DOI: http://doi.org/10.14947/psychono.37.29
192 基礎心理学研究 第37巻 第2号
関西学院大学心理科学研究室のご紹介
小 川 洋 和
関西学院大学文学部総合心理科学科心理科学専修
Introduction of Department of Psychological Sciences in Kwansei Gakuin University
Hirokazu Ogawa
Department of Psychological Sciences, Kwansei Gakuin University
は じ め に 関西学院大学心理科学研究室は,関西学院大学西宮上 ケ原キャンパスにあります。学部・大学院組織として は,文学部総合心理科学科心理科学専修,文学研究科総 合心理科学専攻心理科学領域が正式名称です。 西宮上ケ原キャンパスはその名の通り,兵庫県西宮市 にあります。最寄り駅は阪急今津線の甲東園駅または仁 川駅です。甲山山麓の上ケ原台地に位置するため,駅か らはややきつめの坂道を登ることになります(慣れれば たいしたことありませんが)。甲東園駅・仁川駅のいずれ からも徒歩15分程度の距離ですが,歩くのであれば傾 斜がやや緩やかな仁川駅からのルートをお薦めします。 路線バスを利用するのであれば甲東園駅で電車を降りて ください。ちなみに,阪急電車をご利用の際は西宮北口 駅で神戸線から今津線に乗り換えることになりますが, 実は今津線のホームが宝塚方面と今津方面で別になって おり,よく間違えて今津方面に向かう方がおられますの で,ご注意下さい。JRをご利用の場合は,JR西宮駅から 阪急バスというルートもお薦めです (所要時間15∼20分 程度)。 関西学院大学上ケ原キャンパスの大きな特徴は,スパ ニッシュ・ミッション・スタイルという建築様式で統一 された建物群,キャンパス中央に広がる大きな芝生,そ して甲山を背後に従えた時計台からなるランドスケープ です。オープンキャンパスで訪れた高校生たちはほぼ例 外なくこのキャンパスに感銘を受けるようですが,毎日 目にするわれわれ教員でもしばしばその美しさにはっと させられます。新学期がスタートする4月は学生でごっ た返し,ざわついた雰囲気になりますが,少し経って落 ち着きを取り戻す頃には,中央芝生で近隣の住民(と思 われる方々)がピクニックしたり,幼稚園児や小学生が 遊び回ったりしている,のどかな風景を目にします。 心理科学研究室の研究室・実験室はこのキャンパス内 の5つの箇所に分かれています。そのうちの一つが,ハミ ル館と呼ばれる洋館です(Figure 1)。この建物は,1928 年まで関西学院のキャンパスがあった原田の森(兵庫県 神戸市灘区) にて1918年に竣工しました。設計は著名な 建築家であるウィリアム・メレル・ヴォーリズによるも ので,八角形の独特のデザインが特徴です。ハミル館は 関西学院が原田の森から現在の西宮に移転する際に唯一 移築された建物であるため,上ケ原キャンパスでは最古 の歴史的建造物ということになります。上ヶ原に移築後 は,付属幼稚園の園舎として利用されていましたが,1959 年からは心理学研究室の専用の施設となりました。その 後も何度かの修理・改装を経て,今なお心理科学研究室 の教育・研究の拠点として利用されています。
The Japanese Journal of Psychonomic Science
2019, Vol. 37, No. 2, 192–194
紹
介
Copyright 2019. The Japanese Psychonomic Society. All rights reserved. Corresponding address: Department of Psychological Sciences,
Kwansei Gakuin University, 1–155 Uegahara Ichibancho, Nishinomiya, Hyogo 662–8501, Japan. E-mail: hirokazu. [email protected]
193 小川: 関西学院大学心理科学研究室のご紹介 心理科学研究室の歴史 関西学院の心理学研究室は1923年に今田恵によって 創設されました。今田がドイツ・チンメルマン社より心 理学実験機器一式を購入したことがその始まりです。東 京帝国大学の1903年,京都帝国大学の1908年に次ぐ古さ で,私学における最古の研究室です。1948年に新制大学 の設置にともない,文学部心理学科へと発展しました。 心理学研究室はその開設以来,アメリカ機能主義心理 学の流れを重視し,機能主義から生まれた行動主義・新 行動主義の思想的基盤を国内に紹介するとともに,条件 づけ・条件形成 (conditioning) をメインテーマに研究活 動を行ってきました。研究対象となる行動をその複雑さ をもとに,反射的・非随意的行動,自発的・随意的行動, 言語行動の3つに分類し,それぞれに対応した研究グルー プをおきました。すなわち,条件反射研究グループ(古 武弥正・宮田洋),動物とヒトの自発的条件行動の研究 グループ(新浜邦夫・今田寛),言語学習・言語行動の 研究グループ(石原岩太郎・賀集寛)で,それぞれクラ シカル,オペラント,バーバルと名づけられました。こ れらは研究室の屋台骨を支える「3本柱」とされ,長く 関学心理の伝統として守られてきました。当時あえて条 件形成行動に研究対象を絞った背景には「私学である関 学心理には個性溢れる独自性が必要,そうでなければ国 立に勝てない」という思いがあったそうです。 その後長く文学部心理学科として研究教育活動を行っ てきましたが,2003年の学部改組で文学部総合心理科学 科心理学専修となり,さらに2009年には教育心理学専 修とも合併して,規模を大幅に拡大することとなりまし た。 教員・スタッフ 2019年2月現在,心理科学研究室には専任教員14名が 所属しています。現在の教員およびその関心領域は, 有光興記教授(パーソナリティ心理学・臨床感情科学), 浮田潤教授(認知心理学・言語・記憶),大竹恵子教授 (健康心理学・ポジティブ感情),小野久江教授(気分障 害の臨床・向精神薬の臨床研究・自殺の分子精神医学的 研究),片山順一教授(認知心理生理学・認知神経科学・ 心理工学),桂田恵美子教授(子どもの社会適応・愛着・ ジェンダー),佐藤暢哉教授(認知神経科学・行動神経 科学・空間認知・記憶),佐藤寛准教授(臨床心理学・ 認知行動療法・臨床児童青年心理学),嶋崎恒雄教授 (思考・学習・実験心理学),中島定彦教授 (思考・学習・ 実験心理学),成田健一教授(生涯発達心理学・精神的 健康・質問紙法),三浦麻子教授(社会心理学・情報行動 学・インタラクション),米山直樹教授(臨床心理学・ 行動療法・応用行動分析),そして本稿の著者である小川 洋和(知覚心理学・認知心理学・視覚科学)です。この ように教員の研究領域は多岐にわたっていますが,基礎 心理学と臨床心理学分野の教員が協働して研究・教育活 動にあたっています。また,臨床心理学の実践家は科学 者であるべきとする「科学者=実践家モデル」の立場か ら,データに基づいた実証的な臨床心理学の実践を行っ ています。 専任教員のほかに実験実習科目の実施など学科運営を サポートする助手2名(斎藤元幸・堀麻佑子)と,公認 心理師養成に関わる外部機関での臨床実習のマネージメ ントなどを担当する実習助手3名(高橋友子・竹谷怜子・ 前田由貴子)に加えて16名の研究員・ポスドクがそれ ぞれの教育・研究活動に従事しています。 教 育 環 境 学部組織である総合心理科学科心理科学専修は,4学 年で約700名の学生がおり,ほぼ学部規模といっても過 言ではない大所帯です。学生たちは1年次から実験実習 で実験心理学や実験レポートの執筆に関する基礎的知識・ 技術を身に着けつつ,心理統計や心理学の諸領域につい て学びます。3・4年次には工学心理学や行動分析学,精 神保健といった応用的な科目が提供されています。また 希望する学生は,複数分野専攻プログラムや文学部内副 専攻プログラムといった制度を使って,他学科・専修や 他学部の授業を履修することもできます。 学生がゼミに分属されるのは3年次からで,2年次の 秋学期にその手続きがスタートします。学生は第2志望 までゼミを選択し,分属申込を行います。毎年学生数に 応じて各ゼミの受け入れ人数が設定され,それを超える 応募者がいたゼミは選抜を行います。第1志望がかなわ なかった学生は第2志望に,さらに選抜されなかった者 は第二次分属の手続きに進み,最終的に全員のゼミが決 まるまで手続きが続きます。学生は希望のゼミに入りた い,なんとしても第二次分属にはまわりたくない,など 様々な思惑から,毎年多彩なグループダイナミクスを発 揮します。「○○先生は優しいらしい」「△△ゼミでは英 語の論文をたくさん読まされるらしい」などあやふやな 噂が流布されることもあるようです。その結果として, 毎年人気で応募者が殺到するゼミもあれば,決まって少 数精鋭(?)になるゼミ,年ごとに応募者数が乱高下す るゼミや,体育会の学生が集まるゼミが生まれます。教 員はやる気をもって研究に取り組んでくれる学生にこそ
194 基礎心理学研究 第37巻 第2号 ゼミに来てほしいわけで,分属結果のリストを見て内心 一喜一憂することもあります。 ゼミに分属されてからは,それぞれのゼミでの学びや 卒業論文作成に向けた研究活動をスタートします。その 内容はゼミごとにさまざまですが,研究分野が近いゼミ による合同ゼミも頻繁に開催されており,大学院進学を 目指す学生たちはゼミをまたいだ勉強会を行ったりして います。 大学院組織である文学研究科心理科学専攻には前期・ 後期課程・大学院研究員,あわせて40名程度が所属し ています。彼ら・彼女らは,講義や大学院ゼミに参加し つつ,自らの実験研究や臨床実践に励みます。そのほか にもTAや非常勤講師として授業運営にも携わり,教育 経験を積んでいきます。また,年に何回か研究室全体の 研究進捗報告会が行われるなど,基礎・臨床の垣根を越 えた研究交流が行われています。さらに,月1回以上の ペースで,外部から新進気鋭の研究者のみなさんを講師 に招いて研究会やセミナーを行っており,そこでのトー クやディスカッションはもちろん,終了後の懇親会での 交流を通して,院生たちは知的な刺激を受けて見分を広 げているようです。 また,本学では 2018年度から公認心理師に対応した カリキュラムがスタートしており,近隣の機関や大学と 提携し,外部機関での臨床実習を実施しています。さら に,2019年度には新しく西宮北口にオープンするキャン パスに心理科学実践センターが設置され,教員やスタッ フ,およびその指導を受けた公認心理師取得を目指す大 学院生たちが市民や近隣の方にカウンセリングの実習を 行うことになっています。 研 究 環 境 上述したように,当研究室は条件づけに関する研究を メインテーマにしてきたこともあり,それに関連する研 究機材・装置が充実しています。まず,動物心理学の研 究設備として,350匹以上のラットの飼育が可能な飼育 室のほか,スキナー箱や各種迷路を始めとした多くの装 置を保有しています。ヒトを対象とした研究施設として は,実習ホール 3,実験実習室40,面接相談室4,観察 室5,プレイルーム3,準備室3があり,多人数での生理 反応を計測するシステムや各種生体アンプ,電気生理学 的研究のための神経活動記録・解析システム,NIRS,眼 球運動測定装置など,さまざな研究に対応可能な設備を 取りそろえています。 ヒトを対象とした研究を行う上で常に問題になるのが, 実験参加者の確保です。当研究室には「実験参加証シス テム」という制度があります。この制度を利用する実験 に参加した学生は,実験の内容や所要時間に応じて実験 参加証と呼ばれるチケットを受け取ります。それを心理 学専修が開講している科目の担当者に提出することで, 枚数に応じた加点が行われます。学生が参加者として実 験を体験することで心理科学への学びをより深めること を目的とした制度ですが,実験参加に学生を促す効果は 大きく,毎年数千枚の実験参加証が発行され利用されて います。さらに,オンラインの実験参加応募システムで あるソナシステムも完備されており,現在他学部・他学 科を含めた学生1,600名以上が参加者プールに登録して います。そのほかにもオンライン調査用のQualtrics,オ ンライン実験用の専用サーバーなども研究室で用意して おり,クラウドソーシングなどを利用したオンライン実 験・調査を行うことができます。 お わ り に 同僚の一人は毎年,大学院に入学する学生たちに対し て「ここは良い研究室である。しかし,君たちは良い研 究室に入れて『ラッキー』なのではない。ここが良い研 究室であり続けるためには,研究室に所属する全員の不 断の努力が必要なのである」と訓示します。その言葉の 通り,関学心理は約100年にわたる長い歴史の中で多く の研究者を輩出してきた「良い研究室」でありましたが, 今後もそうあり続けられるよう,一層教育・研究に励ん でまいります。なにかの機会がありましたら,ぜひ当研 究室にお立ち寄りください。