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データの瞬時可視化の実践

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Academic year: 2021

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要旨  社会科学のデータは日々更新されることが多い。データ更新時に,ラベル付けを含む複雑なグラフを瞬 時に可視化できれば,理想的といえる。瞬時可視化の実践例として,国民生活センターの PIO-NET の消 費生活相談データを用いたワークシート集を作成している。Web 上に公開していて消費者教育や研修に も利用可能である。 キーワード:データ可視化, PIO-NET ,消費生活相談,消費者教育,ワークシート

Ⅰ.はじめに

 消費者問題の専門家を育成する目的で神戸市が 2009 年 9 月に開設した「神戸コンシューマー・スクー ル」で,筆者は講師の 1 人として経済・消費データの 解析の講義や演習を 5 年間担当してきた。その後の 2014 年 4 月以降の消費生活マスター(神戸コンシュー マー・スクール修了生)の研究会や研修においては, これまでの基礎的で標準的なデータ処理の解説ではな く,業務での利用を想定した成果重視に舵を切り,国 民生活センターの PIO-NET1)の消費生活相談データ を一瞬にして魅力ある一連の分析グラフにするワーク シート集を提示し,http://xcampus.jp/ のサイト上に 公開している。その概要を報告したい2)  本稿での消費生活相談データ,検索画面,分類項目 の出所は PIO-NET に,また年齢別の人口は,総務省 「2010 年国勢調査の人口等基本集計結果」3)に依拠し, 編集・加工して利用している。以下では煩雑になるの で,ここに記して個別の出所明記は省略している。本 稿の図表はすべて Microsoft 社の表計算ソフト Excel による出力である。また本稿に記載の社名及び商品名 は各社の商標または登録商標である。

Ⅱ.マルチ取引の年齢別相談件数の瞬時可

視化

 PIO-NET にアクセスし, 検索メニュー[2015 〜年度] ⇒[販売購入形態選択]⇒[マルチ取引] で 検索実行 集計メニュー ⇒ 第 1 優先項目(縦軸)[商品・サービス(中分 類)] ⇒第 2 優先項目(横軸)[契約当事者 年齢] ⇒並び替え[多い順] ⇒打ち切り項目数[20]  以上で表示された検索結果の表(見出しの 2 行を除 く中身部分)をマウスのドラッグで選択して反転表示 し,Ctrl と C を同時に押して[コピー]する。表 1 の ように,Excel ファイルの「素データ」シートの赤太 枠内に[貼り付け]て転記する。セル C2 に検索対象 年度,セル G2 に検索した年月日も記入する。  これで,マルチ取引に関する 2015 年度(ここでは 2015 年 11 月 11 日現在)の消費生活相談件数の年齢別 の各シートの一連の分析グラフが瞬時に更新されるこ とになる。まず表 1 の素データの表(行列)の数値を そのまま 3-D 棒グラフにしたのが図 1 である。マルチ 取引の上位 20 商品サービス(中分類)別・年齢別の

データの瞬時可視化の実践

―PIO-NET 消費生活相談データの分析事

例―

The Journal of Economic Education No.35, September, 2016

Visualizing the Data of Consumer Issues Stored through PIO-NET by the National Consumer Affairs Center

Saitoh, Kiyoshi

(2)

表 1 マルチ取引の年齢別相談件数の素データのワークシートへの転記 図 1 マルチ取引の上位 20 商品サービス(中分類)別・年齢別の消費生活相談件数の 3-D 棒グラフ 消費生活相談件数が立体的に描かれる。項目全般にわ たって 20 歳代のマルチ取引の相談件数が他の年齢層 に比べて多いことが分かる。  次の図2は,マルチ取引相談件数の20歳代の比率を 縦軸にとり,横軸に相談件数の全年齢合計をとって描 いた散布図で,散布点の面積を 20 歳代相談件数に比 例させたバブルグラフである。各バブルに商品サービ ス名と 20 歳代相談件数の数値のラベルを付加してい る。このラベルも表 1 のデータ更新と同時に自動で変 更される。ラベル同士が重なっている場合は,手動で 簡単にラベルの位置を移動できる。バブルの大きさか ら,化粧品,健康食品,内職・副業,商品一般4)に関 するマルチ取引の相談が 20 歳代に多いことが一目瞭 然である。縦軸の 20 歳代の相談比率が高いマルチ取 引項目としては高い順に,学習教材,内職・副業,教 室・講座,放送・コンテンツ等,他の金融関連サービ

(3)

ス,パソコン・パソコン関連用品,商品一般と続く。

Ⅲ.マルチ取引の年齢別人口調整相談件数

の瞬時可視化

 PIO-NET における年齢の区分けによる人口は表 2 のように,20 歳未満と 70 歳以上が 2100 万人を超えて いて,次に多い年齢層は団塊の世代を含む 60 歳代と その子供の世代の 30 歳代が 1800 万人強であり,20 歳 代は少なく 1400 万人を下回る。年齢別相談件数も, これらの年齢別人口の差を考慮して分析する方が正確 であろう。 表 2 年齢別人口(2010 年国勢調査) 20 歳未満人口 22866801 20 歳代人口 13720134 30 歳代人口 18127846 40 歳代人口 16774981 50 歳代人口 16308233 60 歳代人口 18247422 70 歳以上人口 21035512 年令不詳 976423 人口総数(年齢不詳を含む) 128057352  マルチ取引の上位 20 商品サービス(中分類)の年 齢別人口調整(10 万人当たり)相談件数の折線グラ フは図 3 のように描かれる。20 歳代が,次の 4 項目を 除く大部分のマルチ取引の項目で人口調整(10 万人 当たり)相談件数が他の年齢層よりも高いことが分か る。ファンド型投資商品,飲料,医療用具,デリバ ティブ取引の 4 項目では他の年齢層と同程度である。 このことは,図 4 のレーダーチャートからも明瞭であ る。年齢別人口調整相談件数の全年齢人口調整相談件 数に対する比率は,多くの項目で 20 歳代が 200%を超 えている。マルチ取引は 20 歳代に特有の現象である ともいえる。

Ⅳ.マルチ取引の年齢別人口調整相談件数

の差の検定の瞬時可視化

 マルチ取引に関しては8割の項目で20歳代の相談が 比較的多いといえる。特定年代の人口調整相談件数と それ以外の全年齢層の人口調整相談件数との間の差の 検定5)によっても,そのことを再確認できる。  表 3 は,比率の差の検定統計量 z 値を,商品サービ ス(中分類)別・各年齢別に計測したものである。例 えば,健康食品の 20 歳代の z 値は 17.319 であり,有 意水準 5%の z 境界値 1.96 や有意水準 1%の z 境界値 2.58 をはるかに上回っていて,健康食品の 20 歳代人 図 2 マルチ取引の上位 20 商品サービス(中分類)別の 20 歳代相談件数をバブルサイズとする 3-D 効果バブ ルグラフ

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図 3 マルチ取引の上位 20 商品サービス(中分類)の年齢別人口調整相談件数の折線グラフ

図 4 マルチ取引の上位 20 商品サービス(中分類)の[年齢別人口調整(10 万人当たり)相 談件数]の対[全年齢人口調整相談件数]比のレーダーチャート

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表 3 マルチ取引の上位 20 商品サービス(中分類)別・年齢別の z 値(当該年齢の人口調整相談件数とそれ以 外の全年齢の人口調整相談件数が等しいかどうかの検定統計量)

図 5 マルチ取引の上位 20 商品サービス(中分類)別・年齢別の z 値(当該年齢の人口調整相談件数とそれ以 外の全年齢の人口調整相談件数が等しいかどうかの検定統計量)の 3-D 棒グラフ

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口調整(10 万人当たり)相談件数が 20 歳以外の全年 齢の人口調整相談件数と等しいとする帰無仮説は棄却 される。健康食品のマルチ取引において,20 歳代の 人口調整相談件数は他の全年齢層の人口調整相談件数 よりも有意に差があると判断されるのである。マルチ 取引相談件数の上位 20 の商品サービス(中分類)の うち実に 16 項目において,20 歳代の人口調整相談件 数は他の全年齢層よりも 1%の有意水準で差があると 判定される。  表 3 の検定統計量 z 値の行列の数値は瞬時に図 5 の 3-D 棒グラフに反映される。20 歳代の z 値の棒グラフ 群が上方に突出していることが明示される。

Ⅴ.電話勧誘販売の年齢別相談件数の瞬時

可視化

 電話勧誘販売についても,前節までと同様の年齢別 相談件数の瞬時可視化を行ってみた。一連のグラフの うち図 2 と同様のバブルグラフのみを掲載する。図 6 は,電話勧誘販売による相談件数において 70 歳以上 が占める比率を縦軸にとり,横軸に相談件数の全年齢 合計をとって描いた散布図で,散布点の面積(バブル サイズ)を 70 歳以上の相談件数に比例させている。 自動表示されるラベル(商品サービス名と 70 歳以上 の相談件数)から分かるように,インターネット通信 サービスが 70 歳以上の電話勧誘販売相談件数の最多 (バブルサイズが最大)項目になっていることは,プ ロバイダや光回線などに関するトラブルに高齢者も遭 遇していることを物語っている。電話勧誘販売の相談 件数の上位 20 商品サービス(中分類)のうち 70 歳以 上が占める比率が 40%を超えている項目は,7 割の 14 項目に達する。70 歳以上の高齢者は,平日の昼間に 在宅していることも多く,電話勧誘販売を受けてトラ ブルになる割合が他の年齢層よりも高いといえる。電 話勧誘販売で 70 歳以上の相談比率の高い項目は高い 順に,健康食品,老人福祉・サービス,魚介類,他の 保健・福祉,預貯金・証券等,他の行政サービス, ファンド型投資商品,相談その他,商品一般,書籍・ 印刷物,電報・固定電話と続き,いずれも 70 歳以上 相談比率は 50% を超えている。

Ⅵ.おわりに

 今回は紙幅の都合により,20 歳代のトラブルが多 いマルチ取引6)を中心に,データの瞬時可視化の概要 図 6 電話勧誘販売の上位 20 商品サービス(中分類)別の 70 歳以上の相談件数をバブルサイズとする 3-D 効果 バブルグラフ

(7)

を報告した。マルチ取引だけではなく電話勧誘販売に おいても,健康食品の相談件数は上位にある7)。健康 食品企業の広告宣伝費や販売促進費等の財務分析に よってもその実状の一端を解明できるかもしれない。 http://xcampus.jp/ の同じサイト上で金融庁の EDI-NET データを用いた企業分析が可能であることを付 記しておく8)  本稿の事例は基礎的なサンプル例ではなく,仕事で も利用可能となる実践的なデータ分析の完成形を指向 している。誰でも手元のパソコンでいつでも消費生活 相談の最新データを入手・加工・図示して啓発資料や 報告書に組み込むことができよう9)。瞬時可視化の実 践事例が消費者教育や経済情報教育,金融教育などで 活用されることを期待して,本稿を終えることにする。 註 1) PIO-NET(Practical living Information Online-NETwork system)は,国民生活センターが運営している「全国消 費生活情報ネットワーク・システム」であり,そのサイ トは http://datafile.kokusen.go.jp/index.html である。詳 し く は PIO-NET の 紹 介 ペ ー ジ http://www.kokusen. go.jp/pionet/index.html などを参照。 2) 関連の文献としては,拙著『PIO-NET データにみる高齢 者消費生活相談のグラフィックス実践』(神戸市市民参画 推進局市民生活部消費生活課,2012 年)や,拙稿「神戸 コンシューマー・スクール 2012 での xcampus 分析事例 ―PIO-NET データにみる高齢者消費生活相談のグラ フィックス実践・追補と立体模型―」『研究資料』№ 245 (兵庫県立大学政策科学研究所,2012 年 7 月)がある。神 戸市市民参画推進局消費生活課「消費生活マスター(神 戸コンシューマー・スクール修了生)研究報告(No.7)」 (神戸市市民参画推進局消費生活課,2015 年 3 月)の pp.27-37 には実践事例が記載されている。2015 年 12 月の 消費生活マスター研修では,本稿とほぼ同様の事例を用 いたパソコン実習を行い,消費生活相談データの瞬時可 視化を試行している。神戸市市民参画推進局消費生活課 の方々の長年にわたるご支援および神戸コンシュー マー・スクールの受講生の皆さんとの有意義な意見交換 に感謝申し上げたい。 3) h t t p : / / w w w . e - s t a t . g o . j p / S G 1 / e s t a t / L i s t . do?bid=000001034991&cycode=0 の第 3-1 表の CSV ファ イルを利用している。 4) PIO-NET の項目解説や消費者庁編『平成 26 年版 消費者 白書』(勝見印刷,2014 年)p.65,p.124 の説明文によると, 「商品一般」とは,商品の相談であることが明確であるが, 何らかの商品に特定できない,あるいは複数種類に関す る相談,または特定する必要のない相談を指し,「怪しい 電話勧誘があった」,「怪しいパンフレットが送られてき た」等,相談の対象商品が具体的にどのようなものか不 明なケースや架空請求等が含まれる。 5) 比率の差の検定については,上田拓治『44 の例題で学ぶ 統計的検定と推定の解き方』(オーム社,2009 年)や, Gopal K. Kanji, 100 Statistical Tests, 3rd Edition, SAGE Publications Ltd., 2006(池谷裕二・久我奈穂子訳,田栗 正章翻訳協力『「逆」引き統計学 実践統計テスト 100』講 談社,2009 年)などを参照。 6) 日本経済新聞「マルチの相談 20 代突出 SNS 慣れで被害 拡大」(2015 年 7 月 22 日付夕刊,8 面)や,消費者庁「い わゆるマルチ取引の被害に遭わないための 5 つのポイン ト〜いわゆるマルチ取引に関連する相談から〜」(2012 年 4 月 17 日付公表資料,http://www.caa.go.jp/adjustments/ pdf/120417adjustments_1.pdf)を参照。 7) 2015 年 4 月に新しく「機能性表示食品」制度が始まった。 健康食品を含む食品表示をめぐる消費者問題については, 民事法研究会「特集 食品表示と消費者法」『現代 消費者 法』No.21(民事法研究会,2013 年 12 月)の各論考を参 照されたい。 8) 拙稿「金融庁次世代 EDINET 対応の経済・会計教育シス テム」『経済教育』No.34(2015 年 9 月)のⅣ節には,健 康食品や機能性食品関連企業の北の達人コーポレーショ ン,ファーマーフーズ,ユーグレナ,ジャパンローヤル ゼリーなどが,規模は小さくても経常利益率が高いこと が示されている。 9) 公的な白書や年報などにおいても図表によるデータの可視 化が多用されている。各年版の消費者庁編『消費者白書』 ( 勝 見 印 刷,http://www.caa.go.jp/adjustments/index_15. html)や国民生活センター編『消費生活年報』(国民生活 センター,http://www.kokusen.go.jp/nenpou/index.html), 警察庁生活安全局生活経済対策管理官「平成 26 年中にお ける生活経済事犯の検挙状況等について」(2015 年 2 月, https://www.npa.go.jp/safetylife/seikeikan/h26_ seikeijihan.pdf)などを参照。

表 1 マルチ取引の年齢別相談件数の素データのワークシートへの転記 図 1 マルチ取引の上位 20 商品サービス(中分類)別・年齢別の消費生活相談件数の 3-D 棒グラフ 消費生活相談件数が立体的に描かれる。項目全般にわ たって 20 歳代のマルチ取引の相談件数が他の年齢層 に比べて多いことが分かる。  次の図2は,マルチ取引相談件数の20歳代の比率を 縦軸にとり,横軸に相談件数の全年齢合計をとって描 いた散布図で,散布点の面積を 20 歳代相談件数に比 例させたバブルグラフである。各バブルに商品サービ ス
図 4 マルチ取引の上位 20 商品サービス(中分類)の[年齢別人口調整(10 万人当たり)相 談件数]の対[全年齢人口調整相談件数]比のレーダーチャート
表 3 マルチ取引の上位 20 商品サービス(中分類)別・年齢別の z 値(当該年齢の人口調整相談件数とそれ以 外の全年齢の人口調整相談件数が等しいかどうかの検定統計量)

参照

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