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日本甲殻類学会 Report
Carcinological Society of Japan
報告
Cancer 27: 57–59 (2018)
ヤシガニ幼体の防衛行動
Defensive behavior of coconut crab juveniles
笹塚 諒
1・浜崎活幸
1Makoto Sasazuka
1and Katsuyuki Hamasaki
1はじめに ヤシガニBirgus latroはオカヤドカリ科Coenobiti-daeに属する1属1種の陸生甲殻類で,インド洋から 西 太 平 洋 の 熱 帯・ 亜 熱 帯 域 に 広 く 分 布 し て い る (Hartnoll, 1988).日本では喜界島以南の南西諸島に 生 息 し, 環 境 省 レ ッ ド リ ス ト で は 絶 滅 危 惧II類 (VU)に指定されている.幼体は貝殻を背負うが, 成長すると貝殻を捨てる(Hamasaki et al., 2014). 高級食材として利用されており,沖縄県の一部地域 では保護条例が施行されているが(藤田,2010), 密漁は後を絶たない.本種は成長に時間を要するこ とが確認されている一方で(Sato et al., 2013),幼 生・幼体期に関する生態学的知見は不足している. 著者らが所属する東京海洋大学増殖生態学研究室 では,ヤシガニを含めたオカヤドカリ類の生息域内 保全に関する研究を進めており,これまでに野外調 査や飼育実験に取り組んできた.本稿では,ふ化か ら飼育した1歳のヤシガニ幼体において,歩脚を用い た防衛行動が観察されたので,その概要を報告する. 材料と方法 2016年6月に鳩間島で許可を得て捕獲したヤシガ ニの抱卵個体を東京海洋大学増殖生態学研究室に搬 入し,養成した.同年7月にふ化した幼生を海水中 でメガロパまで飼育し,メガロパ以降は貝殻を与え て上陸できる環境で飼育した.飼育方法は,浜崎 (2011)とHamasaki et al. (2014) に準拠した.上陸し た幼体は多頭飼育を行い,個体間の行動を観察でき るようにし,本報告は2017年7月のふ化から約1年 経過した幼体(前甲長2.8 mm)の観察に基づいた. 結果と考察 1歳の貝殻に入ったヤシガニ幼体において,歩脚 を振り上げる行動が観察され,動画として記録した (図1A~E).多頭飼育を行っているヤシガニ幼体の うち,1個体が飼料を抱え込んで摂餌している際 に,別個体が近づいてきた.近づいてきた個体が摂 餌中の個体に接触しようとしたところ,摂餌してい る個体が第2胸脚と第3胸脚を勢いよく振り上げる 行動がみられた.この行動は,1つの餌に2個体以 上が群がった際にみられ,歩脚を振り上げられた個 体は常に追い払われた. 貝殻に依存するオカヤドカリ類はヤドカリならで はの外敵に対する防衛行動をとり,危害を加えられ ると基本的に宿貝に籠り,左鋏と扁平化した歩脚で 蓋をする.著者らが飼育した貝殻に入ったヤシガニ 幼体も素手で捕まえるなどの刺激を与えると,オカ ヤドカリ類と同様に貝殻に籠る行動を示すことか ら,貝殻はヤシガニ幼体の防衛に役立っているもの と考えられるが,ヤシガニの歩脚は幼ガニ期からオ カヤドカリ類のようには扁平化しておらず( Hama-saki et al., 2014, 2017),貝殻の蓋としての機能は低 いものと推察される. 東京海洋大学海洋生物資源学部門 〒108–8477 東京都港区港南4–5–7
Department of Marine Biosciences, Tokyo University of Marine Science and Technology, 4–5–7 Konan, Minato, Tokyo 108–8477, Japan
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Cancer 27 (2018) 笹塚 諒・浜崎活幸 著者らがヤシガニ成体を捕獲した際の観察によれ ば,宿貝を捨てたヤシガニは危害を加えられると, 歩脚を勢いよく振り上げ,威嚇して敵を払いのける 行動をとる(図1F).このような行動はオカヤドカ リ類ではみられないことから,貝殻に頼れないヤシ ガニにおいて機能する防衛行動と考えられる.今回 観察されたヤシガニ幼体の歩脚振り上げ行動は,成 体で観察される防衛に関連した行動に類似している ことから,種内競争に加え,オカヤドカリ類に比較 して不完全な貝殻による防衛を補完する外敵に対す る防衛行動としても機能しているものと推察され る. 文 献 藤 田 喜 久,2010.ヤシガニと沖縄の人々の暮らし. Cancer, 19: 41–51. 浜崎活幸,2011.ヤシガニの初期生活史研究-飼育に 図1. 貝殻に入ったヤシガニ幼体が摂餌時に寄ってきた他個体に歩脚を振り上げる行動(A~E),および貝殻 に入っていないヤシガニ成体が威嚇で歩脚を振り上げる行動(F).A~Eは,飼育した個体の撮影動画 より得た.Fは石垣島で第一著者(笹塚)が撮影した.59
Cancer 27 (2018)ヤシガニ幼体の防衛行動 よるアプローチ.Cancer, 20: 73–77.
Hamasaki, K., Ishiyama, N., Yamashita, S. & Kitada, S. 2014. Survival and growth of the coconut Crab Birgus latro under laboratory conditions: Implications for mass production of juveniles. Journal of Crustacean Biology, 34: 309–318.
Hamasaki, K., Tsuru, T., Sanda, T., Fujikawa, S., Dan, S. & Kitada, S., 2017. Ontogenetic change of body color pat-terns in laboratory-raised juveniles of six terrestrial her-mit crab species. Zootaxa, 4226: 521–545.
Hartnoll, R. G., 1988. Evolution, systematic, and geographi-cal distribution. In W. W. Burggren & B. R. McMahon (eds.), Biology of the Land Crabs, Cambridge Universi-ty Press, New York, pp. 6–54.
Sato, T., Yoseda, Y., Abe, O., Shibuno, T., Takada, Y., Dan, S. & Hamasaki, K. 2013. Growth of the coconut crab Birgus latro estimated from mark-recapture using pas-sive integrated transponder (PIT) tags. Aquatic Biology, 19: 143–152.