抗菌薬開始のタイミング
2012.12.25
慈恵ICU勉強会
久保友貴子
はじめに
重症患者における抗菌薬投与は、感染が疑われた
時点でエンピリック治療として開始されることが
多い。
しかし不適切な抗菌薬投与は耐性菌増加につなが
る問題がある。
重症患者の抗菌薬投与は、①感染症診断の確実性、
②治療介入が遅れた場合のリスク、③耐性菌増加
のリスク、以上3つのバランスより開始のタイミ
ングを考える必要がある。
2つの抗菌薬開始タイミング
①感染が疑われたら培養
を取って、すぐに
エンピリック治療開始
問題点:
• 耐性菌が増える。
• 不適切な抗菌薬投与
の可能性がある。
• 非感染患者に抗菌薬
を投与する可能性が
ある。
②感染が疑われたら培養
を取って、培養結果が
出てから抗菌薬開始
問題点:
• 培養結果が出るまで
治療介入しないため、
感染症であった場合、
状態によっては
Septic Shockにおち
いる危険性がある。
Chest 115.2(Feb 1999):462-74 不適切な抗菌薬投与:重症患者における死亡率のリスクファクターとなるか 【研究・方法】前向きコホート研究 1施設 【対象】2000人のICU入室患者(medical or surgical) 【結果】655人が感染症。そのうち169人(25.8%)が不適切な抗菌薬にて 治療されていた。 院内死亡率:all causes 不適切な抗菌薬投与群 52.1% 適切な抗菌薬投与群 23.5% 感染症関連院内死亡率: 不適切な抗菌薬投与群 42.0% 適切な抗菌薬投与群 17.7% 不適切な抗菌薬投与は院内死亡率を上げる
Intensive Care Med(2007)33:1369-1378 ICU関連感染症の抗菌薬投与:エンピリック治療の継続は結果をよくするか? 【研究・方法】前向きコホート研究 欧米の多施設(8つのSICU) ICU関連感染症が疑われたら培養施行後、エンピリック治療開始 非感染者エンピリック治療継続群と抗菌薬中止群で死亡率を比較 【対象】ICU関連の感染症が疑われた195人の患者(medical or surgical) 【Outcome】28日死亡率 【結果】 195人中39人(20%)が培養陽性で感染症であり、残り80%が非感染者 であった。 28日死亡率:感染症なしの患者で4日間以上エンピリック治療継続されていた 人の方が、抗菌薬投与を中止した人より死亡率が高い。 しかし年齢、患者背景、循環作動薬の使用有無、MOFの因子で多変量解析する とエンピリック治療継続は死亡率低下の独立因子ではなかった。 エンピリック治療は非感染者に抗菌薬を投与する可能性が高い。 非感染者へのエンピリック治療の継続は死亡率を高くする可能性あり。
院内死亡率
最初の抗生剤投与
適切群 28.4%
不適切群 61.9%
前向きコホート研究
Washington University School of Medicineの ICU(1施設)
Medical ICU19床+Surgical ICU18床 1997年7月~1999年7月 492人の敗血症
患者
(そのうち30.3%がSICU患者)
Chest 2000; 118: 146–55敗血症患者は適切な抗菌薬投与が
遅れると死亡率が2.2倍上昇する。
エンピリック治療は非感染者に抗菌薬を投与す
る可能性が高い。また不適切な抗菌薬投与は
死亡率悪化につながる。一方で(敗血症患者で
は)適切な抗菌薬投与開始が遅れると死亡率が
悪化してしまう・・・
Q.
では培養結果を待ってから適切な抗菌薬治療を
開始すると、死亡率は悪化するのか?
方法
【研究種類】2年間の前向きコホート研究
【施設】University of Verginia(USA) 1施設
【対象】SICU入院の患者。18歳以上。
【除外条件】外科処置を受けていない患者、熱傷の患者
【研究参加者】5人の集中治療医
【期間】
2008年9月1日~2009年8月31日
→aggressive strategy
(感染が疑われた時点で培養をとったあとすぐに抗菌薬開始) 2009年9月1日~2010年8月31日
→conservative strategy
(培養から感染のデータが出てから抗菌薬開始)プロトコール
①Aggressive strategy
血培、関連のある培養をとってから12時間以内にエン
ピリック治療開始
72時間後培養で感染が認められなかったら抗菌薬中止
②Conservative strategy
培養から感染のデータが出てから抗菌薬投与開始
どちらとも血培を含む各種培養をとる判断は、発熱、
もしくはそのほかのsepsis兆候があった時とする。
感染巣が明らかである創部感染は、プロトコールから
外してすぐに抗生剤投与開始とする。
【Outcome】
Primary outcome:院内死亡率
Second outcome:
入院期間、抗菌薬治療期間
抗菌薬開始までの時間、抗菌薬治療の適正度
耐性菌感染症の発生頻度
プロトコール、outcomeの
各種言葉の定義
【培養データの定義】
呼吸器感染症:痰培から100000コロニー以上
腹腔内感染症:排液のGram染色
敗血症:Gram染色
尿路感染症:尿培100000コロニー以上
US centers for disease control and
prevention criteria for the definition of
infection
【エンピリック治療】
First choice:
ピペラシリン/タゾバクタム+バンコマイシン
段階的に強さをさげていく
カルバペネムは多剤耐性菌に使用
【抗生剤治療の適正度】
培養結果、感受性検査の結果より、初めから
適切な抗菌薬が選択されているかどうか
【耐性菌感染症の定義・対応】
Gram陰性菌:ペニシリン、βラクタマーゼ
阻害薬、セファロスポリン、フルオロキノロ
ン、カルバペネム、アミノグリコシド
→いずれか2種類以上に耐性があるもの
Gram陽性菌:MRSA、VRE
上記+Clostridium difficileの患者は接触隔離
にて治療を行う
循環動態不安定な患者について
(Septic Shock の患者)
感染が疑わしく、MAP60mmHg以下で
循環作動薬が必要となった患者は、直ちに
抗菌薬投与開始とし研究対象の数から除外
する。
SICU入室患者について
• SICU入室数
Aggressive year 762例
Conservative year 721例
• 入室時にAPACHE Ⅱ
score確認
• 頭部外傷、血管外科の患者
はSICUに入室せず
SICUのICU関連感染症患者
について
• ICU関連感染症患者数
aggressive 101例
conservative 100例
• 年齢、性別、入院期間、
白血球数、既往歴、
APACHE Ⅱ score
→aggressiveと
conservativeで差なし
ICU関連感染症の種類
細菌の種類
【耐性菌】
Gram陰性菌は
conservativeの方が多い
Gram陽性菌は
aggressiveが
conservativeの2倍
Primary Outcome
院内死亡率
Aggressive 27%(27/101)
Conservative 13%(13/100)
P=0.015
Relative risk of death in aggressive
period of 2.1(95% CI1.2-3.8)
Conservativeの方がAggressiveよりも
院内死亡率が低い
Second Outcome
• 抗生剤治療の適正度
Aggressive 62%
Conservative 74%
P=0.0095• 抗生剤治療期間
Aggressive 17.7日
Conservative 12.5日
P=0.0080 Conservativeの方が、初めから 適切な抗菌薬が選択され、かつ 抗菌薬治療期間が短くなる。非感染者への抗菌薬投与率
• Aggressive strategy 151人/661人
(23%)
• Conservative strategy 31人/621人
(5%)
死亡症例の検討
感染症種類別の死亡率 の比較 aggressiveと conservativeでほぼ差 なし 死亡原因は aggressiveと conservativeで 有意差なし死亡関連因子
aggressive vs conservative 有意差あり。
aggressive vs conservativeのオッズ比は2.5と高い。
Septic Shock の患者について
MAP60mmHg以下は 循環作動薬にて治療。 循環作動薬使用した患者において Conservativeの方が抗菌薬治療 開始まで時間がかかっているにも 関わらず、死亡率は低い。Lancet Infect Dis 2012; 12:774-80 Aggressive Conservative