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日本に初発生が確認されたカンキツソローシスウイルス

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植 物 防 疫  第66 巻 第 4 号 (2012 年) ― 32 ― 228 は じ め に ソローシス(psorosis)の名前は,ギリシャ語の psora (潰瘍,疥癬)に由来し,scaly bark(うろこ状の樹皮) とも呼ばれる。カンキツのソローシス病は,フロリダや カリフォルニアで1890 年代の初めには確認されていた (ROISTACHER, 1991)。カンキツのウイルス病の中で最も古 くから研究されたものであり,接木伝染性が明らかとな った初めてのカンキツ病害である。実生苗に接木伝染さ せて病徴を検出した初めての例でもある。樹皮の病徴を 発現するまで十数年要していたものが,約6 週間で検定 可能となった。この画期的な接木検定の手法が,ソロー シス病だけでなく,カンキツの他の接木伝染性病害の早 期検定,ひいては,カンキツ病害の根絶あるいは検定プ ログラムの策定につながった。ソローシス病は,一時期 は,最も有害なカンキツ病害であり,いくつかの地域で は,強毒系統の自然伝搬のために,依然として脅威とな っている(ROISTACHER, 1993)。なお,日本植物病名目録 には「ソロシス病」と記載があるが,「ソローシス病」 の呼び方も一般に使われており,本稿でもソローシス病 と呼称する。 I 被   害 ソローシス病は,スイートオレンジやマンダリン,グ レープフルーツの幹や枝に樹皮の剥皮を生じる(口絵 ①)。サワーオレンジやレモン,ブンタンでは樹皮の症 状を示さず,多くのカンキツ品種は潜在感染宿主とされ る。樹皮の症状のほかには,葉に斑紋などの症状が現れ る。葉の症状は接木伝染によっても現れるため,その症 状を指標として検定できる。しかし,カンキツの接木伝 染性病害にはほかにも,同様の葉の症状を示すものがあ り,それらも当初,ソローシス病と呼ばれた。コンケー ブガム,ブラインドポケット,クリンクリーリーフ,イ ンフェクシャスバリエゲーション等であり,現在は異な る病気と考えられている(ROISTACHER, 1993)。 ソローシス病には,病原性の違いにより,ソローシス A とソローシス B と呼ばれる系統が存在する。両者と もに,樹皮の剥皮症状を引き起こす。しかし,ソローシB のほうが病徴の進展が早く,成葉にも大きな輪点 症状を示して,果実にもしばしば大きな退色した輪点症 状を呈するため,強毒系統と考えられている。ソローシA では,葉の茂りがまばらになって枯れ込みや収量 の低下が起こるとされ,ソローシスB は,激しい樹勢 低下と,時に枯死を引き起こす。ソローシスA を予備 接種した後に,ソローシスB を接種すると,その病徴 発現が抑えられることが知られ,本手法は,ソローシス 病類似症状をソローシス病と区別するのに大きく役立っ た。もう一つ,樹皮の剥皮症状を引き起こすものとして citrus ringspot virus(CRSV)があり,病徴の激しさな どから,ソローシスとは区別されてきた。しかし,現在

は見直され,ソローシスB と同義と考えられている

(DERRICK and BARTHE, 2000 ; MILNE et al., 2003 ; ROISTACHER,

1993)。 ソローシス病の検定には,長く接木検定が利用され, スイートオレンジなどの実生苗が広く検定植物として使 われてきた。接木接種した植物は,比較的涼しい温度条 件(24 ∼ 27℃昼間/18 ∼ 21℃夜間)に置く。最初に現 れた新梢に,ショック症状と呼ばれる萎凋が見られ,そ の症状は,ソローシスの強毒系統に顕著に現れる。ショ ック症状は,数本の新梢のみに現れて,その後伸長した 新梢では,新葉に小斑点や斑紋が現れる。この症状は葉 が硬化するに従い消失するが,一部の系統では成葉にな っても症状が残る(ROISTACHER, 1991)。 II 特   徴 古くからソローシス病は知られていたにもかかわら ず,長らく病原ウイルスは不明であった。アカザ科の草 本検定植物であるChenopodium quinoa への感染性を指 標に研究が進められたが,粗汁液の感染性が早急に低下 するため,性状の解析は遅れた。リン酸緩衝液での粗汁 液の感染性が1 時間のみであり,トリス緩衝液(2―メル カプトエタノールを含む)の使用により安定したが,24 時間4℃で 60%以上の感染性が失われる状況であった。 その後,DERRICK et al.(1988)が,試行錯誤の末に,部 分純化に成功し,独特な2 成分を持つウイルス粒子を発 見した。純化の成功により,抗体の作製が行われ,遺伝 子のクローニングから塩基配列解析へと大きく性状解析

日本に初発生が確認されたカンキツソローシスウイルス

伊  藤  隆  男

(独)農研機構 果樹研究所

First Detection of Citrus psorosis virus in Japan.  By Takao ITO (キーワード:カンキツソローシスウイルス,ソローシス病,ソ ロシス病,樹皮の剥皮,不知火)

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日本に初発生が確認されたカンキツソローシスウイルス ― 33 ― 229 が 進 ん だ(BARTHE et al., 1998)。 材 料 に 用 い ら れ た CRSV―4 株は,C. quinoa での局部病斑分離を数回行っ たものであり,カンキツに戻し接種して葉の病徴を再現 したが,原病徴は再現していない。同じく局部病斑分離 からカンキツへ戻したCRSV―6 株は,スイートオレンジ の 幹 や 枝 に 剥 皮 症 状 を 再 現 し て お り(GARNSEY and TIMMER, 1988),本株からも同じウイルスが検出されてい る(MARTÍN et al., 2004)。純化試料を戻し接種して原病 徴を再現させた例もないが,CRSV―4 株より発見された ウイルスがソローシス病の病原カンキツソローシスウイ ルス(Citrus psorosis virus : CPsV)であると考えられて いる(MILNE et al., 2003)。 CPsV は,オフィオウイルス科の唯一の属であるオフ ィオウイルス属のタイプ種である。同属には,ミラフィ オリレタスビッグベインウイルス(MLBVV)やチュー リップ微斑モザイクウイルス(TMMMV),Lettuce ring necrosis virus(LRNV)等がある。これらのウイルスは, 同様なウイルス粒子の形態を示し,同じような大きさの 分節マイナス鎖ssRNA をゲノムに持ち,類似の大きさ の外被タンパク質(CP)を持つ。CPsV は径 3 nm の,様々 な形態を示すよじれた環状の糸状粒子を持ち,長さ690 ∼760 nm の短粒子と,その約 4 倍の長さの長粒子より なる。環状構造が壊れると,線状あるいは分枝した径 9 nm の 2 重鎖構造を取る。ゲノム構造は,3 分節のマ イナス鎖ssRNA よりなる(図―1)。8,184 塩基からなる

RNA1 は,280 kDa の RNA 依存性 RNA 複製酵素に特徴 的な領域を含むタンパク質と,24 kDa の機能不明タン パク質をコードする。1,644 塩基からなる RNA2 は,核

移行シグナルに似たモチーフを含む54 kDa の機能不明

タンパク質をコードし,1,454 塩基からなる RNA3 は, 48 kDa の CP をコードする(MILNE et al., 2003)。

ソローシス病様症状は世界中のカンキツ産地で見られ

るが,実際にCPsV として検出されたのは南北アメリ

カ,南アフリカ,地中海地域等のみである(MILNE et al.,

2003)。CPsV と無関係なソローシス病様症状も知られ

ており,圃場診断だけではCPsV の保毒を判断できない

(DERRICK and BARTHE, 2000 ; MARTÍN et al., 2004 ; ROISTACHER,

1991)。ほとんどの地域では,接木伝染のみにより広が るが,アルゼンチン,ウルグアイ,テキサスではソロー シス病様の樹皮の剥皮症状の自然伝搬が疑われる事例が 報告されている(MILNE et al., 2003)。MLBVV,TMMMV, LRNV 等のオフィオウイルス属のほかのウイルスは Olpidium brassicae により土壌伝搬することが知られて いる(守川ら,2005)。しかし,CPsV のベクターは不 明のままであり,自然伝搬も証明されたわけではない (MILNE et al., 2003)。 III 国内での CPsV の発見 国内では,カンキツソローシス病様の樹皮の剥皮症状 は, 古 い 導 入 品 種 を 中 心 に 発 生 が 知 ら れ て い た が, CPsV が検出された報告はこれまでなかった。加納・小 泉(1985)は,新葉の症状を指標として,国内のカンキ ツがソローシス病の病原を保毒していることを報告し た。しかし,その後,接種試験や血清試験の結果を通し て,ソローシス病とは異なるものであるとしている(加 納 ら,1998)。 筆 者 ら は,CPsV 特 異 的 プ ラ イ マ ー CPV1/CPV2(BARTHE et al., 1998)を用いた RT―PCR に よる遺伝子診断の手法により,国内のカンキツ樹より抽 出したRNA 試料を検定した。その結果,果樹研究所カ ンキツ研究口之津拠点で栽植されていた 不知火 より, 特異的増幅産物を初めて検出した。増幅産物をクローニ ングして塩基配列を解析したところ,CPsV の二つのカ リフォルニア株と99.1%と 100%のアミノ酸配列相同性

を示すことが明らかとなった(ITO et al., 2011)。MARTÍN

プラス鎖 5′ 3′RNA3(1,454 nt) マイナス鎖 3′ 5′ 48 K プラス鎖 5′ 3′RNA2(1,644 nt) マイナス鎖 3′ 5′ 54 K プラス鎖 5′ 3′RNA1(8,184 nt) マイナス鎖 3′ 5′ 280 K 24 K 図−1 カンキツソローシスウイルス(CPsV)のゲノム構造

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植 物 防 疫  第66 巻 第 4 号 (2012 年) ― 34 ― 230 et al.(2006)によると,CPsV は遺伝的に異なる三つの グループに分けられる。一つは,スペイン,イタリア, フロリダ,カリフォルニア株のまとまりで,もう一つに はアルゼンチン株,もう一つにはテキサス株が入る。今 回発見されたCPsV の日本株は,スペイン,イタリア, フロリダ,カリフォルニア株のまとまりに入ると考えら れるが,これらの地域では,CPsV の自然伝搬は知られ ていないので,日本株も接木伝染するのみと考えられた (ITO et al., 2011)。 さ ら に,CPsV ELISA Kit(Agritest,

Italy)を用いた CPsV 特異的血清診断を行ったところ, 明瞭な陽性反応が得られた。また,CPsV の検定植物で あるマダムビーナススイートオレンジをラフレモン台木 に接木した苗への接木接種を行ったところ,新葉に特徴 的な斑紋症状を示した(口絵②a)。さらに,草本の検 定植物であるC. quinoa への汁液接種試験によっても, 接種葉に特徴的な退緑斑点およびえそ斑点を生じた(口 絵②b)。以上のことから,国内に CPsV が存在するこ とが明らかとなった(ITO et al., 2011)。 日本株が,普通系のソローシスA か強毒系のソロー シスB なのかについて考察する。日本株とアミノ酸配 列相同性の高いカリフォルニアのC1 株と C2 株はソロ ーシスB に由来する(MARTÍN et al., 2004 ; 2006)。しかし, ソローシスA とソローシス B を識別する分子生物学的 な指標があるわけではない(MARTÍN et al., 2006)。一方, ソローシスA では,新梢のショック症状が必ずしも現 れず,新葉の症状も成葉になると消失することが知られ る(DERRICK and BARTHE, 2000 ; ROISTACHER, 1991)。日本株

のマダムビーナスへの接木接種では,ショック症状は観 察されず,新葉の症状も成葉になると消失した。さらに, 多くのソローシスA の株は,草本植物に汁液接種で感 染しないとされ(ROISTACHER, 1991),今回の試験でも, 種子の由来が異なるC. quinoa への汁液接種では無病徴 感染した(伊藤,未発表)。検定植物の系統の違いや, 生育条件の違いの影響があるのかもしれないが,現段階 では,接木検定の症状が弱いので,国内のCPsV は普通 系なのではないかと考えている。 最終的に,国内のカンキツ約200 樹を検定したところ, 果樹研究所栽植の 不知火 1 樹のほかに,一般圃場の 不 知火 1 樹からも陽性反応が得られた。今回,CPsV 保毒 が明らかとなった2 樹の 不知火 は,観察時に 7 年生と 13 年生であり,6 種類のウイロイドも混合感染していた (ITO et al., 2011)。カラタチ台木にはウイロイド病特有の 樹皮の剥皮症状が現れて,樹勢は悪いものの, 不知火 自体には,ソローシス病に特徴的な樹皮の剥皮症状や, 葉や果実の症状も明瞭には確認できなかった(口絵③)。 不知火 は,ソローシス病に感受性のスイートオレンジ やマンダリンの交雑種であるが,直接反応を調べた例は なく,潜在感染宿主である可能性は否定できない。また, ソローシス病の剥皮症状の発現には10 ∼ 15 年を要する と言われているため,観察時には現れていなかったもの か,現状では不明である(ITO et al., 2011)。海外では, 50 年生で樹皮に剥皮のないスイートオレンジ由来の苗 の60%以上にソローシス病症状が発生した例も知られ るようである(ROISTACHER, 1991)。 不知火 は,デコポ ンの名前でも知られ,ユニークな果実の外観と優れた食 味により,消費者にも人気が高い品種である。 不知火 は栽培者間でも人気が高く,当初未検定の穂木が多く出 回った経緯があり,ウイロイド保毒が大きな問題となっ てきた。しかし,それらの 不知火 でも,4 種のウイロ イド感染が多く(ITO et al., 2003),CPsV 保毒の 不知火 のように,6 種ものウイロイドを保毒している例は多く はない。しかも,6 種のウイロイドを保毒する他の 不 知火 から,必ずしもCPsV は検出されなかった。おそ らく,未検定のウイロイド保毒穂木が増殖される最終的 な段階で,その一部がCPsV を保毒した中間台に高接ぎ されて,CPsV に感染したものと考えられる。海外から の古い導入品種には,CPsV 保毒のものがあったとして も不思議ではなく,それが中間台として用いられたので はないかと推察される。 お わ り に 調査した約200 樹のいくつかには,樹皮の剥皮症状を 示すものも含んでいるが,それらからCPsV は検出され ていない。上述のように,保毒樹の 不知火 には病徴が 現れておらず,国内の生産現場への影響は不明である。 また,今のところ,国内でのCPsV の分布は限定的であ ると考えられる。しかし,網羅的に調査したわけではな く,海外からの古い導入品種で樹皮の剥皮症状が見られ るものもあり,潜在感染する品種も多いとされるので, 今後とも注意が必要である。今回見つかった国内の CPsV は,上述のように,接木伝染のみと考えられ,母 樹検疫を行うことで防除は可能と考える。CPsV の診断 手法を,母樹検疫に役立てていくことが対策になる。ソ ローシス病の病徴や発生状況,ウイルス性状,診断の詳 細はhttp://citrus.ecoport.org/のホームページ(英文) の「Slide Shows(Diseases and Disorders)」が参考にな るので,興味のある方はご覧いただきたい。

引 用 文 献

1) BARTHE, G. A. et al.(1998): J. Gen. Virol. 79 : 1531 ∼ 1537. 2) DERRICK, K. S. et al.(1988): Phytopathology 78 : 1298 ∼ 1301.

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日本に初発生が確認されたカンキツソローシスウイルス

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231 3) and G. A. BAR THE(2000): Compendium of citrus

diseases 2nd ed., APS press, St. Paul, p. 58 ∼ 59.

4) GARNSEY, S. M. and L. W. TIMMER(1988): Proc. 10th Conf. IOCV, IOCV, Riverside, p. 334 ∼ 339.

5) ITO, T. et al.(2003): J. Gen. Plant Pathol. 69 : 205 ∼ 207. 6) et al.(2011): ibid. 77 : 257 ∼ 259.

7) 加納 健・小泉銘冊(1985): 日植病報 51 : 56(講要). 8) ら(1998): 同上 64 : 423(講要).

9) MARTÍN, S. et al.(2004): Eur. J. Plant Pathol. 110 : 747 ∼ 757.

10) et al.(2006): J. Gen. Virol. 87 : 3097 ∼ 3102. 11) MILNE, R. G. et al.(2003): CMI/AAB Descriptions of plant

viruses, Association of Applied Biologists, Wellesbourne, p. 401.

12) 守川俊幸ら(2005): 植物防疫 59 : 279 ∼ 282.

13) ROISTACHER, C. N.(1991): Graft-transmissible diseases of citrus, FAO, Rome, p. 115 ∼ 126.

14) (1993): Proc. 12th Conf. IOCV, IOCV, Riverside, p. 139 ∼ 154.

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