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実大型の幻肢を獲得し義手へ投射することで,義手操作性の向上が得られた一例

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Academic year: 2021

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(1)理学療法学 第 45 巻第 5 号 325 ∼ 幻肢を義手へ投射することで,義手操作性の向上が得られた一例 331 頁(2018 年). 325. 症例報告. 実大型の幻肢を獲得し義手へ投射することで, 義手操作性の向上が得られた一例* 問 田 純 一 1)# 内 藤 卓 也 1) 平 賀 勇 貴 1) 平 川 善 之 1). 要旨 【目的】義肢が身体の一部であるように感じる身体化が生じると,義肢操作性が向上する可能性が示されて いる。今回,幻肢を義手に投射することで,身体化に成功した事例を報告する。 【対象と方法】対象は短縮 した幻肢を有する上腕切断症例である。介入の第 1 段階では実大型の幻肢・幻肢の随意運動の獲得,断端 の感覚機能の向上を図った。第 2 段階にて幻肢を義手に投射し,第 3 段階で幻肢を feedback 機構として利 用する介入を実施した。 【結果】実大型の幻肢・幻肢の随意運動を獲得し,幻肢を義手に投射することで幻 肢を feedback 機構として利用できるようになり,義手操作性・日常生活動作(Activities of Daily Living; 以下,ADL) ,生活の質(Quality of Life;以下,QOL)の向上を認めた。 【結語】幻肢を義手に投射するこ とで義手操作性・ADL が向上し,QOL の向上を認めた可能性が考えられた。 キーワード 幻肢,Mirror Therapy,振動刺激,義肢の身体化. 能性が示されている 3)。義肢の身体化には 2 つの事象が. はじめに. 存在する.  幻肢は四肢切断症例の 95% 以上に認める. 1). 。切断直. 3). 。1 つ目は幻肢が義肢に投射されて義肢を身. 体の一部と感じる場合で,義肢使用者の 11.6% に認め,. 後では健肢と同じ長さの幻肢を有する場合が多く,時間. 2 つ目は義肢を装着すると幻肢が消失し,義肢そのもの. 経過とともに幻肢が短くなる Telescoping 現象が知られ. を身体の一部と感じる場合で義肢使用者の 17.2% に認め. 1). ており ,本邦ではこのような幻肢の長さや型の変化を 大塚の分類. 2). にて実大型,遊離型,断端密着型,痕跡型,. る. 3). 。前者について大塚 2) は,実大型・遊離型の幻肢. は義肢に投射することが可能で,幻肢を義肢へ投射する. 断端嵌入型に分類される。幻肢は痛み,触覚,圧覚,温. こと(以下,幻肢の投射)で幻肢を feedback 機構とし. 度覚など様々な感覚を知覚し,幻肢を随意的に運動でき. て利用でき,義肢操作性が高まると報告している。また,. る症例もいれば,幻肢が不随意に運動する症例も報告さ. 幻肢の投射が成された切断症例は,幻肢と義肢が一致す. れている. 3). 。.  Giummarra ら. ることで主観的な義肢の使いやすさが増すと記述して 3). は義肢使用者の 28.8% は義肢が身体. いる. 4). 。. の一部であるように感じる身体化(embodiment)が生.  このような身体化は「経験を受けているのは自分であ. じることを報告した。この義肢の身体化により視覚情報. る」と感じる身体保持感と,「行為を起こしているのは. 4). 自分である」と感じる運動主体感から構成されると考え. がなくても,義足であれば接触した地形を認知でき. ,. 6)7). 。身体保持感には多種感覚の統合が重要. 義手であれば新聞紙の表面の粗さを認知できる事例が報. られている. 5) 告されており ,身体化により義肢操作性が向上する可. であり,運動主体感には運動の意図と感覚 feedback の. *. A Case in which the Performance of a Prosthetic Arm Improved by Acquiring an Actual-size Phantom Arm and Projecting It onto the Prosthetic Arm 1)福岡リハビリテーション病院 (〒 819‒8551 福岡県福岡市西区野方 7‒770) Junichi Toita, PT, Takuya Naito, PT, MSc, Yuki Hiraga, OT, Yoshiyuki Hirakawa, PT, PhD: Fukuoka Rehabilitation Hospital # E-mail: tony1004vs4001xxx@yahoo.co.jp (受付日 2018 年 1 月 31 日/受理日 2018 年 6 月 14 日) [J-STAGE での早期公開日 2018 年 7 月 28 日]. 統合が重要である. 8). 。これまで幻肢の投射には,義肢操. 作中の断端への感覚 feedback を検知する断端の鋭敏な 感覚機能. 5). ,Telescoping 現象を認めない健常肢と同じ. サイズの幻肢. 9). ,幻肢感覚 feedback 10),幻肢感覚と義. 肢の視覚情報の統合の必要性が報告されている. 11)12). 。. また,幻肢と義肢が一致して動くには義肢の可動範囲と 同等の幻肢の随意運動が必要になることが考えられる。.

(2) 326. 理学療法学 第 45 巻第 5 号. 表 1 各測定結果の推移 入院時 退院時 義手練習開始 (術後 4 週) (術後 13 週)(術後 21 週) 介入内容. 術後 25 週. 第 1 段階. 幻肢の形態. 大塚の分類 幻肢長(%). 幻肢痛. Numerical Rating Scale. 幻肢運動. 肘屈曲(°). 術後 33 週. 術後 35 週. 第 2・3 段階. 遊離型 60. 実大型 95. 実大型 100. 実大型 100. 実大型 100. 実大型 100. 実大型 100. 4. 3. 0. 0. 0. 0. 0. 75. 130. 125. 130. 125. 125. 135. ‒ 75. ‒ 55. ‒ 45. ‒ 30. ‒ 40. ‒ 35. ‒ 45. 30 15. 85 90. 80 95. 80 95. 80 90. 80 95. 80 95. 手関節背屈(°). 20. 80. 80. 75. 75. 80. 80. 手関節掌屈(°). 10. 70. 70. 75. 75. 70. 75. 母指−示指間距離: 最小(mm). 3. 0. 0. 0. 0. 0. 0. 母指−示指間距離: 最大(mm). 25. 100. 115. 133. 114. 120. 130. 前面. 81. 1. 1. 1. 3. 1. 1. 肘伸展(°) 前腕回内(°) 前腕回外(°). 断端 2 点識別覚(mm). 術後 29 週. 後面. 65. 30. 25. 20. 23. 30. 30. 患側肩関節自動 ROM(°) 屈曲. 100. 100. 100. 100. 100. 100. 100. 外転. 85. 100. 100. 100. 100. 100. 100. 屈曲. 4. 4. 4. 4. 4. 4. 4. 患側肩関節 MMT. 外転 幻肢と義手の一致率(mm)Visual Analog Scale 義手の ADL・習熟度評価 (%) SF-36. PCS. 2. 4‒. 4‒. 4‒. 4‒. 4‒. 4‒. ‒. ‒. 61. 70. 78. 91. 91. ‒. ‒. ‒. 36.0. 48.7. 54.3. 75.0. ‒. ‒. ‒. 48.7. 50.4. 52.5. 61.3. MCS. ‒. ‒. ‒. 48.2. 53.4. 38.5. 39.4. RCS. ‒. ‒. ‒. 16.8. 22.2. 25.1. 20.0. ROM:Range of Motion,MMT:Manual Muscle Testing,ADL:Activities of Daily Living,SF-36:MOS Short-Form 36-Item Health Survey 日本語版 ver2,PCS:Physical component summary,MCS:Mental component summary,RCS:Role-Social component summary.  これまで幻肢を義肢へ投射する方法として,非観血的 2) 手 法 で は 心 理 療 法 ,referred sensation を 利 用 し た. rubber hand illusion を用いたもの. 12). 的手法では Targeted reinnervation. 11). 10). が報告され,観血. 対   象  症例は 50 歳代の女性,右利きで職業は中学校教諭で. ,peripheral nerve. ある。交通事故により受傷し,他院にて右上腕切断術を. などにより幻肢感覚を利用するものが報. 施行され,継続加療目的で当院に転院となった。当院転. 告されている。しかし,非観血的手法においても理学療. 院時(術後 4 週)の評価とその後の各測定結果の推移を. 法士が臨床現場で簡便に実施できるとは言い難い。今回,. 表 1 に 示 す。 断 端 は 腫 脹・ 熱 感 を 認 め, 断 端 長 は. stimulation. 我々は過去の報告. 2)10‒12). と異なる臨床現場で実施可能. 26.3 cm であった。幻肢は切断当初は健常肢と同じサイ. な方法として,Mirror Therapy(以下,MT)と振動刺. ズの実大型であったが,時間経過とともに徐々に短縮し. 激を用いた幻肢運動の錯覚により実大型の幻肢を獲得し,. ていき,当院転院時は遊離型で,肩峰∼幻肢の示指先端. 断端の感覚機能向上,義手操作時の幻肢感覚と多種感覚. までの長さを健肢と比較してもらったところ 60% に短. の統合,運動の意図と感覚 feedback の統合を目的とした. 縮した Telescoping 現象を認めた。健肢で幻肢肢位と幻. 理学療法介入により幻肢を義手へ投射することに成功し. 肢の随意運動範囲を再現してもらったところ,幻肢肘関. た上腕切断症例を経験した為,その介入方法と効果を報. 節は屈曲 75°で固定され随意運動は不可能であった。前. 告する。. 腕は回内 30° ・回外 15° ,手関節は背屈 20° ・掌屈 10° で あった。日本リハビリテーション医学会が定めた母指対 立の計測法. 13). を参考に,母指−示指の指腹摘みの可動.

(3) 幻肢を義手へ投射することで,義手操作性の向上が得られた一例. 327. 域として母指の指腹から示指の指腹までの距離を測定し. 象を改善するには対側 S1 の肘周囲の体部位再現領域を. たところ 3 mm まで,母指−示指の伸展可動域として. 拡大する必要があると考えた。MT にて対側 S1 の切断. 母指と示指の指尖の距離を測定したところ 25 mm とわ. 肢の領域が活動することが報告されている. ずかに随意運動が可能であった。幻肢痛は手指∼前腕に. 四肢の筋・腱に適切な周波数の振動刺激を加えると,筋. かけて Numerical Rating Scale(以下,NRS)4 を認め. 紡錘からの求心性感覚線維が活動し,その筋が伸ばされ. た。断端や顔への触・圧覚刺激にて,幻肢を刺激してい. るような運動錯覚が生じる. るように感じる referred sensation は認めなかった。断. 側の一次運動野(以下,M1) ,S1,背側運動前野,補足. 端の 2 点識別覚はノギスを用いて計測し,断端先端より. 運動野,帯状回運動皮質,同側小脳などの錯覚が生じて. 近位 5 cm のレベルにて前面で 81 mm,後面で 65 mm. いる部位の体部位再現領域が活動する. であった。患側肩関節可動域を日本リハビリテーション. ら MT と振動刺激による運動錯覚を併用することで,. 医学会が定めた方法に準じて計測したところ,他動にて. MT 単独よりも強い S1 の肘周囲の体部位再現領域の賦. 屈曲 120°・外転 95°,自動にて屈曲 100°・外転 85°で. 活が得られると考えた。振動刺激はハンディマッサー. あった。筋力は Manual Muscle Testing(以下,MMT). ジャー(約 92 Hz;スライヴ社,MD-01)を用い,立位. にて患側肩関節屈曲 4,外転 2 であった。義手は未作成. にてあたかも健側上肢が切断側上肢のように見えるよう. であった。病院内の ADL は健側上肢の代償ですべて自. に身体の中央に鏡を設置し,幻肢肘伸展の錯覚の際は上. 立であったが,更衣の際のジッパー操作や食事の際に食. 腕二頭筋に,幻肢肘屈曲の錯覚の際は上腕三頭筋に刺激. 器を抑えるなどの両手動作ができないことで,不便さを. を与えた(図 1a)。振動刺激による幻肢肘屈伸運動の運. 感じていた。主訴は ADL 困難であった。症例から「幻. 動感覚 feedback に合わせて,健側肘屈伸運動を行い. 肢の感覚を残してほしい」との要望があったことから症. MT による視覚 feedback も同時に行った。一度の治療. 例の同意のもと,義手の操作性向上が見こめる幻肢の投. で幻肢肘屈曲と伸展の錯覚をそれぞれ 30 回喚起させ,. 射を行う方針とした。本発表は対象者に目的・内容を用. その直後に錯覚(MT と振動刺激)を用いない幻肢肘の. 紙にて説明し書面にて同意を得て,福岡リハビリテー. 屈伸随意運動を 30 回行った。Naito ら. ション病院倫理委員会の承認を得て行った(承認番号:. 参 考 に, 介 入 毎 に 錯 覚 の 鮮 明 度 を 0: 「 動 か な い 」∼. FRH2016-R-034) 。. 100:「実際に動いているのと同じ感じがする」の Visual. 16). 。また,. 17). 。この運動錯覚により対. 17). 。このことか. 17)18). の報告を. Analog Scale(以下,VAS)で評価し,錯覚角度を錯覚. 方   法. 喚起中の幻肢肘関節の最大屈伸角度を健側で再現した角.  介入は 3 段階に分けて実施した。術後 5 ∼ 21 週まで. 度にて計測した。幻肢手部に対して手指の摘み,手関節. 義手練習開始前の第 1 段階の介入として,Telescoping. 掌背屈,前腕回内外の運動の随意運動および,運動イ. 現象の改善,幻肢の随意運動の獲得,断端の感覚機能の. メージ練習を 1 日 10 分行った。断端の触圧覚の識別課. 向上を目指した。作業療法では患側肩関節の関節可動域. 題は座位にて患側肩関節の自動屈曲・伸展・内転・外転. 練習,筋力増強運動を実施した。術後 21 ∼ 35 週まで第. 運動により断端で 5 つの固さの異なるクッションに接触. 2 段階と第 3 段階の介入を並行して実施し,作業療法で. し,硬度の違いを識別する課題とした(図 1b)。接触部. は能動義手による ADL 練習を実施した。第 2 段階では. 位の識別課題は過去の報告. 幻肢の投射を行い,義手と幻肢が一致して可動すること. た絵を用いて,症例は仰臥位または側臥位にて断端が見. を目指した。第 3 段階では義手の肢位や接触物を幻肢の. えない状態でセラピストが示指で断端に接触刺激を与. 感覚で認知できることを目指した。これらと並行して通. え,どの部位を刺激しているか症例に判断を求める課題. 常の断端管理を行った。能動義手のおもな部品は 8 字. である。1 ヵ所の接触部位の識別から始めて,正答率の. ハーネス,シリコンライナー(Ottobock 社,6Y70)を. 向上に合わせて 2 ヵ所の接触部位の識別を行った(図. 用いた差しこみ式ソケット,能動単軸ブロック式肘継手. 1c) 。. 19). を参考に断端を 6 分割し. (小原社,50C-001),屈曲手継手および手部コネクタ.  術後 21 週より義手練習が開始となり,同時に第 2・3. (Ottobock 社,10V39,10A30) ,手先具は能動フック. 段階の介入を開始し,術後 35 週まで実施した。第 2 段. (Hosmer 社,88X)を用いた。. 階である幻肢の投射は,義手を注視しながら幻肢と義手.  第 1 段階の介入は Telescoping 現象の改善,幻肢運動. の肘屈伸運動を同期させて行う課題と,フックの開閉と. の獲得に向けて MT と振動刺激による運動錯覚課題を. 幻肢母指と示指の摘み運動を同期させて行う課題を 1 日. 行い,断端の感覚機能に対して触圧覚の識別課題と接触. 10 分実施した。第 3 段階の介入は義手肢位の認知課題,. 部位の識別課題を実施した。Telescoping 現象は対側一. 義手のフックでの触圧覚の識別課題を行った。義手肢位. 次体性感覚野(以下,S1)の手より近位の領域が縮小す. の認知課題は端座位にて症例の右横に数値の書かれたメ. る機能再構築と関連する. 14)15). 。従って Telescoping 現. モリ盤を設置した。閉眼し,肘継手の屈曲運動を行いセ.

(4) 328. 理学療法学 第 45 巻第 5 号. 図 1 本症例の治療 a:Mirror Therapy と振動刺激による運動錯覚課題 b:断端の触圧覚の識別課題 c:断端の接触部位の識別課題 d:義手肢位の認知課題 e:義手での触圧識別課題. ラピストが指定したメモリ盤の数値まで幻肢肘の運動感 覚でフックを移動する課題を 1 日 10 分実施した(図. 経過および結果. 1d)。フックでの触圧覚の識別課題は端座位にて 5 つの.  第 1 段階の MT と振動刺激による運動錯覚課題の鮮. 固さの異なるクッションを挟み硬度の違いを幻肢感覚で. 明度・角度,幻肢長,幻肢肘運動,幻肢痛の推移を表 2. 識別する課題である。幻肢と義手が一致する可動範囲の. に,各測定結果の推移を表 1 に示す。介入初日の錯覚の. 向上に伴い肘継手の屈曲角度,手継手の回内外角度を変. 鮮明度は 17 mm と弱かったが,術後 9 週まで錯覚の鮮. 更して 1 日 10 分実施した。 (図 1e) 。これらと並行して. 明度は顕著な増加を認めた。幻肢肘関節の錯覚角度も経. 作業療法士による通常の義手による ADL 練習も実施し. 過と共に改善していった。幻肢長は術後 7 週まで顕著な. た。義手での作業時の幻肢と義手の一致率を 0: 「まった. 改善を認め,術後 11 週に 95% となりプラトーに達した。. く一致しない」 ,100:「完全に一致する」の VAS で評. 幻肢肘関節の随意運動は錯覚の鮮明度・幻肢肘関節屈曲. 価した。義手の操作性・ADL 評価として兵庫県立総合. の錯覚角度の向上に合わせて随意運動が可能となった. リハビリテーションセンターが開発した義手の ADL・. (表 2)。前腕・手関節・手指の幻肢運動は術後 13 週ま. 20). を実施した。この評価は 85 項目からな. で顕著な改善を示した(表 1) 。また,断端の 2 点識別. る自己記入式の質問紙で,85 項目の中から使用者が実. 覚は術後 13 週で前面 1 mm,後面 30 mm と顕著な改善. 際に行う項目に対して使用者の主観的判断に基づいて,. を示し,第 1 段階の介入を終了した後も断端の感覚機能. 習熟度評価. 「スムーズに可能」を 2 点,「時間をかければ可能」を 1. は維持されていた(表 1)。幻肢痛は徐々に改善してい. 点,「不可能」を 0 点で採点し,各項目の和を満点で除. き術後 21 週で消失し,術後 35 週まで出現を認めていな. して習熟度を百分率で算出するものである。QOL は. い(表 2)。術後 13 週で義手未作成のまま自宅退院とな. MOS Short-Form 36-Item Health Survey 日本語版 ver2.. り,当院にて外来理学療法および作業療法を週 2 ∼ 3 回. (以下,SF-36)にて測定し,身体的健康サマリースコア. の頻度で継続し,能動義手を作成した。術後 21 週から. (Physical component summary;以下,PCS) ,精神的. 義手練習が開始となり,第 1 段階の介入を終了し,第 2・. 健康サマリースコア(Mental component summary;以. 3 段階の介入を開始した。第 2 段階の介入である義手を. 下,MCS),役割/社会的健康サマリースコア(Role-. 注視しながら行う義手と幻肢の肘屈伸運動課題の直後に. Social component summary;RCS)を算出した. 21). 。. 幻肢長は 95% から 100% に改善し,義手と幻肢が完全 に一致した。この時点での作業時の幻肢と義手の一致率.

(5) 幻肢を義手へ投射することで,義手操作性の向上が得られた一例. 329. 表 2 第 1 段階介入時の錯覚の鮮明度・錯覚角度・幻肢長・幻肢肘運動・幻肢痛の推移. 錯覚の鮮明度(mm). 術後 5週. 術後 6週. 術後 7週. 術後 8週. 術後 9週. 術後 術後 術後 術後 術後 術後 術後 術後 術後 術後 術後 術後 10 週 11 週 12 週 13 週 14 週 15 週 16 週 17 週 18 週 19 週 20 週 21 週. 17. 54. 73. 73. 83. 80. 84. 86. 85. 83. 88. 87. 92. 93. 92. 93. 94. 錯覚肘屈曲角度(°). 100. 100. 135. 120. 135. 140. 140. 140. 140. 140. 145. 145. 145. 150. 145. 145. 145. 錯覚肘伸展角度(°). ‒ 55. ‒ 40. ‒ 45. ‒ 40. ‒ 20. ‒5. 0. 5. 5. 5. 5. 5. 5. 0. 5. 5. 5. 幻肢長(%). 60. 70. 85. 90. 90. 90. 95. 95. 95. 95. 95. 95. 95. 95. 95. 95. 95. 幻肢肘屈曲角度(°). 75. 95. 125. 125. 135. 135. 135. 140. 130. 135. 135. 135. 140. 145. 140. 135. 135. 幻肢肘伸展角度(°). ‒ 75. ‒ 60. ‒ 55. ‒ 50. ‒ 40. ‒ 40. ‒ 50. ‒ 45. ‒ 55. ‒ 50. ‒ 40. ‒ 40. ‒ 45. ‒ 45. ‒ 50. ‒ 45. ‒ 50. 4. 3. 3. 3. 3. 3. 3. 3. 3. 2. 0. 2. 2. 1. 0. 2. 0. 幻肢痛(NRS). 錯覚の鮮明度:錯覚による幻肢運動感覚の明瞭度,錯覚肘関節角度:錯覚喚起中の幻肢肘関節角度, 幻肢肘関節角度:錯覚を用いずに行う幻肢肘関節の随意運動角度,NRS:Numerical Rating Scale. は 61 mm であった。その後も幻肢と義手の一致率は向. 改善,幻肢運動の獲得に働きかけた。表 2 に示す通り,. 上し,術後 35 週で幻肢と義手の一致率は 91 mm と高. 運動錯覚の鮮明度・角度の向上とともに Telescoping 現. 値を示した(表 1) 。本症例は「手の感覚があると安心. 象,幻肢肘関節の随意運動範囲は改善がみられた。この. する。幻肢の感覚があると義手の操作を迷わずに行え. 結果は,術後から当院転院時まで Telescoping 現象によ. る」との記述や,義手で物を掴んだ際は,「自分の指で. り幻肢が短くなった経過と逆行する現象である。切断後. 持っている感じ」との記述が得られ,調理の際は包丁が. も断端の筋紡錘は正常に機能することが示唆されてお. 義手に当たりそうになると,慌てて義手を引っ込めるよ. り. うな,義手の身体化を思わせる場面があった。術後 35. 錯覚を喚起できたことから,健常者と同様に振動刺激に. 週における患側肩関節可動域は他動にて屈曲 130° ・外. より筋紡錘の求心性感覚線維が活動し,運動錯覚が喚起. 転 100°,自動にて屈曲 100° ・外転 100°であり,介入期. されたと考える。MT 単独でも対側 S1 の切断肢の領域. 間を通して ROM,MMT は著明な改善を認めなかった。. が活動することが報告されており. 義手の ADL・習熟度評価と SF-36 の PCS は術後 33 ∼. 運 動 錯 覚 に お い て も 対 側 S1・M1 を は じ め と し た. 35 週にかけて顕著な改善を示し,ADL では調理動作や. sensori-motor network が体部位再現に沿って賦活する. 物を運ぶ,傘を差すなどの両手動作が円滑に行えること. ことが報告されている. で便利さを感じていた。SF-36 の MCS は術後 33 ∼ 35. 情報は身体の長さの表象に関連することから. 週で低下を認め,RCS は著明な改善を認めなかった(表. と振動刺激による運動錯覚により視覚的 feedback と筋. 1)。術後 35 週における SF-36 の下位尺度は身体機能. 紡錘情報に基づく運動感覚的 feedback を与えたことで. 95.0 点,日常役割機能 56.3 点,体の痛み 52.0 点,全体. Telescoping 現象,幻肢運動能力の改善に関与した可能. 的健康感 57.0 点,活力 31.3 点,社会生活機能 37.5 点,. 性は高いと考える。MT と振動刺激の併用が幻肢表象に. 日常生活機能 41.7 点,心の健康 45.0 点であった。. 影響を与えることは過去に報告がなく,本報告の新規性. 23). ,本症例は断端への振動刺激のみでも幻肢の運動. 16). ,振動刺激による. 17). 。さらに筋紡錘からの求心性 24). ,MT. である。. 考   察.  断端の感覚機能については第 1 段階の介入時期に 2 点.  短縮した幻肢を有した上腕切断症例に対して,義手練. 識別覚閾値の改善を認めたことから,自然回復の可能性. 習前の第 1 段階の介入にて Telescoping 現象の改善,幻. に加え,断端の感覚識別課題により感覚機能の向上が得. 肢の随意運動の獲得,断端の感覚機能の向上を図り,第. られた可能性が考えられる。幻肢の投射にはソケットか. 2 段階の介入にて幻肢の投射を行い,第 3 段階の介入に. らの触・圧覚情報を断端が知覚することが重要であ. て幻肢感覚で義手肢位の認知課題,義手での触圧覚の識. る. 別課題を行うことで義手の身体化が生じた。幻肢と義手. 機能の改善が得られたことが,幻肢の投射に貢献したも. の 一 致 率 の 向 上 に 伴 い 義 手 操 作 性・ADL が 向 上 し,. のと考える。. QOL の向上を認めた。.  第 2 段階の介入効果について考察する。本症例は第 2.  第 1 段階の介入効果について考察する。Telescoping. 段階の介入にて義手運動と幻肢運動を同期して行うこと. 現象は対側 S1 における切断肢の体部位再現領域の縮小. で幻肢の投射が行え,義手と幻肢が一致して可動できる. と相関し. 14)15). ,幻肢の随意運動能力は両側の S1・M1 22). 5). 。従って本症例においては義手練習前に断端の感覚. ようになった。この事象は「幻肢と義手を動かす」とい. 。本症例においては MT と振. う意図に対して,義手運動に伴ってソケットやハーネス. 動刺激による運動錯覚の併用により Telescoping 現象の. を通して断端や肩甲帯に生じる触・圧覚 feedback と共. の活動が重要とされる.

(6) 330. 理学療法学 第 45 巻第 5 号. に,義手運動の視覚的 feedback が生じ,さらに幻肢が. 34.4 点,体の痛み 35.9 点,全体的健康感 40.2 点,活力. 動くことで幻肢感覚 feedback が生じているものと考え. 35.6 点,社会生活機能 46.8 点,日常生活機能 39.2 点,. られる。義肢の身体化には断端の鋭敏な感覚機能 常肢と同じサイズの幻肢. 9). ,幻肢感覚 feedback. 肢感覚を含めた多種感覚統合 feedback の統合. 8). 5). ,健. 10). 心の健康 40.2 点であった. 29). 。本症例は活力,社会生活. ,幻. 機能以外の項目は過去の報告より良好な結果であり,義. ,運動の意図と感覚. 手の身体化を図る介入で QOL の向上が得られた可能性. 11)12). の必要性が述べられている。第 1 段. が考えられた。. 階の介入で断端の感覚機能の向上,実大型の幻肢の獲.  本報告の限界はシングルケースデザインが組めていな. 得,幻肢運動とそれに伴う幻肢感覚 feedback が獲得で. い為,前述した 3 段階の介入効果については自然回復の. き,第 2 段階の介入で幻肢感覚を含めた多種感覚統合,. 可能性も十分考えられる。対照群との比較検討もできて. 運動の意図と感覚 feedback の統合が行えた可能性が推. いない為,幻肢の投射を行うことの有用性について明言. 測でき,これらにより幻肢の投射が行えたと考える。ま. できない。また,脳画像解析を行っておらず,各介入が. た,本症例は第 2 段階の介入により幻肢長が 95% から. Telescoping 現象や幻肢の随意運動能力の改善,幻肢の. 100% となり幻肢と義手が完全に一致した。義肢の使用. 投射についての考察は筆者の憶測の域をでない。. は対側 M1・S1 の切断肢の領域の縮小を防ぎ. 25). ,幻肢. 自体がない場合や Telescoping 現象を呈した場合でも義 肢を使用すると,幻肢が出現したり延長したりする現象 2)3). 結   論  Telescoping 現象を呈した上腕切断症例に対して,3. 。本症例も義手の使用により身体. 段階の介入により実大型の幻肢を獲得し,幻肢の投射を. 図式の形成に何らかの影響が生じて幻肢と義手が一致し. 行うことで義手の身体化が行えた。これにより義手操作. たものと考える。. 性・ADL が向上し,QOL の向上を認めた可能性が考え.  第 3 段階の介入効果について考察する。義手肢位の認. られた。これまで幻肢の投射を行う為の具体的な介入方. 知課題,義手での感覚識別課題はどちらの課題も幻肢感. 法を示した報告は少ないことから,本報告が切断の理学. 覚で義手の肢位や接触物の硬さを識別する課題である。. 療法の一助となれば幸いである。. が報告されている. 古くから道具を介して接触した物体の感覚を道具の先端 で感じることが知られており,これは道具が身体図式に 取り込まれることに起因する. 26). 。このことから,第 2・. 3 段階の介入により幻肢を含めた身体図式に義手を取り 込むことで,あたかも幻肢感覚で義手の肢位や接触物の 硬度を感じているように捉えている可能性が考えられ る。本症例の幻肢と義手の一致率は術後 33 ∼ 35 週で 91 mm と高値を示し,義手の身体化が得られたと考え る。同時期に義手の ADL・習熟度評価,SF-36 の PCS が向上し,術後 35 週において ADL・習熟度評価は 75% に,SF-36 の PCS は 61.3 と国民標準値. 27). である 50 を. 超える良好な結果が得られた(表 1)。義肢操作中の幻 肢感覚 feedback で義肢操作性が向上することから. 10)28). ,. 幻肢と義手の一致率が向上し,義手の肢位や接触物を幻 肢感覚で適切に認知できるようになり,義手操作性が向 上し義手の ADL が向上したと考える。PCS は身体状況 に影響を受けることから. 21). ,義手操作性・ADL の向上. が PCS の向上に関与したと考える。MCS は心理状況が 関連する. 21). 。術後 33 ∼ 35 週で個人的な出来事で抑う. つ傾向を呈していたため,MCS は国民標準値以下と なっていると考える。また,RCS は仕事や家事といっ た社会活動に参加できなかった期間が関連する. 21). 。本. 症例は今回の受傷を機に退職しており,社会参加の機会 が減ったことで RCS に改善を認めなかったと考える。 過去の報告では上腕切断を含む上肢切断症例の SF-36 の 下位尺度の平均点は身体機能 54.6 点,日常役割機能. 利益相反  開示すべき利益相反はない。 文  献 1)Melzack R: Phantom limbs and the concept of a neuromatrix. Trends Neursci. 1990; 13: 88‒92. 2)大塚哲也:四肢切断者の幻肢と幻肢痛.PO アカデミー ジャーナル.1996; 7: 161‒177. 3)Giummarra MJ, Georgiou-Karistianis N, et al.: Corporeal awareness and proprioceptive sense of the phantom. Br J Psychol. 2010; 101: 791‒808. 4)Murray CD: An interpretative phenomenological analysis of the embodiment of artificial limbs. Disabil Rehabil. 2004; 19: 963‒973. 5)塚本芳久:作業用義手使用者における感覚の投射.リハビ リテーション医学.1997; 34: 425‒427. 6)Gallagher S: Philosophical conceptions of the self: implications for cognitive science. Trends Cogn Sci. 2000; 4: 14‒21. 7)Imaizumi S, Asai T, et al.: Embodied prosthetic arm stabilizes body posture, while -unembodied one perturbs it. Conscious Cogn. 2016; 45: 75‒88. 8)伊藤宏司,近藤敏之:シリーズ移動知 第 3 巻 環境適応 ─内部表現と予測のメカニズム─(第 1 版) .オーム社, 東京,2010,pp. 154‒162. 9)Giummarra MJ, Gibson SJ, et al.: Mechanisms underlying embodiment, disembodiment and loss of embodiment. Neurosci Biobehav Rev. 2008; 32: 143‒160. 10)Schiefer M, Tan D, et al.: Sensory feedback by peripheral nerve stimulation improves task performance in individuals with upper limb loss using a myoelectric prosthesis. J Neural Eng. 2016 Feb; 13(1): 016001..

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