〔原 著 〕 民 族 衛 生Minzoku Eisei第72巻 第3号2006;72(3):101-116
専 門職養成校 におけ る栄養 ・調理 関連講義,実 習が
精神 的健康度 お よび健康 習慣 に及 ぼす 影響
佐 藤 香 苗1,4 原
美
智 子2
村 松
宰3
玉 城 英 彦4
An effect of nutritional
lectures
and practicum
on the mental
health
and health habits of vocational
college students
Kanae SATO14, Michiko HARAZ, Tsukasa MURAMATSU3
and Hiko TAMASHIRO4
We conducted two questionnaire surveys targeting vocational college students in Sapporo,
We examined how their attendance at nutritional lectures and practicum affects their BMI, men
tal health, and health habits one year after.
The first questionnaire survey was conducted in April 2003 with 182 new students, and the
second one in June 2004 with 108 who promoted to the 2nd grade. The categories inquired were
health habits (including intake frequency by food groups, dietary behaviors, daily physical
activ-ity, sleep), dietary environment (accessibility to food and health information), interests in
food-taking, self rated health, BMI and basic attributes. For the index of mental health, GHQ-28 was
used.
The response rate was 100%. Compared with the first year, the results of the second one
showed improvements in health habits (such as nutritional balance and daily physical activities),
dietary environment (such as accessibility to food and health information), interests in food-taking,
and mental health (especially in social activities). On the other hand, there was no notable
im-provement in dietary behaviors or BMI.
Some health-related indexes also showed the improvement among the students who have
ob-tained credits in the nutritional lectures and practicum.
These findings suggest the importance of introducing nutritional lectures and practicum
among vocational college students, since they are expected to be "experts" in the area of health
and social welfare in the near future.
Follow-up surveys will be needed to see whether and how the habits be sustained in the fu
ture.
1藤 女 子 大 学 人 間 生 活 学 部 食 物 栄 養 学 科 2天 使 大 学 看 護 栄 養 学 部 栄 養 学 科
3北 海 道 大 学 医 学 部 保 健 学 科 地 域 保 健 学 分 野
4北 海 道 大 学 大 学 院 医 学 研 究 科 予 防 医 学 講 座 国 際 保 健 医 学 分 野
1Departmnet of Food Science And Human Nutrition Faculty of Human LIfe Science, Fuji Women's University 2Department of Nutrition School of Nursing and Nutrition
, Tenshi College
3Department of Health Science, Division Commtnunity Health and Biostatics, Hokkaido University School of Medicine
102 民 族 衛 生 第72巻 第3号2006年5月
Key words: Nutritional Lectures and Practicum, BMI, Nutritional Balance, Dietary Behaviors, Dietary Environment, Mental Health
栄 養 関 連 講 義 ・実 習,BMI,栄 養 バ ラ ン ス,食 行 動,食 環 境 精 神 的 健 康 Ⅰ 緒 言 平 成15年 厚 生 労 働 省 国 民 健 康 ・栄 養 調 査 結 果 に よ る と,20歳 代 女 性 で低 体 重 者(や せ)の 割 合 が2割 を 超 え る こ と,脂 肪 か らの エ ネ ル ギ ー 摂 取 割 合 は20∼30歳 代 男 性 と20∼40歳 代 女 性 の 適 正 比 率 で あ る25%を 超 え て い る こ と,野 菜 類 の 摂 取 量 は 若 年 者 ほ ど少 な い こ と,運 動 量 が 少 な い こ と な どが 明 らか で あ る.札 幌 市 で は,10代 後 半 の 自 殺 者,20歳 代 女 性 の や せ,20歳 代 の 朝 食 欠 食 者 が 多 く,運 動 習 慣 が 少 な い こ と か ら,「健 康 さ っ ぽ ろ 21」(2002)に 青 年 期(15∼24歳)の 健 康 課 題 と し て 「十 分 な 睡 眠 」「朝 食 を 毎 日摂 る」「規 則 的 で 栄 養 バ ラ ンス の よ い 食 習 慣 」「運 動 の 習 慣 化 」「ス ト レス 対 処 能 力 の 向 上 」 を 掲 げ,身 体 的 ・精 神 的 ・社 会 的 に 良 好 な 包 括 的健 康 度 の 向 上 を 目指 して い る. 適 切 な健 康 習 慣 を 送 る こ と で 個 人 の 生 きが い,満 足 感 気 力 が 高 ま り,精 神 的 健 康 度 は も と よ り, 身 体 的 ・社 会 的 に も 良 好 な 健 康 状 態 が 保 持 さ れ る.青 年 期 に お け る精 神 的 健 康 度 と健 康 習 慣 に つ い て は,栄 養,運 動 な ど 断 片 的 に 関連 性 を 検 討 し た も の は見 ら れ る も の の,健 康 習 慣 を 包 括 的 に検 討 した 報 告 は著 者 らの 知 る 限 りほ とん ど な い.卒 業 後,高 度 な専 門 知 識 を 有 し保 健 ・福 祉 職 に従 事 す る こ と が 期 待 さ れ て い る 専 門 職 養 成 校 学 生 は, 在 学 中 に 適 正 な 健 康 習 慣 の 継 続 が 必 要 で あ り,そ の た め に は 健 康 教 育 が 重 要 で あ る.Green and Kreuter(1999)は 栄 養 教 育 を含 む健 康 教 育 を 「個 人,グ ル ー プ,コ ミ ュ ニ テ ィ に お い て,健 康 の た め に な る 自発 的 な 行 動 を準 備,実 現 し,強 化 す る た め に 計 画 さ れ た あ ら ゆ る 学 習 経 験 の 組 み 合 わ せ 」 と定 義 し て い る.「集 団 学 習 の 場 」 で あ る学 校 に お け る 栄 養 教 育 を 含 む健 康 教 育 の 有 用 性 に 関 し て は,大 学 生 を 対 象 と した 専 攻 学 科 別 比 較 で,栄 養 関 連 講 義 の 履 修 者 に 食 生 活 が 良 好 な者 が 多 い こ とか らす べ て の 専 攻 課 程 で 栄 養 関 連 講 義 を 開 講 す べ き で あ る と の見 解 が 示 さ れ た(古 崎 ほ か,2004). しか し,こ れ は横 断 研 究 で あ り教 育 前 後 の比 較 で は な い た め,履 修 効 果 に つ い て は 検 討 さ れ て い な い.著 者 ら は,札 幌 市 内専 門学 校 ・大 学(以 下, 専 門 職 養 成 校)の 学 生 を対 象 と し てBMI,栄 養 バ ラ ンス,食 行 動 食 環 境 精 神 的 健康 度 の 調 査 を 実 施 し て き た(佐 藤 ほ か,2003).そ こ で 今 回,同 一 対 象 者 に入 学 時 と 同 一 調 査 項 目 に よ り,1年 後 の 調 査 を実 施 し,栄 養 ・調 理 関 連 講 義,実 習 履 修 前 後 の 変 化 に つ い て 比 較 し,履 修 効 果 を明 らか に す る こ と,さ らに こ れ ら の授 業 の 健 康 教 育 と して の 有 用 性 を 検 討 す る こ と を 目 的 と して 調 査 研 究 を 行 っ た. Ⅱ 方 法 調 査 は,2003年4月 に 札 幌 市 内大 学(栄 養 学 専 攻)と 福 祉 系 専 門 学 校 で 入 学 時 の調 査 に 回 答 し た 182名 中,2年 に進 級 し,趣 旨 に 同 意 し た168名 で あ る.そ の 際 「科 目 の 成 績 と は 無 関 係 で あ る こ と,自 由 意 志 の た め 必 ず し も回 答 す る 義 務 は な い こ と」 を伝 え た.調 査 は2004年,祝 日が な く安 定 し た 日常 の 生 活 習 慣 で あ る と考 え ら れ る6月 上 旬 の 講 義 時 間 を利 用 し,無 記 名 の 自記 式 質 問 紙 法 で 実 施 し た.入 学 時 との 比 較 は,学 籍 番 号 の コ ー ド 化 に よ り匿 名 化 し て 管 理 し た. 本 研 究 に お け る 栄 養 ・調 理 関 連 講 義 実 習 と は,対 象 者 の 栄 養 と福 祉,両 専 攻 の カ リキ ュ ラ ム か ら類 似 す る 栄 養 学,調 理 学,調 理 実 習 と した. そ の 内容 と 時 間 数 方 法 を表1に 示 し た.対 象 者 を 専 攻,「栄 養 ・調 理 関 連 講 義,実 習 」 履 修 の 有 無 で,ま た,履 修 群 は そ の 量 と質,性 を 考 慮 し,A 群:栄 養 専 攻 履 修 群 女 子82名,B・C群:福 祉 専
民 族衛 生 第72巻 第3号2006年5月 103 表1 栄養 ・調理 関 連 科 目の教 育 内容 攻 履 修 群 男 子25名 ・女 子19名,D・E群:福 祉 専 攻 未 履 修 群 男 子19名 ・女 子23名 の5群 に 分 類 した.栄 養 専 攻 は福 祉 専 攻 に比 し,栄 養 学1.4倍, 調 理 学4倍,調 理 実 習2.7倍 の 時 間 数 で あ っ た.こ れ らす べ て の 授 業 の 最 終 成 績 評 価 後,2年 次 に進 級 し た学 生 を 履 修 済 み とみ な し,群 別 に 入 学 時 と 1年 後 の 比 較 検 討 を行 っ た. 1.調 査 項 目 調 査 項 目 は,「健 康 習 慣 」と して 「栄 養 ・食 生 活 」 「生 活 活 動 強 度 」,「食 環 境 」 と して 「食 物 へ の ア ク セ ス 」「情 報 へ の ア ク セ ス 」,そ の 他 「食 へ の 興 味 ・ 関 心 」「健 康 度 自 己 評 価 」「精 神 的 健 康 度 」「基 本 属 性 」 か らな る(表2). 1)健 康 習 慣
健 康 習 慣 項 目 はBreslow and James(1980)の 提 示 し て い る健 康 習 慣 に 関 す る項 目 を 参 考 に 栄 養 バ ラ ンス ・食 行 動,生 活 活 動 強 度 睡 眠 時 間 で 構 成 した.喫 煙 ・ア ル コ ー ル に つ い て は,調 査 開 始 時, 対 象 者 の95.3%が 未 成 年 で あ っ た こ と か ら 今 回 は 除 外 し た. (1)栄 養 ・食 生 活 項 目 栄 養 ・食 生 活 項 目 は,池 田 ら の バ ラ ン ス ス コ ア と食 生 態 ス コ ア(池 田 ほ か,1995)で 構 成 し た. バ ラ ンス ス コ ア は,卵,肉 類(肉,ハ ム ・ソ ー セ ー ジ),魚 介 類(魚,塩 干 魚,練 り製 品),大 豆 製 品,乳 ・乳 製 品(牛 乳 ・乳 製 品),海 藻,緑 黄 色 野 菜,そ の 他 の 野 菜,果 物,主 食,芋,油 料 理(16
104 民 族 衛 生 第72巻 第3号2006年5月 表2 調 査 項 目 食 品 ・12の 食 品 群)に つ い て,最 近1ヶ 月 の 摂 取 頻 度 を順 序 尺 度 で 質 問 し得 点 化 し た 「定 性 的 食 品 群 摂 取 頻 度 ス コ ア」 で あ る.ま た,食 生 態 ス コア は,朝 食 欠 食,昼 ・夕 欠 食,中 食,偏 食,孤 食(夕 食),食 事 の 規 則 性,夕 食 の 量,食 品 の 組 み 合 わ せ, 食 べ る速 さ,塩 分 過 剰 摂 取 へ の 配 慮 砂 糖 の 過 剰 摂 取 へ の 配 慮,昼 食 の 皿 数 の12項 目 を順 序 尺 度 で 質 問 し て 得 点 化 し た 食 行 動 に 関 す る ス コ ア で あ る.そ れ ぞ れ,開 発 者 の 配 点 基 準 に 基 づ き合 計 点 を算 出 し,入 学 時 と1年 後 の 得 点 を比 較 した.両 ス コ ア と も総 得 点 ・下 位 尺 度 得 点 と もに 点 数 が 高 い ほ ど良 好 状 態 と判 断 さ れ る.開 発 者 の 判 別 臨 界 点 か ら区 分 し たバ ラ ンス ス コ ア の 「非 適 正 群 」「境 界 群 」「良 好 群 」は そ れ ぞ れ,0∼11/12∼15/16∼26 点,食 生 態 ス コ ア は 一13∼0/1∼3/4∼9点 で あ る. (2)生 活 活 動 強 度 第 六 次 改 定 日 本 人 の 栄 養 所 要 量(2000)簡 易 時 間 調 査 に準 拠 し,生 活 動 作5項 目 に つ い て,分 単 位 で 回 答 を 求 め,合 計 時 間 が24時 間 に な る よ う記 録 させ た.生 活 活 動 強 度 の 分 類 方 法 は 表3に 示 し た.学 生 が 回 答 し た 「座 位 」 時 間 に は,机 上 事 務 と し て 算 出 す べ き受 講 時 間 を含 ん で い た.そ こ で, 本 研 究 で は 各 群 と も当 該 専 攻 の 平 均 的 な 時 間割 か ら1日 の 講 義 時 間 数 を求 め,そ の1/2を 立 位 時 間 に 加 え,調 整 を 行 っ た. 2)食 環 境 食 環 境 に つ い て は,「健 康 日本21」 の 栄 養 ・食 生
活 分野 の考 え に準 拠 した.即 ち,個 人 や集 団の栄
養 状態 ・栄養 素 ・食物 摂取 の 目標,知 識 ・態 度 ・
行 動 の 目標
お よび個 人 の行動 を支援 す るため の
環境づ くりを目標 と して,栄 養状 態や 食物摂 取状
況 を改 善す るため には,個 人や 集団が 適切 な知 識
とス キル を得 て望 ま しい態 度 を形 成 し,食 行動 と
して 実践す るこ とが必 要 であ る.そ のた め には食
環境 の改 善が必 要 であ る.こ こで い う食環 境 は,
表3 生活活動強度の分類方法
民 族衛 生 第72巻 第3号2006年5月 105 食 物 へ の ア ク セ ス と情 報 へ の ア ク セ ス,な らび に 両 者 の統 合 を 意 味 し て い る(健 康 づ く りの た め の 食 環 境 整 備 に 関 す る 検 討 会,2004年),本 研 究 で は}食 物 へ の ア ク セ ス 項 目 と し て 「メ ニ ュ ー を決 め る 」「生 鮮 食 品 の 買 い 物 」「調 理 」「後 片 付 け 」 の4 問 を 独 自 に 作 成 し,そ の ス キ ル に つ い て 順 序 尺 度 ・5件 法 で 質 問 し た.情 報 へ の ア ク セ ス に つ い て は 「健 康 情 報 源 の 活 用 」「栄 養 成 分 表 示 の 活 用 」の 2項 目 を 独 自 に作 成 し,順 序 尺 度4件 法 で 質 問 し た. 3)食 へ の 興 味 ・関 心 食 の 楽 し さ を実 感 す る こ と に よ り,「食 べ て み た い,作 っ て み た い,も っ と知 りた い 」 とい っ た 食 へ の 興 味 ・関 心 が 広 が り,自 分 が 理 解 し た こ と を 積 極 的 に 行 動 に移 そ う とす る 行 動 意 志 が う まれ る と考 え,食 へ の 興 味 ・関 心 の 項 目 を設 け た,「や る 気 」はAjzen(1985)の 計 画 的 行 動 理 論 に お い て も行 動 意 志 と し て 位 置 づ け ら れ,何 か の 行 動 を起 こ す た め に必 要 不 可 欠 な要 素 と な っ て い る.食 事 の 時 間 が 楽 しみ か 否 か を 「非 常 に 思 う」「思 う」「思 わ な い 」の 順 序 尺 度 ・3件 法 で 質 問 し,お の お の興 味 ・関 心 が 「多 い に あ る」「あ る 」「な い 」 と 読 み 替 え た. 4)健 康 度 自 己 評 価 「自分 を健 康 だ と思 うか 」と い う健 康 度 自 己 評 価 を 「非 常 に 思 う 」「思 う」「あ ま り思 わ な い 」「全 く思 わ な い 」 の4件 法 で 質 問 した. 5)精 神 的 健 康 度 精 神 的 健 康 度 は,精 神 健 康 調 査 票(General Health Questionnalre)日 本 版GHQ28項 目版(以 下,GHQ28)を 用 い た(中 川 ・大 坊,1985)。 身体 的 症 状(Somatic Symptoms, SS),不 安 と 不 眠 (Anxiety and Insomnia, AI),社 会 的 活 動 障 害(So
cial Dysfunction, SD),う つ 傾 向(Depression,D) の4因 子 ご と7項 目 の 質 問 で 構 成 さ れ て い る.4 件 法 の 設 問 を左 か ら順 に そ れ ぞ れ0,0,1,1点 と して 採 点 す るGHQ採 点 法 で 算 出 し,総 得 点 は 0∼28点 で あ る.得 点 が 高 い ほ ど精 神 的 健 康 度 が 低 い とみ な さ れ る.先 行 研 究 で の 判 別 臨 界 点 は, 一 般 的 神 経 症 は5/6点,学 生 を 主 とす る 青 年 期 層 で は11/12点 で あ る.こ の 調 査 は あ る 症 状 の 絶 対 的 な レ ベ ル を 図 る こ と が 目 的 で は な く,い つ もの 自分 の 状 態 と比 較 して 最 近 の 状 態 の 変 化 を と ら え よ う とす る もの で あ る. 6)基 本 属 性 性 ・入 学 時 年 齢,専 攻 学 科,居 住 形 態,ア ル バ イ トの 有 無 の他,入 学 時 お よ び1年 後 の 健 康 診 断 時 身 長 ・体 重 計 測 値 か らBMIを 算 出 した.計 測 値 が 得 られ な か っ た24%は,自 己 申 告 値 を 使 用 し た.身 長 ・体 重 の 自 己 申 告 値 の 妥 当 性 は,同 一 対 象 者 で す で に 報 告 済 み で あ る(佐 藤 ほ か,2003). 日本 肥 満 学 会(2000年)の 判 定 基 準 を用 い て,BMI l8.5未 満 を や せ,18.5以 上25未 満 を 普 通,25以 上 を肥 満 と し た. 2.統 計 解 析 各 群 の 男 女 別 入 学 時 と1年 後 の 比 較 は,調 査 項 目が 対 応 の あ る順 位 尺 度 項 目 と,正 規 性 が 仮 定 で きな く,か つ 対 応 の あ る 間 隔 尺 度 の2種 類 で あ る た め,す べ て ウイ ル コ ク ソ ン符 号 付 順 位 和 検 定 を 用 い て 比 較 検 討 した.解 析 は,統 計 パ ッ ケ ー ジ SPSSI1.5Jを 使 用 し,欠 損 値 を 除 い た 有 効 回 答 で 行 っ た.有 意 水 準 は5%未 満 と し た 。 Ⅲ 結 果 回 収 率 は100.0%で あ っ た. 1.基 本 属 性 対 象 者 の 主 な属 性,身 長 ・体 重 を 表4に 示 す. 入 学 時 と1年 後 の 比 較 で は,A群 の ア ルバ イ トの 有 無 に つ い て の み 変 化 が あ り,ア ル バ イ トを す る 学 生 が37.8%か ら63.4%と 有 意 に 増 加 し た (p<.0Ol). 身 長 ・体 重 か ら 算 出 し た 入 学 時 と1年 後 の BMIを 図1に 示 す.E群 は,入 学 時 に 「や せ 」「普 通 」で あ る 学 生 で あ っ て も1年 後 のBMI値 は 減 少 す る者 が 多 く,そ の 結 果62.5%の 学 生 が 入 学 時 よ り低 値 を示 し,有 意 に 低 下 した(p<.05).一 方, 入 学 時 にBMI「 や せ 」が23.2%と 最 多 で あ っ たA 群 は,1年 後 は19.5%と わ ず か な が ら も 減 少 し,改
106 民族 衛 生 第72巻 第3号2006年5月
表4 対象者の基本属性
善 傾 向 が み られ た. 2.健 康 習 慣1 バ ラ ンス ス コ ア の 総 合 点 の 入 学 時 と1年 後 の 変 化 につ い て 図2に 示 した.A群 は,入 学 時 よ り得 点 が 上 昇 す る も の が 多 く,顕 著 な 改 善 が み られ た (p<.001).そ れ に 伴 い,指 導 を 要 す る ス コ ア11 点 以 下 の 「非 適 正 者 」 は入 学 時49.4%か ら38.0% と減 少 し た. 同 様 にB・C群 も と も に 得 点 が 上 昇 し た (p<.05).11点 以 下 の 「非 適 正 者 」 に つ い て は, B群65.2%か ら56.5%,C群70.6%か ら47.1%と 顕 著 な 改 善 が み ら れ た.一 方,D・E群 は,入 学 時 と1年 後 を 比 較 し て と もに ス コ ア に 有 意 差 は み ら れ ず,「非 適 正 者 」 もD群77.8%か ら83.3%,E 群82.6%か ら78.3%と 改 善 は み られ な か っ た.バ ラ ン ス ス コ ア の 下 位 尺 度 で あ る12の 食 品 群 別 得 点 比 較 は 表5の とお りで あ る.表5お よ び6で は, 入 学 時 と1年 後 を 比 較 して,負 の 順 位,す な わ ち 入 学 時 の 方 が 良 好 で あ っ た も の を 入 学 時>1年 後,反 対 に1年 後 が 良 好 な 正 の 川頁位 を 入 学 時<1 年 後,差 が な い もの を入 学 時=1年 後 と し て,そ の 度 数 を示 した.バ ラ ンス ス コ ア は 履 修 群A・B・C 群 す べ て で 上 昇 し た.い ず れ も 「緑 黄 色 野 菜 」「そ の 他 の 野 菜 」「果 物 」 な ど ビ タ ミ ン類 や 食 物 繊 維 の 給 源 の 摂 取 頻 度 の 増 加 が み られ,油 脂 類 に つ い て は,AとC群,す な わ ち履 修 群 女 子 で そ の摂 取 頻 度 が 増 加 した(p<.05).「 主 食 」の摂 取 頻 度 は,A 群,D群 が 低 下 を示 し た(p<.01). 食 生 態 ス コ ア の 総 合 点 の 変 化 は 図3の とお り, A群 とB群 で い ず れ も 入 学 時 よ り1年 後 は 上 昇 し た(p<.05).下 位 尺 度 の12の 食 行 動 得 点 に つ い て は,B群 は 昼 ・夕 欠 食 頻 度 が 減 少 し(p<.05)改 善 が み られ た が,全 体 的 に は大 き な 変 化 は み られ な か っ た.A群 とE群 で は,と も に 食 事 の 時 間 が 不 規 則 に な っ た(p<.05).ま た,履 修 ・未 履 修 に 関 わ らず,す べ て の 群 で 好 き嫌 い の 程 度 が 低 下 し 改 善 が み ら れ た(P<.05).そ の 他,夕 食 の 孤 食 の 頻 度 は,A群 お よ びB・D群 す な わ ち 福 祉 専 攻 男 子 で 改 善 傾 向 が み られ た(表5).民 族 衛 生 第72巻 第3号2006年5月 107 図1 BMIの1年 後 の 変 化 注)A:栄 養 専 攻 履 修 群 女,B・C:福 祉 専 攻 履 修 群 男 ・女,D・E:福 祉 専 攻 未 履 修 群 男 ・女 *p<.05 図2バ ラ ン ス ス コ ア の1年 後 の 変 化 注)A:栄 養 専 攻 履 修 群 女,B・C:福 祉 専 攻 履 修 群 男 ・女 ,D・E=福 祉 専 攻 未 履 修 群 男 ・女 *pく.05**p<.01***p< .001
108 民 族衛 生 第72巻 第3号2006年5月 表5 バ ラ ン スス コ ア ・食生 態 ス コア にお ける下 位 尺度 得 点 の 入学 時 と1年 後 の 比較
注)A:栄 養専攻 履修群,B・C:福 祉専攻 履修群 男 ・女,D・E:福 祉 専攻未 履修群 男 ・女 p値:ウ ィル コク ソン符号付 順位和検 定 に よる入 学時 と1年 後 の比較 結果
民 族 衛生 第72巻 第3号2006年5月 109 表6 身体 活 動,食 環 境,主 観 的 指標 の 入 学時 と1年 後 の比 較
注)A:栄 養 専 攻 履 修 群 女,B・C:福 祉 専 攻 履 修 群 男 ・女,D・E福 祉 専 攻 未 履 修 群 男 ・女 p値:ウ ィ ル コ ク ソ ン符 号付 順 位 和 検 定 に よ る入 学 時 と1年 後 の比 較 結 果
llO 民 族衛 生 第72巻 第3号2006年5月 図3 食 生 態 ス コ ア の1年 後 の 変 化 注)A=栄 養 専 攻 履 修 群 女,B・C:福 祉 専 攻 履 修 群 男 ・女,D・E二 福 祉 専 攻 未 履 修 群 男 ・女 *p<.05**p<.01 図4 GHQ28総 得 点 の1年 後 の 変 化 注)A:栄 養 専 攻 履 修 群 女,B・C:福 祉 専 攻 履 修 群 男 ・女,D・E:福 祉 専 攻 未 履 群 修 男 ・女 *p<.05,**p<.01,***p<.001
民族 衛 生 第72巻 第3号2006年5月 111 生 活 活 動 強 度 に つ い て は,入 学 時 は,す べ て の 群 で1(低 い)が7割 以 上 を 占 め て い た が,1年 後, 専 攻 ・性 別 に 関 わ ら ず 履 修 群 は す べ て1(低 い)が 50%を 下 回 り,顕 著 に 改 善 し た(p<.05).一 方, DとE,す な わ ち 未 履 修 群 で は 改 善 は み ら れ な か っ た(表6).簡 易 生 活 活 動 強 度 の 算 出 の 要 件 で あ る 睡 眠 時 間 が1年 後 に 有 意 に 増 加 した の は,A とC,す な わ ち 履 修 群 の 女 子 で あ っ た.こ れ に よ っ て 入 学 時,い ず れ の 群 に お い て も睡 眠 時 間 の7時 間 未 満 者 は7割 を超 え て い た が,履 修 群 女 子 で は, A群 は70.7%か ら54.9%に,C群 は70.8%か ら 45.8%と 顕 著 な 改 善 が み られ た(p<.05). 3.食 環 境 食 物 お よび 隋 報 へ の ア ク セ ス の1年 後 の 変 化 を 表6に 示 した.「メ ニ ュ ー を 決 め る」に つ い て,B・ C群 と も に 頻 度 が 多 く な っ た(p<.05).「 後 片 付 け 」に つ い て はAとC群,す な わ ち専 攻 に 関 わ ら ず 履 修 群 女 子 で,そ の 頻 度 が 多 くな り,向 上 が み られ た(p<.01).「 買 い 物 」お よび 「調 理 」に つ い て は,い ず れ の 群 も入 学 時 と1年 後 で 有 意 な 差 は み ら れ な か っ た.「情 報 源 の 活 用 」 は 履 修 群 す べ て に 有 意 な 増 加 が み ら れ た(p<.05).「 栄 養 成 分 表 示 の 活 用 」につ い て は,A群 とB群 で,そ の 頻 度 が 有 意 に増 加 した(p<.05). 4.食 へ の 興 味 ・関 心 食 へ の 興 味 ・関心 は,履 修 群 で はA群 とB群 で 顕 著 に 向 上 した が(P<.05),DとE群,す な わ ち 未 履 修 群 で は,有 意 な 差 は み られ な か っ た(表6). 5.健 康 度 自 己 評 価 「健 康 度 自 己 評 価 」は 表6の とお り,未 履 修 群 で は入 学 時 と1年 後 で 変 化 は み られ な か っ た の に 対 し,A・B・C群,す な わ ち 履 修 群 は専 攻 ・性 別 に 関 わ らず,い ず れ も 「あ ま り思 わ な い 」 を 含 め て 「健 康 で は な い 」 と い う 評 価 が 有 意 に 増 加 し た (p<.05). 6.精 神 的 健 康 度 GHQ総 得 点 の 入 学 時 と1年 後 の 変 化 を 図4に, また,4つ の 下 位 尺 度 得 点 の1年 後 の 変 化 を 図5-1∼4に 示 した.GHQ28得 点 は,前 述 の とお りス コ ア が 小 さ い ほ ど 良 好 で あ る 事 を 示 す.下 位 尺 度 得 点 の う ち,入 学 時 調 査 で 顕 著 に 悪 か っ た社 会 的 活 動 障 害 に つ い て,A・B・C群,す な わ ち履 修 群 は 専 攻 ・性 別 に 関 わ らず す べ て で 得 点 が 低 下 し改 善 さ れ た が(p<.01),D・E群 で は 非 適 正 者 が 多 い ま ま変 化 は な く,そ の 結 果,総 得 点 はA・B・C群 は い ず れ も低 下 し良 好 に な っ た が(p<.05),E群 は 悪 化 し た(p<.01).さ ら にB群 は 「不 安 と不 眠 」に お い て も得 点 が 低 下 し,有 意 な 改 善 が み ら れ た (p<.05). Ⅳ 考 察 集 団 と し て の 講 義 ・実 習 はBMIが 極 端 に 低 い 者 に と っ て そ の 適 正 化 が み ら れ た が,全 体 と し て は 効 果 が 認 め られ な か っ た.A群 は,履 修 を とお して 「や せ 志 向 」に わ ず か な が ら改 善 が み ら れ た. 未 履 修 のE群 で は,入 学 時 と比 較 し て 「や せ 」「ふ つ う」 を含 め て ほ と ん ど の 学 生 のBMIが 低 下 し た.こ れ に つ い て は,E群 は 栄 養 ・調 理 関 連 講 義 実 習 が カ リ キ ュ ラ ム 上 に な い た め,適 正 体 重 と そ れ を 維 持 す る 食 に つ い て の知 識 ・意 識 が 不 足 して お り,「や せ 志 向 」を 持 っ た もの と 考 え られ る. 青 年 期 女 子 に 「や せ 志 向 」 が あ る こ と は多 くの 報 告 が な さ れ て い る(相 川 ほ か,2001;赤 松 ・島 井, 2001;岸 田 ・上 村,2002).平 成14年 厚 生 労 働 省 国 民 栄 養 調 査 に お い て,20歳 代 女 子 のBMI18.5 未 満 は26.0%で あ っ た.自 分 の 体 型 に対 す る 自 己 評 価 は,男 性 で 適 正 に把 握 して い る 者 が 多 い の に 対 し,女 性 で は 現 実 の 体 型 が 「普 通 」 で あ る に も か か わ らず,「太 っ て い る 」 と 自 己評 価 して い る者 は15∼19歳 で70.9%,20歳 代 で は66.7%と 多 か っ た.さ ら に15∼19歳 に つ い て は 「や せ て い る」 に も か か わ らず 「普 通 」 と 自 己 評 価 し て い る 者 が 56.4%も み られ,こ の 傾 向 も ま た 増 加 の 一 途 を た ど っ て い る.津 田 ほ か(2002)は 低 体 重 児 出 産 婦 に はBMI19.5未 満 者 が 多 く,ダ イ エ ッ ト経 験 が
112 民 族衛 生 第72巻 第3号2006年5月 図5-1 身 体 的症 状 の 変 化 図5-2 不 安 と不 眠 の 変 化 図5-3 社 会 的 活 動 障 害 の 変 化 図5-4 うつ 傾 向 の 変 化 図5 精 神 的 健 康 度 下 位 尺 度 得 点 の1年 後 の 変 化 注)A:栄 養 専 攻 履 修 群 女n=82,B・C:福 祉 専 攻 履 修 群 男n=25・ 女n=19,D・E:福 祉 専 攻 未 履 修 群 男n=19・ 女n=23 *p<.05,**p<.01
民 族衛 生 第72巻 第3号2006年5月 113 は,フ ァ ッ シ ョ ン業 界 や マ ス メ デ ィ ア に も 責 任 の 一 端 が あ る と述 べ て い る.イ ギ リス保 健 省 で は フ ァ ッ シ ョ ンモ デ ル の 体 格 向 上 を 促 す 自主 規 制 の 制 定 を 求 め た 「ボ デ ィ ・イ メ ー ジ ・サ ミ ッ ト」 に お い て,フ ァ ッ シ ョ ン業 界 が 現 実 社 会 か ら乖 離 し て い る と警 告 して い る.正 し い体 型 認 識 の 普 及 の た め に は,「栄 養 」「調 理 」 に 関 す る 狭 義 の カ リ キ ュ ラ ム か ら 「文 化 」「行 動 」 な ど人 間 生 活 全 体 に,食 の パ ラ ダ イ ム を 拡 大 し て 再 考 す る こ と が 望 ま し い.カ リ キ ュ ラ ム 上 の 栄 養 ・調 理 関 連 講 義,実 習 を とお し て,適 正 体 重 を 維 持 す る た め の 保 健 指 導 を専 門 職 養 成 校 学 生 に対 し て行 う こ との 社 会 的 意 義 は 大 き い.Schwartz et a1.(1991)も 健 康 教 育 を 実 施 す る者 の 生 活 習 慣 の 是 非 は 健 康 教 育 の 効 果 に 影 響 す る と して い る.ま た,職 業 意 識 の 向 上 や 学 生 の 自立 学 習 効 果 とい う視 点 か ら も,専 門 職 養 成 校 に お け る こ れ らの 健 康 教 育 は 必 須 で あ る と思 わ れ る. 栄 養 バ ラ ンス に 関 して は,栄 養 講 義 ・実 習 の 履 修 を し たA・B・C群 は い ず れ も 「緑 黄 色 野 菜 」 「そ の 他 の 野 菜 」「果 物 」な ど,ビ タ ミ ン類 や 食 物 繊 維 の 給 源 の 摂 取 頻 度 が 増 加 し,そ の 結 果,バ ラ ン ス ス コ ア に改 善 が み られ た.こ れ につ い て は,栄 養 関 連 講 義 を と お し て 微 量 栄 養 素 の 給 源 を 適 量 摂 取 す る 重 要 性 が 理 解 さ れ た こ と,調 理 実 習 を通 し て 野 菜 ・果 物 の皮 む き,下 処 理 を 苦 な くで き る よ う に な っ た た め と考 え ら れ る.油 脂 類 も あ わ せ て 摂 取 頻 度 が 増 加 し た こ と は 脂 溶 性 ビ タ ミ ンの 吸 収 の 観 点 か ら非 常 に 有 意 義 で あ る.「主 食 」 の 摂 取 頻 度 はA群 とD群 が 低 下 し た.カ リ キ ュ ラ ム で 主 食 の 適 正 量 を 学 習 し て い る に も 関 わ ら ずA群 が 低 下 した 理 由 と し て,ア ル バ イ トを し て い る学 生 が 入 学 時37.8%か ら63。4%と 急 増 した こ と で,帰 宅 時 間 の 遅 延 に 伴 い,夕 食 の 時 間 も遅 くな り主 食 を摂 らず に 調 整 し て い る の で は な い か と 考 え られ た.実 際 に ア ル バ イ トの 有 無 と主 食 の 摂 取 頻 度 の 関 連 を み る と,ア ル バ イ トを して い る学 生 の 主 食 の 摂 取 頻 度 は 少 な い 傾 向 が 認 め られ た. 一 方,本 調 査 の 結 果 か ら は,欠 食,中 食,速 食 い な ど の 食 行 動 お よ びBMIに つ い て 集 団 に お け る 講 義 ・実 習 で は 変 化 が み ら れ な か っ た.規 則 性 に つ い て は 逆 に低 下 も見 受 け られ た.「欠 食 」 は, 特 に朝 食 が 問 題 で,学 業 成 績 や 出 席 率 不 良 と の 関 連 が 報 告 さ れ て い る(香 川 ほ か,1980)た め,栄 養 教 育 上,最 優 先 課 題 で あ る と 考 え ら れ る。 Kaplan(2000)に よ る と,行 動 科 学 を用 い た 栄 養 教 育 は 特 に 第 一 次 予 防 で 有 効 で あ る こ とか ら,カ ウ ン セ リ ン グ手 法 を用 い た 個 別 指 導 の 導 入 が 実 現 で き れ ば,学 生 の 行 動 変 容 が 期 待 で き る. 食 生 活 指 針(文 部 省 ・厚 生 省 ・農 林 水 産 省, 2000)で は,第 一 に 「食 事 を 楽 しみ ま し ょ う」 と い う項 目 が 掲 げ ら れ て お り,食 事 を味 わ っ て 楽 し く食 べ る こ と はQOL向 上 の 観 点 か ら も 重 要 で あ る.履 修 群 で は,「食 事 を 楽 しい と感 じる 」 す な わ ち,食 へ の 興 味 ・関 心 度 が 向 上 した.前 述 の 食 生 活 指 針 の 「食 事 を 楽 しみ ま し ょ う」 とい う 項 目で は}家 族 や 仲 間 な ど人 との コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン を 図 る こ とや 食 事 づ く りに 参 加 し て,食 生 活 に 関 す る 知 識 や技 術 を 身 に つ け な が ら 美 味 しい 食 事 を 準 備 す る こ と で 一 層,楽 しみ が 深 ま る と さ れ て い る. 食 生 態 ス コ ア の 下 位 尺 度 の 「夕 食 の 団 欒 」 と は, ま さ し く他 者 と の コ ミュ ニ ケ ー シ ョ ン を通 し て 情 緒 的 サ ポ ー トが 得 ら れ る好 機 で あ る.こ れ につ い て は,未 履 修 で あ るD・E群 は 変 化 が な く,履 修 群 のA・B群 で 有 意 に増 加 した.し か し}同 じ福 祉 専 攻 履 修 群 で あ るC群 は 大 き な 変 化 は み ら れ な か っ た.こ の 理 由 に つ い て,B群 は 居 住 形 態,ア ル バ イ トの 有 無 に 変 化 は な い の で,共 食 者 を含 め て 今 後 詳 細 な調 査 が 必 要 で あ る.栄 養 素 の バ ラ ン ス 面 や 心 理 的 効 果 を 考 え,充 実 し た 昼 食 が 摂 れ る よ う に 学 生 食 堂 の 設 置,昼 食 時 間 の 充 分 な確 保 な ど学 校 側 の 生 活 環境 の 整 備 も 不 可 欠 で あ る. 食 物 へ の ア ク セ ス につ い て は 「メ ニ ュ ー を 決 め る」「生 鮮 食 品 の 買 い 物 」「調 理 」「後 片 付 け 」 と細 か い 行 動 に 分 け て み る と 「メ ニ ュ ー を決 め る 」「後 片 付 け 」 に つ い て は 改 善 が み られ た 。 食 材 料 の 買 い 物 や 調 理 の 実 践 ま で は,で きな くて も食 事 の 準 備 や 後 片 付 け へ の 意 識 付 け は 向 上 した とい え る.こ れ に つ い て は,講 義 で 必 要 性 を知 識 と し て 習 得 し た だ け で は な く,実 習 を と お し て 基 本 的 な 技 術 を
114 民 族衛 生 第72巻 第3号2006年5月 獲 得 し,自 己 効 力 感 が 高 ま っ た と考 え られ,一 つ の教 育 効 果 の 現 出 と推 測 で き る.こ の こ と か ら, 学 校 に お け る 健 康 教 育 は で き る こ と か ら は じめ, で き た こ と を ス テ ッ プ ご と に 細 か くフ ィ ー ドバ ッ ク し,自 己効 力 感 を高 め な が ら,徐 々 に行 動 を増 加 させ て い く分 化 強 化 に よ る シ ェ イ ビ ン グ が 有 用 で あ る と考 え ら れ た. 「情 報 源 の 活 用 」や 「栄 養 成 分 表 示 の 活 用 」 に つ い て も履 修 群 で の 増 加 が 確 認 で き た.特 に,栄 養 関 連 講 義 ・実 習 を と お し て,栄 養 素 や そ の 働 き に 関 心 が 高 ま っ た た め と 推 察 さ れ る.西 尾 ・足 立 (1999)の 高 校 生 を 対 象 と した 調 査 で も栄 養 成 分 表 示 利 用 に正 の 影 響 を 及 ぼす の は,栄 養 成 分 表 示 に 対 す る 「関 心 」で あ り,負 の 影 響 を 及 ぼ す の は 「め ん ど う くさ さ」で あ っ た.計 画 的 行 動 理 論(Ajzen, 1988)で は,「や る気 」 向上 の 要 件 が ポ ジ テ ィ ヴ な 気 持 ち を持 つ こ と,周 りか ら の 期 待 に 従 お う とす る こ と,そ の 行 動 が 簡 単 だ と思 う こ とが あ げ られ て い る こ とか ら も,履 修 を と お し て 食 ・健 康 情 報 へ の ア ク セ シ ビ リ テ ィが 高 ま る こ とで 自 己 効 力 感 も高 め る こ と が 期 待 で き る.専 門 職 養 成 校 に お け る生 活 環 境 お よび 食 環 境 整 備 課 題 と し て,学 生 食 堂 ・売 店 な ど の 設 置,そ こで の 栄 養 管 理 され た 食 事,す な わ ち ヘ ル シ ー メ ユ ー の 提 供,そ れ に付 帯 し て健 康 ・栄 養 の 知 識 に 関 す る 適 切 な情 報 提 供 が あ げ られ る.し か し,専 門 職 養 成 校 に お い て は, 食 育 を担 当 す る 専 門 家 は 配 置 され て い な い の が 現 状 で あ る.そ こで,食 生 活 改 善 推 進 員 な ど地 域 の 人 的 資 源 の 活 用 や,健 康 教 育 に 関 わ る専 門 家 間 の 連 携 が 求 め ら れ る.具 体 的 に は,学 校 保 健 関 係 者 が 専 門 協 議 会 な ど を と お し て 自主 グ ル ー プ を 組 織 し,学 習 や 活 動 を促 進 す る 「場 」 の 増 加 を 図 り, 食 環 境 整 備 を 共 同 で 実 施 し て い く こ と が 必 要 で あ る と考 え ら れ た. 特 に 国 民 的 課 題 と も い え る 若 年 女 性 のBMI低 値 の 改 善 が 急 務 で あ る.Dipietro et al.(1992)は, や せ 願 望 か らBMI高 値 者 ほ ど 「た くさ ん 食 べ る」 と精 神 的 健 康 度 が 下 が る こ と,抑 うつ 傾 向 に あ る ほ うが10年 後 の 体 重 増 加 が 特 に 男 性 に 大 き く,精 神 的 健 康 自体 が 体 重 増 加 の 独 立 した 因 子 で あ る こ と な ど,肥 満 との 関 連 を 報 告 して い る.し か し, や せ と精 神 的健 康 度 の 関 連 に つ い て の 報 告 は み ら れ な い.カ ウ ン セ リ ン グ 手 法 を取 り入 れ た 個 別 教 育 や 長 期 的 な 集 団教 育 の 効 果 な ど,教 育 方 法 の 検 討 に 加 え,BMIの 分 類,「や せ 」「ふ つ う」「肥 満 」別 に 食 行 動 と精 神 的健 康 度 と の 関 連 を 今 後 継 続 し て 調 査 して い く こ とが 必 要 で あ る.本 研 究 で は,健 康 度 自 己 評 価 は,未 履 修 群 で は変 化 が な か っ た の に 対 して,履 修 群 で は 両 学 科 と も入 学 時 よ り低 下 した 者 が 有 意 に多 か っ た.白 澤 ・寺 田(2005)は, 自 覚 的健 康 感 と 身 体 的 健 康,さ らに 運 動 習 慣,規 則 正 しい 食 事 が 大 き く関 与 す る と報 告 し て い る. 本 研 究 の 履 修 群 で1年 後 の健 康 度 自 己 評 価 が 低 下 したA群 27・B群 14・C群8,合 計49名 の 「GHQ総 合 得 点 」お よ び 「身 体 症 状 」 と 「生 活 活 動 強 度 」「食 事 の 規 則 性 」 につ い て解 析 した 結 果,こ れ ら の 指 標 に 有 意 な低 下 は み られ な か っ た.健 康 度 自 己 評 価 は,主 観 的 尺 度 で あ る た め 精 神 面 が 大 き く関 与 した も の と推 察 さ れ る が,履 修 群 のGHQ 28は 良 好 に な っ て い る.Frederick et a1.(1988)は 精 神 的 不 健 康 と不 適 切 な健 康 習 慣 問 に は 自 尊 感 情 (Selfesteem)の 低 さ,不 適 切 な対 処 行 動 の介 在 も 指 摘 して い る.健 康 度 自 己 評 価 の 高 低 の 主 効 果 と 考 え られ る 指 標 に 低 下 は み ら れ な い の に も関 わ ら ず,自 己 評 価 だ け が 有 意 に 低 下 し た こ と は,健 康 に 対 す る知 識 の 増 加 に よ り,適 切 な 判 断 が 可 能 に な っ た た め 自 己 評 価 が 厳 し くな り,そ れ に 伴 い 一 時 的 に 自 尊 感 情 が 低 く な っ た と 考 え ら れ る.杉 澤 ・杉 澤(1995)も ま た,米 国研 究 の 総 説 で は, 健 康 度 自 己 評 価 は 医 学 的 ・客 観 的 な 健 康 指 標 の 代 替 と し て の 妥 当 性 は低 い 一 方 で,精 神 的 ・社 会 的 な要 因 を含 む 包 括 的 な 健 康 指 標 で あ る と 評 価 して い る.社 会 的 活 動 障 害 に つ い て はA・B・C履 修 群 す べ て で 入 学 時 よ り良 好 と な っ た が,こ れ に つ い て は,専 門教 育 全 般 に よ っ て 意 志 決 定 ・問 題 解 決 能 力 が 向 上 した た め と考 え られ る.そ の 結 果, GHQの 総 得 点 は 履 修 群 す べ て で 改 善 した 一 方 で, 未 履 修 群 のE群 女 子 は す べ て の 下 位 尺 度 に 悪 化 傾 向 が み られ,特 に 「不 安 と不 眠 」 が 有 意 に 悪 化 した.履 修 群 す べ て でGHQ総 合 点 が 良 好 に な っ
民族 衛 生 第72巻 第3号2006年5月 115 た こ と は,特 に 実 習 を と お し て 教 員 と学 生 の コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン が と りや す く,学 生 の価 値 観 や 習 得 レベ ル に あ わせ た 適 切 な 言 葉 か け や 情 緒 的 サ ポ ー トが 行 い や す い教 育 環 境 に あ る こ と が 一 因 と 考 え られ る.し か し,先 行 研 究 の 青 年 期 の 判 別 臨 界 点 で あ る11/12と 比 較 す る と,ま だ 改 善 を要 す る 学 生 も多 い.同 一 対 象 者 の 入 学 時 調 査 で,GHQ 総 得 点 に 負 の 影 響 を お よ ぼ す 要 因 は 「欠 食 傾 向 が 高 い 」「食 物 へ の ア ク セ シ ビ リ テ ィが 低 い 」「睡 眠 不 足 」「夕 食 の 団 欒 が な い 」 で あ っ た(佐 藤 ほ か, 2003).こ の う ち,「睡 眠 不 足 」に 関 して は,A・B・ C履 修 群 で は 改 善 して い る.「健 康 づ く りの た め の 睡 眠 指 針 」(厚生 労 働 省,2003年)で は,快 適 な 睡 眠 の た め に 「定 期 的 な 運 動 習 慣 」「朝 食 の 重 要 性 」 「夜 食 は ご く軽 く」を 挙 げ て い る.前 述 の とお り, 定 期 的 な 運 動 は 履 修 群 す べ て で 増 加 し て い る の で 快 眠 と精 神 的 健 康 度 の さ ら な る 改 善 の た め に も朝 食 に つ い て の 指 導 は 最 優 先 課 題 で あ る こ とが 示 唆 され た. 以 上 の こ とか ら,専 門 職 養 成 校 に お い て は,特 に 健 康 教 育 に 関 わ る職 業 人 を育 成 す る専 攻 課 程 で は,カ リ キ ュ ラ ム 上 の 栄 養 ・調 理 関 連 講 義,実 習 を 集 団 の 健 康 教 育 と して 活 用 で きる と考 え られ, す べ て の 専 攻 課 程 に こ れ を取 り入 れ る こ と は 有 効 で あ る と思 わ れ る.今 後 は,講 義 内 容 の 見 直 し を 図 る と と も に,学 生 の 教 科 目標 を短 期 ・中 期 ・最 終 目標 と細 分 化 し,そ の 達 成 度 の 評 価 法 を 検 討 し, 適 切 な 生 活 習 慣 へ 改 善 さ せ る こ とが 必 要 で あ る. Ⅴ 本 研 究 の 限 界 と今 後 の 課 題 第 一 に本 研 究 の 対 象 は,札 幌 市 内 の 大 学1学 科 (管理 栄 養 士 専 攻)と 福 祉 専 門 学 校2学 科 に お け る 調 査 で あ り,全 国 の 専 門 職 養 成 校 を代 表 す る もの で は な い.ま た,栄 養 学 専 攻 学 生 は,元 来 「食 へ の 関 心 」 が 高 い こ とが 考 え られ る.し た が っ て, 対 象 と な っ た 学 生 の 学 力 や 資 質 に 影 響 され る 点 も あ る と思 わ れ る の で,今 後,代 表 性 を考 慮 しつ つ, 例 数 を増 や して 継 続 し て 検 討 を して い きた い. 第 二 に 部 活 動,サ ー ク ル,学 校 の 講 義 ・実 習 の 負 担 度 な どが 健 康 行 動 や 精 神 的 健 康 度 に 複 雑 に 影
響 して い る可 能性 が あるが,こ れ らにつ いて 十分
な検 討が で きて いない.第 三 に本研 究 は,専 門職
養成校 学 生 を対 象 としてい るが,彼 らの就 業意 識
につ い ては検討 を して いな い.第 四 に,前 後 比較
調査 であ り,効 果 の持続性,習 慣化 につい て は今
後 の 追跡調 査 の結果 を待 た なけれ ば な らない.
Ⅵ結
語
札 幌 市 内の専 門職養 成校 を対 象 にBMI,精
神 的
健康 お よび健 康 習 慣 に対 す る栄 養 ・調 理 関 連 講
義,実 習の履 修効 果 を専 攻 学科 別,履 修状 況別 お
よび性別 に比 較検 討 した.
専 門職養 成校 にお ける栄養 ・調 理 関連講 義,実
習 の履 修 を通 して1年 後 に は,栄 養 バ ランスや 身
体活動
食 物 やそ の情報 へ のア クセス,食 へ の興
味 ・関心,社 会 活動 等が 向上 した.一 方,BMI,
食行動 には履修 前後 で顕 著 な変 化 はみ られ なか っ
た.
今後 は,項 目の習慣 化 につ いて追 跡調査 して い
きた い.ま た,カ ウ ンセ リング手法 を取 り入 れ た
個 別教 育 また は長 期 的な集 団教 育の 結果 を基 に,
栄養 ・調 理 関連講 義,実 習 の教 育内容 ・方法 や教
科 目標 の達成 度 の評価 な どを検討 して,学 生 の生
活 習慣 の適 正 化 に貢 献 して い く こ とが 必 要 で あ
る.
文 献 相川 りゑ 子,彦 坂令 子,近 藤 恵 久 子 ほ か(2001):女 子 大 生 の 栄 養 摂 取 と生 活 時 間― か くれ 肥 満 傾 向 者 の 食 物 摂取 と生 活状 況,栄 養 学 雑 誌59(3),147-155 浦原 聖 可(2003):産 む世 代 の やせ が もた らす もの,助 産 雑 誌57(9),25-30 赤 松 利 恵,島 井哲 志(2001):青 年期 女 性 の ダイエ ッ ト 行 動 に お け る変容 段 階 と心 理 的 要 因 の 関係,日 公 衛 誌48(5),395-401 池 田順子,東 あ か ね,永 田久 紀(1995):食 品群 摂 取 頻 度 調 査 結 果 の ス コア 化 に よ る評 価 の 妥 当 性 につ い て,日 公 衛 誌42(10).829-842Ajzen 1(1985): From intentions to actions : A theory
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