1-(1)損失分離・解消スキーム:資金の流れ
O社
O社
ヨーロッパ・ルート シンガポール・ルート 国内ルート
LGT銀行
コメルツ銀行
(後にSociete Generale)
事業投資ファンド
GCNVV
O社の預金等に担保
ファンドへの貸し出しを実施
複数の仲買ファンド
受け皿ファンド
Central Forest Corp
受け皿ファンド
Quick Progress
O社から運用損が生じている金融商品を簿価で
買い取り。約640億円の運用損がCFCに移転されている
O社から運用損が生じている金融商品を簿価で
買い取り。約320億円の運用損がQPに移転されている
(出所)オリンパス・第三者委員会(2011)を基に
加賀谷及び鈴木両氏により作成
一橋ビジネスレビュー 2012SUM. 115
1-(1) 損失分離・解消スキームの概説
1.O社は、1985年以降の急速な円高によって大幅な営業利益が減少したことを受け、財テクを重要経営戦略と
位置づけ 金融資産の積極的運用に乗り出した しかしながら 1990年にバブル経済の崩壊に伴い それ以降
位置づけ、金融資産の積極的運用に乗り出した。しかしながら、1990年にバブル経済の崩壊に伴い、それ以降、
金融資産の運用損失が増大し始め、1990年後半には約1000億円ほどの巨額な損失が累積した。
2.O社は、含み損の先送りをもって対応していたが、1997年から1998年にかけて金融資産に関する会計基準
の変更に伴い 取得原価主義から時価主義に転換する動きが本格化し始めた こうした状況を踏まえ 特定の
の変更に伴い、取得原価主義から時価主義に転換する動きが本格化し始めた。こうした状況を踏まえ、特定の
金融商品運用担当役員が中心となり、外部のアドバイザーの協力を得て、O社の連結決算の対象から外れる
ファンドに含み損のある金融商品を簿価で買い取らせて、含み損失を表面化させない方法を考案した。
ヨーロッパ・ルート: O社は 1997年から1998年にかけて受け皿ファンドCFC及びQPをケイマンに組成し
ヨ ロッパ ル ト: O社は、1997年から1998年にかけて受け皿ファンドCFC及びQPをケイマンに組成し、
同年、リヒテンシュタインのLGT銀行から同銀行のO社名義の資産(国債等)を担保としてCFCに対する300億円
の融資を取り付けた。また、O社は、2000年には子会社とともにLGT銀行のクラス・ファンドに計350億を投資
し、仲買ファンド及びQPを介してCFCに流した。このようにして1998年から2000年にかけて合計約650億円
が損失分離スキームに投入された。
シンガポール・ルート:O社は、1999年、シンガポールのコメルツ銀行から、O社名義の預金を担保として特別
目的会社に450億円を融資させ、同特別目的会社から仲買ファンドを介してCFCに流した。その後、シンガポー
が が が
ル・ルートは仕組みが変更されたが、最終的には、2000年から2005年にかけて600億円が損失分離スキー
ムに投入された。
国内ルート:O社は、2000年3月に投資事業ファンド GCNVV(G.C.New Vison Venture L.P)を立ち
上げ O社及び仲買フ ンドから約350億円の出資を受け GCNVVは 資金の 部をベンチ 企業 投資
上げ、O社及び仲買ファンドから約350億円の出資を受け、GCNVVは、資金の一部をベンチャー企業へ投資
する一方、合計約300億円がQPに提供された(詳細は、1-(2)及び(3)を参照)。
いずれのルートにおいても受け皿ファンドに流れた資金は、O社が保有する含み損失のある金融商品を簿価
での購入に充てられ 結果としてCFCに約640億円の 同じくQPに約320億円の損失を移転し 連結財務
での購入に充てられ、結果としてCFCに約640億円の、同じくQPに約320億円の損失を移転し、連結財務
諸表から消去した。
3.O社は、最終的に銀行より調達した融資金を返済するため、又は、ファンドへの出資金の償還をしてもらう必要
があり ファンドが安価で購入したベンチャー企業を高額で買い取り あるいは 大型M&A案件に絡んでファン
があり、ファンドが安価で購入したベンチャ 企業を高額で買い取り、あるいは、大型M&A案件に絡んでファン
ド等に高額な手数料を支払う等の方法で資金を流し、その資金を還流させ、すべてのファンド等を清算した。
1-(2)
国内3社を活用した損失解消スキームの概要
O社
O社
(海外子会社を含む)
⑩ 資金還流 ①出資(計350億円)
⑧ ⑨
事業投資ファンド(GCNVV)
③ ② ⑥ ⑦
ベンチャー企業(約30社) 損失分離関連ファンド
③ ② ⑥ ⑦
ヨーロッパ・ルートの解消 国内3社
資金の還流 ④投資 ⑤株式の取得
①~③
GCNVV
は、300億円前後の資金を一部の他ファンドに融資する一方、30社以上のベンチャー企業に投
資していたが、投資先が行き詰まり、損失は拡大して言った。
資していたが、投資先が行き詰まり、損失は拡大して言った。
④~⑦ O社は、2003年から2005年にかけて国内3社の株式を損失分離関連ファンドにかなり高値で購入させ
るスキームを考え、GCNVVは、損失分離関連ファンドが保有する本件国内3社の株式の一部を高値で購入
した。
⑧&⑨ O社は 2007年の会計基準の変更により O社がGCNVV及び他のフ ンドを連結決算に取り込む必要
⑧&⑨ O社は、2007年の会計基準の変更により、O社がGCNVV及び他のファンドを連結決算に取り込む必要
が生じた。GCNVVが保有する本件国内3社を簿価で、他のファンドが保有する同株式を、2008年3月に著
しい高額で購入した。結果として、投資総額732億円、内のれん680億円が、O社の連結F/S計上された。
1-(3) ジャイラスの買収取引による損失解消スキームの概要
O社
②2006年6月FA契約締結その後 修正 契約締結
アクシ ズ アメリカ
資金の還流
O社
アクシーズ・アメリカ
(ファイナンシャルアドバイザー)
株式 融資 投資
その後、修正FA契約締結
③成功報酬等の現金の支払い
株式 融資 投資
移動
損失分離
OUKA
OCAなど
④
リーガルアドバイザー
及び他のFA
損失分離
OUKA
OCAなど
関連ファンド
(直接の買収主体O (O社の海外子会社)
社の英国子会社)
株式
移動
④
・ ⑤
・ ⑥・
⑦
社 英国子会社
①買収
⑦
シンガポール・ルート
の解消
ジャイラス
アグザム
(外科用内視鏡製造 (アクシーズの現金受取
(外科用内視鏡製造 (アクシーズの現金受取
メーカー) りのためのケイマン法人)
ジャイラス買収取引の概説
① OUKA社は、2008年2月に、ジャイラス社を9億6500万ポンド(約2,063億円;のれん1,492億円を
含む)で買収した。最終的には、有償減資による払戻しの方法により、O社に移動させた。又、OUKAが
保有するジャイラスの子会社株式を同じ方法でO社の海外子会社に移動した。
② O社は、2007年6月に買収対象会社を「ジャイラス」に変更したことに伴い、買収規模が縮小しFA報酬
で損失を十分に解消することは難しいことを懸念して、主としてアクシーズ・アメリカとの成功報酬契約を
修正した。
③ O社は、2008年6月に、修正FA契約に基づき、基本報酬、必要経費、成功報酬(計2,400万ドル)を
アクシーズに支払った。アクシーズは、当該受取額の一部を海外FA及びリーガル・アドバイザーに
支払った。
支払った。
④ O社は、2008年6月に、修正FA契約に基づき、ジャイラスの株式オプション及びワラント(新株予約権を
購入する権利)をアクシーズに付与した。アクシーズは、これらの権利義務をアグザム(アクシーズの
O社からの資金を受取るためのケイ ン法人)に2 400万ドルで譲渡した
O社からの資金を受取るためのケイマン法人)に2,400万ドルで譲渡した。
⑤ O社は、2008年9月に株式オプションの代わりにジャイラスの配当優先株(約1億7700万ドル)を
アクシーズに発行するとともに、ワラントを5,000万ドルで買い取った。
アクシ に発行するとともに、ワラントを , 万ドルで買 取 た。
⑥ O社は、わずか2カ月後に、配当優先株の第3者への譲渡を回避する等の理由で、買い戻すことを決定
した。
⑦ 配当優先株の買取りについて会計上の問題があったこと、監査法人からの報酬が高すぎる等の指摘を
受けたことから、2010年3月まで買取りは実施されなかった(2010年3月期に監査法人の交代があっ
た)。 2010年3月に、最終的な配当優先株を6億2000万ドル現金で買い取った。買取金額と簿価
(1億7700万ドルの差額(4億4300万ドル)のうち412億円が、「のれん」としてO社の連結F/Sに
資産計上された。
本件事案発生の原因分析
本件事案発生の原因分析
1 経営トップによる処理及び隠蔽があったこと
1.経営トップによる処理及び隠蔽があったこと
2.企業風土、意識に問題があったこと
3.隠ぺい等の手段が巧妙であったこと
3.隠
い等の手段が巧妙であったこと
4.会社法上の各機関の役割が果たされなかったこと
5.監査法人が十分機能を果たさなかったこと
監査法人
十分機能を果たさな
た
6.外部の専門家による委員会等が十分機能を果たさなかったこと
7.情報の開示が不十分であったこと
8.会社の人事ローテーションが機能していなかったこと
9.コンプライアンス意識が欠如していたこと
10.外部協力者の存在
11.外人社長の解任
2 コンピュータ・フォレンジック調査の役割
2.コンピュ タ フォレンジック調査の役割
(1)役割
(1)役割
第三者委員会の依頼に基づき、第三者委員会の委員及び補助者(弁護士、公認会計士、
不正調査専門家等) の調査の過程で特定された本件不正事件の関与者(以降「保全対象
者」と表記)電子データ(電子メールおよび電子ファイル)を対象として電子データの証拠能
力を損なうことなく、収集・保管した電子データの内容を分析・閲覧し、重要と思われる電子
デ タを 各調査員
DVDにより手渡した 具体的な作業は下記の通りである
データを、各調査員へDVDにより手渡した。具体的な作業は下記の通りである。
(2)調査概要
日程
作業内容
摘要
H23/11/05 第三者委員会と 調査概要を説明し第三者委員会と合意
の会合 契約ドラフトの作成
H23/11/05か
ら約 週間
分析環境の構築 委員会終了後、即座に保全環境整備に着手
社 部署と グ
ら約1週間
O社のIT部署とのミーティング
IT環境やPCの貸与・管理状況、データの保全状況、
メールサーバの設置場所、メールシステム、バックアップ
対象、保管期間、協力体制等
対象、保管期間、協力体制等
日程
作業内容
摘要
H23/11/08 から
約3日間
保全の実施
保全対象者のPC(会社貸与PCと私用PC)、メール
サーバ(香港、米国、英国、日本)から電子データを
収集・保管
会社貸与PCは、O社のPC管理システムより出力された
PC管理台帳より収集・保全
私用PCは、本人の同意を得られたもののみを保全
H23/11/11から
約4日間
データの分析 保全・復元されたデータは、電子データ閲覧ソフトウェアー
である
Nuix
へ格納
不正調査専門家(会計士 弁護士)によってキーワード を
不正調査専門家(会計士、弁護士)によってキ ワ ド を
分析した。さらに、閲覧対象の電子データの絞込みを実施
キーワード分析した結果、閲覧すべき電子データは、
数十万件以上(約1/2弱が主謀者とされたM氏に関する
デ
データであった)
H23/11/14から
約 週
データの閲覧
分析期間は,11/14から2週間
様 な視 析す 会 査専
約2週間
様々な視点から分析するために会計士、不正調査専門家、
会計コンサルタント等総勢10数名が、専用作業部屋で毎日
朝から深夜まで作業
会計チームや弁護士との情報連携により、解析対象の絞込
会計チ ムや弁護士との情報連携により、解析対象の絞込
みを効率よく実施
データの授受は、情報の漏洩を防ぐためDVDで実施
2週間で合意されたキーワードを含む電子データをすべて
閲覧
閲覧
日程
作業内容
摘要
H23/11/26から
報告日前日まで
最終報告書の作成
11/26 からデータの整理のうえ、報告書の作成に着手し、
報告日前日に報告書の作成完了
全てのPCおよび電子データを O社 に返却
(3)結語
作業開始から報告期限(12/6)までの3週間過ぎ、チームに焦りが生じ始めた時、ついに今回
の不正取引の全容がほぼ明らかになると思われる一つの重要な電子データが発見された。この
電子データをもとに、不正スキ-ムを明らかにすべく当該メールなどを再確認し、整理して、不正
を裏付ける電子的証拠を固めることに成功した。
を裏付ける電子的証拠を固めることに成功した。
1 不正の痕跡を完全に消すのは困難であること (相手が狡猾でも痕跡は必ずある!)
重要なポイント
1.不正の痕跡を完全に消すのは困難であること (相手が狡猾でも痕跡は必ずある!)
2.調査対象会社のIT部門の協力体制を確立すること
(社内資産のことはIT部門に聞け!)
3.データの保全は迅速に行うこと(セキュリティー・バックアップも含めて、特殊なIT専門性が必要)
4.膨大なデータにくじけない精神力と体力を持つこと (短時間での体力勝負!)
5.専門家の頭脳を結集し、様々な視点から効率よく調査すること (いろいろな専門性を結集する
ことが大きな力になる!)
ことが大きな力になる!)