【総
説】
ファンクショナル・フード
ファクター・データ
ベースと食品の安全性
Functional Food Factor
Database and Food Safety
渡辺 昌,卓 興鋼
Shaw WATANABE, Kyou-Kou TAKU
(独)国立健康・栄養研究所 【要 旨】 機能性食品因子の各種疾患への予防作用を総説し,ヒ トでの有効性,安全性評価のためにあたらしい疫学的 方法の必要性を論じた.多種類のファイトケミカルの 効能や安全性を評価するためには生体内での相互作用 の検討も必要で,そのためには摂取量を包括的に把握 できるようなファイトケミカルの食品含量データベー スが必要である.私達の開発してきたデータベースを 紹介し,フィールド調査に応用してファイトケミカル 摂取量が妥当性をもって計算できることを示せた.ま た,ファイトケミカルの摂取量は必ずしも健康指標と 相関する訳ではなく,肝機能,脂質代謝に悪影響をお よぼす可能性のあるものがあることが示唆された.こ れら結果はフィトケミカルの安全性評価に示唆をあた えるものであり,最近のイソフラボンの安全性に関す る食品安全委員会の報告を例に,問題点を論じた. 【キーワード】 機能性食品,データベース,ファイトケミカル,栄養 疫学,安全性 はじめに 今,野菜や果物,穀類などの植物性食品に含まれるファ イトケミカルが話題となっている.ファイトケミカル (Phytochemicals) の Phyto はギリシア語で「植物」を意味 するから,ファイトケミカルとは,すなわち植物のつく る化学物質のことである.植物自身を繁栄させ,自分の 体を守る仕組みを担っているのが,多くのファイトケミ カルである.ファイトケミカルは,生命を維持するのに 必要な栄養素としてまだ分類されていないものの,抗酸 化など生体機能によく働くものが多く,フラボノイドな どは将来,栄養素として扱われるようになるという可能 性もある.本稿では私たちの作成した FFF (Functional Food Factors) データベースの効能とサプリメントとして の安全性を考えてみたい. 1. ファイトケミカルとがん予防 ファイトケミカルの働きが研究され始めたのは意外に 新しく,20 年ほど前の 1980 年以後のことである.アメ リカの NCI(国立がん研究所)で化学物質プロジェクト が開始され,がん予防のためにファイトケミカルの安全 性と有効性,適用性について研究され始めた.ビタミン やミネラルに富む野菜にはがん予防効果があることか ら,ビタミンやミネラル以外にも病気予防に役立つ物質 があるに違いないと考えられていた.それが植物の化学 物質であるファイトケミカルで,NCI がそれらの機能を 本格的に研究し始めたわけである.これまで 900 以上の ファイトケミカルが食べ物の成分として突き止められ, 野菜のたった一盛りにも 100 種類を超えるファイトケミ カルが存在すると推測されている. 野菜,果物,穀類,キノコ,海藻といった植物性食品 に含まれているファイトケミカルの大部分は,色素や香 り,苦みなどの成分である.これらの成分の発がん抑制 力は,ずば抜けている.臨床的がんのステージⅠかそれ 以上に進んだ段階でも,がんの進行を停止させることが できる.最も,ファイトケミカルの有効性が示された証 拠の殆どは,研究室での実験によるものである.実験動 物に発がん物質と同時に一定量のファイトケミカルを与 えると,確かにファイトケミカルは発がんを抑制する. 動物だけでなく,特定集団を対象とした疫学調査でも, 大豆イソフラボンのようにある種のファイトケミカルは がん予防効果を示す. 受理日:2005 年 6 月 25 日
ファイトケミカルが人間の病気の中でも特にがん予防 物質としてアメリカで推奨されるようなったのは,ごく 最近のことであるが,その将来性は大きく期待されてい る.ファイトケミカルを食べ物から定常的に摂取するこ とで,がんをいっそう阻止できるに違いないからであ る1). 2. 注目されているファイトケミカルの機能 がん抑制効果を持つ代表的なファイトケミカルは,ポ リフェノール,カロテノイド,含硫化合物,テルペン類 などに大きく分けられる.これらの四種のファイトケミ カルは,がんだけでなく,老化や動脈硬化さえも予防す る.この他にも,アミノ酸が複数結合した化合物である ペプチドなど新たなグループも加わってきている. 2.1 ポリフェノール 赤ワイン・ブームで一躍有名になったポリフェノール は二つ以上の水酸基を持つ化合物の総称で,自然界に一 番多いのはフラボノイド群である.これは植物のあくや 色素の成分で葉,花,茎,樹皮などに含まれている.フ ラボノイドは,食物が光合成する時に作られる炭水化物 が複雑な環状化合物に合成されて出来上がった物質で, 緑茶でお馴染みのカテキンや大豆に含まれるイソフラボ ン,玉ねぎに多いケルセチン,りんごのケンペロールな ど自然界には数千種類もある. さらには,ゴマのリグナンや,カレー粉に使われるウ コンのクルクミンなども比較的,摂取されることの多い ポリフェノールである.ポリフェノールの多くは,強い 抗酸化作用をもち,体内に取り込まれると,遺伝子や細 胞が有害なフリーラジカルによって酸化されて傷つけら れるのを防いでくれる.また,イソフラボンはステロイ ドホルモンに似た構造を持つため,抗エストロゲン作用 を示したり,男性ホルモン合成酵素を抑制したりするの で前立腺がん予防が期待される2).オランダの Hertog ら3) は日本を含む 7 カ国にわたる疫学調査により,フラボノ イド(フラボノール,フラボン)摂取量が多いほど冠動 脈心疾患による死亡率が低いことを報告している.ブ ルーベリーに含まれるアントシアニンは網膜のロドプシ ンという色素の回復に役立ち,視力を高める効果があ る4).第二次世界大戦では,ブルーベリージャムがイギ リス軍のパイロットに愛用された.但し,グレープフルー ツ中のヘスペルジンの場合と同様,薬と相互作用を持つ ために思わぬ副作用を強める場合もあり,注意が必要で ある. 2.2 カロテノイド カロテノイドは,主に緑黄色野菜や海藻などに含まれ る一群の色素成分の総称である.これも光合成で作られ る炭化水素が鎖状に長くなってできる.海藻類のフコキ サンチンもカロテノイドで,カロテノイドも自然界に多 く見られるファイトケミカルである.カロテンは黄色, オレンジ色,赤色を示すので見分けがつきやすい.黄色 の色素成分の β-カロテンは,緑の植物の細胞に含まれて いる葉緑素が太陽光線でダメージを受けないよう抗酸化 物質として存在しているもので,緑黄色野菜の他,人参 やジャガイモ,サツマイモにも多く含まれている.赤い 色のリコペンはトマトやスイカにたくさん含まれてい る.他にも,がん予防効果を示すものとして緑黄色野菜 の α-カロテンや蜜柑などの柑橘類の β-クリプトキサン チンなどが有力視されている5). 2.3 含硫化合物 含硫化合物は,文字通り硫黄原子が含まれている化合 物の総称で,硫化アリル,アリシン,イソチオシアネー ドなど多くの種類がある.硫黄原子は体内では微量金属 だが,いずれも硫黄を含むシステインやメチオニンと いった必須アミノ酸や,解毒に必要なグルタチオンなど 重要な機能を持つペプチドやタンパク質の機能を担って いる.含硫化合物はニンニク,ねぎ,玉ねぎなどの香り 成分,大根,わさび,からし菜などアブラナ科の野菜の 辛み成分で,癌や動脈硬化を予防し,肝臓の解毒作用の 働きを強めて発癌物質を無毒化して体外へ排出するなど 様々な効能が期待できる6).ブロッコリーの新芽(スプ ラウト)には,解毒酵素を活性化して発癌物質を無毒化 するスルフォラファン (sulforaphane) という含硫化合物 が,成熟したブロッコリーの 20 倍以上も含まれている. 私達は,一週間男女 12 人に毎日 100 グラムのブロッコ リー・スプラウトを摂ってもらい,血液の過酸化脂質や DNA 障害の変化を測定したところ,わずか一週間でいず れも有意に低くなり,その効果の早さに驚かされた7). 2.4 テルペン類 ハーブや柑橘類の香りや苦み成分であるテルペン類 も,がん予防効果が高い.がん予防実験で効果を示した リモネンは柑橘類特有の爽やかな香り成分で,精神機能 への影響も知られていた.女性に人気のアロマセラピー などで使われるラベンダーなど多くの精油(エッセン シャル・オイル)は,殆どがモノテルペン類に属する. 2.5 ペプチド オリゴペプチドはマクロファージを活性化することで
免疫機能を調整し,また血液中血管筋肉を収縮させるア ンギオテンシン変換酵素 (ACE) を阻害して緩やかな降圧 剤としての利用が期待される8).乳たんぱく質分子のオ リゴペプチドは,摂取後,小腸で消化される途上で顕在 化し,活性をあらわすと考えられている.もうひとつの 可能性は上部消化管上皮に混在するペプチドレセプター と結合して神経,内分泌系回路で生理作用を発揮する可 能性である.摂取後短時間で脳波の変化がみられること などはこの可能性を示唆する. 3. 非栄養性機能物質データベースの必要性 食品中には,脂質,糖質,タンパク質,ビタミン,ミ ネラル等,既知の栄養素の他に生理・薬理機能を持つ物 質が多数存在し,特にフラボノイド,テルペノイド,揮 発性物質,ペプチド等が疾病予防の機能を有すことが明 らかになってきている.しかし,それら化学物質の大部 分は試験管内や実験動物での機能性を示すものであり, 疫学的な介入研究によって,人で実証されたものは殆ど ない.試験管内の反応がそのまま人にまで外挿できるか どうかという点に関しては問題がある9).米国の国立が ん研究所はある食品因子が人に効果を持つと判断する根 拠の強弱について 6 つの段階を提案した.もっとも根拠 が弱いのは個々の症例報告や大家の一言で,よく食品の 宣伝に「こんなに効果のあった人」という例が写真や体 験談として載せられているものである.中等度の根拠と されるのは,症例対照研究,コホート研究,介入研究な どの疫学的方法によって検証されたものである.しかし, 最近,緑茶と胃癌,野菜,柑橘類,穀類摂取と胃癌死亡 率,穀物繊維の大腸ポリープの再発予防などについて多 くの疫学研究が発表されたが,有意な効果を示せなかっ た研究が多い.東北大グループは宮城県に住む約 26000 人の食事調査を行い,9 年間の追跡調査を行った.その 結果,緑茶を飲む杯数が多くなっても,胃癌のリスクは 下がらないという予期せぬ結果になった10).米国の対が ん協会は 14 年間追跡した 120 万人を野菜,柑橘類,穀類 摂取量の大小により 3 グループに分けて,胃癌死亡率を 比べた結果,これら摂取量の多少は胃癌の減少に有意な 差をもたらさなかった.最近の欧米のコホート研究に よっても大腸がん,乳がん,肺がんで,野菜や果物によ るがんのリスク低下は,あまりはっきりしていない.野 菜や果物を元々それなりに食べている人達を相対的な量 の大小で 3 グループに分けてリスクを比較しても,予防 効果が検出できなかったと思われ、これは疫学研究に方 法論の再検討を迫っている. もっとも強力な根拠となると考えられているのは介入 研究あるいは臨床試験である.中国のリンシャンでおこ なわれたベータカロテンとビタミン E による介入研究が 胃がんや全死亡を有意に低下させたことから,大規模な 臨床介入試験がおこなわれたが,いずれも効果どころか, 肺がん罹患や死亡を増やす結果になった11). これら研究はいずれの研究も 10 年近くかかった.食品 因子の効果を判定するのに最終的ながんや循環器疾患の 発生や予防を待っていたのでは 10 年,20 年とかかり,い くつもの食品因子を介入研究によって検討するためには 100 年もかかるかもしれない.疫学研究の研究方法にブ レイクスルールが必要とされている. 多種類の非栄養素機能性食品因子が生体内に入った場 合に,生体内高分子と相乗作用,相加作用,拮抗作用な ど様々な相互作用を起こすと思われる.肺がん予防を目 指した β-カロテンの過剰摂取は逆に肺がんを増加させ, 心筋梗塞なども増えた.単品の過剰摂取はかえって生体 にとって危険となった良い例である.植物中で合成され る各種の化学物質は当然それぞれの物質がバランスを とって完結するシステムを作っているはずであり,食品 として摂取された場合にもシステムとしてのバランスが より効果的に作用すると思われる. 食品中の脂肪,炭水化物,タンパク質,ビタミン,ミ ネラルなどの既知の栄養素データベースとしては日本標 準食品成分表第5訂版が最近出版された.食品によっては 季節差や地域差が考慮されるようになった.私達は年間 1 トン以上の食物を飲み食いしている.100 g 中に数 mg しか含まれていないようなものでも年間数 10 g の摂取に なることもあろう.主たる栄養素に比べ,個人個人の機 能性食品因子摂取量の差は 1000 倍くらいの差になるこ ともある.これが結果的に個々人の健康状態に反映して いるはずである.非栄養素機能性食品因子は食品成分表 に含まれず,研究レベルで食品中に含まれる個別のファ イトケミカルの報告はあるが,総合的に食品に含まれる 含量を定量し,健康への影響を示した研究はない.非栄 養素機能性食品因子の重要性にふまえ,栄養素と同じよ うに摂取量を推定できるデータベースの作成が必要と考 えた.幸い,平成 12 年度から 3 年間の予定で科学技術庁 (現在文部科学省)の生活者ニーズ研究費によってデータ ベース作りが支援され全国の研究者と作成に取り掛かっ た.その後 2 年間延長され,全部で 5 年間のプロジェク トとなった. とりあえず食品因子としてはフラボノイド・ポリフェ ノール類,カロテノイド・テルペノイド,含硫化合物・ 揮発性物質について,食品番号,食品別含量,化学構造, 物理的性質,代謝経路,生理・薬理機能,測定系などに 関するデータを網羅的に収集し,当該分野の既知の知見
を再評価し,それらの知見を標準化,集積することによ り,各般に利用されやすい非栄養性機能物質統合データ ベースを構築することを目指した.栄養調査のデータよ り人の機能性食品因子摂取量を計算できるようにして, 摂取パターンや量をエンドポイントの健康状態と関連づ けて多変量解析し,健康影響を推定する栄養疫学的方法 を開発しようというものである.
4. FFF (Functional Food Factors) データベース による疫学研究 幸い今年からウェブページで公開できるまでにこぎつ けた (http://www.life-science.jp/fff)12).FFF データベースの 有効性を確認するために地域における秤量法による健康 栄養調査のデータをもとにファイトケミカルの摂取量を 計算し,健康診断による血液生化学の値や対象者の既往 歴との関係を検討した. 対象者は,岩手県住民 79 名(男性 16 名,女性 63 名, 平均年齢 63 歳)で,保健センターを通して募集し,栄養 調査の趣旨に同意し,協力を得たボランティアである. 使用した食事調査は 1 日間の秤量法による食事記録であ る.回収時に面接を行い,食品名,摂取量,調理状態等 を確認した.食品名は「五訂日本食品標準成分表」を用 いてコード化し,摂取量は純摂取量を転記・入力した. 食事調査のデータから,作成した機能性食品因子デー タベースを使用し,1 人 1 日あたりの機能性食品因子の 摂取量を算出した.重量ベースで 80 パーセント以上の食 品中のファイトケミカルを計算できた13). 4.1 機能性食品因子の摂取量 カロテノイド,含硫化合物,ポリフェノール,有機酸 について,1 人 1 日あたりの機能性食品因子の平均摂取 量が 0 の機能性食品因子は除いて,平均値,中央値,最 大値,75%タイル,90%タイルを表と図で示した(表 1). たんぱく質や脂質といった主要な栄養素に比べて機能 性食品因子は,個人個人の摂取量の差が大きく,1000 倍 もの差が現れることがある.そのため,平均値が高くと も,75 パーセンタイル,90 パーセンタイルの値が小さけ れば,ごく一部の対象者しか多く摂取していないという ことを意味する.中央値が 10 µmole 以上摂取されてい る機能性食品因子は,カロテノイドでは一つもなく,含 硫化合物では,S-methyl-L-cysteine sulfoxide, S-propyl-L-cysteine sulfoxide, S-1-propenyl-S-propyl-L-cysteine sulfoxide, sothiocyanate であった.ポリフェノールでは,フラボノ イドであるケルセチン,ゲニステイン,ダイゼイン,グ リシテイン,カテキン類である (−)-エピガロカテキン, (−)-エピカテキンであった.有機酸では,クロロゲン酸, フェルラ酸,桂皮酸が 10 µmole 以上摂取していた. 更に,これらの機能性食品因子がどのような食品から 摂取されているのかを調べ,現在,データベースに入っ ている食品の中で上位 3 位までを示す(表 2).S-methyl-L-cysteine sulfoxide, S-propyl-2).S-methyl-L-cysteine sulfoxide, S-1-propenyl-L-cysteine sulfoxide は,たまねぎ,根深ねぎ,葉 ねぎなどねぎ類からの摂取が多かった.Isothiocyanate は, 大根(根),キャベツ,ワサビから多く摂取していた.ケ ルセチンはタマネギ,トマト,モロヘイヤから,ゲニス テイン,ダイゼイン,グリシテインは,糸引き納豆,挽 きわり納豆,木綿豆腐,絹ごし豆腐から多く摂取してい た.(−)-エピガロカテキン,(−)-エピカテキンは,煎茶, ウーロン茶,番茶から多く摂取していた.クロロゲン酸 はコーヒー,ナス,モモから,フェルラ酸は,ナス,食パ ン,飯から,桂皮酸は,モロヘイヤ,ゴボウ,モモから の摂取が多かった. 4.2 機能性食品因子の健康影響 機能性食品因子摂取量と生体指標の相関を見たとこ ろ,各機能性食品因子との間にはいずれも有意な相関は 得られなかった.そこで,主成分分析により 12 の Factor に分類し,年齢による誤差を調整し,それぞれの Factor について生体指標との偏相関を見た.相関の認められな かった Factor と生体指標は除き,相関の認められたもの のみを示した(表 3). Factor 1 は,総たんぱく質,アルブミン,HDL コレス テロールとの間に有意な (p<0.05) 正の相関が見られた. トリアシルグリセロールとの間には,有意な (p<0.05) 負 の相関が見られた.Factor 1 は,総たんぱく質,アルブ ミンとの間に有意な正の相関があり,血中たんぱく質に 良い影響を与えると推測できる.トリアシルグリセロー ルとの間では有意な負の相関,HDL コレステロールでは 有意な正の相関が見られ,また,有意差は認められなかっ たが,LDL コレステロールでは負の相関の傾向にあるこ とから,Factor 1 は,血中脂質に対し,なんらかの良い 影響を与えると考えられる.
Factor 2 は,BMI, ALP, γ-GTP, トリアシルグリセロール との間に有意な正の相関が見られた.Factor 2 は,肝機 能に悪影響を与える可能性があると推測できる.トリア シルグリセロールとの間にも有意な正の相関が見られ た.また,有意差は認められなかったが,総コレステロー ル,LDL コレステロールにも正の相関の傾向があり, HDL コレステロールでは負の相関の傾向が見られるこ とから,血中脂質に対しても,なんらかの悪影響を与え ると推測できる.
Factor 3 は有意ではなくてもいずれにも負の相関がみ られ,イソフラボンの有用性が示された.Factor 4 は, ALP との間に有意な (p<0.05) 正の相関が見られた.反対 に,Factor 5 では,ALP との間に有意な (p<0.01) 負の相 関が見られた.Factor 6 では,トリアシルグリセロール との間に非常に有意な正の相関が認められた.その他の 血中脂質について,有意差は認められなかったが,総コ レステロール,LDL コレステロールでも正相関の傾向が 表 1 フィトケミカルの摂取量 (µmole) (n=79) mean median max percentile
75th 90th α-carotene 0.85 0.7 3.9 1.2 1.9 β-carotene 7.3 6.5 21.1 10.7 14.5 Cryptoxanthin 94.6 0.2 1547 0.5 5.0 Lutein 7.9 5.1 28.8 10.3 22.3 Lycopene 7.2 4.7 43.0 10.4 17.4 Zeaxanthin 0.48 0.3 4.3 0.6 1.1 S-methyl-L-cysteine sulfoxide 120 75.3 672 176 321 S-propyl-L-cysteine sulfoxide 189 106 1244 257 594 S-1-propenyl-L-cysteine sulfoxide 1018 318 6453 1685 2957 S-allyl-L-cysteine sulfoxide 26.3 0 184 36.8 89.3 Isothiocyanate 37.2 25.5 250 54.4 90.2 4-methylsulfinylbutyl isothiocyanate 1.4 0 27.0 0 0 6-methylsulfinylhexyl isothiocyanate 2.1 0 125 0 0 Apigenin 5.9 0 146 0 5.8 Luteolin 1.6 0 13.5 2.0 6.3 Diosmin 0.46 0 14.8 0 0 Chrysoeryol 0.04 0 3.3 0 0 Kaempferol 7.7 2.1 135 7.5 19.9 Quercetin 70.1 55.1 275 117 180 Rutin 2.2 0 33.6 0 8.2 Narirutin 15.0 0 382 0 35.5 Myricetin 0.35 0 3.6 0.3 1.0 Naringenin 24.8 2.8 546 6.6 12.1 Hesperetin 34.3 0 1236 0 109 Neohesperidin 1.2 0 31.8 0 0 Poncirin 0.99 0 25.2 0 0 Neoponcirin 0.63 0 8.7 0 3.3 Genistein 133 121 429 187 228 Daidzein 98.5 87.2 336 142 182 Glycitein 44.8 39.9 134 61.5 80.2 Eryocitrin 0.73 0 27.2 0 0 (−)-Epigallocatechin 1307 1131 6136 1887 2609 (−)-Epicatechin 383 356 1651 556 726 (+)-Catechin 5.0 0 101 0 20.7 Anthocyanidin 20.5 7.0 140 33.0 55.0 Cyanidin 0.94 0 12.8 1.6 3.3 Protocatechuic acid 0.34 0 5.4 0 1.1 Benzonic acid 1.2 0 75.6 0 0 Chlorogenic acid 131 24.0 1101 237 408 Caffeic acid 105 2.8 1090 192 365 Ferulic acid 63.9 52.8 198 84.2 112 Cinnamic acid 58.3 20.3 531 51.1 147 Gallic acid 2.5 0 37.5 0 7.5
あり,HDL コレステロールでは負の相関の傾向が見られ ることから,Factor 2 と同様,血中脂質に対し,なんら かの悪影響を与えると考えられる.Factor 6 のエリオシ トリン,ジオスミンにも,生体に対しなんらかの悪い働 きを持っていると推測される.Factor 8 は,AST との間 に有意な (p<0.05) 負の相関が見られた.AST は,心臓, 肝臓,骨格筋に多く存在し,各臓器や赤血球が障害され ると高値を示す.AST との間に有意な負の相関が見ら れ,生体に良い影響を及ぼすと考えられる.Factor 9 は, 最高血圧,最低血圧ともに有意な正の相関が見られたこ とから,血圧に悪影響を及ぼすと推測できる. Factor 12 は,ChE, 総コレステロール,LDL コレステ ロールとの間に有意な(p<0.05, 総コレステロールは p<0.01)負の相関が見られた.ChE は,肝臓でのたんぱ く質合成能の指標で,ネフローゼ症候群や甲状腺機能亢 進症,また,栄養過多で高値を示すが,反対に,低栄養 状態では低値を示すので,一概に負の相関が良いか悪い か判断するのは難しい.しかし,栄養状態の指標である アルブミンの数値を見ると,3.0 g/dL 以下の低栄養状態 の対象者は一人もいなかったので,低栄養が原因で ChE が低値を示したものではないと推測できる.また,総コ レステロール,LDL コレステロールとの間に非常に有意 な負の相関が見られた.その他の血中脂質について,有 意差は認められなかったが,トリアシルグリセロールと の間で負の相関の傾向があり,HDL コレステロールとの 間では正の相関の傾向が認められることから,Factor 12 は,血中脂質に対し,なんらかの良い影響を与えると推 測できる. 機能性食品因子データベースを完成させることが今後 の課題となる.現段階では,機能性食品因子データベー スのデータが不十分であったため,ゆでて食べた食品を 生のコードに変換したり(野菜類),食べていてもデータ がないために摂取量を算出できなかった食品もあった. 今後,機能性食品因子データベースの未測定食品の数値 を補充し,喫食時に最も近い食品コードを用いて,より 正確な摂取量を算出する必要がある. 5. ファイトケミカルの安全性 5.1 生体内での複合作用 食品中にはフラボノイド以外にもビタミン C, E, β-カ ロテン,低分子ポリフェノールなど,多種多様の抗酸化
表 2 Partial correlation coefficients between phytochemical intake and biochemical markers
Factor 1 Factor 2 Factor 4 Factor 5 Factor 6 Factor 8 Factor 9 Factor 12 BMI −0.002 0.250* −0.222 −0.032 0.074 −0.086 0.116 0.060 SBP 0.123 −0.003 −0.059 0.052 0.004 −0.121 0.228* −0.087 DBP 0.005 −0.002 −0.188 0.020 −0.083 −0.112 0.307** −0.029 AST −0.041 0.173 0.002 −0.049 −0.028 −0.249* 0.087 0.057 ALT −0.078 0.233* 0.011 −0.173 0.057 −0.098 0.066 0.032 γ-GTP 0.012 0.343** 0.125 −0.076 0.129 0.144 −0.021 0.034 ALP 0.018 0.112 0.285* −0.310** −0.006 −0.101 0.131 −0.057 ChE 0.051 −0.025 0.129 −0.165 0.088 0.063 −0.070 −0.255* Total protein(TP) 0.252* 0.069 0.099 0.110 −0.074 −0.133 −0.064 0.048 Alb 0.257* 0.024 0.013 −0.069 0.118 −0.144 −0.037 −0.011 Triacylglycerol(TG) −0.247* 0.228* 0.055 0.010 0.377** 0.012 −0.103 −0.202 Total cholesterol(TChol) 0.041 0.132 0.052 −0.053 0.109 0.045 −0.095 −0.342** HDL cholesterol 0.225* −0.143 −0.015 −0.037 −0.129 0.019 0.005 0.103 LDL cholesterol −0.011 0.149 0.049 −0.055 0.026 0.043 −0.074 −0.356** Factor 1: Neohesperidin, Poncirin, Naringenin, Apigenin
Factor 2: β-carotene, Quercetin, Kaempferol, Lutein, Lycopene, Cinnamic acid Factor 3: Daidzein, Glycitein, Genistein
Factor 4: Hesperetin, Neoponcirin, Narirutin
Factor 5: (−)-Epigallocatechin, (−)-Epicatechin, Benzonic acid Factor 6: Eryocitrin, Diosmin
Factor 7: Chlorogenic acid, Caffeic acid Factor 8: Protocatechuiric acid, Gallic acid Factor 9: Cryptoxanthin, Luteolin Factor 10: (+)-Catechin, Rutin, Ferulic acid Factor 11: Chrysoeryol, Myricetin, α-carotene Factor 12: Zeaxanthin, Cyanidin
表 3 機能性食品因子を多く含む食品 《Carotenoids》 α-carotene 人参・根・皮むき・生,人参・根・皮つき・生,あまのり・焼きのり β-carotene 人参・根・皮むき・生,西洋かぼちゃ・果実・生,モロヘイヤ・茎葉・生 Cryptoxanthin ビール・淡色,温州みかん・じょうのう・早生・生,あまのり・焼きのり Lutein 西洋かぼちゃ・果実・生,モロヘイヤ・茎葉・生,きゅうり・果実・生 Lycopene トマト・果実・生,すいか・生,ミニトマト・果実・生 Zeaxanthin あまのり・焼きのり,あまのり・味付けのり,赤ピーマン・果実・生 《Sulfar compounds》 S-methyl-L-cysteine sulfoxide たまねぎ・りん茎・生,根深ねぎ・葉・軟白・生,葉ねぎ・葉・生 S-propyl-L-cysteine sulfoxide 根深ねぎ・葉・軟白・生,たまねぎ・りん茎・生,葉ねぎ・葉・生 S-1-propenyl-L-cysteine sulfoxide たまねぎ・りん茎・生,根深ねぎ・葉・軟白・生,葉ねぎ・葉・生 S-allyl-L-cysteine sulfoxide 根深ねぎ・葉・軟白・生,葉ねぎ・葉・生,こねぎ・葉・生 Isothiocyanate 大根・根・皮むき・生,キャベツ・結球葉・生,わさび・根茎・生 4-methylsulfinylbutyl isothiocyanate ブロッコリー・花序・生 6-methylsulfinylhexyl isothiocyanate わさび・根茎・生 《Organic acids》 Protocatechuic acid ぶどう・干しぶどう Benzonic acid スイートコーン・未熟種子・生 Chlorogenic acid コーヒー・浸出液,なす・果実・生,もも・生 Caffeic acid コーヒー・浸出液,なす・果実・生,こまつな・葉・生 Ferulic acid なす・果実・生,食パン・市販品,めし・精白米 Cinnamic acid モロヘイヤ・茎葉・生,ごぼう・根・生,もも・生 Gallic acid ぶどう・干しぶどう,パインアップル・缶詰 《Polyphenols》 Flavonoids Apigenin つるむらさき・茎葉・生,パセリ・葉・生,グレープフルーツ・砂じょう・生 Luteolin 青ピーマン・果実・生,ししとうがらし・果実・生,赤ピーマン・果実・生 Diosmin レモン・全果・生,温州みかん・じょうのう・早生・生 Chrysoeryol セロリー・葉柄・生 Kaempferol ケール・葉・生,こまつな・葉・生,モロヘイヤ・茎葉・生 Quercetin たまねぎ・りん茎・生,トマト・果実・生,モロヘイヤ・茎葉・生 Rutin そば・ゆで,干しそば・ゆで,温州みかん・じょうのう・早生・生 Narirutin グレープフルーツ・砂じょう・生,バレンシアオレンジ・濃縮還元飲料, 温州みかん・じょうのう・早生・生 Myricetin バナナ・生,紅茶・浸出液 Naringenin グレープフルーツ・砂じょう・生,グレープフルーツ・ストレートジュース,トマト・果実・生 Hesperetin バレンシアオレンジ・濃縮還元飲料,温州みかん・じょうのう・早生・生, ネーブル・砂じょう・生 Neohesperidin グレープフルーツ・砂じょう・生,グレープフルーツ・ストレートジュース,すだち・果皮・生 Poncirin グレープフルーツ・砂じょう・生,グレープフルーツ・ストレートジュース Neoponcirin 温州みかん・じょうのう・早生・生,ネーブル・砂じょう・生, グレープフルーツ・砂じょう・生 Genistein 糸引き納豆,木綿豆腐,挽きわり納豆 Daidzein 木綿豆腐,糸引き納豆,絹ごし豆腐 Glycitein 糸引き納豆,木綿豆腐,絹ごし豆腐 Eryocitrin レモン・全果・生,ネーブル・砂じょう・生,すだち・果皮・生 Catechins (−)-Epigallocatechin 煎茶・浸出液,ウーロン茶・浸出液,番茶・浸出液 (−)-Epicatechin 煎茶・浸出液,番茶・浸出液,ウーロン茶・浸出液 (+)-Catechin もも・生,りんご・生,りんご・濃縮還元ジュース Anthocyanins Anthocyanidin なす・果実・生,ぶどう・生 Cyanidin ぶどう・生
物質が存在しており,我々はこれらを複合して摂取して いる.生体膜の脂質過酸化において,ビタミン C は細胞 膜中のビタミン E ラジカルの再生反応に寄与する.この ような再生機構は尿酸,グルタチオン,システインなど にもあるが,ビタミン C は最も強い.また,寺尾ら14)は, ビタミン E を含むリポソーム膜の水溶性ラジカル酸化反 応に対するフラボノイドの作用について検討し,フラボ ノイドがビタミン E よりも先にラジカルと反応して減少 し,ビタミン E の減少を遅延させることを報告している. その理由として,フラボノイドがビタミン E と異なり, 極性の違いから細胞膜の界面で作用することを挙げてい る.このような結果から,生体内でも,種種の抗酸化物 質が複合的に作用すると思われる.フラボノイドは,吸 収された後,グルクロン酸などの抱合体,メチル化体, あるいはフリーのまま血中に存在するが,それらの極性 や金属とのキレート作用から,生体内でユニークな役割 を演じる可能性がある.過剰摂取に対する影響も含め, 生体内での複合作用に関して,今後,もっと検討する必 要がある. フラボノイド,ポリフェノールの機能性を分類別で解 説したが,いろいろ機能性に関する研究結果のうち,生 体に対して有益な効果と望ましくない効果が両方存在す る.又有効性を検出できた論文とできなかった論文もと もにある.ミリセチンは試験管内ラット肝 DNA 損傷,脂 質過酸化を引き起こすという報告もある15).EGCG, ケル セチンは試験管内において 10 µM で脂質合成と分解を抑 える DNA のラジカルによる損傷を抑えるが,100 µM で はそれ自身に酸化作用がある16).サルモネラ TA98 株と V79 細胞で遺伝子毒性を分析した結果,ケルセチンとケ ンフェロールは弱い毒性を示した17).ヒト研究では,対 象者の遺伝的素因,栄養状態,疾病の有無,年齢や性別 の違い,研究に利用した成分の品質などの違い,摂取し たときの機能成分とそれ以外の成分の相互作用を含めた 吸収性の違い,が異なる結果をだすと考えられる.期待 する機能性が発現するためには,機能成分が消化管から 体内に吸収され,至適濃度に達しなければならない.そ のような意味において,食品中に含まれる未知成分の同 定や機能性食品因子の生体利用性の研究は極めて重要に なる.また,試験管,細胞,動物実験における効果をヒ トへの適用や健康影響の評価に使うには問題点も多い. フラボノイド,ポリフェノール類を摂取した時の生体内 での機能性を評価するためには,摂取量,吸収・代謝, 他の機能性成分との複合作用について明らかにすること が重要である. 5.2 フラボノイド,ポリフェノール類の摂取量 私たちはフラボノイド,ポリフェノールを野菜,果物, お茶などから毎日摂取している.オランダの Hertog ら18) は,フラボン及びフラボノールの平均摂取量はアグリコ ンとして 23 mg でそのうち 16 mg がケルセチンであるこ とを報告した.この摂取量は,他の抗酸化ビタミンの 1 日当たり平均摂取量(ビタミン A 約 0.6 mg, カロテノイ ド約 1 mg, α-トコフェロール約 15 mg)にひけをとらな い.しかし,これらの研究は数種類のフラボノイドの摂 取量を考慮するだけで,その他のフェノール性化合物は 考慮されていない.さらに,不溶性ポリフェノールの分 析を省略しているので,通常食品におけるポリフェノー ルの実際の含量が過小評価されているということに注意 する必要がある.このように,総ポリフェノール摂取量 の正確な評価はまだ定まっていない. 日本人の女性の食事摂取よりイソフラボン成分表を用 い て 計 算 し た と こ ろ,総 イ ソ フ ラ ボ ン 摂 取 量 は 47.2±23.6 mg/d で,ゲニステインとダイゼインはそれぞ れ 30.5±15.6 mg/d と 16.6±8.0 mg/d であった19).ゲニステ インはイソフラボン摂取量の 3 分の 2 を占め,ダイゼイ ンは全体の 3 分の 1 をしめた.豆腐(すべての種類の 合計)からの摂取量が最も多く(37%),ついで納豆(32 %),味噌(18%)から摂取しており,この大豆食品 3 種 類でイソフラボン摂取量の 87%を,豆類摂取量全体の 86 %を占めていた.秤量法による食事調査より推計したイ ソフラボン摂取量(計算値)の妥当性を検討するため 30 名に対して陰膳調査(実測値)を実施し,両者の相関性 より妥当性を検討した.計算値と実測値の相関係数は, ダ イ ゼ イ ン r=0.816 (p<0.01),ゲ ニ ス テ イ ン r=0.851 (p<0.01) とともに有意な正の相関を示した. イソフラボンの主な作用は,乳癌,子宮癌,卵巣癌, 前立腺癌,結腸癌などエストロゲン関連癌の抑制,抗高 血脂,抗高血圧,抗動脈硬化,抗骨粗しょう症,抗更年 期障害などが報告されている2).その作用メカニズムは イソフラボンのエストロゲン様の作用と大きく関連して いる.イソフラボンは骨格がエストロゲン (Estrogen) に 似た構造のため,エストロゲンレセプターに結合し,エ ストロゲン作用を妨害するために乳腺などの癌化を防ぐ と思われている20).次の作用機構はイソフラボンの抗酸 化能が取り上げられる.イソフラボンの血中 LDL コレス テロール低下作用は動脈硬化などの心血管疾病予防に大 きく寄与している21).ゲニステインはダイゼインに比べ て摂取量,血中濃度が高く,血中半減期も長い.また, エストロゲン様活性もダイゼインに比べて強い.さらに ゲニステインはチロシンケナーゼや,性ホルモン合成酵 素であるアロマターゼや 5α-リダクターゼの抑制,肝臓
における性ホルモン特異的結合蛋白である SHBG (Sex Hormone Binding Globulin) の産生を誘導して遊離エスト ロゲン濃度を低下させることや,血管新生の抑制,抗酸 化性など様々な機能が報告されており,これら作用も一 体となり,疾病予防に寄与していると推察される.ダイ ゼインの代謝産物であるエクオールはゲニステインより もさらに強いエストロゲン様活性を有しており,その効 果が最近注目をあびている22). 5.3 安全委員会のイソフラボンの安全性に関する報告 書 最近,某社のイソフラボン添加味噌が特定保健用食品 に申請されたことから食品安全委員会がパブリックコメ ントを求めるという事件がおきた.安全委員会の結論で はイソフラボンは内分泌撹乱物質であるので投薬による エストラジオールと比較し,血中エストロゲンを低下さ せる量を摂取上限とするべきである,とするものである. これは安全委員会が従来の食品のリスク・アセスメン トをするという基本的立場から「安全性を保障する」と いう立場に変化したような印象をあたえるきわめて問題 の多い報告書となった.多数の文献をレビューしたよう であるが,イソフラボンの安全量をだす方式に平成16年 の国民健康・栄養調査結果の大豆食品の摂取量をつかい, イソフラボン濃度をかけて摂取量とし,その平均値に 1SD を足したものを安全量としたのである. これには以下のような諸点が問題となる.大豆摂取量 は過去から減っており,健康事象との関係をみるために タイムラグの考えが全くされていない.適正量を考える ならトレンドとあわせて分析する必要がある.大豆摂取 量の経年変化,国際的地域差と健康事象をどのように関 連つけて解析したのかわからない. 大豆摂取量は地域差が大きく,しかも摂取量は正規分 布をとらない.本来ファイトケミカルのように摂取量に 千倍もの開きがある場合は 90 パーセンタイルあるいは 95 パーセンタイルが検討され,解析には非線形の検定が おこなわれなければならない.フィールド調査では一日 1000 ミリグラムをこえる摂取者もいる. 同じ大豆食品中でもダイオキシン,ゲニスタイン,グ リシタイン,などおもなイソフラボンだけでもそれぞれ 濃度に差がある.作用機序も異なる化合物がイソフラボ ンとして一括化されるのは安全性を論じる際にかなりの 問題がある.最近の疫学的知見はダイゼインの代謝産物 であるエクオールが最も強く乳がんや前立腺がん予防の 因子であることを示唆している.100 mg または 300 mg のイソフラボンサプリメントを 5 日服用し,生検による 3 名の乳腺組織のIF(isoflavone)を測定した結果ではエ クオールのみが蓄積していた23).それでも尿中の濃度の 100 分の 1 程度である. ヒトでのイソフラボンの有害事象の報告がないにもか かわらず動物実験のデータをもとにヒトへ外挿した議論 が行われている.例えば私達は胎児への移行を早くから 観察したが,これは必ずしもリスクになるわけではない. 日系移民の場合 2 代目からしか乳がんが増加しないこと は,胎生期のゲニスタインの影響で乳腺組織の発育が抑 えられるためと解釈される.これは利点であり,リスク となるものではない.ヒトで大豆摂取が多い国で尿道下 裂が多いという結果は得られていない. イソフラボン投与による効果とホルモン動態の関係 は,まだ食事摂取基準の上限値を設定するほどのデータ がない.少なくとも卵胞期,黄体期のエストロゲン,プ ロゲステロンに加え,アンドロステンジオンなど,ステ ロイドホルモンのネットワークのキーとなるホルモンの 測定が必要であり,一部の結果だけで効能やリスクを評 価するのは拙速であり科学的でない.イソフラボンのヒ トでの内分泌かく乱作用は効能とリスクの境界は不明で あり,不十分なデータに基づく一般論より,申請した食 品に限ってのリスク評価をするべきである. その際に申請した食品の通常の摂取によって,一般集 団のメジアン値に加えて濃度が NOAEL(無毒性量)あ るいは 95 パーセンタイルまたは 99 パーセンタイル値を オーバーするかしないかが,一つの尺度になろう.それ でもそれ以上は過剰摂取なのか,ということは現段階で はいえない.E2 を下げるとしてもそれは乳がん予防への 効果と考えられるからである. 機能性食品因子の薬理作用が明らかになってくると, 食品と薬品の境界がはっきりしないものも現れる.その 際の安全性の指標が必要となろう.β カロテンの場合は 推奨量の 3 倍以上の摂取でリスクになった.私たちの 行ったイソフラボンの安全性試験では 300 mg で LOAEL (最小毒性量)とみなせる症状を訴えるものがいた.イソ フラボンの場合 60–100 mg を推奨量と考えているので, この判断があてはまると思われる. なお,イソフラボンのアグリコンの吸収性に関しては 配糖体より早いといわれる.これは腸内細菌による糖鎖 の切断を必要としないため,上部消化管で吸収されるた めと考えられる.したがってエクオールの産生は低くな ることを示唆している.吸収されたゲニスタイン,ダイ ゼインは約 95%がグルクロン酸胞合体となり,生物学的 活性を失う.そのためアグリコンの摂取はイソフラボン 配糖体より生物活性は低いと考えられる.ヒトにおける 実験はないが論理的帰結であり,このような配慮がなさ れるべきであろう.
終わりに 代替医療にからんで機能性食品あるいはサプリメント として世に出回っているものにはヒトでの効果,安全性 に関する認証が十分でないものが多い24).十分な科学的 証拠に基づく評価が今後必要と思われる.特に疾病予防 のヘルスクレイムが可能になろうとしているので,この 場合はヒトでの臨床介入試験がベースにならねば消費者 の信用や支持を得ることはできない. 参 考 文 献 1) 渡辺昌.食事でがんを予防する.光文堂.東京.2003. 2) 渡辺昌.イソフラボンの生理活性.家森幸男他編.大豆イ ソフラボン.幸書房.東京.2001.
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ABSTRACT
Functional Food Factor Database and Food Safety
Shaw WATANABE, Kyou-Kou TAKU
National Institute of Health and Nutrition
Health effects of functional food factors has prompted paradigm change in nutritional science. Randomized clinical trials with beta-carotene as a supplement, however, ended in the unexpected results. We tried to find a breakthrough for nutrional epidemi-ology, and made a database for calculating all phytochemicals consumed based upon the dietary survey. Application of FFF data-base to the field study made it possible to calculate intake of more than 50 phytochemicals, and correlation analysis between intake of certain phytochemicals and biochemical markers revealed both favorable and unfavorable effects. Such new approach could con-tribute to estimate safety of phytochemicals, and safety of isoflavones was considered from such approach.