahipak GS-620HQ, GS-520HQ, GS-320HQ, GS-220HQ (7.6 mm ID.×30 cm L. ) Eluent: H2O Flow rate: 0.6 ml/min Temp: 50℃
Detect: RI
Standard: Pullulan, maltose, maltotriose, maltopentaose, maltoheptaose Tab.2 これらの処置によって得られた分子量文布 分子量 組成 180(glucose 単体モノマー) 31.17 180~1,000 37.56 1,000~100,000 31.27 合計 100 Tab.3 組成分析値 構成糖の種類 濃度(mg/ml) Ribose trace Mannose 7.11 Arabinose 0.34 Galactose 0.72 Xylose 0.62 Glucose 46.40 Total 55.19 (2) 硫酸回収実験 Fig. 硫酸回収システム(基本的マスバランスは紙面の都合で別報に記載) 濃縮缶 中和槽 再生 硫酸 樹脂クロマト 回収槽 メタンガス ろ過器 糖液 水 メタン発酵槽 樹脂吸着塔 共沈塩除去
簡単なフローシート&マスバランス (濃度29%) 原液 硫酸フラクション(濃度 50%) BC 333 BC 26 水 334 樹脂 水 1,695 硫酸濃縮工程へ 700 クロマト 4,213 硫酸 1,800 硫酸 1,710 →回収率 95% 硫酸 溶離水 分離塔 BC 307→回収率 92% 水 1,540 水 879 残存硫酸を中和 5,055 硫酸 90 してバイオ発酵 BC フラクション(濃度 24%) 工程へ (赤字数値は御社での予備実験結果からの推定、黒字数値は当方からの希望値) 【結果と考察】 第 1 段の樹脂クロマト法で回収される硫酸は、回収率が 90%で濃度は 50%である。第 2 段の電気透析法まで加えると、回収率は 99%まで上がるが濃度は 33%まで低下する。これ をリサイクルして使用するには 72%まで濃縮しなければならず、それに要する費用は、リ グノフェノールを生産する比例費トータルの 43%にもおよび、許されることではない。 したがって、第 1 段のみで回収するとすれば、濃縮費用は全比例費の9%ですみ妥当な 数字である。しかし。この場合には回収残分 10%の硫酸を中和しなければならないが、如 何に中和塩の溶解度を落とすかに留意する必要がある。 Tab.4 中和剤の種類とその生成塩の水への溶解度 中和剤(アルカリ) 生成塩 生成塩の水への溶解度 苛性ソーダ NaOH 芒硝 Na2SO4 大 消石灰 Ca(OH)2 石膏 CaSO4 0.2g/100ml 水 水酸化バリウムBa(OH)2 硫酸バリウム BaSO4 溶けない 表4からわかるように、中和剤として水酸化バリウムを使用するのがベストであるが、 高価で工業的には使用するのに躊躇する。したがって、苛性ソーダと水酸化バリウムの混 合剤を使い共沈効果を狙って、安価にかつ水に溶けない中和塩を生成する条件を選ぶ。 これが、これまでに得られた結論であるが、表1に示した目標をクリアできていない。 最終的な目標達成のためには、電気分解法による研究開発が必要である。この類似技術 としては、食塩の電気分解による苛性ソーダと塩素の製造が工業的に行われている。この 技術を硫酸回収に応用するには、陽極素材の耐硫酸酸性探索および塩素よりも 5 倍も大き
い硫酸イオンを透過できる新しいアニオン膜の開発が必要である。
過去に、塩素の公害が問題化したころ、芒硝(硫酸ナトリウム)を電気分解して苛性ソ ーダと硫酸を製造する研究がなされた経緯があることから、それを参考にしたい。以上
Research on the Separation and the Recovery of sulfuric acid from Bio-cellulose (sugars) Phase. Einosuke FUJIMOTO (FUJII COUNSULTING ENGINEER & ASSOCIATES for Soil and Foundation Design 1349 HigashiTsuda-cho,Matsue City 690-0011 JAPAN)
Tel:0852-23-6721 Fax:0852-25-2248 e-mail:[email protected]
Abstract: Extraction residue of lignophenol contains strong sulfuric acid and several sugars with wide molecular distribution. It is necessary for production of ethanol or methane as the source of new energy from the extraction residues by fermentation to separate and recover strong sulfuric acid. Typical methods of sulfuric acid separation are ion exchange membrane, resin chromatography, electric dialysis and diffusion dialysis, however, resin chromatography method was selected to optimize the production process and recovery yield of sulfuric acid.