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36 藤原 治ほか 第四紀研究,53(1) 図 1 位置図 A: 調査地域の地形概要. 国土地理院の基盤地図情報を利用.B: ボーリングコアと断面測線の位置. 背景の地図は旧版地形図および 1/2,500 国土基本図などから作成 ( 伊東市史編集委員会 伊東市教育委員会,2013). Fig. 1

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静岡県伊東市のボーリングコアから復元した

6,300~2,000 BC の相対的海水準変動

藤原 治* 

1, a

・入月俊明* 

2

・大林 厳* 

3

・平川一臣* 

4

長谷川四郎* 

5

・内田淳一* 

6

・阿部恒平* 

7  伊豆半島北東岸の静岡県伊東市における 6,300 BC から 2,000 BC にかけての相対的海水準変 動を,ボーリングデータを用いて復元した.相対的海水準は,当時の海底の標高を示す堆積曲線 と古水深のデータを総合して推定した.堆積曲線はコア IT-1 (30 m) とコア IT-2 (10 m) につい て合計 37 個の AMS による14C 年代測定値を使って作成した.古水深は,コア IT-1,IT-2 の堆 積相と貝形虫化石および貝化石の解析結果から復元した.堆積相の解析には,既存のボーリング コア (合計 23 本) と14C 年代測定値も参考にした.これらのデータから,合計 6 つの海面高度の コントロールポイントが得られた.復元された相対的海水準変動曲線からは以下のことが推定さ れる.海面高度は 6,300 BC 頃には-16 m 付近にあり,5,900 BC 頃には-13 m 付近まで上昇し た.完新世の最高海面期は 4,800 BC 頃に認められ,現在よりも約 3~4 m 海面が高かった.海 面高度は 4,600 BC 頃には+1.5 m, 2,900 BC 頃には+1 m となり,2,000 BC 頃には現在とほぼ 同じになった.本研究で復元された 6,300 BC~4,800 BC の相対的海水準上昇量は,地殻上下変 動が小さい地域に比べて 10 m 以上大きい.このことは,調査地域周辺でのローカルな地殻上下 変動を反映しているのかもしれない. キーワード:伊東市,伊豆半島,貝形虫化石群集,海水準変動,完新世,堆積相解析 I. は じ め に  完新世の海面上昇によって生じた海進は,日本列島で は縄文海進と呼ばれる.そのピークは地殻変動が少ない 地域では一般に 6~7 千年前 (およそ 5,000 BC) とされ, この時の相対的海水準は現在よりも 2~3 m 程度高かっ たとされる (例えば,太田ほか,1990;Irizuki et al.,  2001;佐藤,2008;谷川,2009).高海面のピークを越 えた後は,海面の変動は少なく高海面期がつづいてい る.1,000 BC~0 AD 頃には海水準が現在よりも 2~3 m 低下した “弥生の小海退” (井関,1983) が起きたとされ るが,その規模,時期,地域性に関してはまだ議論があ る (田辺・石原,2013).こうした海水準変動は,日本 各地で海面高度を示す地形や地層,あるいは遺跡の分布 高度と年代に基づいて復元されてきた.例えば,地震性 地殻変動が少ない多摩川低地で求められた松島 (1987) や,長期的な地殻変動を補正した佐藤 (2008) などが日 本列島における “標準的な” 海水準変動曲線と考えられ, それらは氷床の融解モデルやマントルのレオロジーを基 にして計算された理論的な海面変動 (Nakada et al.,  1991) とも調和する.  地層記録から完新世の海面変動を復元するには,沖積 2013 年 7 月 22 日受付.2013 年 11 月 16 日受理. * 1 産業技術総合研究所 活断層・地震研究センター 〒305-8567 つくば市東 1-1-1 中央第 7. * 2 島根大学大学院総合理工学研究科地球資源環境学領域 〒690-8504 松江市西川津町 1060. * 3 姫路市立広畑中学校 〒671-1152 姫路市広畑区小松町 3-83. * 4 北海道大学名誉教授 〒060-0810 札幌市北区北 10 条西 5 丁目. * 5 熊本大学大学院自然科学研究科 〒860-8555 熊本市中央区黒髪 2-39-1. * 6 原子力安全基盤機構 〒105-0001 東京都港区虎ノ門 4-1-28 虎ノ門タワーズオフィス. * 7 応用地質(株)エネルギー事業部 〒336-0015 さいたま市南区太田窪 2-2-19. * a Corresponding author : o.fujiwara@aist.go.jp

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層から旧海面高度を示すポイントを検出し,その年代を 明らかにする必要がある.そのポイントには,潮間帯堆 積物のように旧海面高度を直接示すものだけでなく,海 底堆積物のように古水深の補正が必要なものもある.こ の補正は層相や化石の情報を基に行われる.  沖積層は一般に下位より基底礫層,下部砂層,中部泥 層,上部砂層,最上部陸成層に区分される (海津,1994). 沖積低地の地形発達との関係では,基底礫層は網状河川 システム,下部砂層は蛇行河川システム,中部泥層,上 部砂層,最上部陸成層はエスチュアリーとデルタシステ ムに相当する.更に詳しく見ると,上部砂層はデルタフ ロント堆積物,最上部陸成層は現世の河川堆積物に相当 する (例えば,山口ほか,2003;小野,2004;田辺ほ か,2010).  伊豆半島沿岸は,河川勾配が急で沖積低地が狭く,海 面変動の調査に適した地層が少ない.このため,完新世 の海水準変動に関する情報は,幾つかに限られる (太田 ほか,1986;田口,1993).これらの研究によって下田 や伊東で復元された高海面期のピークは日本列島の他の 地域と大きく異なり,2,000~3,000 BP (未較正) 頃に 推定されている.その説明として太田ほか (1986) は, 伊豆半島が 3,000 BP 頃を境界に沈降傾向から隆起に転 じた可能性を指摘した.この最高海面期は貝化石や有孔 虫化石を含む海成層の上限高度,または陸成層と判定さ れる泥炭層の基底高度を基に提唱された.一方,下田か ら南西へ 10 km 足らず離れた田とう牛じ周辺 (図 1-A) では, 最高海面期が6,000 BP (未較正) 頃に認められる (田口, 1993).周辺に活断層の存在を示す地形が分布しない場 所で,旧海面高度が大きく異なる理由は未解明である.  しかし,伊豆半島沿岸の沖積低地での高海面期の推定 には,低地内での沖積層の堆積に伴う地形発達を考慮し ていないという問題がある.特に海面の安定期にはデル タシステムが湾頭から湾口へ前進する結果,旧海面高度 を示す地層は海側ほど新しくなる.下田や伊東の沖積低 地での調査結果は,こうした地形発達の影響を含んでい る可能性がある.  本研究では,伊東低地で新たに掘削した 2 本のボー リングコアを使って沖積層の堆積相と14C 年代値を解析 し,既存のボーリングデータも総合して堆積相の分布を 整理することで,この低地の地層と地形の発達過程を検 討した.また,貝形虫化石群集と貝類化石の組成から古 水深の変遷を推定した.この結果,6,300 BC頃から2,000  BC 頃にかけての相対的海水準変動が明らかになったの で報告する. 図 1 位置図 A:調査地域の地形概要.国土地理院の基盤地図情報を利 用.B:ボーリングコアと断面測線の位置.背景の地図は 旧版地形図および 1/2,500 国土基本図などから作成 (伊東 市史編集委員会・伊東市教育委員会,2013). Fig. 1  Index map A : Topography around the study area.  Modified from Funda-       mental Geospatial Data by Geospatial Information Authority of  Japan.  B : Location of drilling core sites and geological cross  sections.  Base map was after Editorial Committee on Ito City  History and Board of Education, Ito City (2013).

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II. 調 査 地 域  伊東低地は伊豆半島北東部に位置し,三方を鮮新世以 前の火山岩や火砕流からなる山地や丘陵に囲まれ (三梨 ほか,1980),東側で相模湾に面している (図 1).この 低地は伊東大川の下流に形成された三角州性の低地で, 奥行き (北東-南西方向) 約 2.5 km, 海岸部での最大幅 約 1.5 km の広がりを持つ.伊東低地の周辺には大室山 を始めとする東伊豆単成火山群が分布する (図 1-A).伊 東低地が丘陵や山地と接する縁は明瞭な傾斜変換線をな し,これは沖積層の分布と年代も参考にすると,縄文海 進のピーク時における海岸線に対応すると考えられる. 田口 (1993) によれば,高海面期の内湾堆積物と考えら れる貝化石を含む泥層は,現在の海岸から約 1.5 km 内 陸 (図 1-B の 6060 地点) でも認められる.つまり,縄文 海進のピーク以降,伊東低地は伊東大川から供給された 土砂などで埋め立てられ,海岸線は少なくとも 1.5 km ほど海側へ前進した.伊東低地に分布する沖積層は現         在の伊東大川の河口南側で最も厚く 50 m に達し,主に 砂礫層,砂層,シルト層からなる (静岡県地震対策課, 1983).  伊東低地は主に明治以降の埋め立てなどのため,自然 の微地形はほとんど失われているが,陸地測量部による 1880 年代の 1/2 万地形図で見ると,当時の海岸線は現 在の国道 135 号線とほぼ重なり,伊東大川の河口部に は中洲や小規模な三角州が分布していた.旧版地形図や 古い街並みの分布からは,海岸部に標高 5 m 程度の浜 堤が発達する様子が分かる.明治期の地形図に見る伊東 大川の支流は,山麓部に扇状地を作り伊東低地を流れて 合流していたが,現在では人工的に河道の変更・固定が 行われている.伊東周辺での潮位差は最大約 170 cm で ある (気象庁,2010).また,この低地では相模トラフ で発生した歴史地震 (関東地震) に伴う顕著な地殻上下 変動は知られていない. III. 方  法  本研究で使用するボーリングコアは,海岸近くの伊東 市営大川駐車場 (IT-1) と低地の内陸縁近くにある公園 (IT-2) で 2005 年に掘削した (図 1).掘削深度は 30.0  m (IT-1) と 10.5 m (IT-2) で,コア径は 95 mm であ る.DGPS (ディファレンシャル GPS) 測量 (2012 年 12 月) で求められた掘削地点の標高 (TP) は,3.01 m  (IT-1) と 9.45 m (IT-2) である.  両コアは室内で半裁し層相記載を行った.記載後のコ アを 5 mm 程度以下に砕き,肉眼で確認できた貝化石 を同定した.貝形虫化石の分析は,コア IT-1 で貝化石 を含み比較的細粒な標高-14.0~-3.5 m の区間を対 象に,深度方向にほぼ等間隔に 24 試料について行った. 凍結乾燥させた試料にお湯を注ぎホットプレート上で 1 時間程度煮沸して堆積物粒子を分離させ,篩洗浄した. 乾燥後,115 メッシュ (125 μm) より粗粒な残渣を対象 に,約 200 個の貝形虫殻が含まれるよう分割し,双眼 実体顕微鏡下で拾い出した.両殻は 2 個,片殻は 1 個 として計数した.群集組成からの環境推定には,PAST (Paleontological Statistics ; Hammer et al., 2001) を 用いた Q-mode 因子分析を利用した.貝形虫の生態に関 しては Hanai et al. (1977),Okubo (1980),Frydl (1982), Kamiya (1988),Yasuhara and Irizuki (2001),Irizuki  et al. (2006) などを参考にした.  地質断面の作成には,コア IT-1,IT-2 に加えて田 口 (1993) によるコア (コア Ta と呼ぶ) と,静岡県地震 対策課 (1983) に示されたボーリング柱状図のうち掘削 深度 20 m 以上で内湾泥層に達しているものを抽出し, 全体では 25 本を利用した.既存の柱状図は粒径などの 情報を基に凡例を統一して書き直した.これらの柱状図 を整理して,現在の海岸に平行と垂直な方向で合計 3 つの地質断面を作成した (図 2-A~C).堆積相の区分 は一般的なエスチュアリーやデルタの堆積システム (例 えば,Dalrymple et al., 1992;海津,1994;Sato and  Masuda, 2010) を参考にし,堆積環境の推定は層相と 化石の情報に基づいて行った.  地層の年代推定には,コア IT-1 と IT-2 から得られ た 37 個の AMS 年代測定値を用いた (表 1).測定試料 は原則として産状から現地性と推定される貝化石 (全体 的な種構成や層相と調和し摩耗の少ない個体) を対象と し,それらが得られない場合は植物片を用いた.また, 田口 (1993) と斎藤ほか (2003) による合計 5 個の年代測 定値 (表 1:No.38 ~ No.43) も暦年較正して利用した.  14C 年代の暦年較正には OxCal v4.1.7 較正プログラ ム (Bronk Ramsey, 2009) と,較正曲線データ Intcal09, Marine09 (Reimer et al., 2009) を用いた.海洋リザー バ効果は調査地周辺では未知であるため,海洋表層水の 平均値 (ΔR=0) を仮定した.古水深の復元は,主とし て貝形虫化石群集の Q-mode 因子分析の結果によるが, 一部では貝化石や堆積相の情報も援用している.相対的 海水準変動の復元は,地層の標高,年代,古水深に基づ いて行った.

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IV. 堆積相とその分布  田口 (1993) はコア Ta (深度 37 m) の層相と貝化石お よび有孔虫化石の特徴と,周辺のボーリングコアの層相 (静岡県地震対策課,1983) を参考に堆積環境の変遷を 考察した.その地質断面には,一般的な沖積層の断面と 同じく,下部砂層,中部泥層,上部砂層,最上部陸成層 と解釈される地層の累積が認められる.しかし,それぞ れの層相が沖積低地の発達過程でどのように分布するか を考慮していない.特に最高海面期の推定に,低地内陸 部にあるコア 6060 (図 1-B) で見られる貝化石を含む泥 層の上限高度 (+1.2 m) を使っているが,その年代推定 に問題がある.つまり,コア Ta で14C 年代測定値から 推定された海成層上限の年代を,約 1 km 陸側にあるコ ア 6060 に適用し,両コアで見られる貝化石を含む泥層 が同時に堆積したと仮定している.これは沖積層の発達 過程から見ると誤差が非常に大きい.  本研究では,既存のボーリング柱状図も利用して,層 相と化石のデータを基に沖積層の発達過程を考慮しつつ 伊東低地の堆積相区分を行った.その結果,伊東低地の 地質断面に見られる地層は,次に述べる A から F まで の 6 つの堆積相に区分される.  1. 堆 積 相 A  記載:堆積相 A はシルト層,砂層,砂礫層の互層から なる.シルト層は時折礫を含み,場所によっては腐植質 である.層厚は 10 m 以上に達し,コア OBF008,Ta,  6056 では基盤を不整合に覆う.  解釈:堆積相 A は,層序的位置と層相からは一般的 図 2 地質断面図 A:伊東低地の海-陸方向の断面 (a-b) と堆積相.B:海岸に平行な断面 (c-d) と堆積相. C:海岸に平行な断面 (e-f) と堆積相. Fig. 2  Geological cross sections of study area A : Shore-normal cross section (a-b) and inferred sedimentary facies.  B : Shore-parallel  cross section (c-d) and inferred sedimentary facies.  C : Shore-parallel cross section (e-f)  and inferred sedimentary facies.

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な沖積層では下部砂層に相当する.植物片に富み貝化石 が見られないことは陸上での堆積を示唆する.堆積相 A は基盤を直接覆い,エスチュアリー堆積物 (堆積相 B) に覆われることから,河川システムの一部と解釈さ れる.砂礫質の部分はチャネル,シルト質の部分や腐植 質層は氾濫原の湿地などの堆積物と考えられる.  2. 堆 積 相 B  堆積相 B はシルト層,砂層,砂礫層からなる.層相 と湾内での分布位置によって海側の粗粒な部分 (B1), 中央部の細粒な部分 (B2),陸側の粗粒な部分 (B3) に 分かれる.堆積相 B1 は砂層を主とし,コア IT-1 や 6156 などで見られ,地質断面では上に凸型の形状を示す (図 表 1 年代 Table 1  List of 14C ages

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2-A, C).最も海側のコアでは貝化石を含む砂層を主と するが,その陸側の凸部に位置するコア IT-1 と 6156 では貝化石が見られず礫混じりである.コア IT-1 では 標高-16.0 m より下位が堆積相 B1 にあたり,生痕化 石を含む中粒砂層を主とする (図 3-A).この砂層は下部 では泥質であるが,標高-20.6 m 付近から上位へ次第 に淘汰が良くなる.また,多くは層厚 30 cm 以下であ るが稀に最大で層厚 100 cm に達する砂礫層を挟む.礫 は円~亜円の細~中礫が主である.砂礫層は基底に侵食 面を持ち級化や逆級化構造を示し,上面には侵食から免 れたマッドドレイプが見られる.砂礫層の挟在頻度や礫 径は堆積相 B1 の上位ほど減少する. 測定結果 from the study area

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 堆積相 B2 は細粒砂層とシルト層の互層からなる (図 2).全体に貝化石を含むが,詳しい堆積構造は不明であ る.田口 (1993) によるコア Ta の標高-31.0~-18.8  m の区間が堆積相 B2 に相当し (図 2-A, C),カゴメモ ツボ (Clathrofenella reticulata),マツヤマワスレ (Cal- lista chinensis) など浅い内湾に棲む貝化石を含む.コ ア 6156 では貝化石や植物片を含むシルト層からなる. 堆積相 B3 は礫混じりの砂層を主とし,有機質のシルト 層を挟む.  解釈:堆積相 B は,層序的位置と層相からは一般的 な沖積層で言う下部砂層から中部泥層に相当する.堆積 相 B1 は海寄りの地点では貝化石を含み,海成層と考え られる.その陸側で凸型に高まる部分では葉理が発達し た砂層と級化や逆級化を示す砂礫層を主体とし,強い流 れの影響下での堆積を示す.堆積相 B2 は,堆積相 B1 が作る高まりで閉塞された凹地を埋めているが,貝化石 を含む泥層を主体とし静穏な海底環境を示唆する.堆積 相 B3 は有機物に富むことから,陸源物質の供給が多い 環境で堆積したと考えられる.海-陸方向での B1,B2, B3 の配列を考慮すると,堆積相 B は Darlymple et al.  図 3 コア写真

A:堆積相 B1 (コア IT-1 標高-21.8~-21.3 m).砂層と砂礫層の互層で生物擾乱が目立つ.B:堆積相 C (コア IT-1 標 高-15.8~-15.3 m).生痕化石や貝化石を含む泥質の細粒砂からなり,粗粒砂層を挟む.C:堆積相 C (コア IT-2 標高 0.7~1.2 m).カワアイなどの化石を含む均質なシルト層.D:堆積相 D (コア IT-1 標高-12.5~-12.0 m).貝化石を含 む均質な泥質極細粒砂層.E:堆積相 E 下部 (コア IT-1 標高-6.5~-6.0 m).貝化石を含む細粒~極粗粒砂層とシルト層 の互層.F:堆積相 E 上部 (コア IT-1 標高-1.7~-1.2 m).火山ガラスに富む黒色のシルト層,白色の粘土層,細粒~粗 粒砂層の互層.斜交層理が見られる.G:堆積相 F (コア IT-2 標高 2.85~3.35 m).腐植質の葉理を伴うシルト層.H:堆 積相 F に挟まるスコリア質砂層 (コア IT-2 標高 5.15~5.65 m).斜交層理が発達する. Fig. 3  Photographs of the cores A : Facies B1 (Core IT-1 : TP -21.8~-21.3 m).  Alternation of sand beds and gravelly sand beds with bioturbation.  B :  Facies C (Core IT-1 : TP -15.8~-15.3 m).  Bioturbated muddy fine sand beds with molluscan shells and coarse sand layers.   C : Facies C (Core IT-2 : TP 0.65~1.15 m).  Massive silt beds rich in molluscan fossils, mainly Cerithidea (Cerithideopsilla)  djadjariensis.  D : Facies D (Core IT-1 : TP -12.5~-12.0 m). Massive muddy very fine sand beds with molluscan fossils.   E : Facies E (lower part) (Core IT-1 : TP -6.5~-6.0 m).  Alternation of fine to very coarse sand beds and silt beds with  molluscan fossils.  F : Facies E (upper part).  (Core IT-1 : TP -1.7~-1.2 m).  Alternated beds of silt rich in volcanic  glass shards, clay and sand, in which the cross stratifications are observed.  G : Facies F (Core IT-2 : TP 2.85~3.35 m).   Silt beds with humic silt layers.  H : Cross-laminated scoriaceous sand beds in Facies F (Core IT-2 : TP 5.15~5.65 m).

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(1992) による波浪卓越型のエスチュアリーシステムの 一部と解釈される.  Darlymple et al. (1992) の区分に従えば,堆積相 B1 は沿岸流や波の営力を強く受けるエスチュアリーの outer zone, 海側の部分は主に外浜の堆積物,その陸側 の高まりは湾口を塞ぐバリアーに相当する.その一部は 海進時に湾口部に形成された砂嘴の可能性もある.東京 低地などではエスチュアリー堆積物を覆う砂嘴が報告さ れている (例えば,田辺ほか,2010).堆積相 B2 は最 も低エネルギー環境であるエスチュアリーの中央部 (central Basin),堆積相 B3 は河川の影響が強いエス チュアリー奥の bay-head delta に当たる.コア 6156 に 見られる堆積相 B は,堆積相 D や E の形成以降も伊東 大川の支流沿いに残った入り江の堆積物と解釈される が,層相などの情報が少ないので,B1~B3 の区分は行 なっていない.図 2-B では層相に関する情報が少ない ので堆積相 B1 と B2 を区別せず,B1/B2 と表現した.  3. 堆 積 相 C  記載:堆積相 C はコア IT-1 とコア IT-2 で見られる (図 2-A, B).コア IT-1 では標高-16.0~-13.15 m の 区間を構成し,主に生痕化石や貝化石を含む泥質の細粒 砂層からなる (図 3-B).基底に侵食面を持ち級化を示 す粗粒砂層が頻繁に挟まるが,その挟在頻度や層厚は上 位へ減少する.貝化石は下部では潮間帯に棲むウミニナ (Batillaria multiformis) やシラトリモドキ (Hetero-

macoma irus) などが目立つが,上部 (標高-12.8~       -12.6 m 付近) ではトマヤガイ (Cardita leana) など潮 間帯中・下部の種が目立つ.  コア IT-2 では標高 1.45 m より低い区間に見られ, 暗灰色~暗褐灰色のシルト層を主とするが (図 3-C), 上部の 0.3 m ほどは極細粒砂層からなる.生物擾乱の ために堆積構造は残っていない.カワアイ (Cerithidea (Cerithideopsilla) djadjariensis) など内湾潮間帯に生 息する貝の化石が多産する.全層にわたって径 1~数 cm のノジュールが見られ,植物片や木片も含む.  解釈:堆積相 C は層相と貝化石の特徴から,潮間帯 で堆積したものである.コア IT-2 では旧汀線近くに位 置し,内湾奥の泥干潟の環境を示す.コア IT-1 では湾 口のバリアー (堆積相 B1) の上にあたり,湾口部にでき た砂質干潟と解釈される.  4. 堆 積 相 D  記載:堆積相 D は地質断面の中部に広く認められ,貝 化石を含む均質な泥質細粒砂層またはシルト層を主とす る.層厚はコア IT-1 では約 2.8 m と薄いが他の場所で はおよそ 8~14 m である.コア IT-1 では標高-13.15 ~-10.40 m 付近にかけて見られる.最下部は泥質細粒 砂層からなり細礫や粘土礫混じりの中粒~粗粒砂層を挟 む.中・上部はやや細粒で泥質極細粒砂層を主とす る (図 3-D).代表的な貝化石はマツヤマワスレ,フス マガイ (Clementia vatheleti) などで潮下帯~水深 20 m 前後の環境を示唆する種が目立つ.田口 (1993) による コア Ta では標高-18.8~-11.0 m 付近を占めるシル ト層が堆積相 D に相当し,潮間帯やその周辺の内湾に 棲む貝化石を含む.  解釈:堆積相 D は一般的な沖積層では中部泥層に相 当する.この泥質の地層は,通常時の波浪限界よりも深 く,浮流で運ばれた泥粒子が静かに沈積する環境での堆 積を示す.これはプロデルタ (prodelta) の堆積物であ る.時折挟まる砂層は,洪水やストームなどによる堆積 物と考えられる.  5. 堆 積 相 E  記載:堆積相 E は地質断面の上部におよそ 8~10 m 程度の層厚で分布し,貝化石を含み全体として上方粗粒 化を示す砂層で特徴付けられる.コア IT-1 では標高       -10.4~-1.05 m の区間が堆積相 E に相当し,カガミ ガイ (Phacosoma japonicum) などの貝化石や,ウニ (チャガマモドキ:Brisaster owstoni) を含む細粒~極 粗粒砂層とシルト層の互層からなる (図 3-E).砂層は基 底に侵食面を持ち,全体としては級化構造を示すことが 多く,上面をマッドドレイプで覆われることもある.砂 層の堆積構造としては,下部には平行葉理や斜交層理, 上部にはリップル葉理が見られる.また,逆級化構造や, 逆級化と級化が繰り返す多重級化構造が見られることも ある.一部の砂層にはハンモック状斜交層理 (HCS:例 えば Harms et al., 1975) と考えられる,上に凸で緩く うねる構造も認められる.標高-3.3 m 付近までは上位 ほど砂層の挟在頻度,層厚,粒径,礫の含有量とも増大 傾向を示し,生痕化石や貝化石を含む.代表的な貝化石 はマツヤマワスレ,チゴトリガイ (Fulvia hungerfordi) など,主に潮下帯よりも深い海に棲む種である.チャガ マモドキも一般に水深 10 m 程度よりも深い海に棲むと される (Nishiyama, 1968).標高-5.2 m 付近より上位 では,これらの種に加えて潮間帯下部周辺を好むキサ ゴ (Umbonium costatum) が含まれる.標高-3.3 m 付 近より上位では細粒化し,貝化石を含まなくなる.この 区間は黒色のシルト層 (主構成物は火山ガラス),葉理 の発達する白色の粘土層,細粒~粗粒砂層の細互層から なり斜交層理が発達する部分もある (図 3-F).田口

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(1993) によるコア Ta では標高-11.0~-0.3 m 付近 を占める砂層が堆積相 E に相当する.  解釈:堆積相 E は一般的な沖積層では上部砂層に相 当する.この堆積相が示す上方粗粒化は,貝化石の変遷 も考慮すると,浅海化が進むことによって水理営力が増 加し,また,堆積物供給源である河口との距離が接近し たことが原因と考えられる.このような特徴はデルタが 前進する過程でよく見られる (例えば,Bhattacharya  and Walker, 1992).堆積相 E はデルタフロント堆積物 である.堆積相 E に挟まる砂層は,強い流れや波浪で 形成された堆積構造を持ち,洪水や台風などによる堆積 物と考えられる.  6. 堆 積 相 F  記載:シルト層,砂層,砂礫層の互層からなる.シル ト層は腐植質のこともある.コア IT-1 では標高-1.05 ~1.2 m の区間を占め,下位層を削り込んで覆い,中~ 大礫を含む淘汰の悪い砂礫層からなる.基質はシルトや 砂など雑多な構成で,掘削時にコアが乱れており,詳し い層相は不明である.コア IT-2 では標高 1.45~8.93 m の区間を占め,下部の 0.75 m は極細粒~細粒砂層,そ の上位は暗灰色~暗褐灰色のシルト層や砂層からなり, 一部で腐植質である (図 3-G).何枚かのスコリア層が 見られ,最も厚いものは約 1.9 m に達する (図 3-H). この厚いスコリア層は斜交層理が発達し,全体として上 方粗粒化を示す.  解釈:堆積相 F は最上部陸成層に相当する.植物片 に富み貝化石が見られないことは陸上での堆積を示唆す る.シルト層や腐植層は氾濫原の湿地などの堆積物であ ろう.シルト層に挟まる砂礫層は主に河川チャネルの堆 積物と考えられるが,山際に近い地点については扇状地 性の堆積物の可能性が高い.コア IT-2 で見られる厚い スコリア層が示す逆級化構造は,氾濫原堆積物において 図 4 貝形虫化石群集の Q-mode 因子分析結果 貝形虫化石群集が示す環境変化は堆積相の重なりとおおよそ対応している.柱状図の凡例は図 5-A と同じ. Fig. 4  Depositional environments estimated from Q-mode factor analysis of fossil ostracode assemblages Environmental change suggested by fossil ostracode assemblages is generally contemporaneous with  the succession of the sedimentary facies.  Legends for the columnar section are same as Fig. 5-A.

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は洪水堆積物の特徴である (増田・伊勢屋,1985).後 述のように,このスコリア層は 2,000 BC 頃に堆積して いる.これは斎藤ほか (2003) が示した大室山テフラ (スコリアが主体) の噴出年代 (2,411~1,877 BC;表 1, No. 43) とほぼ一致する.大室山テフラは伊東大川上流 域に広く分布し (古谷野ほか,1996),これが火山泥流 として流下してIT-2地点に厚く堆積したと考えられる. V. 貝形虫化石群集  コア IT-1 における堆積相 C 上部から堆積相 E までの 24 試料から,約 130 種の保存良好な貝形虫化石が抽出さ れた.これらは黒潮暖流の影響を受ける沿岸から浅海に 生息し,多産種は湾沿岸砂底種の Loxoconcha uranou- chiensis,潮間帯から潮下帯の海藻やアマモ上に生息す る Aurila 属 (A. corniculata, A. cymba, A. munechikai), Loxoconcha japonica, Xestoleberis 属 (X. hanaii, X. opalescenta, X. sagamiensis),および Paradoxostoma 属の種であった.また,最上部の泥質堆積物から得られ た 1 試料からは Nipponocythere bicarinata が優占する 特異な群集が得られた.一方,Bicornucythere bisanensis,  Cytheromorpha acupunctata などの閉鎖的内湾泥底 種 (池谷・塩崎,1993) は認められないので,堆積相 C~ E の堆積時には,湾口は大きく開いていたと考えられる. 主要な種の電子顕微鏡写真を図版Ⅰに示す.  貝形虫化石群集に基づいて,古環境の垂直変化を定量 的に検討するため,Q-mode 因子分析を行った.分析 は統計上有意に産出したとみなせる 62 種と 100 個体以 上が含まれていた 21 試料に対して行った.その結果,4 つの因子で全体の 89.7% の分散 (寄与率) を説明するこ とがわかった (図 4).それぞれの因子得点は表 2 に示し た.因子 1 (寄与率:67.7%) では,潮間帯から潮下帯の 海藻やアマモ上に生息する A. munechikai, Neonesidea oligodentata, および L. japonica の因子得点が高く,そ れぞれ 3.53,3.36,3.06 である.また,開放的な沿岸 砂底に生息する Schizocythere kishinouyei の因子得点 も 3.00 と高い.因子 1 は湾沿岸砂底に発達した藻場の 環境を示唆する.因子 2 (寄与率:12.5%) では,湾沿 岸砂底に多産するL. uranouchiensisの因子得点が6.70 と最も高く,同様に河口や沿岸砂底に生息する Pon- tocythere subjaponica も 1.79 と高い因子得点を持つ. 因子 2 は湾沿岸~河口周辺の砂底環境を示唆する.因子 3 (寄与率:6.2%) では,沿岸砂底から湾中央部砂質泥 底まで認められる Parakrithella pseudadonta と海藻上 に生息する X. sagamiensis が,それぞれ-4.99,-2.57 表 2 因子分析に用いた貝形虫種の因子得点 Table 2  Factor score of the ostracode species used for  Q-mode factor analysis

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と負の因子得点が高い.また,湾中央部泥底に生息する N. bicarinata, Pistocythereis bradyi, Callistocythere alata もそれぞれ-2.43,-1.83,-1.63 と高い負の因 子得点を持つ.さらに,千葉県の館山湾で水深 15~20 m 前後の砂底に卓越する Aurila kiritsubo (Frydl, 1982) も-1.56 と負の因子得点が高い.因子 3 は,様々な環境

の貝形虫殻が混在する流れの影響を受けやすい開放的な 湾中央部の砂質泥底の環境を示唆する.因子 4 (寄与率: 3.4%) では,湾中央部泥底種の N. bicarinata が 5.08 と高い正の因子得点を持ち,潮間帯~潮下帯の海藻上に 生息する L. japonica, X. hanaii, A. cymba がそれぞ れ,2.37,2.19,1.82 と高い正の因子得点を持つ.因

図 5 地層の年代と堆積曲線

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子 4 は,因子 3 が示す環境よりも浅い開放的な湾口部 の環境を示唆する.  これらの因子は堆積相ともおおよそ対応している.因 子負荷量の絶対値が高い部分は,堆積相 C 上部では因 子 2,堆積相 D では因子 3,堆積相 E の下部から中部 では因子 4,堆積相 E の上部では因子 1 となる (図 4). VI. 堆 積 年 代  コア IT-1 から得られた 28 個の14C 年代値は,全て 約 7,600 BC より若い年代を示した (表 1).そのうち主 に貝化石を含む区間について年代値を現在の標高に対し てプロットした堆積曲線 (増田,1998) を作成した (図 5-A).殆どの試料の年代は層序関係と整合しており, 滑らかな堆積曲線が得られた.ただし試料 No. 3 と No.  7 は掘削中に上位層から混じり込んだ試料である可能性 があるので除外した.これらは全体的な傾向より 200~ 500 年も若い.コア IT-2 から得られた 9 個の14C 年代 値 (表 1) は,5,197~4,876 BC 以降の値を示し,何れも 層序関係と矛盾しない (図 5-B).なお,年代推定に有 効な火山灰層は,目視では未確認である.  コア Ta から得られた年代とコア IT-1 と IT-2 の堆 積曲線を考慮すると,これらの地点において堆積層 B から F が形成された時期は次のように推定される (図 2, 図 5).堆積相 B は明らかに層序と矛盾する値 (表 1 の No. 41) を除くと,7,600 BC 頃から 6,500 BC 頃にかけ て堆積した.堆積相 C はコア IT-1 では 6,500 BC 頃か ら 5,700 BC 頃にかけて堆積し,コア IT-2 では 4,600 ~4,500 BC 頃には堆積し終えた.堆積相 D は 5,700 BC 頃から 4,500 BC 頃にかけて,堆積相 E は 4,500 BC 頃 から 2,000 BC 頃にかけてそれぞれ堆積した.堆積相 F はコア IT-1 では 2,000 BC 以降に,コア IT-2 では 4,600 ~4,500 BC 以降に堆積した. VII. 相対的海水準変動  ここまでで図 2 に示した沖積層が主に 7,600 BC 以降 に形成されたエスチュアリーとデルタのシステムである ことを示した.次に,伊東低地の堆積システムの発達を 考慮しつつ,相対的海水準変動を復元する.  1. 伊東低地の相対的海水準変動  堆積曲線は当時の海底面の高さを示しており,そこに 古水深を加えたものが海面高度にあたる.ここではコア IT-1 の堆積曲線に全データを投影して議論する (図 5-A).海面高度の推定には,図 5-A 中で①~⑥の 6 つ のコントロールポイントを設定した. Fig. 5  14C ages and depositional curves of the cores A : Core IT-1.  Reconstructed relative sea-level curve is shown with relative sea-level control points.   B : Core IT-2.

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 ポイント① (6,300 BC 頃) はコア IT-1 の堆積相 C の 基底である.これは湾口のバリアー上に干潟が形成さ        れ始めた時期の海面高度を示している.ポイント② (5,900 BC 頃) は堆積相 D 基底で,潮間帯中・下部の環 境が示唆され,古水深としては数 m 未満である.層相, 貝形虫化石,貝類化石からは上位へ内湾が次第に拡大し 水深が増加する様子が復元される.ポイント③ (標高        -11.20 m 付近;4,800 BC 頃) は層相が最も細粒で貝 形虫化石群集から推定される水深が最大となる層準であ る.これは貝形虫化石群集で高い因子負荷量が因子 3 から因子4へと変化する層準に当たる.その古水深はA. kiritsubo や Cytheropteron donghaiense が比較的多い ので,15~20 m と推定される.ただし,水深 20 m 以深 に生息する Cytheropteron uchioi など (Yasuhara et al.,  2005) は認められないので,この見積もりは最大値を示 すと考えられる.このため,図 5-A では,15 m 程度の 水深を推定した.  ポイント④はコア IT-2 で堆積相 C (潮間帯の干潟) と堆積相 F (氾濫原) の境界 (4,600 BC 頃) に認定した もので,旧海面高度 (約 1.5 m) を示す.ここでコア IT-1 の堆積曲線が示す海底面の高さ (約-10.3 m) に旧海面 高度を加えると,IT-1 地点での水深は約 12 m と推定 される.この値はポイント③で貝形虫群集が示す水深 (約 15 m) より数 m 浅い.ポイント④の水深が③より浅 いことは,ポイント③から④へ貝形虫群集の因子 4 の因 子負荷量が増加し,因子 3 の因子負荷量が高い負の値 から 0 に向け変化すること (図 4) や,層相が堆積相 D (プロデルタ) 最上部から堆積相 E (デルタフロント) へ 変わることからも示唆される.  ポイント⑤ (2,900 BC 頃) はコア IT-1 でキサゴとマ ツヤマワスレが共産し始める層準である.ポイント⑤を 含む堆積相 E 上部は常時波浪の影響を受ける上部外浜 相である.外浜の下限は水深約 6 m (斎藤,1989) 程度 とされる.ここではカガミガイなどが産出することも考 慮して,堆積相 E 上部は水深約 6 m から潮間帯の間で 堆積したと推定した.  ポイント⑥はコア Ta における堆積相 E (デルタフロ ント堆積物) と堆積相 F (氾濫原堆積物) の境界 (-0.3  m 付近) で,田口 (1993) でも離水を示す地層境界として 海面高度の指標に使われた.堆積相 E の上面には凹凸 があり後年の侵食が伺われるが (図 2-A, B),コア Ta は 堆積相 E の上限高度が最も高い地点であり,侵食量は少 ないと判断した.ポイント⑥の年代推定では,コア Ta と コア IT-1 は現在の海岸からほぼ同じ距離にあるので (図 1-B),両地点での離水時期を地質学的には同時とみ なして差支えないだろう.その年代は,コア IT-1 での 堆積相 E 最上部の年代 (2,064~1,963 BC) より若く,コ アTaでの堆積相F基底部の年代 (2,711~2,009 BC) よ り古いと考えられ,2,000 BC 頃と推定される.  以上の結果から,伊東低地での海面は 6,300 BC 頃に は約-16 m にあり,5,900 BC 頃には約-13 m にまで 上昇した.海面高度は 4,800 BC 頃に最高に達した (+3 ~4 m 程度) 後,僅かに低下し 4,600~4,500 BC 頃には 約+1.5 m, 2,900 BC 頃には約+1 m となり,2,000 BC 頃には現在とほぼ同じ高さに近づいたと推定される.な お,これらの推定誤差については,ポイント① (潮間帯 の内にある) と④ (干潟堆積物の上面) では潮位差程度, ポイント②,⑤,⑥では数 m 程度,ポイント③では最 大 5 m 程度と考えられる.  2. 他地域との相対的海水準変動の比較  コア IT-1 で復元された相対的海水準変動の特徴は, 6,300 BC 頃から 4,800 BC 頃までの相対的海水準上昇の 量と速度が非常に大きいことである.その量は,約1,500 年間に-16 m から+3~4 m まで 19~20 m (12.7~13.3  m/1000 年) にも達する.完新世初期から中期にかけて の海面上昇速度は,6,000 BC 頃を境界に急低下したこ とが,ハイドロアイソスタシーや地殻変動の影響が少な いシンガポール (Bird et al., 2007) や,地殻変動の影響 が少ない兵庫県北部の豊岡盆地 (谷川,2009;Tanigawa et al., 2013) で報告されている.これらの研究で示され た 6,000 BC から 5,000 BC にかけての海面上昇速度は 3 m/1,000 年程度である.また,地殻変動の影響を除 去して求めた同時期の瀬戸内海東部における海面上昇速 度も,同程度と見積もられている (佐藤,2008).大阪湾 では増田ほか (2000) が 6,000 BC 頃の海面高度を-14  m 付近に推定しており,伊東での値に近い.しかし, 大阪湾は沈降域であり (例えば,三田村・吉川,1997), さらに泥質堆積物が卓越し圧密の影響も考えられること から,この値は過大評価である可能性が大きい.  コア IT-1 では圧密を受けやすい泥質堆積物 (堆積相 D) の層厚は 2~3 m 程度で,大阪湾のコア試料 (増田ほ か,2000) の数分の一以下と薄く,圧密の影響は小さい と考えられる.また,コア IT-1 での古水深復元の精度 は,上述のように数 m 程度に収まっていると考えられ る.以上の結果から,伊東低地で 6,300 BC 頃から 4,800  BC 頃までに見られる相対的海水準の大きな上昇は, ローカルな地殻変動による沈降の影響を受けている可能 性がある.しかし,現状では具体的な沈降の時期や速

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さ,そのメカニズムについてのデータが不足しているの で,この問題の解明は今後の課題としたい.  3. 伊東低地周辺で観察される隆起との関係  1905 年頃からの水準測量データ (国土地理院,2011) によれば,この期間を平均すると伊東市の海岸は隆起傾 向にある.隆起速度は時期と場所によって差異があり, 著しい隆起を示す時期とむしろ沈降傾向を示す時期が 20~30 年程度で繰り返している.顕著な隆起は 1923 年 の関東地震から 1930 年北伊豆地震前後の 1930 年代半 ばまで,1974 年の伊豆半島沖地震から 1990 年代末まで の期間で見られる.IT-1 地点付近での 100 年間の累積 隆起量は約 60 cm に達する.  また,伊東市南部の離水海岸地形の研究からは,過去 1,500 年程度の間に間欠的な隆起が少なくとも 3 回認め られ,累積隆起量は 4.2~2.5 m と推定されている (宍 倉ほか,2012).このような隆起が継続していれば, IT-1 や IT-2 地点周辺での隆起量は 6,000 年間で 10 m 以上になるが,本研究の結果からはそのような隆起の蓄 積は認められない.これは,6,300 BC 頃から 4,800 BC 頃にかけて推定された大きな相対的海水準上昇が沈降の 影響であり,その後の隆起で相殺されたために,上下変 動の累積が見かけ上小さくなっているとも考えられる. VIII. 相対的海水準変動と古地形の変化  ここまで述べた相対的海水準変動と,層相や化石から 推定される堆積環境を基に,伊東低地での古地形と環境 の変遷を図 6 に整理した.この図ではエスチュアリー とデルタのシステムが氷期の谷を埋める河川堆積物 (堆 積相 A) を覆って堆積している.縄文海進によって河川 沿いに海水が浸入し,7,600 BC 頃から 6,500 BC 頃に かけてエスチュアリー (堆積相 B) が形成された (図 6-  A).海進に伴って湾口部にバリアーが形成され (堆積相 B1),その陸側の波浪の影響が少ない場所には泥質の地 層が堆積した (堆積相 B2).さらに陸側では河川の影響 が強い地層が堆積していた (堆積相 B3).  海面が上昇してバリアーが水没し始めると,その上面 には 6,500 BC 頃から 5,700 BC 頃にかけて干潟が形成 された (コア IT-1 の堆積相 C).さらに海面が上昇し内 湾が広がった時期 (図 6-B) には,湾内に泥質の地層が 広く堆積した (堆積相 D).この湾は湾口の大きく開い た開放的な環境であったと推定される.4,800 BC 頃に は最も水深が深くなった (湾が広がった) と解釈される. この時期に湾奥では干潟が形成され (コア IT-2 の堆積 相 C),それは 4,600~4,500 BC 頃まで残っていた.高 海面期 (ないし僅かな低下時期) にはデルタが湾を埋め 図 6 伊東低地の環境変化復元図 A:エスチュアリー出口では海進に伴ってバリアー上に干潟が形成された.B:最も湾が広がった時期.湾奥では干潟が 形成されていた.C:デルタフロントの前進に伴って内湾の埋め立てと浅海化が進んだ.堆積相の凡例は図 2 と同じ. Fig. 6  Paleo-geographical maps of the Ito lowland A : Development of estuary system.  Tidal flat formed on the drowned bay mouth barrier.  B : Maximum sea-level  stage.  Muddy tidal flat formed in the bay head area.  C : Progradation of delta system during the high sea-level stand.   Legends for the sedimentary facies are same as Fig. 2.

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つつ前進した (図 6-C).デルタフロント (堆積相 E) が IT-1 地点に到達したのは 4,500 BC 頃であった.デル タシステムの前進に伴って内湾の埋め立てと浅海化が進 み,より外海に面した海岸になっていった.こうした低 地の拡大に伴って,IT-2 地点は 4,600~4,500 BC 頃に は離水し,IT-1 地点でも 2,000 BC 頃には離水が起き た.デルタの上には伊東大川の流路や氾濫原の堆積 物 (堆積相 F) が堆積した. IX. ま と め  本研究では,新たな 2 本のボーリングコアについて の堆積相,貝化石および貝形虫化石,14C 年代の解析結 果と既存のボーリング資料を総合して,伊東低地の沖積 層の発達過程を検討した.それを踏まえて,6,300 BC 頃 から 2,000 BC 頃にかけての相対的海水準変動を復元し た.その結果は以下のとおりである.  1) 伊東低地の沖積層は下位から,堆積相 A (河川), 堆積相 B (エスチュアリー),堆積相 C (干潟),堆積相 D (プロデルタ),堆積相 E (デルタフロント),堆積相 F (氾濫原) の 6 つに区分できる.さらに堆積相 B は堆積 相 B1 (outer zone),堆 積 相 B2 (central Basin),B3 (bay-head delta) に細分される.  2) 湾口部のコア IT-1 の貝形虫化石群集からは,湾沿 岸砂底→開放的な湾の中央部→開放的な湾口部→沿岸藻 場,の 4 つの環境の変遷が復元された.  3) 上記のデータから 6 つのポイントで海面高度を復元 した.海面は6,300 BC頃には-16 m付近にあり,5,900  BC 頃には-13 m 付近まで上昇した.最高海面は 4,800  BC 頃に認められ,+3~4 m 程度に達した.海面はその 後僅かに低下し 4,600 BC 頃には約+1.5 m, 2,900 BC 頃には約+1 m となり,2,000 BC 頃には現在とほぼ同 じ高さになった.  4) 本研究で得られた相対的海水準変動は,伊東周辺 の水準測量データや最近 1,500 年程度の間に形成され た離水海岸地形が示す隆起傾向とは異なる傾向である. また,地殻変動の影響が少ないとされる地域に比べて, 6,300 BC 頃から 4,800 BC 頃までの期間で海面上昇量 が顕著に大きい.これは伊東低地の沈降が原因である可 能性があるが,詳細の解明は今後の課題である.  謝辞 本研究で用いたコアは,原子力安全基盤機構か らの受託研究 (平成 16 年度原子力安全基盤調査研究) で掘削した.14C 測定はパレオ・ラボ(株) と核燃料サイ クル開発機構 (現日本原子力研究開発機構) 東濃地科学 センターによる.14C 測定値の暦年較正については,パ レオ・ラボ(株) の伊藤 茂氏にお世話になった.ウニ 化石の同定は菊地芳文博士 (元筑波大学生命環境科学研 究科) にお願いした.伊東市教育委員会の金子浩之氏に は資料収集およびボーリング調査に関してご協力いただ いた.丁寧な修正をしていただいた 2 名の査読者と編 集委員の方々に感謝します. 引 用 文 献 Bhattacharya, J.P. and Walker, R.G. (1992) Deltas.  Walker, R.G. and James, N.P. (eds.) Facies Models:  Response to sea level change : 157-177, Geological  Association of Canada.

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1. Neonesidea oligodentata (Kajiyama), M, RV (TP -4.64~-4.66 m), 2. Pontocythere subjaponica (Hanai), F, RV (TP -6.87 ~-6.89 m), 3. Parakrithella pseudadonta (Hanai), F, RV (TP -11.79~-11.81 m), 4. Aurila munechikai Ishizaki, F, RV (TP  -7.79~-7.81 m), 5. Pistocythereis bradyformis (Ishizaki), F, RV (TP -6.87~-6.89 m), 6. Loxoconcha japonica Ishizaki, M,  RV (TP -3.71~-3.74 m), 7. Loxoconcha uranouchiensis Ishizaki, M, RV (TP -5.84~-5.86 m), 8. Nipponocythere bicarinata  (Brady), M, RV (TP -11.79~-11.81 m), 9. Xestoleberis hanaii Ishizaki, M, RV (TP -5.84~-5.86 m).  M : Male, F : Female,  RV : Right valve.

(19)

Relative sea-level change during 6,300-2,000 BC reconstructed

from drilling cores from Ito City, eastern coast of

the Izu Peninsula, central Japan

Osamu Fujiwara* 

1, a

, Toshiaki Irizuki* 

2

, Itsuki Obayashi* 

3

,

Kazuomi Hirakawa* 

4

, Shiro Hasegawa* 

5

, Jun-ichi Uchida* 

6

and Kohei Abe* 

7   This paper discusses relative sea-level (RSL)  changes from 6,300 BC to 2,000 BC for the coast  of Ito City, on the northeastern Izu Peninsula,  central Japan.  RSL along this coast was eval-       uated by synthesizing a depositional curve sug-       gesting the former sea floor height and paleo-water depth obtained from drilling cores.  The  depositional  curve  was  reconstructed  for  two  cores, IT-1 (30 m deep) and IT-2 (10 m deep),  using a total of 37 AMS 14C ages.  Paleo-water  depth was estimated from the analyses of sedi-       mentary facies and fossil ostracode and molluscan  assemblages in cores IT-1 and IT-2.  Existing  core logging data (a total of 23 cores) and 14C  ages obtained in Ito City helped the analyses of  sedimentary facies.  A total of six water depth  control points were obtained from these data.   The reconstructed RSL curve suggests that the  paleo-mean  sea  level  rose  from  ~-16 m  ca.  6,300 BC to ~-13 m ca. 5,900 BC and reached  the  maximum  of  +3~4 m  ca.  4,800 BC.    The  paleo-mean  sea  level  positions  were  +1.5 m  around 4,600 BC, +1 m around 2,900 BC, and ~0  (zero) m around 2,000 BC.  Estimated RSL rise  value between 6,300 BC and 4,800 BC was 10 m  or more, larger than that for the areas without  large vertical crustal movement.  This discrep-       ancy may reflect local subsidence in the Ito area.

Keywords : facies analysis, Holocene, Ito City, Izu Peninsula, fossil ostracode assemblage, sea-level change

* 1 Active  Fault  and  Earthquake  Research  Center,  National  Institute  of  Advanced  Industrial  Science  and  Technology. Central 7, 1-1-1 Higashi, Tsukuba, 305-8567, Japan. * 2 Interdisciplinary Graduate School of Science and Engineering, Shimane University. 1060 Nishikawatsu-cho,  Matsue, 690-8504, Japan. * 3 Hirohata Junior High school. 3-83 Komatsu-cho, Hirohata-ku, Himeji, 671-1152, Japan. * 4 Professor Emeritus, Hokkaido University. Kita 10, Nishi 5, Kita-ku, Sapporo, 060-0810, Japan. * 5 Graduate School of Science and Technology, Kumamoto University. 2-39-1 Kurokami, Chuo-ku, Kumamoto,  860-8555, Japan. * 6 Japan Nuclear Energy Safety Organization. 4-1-28 Toranomon, Minato-ku, Tokyo, 105-0001, Japan. * 7 Oyo Corporation. 2-2-19 Daitakubo, Minami-ku, Saitama, 336-0015, Japan. * a Corresponding author : o.fujiwara@aist.go.jp

図 5 地層の年代と堆積曲線

参照

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