はじめに
近年脳虚血後に生じる炎症反応・免疫応答が,虚血 性脳損傷を修飾する重要な因子として注目されてい る.損傷脳組織では,内在性のミクログリアの活性化 とともに血液由来炎症細胞の浸潤が生じるが,これら の炎症応答細胞からは,種々の炎症関連メディエー ターが放出され,炎症性シグナルカスケードによる脳 浮腫の増悪やペナンブラ領域の細胞死をもたらし,二 次的な脳梗塞巣の拡大へとつながることが明らかにさ れている1).近年の免疫学的研究法の発達に伴い,ミ クログリア/マクロファージとともに T 細胞が脳虚血 において重要な役割を果たしていることが示唆されて いる.本論では,脳虚血後の病態における炎症反応・ 免疫応答の果たす役割と,新規治療薬の開発に向けた 展望について我々の成績を含めて概説する.脳梗塞と DAMPs
一般的な感染症に伴って炎症反応が惹起される場合 には,細菌やウイルスなどの微生物の構成成分の一部 を 病 原 体 関 連 分 子 パ タ ー ン(pathogen-associated molecular patterns: PAMPs) として認識する機構が存在 する.非感染性の組織傷害においても,同様に損傷組 織成分を danger signal として認識する機構が存在する ことが近年明らかになり,ダメージ関連分子パターン (damage-associated molecular patterns: DAMPs)として注 目 さ れ て い る. 脳 に お い て は, こ れ ま で に high mobility group box-1(HMGB-1)やミトコンドリア DNA等が DAMPs として作用する可能性が報告され2, 3),
Toll様受容体(Toll-like receptor: TLR)や終末糖化産物 受容体(receptor for advanced glycation end-product:
RAGE)などの受容体により認識されている(図 1)4). 中でも HMGB-1 は早期から注目された DAMPs であ り,虚血侵襲後 2∼4 時間頃のごく早期に細胞外への 放出が認められ,血液脳関門の破綻に寄与するとさ れ,超急性期の DAMPs としての重要性が示唆されて いる5). 我 々 は 最 近 新 た に ペ ル オ キ シ レ ド キ シ ン 福岡歯科大学総合医学講座内科学分野 〒 814-0193 福岡市早良区田村 2-15-1 TEL: 092-801-0411 FAX: 092-801-0497 E-mail: [email protected] doi: 10.16977/cbfm.27.2_259
自然免疫を標的とした脳梗塞治療
大星 博明
要 旨 近年脳虚血後に生じる炎症反応・免疫応答が,虚血性脳損傷を修飾する重要な因子として注目されている. 損傷脳組織から放出される HMGB-1 やヌクレオチドなどのダメージ関連分子パターン(DAMPs)は,Toll 様受 容体(TLR)等を介して炎症応答細胞を活性化し,炎症性シグナルカスケードによる脳浮腫の増悪やペナンブラ 領域の細胞死をもたらし,二次的な脳梗塞巣の拡大へとつながる.我々は最近脳虚血における新たな DAMPs としてペルオキシレドキシンが TLR2 や TLR4 を介して浸潤マクロファージを活性化することを明らかにし た.また,脳虚血後の炎症反応において,活性化されたマクロファージがインターロイキン-23(IL-23)を放出 し,γδT 細胞を活性化して IL-17 を産生させ,二次的な脳梗塞の増大に寄与することも明らかにしている.脳 虚血後に生じる自然免疫を中心とした反応をさらに解明することによって therapeutic window の広い脳保護療 法へと発展することが期待される. (脳循環代謝 27:259∼263,2016) キーワード : 自然免疫,ダメージ関連分子パターン,ペルオキシレドキシン,Toll 様受容体,インターロイキン-23(peroxiredoxin: Prx)が脳虚血後の DAMPs として浸潤 マクロファージに作用し,炎症性サイトカインの放出 反応をもたらすことを発見した6, 7).Prx には 6 種の ファミリーが存在し,脳に豊富に存在する.Prx1∼ Prx5には 2 つの,Prx6 には 1 つのシステイン残基が 存在し,抗酸化作用を発揮する.チオレドキシンとと もに過酸化水素を中和することから,以前はチオレド キシンペルオキシダーゼとも呼ばれており,種々の組 織損傷によって発現が亢進し活性酸素の減少に寄与す るため,細胞保護的に働くと考えられてきた.また, 脳梗塞患者の髄液で Prx が増加することも報告されて いた.しかしながら,我々は新たに Prx が DAMPs と して作用すること,すなわち,細胞損傷が進行した場 合には Prx が細胞外へ放出され,TLR のうち,TLR2 および TLR4 を介して,マクロファージなどの免疫担 当 細 胞 を 活 性 化 す る こ と を 明 ら か に し た(図 2). HMGB-1と比較して,Prx の発現亢進は遅く,免疫組 織染色では虚血 1 日後にピークを迎え,4 日後に消失 する.我々の検討では,Prx に対する中和抗体の投与 や遺伝子改変による除去によって,炎症細胞浸潤と炎 症性サイトカインの発現は著明に抑制され,脳梗塞を 縮小した.Prx の発現亢進・放出は脳虚血後比較的遅 い時期に生じるため,Prx を標的にした治療は thera-peutic time windowの広い治療法として開発出来る可能 性がある.
脳梗塞における免疫応答細胞
従来脳梗塞病巣に浸潤して炎症反応を開始するのは ミクログリアやマクロファージとされてきたが,両者 の鑑別が厳密に行われておらず,それぞれの役割は十 分解明されていない.ミクログリア/マクロファージ の浸潤は脳虚血後 12 時間には認められ,そのピーク は 3 日後にみられる.これらの細胞の浸潤を誘導する MCP-1を抑制する治療などによって,脳虚血による損 傷が軽減することから8),これらの浸潤細胞から放出 される インターロイキン-1β(IL-1β)などの炎症性サイ トカインを介して炎症のカスケードを進行させると考 えられてきた. 一方,長らく脳梗塞の病態におけるリンパ球の役割 は注目されておらず,白血球の中では好中球による傷 害が主に検討されていた.近年になり,RAG 欠損マ ウスや SCID マウスなどのリンパ球除去モデルで脳梗 塞が縮小することが報告され,また,B 細胞よりも T 細胞がより重要であることが示唆された9).従来 T 細 胞は獲得免疫での作用が中心と考えられ,脳梗塞急性 期での役割は少ないと考えられていたが,Becker ら は,感染症を合併した脳梗塞急性期例では,ミエリン 蛋白への感作を生じて予後が悪くなることや,同蛋白 への耐性を獲得させた動物で脳梗塞が縮小することを 報告し,獲得免疫が関与する可能性を示唆してい る10).また,抑制性 T 細胞 (regulatory T cell: Treg) か ら放出される抑制性サイトカイン,IL-10 の脳保護作 用も示されている11, 12).但し,Treg の作用を増強させ ると微小血栓を生じて組織傷害が増強する可能性も最 近では報告されており13),さらなる検討が必要で ある.自然免疫を標的とした脳梗塞治療の可能性
我々は最近自然免疫での作用が注目されている γδT 細 胞 が 脳 梗 塞 増 大 に 関 与 す る こ と を 明 ら か に し ヘパラン硫酸 エンドゾーム Prx 図 1.脳梗塞における DAMPs と TLR 脳虚血により細胞外に放出された HMGB-1 や HSP,Prx,ヘパラン硫酸などの DAMPsは Toll 様受容体(Toll-like receptor: TLR)2 および TLR4 を,mRNA 複合 体は TLR3 を,DNA 複合体は TLR9 をそれぞれ活性化する.下流のアダプター 分子としては,TLR3 は TRIF を,それ以外は MyD88 を介して,インターロイ キン-1 受容体関連キナーゼ(interleukin-1 receptor-associated kinase: IRAK)と複合 体を形成するなどして,炎症シグナルを活性化する.文献 4 より改変引用.た14, 15).IL-23 や IL-17 の欠損マウスを用いた検討で, IL-23は発症早期からの脳梗塞巣の形成に,IL-17 は発 症 1 日以降の脳梗塞増大に寄与していた図 3).興味深 いことに,脳虚血 1 日後にピークを迎える IL-23 の産 生源は,ミクログリアではなく浸潤マクロファージで あった.実験的脳炎モデルでは CD4 陽性の Th17 細胞 血管 マクロファージ 血管漏出 瀕死の 細胞 マクロファージ ミクログリア PMN 炎症性傷害 γδT細胞
脳梗塞
抗酸化性 Prx 図 2.脳梗塞の増悪機構における Prx と下流シグナル 脳虚血侵襲により放出されたペルオキシレドキシン(peroxiredoxin: Prx)は浸潤マクロファージの TLR2 およ び TLR4 を介して IL-1β や IL-23 などの炎症性サイトカインの放出をもたらす.また,IL-23 は γδT 細胞を活 性化して IL-17 を放出させることで,さらに IL-1 などの炎症性サイトカインの放出をもたらし,ペナンブラ 領域の二次的組織障害を引き起こす.文献 6 より改変引用. *: P<0.05、**: P<0.01 vs wild type WT 図 3.IL-23/IL-17 と脳梗塞 野生型(WT)動物では脳梗塞発症 1 日後と比較して,4 日後にさらに梗塞巣が拡大したが,インターロイキン-17 (IL-17)欠損(KO)動物では,その拡大が抑制された.また,インターフェロン-γ(IFN-γ)欠損動物では有意な差は認めなかっ たが,IL-23 欠損動物では発症 1 日後から梗塞巣縮小効果がみられた.文献 15 より改変引用.の重要性が注目されているが,我々の脳虚血の検討で は,浸潤マクロファージからの IL-23 によって IL-17 を放出するのは,Th17 細胞ではなく γδT 細胞による ものであった.IL-6 と TGF-β の刺激による分化の過 程が必要な Th17 細胞ではなく,IL-1β と IL-23 からの 刺激のみで直接 IL-17 を産生できる γδT 細胞が脳梗塞 の急性期に作用していたことは,脳梗塞急性期におけ る自然免疫の重要性を示唆している.γδT 細胞に対す る中和抗体は脳虚血 24 時間後に投与しても脳梗塞縮 小効果を示しており,自然免疫を対象とするアプロー チが有望であることを示している16).
おわりに
種々の疾患における免疫学的研究の発展とともに, 脳梗塞における炎症反応・免疫応答の解明も進んでい る.Prx などの DAMPs は,そのセンサーである TLR などを介して,免疫担当細胞を活性化し,ペナンブラ 領域の二次的細胞障害に寄与することが明らかになっ ている15).今後さらに炎症修復の機構を解明すること によっても新たな治療法の開発に結びつく可能性があ り,脳虚血後に生じる炎症反応・免疫応答を標的とし た治療が therapeutic window の広い脳保護療法へと発 展することが期待される. 本論文の発表に関して,開示すべき COI はない. 文 献1) Iadecola C, Anrather J: The immunology of stroke: from mechanisms to translation. Nat Med 17: 796–808, 2011 2) Zhang J, Takahashi HK, Liu K, Wake H, Liu R, Maruo T,
Date I, Yoshino T, Ohtsuka A, Mori S, Nishibori M: Anti-high mobility group box-1 monoclonal antibody protects the blood-brain barrier from ischemia-induced disruption in rats. Stroke 42: 1420–1428, 2011
3) Walko TD, Bola RA, Hong JD, Au AK, Bell MJ, Kochanek PM, Clark RS, Aneja RK: Cerebrospinal fluid mitochondrial DNA: a novel DAMP in pediatric traumatic brain injury. Shock 41: 499–503, 2014
4) Marsh BJ, Williams-Karnesky RL, Stenzel-Poore MP: Toll-like receptor signaling in endogenous neuroprotection and stroke. Neuroscience 158: 1007–1020, 2009
5) Qiu J, Nishimura M, Wang Y, Sims JR, Qiu S, Savitz SI, Salomone S, Moskowitz MA: Early release of HMGB-1 from neurons after the onset of brain ischemia. J Cereb Blood Flow Metab 28: 927–938, 2008
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7) Shichita T, Hasegawa E, Kimura A, Morita R, Sakaguchi R, Takada I, Sekiya T, Ooboshi H, Kitazono T, Yanagawa T, Ishii T, Takahashi H, Mori S, Nishibori M, Kuroda K, Akira S, Miyake K, Yoshimura A: Peroxiredoxin family proteins are key initiators of post-ischemic inflammation in the brain. Nat Med 18: 911–917, 2012
8) Kumai Y, Ooboshi H, Takada J, Kamouchi M, Kitazono T, Egashira K, Ibayashi S, Iida M: Anti-monocyte chemoat-tractant protein-1 gene therapy protects against focal brain ischemia in hypertensive rats. J Cereb Blood Flow Metab 24: 1359–1368, 2004
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13) Liesz A, Hu X, Kleinschnitz C, Offner H: Functional role of regulatory lymphocytes in stroke: facts and controver-sies. Stroke 46: 1422–1430, 2015
14) Lo EH: T time in the brain. Nat Med 15: 844–846, 2009 15) Shichita T, Sugiyama Y, Ooboshi H, Sugimori H,
Nak-agawa R, Takada I, Iwaki T, Okada Y, Iida M, Cua DJ, Iwakura Y, Yoshimura A: Pivotal role of cerebral interleu-kin-17-producing gammadeltaT cells in the delayed phase of ischemic brain injury. Nat Med 15: 946–950, 2009 16) Shichita T, Ago T, Kamouchi M, Kitazono T, Yoshimura
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